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俺のLVは上がらないのに、  作者: 松戸真 寿司
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騎士の事情、異形の焦り、魔法使いの思惑、傭兵の画策、そして






「必殺の斬撃!」


既にタイミングを掴んでいたフォーメルは、マツリカの攻撃を容易く交わして回り込む。

何かしらの技を出す時、相手は僅かに動けなくなるので、そこに付け入る。ただし、言うほど容易い事ではない。

実際、フォーメルは相手が技名を出すか出さないかのタイミングで動いていたのだが、それでもギリギリの間合いと言えた。

しかもコッチの動きは読まれていたらしく、必殺と言った割には手加減された斬撃が放たれたのを見てフォーメルは嵌められたと悟る。だが今更引くわけには行かない。覚悟を決めて敢えて突っ込んだ。

案の定、マツリカは動きを止める事無く小さく飛び跳ねると、空中で体を回しながら反撃に転じてきた。

重い一撃がフォーメルの首に打ち込まれる。

以前の装備であれば意識が飛んでいただろう。これでも、向こうは手加減しているつもりらしい。

だが、こちらも最高級の装備品を身にまとっているので、その重い一撃にフォーメルも耐える事ができた。

それにより、彼も強引に反撃に転じる。

二度三度と、互いの獲物がぶつかり合う。

単純な力、技量では向こうが上であり、少しでも気を抜けば押し込まれそうな圧がある。

経験と言った部分でも厚みが感じられ、まともに相手をしたら到底敵わない相手だろう。

しかし、今の装備はフォーメルに実力以上の力を与え、更に魔力を他の方向に割り振る余裕があった。それを使って、彼は強引にマツリカに並び立って見せる。

数撃を見舞って布石をおいた後、フォーメルは身体強化の魔法を突発的に発動させて鋭い一撃を繰り出す。

それでも簡単にかわされてしまったが、こちらも想定内である。

更に魔力を追加させて魔法を発動させ、風を操り鋭い旋風・・・と言うには強力過ぎる局地の竜巻と形容して良い物を発生させると、相手の動きを封じにかかった。

今までの装備、フォーメルの状態では考えられない素晴らしい能力と底力に、彼は改めて感動を覚える。

魔法を前に釘付けにされた相手に、更に強化魔法を重ねてフォーメルは突進した。




「まだまだか・・・」


模擬戦を終え、脱いだ兜の素晴らしい造形を眺めながらフォーメルは呟く。

マツリカの鋭い一撃を食らったはずなのだが、兜には傷一つ付いていなかった。

向こうも手加減していたはずなので、本気を出されていたらどうなっていたかは分からないが、少なくとも体に支障が無いのは今の装備のおかげと言えるだろう。

と同時に、彼は無意識にハルタに砕かれた肩の方も擦っていたが、そっちの方はもはや理解不能だった為、思考の方からも無意識に追い出していた。


 模擬戦の最終局面、魔法によりマツリカの動きは封じられると踏んだのだが、向こうは逆にそれを利用して飛び込んできた。

いや、その前の判別できない動きもあって、フォーメルは不意を突かれたと言って良い。

風の魔法に引っ張り込まれる様にして、マツリカの体は確かに流されていた。

しかし、彼女はそれを利用してそのまま突っ込んで来たのだ。

風の魔法の制御はフォーメルの手の内にあった為、余りにも単純な動きしかできていなかった為、最初は愚かな捨て身かと思った。

ところが、マツリカは空中で更に縦に回転して牽制とタイミングのずらしをやってのけると、勢いの付いた一撃を放ってフォーメルを地面に這いつくばらせたのだ。

しかも、牽制に振ったのは剣ではなく鞘であり、恐らく殺気も込めていたのか、一瞬の事でもあった為にフォーメルには見分けがつかなかった。

不利な状況さえ利用する咄嗟の判断力、オマケにただ利用しただけではない。

相手の動きも封じる為の一手を挟んでの反撃。

説明すれば単純だが、それを臨機応変かつ自在に繰り出すのは並大抵の事ではない。

手を合わせる度、フォーメルは毎回唸らされていた。


 ハルタらの案内で辿り着いた森奥の見たことも聞いたこともない場所で、更に業物などと言う表現すら生ぬるい超極上の装備品を手にして以来、フォーメルとその周囲は大きく変化を遂げる事になる。

そう思わせた要因は単にそれのみだけではなく、自身が連れ帰って強制的に協力させているユールフィアの魔法使いも関係しているのは間違いない。

強制的に協力させているとは言え、戦果と言って良いそれにフォーメルも含めてレパンドルの兵士らは精神的に何かしらの優越感を覚えていたのだが、最近になって彼はそれを懸念する様になってもいた。

魔法使いらの協力で、この王都跡に眠っていた装備品のプロテクトを解除したり、更にはフォーメルらの魔装騎士としての能力を適正な状態で指導されるなどした結果、彼らは建国以来かつてない戦力を手に入れつつある。

恐らくレパンドルの人間の殆どが、そう思っているに違いなかった。

戦力は充実しつつある状態ではあったが、フォーメル自身は己も含めて全体的な強さに関しては常に渇望にも似た不足を感じ続けてもいたのである。

連続したエレメンタリス戦、陥落したレパンドル王都前後での戦い。それを凌いたハルタ達の力。

何れを思い返しても、まだ自分の実力では及んでいないと言うのが良く分かっていたからだ。

だからこそ彼はハルタの仲間の一人であるマツリカと、連日の様に模擬戦を行っていた。

ある意味、ただ一体でハイド・エレメンタリスやエレメンとも渡り合った相手だけに、戦闘訓練を積む相手としてマツリカは理想とも思えたからだ。

当初、その申し出は断られると思っていたフォーメルは、後でハルタに無理矢理にでも協力させるる様な心持ちでいた物の、意外にも本人はそれを承諾してくれたので拍子抜けする。

