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第十七話


「これ……なんかいいです! すごくいい感じです!」

 装備したとたん、これまでのナックルとは違う感覚がしたリリアーナは用意されたソレを気に入ったらしく、笑顔のまま素振りを行っていく。


「気に入ったか?」

「はい! これすごくなじみます!」

「そうでしょう、そうでしょう。単純な能力として重さを感じさせずに使用することができます」

 自慢気な店主の説明を聞いて、リリアーナは再度素振りを行う。


「すごいです、確かに軽いです!」

 重さがないことを改めて実感させられ、その軽さに喜んでいる。


「さらには、魔力を流すことで攻撃力を上げることができます。また風の属性を持つ武器ですので、魔力を込めて拳を振るうと……なんと、風の魔法を発動することができるのです!」

 リリアーナの反応に気をよくした店主はここぞとばかりに特徴を説明して売り込んでくる。


「……えっ!?」

 そこまでの説明を聞いたリリアーナは何かに気づき、しょんぼりと肩を落としながらゆっくりと武器を外すと店主へと返却する。


「えっ?」

「あれ?」

 その反応に店主とユウマは首を傾げる。


「だ、だって、それだけの力を持っている武器ということは、値段……高いですよね?」

 先ほどまで手にしていた武器はお手頃価格であり、必要経費として考えてもいい値段だった。

 しかし、これはそれらとは比較にならないほど高いことは値段を聞かずとも予想ができる。


「ということだが、さっきのアレで足りるか? あれだけあれば、家が一軒建つほどですから……」

 ユウマのアレというのはもちろん握らせた王金貨のことである。


「もちろんです! お釣りが出るほどですよ!」

 黙って価値以上の金額をもらうこともできたが、店主はこのあたりを正直に答えた。


「よし、それじゃあこれとこれとこれをおまけにつけてくれるか?」

 ユウマが手にしたのはリリアーナが最初に試したナックルを二種類。そして自分用に手ごろなナイフを一本提示する。


「お安い御用です! お包みしましょうか?」

 それでも王金貨で支払うとなるとまだ余裕があったため、店主の提案にユウマは首を横に振った。


「いや、そのままもらっていこう。ほら、これは今からリリアーナのものだ。残りの二つは万が一の時ように俺が持っておこう。ナイフは俺のだ。いい買い物ができた、それじゃあな」

「はい、またのご来店をお待ちしております!」

 ユウマは店主と流れるようにやりとりをすると、そのまま店を出ていく。


「あっ、待って下さい!」

 あっという間の展開に置いてけぼりになったリリアーナはそれを追いかける形になる。


 外に出たユウマは少し歩いたところで足を止める。


「さて、武器の調達はできたから次は防具なんだけど……何か言いたそうな顔してるな?」

 何についてなのかはわかっているが、意地悪く笑ったユウマはあえてそんなことを口にする。


「だって、あんなに高いものを即決だなんて! しかも、私にですよ? 私たち、出会ってから短いですよね? それなのに……」

 明らかに普通の装備よりも高い魔法武器をなんの相談もなく買ってしまったことをリリアーナは不満に思っていた。

 それを買ってもらえるほどの価値が自分にあるとは思えなかったのだ。


「まあ、あの店にある武器だとこれが一番良さそうだったからなあ。同じパーティメンバーにはいいものを使ってほしいだろ? それが生死をわける境目になるかもしれないだろうし……どうした?」

「えっ? えっと、あの、ユウマさん、私とパーティ組んでもらえるんですか? 私、まともに魔法を使えないエルフですよ……?」

 思わぬユウマの言葉にリリアーナは自虐しながらも、嬉しさから目に涙をためている。


「あぁ、殴りエルフ格好いいって言っただろ? あれは俺の本心だよ。それに、俺のほうこそ駆け出しのFランク冒険者でなんの実績ももたない男だぞ? 使えるのもあの魔法一つだけ。というか、俺はもう一緒に組んでるつもりだったんだけど……」

「ええええぇっ! ギ、ギルドでパーティ登録しなかったからてっきり……」

 リリアーナは買い物に付き合って、話をして解散するものだとばかり思っていた。


「パーティ登録なんていうのがあるのか……まあ、それはあとでやるとして、まずは買い物だ!」

 ユウマは内心で異世界の店を楽しんでいるため、次の防具屋に行くのも楽しみにしていた。


「は、はいっ!」

 未だに金についての心配はリリアーナの心に付きまとっていたが、ユウマが仲間として認めてくれたことが嬉しく、そんなことはどこかに吹き飛んでいた。


 防具屋に到着した二人は一般的な装備を選択していく。


 ユウマは胸当てを購入する。戦闘スタイルから考えて動きやすい装備が望ましい。

 加えて、彼はブーツと丈夫なズボン、防御にも使えるように籠手を購入した。


 一方でリリアーナは再び遠慮しようとしたため、ユウマが店員とともに強引に装備を選び出す。

 動きやすいように胸当て、踏み込みやすいように戦闘用の靴。

 マントに運動能力を向上させる腕輪、風の魔力を向上させるイヤリング。


 それらを選び終えたユウマはさっさと料金を支払うと品物を受け取って店を出る。


「これでひととおり装備は揃ったな」

「揃いました……揃いましたけど、お金使いすぎです!」

 外に出たところでずっとこらえていたリリアーナがユウマを注意する。

 武器と防具を合わせればかなりの金額になっており、Fランク冒険者がおいそれと使う額ではなかった。


「まあまあ、先行投資ということで。それに、クリムゾンベアの素材を売ればそれなりの額になるだろ? ……ま、もともと、金なら余るほど持ってるからな」

「えっ? 最後のほう聞こえなかったんですが、もう一度いいですか?」

「いや、金なら稼げばいいって言ったんだよ。とりあえず、宿に泊まって装備の再確認と今後についての話をしよう」

 ぼそりとつぶやいた言葉はユウマにとってそれほど大したことではないため、話題を変えて彼女の意識を逸らす。

 

 ユウマとリリアーナの二人は成り行きの形になるが、パーティを組むことになった。

 そんな二人が今後どんな方針で動いていくのか――その相談から始めていくこととなる。



お読みいただきありがとうございます。

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