3-2
泉へ行く日、私の屋敷までレイが迎えに来てくれた。
「お待たせ、晴れて良かったね」
「おはよう、いい天気ね」
私はレイと言葉を交わす。
馬車がなく、どうやら馬で行くらしい。
私は馬に乗れなくて、どうするのかしら?
と思っていると、ひょいと抱っこされて、
レイの乗っていた馬に乗せられてしまった。
「きゃあ?」
「兄に乗せてもらったと聞いていたけど」
「ええ」
確かにアレクセイお兄様と二人乗りをした事はある。
今日はずっとその体制なの?
レイの心臓の音を聞いて、私もどきどきする。
私の心臓の音、早くない?
レイにおかしいと思われないかしら?
「じゃあ、彼女をお借りするよ、
夕方には帰ってくるから」
玄関には侍従、メイドがずらりと並び、レイに頭を下げる。
前のお忍びと同じ、
私、アンナ、レイ、シリウスの4人だけ。
本当なら護衛が少ないと絶対許されない所だが、
相手は王族、姿が見えないだけで、
きっちり護衛がされていると確信しているので、
誰も何も言わない。
それにレイ自身が防御魔法の使い手、
結界魔法まで使えて、魔法で攻撃を受ける事はない。
屋敷の者は、レイに絶対の信頼を預けていた。
「アナでいいんだね」
私の服装を見てレイが言う。
私の服装は下町のドレスのデザインだ。
とはいえ、下町の娘が着るような、
伸びないごわごわした布ではなく、
ストレッチの効いた、肌触りが良い布、
首元と手元にはレースがあしわられ、
とても庶民では手入れられないドレスである事が知れる。
「ええ、私もレイと呼んでるしね」
お互いの事は調査済み、
全て知ってなお、そう装っている。
それを確認し合い、微笑み合う。
「じゃあ行くよ」
レイが馬を操る。
真っ黒な馬は、一目みて軍馬だと分かる、
とても体躯の立派な馬だ。
私が安定して乗っている事が分かると、
どんどんとスピードを上げていく。
普段とは違う、高い所からの視点、
目まぐるしく変わる風景。
それらに目を輝かせながら、馬での旅を楽しむ。
町を出て森の中に入る。
足元がいいとはいえないが、
きちんと道になるよう整備はされているらしく、
迷う事なく森の奥へと進んでいく。
熱帯雨林のジャングルみたい・・・
日本の針葉樹とはまた違う、
大きな葉が生い茂り、蔦がロープのように垂れ下がる、
森林を駆け抜けていく。
「休憩しなくて大丈夫?」
「ああ、この馬なら大丈夫だよ」
「いえ、レイが・・・」
その言葉にレイが無言になる。
「こう見えて、鍛えているんだよ」
少し拗ねたような声だった。
「もちろんアナが疲れたなら休むけど」
「私は大丈夫よ」
「分かった」
馬はそのまま森の奥へと進んでいく。
屋敷をでてから2時間ぐらい走っただろうか。
ジャングルのように鬱蒼と茂っていた木々がいきなりなくなり、
大きな広場のような所に出た。
「え?」
あまりにも風景が変わったので驚いてしまう。
「もうすぐだよ」
小さな草だけが生えている道を馬で駆け、
更に奥へと進む。
すると、大きな泉が見えてきた。
「凄い!綺麗!」
海を見た時も、あまりもの綺麗さに感動した。
しかし、この泉もまた美しい。
魔力が高まる効果があると言うが、
確かに神秘的な何かがあると信じさせる綺麗さだ。
「気に入った?」
レイの言葉に首をぶんぶん振る。
「休憩しよう」
泉の少し離れた所で、
草の上に絨毯が引かれ、サンドイッチやスコーンなど、
様々な軽食が用意されていた。
流石王族、おもてなしはお手の物、準備は万端ね。
私は馬を撫でてやり、ありがとうと言って、
準備された場所へ向かう。
「どの紅茶になさいますか」
紅茶の葉だけで5種類用意され、
それらは全て私の好きな紅茶の葉だった。
「そうね」
用意された食事をざっと見渡し。
「レティスファーをストレート、
食事の後に、アッサディをミルクとお砂糖で」
私は指示を出す。
そしてレオを見て少し不安になった、
用意されていた紅茶が私好みばかりだからだ、
レオの好みの紅茶は用意されてないのだろうか?
「レオは紅茶はどうするの?」
「アナと同じで」
レイは迷う事なく控えていたメイドに指示を出す。
「レイいいの?」
思わず聞く私に、レイが何が?という顔をする。
「紅茶、私と同じで本当にいいの?」
「ああ、アナが好きな紅茶は分かったけど、
いつ飲むのかまでは分からなかったんだ、
今回はアナの好みを知りたい気持ちもある、
だからいいんだよ」
私の好みを知りたいって、そんな事思ってくれるなんて・・・
その言葉にきゅんとなる。
いやいや、そんなはずない!
レイの相手は2巻のヒロイン!
多分私が公爵令嬢で、流行りとか知っているから、
2巻のヒロインに美味しい紅茶をお勧めできるように、
いろいろ聞いているだけよ!
嬉しい気持ちを無理やり誤魔化す。
そうして手にしたサンドイッチは流石に美味しく、
最後にはお菓子類まで手を出してしまった。
「どれも美味しいわ」
「アナの好みを取り入れつつ、
アクアマリン王国の味も失われないよう、
料理人達が頑張ってくれたんだ」
「え?」
「少しすっぱかったり、味にくせがあると、
ガーネット王国から来た人には言われていてね。
食文化が違うと辛いだろうからね」
「そんな事までしてくれたの?」
「とは言っても、アナのお屋敷の料理人のレシピが
ベースになっている。
アナは皆に愛されているね」
屋敷の者達が、王宮とやり取りしていのは知っていたけど、
思っていた以上に深く関わってくれている事に、
驚くと共に嬉しくなる。
「私の為に・・・そんな」
「これはアナの為だけじゃない、
またガーネット王国から賓客を迎えるかもしれない、
その時、美味しいと思える料理をお出ししたいからね」
その言葉が、私に気を使わせない為の言葉だというのは、
すぐに察しられた。
だって、それなら私好みの味を知る必要なんてないんだもの。
「さて、泉を見て回ろうか」
レイに手を出され、その手を取り、泉を周る。
手のひらから体温を感じ、どきどきする。
泉の水が湧いている所まで来た。
「ここの水を飲むといいんた」
「あの・・・私魔法使えないの」
もう調べてはあるとは思うけど、言ってしまう。
「ああ、問題ないよ」
その言葉に思わずレイを見てしまう。
「アクアマリン王国で、魔法が使えないと言って、
実家から追い出された令嬢がいてね」
その言葉に胸がずきんと痛む。
「その令嬢の産んだ子供が、凄い魔法使いになったんだ、
平民から大出世して、
だから、魔力がないのは駄目だけど、
魔法が使えないのは問題ない、少なくともこの国では」
その言葉に、胸につっかえていたものが溶けていく。
「さあ、飲んでみて」
私は手で掬い、泉の水を飲む。
すると、ふわっと体が軽くなったのを感じ、
確かに自分の魔力が更に大きくなったのを感じる。
「凄いね」
私の魔力の大きさを感じたのだろう、
レイがぽつりと言う。
「子供には期待できそうだ」
その言葉を耳で拾い、不思議な気持ちになった。
確かにレイの話では、私の子供はすごい魔法使いに
なるかもしれないけど、それがレイと何か関係あるのかしら?




