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深き安眠は終わり、始まるは道無き道  作者: takosuke3
二章 ~エドナスという惑星~
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2:よくある話

「無視とはあんまりじゃねえか、ええ?」

 その禿頭の男は、不機嫌に顔を歪めて三番の前に立った。

「‥‥‥私に何か?」

「何かじゃねえだろ。この町は初めてだろうから、俺達が色々と世話してやるって言ってんのに、何だその舐めた態度は?」

 どうやら、さっきからどこかの女を誘っていた輩であり、その〝どこかの女〟とは、十三番の事だったようだ。

 十三番の容姿は、色々な意味で人目を引くのは間違いない。実際、この町に入ってから今に至るまで、人々の視線を集めていた。一人歩きでもしてたなら、町に入った途端に声をかけられていただろう。

 それが無かったのは、すぐ傍にレイヤがいたせいだ。おかげで、嫉妬だの羨望だのの視線を受けるだけであったが、どうやらこの連中は邪魔者(レイヤ)がいる程度で諦めるような性格はしていないらしい。

「それは失礼した。申し訳ない」

「あぁっ? 〝申し訳ない〟で済ませられると思ってるのか?」

 頭を下げる十三番だったが、禿頭男は却って気を悪くしたらしい。

「そうそう。口だけじゃなく、ちゃんとした誠意は見せなきゃね~」

 と、仲間と思しき男が、横合いから馴れ馴れしく十三番の肩に手を置く。こちらは、随分と軽薄な笑みを張りつけていた。

「アンタ達」

 と、マハルが十三番と禿頭男の間に立ち塞がった。

「この子は私のツレなの。話なら私が聞くわよ」

「何だ、お前は?」

「だからツレだって言ってるでしょ。同じことを五秒そこらで言わせるなんて、貴方、本当に人類?」

「んだとコラっ!」

「まあまあ」

 と、軽薄男が沸騰しかけた禿頭男を宥める。こちらの方は、まだ話が通じそうだ。

「あれ~? お姉さんも、よく見るとイイ感じじゃん」

 軽薄男は、舐めまわすように視線をマハルの体に向けた。帽子だの黒眼鏡だので覆っていても分かるあたり、一応見る目は確かなようだ──肝心な事(・・・・)に気づかないあたり、あくまで〝一応〟程度のようだが。

「そうだっ! 話を聞くって言うなら、お姉さんも一緒に来なよ。な~に、別に捕って食おうってわけじゃないんだ。あくまでお世話をしようってだけなんだよ。絶対楽しいよ。こんな奴といるよりさ~」

 と、軽薄男はレイヤを指さす。

 やはり、あくまでも、〝一応〟程度だったようだ。見る目も、頭の中身も。

「分かった」

 と、レイヤは長椅子から腰を上げ、その勢いで背嚢を持ちあげ、荷車に乗せた。

「つうわけで、〝こんな奴〟は先に帰ってるぜ。お前ら、遅くならねえようにな」

「何言ってるのよ。私達も帰るんだから遅くなんてなるわけないでしょ」

「帰るというのなら、私も帰ろう」

 レイヤが町の外に向けて歩きだすと、マハルと十三番も各々の荷物に急いで手をかけた。尤も、荷車を引くマハルは、必然的に出遅れる事になった。

 なので、

「おいコラぁっ! 待ちやがれっ!」

 背後で、禿頭男の怒声が響く。

「待てって言ってんなぁっ?」

 見なくても、音と悲鳴で大体は分かる──出遅れたマハルに手を出そうとして、しかしその腕を掴まれ、あっさりと宙を舞ったのだろう。

「ふげっ?」

 音の具合と、悲鳴からの感覚で、禿頭男が飛んだ高さは二ヌーラ弱と言うところ。一応、手加減はしたらしい。

「食べかけだけど、この揚げパンで我慢してちょうだい」

 マハルが優しく気遣っている。それを耳にしたレイヤは、自分の手助けはこの場は(・・・・)必要無いと判断、安心して町を後にした。足取りが軽いのは、別に重荷が無くなったせいだけではないだろう。


                *****


「‥‥‥ヘタレ」

 町を出てしばらくしてから、多くの荷を乗せて重くなった荷車を引いたマハルが、レイヤに追いつくなり吐き捨てた。

「何だ? 力仕事は男の仕事ってか? 俺が引こうとしたら、そいつは動きもしねえぞ」

 嘘や冗談ではない。

 今回の大量の仕入れにより、決して小さくないはずの荷車は、文字通り山盛りになっていた。

 当然ながら、重量も相応であり、こんなモノをまともに動かすためには、相応の膂力が必要となる。

 マハルの足取りは軽いが、煌人の体である彼女の膂力は、レイヤなど足元にも及ばない。なので、この手の仕事を前にしては、レイヤは手伝いにもならないのだった。

「‥‥‥て、何百回とやった話だろが。よく飽きねえな」

「今回はそっちじゃないわ」

「んじゃあれか? 十三番の空間転移を使って荷物を船まで飛ばせってやつか? それも無理っつうか、やらねえ方が良いのは説明されただろ」

「極めて重要なので、必要ならば繰り返す‥‥‥私が知覚出来ない範囲への長距離転移を不用意に行うのは、極めて危険」

「転移した先が、もし壁の中だの地中だのだったらって話でしょ。それも分かってるわよ。そうじゃなくて、妹分がチンピラに絡まれてるのに黙って見てるなんてって話」

「俺がやらなくたってお節介な誰かが動くだろ‥‥‥実際そうなったわけだしな」

 おかげで、そのチンピラどもは、あっさりと退けられた。レイヤがわざわざ出ていく必要は無いくらい、簡単に。

「アンタねえ~。だから、そんなことだから」

「それとな」

 小言を遮り、レイヤは少しばかり神妙な声で続ける。

「仕入れの途中、店のオッサンから面白え話を聞いた。最近、この辺りで野盗が出るんだとよ」

「別に、野盗なんて珍しくも無いでしょ? どう面白いのよ?」

「で、その野盗を仕切ってる親分なんだけさ‥‥‥誰だか知ってるか?」

「知るわけないでしょ」

「なら聞いて驚け。その野盗の親分様は、何を隠そう」

「止まれそこのお前らぁっ! さもねえと撃ち抜くぞぉっ!」

 濁声の叫びと共に、レイヤ達の足元に矢が突き刺さった。

「もう撃ってるだろ‥‥‥」

 話を遮られ、不機嫌にレイヤは振り返る。

 土煙挙げて迫るのは、一台の竜車──〝ランゴ〟と呼ばれる四足の大型爬虫類によって引かれる乗り物である。しかも、二頭掛かりの大型だ。

「‥‥‥噂をすればってやつ?」

「ああ。その噂の野盗だろうな」

 竜車に乗るのは、弩弓やら剣やら槍やら物騒な得物をこれ見よがしに振り回し、奇声だか怒号だかを上げる連中。贔屓目に見ても、穏やかとは言えないだろう。

「で、どうする? さっさとやっちゃう?」

 黒眼鏡の向こうで、マハルの蒼い瞳が光を帯びる。既に、マハルの用意(・・)は出来ているようだ。

「いや、ちょっとばかし話を聞いてみようぜ。面白いモノが見れるかもしれねえぞ」

「何か気持ち悪いけど‥‥‥まあ良いわ。十三番ちゃん、大丈夫だとは思うけど、気を付けて」

「了解した。最悪、空間転移で脱出する」

「よろしく」

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