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第4節【ブレイズ・アンド・スパーク】


 辺りに剣戟の音が響き渡る。


「どうした小僧!」


 ガルディンの手が霞み、剣が振り下ろされる。目の前に迫る刃を間一髪、左手のソードブレイカーで受ける。このひりつく感覚……これが戦いか!

 

 人と思えない膂力による衝撃が左手に伝わる。普通の人間なら、このまま押し切られて叩き切られるだろう。しかし残念ながらこちらは人ではない。攻守交代、俺は刃を受け止めたまま右手の剣をガルディンの腹へと薙ぐ。


 しかしその動きは読まれたのか、ガルディンは俺が左手で受けていた剣を引き、俺の斬撃を防ぐ。火花が散り、ギリギリと力が拮抗――いや受け流されている。人では受けきれぬほどの力を俺は出しているのだが、重心移動と剣捌きで綺麗に力を流されている。こいつやはりかなりの手練だ。


 人の身での剣の駆け引きとはこうも面白いとはな。ガルディンが獰猛な笑顔を浮かべている。きっと俺も同じような顔をしているだろう。


 俺は左手のソードブレイカーを一旦引き戻し、首を狙って突き。首を振って交わすガルディン。


 密着状態を嫌ってか、右足で俺の腹を蹴ろうとするのを、横に逸れて回避。ガルディンはその隙に自由になった剣で俺へと追撃。風を感じながら、ソードブレイカーで受け止める。今のは危なかった。髪の毛が数本切られたな。

 

 竜では味わえぬ感覚だ。己の中で血が脈打っているのが分かる。これが人の戦いというものか!


 ガルディンは巧みに力の入れ方に緩急を付ける。そう簡単に奴の剣をソードブレイカーで折らせてはくれない。思い通りにならないことがこれほど心地良いとはな。ガルディンめ、よほど俺を楽しませたいと見える。


 「疾っ!」


 ガルディンはすぐに剣を引き、素早い突きを繰り出す。見え見えなので左手で弾き、右手の剣を払う。

 だが、それも読まれていたのか、ガルディンは弾かれた剣を流れるように素早く戻し、防御。そのままガルディンはバックステップ。


 どうにも動きが読まれているな。俺は突きを繰り出そうとした左手を収めた。


「小僧、貴様何者だ? 剣術は素人の癖に、力も反射神経も異常だ。それに二刀流は初めてだろう? 構えも重心の置き方もなっていない」


 そりゃあなんせ剣を振るのも初めてだからな。見様見真似だ。うさぎを捌くのとはわけが違う。格好良い……ではなく実用的だと思い二刀流にしたが、難易度が高すぎたかもしれない。


「二刀流は難しいな。よし俺も一本で戦ってみよう」


 左手を振ると、持っていたソードブレイカーが塵となって消えた。そして右手の剣を錬成し直す。俺の身長体重からすれば、もう少し長くても大丈夫だろう。本気を出せばバスターソードでも余裕で振り回せそうだが、今はまだこの身体を慣らす方が先決だな。


「ほお……儂を試し切りの相手にとは良い度胸だ。しかしそちらが魔法を使うなら……儂が使っても文句はないな!」


 ガルディンの内から魔力を感じる。あいつ、魔法も使えるのか? いいぞ、更に面白くなってきた!


「“響け斬撃の灰よ、燃やせ剣撃の音色、火花滾らせ徒を討て!”ーー【火走り】」


 ガルディンが詠唱しながら剣先を地面に当てて、ぎゃりぎゃりと火花を散らせながらこちらへと疾走。火花がやがて炎となり、奴の剣にまとわり付く。


 ほお、面白い魔法だな!


「良いぞガルディン! 人間にしては上出来だ!」


 俺の叫びに呼応してガルディンが炎剣を下から薙ぐ。斬撃と化した弧炎が俺を襲う。竜障壁で受けられそうだが、それでは意味がない。そんな物で防いでもつまらない。

 俺はバックステップし、その炎を躱す。目の前を竜と化した炎が噴き上がる。


 舞い上がった炎を突き破るように出てきたガルディンが今度は炎の瀑布と共に剣を上段から振り下ろす。剣に炎を乗せる魔法、中々に厄介だ。剣で受けてしまうと、炎をまともに浴びてしまう。なので、避けるしか選択肢がないのだが、どうしてもそこに隙が出来てしまう。


 横に回避すると、同時に横薙ぎの追撃。熱風を感じながら剣先でそれを弾きながら、それでも襲ってくる炎を躱す。火炎の舌に舐められた肌が痛い。肉の焼ける匂いが鼻につく。


「逃げてばかりでは勝てんぞ!」


 ガルディンの怒号と共に再び襲ってくる炎と斬撃。確かにこのままでは焼きドラゴンになってしまうな。俺は、剣を構えて、剣先へと魔力を通していく。俺の魔法で作った剣なので当然魔力も通る。というかこの剣自体が魔力の塊みたいな物である。


