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11.バレてますから

「このポシェット、太腿に付ける形に変えたいんですよね。多分、自分でも出来ると思うんですけど……」

「………………裁縫が出来るのですか」

「並縫いは出来ます」

「なみぬい」

「はい」

「……」


 グランが無言でコクリと頷いた。


(並縫いが何か理解してないんだろうなぁ)


 真面目こいた表情を作ってはいるが、グランの返しが遅い時点で理解出来ていないと丸分かりだった。


「なので、雑貨屋に行きたいです。その後は街を散策して、あ、君お勧めのカフェがあったらそこにも行きたいですね」

「いつも行くカフェならありますが」

「お願いします」


 グランがコクリと頷いた。そして、ノアが初日に行った雑貨屋の名前を伝えると、驚いたようにパチリと瞬いた。


「貴方は運が良いのでしょうか。それとも探索能力に長けているのでしょうか」


 歩きながら、グランがノアをしげしげと眺めてくる。そして納得したように頷いたのだが、それはどちらへのものだろうか。


「それ、どっちに決めつけました?」

「……」

「あ、逃げましたね。どちらも、という事にしておいてください」


 助かったとでもいうように、グランが素早く頷いた。それに笑って、ノアが尋ねる。


「あの雑貨屋にグランも訪れた事が?」

「ダンジョン品は大体彼処で鑑定して売っぱらってます」


 あの店のある通りの通行人の様子と外装から、冒険者も来るのか、とノアは素直に驚いた。


「冒険者が売りに行くには少し上品な店なように感じたんですけど……」

「その通りです。低ランクはまず行きません。そもそも存在を知らないので。ランクが上がるにつれ、そこで売る輩が増えますね。まあ、店側が積極的に冒険者の客を増やそうとしていないので、それでもあまりいませんが」


 それなら納得できると頷いた。


「お断りはしていないけど、ターゲット層にもしていない、という事ですか」

「考えた事がありませんでしたがそうなのでは? 高ランクの冒険者が数人贔屓にしていたらそれなりに売れるダンジョン品も集まるでしょうし、雰囲気を乱す輩共をわざわざ呼び込む必要はないですね」


