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第一話


 異世界に呼びされた彼ら二年B組の生徒たちは、それぞれが持つ特殊な能力によって勇者として国から歓待を受けていた。


 その中にあって、進藤勇真しんどうゆうまだけは粗雑な扱いを受けている。

 彼は身長、体形ともに平均的、勉強はそれなり、趣味は読書に散歩と別段目立った存在ではない。


 しかし、彼の持つ能力はこの世界の人々にとって、悪い方向で目立ってしまっていた。

 その結果が今の境遇に繋がっている。


「はあ、まさかボロボロの部屋を割り当てられるとはね……」

 ユウマの部屋の担当を(無理やり)命じられたメイドに話を聞くと、他の生徒には一人一部屋豪華な部屋が割り当てられているとのこと。


 初めてユウマが部屋に足を踏み入れた時は、埃が舞い長年の汚れが壁や床に、そしてベッドや家具にまで染みついていた。


 しかし、今はそれらは片付き、まるで新品のような美しさを見せている。


「それにしても、魔法は便利だなあ!」

 ユウマは召喚時と同様の学生服のままベッドに身を投げ、自らの能力に満足して笑みを浮かべていた。他のクラスメイトは服や装備を支給されているが、彼だけはそれもなかった。


 ちなみに部屋が綺麗な理由はユウマが掃除を頑張ったからではなく、彼がこの世界にくる際に手に入れた特別な能力『収納魔法』によるものだった。

 部屋にあった埃も汚れも全て魔法で収納することで、部屋の掃除代わりにした。


 収納魔法とは物をしまうことができる能力。それだけの力であり、戦うことができないものだと判断されたため、不遇な扱いを受けている。


 ユウマは基本的に放置されており、部屋にはカギがかけられていて食事の際に声がかかる以外は誰もやってくることはなく一人きりだった。

そのため、自らの力を確認する時間は十分にあり、力を把握していた。


①生物は収納することはできない。

②投げた石を収納すると、勢いを保ったまま収納される。

 つまり、次に出した瞬間投げた時の勢いを保ったまま飛び出していく。

③収納されている間は時間が止まっており、劣化しない。

④一定の範囲内(ユウマを中心に半径10メートルほど)の場所に、任意で出現させられる。

⑤収納する際も一定の範囲内であれば、一気に収納できる。

 今回も部屋の埃を収納した際に、部屋中の埃を一瞬でしまうことができた。


 ユウマたちがこちらに召喚されてから一週間が経過しており、この力を使って城も調べつくしていた。


「にしても、俺を殺そうとしてるとは思わなかったな」

 ユウマは収納魔法を使って扉を収納し、再び戻すことで出入りを自由にして城内を徘徊していた。


 そこで王と大臣が会話しているのを聞いてしまった。


『――あの役立たずの収納魔法士はそろそろ殺してもいいのではないか?』

『確かに、ただ飯食らいで昼間は部屋でゴロゴロしているようですからな』

『うむ、あのような者をただ生かすために国の金を使うのは勿体ない』

『それでは、近日中には……』

 この会話を聞いたのが、つい先ほど城内を歩き回っていた時のことである。


 つまり、早々に城を出なければいけない。


「その前にやらないといけないことがあるから、それを片付けたら出発だ」

 ユウマはこれまでの調査で作り上げた自作の地図の確認のために一度部屋に戻っていた。

 寝ころびながら地図を見ていく。目的の場所の周辺は警備が厳重であるため、見つからないように進まなければいけない。

 そのためにはルートの確認が重要だった。


 ――深夜二時


「さて、そろそろ行ってみるか」

 この時間の警備は少人数交代制になっているため、一番手薄になっている。

 加えて、眠気が襲って来るため注意も疎かになりやすい。


 足音をたてないようにして、慎重に進んでいく。

 途中で警備と出くわしそうになった時は、収納していた小石を離れた位置に出現させて注意を引く。


「ここだ……」

 そうやってたどり着いた部屋。

 大きな扉の上には部屋名が刻まれている。


『宝物庫』

 ここは城のあらゆる宝がしまわれている場所だった。


 これまでユウマは今日まで一人だけ汚い狭い部屋に押し込まれ、食事は三食出たものの硬いパンとスープ一杯のみ。


「勝手に呼び出しておいて酷い環境を用意する。クラスメイトには綺麗で広い部屋と、美味しい食事が用意されていた。そして、用済みとなったらあっさり殺す……。こんな酷いことをされたなら、これくらいは許されるはずだ」