しかし、何度か刃を交えている内に、実は向こうもフォーメルと似たような焦りを持っているのを感じ取って彼は更に共感めいた物も覚える様になる。

そうした事もあってか、フォーメルは油断しているとマツリカがアーマルデ・ロイデンであるのを本気で忘れそうになる事もあった。

実際、自分の奥底には彼女に対する尊敬にも似た感情が湧き出ており、それを抑えるのに苦労してもいたのだ。


 フォーメルが敢えてマツリカへの感情を排除するのには理由がある。

それは、昨今における騎士団の異様な盛り上がりに原因があった。

続々と回収される極上の装備品に魔法使いによるサポートで本物と言える魔装騎士が次々と誕生しており、傍から見ると確かにレパンドルはかつて無い戦力を得ようとしていたが、実際には数と実力の面で言えばシーゼスなどに及ぶものでは無い。

最も近く相対した驚異、転がる岩ことクラッデルムも確かに強者ではあったが、シーゼス全体からすれば彼の者でさえ一戦力に過ぎないのだ。

ロウバル連合王国と本気で事を構えるつもりであったなら、恐らく更に戦力を投入したであろう。

いや、或いは連合王国を牽制する為に戦力を温存し、転がる岩だけを投入したのかもしれない。

実際、フォーメル達だけで持ちこたえられたかは、今も疑問に残る所である。

 また、幾ら優れた装備が次々と手に入っているとは言えプロテクト全てを解除された訳でもなく、作業は今も難航した状態でもある。

それに魔装騎士への調整がされたと言っても、他国から見ればやっとスタートラインに立ったに過ぎない。

オマケに、この優れた装備品を使いこなせるかどうかは、結局は使用者の鍛錬と言った個々の技能にも左右されてしまう部分もある。

更に、魔装騎士への調整が進むにつれ、ハッキリと不適合者の数も増加傾向にあった。

この状態を少数精鋭と見る連中も居るが、敵にも相応の戦力があるのを忘れてはならない。

実際、西側と密貿易をしているシーゼスの輸送隊を襲って実戦訓練も重ねてはいるが、装備の優秀さに自分ら中身が追いついていないのを痛感させられてもいる。

ハルタとその引き連れている連中が居なければ、下手をしたら全滅していた様な場面は何度もあった。

幾ら装備が優秀で魔装騎士として適合したとしても、フォーメル達の現状は見掛け倒しに過ぎないと言えるだろう。

それなのに立場のある連中までもが、装備の優秀さと本物の魔装騎士誕生程度で戦力が整ったと勘違いしており、人々を煽るのに使っている不味い方向へと進んでもいたのだ。

故に、フォーメルは先頭に立って引き締める必要があった為、ハルタ連中に対しては同等以上の存在として否が応でも振る舞わなければならなかったのである。

フォーメルと言う存在が一人立つ事により、他への大きな牽制となると考えたのだが、実際に思惑通りに実力主義がまかり通って今のところはまとまっていた。

もし、ここでフォーメルがハルタら寄りに振る舞えば、彼の下に集わない連中も出ていただろう。

見かけ上、勇者連中と互角に渡り合う実力に加え、決して交わらないと言う雰囲気を作り出した緊張感は、否が応でも周囲を引き締めるのに役立っている。

それだけに、フォーメルは自身の行動一つ一つに気を使わなければならず、そう言う意味では危うい綱渡りをしていると言えるだろう。

こうした行為は自分の元に団結させる効果がある一方で、もっと危険な状況へと追い込む懸念もあった。

それは、勘違いによる暴走である。

実際、強硬派と呼ばれる連中がチラホラと声を上げつつあるのだ。

その意見はまだバラバラな為、連中その物が対立してもいる状況だが、フォーメルはこれを決して捨て置ける事態ではないと考えていた。

今は小さな動きにしか過ぎないが、必ず暴発する日が来ると警戒していたのである。

何より、強硬派の中には邪神化したアーマルデ・ロイデンの事を知っている者もおり、これを持って最強のカードを手にしたと考えている者も少なからずいるのだから。

それも含めて、フォーメルはハルタ達とは協力関係にはあっても、決して馴れ合わないと言うのを態度で示さなければならなかったのだが、それとて何時まで通用するかは分からない。

危険な未来がすぐそこに見えてはいたが、今のフォーメルにできる事も限られているのも確かだ。

強硬派とされる連中は、結局芽すら出していない状態のため摘み取るのも難しいし、下手に刺激をすると返って活発化する恐れもあった。

そうした理由もあって、フォーメルは日々を訓練に当てて過ごすしかなかった。

そして、彼はマツリカとの戦闘を反復しつつ、敵の大戦斧のアーマルデ・ロイデンの事にも考えを巡らせる。


 マツリカは模擬戦で何かしらを試そうとしている様だった。それが何であるかはフォーメルには分からなかったが、冷静に見たり思い返すと戦い方が非常に単調である事に気がついたのだ。

