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16.仕方ない

「…………早く入れと急かされた気がします」


 発端は好奇心だった。

 ノアはふと、この暗闇がどうなっているのか気になった。この空間は何処までも続いているのか。それとも、壁にでも阻まれるのか。はたまたこの門のある場所へと続くようになっているのか。


「グラン」

「駄目です」

「…………まだ何も言ってません」


 ノアはへにょりと眉を下げた。それでもグランはばっさりと切り捨てる。


「駄目です」

「何でですか?」


 何も言っていないのに、理由も何もあるのかという話だが。


「面倒臭い事を言い出そうとしていたでしょう」

「…………あっちに歩いて行ってみてもいいですか?」


 ノアの指差す方向が魔法陣の先、暗闇だと分かって力強く首を横に振る。


「駄目です」


 グランの言葉が更に強くなった。


「1分だけ。1分だけ向こうに歩いてみるだけです」

「危ないでしょう」

「じゃあグランも一緒に」

「一緒に遭難するつもりですか」


 ダンジョンのことだから此処まで帰してくれる気もするが、ダンジョンの気持ちなんて分からないし、絶対なんてないのだ。


「じゃあロープとか持ってませんか、グラン」

「持ってますが」

「端と端を持って繋がっていても駄目ですか?」

「……………………」


 グランが折れた。ノアの粘り勝ちだ。機嫌を取る話は何処へやら。


「絶対に離してはいけませんよ」

「はい」

「離してはいけませんからね」

「…………僕は小さい子供ですか」


 ノアは半眼になりグランを見たが、グランはただ首を傾げた。


「いえ。そんなつもりはありませんが」


 本気で言っていると気付いて、ノアは流すことにした。


 ノアとグランはロープの端と端を持ち立った。グランの片方の手にはグルグルと巻かれたロープがある。そのロープは長いため、1分で行ける距離だったら余るだろう。


「もしロープが張ったらそこまでです。絶対に戻って来てください」

「分かりました」


 魔法陣の先を見据え、一歩を踏み出す。

 そして振り返り、グランに一言。


「行ってきます」

「………………」


 返事が返ってこないことを気にする事なくノアはそのまま歩いて行った。

 グランは態と無視したのではなく、戸惑っていて返せなかっただけなのだと分かっているから。

 グランにも気づかれないほど微かにノアは笑った。


(可愛いなぁ)


 そう考える目には慈愛が篭っており、この先の暗闇に対する恐怖は皆無だ。

 足取り軽く進むが10秒も経たない内に違和感に足を止め振り返ると、光源が何もなかった。この先を何も見えない中進む事となる事実に、流石にノアの表情が引き攣る。

 戻るだけならロープを手繰り寄せながら可能だろう。しかしあんなに駄々を捏ねてきたのだ。まだ30秒も経っていないのに戻りたくない。


 5秒にも満たない逡巡の後、再び歩み出した。因みに、先程と進行方向が合っているかの確証はない。寧ろ違う可能性の方が高いと思う。気にせず進むのだが。


 すると、ぼう、と赤に近い橙色の光源が目に入る。目を凝らしてみると、それは炎のようだった。それはノアの歩く速さに対して有り得ない速さで大きく見えてくる。

 薄々察していたが、それはやはりダンジョンへと繋がる門だった。


 まだグランの元から歩いて1分も経っていないのにまた門へと戻って来てしまった。ノアは魔法陣の所へ戻ろうと門の後ろ側に回るのだが、そこには魔法陣が存在しなかった。勿論、グランもいなかった。


「………………」


 ノアは目を瞬く。


(この門を潜って早く魔法陣の場所に戻れと)


 探検を邪魔されたような、ダンジョンに対して申し訳ないような、複雑な気持ちで再び門の扉を開く。

 案の定、そこには魔法陣とグランが在った。


「ただいま戻りました」

「…………。何故そこから?」


 グランは己の握る、門とは反対側に伸びているロープと片足を此方に踏み出しているノアを交互に見比べ心底不思議そうに言葉を発する。


「さあ。僕にも分かりません」

「………………」

「あ、一回ロープを引いてみてください」


 グランは言われた通りに軽くロープを引っ張る。


「…………うん。ちゃんと繋がってますね」


 グランとしては、1分では何処にも辿り着けずに折り返してくるノアを呆れ顔で迎える予定だったのだ。未だ戸惑いが強くある。

 ノアは完全に此方に来るとロープを手放した。


「グラン、ロープを回収して貰えますか?」

「はい」


 ロープを引き戻して巻きながら、人を尊重する割にノアは人を使うよな、と思った。まあ王子なのだから当然だったのだろうが。


「探検としては物足りなかったんですけど、ダンジョンには意識があるのだと実感して少し満足です」

「具体的に、どうしてそう思ったのか聞いても?」

「歩く速さに対して、門が大きく見える速さが可笑しかったんです」


 そう言って笑った。


「…………早く入れと急かされた気がします」

「まあ、探検はこれからですし」


 早く入れと急かしたくなる気持ちも分かる。

 次こそ探検です! 合うなぁという人は続きもどうぞよろしくお願いします。

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