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絶対防衛線のNTR部隊

作者: 風親

※タイトルとかアレな感じですが。

今のところは基本コメディでそんなにエッチではないです。

もし続きを書いたら、徐々にエッチになるかもしれません。

 日々強大化する怪獣との戦いに、僕は苦戦を強いられていた。


 井上博士は、神妙な面持ちでタブレットから顔を上げる。


 対策が決定したようだ。


 予想されるのは、僕が特訓を積んで新たな必殺技を編み出すことだろう。


 あるいは、開発中の新兵器を実戦投入するのかもしれない。


 新型機の投入は、現時点ではさすがにまだ可能性が低いと思われる。


 そのいずれかだろうと予測しつつ、僕は博士の報告を待った。


 しかし、僕に伝えられたのは、予想とは全く異なる意外な言葉だった。


「データ分析の結果、あなたの出力を最大限に引き出すには……」


 井上博士は、少し緊張した様子で言葉を選んでいる。その様子を見た僕も、過酷な特訓や、体と精神に負担のかかるシステムが必要なのではないかと、緊張した面持ちで次の言葉を待った。


「『寝取られ』が最適なのよ」


「……はい?」




―――――――――――――

 青い空の下、海辺の街は平和な日常に包まれていた。人々は穏やかな表情で行き交い、街は活気に満ちていた。そんな平穏な時間を切り裂くように、突如として怪獣が現れたのだ。


 怪獣は数年前から現れるようになった巨大な生物で、当初は色々な名前で呼んでいたけれど巨大であること以外は多様だったので、結局、その名称で落ち着いていた。


 灰色の鱗に覆われた巨体を持つ怪獣は、街を蹂躙していく。鋭い爪で建物を引き裂き、口から放たれる炎で街を焼き尽くす。悲鳴を上げて逃げ惑う人々。パニックに陥った街は、一瞬にして修羅場と化したのだった。


 そんな絶望的な状況の中に、僕が操るロボットが現れる。轟音と共に飛来したのは、銀色に輝く人形兵器――NX-2型ガーディアン――だった。


 「来てくれた!」


 「ガーディアン、頼むぞ!」


 街の人々から大歓声が上がる。そう、彼らにとってガーディアンは、正義の味方であり、守護神なのだ。


 ガーディアンのコックピットで、操縦桿を握る僕、岩瀬裕一は緊張で手に汗を握っていた。


 このガーディアンに特別な適合者だと言われた時は、『そんな重要なこと僕には無理です』と謙遜しながらも、内心ではまるでアニメの主人公のようだと思って心躍らせていた。


 ただ、一つ不満を言えば、いわゆる怪獣と呼ばれる巨大な生物と戦うにもかかわらず、ガーディアンの大きさが少し物足りなかった。


 巨大ロボットとはとても言えない大きさで、パワードスーツに近いイメージだった。パワードスーツにしてはかなり大きい数メートルの人型兵器。


 突如出現するようになった怪獣に対抗するために作られた新兵器だけあって、耐久力は十分にある。かなりのジャンプ力も備えており、遠距離兵器も装備している。


 しかし、図体のでかい怪獣を見上げると、どうしても恐怖が込み上げてくる。


 今まで平和な国で平凡に暮らしてきたただの男子中学生にとって、街中で遠距離兵器を使うのはためらわれてしまう。


 一度、海に押し返してから使いたいと考えるが、そんな余裕があるだろうか……と震える手で操縦桿を握る。


 「よし、行くぞ!」


 覚悟を決めて叫ぶと、ガーディアンを前進させる。街を破壊する怪獣に立ち向かうため、全速力で突き進むのだった。


 怪獣との戦いは熾烈を極めた。鋭い爪で切りつけられ、蹴っ飛ばされた。ガーディアンは怪獣の猛攻に晒され、体当たりで派手にふっとばされる。コックピットで必死に操縦する僕も、大きく揺られて酷い目に遭う。


 「くっ……! 負けるか!」


 だが、僕は諦めない。街の人々の声援が、僕に届いていた。


 「頑張れ、ガーディアン!」


 「負けるな! 君ならできる!」


 その声に応えるように、僕はガーディアンを立ち上がらせる。ダメージは蓄積していくが、それでも前に進む。守るべき街と人々がいるのだ。絶対に負けられない。


 「うおおおお!」


 渾身の力を込めて、ガーディアンの拳を怪獣に叩き込む。すると、怪獣は苦悶の叫び声を上げ、そのまま地面に倒れ伏した。動かなくなった怪獣を見て、街の人々から喜びの声が上がる。


