1 旧実験室
須佐野はベッドの側に置いてある椅子に腰掛け、眠る両親を見ていた。もう五年も昏睡状態にある両親を彼は見ていることしかできなかった。
十歳ばかりの子どもが出来ることは少ない。今だって両親を守っているのは、この施設の管理ロボット【tf-yata】だ。
施設の地下深くにあるこの部屋は、元は真っ白であっただろう薄汚れた壁に囲まれていて窓はなかった。土埃の臭いがし、頼りない蝋燭の灯りが両親が横たわるガラスケースをわずかに照らす。
両親は手を繋いでそこに眠っていた。二人の意識はここにはない。では、どこへ? 毎日考えても答えは見つからない。
「スサノン?」
声がした方を見ると、須佐野と同じくらいの歳の少女が扉の隙間から覗いている。スサノンとは彼のあだ名で、ここにいる大人は皆そう呼び、あとから連れて来られた子どもたちもそれに倣った。
「てるちゃん」
少女は部屋に入ってくることなく言った。「そろそろ行かない? プレイルーム」
「うん、行こう」
螺旋階段を二人は登る。途中で各階に続く廊下と接続してもてるちゃんは構わず登っていく。
この施設に来て6年ほど経つが、スサノンは未だに「プレイルーム」への道のりが覚えられないでいた。
「今日は何して遊ぶ?」
てるちゃんはいつも通りのゆっくりとした口調で聞く。
「鬼ごっこなんかどう?」
そうは言ったもののスサノンは遊ぶことに気乗りしていなかった。それよりも地下深くにいる両親のそばにいたかった。いつ目が覚めるか分からないし、それに、彼には罪の意識があった。全ては自分のせいなのだ、と。