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第二十五話


「さて、それでタイグルさんはこの状況をどうされるおつもりでしょうか?」

 マリアスはソファに腰掛けてから改めてタイグルに尋ねる。

 旧交を温めるつもりで、タイグルを迎え入れたマリアスはユウマとリリアーナの扱いに困っていた。


「そうじゃな、とりあえずお茶でも飲んで話でもするというのはどうじゃ?」

 向かい側のソファに座ったタイグルは悪気のない笑顔でそんな提案をする。


「はあ……わかりました。少々お待ち下さい」

 そういってお茶の準備のためにマリアスが立ち上がろうとする。


「あっ、これ飲んで下さい」

 するとユウマがカバンの中からティーセットを取り出して、人数分の紅茶を用意していく。

 城で数セット手に入れておいたうちの一つである。


「……えっ?」

「なぬ……?」

「ありがとうございます」

 マリアスとタイグルは驚き、リリアーナはいつものことなので何も気にせずニコニコと礼を述べる。


「えっと、お茶菓子もあったほうがいいかな?」

 そう言うと、ユウマはカバンから適当なお菓子を取り出してテーブルの上に並べていく。


「す、すごいのう。そのバッグに色々入れておるんじゃな」

 タイグルはユウマの持っているマジックバッグ(と見せかけているただのバッグ)に感心していた。


「いえ、そのバッグはただのバッグですね?」

 冷静さを取り戻したマリアスはマジックバッグではないことを見抜いて、そのことを指摘する。


「えっ? いや、えっと、マジックバッグですよ? そうじゃなかったら、こんな、なあ?」

「そ、そうです。こんな温かい紅茶が出てくるはずがありませんよ」

 誤魔化そうとするユウマに、リリアーナが話を合わせていく。


「……ふう、わかりました。色々と秘密にしておきたいことがあるんですね。ならばそこを問い詰めるのはやめておきましょう。そもそも、お話をする場であって詰問する場ではないですからね」

 なんとなく事情を察したマリアスはそれ以上の詮索をやめると、ユウマが出してくれた紅茶に口をつける。


「ふむ、なるほどな。それがお主の力の秘密というわけじゃな。ほっほっほ、やはり面白い男じゃったな。ここに連れてきて正解じゃ。まあ、能力のことはこれ以上はええじゃろ。それより、二人はなぜこの街に来たんじゃ?」

 この街、迷宮都市グランドバイツの近隣には大きな街や国はなく、ついでに立ち寄ったとは考えづらいため、体を揺らしながら笑ったタイグルはそんな質問をしてくる。


「俺たちがなぜこの街に来たか……そう、だな」

 ユウマは口ごもり、リリアーナに視線を向ける。どう話したものか、頭を悩ませていたため、助け舟を求めていた。


「ええっと、そうですねえ……」

 振られたリリアーナもどう話したらいいものかと困ってしまう。


「ふむ、話しづらいようじゃな。しからばこうしたらどうじゃ? 話した内容に関しては詰問せんし、外部にも漏らすことは絶対にせん。そして、協力が必要であればワシとマリアスが全力で援護することを約束しよう」

「え……ちょっと、タイグルさん。そんなことを簡単に言わないで下さい!」

 マリアスが慌ててカップをテーブルに置くと、タイグルを注意する。


「では、ダメかのう?」

「い、いえ、そのダメというわけではないのですが……でも、私はこの街の代表という立場なので、全力で援護できるかどうかは、お話次第といいますか……」

 タイグルに問われたマリアスは、三人の視線を感じてハッと我に返るとはっきりとは言えず、徐々に声も小さくなっていく。


「ではこうしよう、ワシはお主らが悪人だとしても必ず協力する。マリアスは、協力できないまでも敵対はしない――これでどうじゃ?」

「う、うーん……」

 提案を聞いたマリアスは腕を組んでしばし考え込む。


「……わかりました。それでいきましょう。納得できるような内容であれば私も協力するという方向性でお願いします」

 なんとか自分の中で提案を飲み込んだマリアスは姿勢を正すと彼の案を受け入れる。


「いや、勝手に話が進んで、しかも俺たちに都合のいい条件になってきてるけど……なんでそこまで?」

 これは当然の疑問だった。

 タイグルはこの出会いを運命と言ったが、ユウマはここまで協力的なことに疑いを持っていた。


「それはあれじゃ、その方が面白いじゃろ? そもそもワシはどこの国にも街にも縛られない自由な存在じゃ。しかも現役を引退してから久しい。となれば、何やら不思議な力を持っているお主らに協力したほうが面白い」

 新しいおもちゃを見つけた子どものような、そんな楽しそうな笑顔をタイグルは見せていた。


「……はあ、タイグルさんは昔からそういうところありますよね。私のほうの理由はタイグルさんが面白そうにしているからです。この方は昔から人を見る目だけは間違いがなかったんです」

 タイグルの様子にやれやれと肩をすくめて呆れながらも、ふっと優しく笑うマリアスは彼の目を信じているようだった。


「わかったよ。それじゃあ、この話はここだけの話にしてくれよ?」

 困った表情から一変、真剣な面持ちのユウマがそう口にすると、二人は神妙な面持ちで頷く。


「――俺は……」


 そこから、ユウマがどうやってここまでやってくることになったかの説明が始まった。




お読みいただきありがとうございます。

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