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ある朝に
夜が明ける。空気は凜としていた。
ふと目を覚ました菊千代は薄暗い部屋の中、欠伸をした。
「何か夢を見ていたような気がするでござる」
さて、なんの夢だっただろう。記憶を手繰っていると、幼い日のことが脳裏に浮かんだ。蠅がたかる兄妹たちの死に顔はいつまでも目に焼き付いているというのに、親の顔はとっくに思い出せなくなっている。自分がどこで生まれて、どうして捨てられたのか今となってはわからない。
だが、あの朝、初めてエミさんのぬくもりに抱かれたときが、自分が本当にこの世に生まれた瞬間なのではないかという気がしていた。そして、カンさんとエミさんがダイキを連れてきたとき、彼はこの世に生まれた意味を悟ったのだ。
寝息をたてる主の脇腹に寄り添うと、温もりと柔らかさが伝わり、穏やかな寝息が聞こえる。
「どうぞ、兄妹たちのぶんまで健やかに」
祈るように呟き、幼い主に思わず額をこすりつけるのだった。




