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第二十話


「実力もついた。金もある程度貯まった。ランクもなんだかんだDランクになった。この町でも顔が売れて来たからそろそろ潮時かなと考えているんだけど……どう思う?」

 ユウマはそろそろ次の目標にしていた迷宮都市グランドバイツに向かったほうがいいのではないかと考えていた。


「そう、ですね。少し目立ちすぎた気もしますし、そろそろグランドバイツに向かいましょうか」

 リリアーナも同様の考えを持っていた。


 二人とも自分たちの戦うスタイルを確立し始めており、依頼をこなすのが楽しくなってきていた。

 ゆえに、大量の魔物を倒したり多くの依頼をこなしたりと自由にやりすぎた感じがあった。


 冒険者たちは自分たち以外のことに目ざとい。急成長する彼らに目をつけ始めるのも時間の問題だった。


「この街もいいところだったけどな。大量の素材を持っていった時に、毎回ミリシアが驚くのも面白かったな」

「ふふっ、みんな驚いていましたねえ。ユウマさんが、さもカバンから取り出したように見せるから、よけいにビックリしてました」

 リリアーナの言う通りユウマは軽装でギルドに行って、そこから見た目以上の大量の素材を出して周囲を驚かせていた。


 その数も毎回増えるため、慣れたつもりでいたみんなを毎回更に驚かせていた。


「いやあ、いい街だったけど……」

「そう、ですね」

 二人は宿でいつも同じ部屋に宿泊していた。


 ここ最近、二人は自分たちを見ている視線を感じていた。

 そして、その視線の持ち主たちは宿屋を取り囲んでいた。


「さて、リリアーナ」

「はい、ユウマさん」

 このときがきたか、と二人はそれぞれの身支度を終えて立ち上がる。


「ちょ、ちょっとあんたたちなんなんだよ! 客じゃないのに入ってこられても困るよ!」

「うるさい! ここにやつがいるのはわかっているんだ! 邪魔だてするな!」

 誰かが強引に宿に突入して、それに宿の主人が対応している声が聞こえてくる。


 なんとか押し返そうとしているが、それもすぐに突破されるのはわかっていた。


 その声を聞いた二人は頷きあい、開かれた窓に視線を向ける。

 そして、走り出すと窓から飛び出した。


「うっはあああ!」

「わ、わわわ!」

 ユウマは楽しそうに、ローブを押さえつつリリアーナはちゃんと着地できるが地面に目を向けながら声を出している。


 二人は無事に着地すると、すぐに走り出した。


 宿の周りには何人かの兵士がいた。

 手には剣や槍を。動きやすいように軽い鎧を身に着けている。

 以前森でユウマと戦ったやつらの仲間であることはわかっている。


 この街はユウマたちを召喚した王家の息が届く場所であるため、兵士たちはこの街の情報を集めていた。

 その中には森でユウマに襲いかかった兵士もおり、顔を覚えていた。


「悪いけど、捕まらないぞおっと!」

 ユウマが人波をかき分けて走り抜けていくが、兵士たちは状況を把握できず呆然としている。


「お、お前たち! さっさと追いかけろ! そ、そいつが逃亡者だ!!」

 宿から出てきた兵士たちのリーダーが声をかけると、我にかえって慌ててユウマたちを追いかけていく。


「みんな、世話になったね。色々ありがとう!」

「みなさん、またお会いできるのを楽しみにしています!」

 ユウマとリリアーナは街の人々に声をかけながら走っていく。

 彼らはユウマたちに良くしてくれた人たちであるため、挨拶をしながらの別れとなる。


「おう! 待ってるぜ!」

「また新商品のアドバイスお願いね! あなたたちなら大歓迎よ!」

「これもっていきな!」

 二人の声に返事をする住民たち。中には食べ物を放り投げてくる者もいる。


「ありがと! ”収納” っと」

 投げられてくるものをユウマは片っ端から収納していく。

 この街で活躍してきたユウマの力は既に知っている者も多く、ユウマも既に隠すつもりもなかった。


 流れるように行われる収納魔法は、走る足を止めることなく行われており、逃げる速度は全く落ちていなかった。


 更に、ユウマたちに声をかけたあとの住民たちは次の行動に移っていく。


「あらら、たーいへーん! 仕入れた果物が転がっていくわ~」

 近くにあった果物がたくさん載った樽をわざと倒して、果物を兵士たちの足元に転がしていく。


「うおっと、うわあああ!」

「な、なんだあ!?」

 そこら中に転がっていく果物たち。それが功を奏して、よけきれなかった兵士たちが次々に転倒していく。


 あとからきた兵士たちは倒れた兵士を足場にして果物を回避していく。


「材木運びまーす」

 果物ゾーンを抜けた兵士たちの妨害をするために、屈強な大工たちが材木を運んでいく。


「うが!」

「ぐお!」

 その材木に顔面をぶつけた兵士たちは苦悶の顔で倒れていった。


 後続の者たちはなんとかそれを回避するが、今度は肉屋が豚の頭を放り投げて視界を塞いで邪魔をしていく。

 それを抜けても、今度は香辛料や小麦がぶちまけられて兵士たちの顔面を直撃する。


「くしゅん! ぶえっくしゅん!」

「ぶえ! ぺっぺっぺ、目が、目が見えない!」

「辛っ!」

 香辛料がミックスされたそれらは刺激たっぷりで兵士たちの動きを止めることに成功する。


 その一方で、彼らのおかげもあって街を駆け抜けられたユウマたちは、街の西側出入り口に用意されていた馬に飛び乗って出発する。


 これら全てユウマが考えた作戦だった。


 この作戦が成功したのには二人の活動内容が関係している。

 ユウマたちは魔物討伐や魔物の素材集めの依頼を大量に受注達成していた。


 しかし、それに並行して引っ越しの手伝い、荷物運び、人探し、店番の手伝いなどの日常・雑用依頼を率先的にこなしていた。

 冒険者たちはこういう雑用系の依頼よりも魔物を討伐するような派手な依頼を好む傾向があり、ユウマたちのように積極的に受注していくものはあまりいなかった。

 そのことによって、二人は街の人々からの心象も良く、悪い人間ではないことが浸透していた。


 そして、兵士たちに動きが出てきた情報は住民たちから聞かされており、今日がユウマたちを捕らえる決行日であることも筒抜けになっていた。

 世話になったユウマたちを逃がすための筋道はたっており、恩を返す形で街の人たちがそれを実践した形となる。


「色々世話になった。みんなありがとう!」

「ありがとうございましたー!」

 ユウマとリリアーナは颯爽と馬に乗って、大手を振って街に別れを告げて旅立っていった。





お読みいただきありがとうございます。

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