当初は単に手加減する為だとも考えていたのだが、ふと敵の大戦斧アーマルデ・ロイデンとの戦いが過ぎった時に、マツリカの戦い方がそれと似ていると気がついたのである。

そうなると、あの時の敵アーマルデ・ロイデンも何かしらを試そうとしていた可能性が高いと気がついたのである。

実際、単調な動きをしていたし、消極的とも言える行動を取っていた。

当時の状況では、てっきりモンスターが来るのを待っていたとも思っていたのだが、マツリカとの模擬戦と照らし合わせると、ある種の実験をフォーメル達で行っていたとも考えられる。

いや、もしかしたら、魔装騎士とモンスター、更にはアーマルデ・ロイデンの三種を相手に戦闘経験を積むと言うのを実戦で試そうとしていたのかもしれない。

それはつまり、最初に接触した時点で連中も手加減をしていた可能性が高いとも言えるのだ。

 その考えに至った時、フォーメル自身が踏み出そうとしている道のりの余りの遠さに眩暈を覚えそうになった。

今の段階でも魔法を使えばマツリカに対してなら何とかなる可能性もあるだろう。

しかしそれは、魔装騎士であるフォーメルが選ぶ手法としては二流以下と言えるし、自身でもそれを少なからず証明してしまっている。

少なくとも、今のフォーメルが使う魔法など、本物の魔法使いやエレメンタリスと比べれば児戯にも等しい。

これから先、自分が一流の連中と渡り合う為には、何としても魔装騎士と言う力だけで戦う術を身につける必要がフォーメルにはあった。



 フォーメルとの模擬戦を終えた後、マツリカはローナとイユキが寝かされている場所へと足を運ぶ。

二人は今、ユーカが拵えた特別な一室で静かに横たわっており、関係者以外は入る事はできなくなっている。

その一人であるマツリカが近づくと、無数に張り巡らされた根が静かに隙間を作って中へと導いてくれた。

中に入ってみれば、何も変わらない光景が彼女を迎え入れる。

マツリカがここを定期的に訪れていたのは、当初は単に余所者が迂闊に近づかない様に牽制の意味を込めて巡回していたつもりだったが、今では半ば彼女の日課となりつつあった。

正直なところ、ローナとイユキの側にはユーカレブトが交代で付いているし、更にはユーカの監視もあるのでマツリカの行為は余り意味がないとも言えるだろう。

それでも仲間が気がかりと言う気持ちからか、マツリカはどうしても足が向いてしまうのだった。

いや、それは単に自分にある不安への言い訳なのかもしれない。


 敵のアーマルデ・ロイデンと接触した時、マツリカ達は初めて己と言う存在に強い疑念を抱くようになっていた。

フォーメル達からアーマルデ・ロイデンなどと言う事を聞いても、当初は自分たちには大して関係の無い、さして重要な意味を持たない物だと考えてもいた。

単に自分らはハルタの側に唯ある物と言うだけで納得できていたのだが、本物らしいアーマルデ・ロイデンを見た時、それらの持つ能力が自分たちには無い事に気がついたのである。

それまで無視していた情報を掻き集めると、アーマルデ・ロイデンは魔力によって誕生し、そして存在する物であり、倒されても何度も蘇るとされているらしいのだが、自分達にはそれが当てはまっていない。

似通っている部分がないでもないが、少なくとも今マツリカが見ているローナとイユキは、大ダメージを負って目覚めないと言う事実がある。

加えてターナの変貌振りと、邪神にまつわる情報は更に混乱をもたらしてもいた。

 ベルモアと言う魔法使いが、ハルタや自分達に本当にアーマルデ・ロイデンなのかと訪ねた事があったが、誰も答えを持ち合わせてなどいなかった。

自分達は一体なんなのか?

答えの一つはハルタにあると思われるのだが、彼自身が自分についてよく分かっていない事が多いらしく、そして語っていない部分も多い。

また最近になって、マツリカ達はある事に気が付く。

弱まっていたはずのハルタの血の力が元に戻りつつあるのだ。

それについても気が付くのが遅すぎて、現在では何がキッカケであるのかすら分かっていない。

ハルタが身内だけに語った経験値が入ったと言う現象も可能性としてはあるが、それだと、それ以前の急に力が弱まった事への説明がつかない。

それについては、ユーカが一つの推測らしい事を語ってもいた。

ハルタの力はジュデの森、特に中心部に近い程強まるか、場合によっては、この王都跡が起点となっている可能性が高いという。

無論、これとて今のところ確証は何もない。

何せ、こうした点に付いてはユーカによって口止めされている事もあって、ハルタにはまだ話していないからだ。

理由に付いてはマツリカも良くは知らない。一度ユーカに聞いてもみたのだが、何故か答えをはぐらかされてしまった。まあ、確証が得られてもいない事なので、今は迂闊に言えないだけなのかも知れない。

