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12.目覚めた嗜好

「うーん。どうしよう」


 顎に手を当て悩むノアの前には金貨がジャラジャラと入った袋とその他諸々、要するに、無限収納付きの鞄に入れていた物達があった。


「貴重品だけ女将に預けては?」

「ああ、確かに」

「それか、私のポーチに入れますか?」

「え……?」


 ノアは驚き、グランをバッと見やったが、グランは首を傾げただけだった。そして若干早口に告げる。


「入れたくないのなら、それはそれで構いませんが」

「いえ、そうではなくて…………。グランは、無限収納付きの鞄を、持っています?」

「なんですか、その言い方は。持っていますが」

「………………」


 ノアは、初日のグランの言動を思い返した。


「え? 誰もが無限収納付きの鞄を持ってるなんて思うな、的な発言をしてませんでしたか?」

「………………」


 グランはその言葉を聞いてあの夜の事を思い出した。そして頷き、ノアの方を向く。


「一般論です」

「一般論。………………確かに、グランは自分が持っているかどうかには言及してなかったですけど……」


 ちょっと納得いかないな、とノアは思った。いや、グランがコップを出さなかった時点で無限収納付きの鞄を持っている可能性は低いと思うだろう。


「入れますか。入れませんか」

「お願いします」


 それはそれ。これはこれ。ノアはちゃっかりと荷物持ちを頼んだ。



 平民街の方から先に見えるショーウィンドウには裕福な平民が着るに相応しいだろう服が。貴族街から続く道の方にあるショーウィンドウには趣向を凝らしたドレスとタキシードが。

 それを横目に、ノアは格の高さを醸し出す扉を開ける。


「いらっしゃいませ」


 にこやかな笑みを浮かべる店員が少し離れた場所に立ち、まるで自分達を待ち侘びていたかの様に出迎えた為ノアは驚き、ビクリと肩を揺らす。しかし直ぐに立ち直る。


「こんにちは」

「こんにちは。本日は、そのポシェットに関する事で間違いございませんか?」


 ノアは目を瞬いた。


「そうです。店主さんから聞きました?」

「はい」

「ちなみに、どうして僕達の事、どう聞きました?」


 デザイナーの脳裏に店主の言葉が繰り返される。


(中性的な容姿で、美形っていうより美人ね)

(顔全体を見れた事がないのよねぇ)


 言えない。

 この、顔が見れないという部分で1人のイメージは完全に不審者になっていた。不審者と美人の組み合わせで、絶対にこの人達だと思っただなんて言えない。言える筈がない。


 デザイナーはにっこりと笑顔を作った。完全に誤魔化しに掛かっている。


「………………美人な方と、顔がお見えにならない方だとお聞きしました」


 ノアとグランは言及しなかったが、何か変な覚え方をされているのだとは察した。


「そうなんですね」


 ノアもにっこりと笑い返しておいた。デザイナーはバレてるかも、と内心慌てたが、そのまま何事もなく進んで行く。


「聞いているかもしれないんですけど、このポシェットをベルトにしたくて」

「拝見しても?」

「お願いします」


 デザイナーが素早くポシェットを確認していく。


「此処、金具に変更する事で肩紐が付け外し可能となり、2wayに出来ますが、如何なさいますか?」

「便利な物がさらに便利になるんですね。お願いします」


 此処で珍しく、グランが口を開いた。


「私も後日、依頼しに来ても良いですか」

「勿論でございます」

「……ありがとうございます」


 ぎごちなくも、お礼を言うグランにノアは微笑む。


「じゃあ、今度は僕がグランの荷物を持ちますね」

「ありがとうございます」


 グランのフードを被った頭を、ノアはぽんぽんと撫でた。


「…………?」


 意味が分からなかったが、取り敢えずグランは無言でされるがままにそれを享受した。

 そしてデザイナーはというと。


(何コレ何コレ何コレ! きゅ、急に動悸が……!)


 初の萌えに身を悶えさせていた。


「店員さん」

「へあっ!?」


 デザイナーが唐突な声掛けにビクリと体を揺らし、そんなデザイナーの様子に、ノアもビクリと体を揺らした。

 コイツら何やってるんだ、と言わんばかりのグランの視線が痛い。


「何分くらいで出来ますか?」

「10分も掛かりませんわ」

「じゃあ、終わるまで服を見ていても良いですか?」

「勿論でございます」


 デザイナーは2人に失礼しますと告げ、作業室へと引っ込んだが、それから首を傾げた。


「服、ほぼ女性用しか置いていないんだけど……」


 しかし彼女とか妹用かなと考え、そうそうに作業へと移る。



 一方、ノアは早速既製品売り場へと向かい、スカートを物色していた。


「このレースのスカート、可愛いですね」

「……そうですね」

「あ、こっちのシンプルなスカートも。コルセット風で後ろに紐があるのが良いですね」

「……そうですね」


 グランの頭はクエッションマークで埋まっていた。誰用なんだ、と。

 グランは、此方に来て一週間のノアに、親しい女性が宿の女将しかいない事を知っている。姉はいるが、違う世界だ。此方で買ってお土産にしようなどと思うだろうか。


「こっちにしようかな」


 そう言ってノアが手に持ったのは、シンプルなコルセット風スカートだった。


「ブラウスも、可愛らしい物が欲しいですね」

「……そうですね」


 そうして、今度はブラウスのブースへと向かうノア。グランは混乱しながらもついて行く。


「このリボン襟のブラウス、可愛くないですか?」

「……そうですね」

「あ、見てください! このレース刺繍のブラウス凄く可愛い!」

「……そうですね」

「似合いますか?」


 ノアはそう言ってレース刺繍のブラウスを上半身に当てがい、グランに意見を求めた。


「……そうですね」


 ノアが、目を細めてグランを見やる。


「ちゃんと聞いてます?」

「聞いてはいます」

「本当に?」

「はい。ただ少し混乱していまして」

「混乱?」


 ノアはぱちくりと目を瞬いた。そして少し考え込んだが、結局何の事か分からなかったらしい。


「理由を尋ねても?」

「…………その、それらは貴方が着る用でしょうか」

「そうです。似合うでしょう?」


 グランはスカートを履いているノアを想像した。似合う。


「はい」

「でしょう?」


 ノアがにこにこと微笑む。なんだろう、穏やかな表情である筈なのに、恐ろしく感じる。


「グランも着ますか?」

「結構です」


 即刻断った。

 そんなグランにに対し、ノアが口を尖らせた。


「意外と似合うかもしれませんよ」

「………………」


 本気で言っているのか、冗談で言っているのかの区別がつかなかった。どちらにしろ着るつもりはないが。


「着ません」

「残念です」


 そう言ってすっと引いたノアの真意は分からなかった。





 ノアは似合っていれば誰でもどんな格好でも良いと思っています。服屋ターンが終わったら、遂に! 冒険者らしく! ダンジョンに行きます!!

 合うなぁという人は続きもどうぞよろしくお願いします。

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