 「やったぞ、ガーディアン!」


 「ありがとう!」


 拍手喝采が街に響き渡る。満身創痍ながらも、僕はガッツポーズを決めるのだった。街を守ることができて、本当に良かった。


 こうして、今日もガーディアンと僕の活躍によって街は守られた。


 そう満足していた。






―――――――――――――

「うーん。こんなボロボロになってしまって……」


 ガーディアンを整備している基地は、とある街の地下にある。


 巨大地下道から基地に戻ったガーディアンを、井上博士は見ながらそっと目を伏せた。


 井上菜月博士は、まだ二十代にも関わらずこのガーディアンという怪獣に対抗できるパワードスーツを作り上げた総責任者だった。


 この知的な眼鏡美人に、少しくらいは労ってもらえることを期待していた。

 でも、井上博士にとっては我が子のようなガーディアンを、うまく使いこなせずに傷つけてしまったので、僕は何も言えずにシュンとしてしまう。


「ちょっと裕一君は、出力不足ですね」


 井上博士はそう言った。適合していると言われて、舞い上がっていた僕の気持ちが沈んでしまう。


「でも、出力をあげるために、色々試してみましょう」


 微笑みながら言ったその言葉を聞いた時は、鉄下駄を履いてランニングみたいな修行をするのだろうかと思った。


 まさか……まさか、あんなことになるなんて……

 この時は想像もしていなかった。






―――――――――――――

 僕は教室の机に突っ伏していた。昨日の戦いの疲れが抜けきらず、体中が筋肉痛でガチガチだ。ヒーローとはいえ、所詮は普通の中学生。こんな激戦は堪えるものがある。


 ふと顔を上げると、優しげな瞳と出会った。


 「大丈夫、裕一?」


 心配そうに覗き込んでくるのは、幼馴染の桜井美月だ。


 美月は、サラサラのロングヘアーが印象的だ。僕とは家が隣同士で、物心ついた時から知っている仲だが、最近ではクラスの誰もが憧れる存在になっているらしい。そんな美月が僕に心配そうな眼差しを向けている。


「おう。大活躍だったもんな」


 美月の後ろから、がっしりとした体格の斎藤拓も声をかけてきた。声を潜めているつもりなのだろうが、結構通る声なので周囲にばれないか心配になる。


 拓とも小学校に入ってからの付き合いだ。こちらも幼馴染と言っていいだろう。


 二人とも、僕がガーディアンのパイロットだということを知っている。初出撃の時、まさに現場でスカウトされた際に、彼らも同じ戦場にいたからだ。


 ガーディアンのことは絶対に他人に話さないようにと言われたが、二人に関してはすでに見ているからなのか、多少は話していいと許可されている。


 「昨日の戦い、すごかったね。派手にふっとばされてたけど、ケガとかない?」


 美月は、ひそひそと小声で尋ねてくる。


 「ああ、僕は大丈夫だよ。ガーディアンが守ってくれるからね」


 僕は笑顔で答えた。本当は全身がズキズキ痛むのだが、美月を心配させたくない。


 操縦するだけでかなり腕や足を使う。スティックを指先で傾けたら動いてくれたりはしないのだ。


 それに、怪獣の攻撃で直接傷つくことはないが、衝撃は伝わってくる。踏ん張らないと骨が歪んでしまいそうになる。


 「よかった……無理しないでよ?」


 ホッとした表情を浮かべる美月。その微笑みを見ていると、不思議と疲れも吹き飛びそうだ。


 「ほんと、裕一のおかげで助かったよ。昨日の怪獣、あのままだと県民ホールの方まで来てただろ? お前が食い止めてくれたから、コンサートが無事、今日開催できるってもんだ」


 ちょっと大げさな演技で、僕に感謝する拓だった。


「おいおい。僕じゃなくて、まずはスタトリのコンサートの心配かよ」


「そりゃそうだろ。でも、ファンは本当に感謝していると思うぜ」


 拓は、スターライト・トリニティという一部で人気が出始めたアイドルグループの大ファンなのだ。そのコンサートが今日、僕たちの街で行われるらしい。


 軽い口調で推しているアイドルのためと言いながら、少し凹んでいる僕を励まそうとしてくれているのだと分かって、僕は感謝していた。


 マスコミは少しでも被害が出ると『初動が遅い』と言ったり『税金の無駄遣い』とか、とにかく政権や役人への批判をしようと躍起になっていた。


 今は偉い人だけに不満が向いているが、いつガーディアンを支えてくれる人たちに飛び火してしまうか分からない。僕自身も、『二十四時間出撃できるように待機していろ』『学校に行くなんて甘え』と言われるんじゃないかと気が気ではなかった。