或いは、近年微妙になりつつあるハルタの立場に配慮し、余計な心配や問題を彼に抱えさせたくなかったのか。

何れにしろ、マツリカは自分と同じタイプの相手に敵わなかったと言う思いがあったので、それを打破できる何かを探してもいたのである。

むしろ、今ではアーマルデ・ロイデンと言う分かり易い存在でないのが、もどかしいとさえ思っていた。

もし自分が本当にアーマルデ・ロイデンであるならば、問題はハルタの能力によって左右されていると分かるし、彼を鍛えれば自ずと自分も強くなれる可能性もある。

だが、これまでの経験と自分を顧みた時、マツリカは自分自身でも、それは違うと言う結論に辿り着いていた。

実際、ハルタの能力は相対してきた敵と比べると貧弱であったにも関わらず、それでも自分達は格上の敵とも渡り合ってきている。

特にアニーの戦果は顕著にそれを表しているだろう。

そもそも、自分達をアーマルデ・ロイデンなどと決めつけたのは余所者どもであり、自身らは何ら納得はしてなどいない。

だからこそ、マツリカは己の正体と強さへの道を探って藻掻いていた。

その行為は時にマツリカと言う存在を否定し兼ねず、彼女を不安へと押し込んでもいたのだ。

故に、今も眠る仲間の元へと訪れては、彼女は静かに己を保とうとしていたのである。





「おい・・・おい! ベルモア、どう言うつもりだ?」


「何よ!」


ヘリフはベルモアに追いすがると、乱暴に手を取って引き止める。


「何、じゃない。 連中・・・特に勇者とやらに、これ以上肩入れするのはよせ」


「あら、私はユーカ様に逆らう事はできないのよ。 肩入れする、しないの問題じゃないわ」


「~お前から申し出ただろうが。 あの女・・・ユーカ様からは何も言っていない」


「何が気に入らないって言うのよ」


「必要以上に協力するのはやめろ。 祖国を裏切るつもりか?」


「祖国? そんなの、どこにあるのよ」


それを聞いて、ヘリフは苦々しい顔をして少しだけ身を引いた。


「レ、レパンドルだって同じだ。 奴らの国も滅びた。 ここで力を付けるつもりだろうが、シーゼスや連合に及ぶものじゃない。 何より、魔王の存在も居る」


「だからじゃない」


そう言ってベルモアは見下した様に鼻で笑った。


「な、何?」


「分からないふりしているの? それとも、そこまでお馬鹿さんなのかしら。 ここには、それをひっくり返す可能性を持った連中が揃っているのよ。 それに少しでも協力すれば、後々私の立場も良いものになるはず。 大体、私達・・・いえ、ユールフィアに今更何ができるって言うの?」


「そ、それは・・・だが、この程度でシーゼスに及ぶものか。 それこそ、お前の方がよく分かっているはずだろ!?」


「分かっていないのは貴方よ、ヘリフ。 私が見ている物を貴方は見ていない。 それだけの事よ」


「俺が、何を見ていないって言うんだ?」


「非常識を受け入れようとしていないじゃない。 いえ、それどころか憎悪している。 それ、ユーカ様には気づかれているからね」


「う、あ・・・」


ヘリフが答えに詰まって途方にくれるのを無視して、ベルモアはその場を足早に去る。躊躇した後、ヘリフは再びその後を追いかけていった。


 ベルモアが足を向けたのは、ある意味で現在の自分達の主とも言えるユーカの所だ。

ベルモア及びユールフィアの関係者の体内には、魔法ではどうにもできないユーカの何かしらの棘が打ち込まれており、快楽物質を流されると共に裏切りに対しては直ぐに毒によって粛清されてしまう。

もっとも、大抵の者は快楽の方に負けてしまうので、ヘリフの様に幾ら反発しようとも結局は言うことを聞くしか無いのが現状だ。

そのユーカの周りには、常に何かしらの形で人が訪れている事が多い。

中には本当に用があって訪れているのか怪しい者もいるが、大抵の困りごとに対して的確な答えを出す為、正に女王として彼女は君臨していると言える。

見た目も女王と形容して良い彼女だが、何より強さの面でもレパンドルの民には広く知れ渡っており、様々な形で尊敬と信用を集める存在ともなっていた。

特に彼女が生成する薬は病気や体の悪い面に対してもよく効くと評判の上、全て無償で提供される為に更に信奉めいた物を獲得するに至っているのである。

ただし、それらの行為はユーカ自身の為に行っている訳ではないらしく、全ては彼女のマスター、ハルタの為の物であるらしい事をベルモアはそれとなく聞いた事がある。

勇者ハルタの力を引き出すと言う提案を持ちかけ、その許可をもらって以降、ベルモアは少なからずユーカに心を許してもらっている気がしていた。

先の話も、そう言った理由から聞かせてもらっている可能性もあったが、あくまでもベルモアの印象であるので、本当のところは分からない。

ユーカと言う存在を観察する限り、その行動の全てはマスターの為にある上に、全て考えた上で動いている可能性の方が高く、もしかしたらベルモアが勝手に思っている事さえ実はユーカの思惑の一つと見る事もできるのだ。

例えそうだとしても、今のベルモアにはどうでも良い事でもある。

既に国は滅び、更に彼女自身も閉塞感を感じて暮らしていた時に起きた騒動の末に辿り着いた今の状況は、何となく彼女の無意味になりつつあった人生に新しい目標を抱かせたのだから。



