第1話:転生したら女の子になっていた件
ーー平成18年某日
佐藤真は、どこにでもいる30歳の冴えないサラリーマンだった。
地味で目立たず、特に優れたスキルもない。
趣味はアニメ鑑賞くらい……
最近プライベートは、ぼーっと異世界転生アニメを見て過ごすのみ
長年勤めていた会社でも、日々の業務をこなすだけ。
オマケに独身彼女なし。
なんの彩のない無気力な毎日を過ごしていた。
そんなある日、上司から呼び出しを受ける。
例年通りなら査定も終わり昇給を伝えられるタイミング
毎年全員同じ額昇給するのだが、伝統なのか上司の趣味かサプライズ形式で発表される。
真は言われた後に言う「ありがとうございます」と言う言葉をなんとなくだがシュミレーションしていた。
上司が待つ会議室のドアをノックする。
「営業課佐藤です。」
「どうぞ……」
失礼しますという言葉とともにドアをくぐる。
「お呼びでしょうか。桜木部長」
「早速だが佐藤君、君のことは悪く思っていないんだ。ただ、今の状況だとうちの部署で君を雇い続ける余裕がなくてね。」
「え……」
リストラ宣告だった。理由は「業績不振」。真はただ呆然とし、頭を下げることしかできなかった。
その日の夕方、真は近くの公園に座り込んでいた。
ベンチに腰を下ろし、肩を落とす。
周りでは子どもたちが元気に遊んでいるが、真の目には映っていなかった。
「どうすればいいんだ……これからの家賃も払えないし……。この歳で再就職……できなくもないだろうけど年下の先輩とかいるんだろうなぁ。……やりづらそう……」
もともと家族も友人もいない孤独な生活。頼れる人もいない。
挙句に新卒で入ったこの会社以外職歴はなく、この先を考えるだけで、真の心は絶望で真っ暗になっていった。
どのくらいこうしていたのであろう辺りがなんとなく暗くなってきた気がした。
ふと視線を上げると、子どもがボール遊びをしていた。
「無邪気なものだな……
俺も若返って人生やり直したいな…
そうだ、せっかくなら今流行りの異世界転生なんていいな。
あ、でもファンタジー世界怖いな。現実に似た世界とかでいいや。
んで、チート能力なんかあったりして……
こういう場合ってなんか代償とかあったりするのかな。
うーん……あんまりキツくない代償がいいなぁ。」
そんな妄想の世界に入り込んでると
公園の端でボールを追いかけた小さな子どもが道路に飛び出していくのが見えた。
そして、その先にはトラックが迫っていた。
「……!」
真はとっさに駆け出した。全身全霊で子どもを
突き飛ばした。
ほっとしたもののトラックのバンパーが視界いっぱいにひろがる。
その瞬間、感じた事の無い激しい衝撃を受け、視界が真っ暗になった。
ーーーー
……ここは……?
真が目を覚ますと、周りは見知らぬ白い天井だった。どこか現実味がない。
確か子どもを助けて……どうなったっけ?
少し朦朧とした意識の中、もっと情報を集めるために体を起こした。
見渡してみたが極々一般的な病室……のようだ。
ベッドの横には点滴がセットされておりそこから管が降りている。
何となくそれを少しぼやける目で追っていると自分の腕にたどり着く。
-あれ?俺の腕こんなに細かったっけ?
中肉中背……と言いたいが、ぽっちゃり系だった自分の体が全体的にほっそりとしている。
それに外回りで焼けていた肌は、前より白くなってるような気がする。
状況が掴めずに腕をもっと見ようとし身体を前に倒すと急に視界が黒くなる。
「……かみ……のけ……?」
どうやら視界を遮った黒の正体は髪の毛のようだ。
営業マンだったこともありスッキリ短く切っていた髪の毛は腰付近まで伸びている。
ーーーん?今の声?
驚き思わず発生した声はかすれてはいるものの自分の声とは思えないくらい高い。
ーーいったいどうなっているんだ……
自分の置かれた状況を理解するため記憶を探った。
すると、ある記憶にたどり着く。
それは子どもを助ける前にしていた妄想の世界の記憶だった
ーーまさか……! これは異世界転生だ!それも現実に似た世界……て事は……チート能力の代償で女になった?!
その瞬間キーンという耳鳴りが聞こえた
そのままベッドの横に置いてある棚の鏡を覗き込んだ
そこには若い……10代位の女の子が映っていた
真は確信した。これは、交通事故に遭った自分が異世界に転生し、チート能力の代償として女の子になったに違いない――。
代償はともかくとして異世界転生した事に妙な高揚感というか、買ったばかりのおもちゃを開けるのを家に着くまで我慢している子供のような……
もちろん上手くい生きていけるか不安もあるが、ワクワク感が真の胸をざわつかせているのだった。
ーーー
だが、現実は――。
病室の外で聞こえる看護師たちの声。
「佐藤 真さん、意識戻ったみたいですよ。あの方、事故に遭われて3年も意識不明で……」
「そうそう、なんでも引き取り先が全くなくてうちの病院に受け入れられる形になったんだって」
「え?なんでですか?」
「うちの病院って院長先生が事故の時に助けた子の親戚なんだって。なんだっけ甥っ子の子ども?だったような……」
「微妙に遠いですね。」
現実では、真は事故で怪我をし救急車で近くの緊急病院へ搬送。
そのまま意識が戻らずに緊急病院の入院滞在期間が終わった為、他県の病院に移送され3年間眠ったままだった。
実際は、体も男のまま異世界など存在せず、
ただ現実の病院にいるだけだった。
しかし3年の点滴生活で痩せ、肌は白くなり、髪が伸びたのだった。
その姿をぼやけた視力で鏡を見たので若い女の子に見えただけだった。
ーー全てはそう、佐藤真(33)の勘違いなのである。