 「拓……ありがとう」


 思わず、そう言葉をこぼしてしまう。


 「……実は、僕、どうやら出力が弱いらしくて」


 そう明かすと、美月と拓が真剣な眼差しを向けてくる。


 「どういうこと? パイロットが動力源になってるの?」


 「そういうわけじゃないんだけど、パイロット次第で性能が変わるみたいなんだ」


 僕の説明に、二人は顔を見合わせる。


 そんなことを言われても二人も理解できないだろう。正直、僕もいまいち分かっていない。

 なんとなく日によって、うまく動かせる時とそうでない時があるのは感じている。


 「じゃあ、美味しいもの食べて、ちゃんと寝れば良くない?」


 美月が前向きな提案をしてくれた。


 「そうだ、明日お弁当作ってあげる。好きなもの言ってね」


 「いいなぁ、裕一は。俺も美月の手料理食べたいなぁ」


 「ダメ。働いている裕一専用」


 「なんだよ、ケチ」


 思わず苦笑してしまう。いつもの調子の会話に、嫌なことも忘れられそうだった。


 「ありがとう、美月、拓」


 いい友人に恵まれたと心から思えた。

 昨日も街の人たちは応援してくれて、感謝してくれたことを思い出し、前向きに頑張る気持ちになれたのだった。


「よし、じゃあ、今日、二人で何か食べに行こうぜ」


 拓は僕の肩に腕を回すとそう誘ってきた。


「え、ずるい。私も行くから!」


 小さい時と同じように美月もついてこようとする。


 ただ、ちょっと大きな声は、クラスの男子の注目を浴びてしまい、やっかみを受けそうな気がした。


「コロッケだけど、いいか」


「なんで、またコロッケなのよ! いいわよ。行く!」


 いつもどおりの調子で、僕たち三人は放課後、美味しいものを食べに行くことにした。





―――――――――――――

 今日も一日の授業を終え、いつものように下校しようとしていた時だった。突然、スマホが鳴り響いた。見慣れない番号だ。


 僕は電話に出ると、聞き慣れた声が聞こえてきた。


「裕一くん、ちょっと基地に来てくれないかな?」


 電話の主は、ガーディアンの開発者である井上菜月博士だった。博士は、いつも落ち着いた感じの口調だが、今日は少し切迫した響きがある。


「はい、わかりました。すぐに向かいます」


 そう答えると、僕は足早に歩き出した。ガーディアンのある秘密基地は、この街の地下深くにある。巨大な地下道を通り、いくつものセキュリティゲートをくぐり抜けると、そこには別世界が広がっていた。


 ドアを開けて整備室に入ると、真っ先に目に入ったのは、リフトに乗せられて整備中の銀色に輝くパワードスーツ、ガーディアンの姿だった。すっかり綺麗になっていて、僕はほっと一安心する。


 そのそばの机と大きな液晶ディスプレイが設置されたスペースでは、天野司令と井上博士が真剣な表情で話し合っている。


 天野司令は、いつも厳しい表情を崩さない筋骨隆々とした男性だ。短髪に刈り上げた頭に、鋭い目つきが印象的。その風貌からは、強い意志と決断力が感じられる。


 一方の井上博士は、白衣を羽織った細身の女性だ。大きな眼鏡の奥の瞳は、常に知的な輝きを放っている。


 二人の話し合いが一段落したのを見計らって、僕は声をかけた。


「お呼びでしょうか、博士」


「あ、裕一くん。ちょうどいいところに来てくれたわ」


 そう言って、博士は僕に歩み寄ってくる。


「分析が終わったわ。君の機体をパワーアップさせる方法について……」


 井上博士は、神妙な面持ちでタブレットから顔をあげる。


 対策が決まったようだった。


 ありそうなのは、僕が特訓して新しい必殺技でも開発することだ。

 それとも開発していた新兵器を試してみるのか。

 まさか、もう新型機の投入なんてことは可能性が低いだろう。


 そのうちのいずれかだろうと予想しつつ、博士の報告を待った。


 でも、僕に伝えられたのは、そのいずれでもない意外な言葉だった。


「データを分析した結果、あなたの出力を上げるのに最適なのは……」


 井上博士は、少し緊張した様子で言い淀んでいた。僕もその様子を見て、やはり過酷な特訓や、もしかして反動があって、僕の体や精神を蝕んでしまうようなシステムが必要なのだろうかと緊張した面持ちで次の言葉を待った。


「『寝取られ』ね」


「……はい?」



 思わず間抜けな声で聞き返してしまう。寝取られ? なんのことだろう。確かに、前回の出撃以降、色々な映像や漫画も含めて見せられた記憶はあるが、意味がさっぱりわからない。