「ユーカ様、報告申し上げます」


訪れた者への対応を一頻り終え、彼女の側近でもあるユーカレブトに対応を任せたのを確認してから、ベルモアは恭しく膝を付き、頭を垂れて話しかけた。

それに対し、ユーカはチラッと見ただけで作業の手は止めない。

彼女がアーマルデ・ロイデンの可能性を知る者からしたら、きっと噴飯ものの態度であろうが、今のベルモアには全く気にならなかった。


「ハルタ様の今日の訓練、一通り終了しました。 進捗状況はあまり変わらず、です」


それに対しユーカは短く労いの言葉をかけて軽く頭を下げた。

人々から女王の様な扱いを受けはているが、本人は自らを弁えてもいるらしい。もっとも、彼女なりの線を引いてもいるので、決してマスター以外に媚びる事はない。

その為か、わざわざ報告に来たベルモアに対しても、それ以上にユーカが気にかける事はなかった。

それでもベルモアは、今しばらくここに留まる様にする。

少しでも彼女たちの信頼を得たいが為だ。

マスターであるハルタの信用は得つつあるが、残念ながらユーカを含むお供の連中にはまだまだ警戒心を持たれている。

今のところベルモアに他意は無かったが、今後中心になる可能性がある方に出来るだけ近づいた方が良いと彼女は考えていた。

何より今だに信じられない事実が、ベルモアの興味を引いて行動へと駆り立ててもいた。

勇者ハルタ及びユーカ達はアーマルデ・ロイデンらしいと言う説明を受けてはいたが、これらは彼女が知っている全てを否定してもいる。

人に限りなく近い姿に人形などとは程遠い個性と自立心、ユーカに至ってはカリスマ性すら持ち合わせている。

そして勇者ハルタと言う特異な存在。

ヘリフや他の魔法使いはまだ気がついていない様だが、ハルタは恐らく異なった世界、それも複数から魔力の供給を受けている可能性があった。

ハルタに協力していたのは、彼の側に居て良く観察する為でもあったが、それでも今も詳しい事は分かっていない。

現在に至っても推測にしか過ぎない物の、不鮮明な魔力糸の流れの中にベルモアは微かに異なった魔力が入り混じっているのを感じとっていた。

自分達が普段から利用している魔力を供給する世界とは、別のところがあるとは聞いた事はある。

だが、実際に目にしたのは初めてであったし、しかも幾つかの世界から同時に供給を得るとなると尋常ではなかった。

この正体が知れない王都跡といい、最近あったと言うヴィーダル出現の事件といい、もしかしたらベルモアは、とんでもない存在の出現に立ち会っているのではないかと密かに期待していたのだ。

ヴィーダル殺しの勇者、もしくは同等以上の者へと変わる可能性がハルタにはあるとベルモアは見ていた。

しかし、連中はベルモアに対して協力の要請・・・と言うより命令に近い事はさせるが、自身の出自や秘密に付いては幾つも隠している事が多い。

実際、ハルタの口ぶりから自身は魔力の供給源らしき物を知っている風であったし、ユーカらが不意に投げかけた質問の中には、何かを秘密にしている様子も見え隠れしていた。

一応、それとなく聞き出そうとはしたのだが、やはり信頼を得て無い為に詳細は不明なままだ。

彼らが本当に覚醒、或いは力を身につける為には洗いざらい話して協力してもらうのが一番なのだが、ヘリフ達がレパンドルの連中相手に下手な罵倒をした為、正面切って訴えると逆効果となりかねないので、ベルモアは地道な方法を選ぶしかなかった。

ただし、彼女自身にも野望はある。

それは、魔王を倒すと言う事だ。

ベルモアは大切な物を奪った魔王に対し、一度は諦めにも似た心境に居たのだが、ハルタとその仲間と言う存在を目の前にした時、彼女の中には復讐の炎がメラメラと燃え上がっていた。

それらを表に出す事無く胸の内に秘めたまま、ベルモアは今日も目的へ向かって出来る事を積み重ねる。


 ベルモアには妹がいた。十も歳の違う妹であったのだが、ある時、姉妹揃って魔法使いの要素に目覚めてしまう。

何が原因だったのかは良く分かってはいない。

専門とされる人物の説明では、彼女たちの住む村がジュデの森に近かった為、その影響を受けたのだろうと言われたが、それなら他の村人に何の変化も出ていない事には説明がついていない。

