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14.君はよく似ている

「侯爵様!?」


 小さな驚愕をデザイナーが漏らし、それでも直ぐに礼を示す。ノアも、礼儀作法は然程変わらない様だと判断しながら、デザイナーと同じ様に礼をする。グランもそれに倣い一応それらしき格好をとる。


「上げて良いよ」


 燃えるような赤髪に黄金の瞳を持つ貴族だろう壮年の男性とノアの目が合った。何故ノアと目が合ったのか。普通、用事があるどろうデザイナーと目が合うのではないだろうか。


「侯爵様、お品物の受け渡しは明日の予定でございますが……」

「ああ、分かっているよ。ただ、此処を通ってね。何となくさ」

「新しい衣装をお作り致しますか?」

「そうだね。作ろうか」

「かしこまりました。少々お待ちください」


 デザイナーは弟子の首根っこを引っ掴んで裏へと入って行った。

 そうすると侯爵はノアへと話しかけて来た。


「失礼。君の瞳に見惚れてしまったんだ。君と話してみたくて思わず店に入ってしまった」

「それは光栄です」


 グランはそんな事で焦らされたデザイナーを少し哀れに思った。そして侯爵が用があるのはノアらしいので、極力気配を消す。万が一、此方に矛先を向けられたら面倒だからだ。


「君のご両親もアメジストの瞳なのかい?」

「はい、母方から受け継いでいます」

「成程。母君も、君のようにとても美しいのだろうね」

「確かに母は、子の自分から見ても美しい人ですが、僕は隔離遺伝子で、母にも父にも似ていないんですよ」

「そうなのかい。尚更、君のご両親を見てみたくなったな」

「そう言っていただいて光栄です」


 ノアと侯爵の雑談は続く。

 侯爵は気の強そうな外見とは裏腹に、溌剌としてはいるが穏健な雰囲気を纏っている。そこにノアのほのぼのとした雰囲気が合わさり、高貴さからではない、純粋過ぎて割り込めない空間が出来上がっていた。


 結構直ぐにデザイナーは表に戻って来ていたのだが、入るタイミングを掴めずに遠い目をしている。


「デザイナーさんが戻って来たようなので、僕達はそろそろ失礼いたします」

「ああ、許そう」


 店を出て少し歩いた所にて。

 ノアは唐突に喋り始めた。


「君のように美しい瞳を持っている方がいてね。その方以外に見た事がなかったからとても驚いたよ」

「急にどうしたのですか」


 ちゃんと意図があって言っているのだから、不審な目で見つめるのはやめてほしい。


「侯爵という身分の者が、『方』と言う人の身分って何だと思います?」

「公爵、王族……」

「侯爵もですね。同じ爵位の中でも暗黙の了解的な位付けはありますから」

「それが何か?」


 だから、不審な目で見つめるのはやめてほしい。


「侯爵の言っていた方が、僕の国の建国王だったりして」


 不審な目ではなくなったが、幼い子供の妄想に付き合う大人の目になった。


「その目、やめて欲しいです」

「そんな目とはどんな目ですか」

「…………なんか、自覚なしにされるのが1番嫌ですね……」


 もういいです、と言いこの話は中断させた。



 ノアとグランは露店の硬い串焼きの肉を食む。同じ肉なのだが、食べ進めるスピードの違いが顕著である。グランは次々に肉へと噛み付いていくのだが、ノアはグランが一本食べ切るまでにやっと一切れ。

 ノアは一生懸命咀嚼しながらグランの食べっぷりを眺めていた。育ちの良い(というか高貴過ぎる)ノアは口に食べ物が入っている間は喋らないので、結構長い沈黙が降りていた。グランは元々口数が少ないので言わずもがな。


(美味しいけど、硬いんだよなぁ)


 タレに隠し味として果物を少々入れているのだろう、噛んでいて苦ではない。ただ、肉が硬くて一切れ食べるまでに時間が掛かってしまう事が難点だ。

 ノアが最後の一切れをひたすら噛んでいる間にも、グランは3本目を食べ切った。唇に付いた油を舌で舐め取るが、その仕草が粗野に見えないのが不思議でならない。


 ゆったりと自分のペースで肉を飲み込んだノアは、口を開く。


「どうやったらそのペースで食べれます?」

「どうやったら……? 咀嚼の回数を減らしたら良いのでは」


 あんなに硬いのに、噛む回数を減らしたら喉に詰まらせてしまうのではないだろうか。


「…………それ以外には?」

「さあ」

「…………肉、硬いでしょう……?」

「普通ですが」


 まさか硬いと思ったのか、と驚きの目をグランから向けられた。それに対しノアも、まさかあれが普通なのかと驚きの目で返した。


 そしてグランが何かに納得したように頷く。


「王侯貴族クオリティなのですね、顎が」

「顎が。普通だと思っているんですけど……」

「じゃあただ慣れなのではないでしょうか」

「面倒臭そうに言わないでください」


 あからさまにどうでも良いという声音で言われた。


「取り繕う必要はないので」

「それはそうなんですけど」

「ならいいでしょう。今日はこれからどうしますか」

「半日で僕が踏破出来るダンジョンってあります?」


 グランは難易度の低いダンジョンを幾つかピックアップしたが、その中から今日中に確実に帰ってこられる場所は一箇所しかなかった。

 口を開きかけ、そこでグランはそのダンジョンの名を告げる事を躊躇った。攻略自体は簡単だ。しかし初ダンジョンとしては向いていないのではないか、そんな思いがグランを過ぎる。


「………………」

「どうかしました、グラン」


 まあ大丈夫か、と能天気なノアの顔を見て口を開く。


「条件に合うのは焚火狂いのダンジョンしかありません」

「それは…………、焚火に遭遇すると狂ってしまう状態異常とかですか?」

「惜しいと思います。狂ったように焚火を囲んで踊っている魔物達に遭遇するダンジョンです」


 眉を顰めながら目を見開くという、間抜けな面のノアが出来上がった。


「有り得なすぎて凄く恐怖を感じる絵面ですね……?」

「実際に見ても恐怖を感じると思います」

「よし、行きましょう!」

「………………?」


 今度はグランが珍妙な面を晒す番だった。




 次回、ダンジョンへ行く! と見せかけての、小話です。

 今回は話と話の繋ぎなので、すみません。性癖要素はないのですが……次回に期待ということで、続きもどうぞよろしくお願いします!

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