「私たちも詳しいことはわからないんだけど、とにかく、裕一くんは『寝取られ』に強く反応して、ガーディアンの性能アップに繋がるみたいなの」


 博士の説明を聞いても、ますます混乱してくる。寝取られることが、どうしてロボットの性能に関係するのだろう。


「やはりあれでしょうか。寝取られものは脳が破壊されるとか言いますから、そこから修復の作用が働いて一層強くなるみたいなことでしょうか」


「そんな、筋トレじゃないんだから」


 井上博士も専門外なのか、天野司令に助けを求めるように話を振ったのを見て、僕は突っ込んでいた。


 天野司令の方も詳しいわけもなく、あまりにも予想外のデータだったのか困ってしまっていた。


「そ、それで、どうすればいいんでしょうか?」


 僕は不安そうに尋ねる。すると、博士と司令が顔を見合わせた。


「創作物でも意味はあるみたいですけれど……」


「やはり、実物で寝取られた方が効果的だろう……。人類の危機なのだ。中途半端な効果では困る……」


 二人はまるで他人事のように話し合っている。漏れ聞こえてくる内容を理解すると、僕にとって恐ろしいことしか言っていなくて恐怖する。


「ところで裕一くん。君に好きな人はいるかな?」


 天野司令が不敵な笑みを浮かべて聞いてくる。


「い、今の話の流れで話すわけないでしょーっ!」


 思わず突っ込んでしまう。


「そ、そんな人はいませんし……」


 僕がもごもごと続けた言葉は、博士にも司令にも何も届かなかった。

 博士は冷静に分析を続けている。


「データを見ると、幼馴染ものに強く反応していますね」


「なるほど……」


「ちょ、ちょっと待ってください」


 そう言いかけた時、突然警報が鳴り響いた。


『警報発令! 海中に怪獣出現!』


 液晶モニターに、海の中にいるらしき怪獣の姿が映し出される。まだ陸地は遠いようだけれど、今までのパターンからすれば数時間後にはどこかの海沿いの街に上陸してしまうだろう。


 今回は比較的早く発見できた方だ。まだ余裕がある。


「話の続きはまた後で。とにかく、今は出撃準備だ」


 司令の号令とともに、僕はガーディアンの元に駆け寄る。個人的な問題はひとまず脇に置いておこう。今は、街の人々を守ることが最優先なのだ。


 そんな強い決意を固めている横で、司令は何やら電話をかけまくって手配をしているようだった。


(一体、何をしているのか……)


 嫌な予感しかしなくて、不安になってしまう。


 海から現れた甲殻系の怪獣は、予想を上回る強敵だった。分厚い装甲に守られた巨体は、僕のガーディアンの遠距離攻撃を難なく弾き返す。


 苦戦は避けられなかった。


 だが、上陸を試みた瞬間を捉えた迎撃は、自衛隊の支援もあり効果的だった。


 正確無比な自衛隊の射撃を目の当たりにし、銃火器の扱いに不慣れな僕は驚愕を隠せなかった。


(さすが、本物の兵隊さんは違うな)