 宝物庫の扉は、王だけが持っている特殊な鍵がなければ開けることができない。


「”収納、扉”」

 眼前の扉に手をあてて、ユウマは収納魔法を発動する。

 大きな扉は鍵がかかったままの状態で収納された。


 ポカンと開いたそこをゆうゆうと歩いていく。


「”展開、扉”」

 収納した扉を外に展開(取り出し)する。

 すると、元のとおり鍵のかかった扉が出現した。


「さて……あとはここから色々と持っていくか」

 宝物庫にはその名の通り、ところ狭しと宝物が並んでいる。

 

「宝石、アクセサリ、武器に鎧、鏡、宝箱も金でできているのか? それに金貨がたくさん。それから、こっちにあるのは、魔道具ってやつか……」

 魔力が込められた特別な道具で、水を生み出したり、炎を出したり、外見よりも広いテントだったりと、色々なものが置かれている。


「使い道のわからないのも結構あるからとりあえずしまっておくか……”収納、お宝”」

 ユウマは部屋にある宝を片っ端から全て収納していく。

 部屋にあるものは全て宝という認識で、あっという間に宝物庫が空になっていた。


「ふう、これだけの量をしまうと少し疲れるか」

 あくまでユウマが使ったのは収納”魔法”であるため、魔力を消費したことによる倦怠感があった。


「さて、さすがに全部持っていくのは気が引けるから……」

 ユウマは金貨を二十四枚取り出すとそれを宝物庫の中心にばらまいておく。


 二十四という数字はユウマと同時に召喚されたクラスメイトの数と同じであり、彼らとの別れの意味を込めてのものだった。


 クラスメイトは一人当たり三つ以上の特別なスキルを持っている。

 それは、各自が女神の用意した一覧から選んだものであり、戦闘や異世界生活において有効な能力ばかりである。


 対してユウマは一つのみで、それが『収納魔法』だった。


 この世界にはマジックバッグと呼ばれる大容量の収納用アイテムがある。

 それと同じような魔法だと思われているため、つまはじきにされていた。


 しかし、ここまでのユウマの行動でわかるように、自在に収納展開を行えるとんでもない魔法だった。


「そろそろ外が明るくなり始めてくるころだな。さっさとおさらばしよう」

 そう呟くとユウマは宝物庫の奥の壁に手を当てる。


「”収納、石”」

 すると壁を構成しているブロック状の石が次々に収納されていく。


 宝物庫があるのは一階であり、そこの壁を収納魔法によって崩していけば外に繋がっているはずだと考えていた。


「あれ?」

 しかし、壁の向こうは外には繋がっておらず、小部屋があった。


 先ほどまでいた宝物庫も、宝が収蔵されているだけあり特別な雰囲気を持っていた。

 それに輪をかけて、小部屋は独特の特別な空気が漂っている。


「なんだか、空気自体が違うような……」

 ゆっくり足を踏み入れていくが、肌で感じる空気自体が質量を持っているかのような、違和感を覚える。


「これがしまってあったのか」

 部屋の中央には箱が三つ置かれていた。


「……まあ、いいか。”収納、箱”」

 いつまでもここに留まっているわけにもいかないので、とりあえずは収納しておいてあとで確認することにした。


 そして、今度こそはと小部屋の壁を収納して、身を隠すように暗い色のカーテンを身体に巻いたユウマは外へ出ていく。

 もちろんすべての壁は展開した壁によって元通りに修復されていた。


「さて、それじゃあここからは好きなように生きさせてもらおうかな! この世にある色々なもの、なんでもしまっちゃうぞ!」


 誰もいない深夜。

 初めて城の外の空気を吸ったため、自由だという開放感から、ユウマは思わず少し大きめの声でそう宣言してしまう。


 その姿は離れたテラスで風を浴びていた姫によって見られていた。


『……どうか、あなたの行く道に幸あらんことを』

 風にたなびく美しい金の髪を押さえながら祈るようにその背を見送った姫。

 ユウマよりもいくつか年下の彼女だが、その横顔はどこか大人びたものだった。


 彼らを召喚した彼女は、酷い扱いを受けていたユウマについて心を痛めていた。

 そんな彼が自由を得て旅立つのであれば、それは姫にとって願ってもないことだった。








お読みいただきありがとうございます。

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