『プロローグ』
――――人生には『ツイてない』と思う瞬間がどれほどあるのだろうか。
例えば、試験に挑んで落ちたとか、携帯を落として画面にヒビが入ったりだとか。
特段運が悪い時は財布そのものをどこかに落としたりだとか、事故に遭うなんて事もあるだろう。
起こった不運が大きければ大きいほど運がないと落ち込むし、その日一日落ち込んでるなんてこともある。
個人的に最高にツイてないと思うのは殺されるような目に遭う事だ。
それはナイフを持った殺人鬼が自分めがけて突進してきたりとか、或いは雷が自分に降ってくるなんてことだとか。
身近な例だと、車が突っ込んでくるとかがあるが...まぁとにかく、そういう事が最高にツイてないと言えるんじゃないだろうか。
それならば――――今、自分は最高にツイてない目に遭っていると言えるだろう。
「はぁっ…はぁっ…はぁっ…」
――――走る、走る、後ろから来るナニカから走る。
脇腹にはまるで水風船が破裂したかのような激痛が滲んでおり、脚は棒となって、感覚などはとうに消え失せている。
体中の穴という穴から、汗が滝のように流れ落ちていき、心臓は狂ったかのようにその鼓動を早めていた。
「はぁっ…はぁっ…!」
――――死にたくない死にたくない死にたくない!!
自身の体に走る苦痛など気にも留めず、只々走り続ける。
走り続けなければソレは自分の肉体をいとも容易くバラバラに裂き、食い荒らすだろう。
後ろから追いかけてきているソレの姿をはっきりとは見ていないが、後ろから聞こえる轟音から、木々を薙ぎ倒す程の巨躯をしている事だけは把握出来る。
「はぁっ…ふぅっ…!」
この死の鬼ごっこをしているうちに、ふとある事に気づく。
途中まで後ろのソレは自分を喰おうと。噛み殺そうとする程の勢いで迫ってきていた。
だが今は違う―――確かに後ろのソレは追いつけばバラバラに裂いて食い荒らすだろう。
しかし先程までの勢いはなく、自身の全力疾走よりも少し遅いくらいで追いかけてきている。
疲れたのかと思案したが、後ろのソレはまるで疲れた様子を見せず、常に同じ速度で追いかけてきていた。
疲れで霞む思考の中、ある考えに辿り着く。
――――ソレは遊んでいるのだ、自分が逃げる姿がただただ滑稽で、それが面白くて遊んでいるのだ。
「げふっ…はぁっ…はぁっ…」
ソレから隠れる為、先程まで走っていた道から外れて、木の陰に隠れる。
ソレは自分を見失ったのか、自分が先程までいた場所をウロウロと探し回っている。
隠れている間に乱れた呼吸を少しずつ整えて、額から流れ出る汗を腕で拭っていると、一つの思考が頭の中に浮かぶ。
――――どうして、こんな事に。
なぜ、こんな事になったのか。そんな嘆きと絶望が混じった思考が浮かぶ。
思い返していく内に、ある要点に辿り着く。
――――ゲーム。
そうだ、ゲーム。あの意味不明なゲームだ。確か意識を失う前に、それらしき文が表示されていた筈。
...必死に記憶を探るが上手く思い出せない、理解し難い内容であった事は覚えているが。
まったく思い出せないので、それ以前の記憶を思い出していく。
確か、あれはあいつと一緒に話していた時の事――――――