「少し本気を出すぞ!」


 俺がそう宣言し、ガルディンの上段斬りに合わせて剣を下段から払い、金属の悲鳴が響く。


 ガルディンの剣と斬り結んだ瞬間に剣に溜め込んでいた魔力を解放。迫りくる剣と炎だけを狙う。黒の衝撃波となった魔力が炎を掻き消し、さらにガルディンの剣を弾き飛ばす。宙へと飛ばされた奴の剣が、回転しながら地面へと落ちる。


 剣が石畳に落ち、乾いた音を響かせた。


「はい、終わり。もういいでしょ」


 見ていたエリーが退屈そうにそう宣言し、俺とガルディンの決闘は終わった。


「ううむ。儂の剣を魔法もろとも吹き飛ばすとは! ふはははまだ手が痺れておるわ!」

「ガルディンよ、良い戦いであった」

「だからあんたはその偉そうな言い方やめろって言ってるでしょうが!」


 俺は、ガルディンに歩み寄ろうとするところをエリーにはたかれた。むう、駄目なのか。


「良い! 護衛としての力は十分だ!」

「もう……ガルディンはいつもそうやって試すのだから……」


 ため息をつくエリーに迫る何かを探知。素早く剣をエリーの前突き出す。響く金属音。ガルディンも反応し、同じようにエリーの前にその太い腕を突き出していた。ふ、俺の方が速かったな。


「え、何っ!?」


 驚くエリーの声と同時に、カランと音をたて地面に落ちたのは一本のナイフ。投げられた方向は……。


「やれやれ……これぐらいしないと護衛として、適性があるかどうか分からないでしょうに……老公は相変わらず甘い」


 ガルディンの館の入口にいつの間にか痩身の男が立っていた。貴族らしい格好に、偉そうな口調。その横に、猫背の小さな男が付き従っている。男は、腰や腕に何本もナイフを装着している。なるほど投げたのはあいつか。


「レゾン! 貴様っ! 何をしているか分かっておるのか!?」


 ガルディンが激怒し、落ちた剣を拾いながらレゾンと呼ばれた男へと大股で歩く。レゾン……ああ酒場で兵士が言っていたレゾン公の事か。エリーが敵愾心を剥き出しに奴を睨みつける。


「エリー、あいつの事を知っているか」

「名前だけね。辺境軍統括幕僚長のレゾン公。端的に言えば、私の敵の一人よ」


 敵か。なるほど。さてどう対応しおうか。と思っているとレゾンの目の前まで来たガルディンが今にも奴に斬りかかりそうである。しかし、奴は涼しい顔をしたままだ。


「老公。館の前で()()()()のは結構ですが、例の件、まだお答えを聞いていませんが?」

「その件は関係なかろう! 儂の客人に向かってナイフを投げるなぞ何を考えておる!」

「護衛の質を確認しただけですが? 何、刺さったところでは死なない程度に調整はさせています」

「そういう問題ではない! あれは儂の古い友人の娘だ。今後一切近寄るな。貴様の薄汚い部下もだ」

「必要がなければ致しませんよ。もちろん……」


 なるほど、エリーはそういう立場という事になっているのだな。しかしどうにもあの二人、仲が悪そうだ。獅子のようなガルディンに蛇のようなレゾン。


「それでは、私はこれで……そうそう、例の件、早めに頼みますよ老公」


 そう言い残すとレゾンが部下を連れて、こちらへと向かってくる。俺はエリーを背にかばい剣をいつでも振るえるように構える。


 しかしどうやらもうちょっかいをかける気はないようだ。レゾンはそのまま横を通り過ぎようとする。


「……貴方……()()()()()()。また会いましょう」


 俺の前を横切るレゾンは目を合わせず小声でそう俺に声をかけた。


「エリーに手を出した以上は、貴様は敵だ」


 俺は目を合わせず、そうレゾンに返した。

 奴は、何も言わずそのまま去っていった。あの猫背の部下はいつの間にか消えている。暗殺者か、厄介だな。魔法を使えば分かるのだが、純粋な技術による隠蔽は中々見破るのが難しい。


「エリー。あいつは殺しておいた方が良い。あれは、俺が好かないタイプの人間だ」

「心配しないで。人間でもあいつを好む奴はいないわ」

「今すぐでも構わないが」

「……そうしたいところだけど、それじゃあ駄目なの」


 俺とエリーが会話をしているとガルディンがこちらに向かって手招きをしている。


「行きましょう。今後についてガルディンと話す必要があるわ」

「分かった」


 ガルディンへと俺とエリーは歩いていく。

 俺は、もう油断することをやめた。この街は決して安全地帯ではない。


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