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1.出発

時は昭和の終わり。

世はバブルの香りが漂っていた。

しかしいつの世も若者はお金を持っていない。


「若いうちの苦労は買ってでもしろ」という。

人生こんな楽でいいのか。いつかとんでもない艱難辛苦に出逢った際に、

心折れてしまうのではないか。

ならば若いウチに苦労をしておこう。

マジメか!


じゃあ何の苦労がいいかな。

せっかく苦労するなら楽しい苦労がいい。


実は遠距離恋愛中の彼女がいる。

熊本と広島の遠距離恋愛、自宅に自分の電話すらない彼は10円玉を10枚、100円玉を5枚持って、

大学構内の公衆電話から電話するのが唯一の彼女との連絡方法だ。

10円を10枚持つのは100円を使い切った後、名残惜しくも10円10枚分の会話で

「気持ちのケジメ」をつけるためだ。

貧乏とは切ない。

高校を卒業して、お互い離れ離れになってから恋愛スタートするとはね。


そして今は熊本の大学に通いながら一人暮らしをしている。

大抵の熊本の大学生にありがちなバイク乗りだった。

高校を卒業して直ぐに大学で一人暮らしを始め、阿蘇とオフロードバイクにのめり込み、

一コマ空くと必ず阿蘇や金峰山(熊本市内にある山、最寄りの峠、林道となる)に走りに行く様になった。


熊本のバイク乗りは、日本、いや世界でも有数の阿蘇という素晴らしい峠ステージを知っているが、

対局といってもいい北海道にとても興味があった。

九州というのは真ん中に九州山地があって、何処にいても山が見えるのが当たり前である。

地平線などは生まれてこのかた見たことがない。

当時のバイク乗りの聖地とも言われた北海道を走ってみたいと常々思っていた。


そして彼には中学時代から仲の良かった友人が関東にいた。

夏休み、彼らと合流して何かをやりたいと思っていた。


色々な要素を盛り込んで、彼が考え出した「楽しい苦労」は野宿での下道日本一周。


熊本から広島の彼女のところまで自走、彼女と直接会いたい。

関東にいる友人に会って一緒に走りたい。

そして自らの希望である北海道を目指す。

それも野宿で日本一周したい。


希望を全部盛り込んだらそうなった。

苦労のポイントは、基本は野宿旅、高速道路は使ってはならない、という自分ルールだ。


実は心の師と仰ぐ野宿ライダーがいる。寺崎勉氏だ。

オフロードバイクで林道を走りながら野宿をしている様子を

毎月買うバイク雑誌で読むのを楽しみにしていた。

彼の野宿ライフ、ツーリングスタイルに大きな影響を受け、

旅の相棒にするなら絶対にオフロードバイクと決めていた。


初めてのバイクは、XL200Rというホンダの200ccのオフロードバイクであった。

エンジンは4サイクル2バルブで18psしかなく、ライトも小さく暗かった。

コレでは日本一周など到底できない。

だからバイトで貯め込んだ金で新しい相棒を買うことにした。


日本一周するのだから、もちろん何処でも走れるオフロード、

ソコソコの馬力で信頼性が高く、

何よりライトが明るくなくてはならない。


そこで選んだのが、ホンダXLR250 BAJA。

昨年出たばかりの最新型のXL系のバイクだ。

バッテリーレスでライトポッド2連、印象的なフロントビューはまさにトンボ。

エンジンはホンダの4バルブ250cc単気筒で熟成されたRFVC。

標準のXLR250Rに長く採用され、CB250クラブマンにも載せられているエンジンだ。

馬力は28馬力と強いとは言えないが、

今までが18馬力と気が遠くなるくらい非力だったので、

必要充分である。


先代のXLは友人が15万円で引き取ってくれた。

コレを頭金に残りをバイト代を突っ込んで新車を買う。


日本一周にあたり、XLR250R BAJA「トンボ」君は

阿蘇の林道を中心に念入りに慣らし運転し、

リアのスプロケットを少し大きめのものに交換された。

フロントタイヤは林道での走行を前提にブロックの大きいものに換装、

リアタイヤを舗装路中心、しかしオフロードもいける比較的ブロックが大きく、

しかし平らなデザインのモノ(つまりほぼ純正)に換装され、

準備は万端に整った。


さあ、走り出す。

走ったことのない道へ。

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