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「君との婚約を解消したいんだ」
いきなりの言葉に、えっと口だけが動いて、
何の音にもならなかった事に気づく。
王子の部屋だけあって、白と金を基調とした豪華な部屋、
派手さを隠そうともしない所は、持ち主を表している。
テーブルには大振りの花が置かれていて、
本来なら心を和ませてくれる存在のはずが、
今はまったく余裕を失っている。
いつもなら、紅茶の他にお菓子も用意されるのに、
今日は紅茶のみで、お菓子が用意されていない事も、
まったく頭に回っていなかった。
2週間前にも会ったばかりだ、
その時は「愛しているよ」と言ってくれて、
笑顔でエスコートしてくれた。
そのまま何も言えないでいる私を満足そうに眺め、
この国の第二王子、アホンダラ様は侍従に何かを告げる。
するとすぐに1人の女性が部屋に入ってきた。
私も良く知った人物だ。
この国には4大公爵家があって、
結婚適齢期の女性は3人。
1人は第一王子の婚約者、
そして、1人は私、第二王子の婚約者。
そして、公爵家でありながらも、力が弱く、
どちらにも選ばれなかった女性、ロザリアだ。
ピンクにウエーブがかかった髪、
化粧は濃く、自信満々に勝ち誇った顔でアホンダラ王子の横に立つ。
「これからは、ロザリアが私を支えてくれる」
怒りで心が煮えくり返っているのを感じながらも、
長年の王子妃教育を思い返し、何とか冷静に返す。
「父が黙っていませんわ」
「その辺は問題ない」
笑顔で言い切られ、これが決定である事を知る。
何か言わないと・・・
と思った時、いきなり頭に情報が溢れだしてきた。
何なのかしら?
これは?
心臓がどきどきと音を立て、俯いてしまう。
その時間はとても長く感じたが、
周りからすると一瞬だったようだ。
「何も言えないようだね、話は以上だ、
もうこうして会う事もないだろう」
「うふふ、今までお疲れ様でした、
これからは私にお任せ下さいませ」
そんな言葉を遠い世界の言葉のような気分で聞く。
ああ、本来なら睨め返して・・・
そう考えて、すんとした顔で冷静に話す。
「では、書類にして頂けますか?」
「書類?」
余裕の笑顔を浮かべていたアホンダラ王子が、
初めて真顔になった。
「正式な物である事を証明する為に、
アホンダラ王子と、そうですわね、
ロザリア様もサインを頂けますでしょうか」
「書類にすれば、おとなしく去るんだな」
「ええ」
公式な文章を作成する専門の官吏が文章を作り、
それを確認して、アホンダラ王子とロザリアがサインをする。
「これで確かに」
私は書類を受け取って、ソファーから立ち上がる。
「お聞きしたい事があるのですが」
「なんだね」
もう余裕を取り戻したアホンダラ王子が笑顔で答える。
「私と婚約破棄をなさったのは私が魔法を使えないからですの?」
「ああ、そうだ」
「私を愛して下さってました?」
「もちろん愛していたさ、しかし私は王族、
愛だけではどうしようもない事もあるんだ」
その言葉に全てを悟る。
アホンダラ王子が愛したと言ったのは父の権力だけ・・・
決して私自身を愛してはいなかったのだと。
アホンダラ王子は、第二王子でありながら、
次期王の座を狙っている。
それは周りの誰もが知る所だった。
しかし、高位貴族でありながらも、
魔法を使えない私と結婚させる事で、
王位の座からアホンダラ王子を引き離す狙いがあった。
それが、アホンダラ王子は気に入らなかったのだろう。
ロザリアが次の婚約者になった所で、
第一王子の婚約者であるプリシア様との差は大きい。
それを知ってもなお、ロザリアと結婚した方がいい
何かがあったのだろう。
冷静な表情を保ちながら、部屋を出て行こうとする。
すると、ロザリアには聞こえないように、
私の耳元でアホンダラ王子が呟く。
「もし、プリシアを倒せれば、
再び婚約者にしてもいいよ」
綺麗な笑顔のままで・・・・




