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フリュイデルのお店に向かう。
市場から歩いて徒歩10分程、
そんなに遠くはないが、横道に入ったせいで、
一気に喧噪がうすれた気になる。
私はこんな場所もあるんだと、
興味深げに周りをきょろきょろする。
「ここだよ」
そうして案内されたのは、
どう見ても普通の家としか思えない建物だった。
レイは迷う事なく、家の横に進みドアを開ける。
するといきなり階段が見えて、2階に上がれるようだった。
レイが先頭に立ち、階段を登っていく。
ちなみに、盗賊団を追い詰めていた騎士達とは別れ、
私とアンナ、レイとレイの従者らしき人の4人だけだ。
レイ、私、アンナ、レイの従者の順に階段上り、
部屋に入ると、そこは別世界。
王族がお忍びで来ると聞いていて、
納得できるだけの豪華な内装がなされていた。
公爵家で見慣れているので、さほど驚かないが、
平民なら足を踏み入れるのも躊躇いそうだ。
「どうぞ座って」
すでに連絡が行っているのだろう、
中央に大きなテーブルが1つだけあり、
椅子は丁度4つ用意されていた。
「ここは元々王宮専属パティシエがしている店なんだ、
引退したんだけど、王妃がどうしても、
このパティシエのタルトを食べたいと言ってね、
そうして、この店を作ってもらって、
本来は王妃が友人とお茶を楽しむだけの場所なんだ」
椅子に座るなり、砕けた様子で話すレイに、
なるほどなと思う。
元々店として経営するつもりではなかったのだが、
王妃の強い要望で、特別タルトを提供していたのね。
そうなると、今日レイと出会ったのは本当に幸運!
王妃様に愛されるタルト、ぜひご賞味させて頂かねば。
「改めて自己紹介を、私はレイ、彼はシリウス」
シリウスと紹介されたレイの従者が頭を下げる。
「私はアナ、こちらはアンナよ」
「おや、リーナお嬢様と呼ばれていたと思うけど」
う、確かにそう呼ばれたかも。
でも!お忍びに仮名は必須。
一応ちゃんと設定してあったのよ!
「アナです」
私はもう一度繰り返す。
「お嬢様と呼ばれていたので、貴族だよね?」
「下町娘です」
「え?」
レイが不思議そうな顔をする。
再び、
「下町娘です」
とそれ以外は受け付けませんという風に答える。
レイはくすくす笑いながらも、
「分かった、下町娘のアナだね」
と言ってくれた。
誤魔化されてくれたのが分かり、私は頷く。
「さて、タルトは何にする?
と言ってもタルトのみ、3種類しかないけど」
それを聞いて、私はさっき市場で食べた、
梨のような果物のタルトを頼む。
「ロディオの実が好きなの?」
あら、さっき食べた実、ロディオっていうのね、
そう考えながら答える。
「そうゆう訳ではないわ、
ただ、市場のおばちゃんが、今が旬と言っていたのよ」
「なるほど」
そうしていると、程なくして、
ウエートレスが4人分のタルトを運んできた。
オーダーを取りに来ていない所を見ると、
どうやら魔法でやり取りしたらしい。
日本でいう所のテレパシーだ。
基本魔法を使えるのは貴族のみ、
レイは伯爵家出身、
れっきとした貴族なので魔法が使えてもおかしくない。
美味しそうなタルトの他に、
紅茶も運ばれてきた。
ありがたく、タルトと紅茶を頂く。
「美味しい!」
市場で食べたロディオはしゃりしゃりしていた、
その食感はちょっと残っている程度で、
全体的にしっとりに変化し、甘味も増している。
甘いカスタードに、甘すぎないロディオ、
その組み合わせは絶品で、
確かに王妃が愛するのも分かる。
「余分な事はしていないのね、シンプル、
それゆえに誤魔化しはきかない」
私の感想にレイが驚く。
「分かるのかい?」
「まあ、何となくね」
元々パフェ巡りが好きで、甘味はさんざん食べてきた。
それに、プリンやケーキなんかは自分でも作っていた、
そうした経験から、何となく作り手の事は想像できる。
「君は不思議だね」
「貴方程ではないわ」
王妃だけが本来利用できる店、
そこに急に来れるだけの立場。
間違いない、この男性はこの国の王太子、
リオレイル・アクアマリン
こんないい男と結婚できるなんて、
2巻のヒロイン羨ましすぎる!
そう考えていると、レイが何か考えている顔をしていた、
それに気づき声をかける。
「どうしたの?」
「いや・・・」
少し迷った後、ぽつりと言う。
「妹にも食べさせてあげたかったなって」
「妹さん?」
2巻の内容を思い返す、
あ~そういや王族にはもう1人年の離れた妹がいて、
体が弱かったんだっけ・・・でもそれは・・・・
「小麦を食べなければ大丈夫です」
つい口から言葉が出てしまい、はっとなる、
ちょっとヤバイかも?
「小麦?」
「いや、ちょっとそう思っただけで・・・」
しかし、レイの視線が誤魔化されてくれそうにない、
仕方なく話を進める。
「私の周りに、ある特定の食べ物を食べると、
体調を崩す人がいたのです、
多分、妹さんの場合小麦かなと」
怪しい・・・本当に怪しい・・・・・・
自分で言っていてかなり無理があるなと思う。
だいたい、この話は2巻でヒロインが、
王女が小麦アレルギーである事を見抜き、
評価を上げる内容なんだよね~
やらかしちゃったよ~
黙り込むレイとシリウスに。
「ま、駄目でもお金がかかる訳でもないし、
試しにやってみるぐらいでいいんじゃないかしら~」
流し目で答える。
「どうしてその情報を・・・」
突っ込んでくるシリウスに。
「女性のネットワークをなめては駄目よ」
とだけ答える。
「とにかく、小麦なのよ!」
同じ事を2度繰り返す時は、
それ以上答える気がない、
それを察してる2人は、それ以上何も聞いてこなかった。
ああ、あぶない。
そう思いながらも、紅茶を喉に流し込んだ。




