6.人それぞれ
ブックマークありがとうございます! 信じられなくて二度見しました。それくらい嬉しいです。
「あ、そうだ。彼の名前って何ですか?」
「知る必要がありません」
「いちおう同僚ですし」
「冒険者に同僚もクソもありません」
「そう言われたら、そうなんでしょうけど」
「そうです」
「隠されれば隠されるほど、気になりません?」
ノアのとびきりの笑顔がグランに
向けられる。その溢れ出るキラキラとした光にグランは圧倒された。それでも言う。
「そうかもしれませんが、アイツの名前はとんでもなく悪趣味なので知らなくていいです」
「そうなのかも知れません。でも、僕は知りたいんです」
「…………」
有無を言わせない圧を感じた。そして、叶わないとは微塵も思っていないだろう事も窺えた。
「駄目ですか?」
「…………」
へにょりと眉を下げ、上目遣いで此方を伺う。
「貴方絶対末っ子ですよね」
「正解です。どうして分かったんですか?」
ノアがぱちぱちと目を瞬かせた。どうしてと言われても、もう甘え方が末っ子でしかない。そうでなかったら稀代の女たらしだ。
「何となく」
「分かるものなんですね」
興味深そうに頷かれた。
グランは一つ、溜息を吐く。
「ニーヨンです」
「ニーヨン? …………もしかして、数字の24?」
「そうです」
「あ、ニーヨンがグランをニーサンと呼んでましたけど、あれも兄の兄さんじゃなくて数字の23だったんですね」
「はい」
先程のグランとニーヨンの様子を思い出す。思えば、グランはずっと不機嫌だった。グランはニーサンという呼び方が嫌いなのだ。
「なるほど」
「何ですか」
「グランはニーサンという名前は数字そのままで悪趣味だと思っていても、ニーヨンには誰とも変わらない只の名前だということです。どうして嫌がっているのか分からないから、呼び方を変えないんですよ」
「…………アイツが悪趣味だからではなく?」
ノアは顎に指を添えて唸る。どう言ったものか。
「それは難しい問題ですね。君にとっては悪趣味でも、ニーヨンにとっては悪趣味ではない。その感性は主観によるものでしかないので、人の数だけ答えがあります」
「私にとっては悪趣味なので、そうだという事にしましょう」
「本人がそれで良いなら良いと思います」
無言の間が2人を支配する。気まずくない、逆に心地良いほどのもの。それをグランが遮った。
「これ、何処に向かっていますか」
「マーケットに」
「…………」
ノアの答えにグランがもの言いたげになる。
「どうかしました?」
「マーケットは此方ではありませんが」
「え」
ノアはそれまで迷いなく進めていた足を止める。ノアは項垂れる。そして追い討ちを掛けるようにグランが言葉を紡ぐ。
「此処から北西です」
「…………北西って、どの方角ですか?」
「………………」
引かれた。そしてグランに有り得ないものを見る目で見られた。とうとうノアは両手で顔を覆う。
「方位も分かっていないのに、どうしてそんなに自信満々に歩いていたのですか」
「…………勘?」
「これからは絶対に先に行かないでください」
「…………はい」
ノアはグランからの空間把握能力の信頼を失った。
「これまでどうやって生きて来たんです」
「1人になる事って部屋以外なかったんです」
グランにさらに引かれた。無表情で引くとか器用だ。
「色々な意味で凄いですね。息が詰まりそうです」
「それが常だったので、何も」
「そしてこれまで方向音痴を自覚せずにいた事も」
「それは本当に、その通りで」
言ってから、ノアはあれ、と首を傾げた。記憶を掘り起こして、よくよく思ってみると、周りは知っていてフォローをしていてくれたような気がする。
「…………幼い頃、よく姿を消して、その度に城中が大騒ぎだったと笑い話で聞いた事があります」
「………………」
「そんな有り得ないものを見る目で見つめないでください」
「先天性の不治の病ですね」
「いえ、自覚したんですから頑張れば治るかも知れません」
「やめてください」
面倒臭いからという副音声が聴こえた。
ギルドからの道を覚えるという目的で、来た道を引き返す途中。
「貴方は賢いのに抜けていますね」
「あ、それ家族にも言われます。仕事ではそうではないのに、それ以外では抜けているって」
ノアとしては、常時張り詰めて生活なんてしていたら精神が保たない為、メリハリをつけているだけなのだが。勿論、普段でも何か気になる事や引っ掛かる事があれば周囲に気を配る。しかし、ノアは天才ではないので精々その程度なのだ。
「ご家族から他には何か言われないのですか」
「さっきの言葉に続けて、でもそんなところも可愛いと言われます」
「いえそうではなく………………他には何か」
「さらに続けて大好きと」
「他には」
「そして愛してる、と」
グランの脳裏に、ノアに似た顔の親や兄弟がノアを抱き締め愛を叫ぶ図が浮かんだ。
「成程。俗に言う親バカ、ブラコン、というものですね」
「いえ、少し愛が強いだけの普通の家族だと思うんですけど」
グランは、その愛の強さについては置いておくとしても、王族一家なのだから普通の家族と言ってはいけないと思った。ノアには言わないが。
家族愛はどれほど強くてもイイ! 毒にならなければ!!
これからもノアの家族も出していきます。性癖が合うかも……という人は続きもどうぞよろしくお願いします。