何れにしろ、この世界では魔法使いはなろうと思ってなれる物ではない。

一か八かの方法か、もしくは外道の手法を用いればなれなくは無いが、何れにしろ、魔法使いの素養に目覚めた瞬間から姉妹の周囲は急速に変わっていった。

王都に招かれ、そこで手厚い保護を受けると同時に両親や村にまで恩恵が与えられ、彼女たちは村人たちからも尊敬と感謝を受ける事になる。

魔法使いになる為の訓練や学習は厳しかったが、それらの支えと誇りに満ちた感情が姉妹の救いともなり、国の為にと二人は頑張った。

だが、ある時点から妹とベルモアの扱いには差が生まれ始める。

ベルモアが能力を開花していくのに反して、妹の方は直ぐに能力に限界が現れてしまい、魔法使いとしては最低レベルと言うのが分かってしまったのだ。

それにより、妹の扱いは明らかに酷い物となっていった。

勿論ベルモアも抗議はしたのだが、気がつけば彼女自身も国によって逃れようの無い鎖に繋げられていた為、強く出る事はできなくなっていたのだ。

彼女が育てた魔装騎士達は、結局魔法使いに対する存在でもあったのだ。

そして、下手な言動は村とそこに住む両親の立場さえ危うくする可能性を知った時、ベルモアは自ら口を閉じるしか無かった。

場合によっては妹は人質同然でもあり、最低な扱いをされたとしても、ベルモアは心を殺して見ているだけしかなかったのである。

だが、彼女たちにある転機が訪れようとしていた。

精鋭の魔装騎士を20人も生み出す事で、妹共々開放しても良いと言う話が出たのである。

これはあくまでも噂だが、どうもユールフィアは西側の国と何かしらの取引を秘密裏に行ったらしく、それによって魔法使いを必ずしも必要としなくなったらしい。

これを受け、ベルモアは精鋭の魔装騎士を生み出す事に邁進した。

魔装騎士を単に育成するだけなら簡単だが、精鋭となるとかなりハードルは上がる事になる。

それ故、こうした申し出を受けた魔法使いは殆どいなかった。

何故なら、精鋭の魔装騎士を誕生させると言う事は、いわゆるバウンターと呼ばれる存在にしなければならないからだ。

その為には訓練以外にも本人の才能や素質も重要となる為、ベルモアはユールフィア中を駆けずり回った。

お陰で他の連中が驚く程のスピードで次々と魔装騎士を誕生させたのだが、それでもバウンターレベルに達したのは僅かに4人程だった。

如何にハードルが高いかが分かる話でもあるが、彼女自身は確かな手応えを感じてもいたのである。

その裏には妹の協力が強く関与してもいた。

魔法使いとしては余り能力の高くない妹ではあったが、意外と個人に存在する魔力を使う器の調整や鑑定に関しては優れており、それが大きな手助けともなっていたのである。

この調子で行けば、必ず姉妹揃って自由になれるとベルモアは信じていたが、シーゼスと、それが引き連れてきた魔王によって全て無駄となった。


 突如現れた魔王は、彼女が手塩をかけて育てたはずの魔装騎士やバウンターを、一撃で妹ごと葬りさったのである。

そして、周囲の物は逃げ出し辺りは混乱に包まれた。

突如死んだ妹を目の前にしてベルモアも混乱した。

そして、彼女自身も訳も分からず逃げ出したのだ。

いや、もしかしたら長年の努力が一瞬で失われたのを、受け入れられなかったのかも知れない。

気がつけばジュデの森に辿り着き、生き残りの魔法使いとも合流したが、彼女自身は全てに実感が沸かずに居た。

そんな時、レパンドルの生き残りの連中と出会ったのである。

ヘリフ達生き残りが彼らに敵意を向けた事で、結果としてベルモア達は囚われの身となった。

最初は彼女自身も捕まるなどとは思ってもいなかった。

魔装騎士が魔法使いに強いと言っても、こちらもかかる負担を無視して相手を殺すつもりで戦えば互角以上に渡りあえると思っていたからだ。

だが、後から現れたレパンドルの連中の装備は強力で、不意打ちに近い事もあって決死の魔法攻撃さえも凌いで見せたのである。

更に、その後に現れた小さい戦士・・・後でアニーと呼ばれるアーマルデ・ロイデンによって、ヘリフ達は瞬く間に叩きのめされて今に至っている。

或いは、ベルモアがハルタ達に従っているのは、後に更に出会ったルミンやアニーに妹の影を見たからかも知れない。

しかし、本人は今はそれを意識しない様にしていた。

そして、そのルミンが邪神と共に何時もの様にやって来る。



 特別に用意された部屋に邪神とルミンが入るのを確認してから、ベルモアもその後に続く。

中に入ると既に邪神の方が外苑を脱いでおり、その姿を晒す。

何時ものベルモアなら側にいて観察を抜け目なくしただろうが、流石に邪神の前ではそれはできなかった。

美しい邪神は微笑んで穏やかそうにしているが、その周囲にある魔力はベルモアの一挙手一投足を常に監視している気配がある。

向こうが実際にそうしているのかは、実は分からない。いや、次元が違いすぎて気配と言うのもベルモアのただの感想に過ぎないのだ。

その恐ろしい邪神は何故かルミンと言う子供がお気に入りの様であり、その体を常に心配していてお陰でベルモアも近づく事ができていた。

このターナと呼ばれる邪神も元はハルタのアーマルデ・ロイデンだったらしいのだが、それも信じられない話だ。

マスターを殺さない邪神の話など、これまで伝わっている話からすると有り得ない事である。

そうした点も含め、ユーカ達は本当はアーマルデ・ロイデンでは無いのかも知れない。

それはそれで、ベルモアにとっては一つの可能性が増えているとも見る事ができていた。


 背後に居るターナに勝手に重圧を感じながら、ベルモアはルミンの定期的な検査を行う。

特に状態に変化は見られない。と言っても、このルミンは燃えるロウソクの近くに可燃物をぶら下げている様な状態でもあるので、今変化が無いからと言って安心できる物でもない。

