2-7(リオレイル視点)
「どう思う?」
アナと名乗った女性と、そのメイドと思われる女性を
市場の人の多い所まで送り、
また、フリュイデルの店に戻った。
実はこの店には特殊な結界が何重にも張られている。
話が決して外にもれる事はないし、
悪事を考えている者は気分が悪くなるようになっている。
本来は母上、王妃の専属の店だが、
私も場合によって利用させてもらっている。
「アナ様はかなりの高位貴族と思われます」
「そうだな」
幸せそうにタルトを食べていた様子を思い浮かべる。
町娘を装っていたが、
紅茶を飲む時、背筋をピンと伸ばして、
ゆっくりと優雅に飲んでいた。
一朝一夕で身に付く動作ではない。
間違いなく、幼い頃からマナー教育を受け、
それが身に染みこんでいる。
それに下町娘だと名乗っていたが、
本来の下町娘なら、伯爵家の相手にまともに話もできない、
それを下町の言葉で通す当たり、
侯爵家か公爵家、伯爵家以上の家と言っているようなものだ。
そして、当然それを分かっていて、あの対応だ、
こちらの立場と自分の立場を瞬時に計算し、
難しい立場を強引に通す辺り、
よほど社交慣れしているのだろう。
「それにアンナと名乗った女性ですが」
「うん?」
「恐らく暗殺の技術も身に付けています、
正直攻撃されれば、私と相打ちになったかと」
その言葉に驚く。
シリウスは実は騎士団長すら凌ぐ剣術の持ち主、
しかも強い氷魔法まで使える。
絶対の信頼を置いているシリウスと対等な相手・・・
考えるだけで恐ろしい。
「そもそもこの店を知っているだけで、
一部限られた人間である事の証だし」
「そうですね」
「しかも、この国の気候なども熟知している、
どこの令嬢だ?」
王太子として、男爵家から全ての貴族は把握している。
しかし、今日会ったアナに心当たりはない。
優秀な平民を貴族に迎える事はあるが、
それにしてはマナーが完璧すぎた。
「気になりますか?」
「そうだな、妃に迎えようか悩む程には」
その言葉にシリウスが心底驚いた顔をする。
今まで令嬢に言い寄られても、
表面だけ優しく返し、誰にも本気にはならなかった、
その自分を知っているから余計だろう。
「珍しいお言葉ですね」
シリウスが嬉しそうに言う。
「さて、婚約者などいなければいいのですが」
「奪うさ」
確かにあの年の令嬢なら婚約者がいてもおかしくない、
お互い愛していれば身を引くが、
よくある貴族同士の家の結婚なら、
王族からの結婚の申し出を断らないだろう。
「悪い顔をしていますよ」
「本来はこうゆう人間だよ」
シリウスはやれやれという顔をする。
「それにしても小麦か」
「ええ」
アナは妹には小麦を食べさせなければ、
体調の不良は治ると言った。
かなり怪しいが、小麦を食べさせない程度、
どうという問題はない。
それで体調が戻るなら試してみる価値はある。
「料理長に連絡を」
「王と王妃様には?」
「とりあえず1週間様子を見る、
それから必要に応じて報告をする」
「かしこまりました」
銀色のさらさらした髪に、金色の瞳。
三つ編みにして、下町風を装っていたので、
だいぶ落ち着いた感じだったが、
正装すれば、相当な美人だろう。
下町言葉と、高位貴族の動作。
ちぐはぐな女性。
「馬車の後はつけてあるか?」
「”影”に連絡をしてあります」
王族専属で、裏の面を受け持つ”影”
彼らなら、馬車の護衛をし、
馬車がどこの屋敷に向かうのかも特定してくれるだろう。
そうすれば、おのずと彼女の正体が分かる。
まあ、シリウスと対等なメイドがいるなら、
護衛など必要なかったかもしれないが。
身分、容姿、教養どれをとっても申し分ない、
しかも盗賊団を転ばす体術と度胸まで兼ね備えている。
逃がすワケないだろう?
「あまり悪い事を考えると結界にひっかかりますよ」
シリウスが意地悪そうに言う、
どうやら、私の思考を読んだのだろう。
「好きになりそうな相手の事を考えて、
ひっかかる結界なら、
魔法長に結界の張り直しを依頼しないとな」
心が浮ついているのを感じる。
多分君に落ちていく。
君も私に落ちてくれるかい?
そう思いながら、ゆっくりと紅茶を飲んだ。




