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第二十一話


 無事に街を抜け出したユウマとリリアーナは、街で手に入る馬の中でも特に脚の速い二頭を選んでいたため、みるみるうちに街から離れていく。


「やりましたね! これなら、追いつかれることはないはずです!」

 後ろを振り返りながらリリアーナが嬉しそうに声を弾ませながら言うが、並走しているはずのユウマから返事がない。


「ユウマさん……?」

「リリアーナ、後ろじゃない。前を見ろ」

「えっ? あっ!」

 ユウマに言われて前をみたリリアーナは驚くべき光景を目にする。


「なかなか面白いことになってきたじゃないか」

 ふっと軽く笑ったユウマたちの進行方向には、三十を超える険しい顔をした兵士たちの姿があった。

 脱出の準備を整えていたユウマたちだったが、人の口に戸は立てられぬとはよく言ったもので情報が兵士たち側にも漏れていた。


 それでも、その話を信じられなかった者たちやユウマを舐めていた者たちは宿に捕らえに行っていた。


「やあやあ、君が新進気鋭の冒険者で、なおかつ召喚された勇者の一人のユウマ君だね」

 悠々と腕を広げた先頭の男が機嫌よくユウマに声をかけてくる。


 金髪で青い目をしたロングヘアーの男は一人だけ高そうな鎧を身に着けており、一見しただけでキザで人を見下す性格だということが感じ取れる。ふっといやらしく笑うその顔立ちは女性にもてそうな雰囲気があった。

 やや細身だが、手に持つ剣は一流のソレであり、腕前にも自信があるようだった。


「……いくつか間違いを指摘させてもらうと、ただの冒険者で、召喚された一般人だ。新進気鋭でも勇者でもないので、そこのところよろしく」

 ユウマは金髪男の言葉を訂正しながら苦笑する。


「ふっ、そうか。まあ、そんな細かいことはどうでもいいんだよ。私の名はノクス。逃げ出した勇者の処分を頼まれてやってきた。以前、何人かが君を捕まえようとして失敗したらしいからね。そこで私が引っ張りだされたというわけだ」

 自分によほど自信があるようで胸を張ってやれやれと言わんばかりにノクスは説明を終えると長い髪をふぁさっとかきあげる。


「なるほど、やっぱりあいつらはあのあと助けられたのか。まあ、ただ縛り上げただけだからなあ……ってそこのやつらがそうか」

 ユウマは森で襲いかかってきた男たちのことを思い出している。

 そして、視線をノクスの後ろに控えている男たちに向けると、見覚えのある顔があった。


 男たちが悔しさからギリギリと歯を噛みしめ、恨みのこもった視線をユウマに向けていた。


「さて、おしゃべりもここまでだ。そちらのエルフのお嬢さんは下がっているといい。我々が用事があるのはそこの彼だけだからね」

 ノクスは真っ白な歯を輝かせながらリリアーナに笑顔とウインクを送る。


「下がりません! 私はユウマさんとパーティを組んでいます。仲間の窮地に手を貸さないなどという選択肢はありません!」

 意味ありげなノクスの態度を一蹴するようにリリアーナは毅然とした態度でビシッと言い返した。


「ふ、ふんっ! 人が優しく言ってやっているというのに……構わん、二人とも殺してしまえ!」

 これまで女性にないがしろにされる経験がなかったのか、苛立ったノクスがユウマたちを指さすと、後ろに控えていた兵士たちが武器を構えて数歩前に出る。


「リリアーナ、付き合わせて悪いな」

「いえいえ、私たちはパーティですから!」

 申し訳ないと謝るユウマが右手を前に出し、それに首を振って気合十分に前を見たリリアーナは武器を構える。


「いけえええ!」

 ノクスが指示を出すと、兵士たちがユウマたちに向かって走り出す。


「先に行きますね」

 それに対して、リリアーナが一人先行して兵士たちへと向かって行く。


「はんっ、エルフなのに魔法を使わない、いや使えないのか? そんな半端ものに我が兵士たちがやられるはずがなかろう!」

 もうリリアーナに色目を使うのをやめたのか、鼻で笑ったノクスがナックルを手に突っ込んでくるリリアーナを見てそう分析する。

 前半に関しては的中しているため、見事な目を持っていると言えた。


 しかし、後半は余計な言葉だった。


「っ……やあああああ!」

 ノクスの言葉はリリアーナを苛立たせていた。

 気持ちを切り替えて殴りエルフとしてやっていくと決めたものの、そこをユウマ以外の他者に触れられるのは気分の良いものではない。


 ゆえに、彼女から手加減という言葉が消えていた。


「ぐあああああ!」

「うわあああああああ!」

「そ、そんなああああ!」

 力強く踏み込んで的確に放たれたリリアーナの拳は兵士たちに攻撃する隙を与えない。

 兵士たちは彼女の拳をまともに受けて吹き飛んでいる。

 一人一発で確実に吹き飛ばし、戦意を喪失させていた。


「……な、なんだと!?」

 その様子に困惑しているのはノクスである。


 精鋭ともいわれる自分の兵士たちがなすすべもなく倒されている。

 しかも、相手は細身のエルフの女性で、攻撃方法は殴ることのみ。


「お、おい! お前たち、がんばれ!」

 ノクスにできることは困惑しながらも、ただただ兵士たちを応援することのみ。


 しかし、その応援もむなしく、ついには最後の兵士までもが吹き飛んでしまった。


「さて、どうする? あんたのとこの兵士は全員やられたぞ? 手出しをしないというのなら、見逃してやってもいいが……」

 無用の戦いを避けたいユウマがそう提案するが、ノクスの表情は怒りに満ちて、到底その案を受け入れるとは思えない。


「ふざ、けるなあああああ!」

 とうとう我慢の限界が来たのか、剣を抜き、ユウマに斬りかかろうと動き出すノクス。


「”展開、鉄の剣”」

 それを見たユウマは前に突き出した手のひらから鉄の剣を展開する。

 ただ鉄の剣を取り出しただけでなく、その鉄の剣は真っすぐノクスへと飛んでいく。それもとんでもない速度で……。


「うわあっ!」

 ノクスは情けない声で身体をよじって何とか回避するが、頬をかすめたため、一筋の血が流れていく。


「これ以上、手出しをしないというのなら、見逃してやるぞ?」

 冷たい声音のユウマは再度同じ提案をノクスにぶつける。

 その間も手のひらは先ほど同様、前に突き出している。


「うぅ……」

 チリチリと痛む頬に顔をゆがめながらノクスは唸り声をあげ、自らの頬を撫でる。


「わかった……」

 これ以上自分の顔に傷をつけたくなかったのか、観念したように武器を下ろしたノクスは、横に避けてユウマたちが先に行けるように道をあける。


 再度馬に乗った二人はノクスの横を通過して先に進む。

 すれ違った瞬間、ノクスが剣を強く握りしめたのをユウマは視界にとらえている。


「”展開、鉄の剣”」

 そして、今度は自由落下に任せてノクスの頭上から剣を落とし、ぎりぎり彼に当たらないようにして足元に突き刺す。


「――ひいっ!」

 あわよくばと思って手を掛けたことを後悔するように顔面蒼白になったノクスにとってこれが最後の止めとなったようで、しりもちをつき、しばらくその場から動けなくなっていた。



 





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