 そう感心しながら、攻撃で動きを止めた怪獣の急所にガーディアンのヒートブレードを突き刺した。


「やったか」


 つい口走ってしまったお約束な言葉に後悔していると、案の定、怪獣は不気味な音を立てて再び動き出した。


「飛んだ!?」


 怪獣は後方へ大きくジャンプし、水しぶきを上げて海中へと沈んでいった。


「……で、でも、か、勝ったよな?」


 しばらく怪獣の体液に染まる静寂の海を見つめ、再浮上の気配がないことを確認し、安堵のため息をついた。


 だが、その安らぎもつかの間、新たな報告が飛び込んでくる。


「裕一くん、大変よ! 街に別の怪獣が現れたわ!」


 博士の切迫した声が、通信機から響く。


「街に! なんだって!? わかりました。すぐに向かいます!」


 僕はガーディアンを駆って、街へと急ぐ。


 現場に到着すると、そこには恐ろしい光景が広がっていた。


 黒光りする巨大な怪獣はすでに上陸を果たしていた。


 口から放たれる巨大な火球は、街の一角を容易に破壊し尽くす。悲鳴を上げて逃げ惑う人々。パニックに陥った街は、まさに地獄絵図と化していた。


「僕の生まれ育った街のすぐそばでこんなことが起きるなんて……」


 子どもの頃から自転車で何度も訪れた場所だけに、ショックは大きかった。信じられない光景に、僕は思わず立ちすくんでしまう。


「今は悲しんでいる場合じゃない」


 まだ街中には多くの民間人が取り残されている。


 この状況下では、自衛隊も本格的な攻撃に踏み切れないだろう。


 なんとか民間人の避難する時間を稼ぐため、怪獣の動きを止めなければならない。


「それができるのは僕だけだ!」


 覚悟を決めて、ガーディアンの操縦桿を力強く握りしめた。


 これまでの怪獣よりもさらに一回り大きな体格に恐怖を感じつつも、気持ちを奮い立たせて怪獣の足元に取り付いた。


 片手に装備されたブレードに熱を帯びさせる。片側が熱されたそれは、怪獣の硬い皮膚をも切り裂く切れ味を持つ。


 踏みつけられれば、さすがのガーディアンも持たないだろう。


 慎重に怪獣の動きを見極めながら、至近距離から怪獣に攻撃を仕掛ける。


 ヒートブレードを振るい、脚に深々と切りつける。火花が散る中、必死に怪獣の注意を引きつけ、人々の避難する時間を稼ぐ。


 ひとまず怪獣が苦しみ、動きを止めることに成功した。


 一旦距離を取り、カメラを向けて周囲の状況を確認する。


 その時、県民ホールの異変に気づいた。


 そこでは、スタトリのコンサートが行われているはずだ。だが、先ほどの火球の攻撃の影響でホールの壁に亀裂が走り、今にも崩れ落ちそうだ。


「拓は無事か?」


 ジャンプして上空から確認する。


 コンサートの観客の大多数はすでに避難済みのようだった。


 だが、まだホールの前に取り残された観客がいる。


 そして、少し高い位置から観客を誘導指示している少女の姿があった。


「あれは……スタトリの……」


 拓が推しているアイドル、朝倉結実だ。


 いつも映像を見せてもらっていたので、その姿は脳裏に焼き付いている。


 今も、白と水色のドレスのような目立つアイドルの衣装を身にまとっていた。


 目立つことで、誘導の目印になるという利点はあるが、焼け崩れた周囲の中で危険を顧みずにスタッフの一人として最後まで残る姿は、神々しささえ感じられた。


「しまった!」


 動きを止めていた怪獣が、再び火球を吐き出そうとしている。


 まさか、朝倉結実の姿が怪獣の目にも眩しく映ったわけではないだろうけれど、彼女のいる方に火球が放たれるのが見えた。


「防ぐしかない!」


 僕は急いで地上にガーディアンを着地させた。

 この機体が破壊されれば、もう人類にとって大損害なのだけれど躊躇している時間はなかった。


 朝倉結実を、そして後ろの観客を守るため、ガーディアンの両手を大きく広げて火球を受け止めようとする。


 轟音と激しい衝撃。


 先ほどよりも火球は小さかったため、なんとか防ぐことができた。


 砕けた火球の残骸が周囲に散らばる。


