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深き安眠は終わり、始まるは道無き道  作者: takosuke3
一章 ~眠れる白い姫──あるいは王子~
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6:新たな仲間──あるいは宝の地図

 このエドナスという星には、大きく分けて三つの人種が存在する。

 一つは、月より生まれ出でた〝煌人(イノス)

 一つは、月の恩恵によって進化した〝還人(レトナ)〟。

 一つは、月の恩恵を受けずに進化からあぶれた〝地民(グレド)〟。

 月の恩恵──即ち、天に浮かぶ四つの月から降り注ぐ月精(ルーン)であり、煌人と還人はこれを取りこみ、全身を走る〝月路(ヴィセル)〟に巡らせ、超常の力──〝月精術(ルナイト)〟を行使する。

 故に地民からは、しばしば──もっと言えば憎悪と嫉妬を込めて──〝月民(ルナ)〟と一括りにされる還人と煌人だが、身体構造は大きく異なる。

 強靭な膂力と、それを支える金属質の骨格。

 至近距離の打矢も見切り、回避する反射能力。

 それらを操る二つの脳。

 還人のそれとは比較にならないほど複雑で大規模な月路──手足や胴を巡るそれだけでなく、守護月と同じ色の髪と瞳も、月路としての働きを持つ。

 そして最大の特徴が、〝炉心(コーエル)〟と呼ばれる心臓。

 強靭な身体機能の原動力のみならず、守護月の月精を自己生成する能力も有する。つまり、固有月精に限ってであれば、周囲の月精だけでなく自身の月精も加わる上、先に述べた大規模かつ複雑な月路も相まり、月精術の威力と規模は、還人のそれとは比較にならない。


 それが、現在のエドナスにおける人類という種族の常識となっている──のだが、

「なるほど‥‥‥冗談抜きで、これは凄いわ」

 マオシスの出した検査結果を読み進めながら、ラヴィーネは皆の素直な感想を代弁した。

「二つの炉心に四つの脳っていう構造だけでも凄いけど‥‥‥白い(・・)月精とはね」

 天に浮かぶ月の数は四──故に、月精術は四系統に大別される。

 その四系統に、白は存在しない──筈だった。

「ちなみに、どんな月精なの?」

「白の月精は、空間に干渉する。輸送船からの脱出時には、スザンノーの直上の空間を接合して転移した」

『客人の証言に、相違は無いと判断します』

 と、マオシスは新たに画面を投影する。映し出されたのは甲板の記録映像──何も無かったその場に黒い影が現れ、それが晴れると、耐圧服を着たレイヤと抱えられた白い少女が突然現れた。

『二人が出現する際、同位置において小規模ながら高密度の空間歪曲を検知しました』

「極限の高速移動とかじゃなくて、正真正銘の瞬間移動って事ですか。それだけでも思わぬ拾い物になりますね‥‥‥それで」

 サクラは、映像記録から検査結果の情報に目を移し、

「この検査結果を見ると、貴方の炉心は一つしか動いていないようですが?」

「そう。私の能力、及び関連する記憶には制限がかけられている。それらを自発的に引きだすことは不可能」

「それじゃ‥‥‥動いていない(・・・・・・)もう一つの炉心が、どんな月精を生成してどんな術になるかって事も答えられないってこと?」

「そう」

「ちぇ~」

 仮にも(・・・)煌人であり月精術の使い手であるマハルとしては、興味深い話だったのだろう。白い少女のにべもない返答に、分かりやすく口を尖らせた。

 一方──レイヤは白い少女の話を掘り下げ、

「制限をかけられて(・・・・・)いる‥‥‥なら、それを外すにはどうすりゃいい?」

「制限は、製造及び出荷時にかけられる。私を製造した施設に向かえば可能と思われる」

「その施設の場所の記憶は、制限の中に入ってるか?」

「否、制限項目に入っていない。製造施設の位置の開示は、可能である」

「よしっ!」

 白い少女の喜ばしい答えに、口を尖らせていたマハルは目を輝かせる。なるほど、これは確かに〝嬉しい知らせ〟だ。

「ただし、現在も残っているかは不明である。私の情報は、数千年前から更新されていない」

「つまり、実際に行って見なければ分からないってことですね。なら話は早いですよ。私たちの次の目的地が決まりました」

 と、落ち着きながらもサクラの声は弾んでいた。

「そうですね‥‥‥船の片づけは私たちでやっておきます。レイヤとマオシスは、早速その子から詳しい話を聞いて、現在の位置を割り出してください」

「はいよ‥‥‥」

「了解」

「それと‥‥‥て、そういえば貴方の名前を聞いてませんでしたね?」

 色々なことをが立て続けに起こってしまったものだから、すっかり後回しになっていた。

「アルファオメガ十三号‥‥‥そう呼ばれていた」

「それって、あくまで型式‥‥‥つまり、番号ですよね。それだと、いくらなんでも味気ないですから‥‥‥いえ、そうですね‥‥‥良い機会かもしれませんね‥‥‥」

 サクラは何やらブツブツと考えを巡らせると、良いことを思いついたとばかりの顔で、レイヤに目を向けた。

「この子の当面の面倒は、レイヤが見てあげなさい。もちろん、名前を付けるのもね」

 案の定、レイヤにとっては面倒事だった。無駄とは思いつつ、一応の反論をしてみる。

「‥‥‥何で俺が、ンな面倒なことを?」

「何でも何も、連れてきたのは貴方でしょ」

(連れてい来いって言ったのはあんただろ)

 と、言ってやりたいのをどうにか堪える。どうせまた、面倒な話になるのは見えていた。

「‥‥‥やれって言うならやってはみるがね、どうなっても知らねえぞ」

 と、せめてもの抵抗で、安っぽい皮肉を疲れた溜息と一緒に吐き出しておく。

 とんだ貧乏札ではあるが、生きた〝宝の地図〟を手に入れた対価とでも思うことにした。

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