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第五話


「にしてもなんでこんなことをやっているんだ?」

 距離をとって鉈を下ろしたユウマが質問する。


 この家には魔物を倒して手に入れたであろう素材が壁に飾ってある。

 それらを売れば二人で暮らすには十分なのではないかとユウマは予想していた。


「……はあ、もうダメだな」

 完全に失敗したと判断したデンセイはため息を吐くと近くにある椅子に腰かける。


「俺は元々城の兵士だったんだ……だけど怪我をして辞めることになった。そんな俺を見込んだ隊長がこの仕事を用意してくれたんだよ。召喚なんてそうそうあるものじゃないから、今回のあんたが初めての仕事だったんだが、まあ無理だな」

 もう全てを諦めたのか、デンセイからは敵意を感じなくなっていた。


「まあ、呼び出したやつを殺そうなんて考えを持っている国の言いなりになるのはよくないだろうな。だが、俺を捕えられなかったことがばれたらあんたがまずいんだろ?」

 ユウマの質問にデンセイは苦々しい表情になっている。答えを聞かなくとも、その顔から全てを察することができた。


「だったら、ここから逃げたほうが……」

 いいんじゃないか? そう言おうとした瞬間二つの変化に気づく。


「コホン、コホン……お父さん、ユウマさん、料理の途中で寝ちゃったみたいでごめんなさい。なんだか煙くて起きてきたんだけど……コホン」

 変化の一つ、咳をしながら起きて来たアイシャ。


「これは……燃やされているぞ!」

 変化の二つ目、煙と暑さから家自体が燃やされていることにユウマが気づく。窓からも火がチラチラと見えていた。アイシャの咳もこれが理由だった。


「くそっ! 俺が遅かったから、俺ともどもあんたを始末するつもりらしい!」

 ユウマとアイシャが眠りについてから、デンセイは近くの村に常駐している兵士たちに声をかけていた。城を抜け出した勇者を捕えた、と。


 しかし、デンセイがいつまでたってもユウマを連れて出てこないため、しびれを切らした兵士たちは焼き討ちを選択していた。


「はあ、仕方ない……二人とも近くに来い」

「何を……」

「う、うん」

 デンセイとアイシャが近くに来たことを確認すると、ユウマは床に手を当てる。


「”収納、家”」

 その言葉と共に、家自体がぼんやりと光を放って収納されていく。


「は?」

「え?」

「なんだ?」

「む?」

「こ、これは!?」

 デンセイ、アイシャだけでなく、家を取り囲んでいた兵士たちも家が一瞬で消えた状況に驚き、口を開けていた。


「”収納、火”」

 続けてユウマはまだ残っている火を全て収納していく。


 彼の収納魔法は家ほど巨大なものであっても、火のように実体を掴めないものでも関係なく収納することができる。


「”展開、火”」

 そして、収納したばかりの火を兵士たちの立っているすぐ傍に展開していく。


「うわっ!」

「あっちっ!」

「な、なんだっていうんだ!」

 家が消え、火が消え、そして火が出現する。続けざまにおこる不可思議な現象に対して、誰一人として状況を把握できる者はいなかった。


「”収納、鎧” ”収納、剣” ”収納、槍”……」

 しかし、当のユウマは既に動きだしており兵士たちが身に着けている装備を次々に収納していた。


「”展開、剣” さて、それでどうする?」

 ユウマの手には兵士たちから回収した剣が握られている。

 対して兵士たちは武器も鎧も身に着けていない下着状態である。


「”展開、紐” デンセイ、それを使って裸の人たちを縛ってくれ」

「わ、わかった」

 デンセイはユウマの指示に従って兵士たちを縛り上げていく。

 自分と娘を焼き討ちにしようとした兵士たちに苛立っており、少し強めに縛っている。


「さて、これで動けないわけだけど……どうする?」

 どうするのがいいかはユウマも考えていないため、あえて思わせぶりな様子で質問をする。


「く、くそっ! この卑怯者! 城を逃げ出したばかりか、デンセイを使って我々を捕まえるとは!」

 兵士の一人がユウマのことを卑怯者呼ばわりする。

 その言葉に対してユウマはというと、ただただ首を傾げている。


「俺が卑怯者? 勝手に呼び出しておいて、暗殺計画を練っておいて、今回も子どもが住んでいるのも構わず家ごと焼き討ちしようとしておいて、俺が卑怯者?」

 自分たちがやったことを棚にあげた発言は、ユウマを苛立たせていた。


「とりあえず……お前たちは助けが来るまで少しだけ罰を受けてもらうとしようか」

 その結果、ユウマは兵士たちを正座させる。そして、その膝の上に石を大量に載せていく。


「お、おもっ!」

「や、やめてくれ!」

 早々に音を上げようとする兵士もいたが、ユウマは構わずにどんどん石を載せる。


 後ろ手に縛られているため、それを手でどかすことは叶わず、横に並べた兵士たちを更に上からきつく縛っているため、動いて石を落とすこともできない。


「さあ、デンセイ、アイシャ、今のうちに逃げるぞ!」

 ユウマが走り出すと、デンセイとアイシャがそれに続いて走り出す。


 いつ増援がくるかわからない。城からの追っ手がくるかもしれない。

 そんな状況にあってはのんびりとここに留まっているわけにもいかないため、すぐに動き出した。


 五分ほど走ったところで、アイシャが遅れていることに気づく。


「あー、寝起きで子どもが大人と一緒に走るのはきついよな……ほら、乗って」

 ユウマが屈んで背中を見せる。

 アイシャはどうしたものかと躊躇するが……デンセイが頷いたため、思い切っておんぶしてもらう。


「軽っ! いや、失礼。とにかく走るぞ! デンセイは、頑張ってくれ」

 怪我で兵士を辞めたとは聞いていたが、ユウマの足についてきているのでそれだけ声をかけて走り始める。


「ちなみに、どこまで走ればいい?」

 目的地は決めずただ走っていたユウマが、ここに来てデンセイに確認する。


「あー、次の村はさっきの兵士たちが滞在している場所だから、その次の村まで行けばなんとかなると思う」

 普段は丁寧な口調で過ごしてきたデンセイだったが、ユウマに正体を知られた今となっては隠す必要もないと、素に戻っている。


「よし、それじゃあしばらく走ったら休憩して、当面の最終目的地はその二つ目の村にしよう。アイシャ、しっかり掴まってろよ!」

 そう声をかけると、ユウマはアイシャを背負い直して速度をあげていく。


「ま、まだ速くなるのか……」

 既に疲れが見えているデンセイだったが、置いていかれてなるものかと気合をいれなおして走り出した。



 

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