「大丈夫か、ガーディアン」


 熱でダメージを負っていないか心配したが、問題なく動いてくれているようだ。僕は博士たちの技術力に素直に感謝した。


「裕一! 裕一か?」


 聞き慣れた声が、近くから聞こえてきた。


「拓! 無事か」


 僕はコックピットのハッチを開けて親友の無事を確認する。


 同時に、朝倉結実とも目が合った。


 先ほどまでの民衆を導く自由の女神のような勇ましさはなく、さすがに座り込んで怯えたような表情を浮かべていた。


 それでも、冷静にこちらを見据える瞳の輝きは印象的だった。


「拓! その娘と残りの観客も連れて、一本松の橋のところに行ってくれ。そこに地下へと通じる通路がある!」


「わ、分かった!」


 拓はそれだけ言われるとすぐに理解してくれたようだ。


 遠慮がちに、推しのアイドルの手を取り、避難を促した。


「分かりました。橋の方ですね」


 先ほどまでぺたんと地面に座り込んでいた結実は、拓の手を借りるまでもなくするりと立ち上がった。


「皆さん! あちらの橋です! そちらから地下に避難してください!」


 結実は、大きな声で逃げ遅れた観客に呼びかける。パニックに陥る人々を落ち着かせ、避難誘導を試みているのだ。


 さすがによく通る声で、動揺していた観客たちを一瞬で落ち着かせた。


 その姿は、アイドルというよりも、たくましいリーダーのようだった。


「博士! 地下通路の開放と誘導をお願いします」


 朝倉結実と拓を見送りながら、僕は博士に通信を入れる。


「裕一くん、よくやったわ! 被害は最小限に抑えられたみたいね」


 博士の明るい声が聞こえてくる。


 もう少しすれば、自衛隊も本格的な攻撃に移れるだろう。


「でも、残念ながらまだ油断はできないみたい」


 博士から諦めに似た言葉が聞こえてくる。


「もう一体の怪獣の反応を捉えたの」


 博士の言葉に、背筋が凍りつく。


 自分の目でも確認できた。先ほど海岸で戦った甲殻類のような怪獣が、大きな怪獣に寄り添うように現れたのだ。


 絶望している暇もない。疲弊した心身を奮い立たせ、僕は再び戦いに身を投じるのだった。



「ああ、裕一君、聞こえるかね」


 この激戦の最中、通信機の音が切り替わり、天野司令の声が聞こえてきた。


 そういえば、今日はずっと井上博士が指揮をとっていたことに疑問を抱いていた矢先だった。


「裕一くん、美月くんのことは心配しなくていいよ。すでに安全な場所に避難させてある」


「え? そ、それはよかった」


 戦いに集中しようとしていた僕は、思わずホッと胸をなで下ろした。美月の無事が確認できただけで、それ以上のことは望まない。


 だが、天野司令の次の言葉で、僕の安堵は一瞬にして吹き飛んだ。


「今、美月くんは東京の男子大学生と一緒に安全な場所に避難してもらっているんだ」


「は?」


 意味が理解できない。司令は一体何を言っているのだろう。


「美月くんからメッセージを預かっているから、見せてあげるよ」


 そう告げると、天野司令はビデオ映像を送信してきた。


 画面に映し出されたのは、美月の姿だった。


 それ自体は問題ないのだが、後ろの騒がしさが妙に気になる。


 まるで、どこかの飲み屋の座敷を思わせる光景だった。長い机を挟んで若い男性ばかりが盛り上がっている、まさに新歓コンパのような雰囲気の真ん中に、美月が佇んでいる。


 カメラから少し離れた美月は、いつもの制服姿ではなく、やや大人びたワンピースを纏っていた。彼女を取り囲むのは、初対面と思しき男子大学生たちだ。


「え、ええと祐ちゃん。よ、よく分からないけれど、人類のために優秀な大学生さんと一緒にいて、話を聞いて欲しいそうです」


 美月はそう説明した後、少し大きな声で付け加えた。


「別に遊んでいるわけじゃないからね。裕ちゃんのためだって聞いたからなんだから」


 騒ぎ立てる大学生たちは、ニヤニヤと下心を隠さない笑みを浮かべ、美月を見つめている気がした。


 頭に熱いものが込み上げる中、司令の声が再び聞こえてきた。


