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深き安眠は終わり、始まるは道無き道  作者: takosuke3
二章 ~エドナスという惑星~
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3:愉快ではない〝愉快なお友達〟

 竜車はレイヤ達の前を塞ぐように停車し、荷台から飛び降りた五人がレイヤ達を囲む。荷台に残った数も合わせれば六人──野盗の〝集団〟としては少ないが、竜車も有しているなら気が大きくなるのも無理はない。

「よう、また会ったな~」

 と、荷台の前に立った一人が、マハルを睨みつけてきた。禿頭が特徴の男で、これ見よがしに振って見せる棘付きの棍鎚が、やけに似合う。その隣では、見るからに軽薄そうな男がにやけながら弩弓を構えている。矢を放ったのは、こいつらしい。

 しかし、

「〝また会ったな〟っつってるが、お前のダチか?」

「いえ‥‥ちょっと待って‥‥‥え~っと‥‥‥」

 言われたマハルは、必死に思い出そうとする。レイヤも、目を細めて禿頭男を見据えるが、最後の引っ掛かりが、どうしても取れない。

 結局、答えは十三番が出した。

「先程、クロッシで会った男だ」

「そう、それっ! そいつよっ!」

「あ~」

 やっと思い出した──クロッシから出るときに、絡んできた連中だ。

「要するに、仲間を集めて野盗仕事のついでに仕返しに来たってとこだろ」

「野盗仕事はともかく、仕返しって何よ? 先に絡んできたのはあいつらの方よ」

 言いながら、マハルは呆れの目を禿頭男と軽薄男に向ける。

「言いがかりも良いところだわ。そう言うのは、仕返しじゃなくて腹いせの八つ当たりって言うのよ。それも、とっても安っぽくてガキっぽいって但し付きの」

「その程度の〝筋道〟が分からねえくらいに、連中はオツムが残念なんだよ」

「て、テメェら‥‥‥っ」

 すっかり忘れていた上に言いたい放題なレイヤ達に、禿頭男が頭頂まで真っ赤になった。こんな特徴的な輩なのに、一時間足らずでどうして忘れていたのだろう。

「どこまでも馬鹿にしやがってっ! もう謝っても許さねえからなっ!」

「そうだっ! お前ら終わりだからなっ!」

 軽薄男も、真っ赤な顔で負けじと喚く。

 滑稽極まりない姿に、他の仲間からすら失笑や不快を買いまくっている。当の本人たちは、全く気付いていないようだが。

「おいお前ら、もうその辺にしとけ」

 と、不快そうにしていた一人──荷台に残った男が、舌打ち交じりに言うと、野盗達の笑い声も、禿頭男や軽薄男の喚き声も消えた。一見すると優男だが、どうやらこいつがこの荒くれ共の親分らしい。

