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第5節【戦いは終わる】


 エリ―は真っ直ぐ前を見て進んでいく。

 目指すは、もはや戦いどころではなくなった王の陣。


「き、貴様は!」


 エリ―達に気付いた王直属騎士の数人が剣を抜く。


「クズ共が! 我に触れるな! レジーナ! レジーナはどこにいる!?」


 エリー達が剣を構えるよりも早く、その陣の中心から声が響く。

 

「道を開けよ! 猿が! 我の道を阻むな!」


 騎士たちが慌てて、左右に別れた。騎士達が割れた後にできた道の奥には、一人の小さな老人が這い蹲っており、周りの部下であろう騎士もどうしたら良いか分からずただ剣を構えているだけだった。


「ああ……レジーナ……レジーナレジーナレジーナ!」


 嘆きながら、王冠を被った老人が顔を上げた。それは紛れもなくフォンセ王だった。


「王よ……しばらく見ぬ間に随分と老いられたな」


 ガルディンが剣を鞘に収めた。しかしその視線に敬意はない。


「猿が……調子に乗りおって……レジーナ! レジーナはどこだ!」


 フォンセ王が唾を飛ばしながら叫ぶ。

 エリ―が、一歩前へと出た。


「父上……レジーナは死にました」

「おお……レジーナ! 良かった! さああの反逆者共を根絶やしにしようぞ! 全員だ! 全員殺せ!」

「父上。私が分からないのですか?」


 エリ―の声に、感情は既になかった。自分の目の前に這い蹲る老人がかつて自分の憧れた父親とは思えなかった。


「レジーナ、何をしている! 殺せ! いきがった猿を! 醜い人間どもを! 殺せ!」


 フォンセ王の濁った眼には、もはや真実は映らないのだろうとその場にいた全員が気付いていた。


「父上。勝手に軍を動かし、あまつさえ全滅させてしまった貴方にもはや玉座はありませんよ」

「おお……我の可愛いレジーナよ……なぜそんなそんな事を言うのだ? いつものように甘い言葉を囁いておくれ……」


 エリ―が短剣を抜いた。


「エリ―。殺す必要はない」

「分かっているわガルディン」

「レジーナ……我はもう疲れたぞ……城へ帰ろう……」

「ええ。おやすみなさい、父上」

 

 エリ―が、短剣の柄をフォンセ王の頭部へと振り下ろした。鈍い音と共に、フォンセ王が地面へと落ちた。


「騎士たちよ! 王は失脚した! 魔女に誑かされ、人を、竜を無益に損耗しそしてついには狂ってしまった!」


 エリ―が声を張り上げた。周りの騎士達の視線がエリ―へと集まる。

 負けじとガルディンが声を上げた。


「良いか貴様ら! この御方は王位継承権第一位のエリーゼ姫であるぞ!」


 ガルディンの声に、騎士たちがざわついた。


「姫? いたのか?」

「……俺は知っていたが、もう死んだと聞いたが……」

「俺達はどうすれば……」


 騎士たちのざわめきが落ち着いたところで、ガルディンが声を張り上げた。


「王がいなくなった以上、世継ぎはエリーゼ姫しかおらぬ!……()。覚悟は?」

「愚問ね……ガルディン。もうとっくにそんなものは出来ているわ」

「申し訳ございません、()()()()()()


 そうガルディンが答えると、エリ―へと膝を付いた。

 無言で後ろに立っていたダンリ達も膝を付く。

 慌てたように数人の騎士が同じようにして、やがてその場の全員が膝をついた。


 ただ立っているのはエリ―のみ。

 そしてをそれを少し離れた場所から見守る三人の竜。


「これより、螺鈿城へと帰還し、全てを話す。そして父を裁判にかけた上で、次の王を決める。私は……まだ小娘にすぎぬ。国内外より反発もあるだろう。私は、安心して王を任せられる人物がいるなら王位継承権を譲っても構わないと思っている」


 エリ―が凛とした声を発した。誰もが黙ってその言葉を聞いている。


「竜と人の共存。今は歪な形だが、きっとそれも実現できると信じている、いや実現させる。そして再びこのような惨劇を繰り返さない為にも、私は七曜龍と同盟を結ぶつもりである」

「……今回の被害のほぼ全てが七曜龍の一匹である闇帝竜の仕業です。それと同盟を結ぶというのは……」


 エリ―の言葉に一人の騎士がおずおずと反論した。


「分かっている。私はまずは聖狼教会の長であり、また信仰対象である聖狼竜リュコスと同盟を結ぶつもりだ。戦いを見ていたものは分かると思うが、彼女は我らを闇帝竜から守らんと必死に戦ってくれた」

「ですが、我らは聖狼竜に攻撃を……」

「レジーナの命令だったのでしょう。きっとお許しになられるはずだわ。ねえリュコス?」


 エリ―が視線をリュコスへと送った。

 リュコスが少し思案した後に口を開いた。


「貴女は……強い人ですね。良いでしょう、同盟とは違う形になるでしょうが、わたくしも協力いたしましょう」


 どうせ、管理下におくのだ。世間体としては同盟という形で良いだろうとリュコスは判断した。そう判断するだろうと予想したエリ―に一歩譲歩した形だ。


「ありがとうリュコス。細かい事は帰ってからね」

「ええ。わたくしには、少しすべき事が出来ましたので一旦去ります。なので伝令係を残しておきます。頼みましたよヴァリス、ウェネ」

「ん? おいなんで俺様がそんな事をやらねばならぬ」

「そーだそーだ! あたしはあんたの使い走りなんて絶対嫌」


 急に巻き込まれたヴァリスとウェネが抗議の声を上げるが、リュコスは首を横に振った。


「協力してください。ヴァリス、貴方には責任がある。覚えていないは言い訳にはなりませんよ。大体貴方が……」

「分かった分かった。何が何やらさっぱりだが、確かに俺様がしでかしてしまったようだな。よかろう。螺鈿城は一度ゆっくりと見てみたかったしな!」

「……お兄ちゃんがやるならやる……いくとこないし」


 そんなやり取りを聞いて、ため息を付くガルディン。

 エリ―はそれを聞いて、少し表情を崩しかけるがすぐに口元を結んだ。


「ありがとうリュコス。では……ヴァリスにウェネ。よろしくお願いしますね」

「その口調キモいからいつもどおりで良いよエリ―。お兄ちゃんにもね」

「……ウェネ……ありがとう」


 ウェネが礼はいらないとばかりにひらひらと手の平を振った。


 空は青く澄んでおり、先程までの戦いが嘘みたいな天気だった。

 暖かい風が吹き、エリ―は短剣を腰の鞘へとしまった。


 「さあ、帰りましょう」


 エリ―の声が響いた。





 ーー第一次ラジェド防衛戦が終わった。

 戦死者多数。

 ラジェドの街にも被害は出たものの、事前の避難が幸してか怪我人は少なく死者は出なかった。

 

 螺鈿城への帰還途中でフォンセ王は発狂、王位継承権第一位のエリーゼ姫が臨時的に王位へと付いた。

 これはフォンセ王国の国内、国外共に大きな波紋を呼んだ。


 エリ―ゼ女王は聖狼教会との協力関係を結び、聖狼竜リュコスは代理人としてヴァリスとウェネという兄妹をフォンセ王国に常駐させた。


 こうして二人で始まった、【竜血姫(ドラクル)】の国崩しは終わった。

 竜血の姫は女王となり国は崩れ、新たな形として築かれていく。


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