「もちろん彼女にお酒を強要したりしないし、ひどいことをしたりなんてもってのほかだよ。我々は政府の機関だからね」


 そう言いつつも、司令の表情には意味ありげな笑みが浮かんでいる。


「もちろん、大学生の方は酔っ払っていても我々が咎め立てすることではないがね」


「な」


「大学生はとある団体の御子息ばかりだから、ちょっとくらい何かがあってももみ消してしまうかもしれない。いや、まさかね。そんなことあるわけないと思うが」


 他人事のように微笑む天野司令に対し、思わず下品な言葉を叫びそうになるのを僕は必死で堪えた。


「や、優しそうなお兄さんたちばかりだから、心配しないでね。裕ちゃん」


 最後に、美月が僕に向かって微笑んだ。いつもの輝くような笑顔ではない。どこか翳りを感じさせる表情だった。


 そのまま映像は途切れた。最後の瞬間、大学生の一人が美月の肩に手を回したように見えた気がする。


「フラグみたいなこと言うなぁぁぁ!」


 思わず、そんな叫びが僕の口をついて出た。


 その瞬間だった。


 僕の乗るガーディアンの周囲に、不思議な光が放たれ始めた。まるで、僕の感情に呼応するかのように、ガーディアンがパワーアップしていくのが分かる。


「すごい出力上昇です!」


 博士の興奮した声が、通信機から聞こえてくる。


 だが、僕には博士の声など耳に入らない。頭の中は、美月のことでいっぱいだ。


 一刻も早く、この怪獣を倒して、美月のもとに行かなければ。


 そう決意した僕は、ガーディアンを全力で操縦した。


 甲殻類の怪獣の攻撃をものともせず、鋭い爪を受け止めた。


 そのまま、ヒートブレードを振るう。


 まるで、怒りに燃える僕の感情そのものが、ブレードに乗り移ったかのようだ。


「えっ、なんでブレードの出力もあがるの?」


 博士も驚いていた。博士が理解できないことを、僕が分かるはずがない。


 考えるのをやめ、甲殻類の怪獣に突き刺したブレードを引きずりながら、そのまま切り裂いていく。


 次に、ライフルを巨大で黒い方の怪獣に向ける。


 ライフルの威力が上がるはずがない。だが、集中した僕の照準はピタリと合い、正確に怪獣の目を射抜いた。


 すぐさま、もう片方の目も正確に一発で貫く。


 今までにないほどに集中していて迷いがないのが自分でもよく分かった。


 自衛隊の人たちからも称賛の声が上がったような気がしたが、今の僕にはそれに応えている余裕はなかった。


 そのまま、ジャンプすると苦しむ怪獣の首を冷徹に切り落とした。



「美月のいる場所を教えてください!」


 そのまま通信機に向かって叫んだ。


「え?」


「早く!」


「あ、うん。ちょ、ちょっと待ってね」


 今にも暴れ出しそうな僕の剣幕に、井上博士が慌てて調べてデーターを転送してくれる。


 勝利の余韻に浸る間もなく、僕はガーディアンを東京に向かわせた。


 美月がいるのは飲み屋などではなく、ガーディアンの研究施設の一角にある建物だった。ガーディアンを降りた僕の前に、何事かと思って外に出てきた美月の姿があった。


「ゆ、裕ちゃん。よかった。無事だったんだね。で、でもどうしてここに?」


「迎えに来た」


 ぶっきらぼうに言った僕に、美月は少し怒ったような表情を浮かべた。


「だから、別に遊んでいるわけじゃないんだけど」


 腰に手を当てて胸を反らしながら、そう言った。


「いや、大学生と遅くまで飲み会とかよくないから……」


 そんな僕の言葉に、なんとなく美月は察したようだった。


「ああ、私のことが心配だったんだぁ」


 美月はにやにや笑った顔になった気がした。


「いや、そんなじゃないから」


「大丈夫だよ。大学生って、井上博士の後輩で、ちゃんとガーディアンの研究に関わっている大学の研究室の人たちだから」


 美月の後ろを見れば、映像ではチャラそうに見えた大学生たちは、今は服装もかなりしっかりとしていて、よく見れば真面目そうな人たちだった。

 小声で『やるなあ』『頑張れ裕一君』などと言って励ましてくれている。


(いや、その声は美月にも聞こえちゃうから……)


