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15.生きているのかもしれない

次はもう少し早くあげます。

「此れがダンジョンへの入り口……」


 感動した口振りながら、躊躇いもせずダンジョンの門へと手を伸ばし触れるノアにグランはギョッとした。顔には出なかったが。


「躊躇わないのですね」

「近寄っても熱くなかったですし、大丈夫かな、と」


 そう言いつつも未だノアが触れている門は比喩でもなんでもなく、事実視覚的に大層燃え上がっていた。

 いや、事実と言っては語弊があるかもしれない。なぜなら、その炎は手を突っ込もうが熱さは感じないし、炎しか見えないくせにちゃんと木らしき扉の感触を感じる。

 そしてその炎を囲む柱は精密な彫刻の施された木で出来ており、蔦と生い茂る葉、その葉脈まで緻密に彫られている。これで色が緑であったなら、本物だと信じて疑わなかっただろう。


 だがしかし。今此処でその門を眺めているのは目の肥えた王子である。緻密で繊細な彫刻などの美術品を数多く見て来たノアは、このダンジョン柱を見てもよく出来てるとしか思わなかった。

 熱くない炎の方に釘付けになり、炎の中に手を出し入れしては目を輝かせている。


 そんなノアの格好は街から出る前にズボンへと履き替えられており、TPOを弁えていた。

 ノアは着替える場所として人影のない路地裏に行き、素早く着替えようとしたのだが、有り得ないとグランにごねられた。ノアはスカートの下からズボンを履くだけだからと言って、グランがごねている間にさっさとズボンを履いたのだが、それがグランの機に触ったらしい。

 いつもはノアに歩調を合わせてくれるグランの歩く速度が若干速かった。本人は意識していないのかもしれない。それとなく機嫌をとるつもりでいるため、そのまま気付かないでいて欲しい。


 一緒にダンジョンを攻略するつもりでいるグランは、その行為が契約外であると気付いていない。

 どうか、その事にもそのまま気付かないでいて欲しい。

 初ダンジョンを一人でというのは流石に危険だとはノアでも思ったので。


 そう不思議な門に手をつけていると、ギィ、と音を立て扉が開いていった。


「え」


 幸い、体重を掛けてはいなかったので心の準備もなしにダンジョンへ入る事にはならなかった。

 そのためノアは、先程手をつけたり離したりしていた時と力の掛け具合は変えていなかったのに扉が開いた事への疑問で頭がいっぱいだ。


 扉の先に広がる、黒い深淵の光景を見据える。


「押す強さを変えた覚えはないんですけど……」

「いつまでも入ってこない私達に焦れたのでしょう」


 不思議な表現を聞いて、ノアは視線をグランへと移した。


「どうかしましたか」

「いえただ、まるでダンジョンが生きているかのように表現したのが気になって」

「ああ。当にその通りです。大抵の冒険者はダンジョンには意識があると思っていますよ。まあ、他の一般の方々には首を傾げられるのですが」

「冒険者のみが感じる実感ってやつですかね?」

「そうなのかもしれません。深く考えた事がなかったので何とも言えませんが」


 深く考えず、己の勘で生きていく。冒険者はそんなものなのかもしれない。


「………………何で手を繋ぎました?」

「え? 招かれていますし、そろそろ入るでしょう?」

「入りますが」


 自然に手を取られ、グランは驚いたのだ。


「もしかして、ダンジョンが勝手にグループ判定してくれます?」

「言うのなら、グループよりパーティが普通なので、パーティと」

「わかりました。ダンジョンは便利ですね。勝手に判断してくれるなんて」

「そうでなくては困ります。野郎と手なんて繋ぎたくないですから」


 グランはそう言い切ってから、しまったと思い己の手を見やる。その手はノアと繋がったままだ。その手の上、ノアの顔へと視線を移すと、苦笑をしているノアと目が合った。


「いえこれは一般的な冒険者共との話であって貴方がどうこうという話ではありませんから」


 無表情ながらも必死に言い募るグランの様にノアは笑った。


「わかってますよ」

「なら良いです」


 無事手を離した2人は漸くダンジョンへと一歩踏み出した。


 暗闇に飛び込んだノアが扉の閉じる音に振り返ると、先程と寸分狂わない門が其処に在った。しかしその門はこの暗闇により、森の中で見るよりも更に異質な存在感を増していた。

 魅入られかけていたノアは、グランの声掛けにより門から意識を外す。


「行きましょう」


 そうグランが指差す先に、煌々と輝く巨大な魔法陣が1つ。


「これに乗ると転移します。最初は始まりの地点にしか行けませんが、何階層かごとにあるこれと同じような魔法陣に乗っておく事で、次回からはそこを思い浮かべ、転移する事ができます」

「便利ですね」

「具体的に思い浮かべないと跳べないのでどうでしょう」


 贅沢な不満だと思う。毎回最初から攻略する必要がなくなるのだから、そのくらいは飲み込むところなのだろう。


「それは同じパーティの中で1人でも行っていれば、一緒に行けるんですか?」

「さあ」

「さあって……」


 ノアは思わずグランの顔を見る。グランはとても堂々としており、当然だという顔をしていた。


「基本固定パーティですから。あぁ、でもソロ達同志で組んだり、固定パーティに混ざってやっても問題なさそうではあるので、行けるのでは?」


 どうやらノアはグランの強さを分かっていなかったらしい。

 これまでのグランの口振りからダンジョンは1人でも頑張れば攻略出来るものだと思っていたのだが、それはグランが規格外なだけであって、ソロで活動している者達でもダンジョンに入る時はパーティを組むらしい。


 ノアはうん、と頷いた。


「グランは冒険者の手本にしちゃいけないんですね」

「は?」


 グランは気の抜けた、思わず漏れたというような声が出た。


「規格外過ぎるので、そこを考慮してグランから学びます」


 グランはそのノアからの評価に、喜べば良いのかはたまた失礼だと怒れば良いのか判らなくて沈黙した。




ダンジョンは不思議で満ちていなくては! 合うなぁという人は続きもどうぞよろしくお願いします。

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