 そうこう話しているうちに、鑑定買取できますという立て看板が見えて来た。

 店を覗いてみると人の気配がなかった。バックヤードにいるのだろう。

 扉に付いていたベルが開けると同時にカランカランと音を立て、奥から店主が姿を現した。


「いらっしゃいませ」

「こんにちは」


 店主がにこりと笑ったのに対し、ノアは笑顔と挨拶で。グランは無言で会釈だけをした。この様子だと普段は会釈すらしていないのだろう。ノアに倣う辺り、やはり素直だ。


「裁縫セットってありますか?」

「………………」


 てくてくとカウンターまで歩き、ノアが言う。

 店主が笑顔で固まる。


「…………失礼ですが、誰がお使いに?」

「僕です」

「………………」


 何でもないようにノアが言う。

 また店主が笑顔で固まる。


「…………失礼ですが、裁縫がお出来に……?」

「並縫いは出来ます」


 ほのぼのとノアが言う。

 最早デフォルトのように、店主は笑顔で固まったまま。


「…………失礼ですが、何をなさるおつもりで?」

「この前購入した鞄を腰や太腿に付ける形にしたいなぁ、と思って」

「…………。並縫いでは強度が足りないかと。良ければ、腕の良い服屋を紹介いたします」

「え? 並縫いじゃ無理ですか?」

「無理だと思います……」

「じゃあ、お願いします」


 そうか、強度か。確かに、冒険者として活動するのなら動き回るだろうし、プロに任せた方が安全だ。

 ノアが頷く斜め後ろで、グランも並縫いだといけないのか、とぼんやり考えていた。なお、グランは並縫いさえ思い浮かべられていない。


「ありがとうございました」


 少々疲れた様子の店主に見送られ、今度はぶらぶらと街を歩く。


「残念でしたね」

「いえ、よく考えたら常に身に付ける物ですし、プロにお願いした方が良いなと納得したので大丈夫です。裁縫の腕を発揮するのはまたの機会にします」


 そもそも発揮できるほどの実力があるのかどうか、判断出来る者がその場にいなかった為、誰もツッコむ事なく会話が続いていく。


「服屋に行きますか?」

「いえ、明日で良いかな、と」

「わかりました」




 雑貨屋の店主はすっかり日が落ちた街を歩いていた。そして目的の場所に辿り着くと、closeと掛けてある扉を遠慮なく開ける。


「つっかれたわー」

「お疲れ」

「お疲れ様です!」

「2人もお疲れ様」


 その建物の中に居た2人は突然の乱入者に驚く事なく、各自の閉店作業を進めている。


「ねぇ、今日客に高貴さが隠しきれていない人とフードを被ったやたら陰気な人いなかった?」

「いなかったよ?」

「いないんかい!」


 店主はその辺に置いてあった椅子にどかりと座り込む。

 やたらと疲れた様子の店主に、その妹である服屋のデザイナーが尋ねる。


「どうしたの?」

「いやね、今日その人達に此処を紹介したから来たのかなって思っただけよ」

「へー」

「もうちょっと興味持って……」

「美形なら?」

「1人は確実に美形」


 少し無気力そうだったデザイナーの目の色が変わる。


「どんな?」

「中性的な容姿で、美形っていうより美人ね」


 デザイナーのテンションが上がった。明日来るかなぁと呟いている。期待は裏切らないだろうから、楽しみに待ってくれていて構わない。


「もう1人は何なの?」

「顔全体を見れた事がないのよねぇ。来る度にさり気なく見ようと頑張ってはいるんだけれど……」

「それ、バレてない? 大丈夫?」

「店に来てくれてるんだから大丈夫よぉ!」


 カラカラと店主は笑うが、勿論バレている。グランにバレない訳がない。けれどグランにとって避ける事は訳が無い為、問題視されていないだけだ。


「別に良いんだけど、珍しいよね。お兄ちゃんが私の店を紹介するの」

「あー……」


 店主はノアのほのぼのとした、純粋な笑みを思い浮かべた。


「そのお客、前に無限収納付きの」

「おししょー! 帰っても良いですかぁ?」

「…………良いよ」


 デザイナーの卵がやっほーいと言いながら外へと消えていった扉を、2人が無言で眺める。


「アイツ、本当に貴族向けのデザイナーになれるの?」

「……………………するの」


 間を溜めに溜め、デザイナーが言った。なれる、ではなく、そうしなくてはいけないのだと。今度は店主よりもデザイナーの方が疲れた様子だ。


「人の言葉を遮るなんて、お貴族様相手にやらかしたら不興を買ってすぐにお終いよね」

「……………………分かってる」

「本人は分かってないけれど」

「……………………ね」

「ねって」

「何度も何度も、言ってはいるんだよ……?」


 店主は、溜息を吐く妹の肩をポンポンと労った。


「さっきの続き、話すわね?」

「うん」

「そのお客、あ、やたら高貴そうな方ね。前に無限収納付きのポシェットを買っていったのだけれど、それをベルト型に変えたいんですって」

「…………何でそれで雑貨屋に行ったの?」

「裁縫セットを買いに来たのよ…………」

「出来るの……?」


 デザイナーは疑惑の顔付きに。


「出来ないから紹介したのよ……」

「あ、そうだよね」

「まあ、並縫いは出来るらしいけれど。それだけじゃダメでしょ」

「うん、紹介して正解」


 店主とデザイナーは頷き合った。


「今日来るかと思っていたんだけれどねぇ」

「無限収納付きでしょ? 中身が少ないならともかく、沢山入ってるんだったら預ける前に置いて来たいだろうし、今日はやめたんじゃない?」

「あー……、確かに? 普段使いしないから思い付かなかったわぁ」


 そんな店主をデザイナーは笑い、美人だというお客様を楽しみに、不出来な弟子からは目を逸らし、夜は更けていった。



 今回、やたらと兄妹を疲れさせてしまいました。ですが、2人の雰囲気可愛くないですか……? 合うなぁ、という人は続きもどうぞよろしくお願いします。

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