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深き安眠は終わり、始まるは道無き道  作者: takosuke3
一章 ~眠れる白い姫──あるいは王子~
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4:白の光

 透明の内蓋が開かれ、流れ出た溶液によってその場が水浸しになる中、起き上がった白い少女は柩の中から歩み出、

「っ」

 水浸しの床に足を付けた途端、その場に膝を着いた。どうやら、解凍直後で体が思うように動かないようだ。

「一応訊くが‥‥‥どうするよ?」

『決まってるでしょう?』

「だよなぁ」

 この期に至っては、〝放っておく〟という選択肢は消えた。

「おい、俺の言葉、分かるか?」

「‥‥‥?」

 レイヤの問いかけに、白い少女は無言で見返すのみ。レイヤは、しばし考え、

「じゃあ、これでどうだ‥‥‥『ワタシ、の言葉、分かるマスカ?』」

 大栄紀当時の言語に切り替えてみる。発音も区切りも甚だ怪しいが、それでも通じたらしく、

『理解可能である』

 白い少女は小さく頷いて答え、

『しかし、貴方の発音は多分に誤りがあるため、この言語での会話による意思伝達は困難と判断。無礼を』

 と、白い少女は身を乗り出し、身分証を放り込むために開けていたレイヤの耐圧服の頭殻から顔を突っ込み、自身の額とレイヤの額を合わせた。

『ほほう~』

『あらら』

『わ』

 当然ながら、その光景は映像越しにあちらにも伝わっているが、レイヤには拒絶する間もなかった。そして、その余裕も無かった。

 自身の中に、何かが流れ込み、同時に何かが流れ出るような感覚に、思考すら麻痺しかけた。

「っ!」

 危うくそうなる前に、どうにか白い少女を振り払う。耐圧服の強化された膂力のおかげか、弾き飛ばされた白い少女は尻餅をつく。が、それを気に留めていないかのように何やらブツブツと呟き、

「‥‥‥私の言葉、理解可能か?」

 流暢な現代語が、白い少女の口から発せられた。

「‥‥‥俺の記憶と知識を盗み取ったのかよ」

「広義の意味で肯定する。厳密には、貴方の言語系統をこちらの記憶に複写した」

 忌々しげなレイヤの問いに、白い少女は抑揚無く、そして淀みなく答える。

 まるで、機械のように。

『レイヤにとってはあまり良い気はしないでしょうけど』

「まともな会話が出来るのは良いこと‥‥‥へいへい、分かってるさ。で、この後は? もう少し船の中を回ってみるか? それとも、一度戻った方が良いか?」

『そうですねぇ‥‥‥』

「強く警告する。大至急、船からの脱出を」

 母の思案に割り込む形で、白い少女が告げた。

「機密保持用の自爆装置が起動した」


                  *****


 操作画面が急に切り替わり、〝自壊機構作動〟と記述と、崩壊までの時間が表示された。

 それを信じるなら──崩壊まで、既に五分を切っている。

 ちなみに、艦首部分から侵入してここに来るまでに、二十分強。どんなに急いでも、レイヤの足では五分どころか、十分切ることは不可能だ。

「‥‥‥俺も海の藻屑か~」

『ハイハイ、一丁前に悟ってる間に、早く動くことです』

『全くだわ。下手な小芝居なんて柄じゃないでしょ』

 涙を拭う仕種までしたのだが、大人二人にはお見通しだったようだ。

「ヘイヘイ‥‥‥おい、脱出装置はどこだ? あるんだろ?」

 黙って待っていた白い少女に、レイヤは訊ねた。

 秘密を守るとはいえ、わざわざ〝五分〟という時間を設けているのだ。それに、これだけの規模の船なら、緊急用の脱出装置か何かがあるはず。

「脱出のための装置、機構は存在しない」

『ちょっとっ』

「落ち着け。大体、そっちの声は俺にしか聞こえねえだろうが」

 喚き立てようとするマハルを諌め、レイヤは一度深呼吸してから訊ねる。

「装置、機構は無い‥‥‥なら、何があるんだ? どうするんだ?」

「私がそれを担う。私には、その能力がある。そもそも、この自爆装置はそれを前提に装備されている」

「‥‥‥だ、そうだぜ?」

『どうもこうも、やるしかないでしょう。急ぎなさい』

「へいへい‥‥‥脱出をお前に任せろ、とさ」

「了解した。だが、実行前に確認したい。貴方の母船の待機位置は、この輸送船の直上か?」

「? ああ」

「では、我々が到着次第全速発進する用意をしつつ、そのまま待機の要請を」

「どういうこった?」

 言い終わるころには、少女の胸元から白い光が発せられ、それが全身を幾何状に巡り、少女の白い体を、頭から足先まで、更に白く染め上げた。

「脱出開始。安全のため、頭殻の閉鎖を。失礼」

 と、白い少女は、有無を言わさず耐圧服の頭殻を強引に閉めつつ、レイヤを軽々と肩に担いだ──重々しい耐圧服も諸共、である。

 一見細身にも見える少女の体のどこにそれだけの膂力があるのか──しかし、レイヤが驚いたのは、そんな分かり切った(・・・・・・)事ではなく、

「お前、それ」

 見たことのない白い光の方だったのだが、それを問いただす前に視界が急激に歪み、更に暗転し、

「っ!」

 かと思えば急に明るくなった──それが視界いっぱいの青空だと気付いたときには、背中からしたたかに叩きつけられていた。

 耐圧服のおかげで怪我をするようなことはなかったが、周囲を確かめてレイヤは目を剥いた。

「‥‥‥マジかよおい」

 何度も確認するが、そこは紛れもなく、見慣れたレイヤ達の船──スザンノーの甲板だったから。

「甲板に着地した。即時の全速発進を要請。海底の輸送船が自爆する」

「‥‥‥聞こえたな。船をとっとと出せ」

 言っている間に、レイヤは白い少女の手を引いて船内に駆け込む。

『障壁を展開‥‥‥みんな、しっかり体を固定しておきなさい』

 いちいち問い返す様な愚を犯す者は、この船にはいない。拡声器越しに母が指示を出した時には、船は急発進、一気に最高速まで加速し、更に導力によって磁場障壁を展開する。

「輸送船、起爆。後方からの衝撃に注意を」

 少女の警告と、後ろからの轟音は同時。

 巨大な輸送船を崩壊させる力が解き放たれ、海水を大きく噴き上げる。その力は、海上にいたスザンノーを軽々と、そして高々と宙に放り上げた。

 当然ながら、レイヤは白い少女を抱えたままあちこち転がる羽目になった。

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