エピローグ
螺鈿城、女王の私室。
「エリ―よ。この料理はなんという料理だ!?」
「ヴァリス……落ち着いて食べなさい。それは羊肉のロティよ」
「お兄ちゃん、がっつかないの」
俺様はウェネと、エリ―の部屋で食事を取っていた。他の場所ではゆっくり食べられないからとエリ―が誘ってくれたのだ。テーブルの上には所狭しと料理が並んでいる。
ラジェドの戦いから数ヶ月が経った。
俺様は色々と說明を受けたのだがイマイチ内容を理解できていなかった。分かるのは、かの悪名高い魔女にまんまと嵌められたという事だけである。おのれ、次に会ったら覚悟しておけ魔女よ。
「しかし、エリ―よ。貴様が我を従属し、そしてそれを素直に俺様が受け入れたとは思えぬのだが……」
「レジーナがなんやらかんやらやったんでしょ? 私にもよく分からないわ」
「なんというか二人ともよくそんないい加減な感じでまた仲良くなれるよね……」
ウェネの呆れたような声に、エリ―が笑った。
最初は泣いたり怒ってばかりいたエリ―だったが、ここ最近はよく笑うようになった。まあ俺様達やガルディンの前だけだが。
「それで、国内を安定させたようだが、次はどうする気だ?」
「んーリュコスが言うには、東のベルンダイ帝国に怪しい動きがあるんだって」
「ベルンダイといえば……あいつの領域に近いな」
「うげーポルヴォラんとこかーあたしあの竜苦手」
ウェネが嫌な事聞いたとばかりに顔をしかめた。
火を司る七曜龍の竜息地と隣接するベルンダイがいつの間にやら帝国になっているとは。
「おそらくその火の七曜龍の干渉があるそうよ。あとは魔女の影も」
「なるほど。で、どうする?」
「偶然にも……帝国の十五周年式典に招待されているのよねえ」
「絶対それ偶然じゃないやつじゃん」
エリ―が招待状とおぼしき紙切れをひらひらと揺らした。
魔女の招待状、というわけか。
「というわけで、ヴァリス、ウェネ。ベルンダイ帝国へ行くわよ! もうずっと城の中は飽きたわ!」
「勝手に城を抜け出してガルディンに怒られたのを反省してないなエリ―」
「これで堂々といけるもの」
「うげーあたしも行くの? 行ったら絶対あいつ絡んでくるでしょ……やだなあ」
とびっきりの笑顔を浮かべるエリ―と渋い顔をするウェネがおかしくて俺様は笑ってしまった。
なぜ、俺様がエリ―に従属していたのか。今でもそれは魔女の呪いの仕業だと思ってはいるが。
この笑顔を見ていると、案外それだけじゃないのかもな、と思えてくるから不思議である。
リュコスも呆れ返っていたなそういえば。まだ魔女の呪いが残っているだの何だの。
まあ、なんでも良い。もう油断はしない。
人間の身体も案外悪くない。竜に戻る方法はまたゆっくり考えれば良い。
こうしてエリ―と俺様の国崩しは終わり、そして平穏を迎えた。
だが、これで終わりではないだろう。
それでも今だけはこの平穏を、エリ―の笑顔を、楽しみたいと思う。
例えすぐ近くに新たな戦いが迫っていようと。
ーー完ーー
☆★☆
星の最奥、七曜の檻。
そこには巨大な影が数体並んでいた。
それらの影が蠢きながら会話をしている。
「派手にやられたみたいだなリュコス! 情けねえ情けねえ」
「人の進歩を油断してはならぬ」
「まさか首輪因子がまだ生きているとはね〜びっくりびっくり〜」
「さっさと始末しなよそんな人間。だからあんたらは舐められているのさ」
「問題は魔女でしょ」
「魔女ねえ……最近あたいの庭でウロチョロしてるみてえだが……」
「じゃあ次の標的は貴様だポルヴォラ」
「はっ! 上等上等かかってこいやって感じよ!」
「わたくしには不安しかありません……」
「リュコス、そういえばヴァリスのアホは今日は来ないの?」
「【電影】の仕方を忘れたと……」
「馬鹿だな」
「愚か者め」
「アホ決定だね」
「ポルヴォラ、再度通告しますが、かの魔女は危険です。おそらくですが、最新型でしょう。ゆめゆめ警戒をお忘れなきように」
「あたいらが旧型ってか? 笑わせるねえ。とにかく言いたい事があるなら直接来な。じゃあなクズ竜共!」
影が一つ消えた。
「では俺も落ちよう」
「わたしも〜」
「ボクももういいや」
「私も落ちます」
こうして次々と影が消えていった。
残るのは、狼のような竜の影のみ。
「……先が思いやられますね」
誰も聞いていない呟きを残し、最後の影も消えた。
残ったのは古よりここに染み付く静寂のみだった。
第一部完!
ここまでお付き合いいただきありがとうございました!
ヴァリス達の話はまだ続きますが、一旦ここで筆を降ろさせていただきます。
読んでいただき、ありがとうございました!
シーユーアゲイン!




