キサラギ・サラの遺したもの
寮へ戻ると、真夜中だった。ハインツがロビーのソファに座っていた。
「何、こんな時間に。まさか僕を待ってたの」
「そうだよ。カルフはもう寝てる。ここにはいない。でも、犯人はお前が見つけてきっと懲らしめて来たって確信してる。だから安心して、寝てる」
ハインツは、優しい表情をしていた。
詳細までは知らなくても、彼らは気付いているのだ。僕が僕なりに、サラ先輩の『事件』にけりをつけて来たことを。
僕は自分に出来る限り残酷になるために、二人には何も言わずに今夜日比野先輩と会った。
そんな勝手を、二人は責めもせずにいてくれる。
「だから、お前は正直になっていい」
「……うん」
僕は今回、サラ先輩は親しかった先輩ということ以上に、親友であるカルフの想い人だからと、図々しく事件に踏み込んでいった。
そうしなければ、自分を保ちながら事件のことを調べる自信が無かった。
サラ先輩は、僕自身にとっても特別な存在だったから。
幾度となく向けてくれた頬笑みを思い浮かべると、もう涙が止められなかった。
ハインツが、ソファーに添えられているクッションを渡してくれた。
目を背け続けていた、大き過ぎる悲しみにとうとう捉えられて、僕はクッションに顔をうずめ、絶叫の様な嗚咽を挙げて泣いた。
もう一度、名前を呼んで欲しい。
この学校で、今まで色んないたずらをした。反省しなくてはならないと痛感したことも、いくつもある。でも彼女は、一度も僕たちを怒らなかった。ただ、していいことと悪いことを教えて、最後には必ず励ましてくれた。
温かなものを与えられるだけで、何も報いることの出来なかった季節を、やり直したい。
もう一度僕がこの世であなたに会えるとしたら、それは、脈絡もなく無機物や風景の中に見つけ出すあなたの面影に、霊などという名前を付けて思い出に遊ぶ、慰めの様なものなのでしょう。
でもそれは、あなたじゃないんだ。
あなたはもういないのだから。
もう一度だけでも、名前を呼んで欲しいのに。
そしてその夜は、更けていった。
遠からずまた、明けるために。