 照れくさい空気の中、僕は天野司令の罠にはまったことを理解した。


「いいから、遅くなる前に帰るよ」


 僕は美月の手を取って引っ張った。きっと、顔は赤くなっていただろうが、少し暗くなっていたのでごまかせたと思う。


 研究室の若い男性たちによる『ひゅーひゅー』と囃し立てるような声が聞こえる。


 コックピット内の明かりで、もうごまかせる気がしない。


「え? ふ、二人で乗るには狭くない?」


 でも、美月はコックピット内を心配そうに見回していた。


「ま、大丈夫か」


 美月はそう言いながら僕の座席の前にちょこんと座る。


 確かに狭い。かなり密着していて、僕は美月の髪のいい匂いをずっと嗅いでしまっているかのようだった。いや、実際いい匂いがしてきてしまうんだけど。


「わあ」


 ただ、美月は僕の息がかかるなんてことは気にしていないようだった。


 低空をジャンプし続けて、夜になっていく街を眼下に飛んでいく。


 見たこともない景色に、美月は目を輝かせていた。


 そんな美月を見ている僕も、人生で今まで一番綺麗な景色だと感じていた。



 美月がそばにいる限り、僕は戦い続けられる。


 そう確信しながら、僕はガーディアンを基地に向かわせて夜の街を駆けるのだった。




―――――――――――――

 放課後、基地に呼び出された僕は、違和感を覚えた。


 基地には、いつもと違う静寂が漂っている。


 普段なら、天野司令と井上博士がすでに待機している会議スペースが、今日は不思議と人の気配がない。


 整備スタッフの姿も見当たらない中、銀色に輝くガーディアンを眺めながら、僕は一人佇み、司令や博士たちの到着を待っていた。


 そんな時、扉が開く音がして、振り返るとそこにいたのは可憐な少女だった。

 戸惑ったままで固まっていると、すぐにそこ娘は僕に駆け寄ってきた。


「はじめまして、岩瀬先輩」


 長くなめらかな黒髪に、クリっとした大きな瞳。先輩と呼ばれたが、この辺では見慣れないセーラー服の制服から、別の学校の生徒だと分かった。


「4号機パイロットに任命されました。朝倉結実です。よろしくお願いいたします」


 敬礼しながら、彼女は真摯な表情でそう告げた。


「4号機? いつの間にか他にも二人いたの? ……いや、そんなことより、もしかして、君は『ゆみみ』?」


 僕は驚きを隠せずに声を上げる。間違いない、彼女は拓が熱狂的に応援しているアイドルグループ、スタトリのメンバーだ。


「はい。この間は助けていただき、ありがとうございました」


 朝倉結実は、真摯な眼差しで僕に頭を下げる。


「いえ、こちらこそ。ゆみみ……朝倉さんのおかげで、被害者を最小限に抑えられたんだから」


 県民ホールに最後まで残り、観客を誘導していた彼女の姿が脳裏に焼き付いている。


 もし彼女がいなければ、拓も危険な目に遭っていたかもしれない。


「いえ、先輩こそ、あの時の身を挺した行動は尊敬に値します。誰にでもできることではありません」


 最近、マスコミから批判ばかり浴びせられていた僕にとって、直接感謝の言葉を聞けることは、本当に嬉しくて、思わず目頭が熱くなる。


「どうぞ、私のことは『ゆみみ』と呼んでくださいね」


「え、いや、基地ではそれはちょっと……」


 アイドルだということもあるけれど、あまり基地内で馴れ馴れしくするのは控えたかった。


「では、『結実』とお呼びください」


 意外と押しの強い彼女は、真っ直ぐ僕の目を見つめながらそう言った。


「分かった。『結実ちゃん』……だね」


「ありがとうございます。それでは、よろしくお願いしますね。『裕一先輩』」


 それで納得してくれたようで、結実は眩しいほどの笑顔を見せた。


「そういえば、天野司令から命令を承っています」


 結実ちゃんは、さっきまでの可愛らしい笑顔から一転、真剣な表情に変わる。


「え?」


「命令です……目を閉じてください」


 その言葉に、僕は思わず固まってしまう。


 敬礼しながら真剣な面持ちの結実。何か特別な命令が下されたのだろうか。


 (なんだろう。東京までガーディアンで飛んでいったのは、さすがにやりすぎだったかな。でも、この娘に叱られるのなら、悪くないかも)


 そんなことを考えながら、僕は素直に目を閉じた。


「命令なのは本当ですが、これは助けていただいた私からお礼の気持ちです」


 結実ちゃんの言葉と同時に、僕の頬に柔らかな感触があった。


「え?」


 驚いて目を開けると、結実ちゃんの顔がすぐ目の前にあった。


 頬にキスをしてくれたのだと、僕は理解する。


 その瞬間、扉が開く音が響いた。


 入ってきたのは、天野司令と井上博士。


 ……そして美月と拓だった。


「え? 美月と拓」


「裕一、何してるの」


 美月と拓は、目を見開き、表情を強張らせ、肩を震わせている。


 (しまった……!)


 四人から見れば、僕と結実ちゃんがキスをしていたように見えただろう。


 だが、天野司令は顔色一つ変えずに言った。


「いやあ、ついに戦力の補充ができたよ。今まで裕一君一人に負担をかけてしまったからね。改めて紹介しよう。こちらは、4号機パイロットの朝倉結実さんだ」


 司令は、僕と朝倉さんの方に手を向けて紹介した。


「よろしくお願いします」


 なぜか僕にぴったりと寄り添いながら、結実ちゃんは敬礼した。


「そして、裕一くんとは旧知の仲だと思うが……こちらが2号機と3号機のパイロット、桜井美月さんと斎藤拓さんだ」


 司令は今度、横に手を向けて紹介した。


 美月と拓は先ほどからの強張った表情のまま、結実ちゃんを真似してぎこちなく敬礼を返していた。


 僕たち四人の間には、微妙に緊張した空気が漂っていた。


 美月は明らかに、結実ちゃんを『誰よ、その女』という目で睨んでいる。


 一方拓は、『どういうことだ。いつの間にゆみみと仲良くなったんだ』という疑いの目で僕を見ていた。


 そんな中、井上博士がタブレットと美月たちを交互に見ながら、興奮気味に報告した。


「お二人とも、今この瞬間、素晴らしい出力を出しています! すごいです。計測不可能なほどです」


 満足そうにうなずく天野司令と井上博士の顔を見て、僕は再び天野司令の罠に嵌められたことを悟った。


(誤解を解かない方がいいのだろうか……)


 僕はこんな感情が、世界を守るのに必要だなんて思いたくなかった。


 心強い戦力を得たことを喜びつつも、これからの戦いに複雑な思いを抱かずにはいられなかった。

今回は短編です。

不定期で続きを書く予定ではありますが、ちょっと先かも。


ブックマークや評価、感想を頂けると嬉しくて新作や続編の励みになります。


よろしくお願いします。

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