要はベルモアにも先が読み取れない存在でもあるのだ。

この辺りに付いてはハルタに口止めされてもいるので、恐らく自分以外には知らないはずである。

それを悟られぬ様に心を鎮めてから、ベルモアは邪神ターナにルミンの状態を報告した。

相変わらず穏やかな表情でターナは終始ベルモアの説明を聞いている。

事前に知っていなければ聖母や女神と勘違いしても良い存在だが、今は隠されていない背後に見える魔力の器がハッキリとそれを否定していた。

むしろ穏やかな表情をすればする程、底知れぬ恐ろしさを醸し出している。

きっと、この邪神にして見ればベルモアの存在など取るに足らない存在に違いないだろう。

時折感じる無造作な所作に、まるで自分を虫けらの様に見ている様子も感じられていたからだ。

だからこそ、更に違和感を感じずには居られない。

ルミンと言うただの子供、それも魔法使いの成り損ないに、どうしてここまで愛情に似た物をこの邪神は注いでいるのか。

聞いていた噂と余りにもかけ離れた姿に、ベルモアは実際に見ている光景さえ幻の様に思えて実感できなくなる時があった。






 キライスはシーゼスの西方にある閉鎖された採掘場跡に来ていた。

東側は農業に関してはジュデの森の恩恵もあって豊かである一方、鉱物資源などには乏しいとされていたが、ここは正にそれを現している場所だと言えるだろう。

そこは起伏の激しい地形であったが穴が掘られているのはほぼ真下の地面であり、更にそれらは奥深くまで坑道となって続いている。

資源を必死になって探し回った跡とも言える様に、坑道は複雑に入り組んでもいた。

周囲にはかつてここで暮らしたであろう人々の痕跡も多数見受けられたが、家屋は既に基礎を除いて消え去っており、あらゆる物が風化著しい。

恐らくだが、一時に大量に人が入り込んだ後、資源が尽きたと同時に一斉に引き上げたのだろう。

その様子から見ても、ここが使われていた期間が短いのが伺える。

起伏に飛んだ地形の更に先には大きな峡谷が広がっており、それを超えればロウバル連合王国との国境にぶつかる。

なのに警戒が薄いのは、厳しい地形も関係してはいるだろうが戦略的な事を含めて、ここに価値が無いと見られているのかも知れない。

ジュデの森からも離れたそこは、それだけで不毛とも言える土地となっていたのだ。

ただ、キライスはここが好きだった。

ここの風景は西側に広がるジュデの森を隔てる土地に似ていたし、ともすれば彼の生まれ育った場所にも似ていたからだ。

デファーナ大陸の南に広がる広大なジュデの森は、西側からもその規模故に遥か遠くに望む事はできた。

しかし、西側は南に下る程に地形が複雑となり、更には幾つもの深い谷や亀裂が走っている上、そこにも強力なモンスターが潜んでいる為に抜ける事はおろか、近づく事さえ容易ではないと言われている。

キライスは、その近づくのも困難と言われた谷で育った。

物心が付いた時には既に親は無く、そして幼い時分から生きる為に大人に混じってモンスターと戦ってきたのだ。

毎日が瀬戸際であり、見知った顔が次の日には居なくなるのは普通だった。

そんな中で生き残った彼は、当然の様にして抜きん出た戦闘力を否応なしに身につける事となる。

そして、その身につけた能力により、今は世界を揺るがさんとする目論見にさえ携わろうとしていた。

坑道の奥深く、キライスによって更に広げられた空間に彼は足を運ぶ。

そこには本来の封印から時放たれた事により、着実にある物が育ちつつあった。

仮の封印も施されてはいるが完全に力不足であり、それの活性化を遅らせる程度にしか効果はない。

ただ、これに関しては分かった上での物でもあるのだが、果たして計算通りに持つかどうかは賭けでもある。

封印の状態を確認しようとキライスが近づくと、その中で育ちつつある何かが身を捩った。そして、出来上がりつつある目が開いてキライスを見ると、口を歪める。

それは笑っている様にも見えたのでキライスも釣られて笑うが、どうしてそうしたのかは自分でも分からない。

下手をしたら、世界に終わりをもたらすかも知れない玩具を好きに出来るかも知れないと言う事に、自身の気も大きくなってしまったのか。

再び眠りについたらしいそれを通して、キライスは地下の空間から見えるはずのない西側の故郷に思いを馳せるのだった。



 その西側にあるラウナー公国の首都にして王都、コルモンレスキルの城奥深くにバッツロギィ達は来ていた。

謁見の目通りが許され、今は王が来るのをカーロブと共に待っている。

そこは秘密の謁見場所であり、バロルと言った極秘の任務に当たる連中だけが密かに王と会う為だけに用意された場所でもあったが、実はめったに使われない場所でもあった。

基本、連絡や報告は王以外の関係者を通じて行われるのだが、今回だけはバッツロギィから強く申請した為か、念願かなって直接会って話をする運びになったのである。

ただバッツロギィ本人としては、この様に事が運ぶとは考えていなかった。

駄目元と言う気持ちもあったし、十中八九却下されると思っていただけに、最初に聞いた時は多少なりとも彼も驚いた物である。

確かに強めに申請はしたが、この様な結果になると言う事は、恐らくだが国王からも何らかの働きがあったと彼は推測していた。

それだけ、今回の事案は王も懸念を持ったと言う事であり、もしかしたらバッツロギィが知る以上の事を既に把握している可能性もある。

ハイヤッキ機構を感知できるのは王かその関係者だけと言われてはいるが、その仕組みは今も秘密にされており、ある意味で彼が考えていた疑問の一つがこれで解けるかもしれなかった。

とは言え、王とは会って話をする事はできたとしても、その姿を見る事はない。

何故隠しているのかは分からないが、ラウナー公国において王の姿は誰も見たことがないので、バロルと言う特殊な組織に属するバッツロギィとてそこは例外ではなかった。

故に、秘密の謁見場所にも王が来るであろう場所には幕がかかっている。それを挟んで会話をする事になるのだ。

幕と言っても完全に向こうが見えない物ではない。その証拠に、向こう側の椅子や何かしらの家具の影や形が何となく分かる仕様なので、王その人が来れば直ぐに分かる様になってもいる。