「す、すいやせん~、レイヤさん」

 と、軽薄男が媚びるように無駄に高い声で頭を下げる。清々しいほどの変わり身だが、そこに感心してる場合ではなかった。

「‥‥‥レイヤさん、ですって?」

 黒眼鏡の向こうで、マハルは目を丸くし、横目で弟の(・・)レイヤに目を向ける。弟は、どこか楽し気な笑みを返すのみ。

「え~っと、レイヤっていうのは、あの(・・)レイヤ・ソーディス?」

「へぇ、知ってるみたいだね」

 確かめるようにマハルが訊ねると、軽薄男が何を思ったか勝ち誇ったように語り出した。

「だったら話は早い。この人こそ、ソーディス一家の長男──レイヤ・ソーディスその人だっ!」

 軽薄男の無駄に偉そうな紹介に、レイヤと呼ばれた親分は、無言のまま悪そうな笑みを浮かべて見せる。

「レイヤ・ソーディスはもがっ」

 何か言おうとした十三番の口を、マハルがすかさず塞ぎ、

「レ‥‥‥いえ、弟クン?」

 平坦な声で、マハルは訊ねた。わざわざ〝弟クン〟などとワザとらしく呼び方を変えるあたり、よく分かっているようだ。

「さっき言ってた〝面白い〟って、こういうこと?」

「まあな」

 レイヤ・ソーディスを名乗る男を頭目とした野盗団が出回っている──買い出しの最中、レイヤ(・・・)はそんな話を聞いていた。

「レイヤさん、見てくださいよ。あいつら、ビビり過ぎておかしくなっちまってますぜ」

 禿頭男が、何を勘違いしたのか指まで差して笑ってきた。それが伝播して、野盗たちも下卑た笑い声を上げる。

「さあお前ら、お喋りは終わりだ。お楽しみの時間だぞ」

 あちらの(・・・・)レイヤこと親分が、優男な見た目に似つかわしい穏やかな声音で言うと、野盗たちは一斉に色めきだった。

「あ~うん‥‥‥そうね、うん」

 マハルは、投げやりに頷いて見せ、

「あとは名前負けしてなければ、言うこと無しかしら?」

 その姿が、急に霞んだ──十三番以外には、そう見えた。

「いつも通りにやっちばぇっ?」

 口上の最後に吐き出されたのは、噴き出たような悲鳴──皆の視線がようやく集まった時には、親分は荷台の固い板にうつ伏せで倒れていた。


                  *****


「え、な」

 何が起こったのか、当の親分が最も分かっておらず、取りあえず体を起こそうとするが、

「おかしいわね~」

「ぶぇぐっ?」

 マハルにつまらなそうに背中を踏みつけられ、親分は再び地面を舐める羽目になった。

レイヤなら(・・・・・)、このくらいは目を瞑っててもかわせるはずなんだけど」

「れ、レイヤさんっ!」

「親分っ!」

 ようやく理解した禿頭男と軽薄男が、次いで他の野盗達も動きだそうとするが、

「おい」

 禿頭男と軽薄男は揃って凍り付いた。

 背後からの声と、首筋の冷たい感触に。

「自分の命と〝お楽しみの時間〟‥‥‥お前らにとって大事なのはどっちだ?」

 禿頭頭に短剣を突きつけながら、レイヤは冷たく訊ねた。隣の軽薄男には、十三番が短剣を突きつけている。

 瞬き同然の時間だったが、皆の意識がマハルと親分に集中している間に、レイヤと十三番は二人の背後に回り込んでいたのだった。

 結果として、レイヤ達は野盗達の囲みから抜ける位置を取る形になる。

「そ、そんなんでビビるかよっ!」

「そうだそうだっ! こっちの方が数は上なんだっ!」

 怯みながらも、禿頭男と軽薄男は突っぱねてみせた。予想通りな返答に、レイヤは鼻を鳴らし、

「腐ってるなりに根性はあるって事か。けどな」

 閃光──野盗達の足元に、蒼い光が突き刺さった。

「たった五人じゃ、〝数の差〟は頼りにならねえぞ」

 親分を除く、地面に降りた五人に、同時に。

 光の正体は、束になった稲妻──導力を司る蒼の月精によって形成、収束された荷電粒子の矢。

 つまり、

「月精術っ? お前、月民かっ!」

「ちょっと何よ? 気づいてなかったの?」

 足元の親分の驚き様に、むしろマハルの方が驚かされた。その驚きは、すぐに呆れと失望に変わり、

「うん、もう良いわ。これでお終い」

 マハルが右腕を掲げる。それで露わになった腕に蒼の光が幾何学状に走り。すると、野盗達の皆の頭上に荷電粒子の塊が、いくつも形成された。たった五人など一度に吹き飛ばしても、まだ余るくらいに。

 それを見上げたまま、野盗達は顔を真っ青にして凍り付いた──マハルにしてみれば、この程度の事だというのに。

「あ~まあ、何だ」

 マハルの苛立ちを背中に感じたレイヤは、話を割り込ませながら禿頭男の背中を蹴りつける。たたらを踏んでからあっさりと倒れるが、禿頭男はレイヤからは離れる形となった。

「で、どうすんだ? お前らにとって、〝お楽しみの時間〟てのは、命と引き替えにしてでもやらなきゃ」

 レイヤの言葉が終わるよりも先に、野盗達は背を向けて全速力で逃げだした。

「お、おい待って~っ」

 十三番に背後を取られていた軽薄男も、遅れて走り出した。

 マハルに踏みつけられた親分を、置き去りにして。

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