バッツロギィが王と会うのはこれで三度目であるが、やはり何れも幕を通してでありシルエットこそ確認はしたが、その顔を見た事はない。

と、幕の裏側に唐突に人の影が現れ、バッツロギィは片膝を付いて頭を垂れる。その背後でカーロブも同じ様に動いているのが感じられた。


「報告せよ」


抑揚の無い無造作な声が投げられてきた。過去二回あった記憶が直ぐに蘇り、バッツロギィの中で王であると頭の中で認識する。


「はっ。 先ずは、色々と手はずを整える為、帰還と報告が遅れました事をお詫び申し上げます」


何時ものオネエ口調とは違う言葉遣いで喋ると、バッツロギィは深く頭を垂れた。


「更に、陛下より力を賜った同胞、コニュムヌ・タタロンを失いました。 その処罰は甘んじて受けますが、全ての責は私にあります」


背後でカーロブが身じろぐ気配がしたが、王の前なので彼も何も言わない。そして、肝心の王からも何も言葉はなかった。

長い沈黙。

耐えかねた訳ではなかったが、バッツロギィは義務として報告を続ける。


「東側にてダースフィルとの交渉は概ね良好に進めております。 ただ、結果としてこちらが手を貸す形ともなったのですが、シーゼスとテロータ帝国の動きが速くて交渉は一時停滞しております。 ですが、むしろ軍事的な驚異を前に協力関係に選択肢を持たせられたのは好機かと」


一息付いて言葉を切る。しかし、やはり王の気配はあっても相変わらず返答はない。その為、バッツロギィは手応えが無い罰ゲームの様な物を感じながら、更に続ける。


「彼の地にて出現したとされるハイヤッキ機構らしき存在と接触、これと戦闘にまで及びましたが、相対した感じで言えば別物であると個人的には考えています。 正体については今一度調査が必要となりますが、少なくとも我々が危惧する様な存在ではないかも知れません」


そこまで言ってからバッツロギィは顔をやや上げて幕を見た。当然だが、王の姿は見えない。あるいは、自分が動いた事で何かしらの声をかけられるとも思ったのだが、全く反応はなかった。


「・・・陛下、ハイヤッキ機構の存在を感知したと言う報告は陛下から直接賜われると聞き及んでいます。 ならば、今はどうなのでしょうか。 我々は失敗したのでしょうか。 それとも・・・・」


バッツロギィが話を続けようとした時、杖を地面に突く音がして彼は口を噤む。


「ご苦労であった。 それについては、また別の者から報告されるであろう・・・が、一応、こちらでも既に大体の事は把握している。 恐らくだが、普通とは理を離れた力を使う者らしい。 貴様の見立てと報告は正しい。 力を分けた者を一人失ったのは痛手であったが、お前たちが無事に戻ってきてくれた事、嬉しく思う。 これからも、国の為に励めよ」


「で、では王よ。 その理を外れた者の処分は?」


ここでカーロブが割って入る。

恐らく話には続きがあったであろうが、彼個人としては否が応でもコニュムヌの仇を取りたいが為に、訴える機会を待っていたのだろう。

このまま、任務ご苦労様で話を終わらせる分けには行かなかった彼は、叱責を覚悟で王に話しかけたのだ。


「・・・ハイヤッキ機構では無いであろうが・・・・亜種の可能性も捨てきれぬ。 故に、奴は生きたまま捕獲し、我が前に連れて来るのだ」


「「!?」」


声にならない驚きをバッツロギィとカーロブは上げる。しかし、彼らに反論は許されなかった。何故なら、王が杖を振る様な動作をしたからだ。つまり、下がれと言う事である。

だが、カーロブは食い下がった。


「ど、どの様にして生きたまま連れて帰れと!? コ・・既に仲間を一人失っています。 戦った私は断言できます。 奴を生け捕りにするのは困難です」


「ちょ、カーロブ、止めなさい」


「だが、俺は奴を・・・」


本音の所ではカーロブも生け捕りは決して不可能ではないと考えてもいた。多大な犠牲を支払う可能性はあったが、戦った感触から既に幾つかの対抗手段と術を彼自身もはじき出していたからだ。

しかし、感情の部分ではそれを受け入れる事はできなかった。


「ふむ・・・難しいか。 では、その者に次に接触したら、こう言うが良い。 ”アニーズ” ”変な言葉” これで反応を見るが良い。 もし、向こうが興味を持ったなら、我が元に来る様に言ってみよ。 答えを教えるとな」


「それは・・・?」


しかし、王はもはや何も語ろうとはしなかった。既に下がれの合図もあった以上、バッツロギィ達もこれ以上食い下がる分けには行かない。

とは言えバッツロギィだけは、ある程度の感触は掴めた事に満足する。やはり、王は何かしらの形で世界の歪みや異物を直接感知できるのだと。

一礼をすると、彼らは踵を返して歩みだす。と、その背後に唐突に声をかけられた。


「その正体不明の相手、強かったか?」


それを受けてバッツロギィは振り返る。相変わらず王はシルエットだけの存在だったが、強いオーラの様な物を放っている様にも見えた。


「・・・正直、分かりません。 相手は、少なくとも魔法を使える様な存在ではありませんでした」






「あの子達、相当に堪えているようね」


バッツロギィ達が去った後、幕の裏側では王と呼ばれる者とはまた違う人物が一人、ふらりと現れた。


「そう見えたのか?」


「相変わらず薄情ね」


「ふん、何年過ごしたかも忘れるほど生きればこうもなる。 で、知りたい事は分かったか?」


そう問われた人物、女は"さあ?"と言う感じで両手を大げさに広げ、ジェスチャーだけで返した。


「それを知る為に、連中から直接報告を受けたのではないのか」


「ま、多少の期待もあったけどね。 それよりも、仲間を失ったあの子と達の為にしてあげた事よ。 ホント、貴方って組織運営に向かないわね。 良く、この国が今まで存続できた物だわ」


「それだけ、優秀な人材が揃っていると言う証拠だ。 それをしたのも俺なんだから、結局優秀なのは俺なんだよ」


「呆れた。 自分で、それを言う?」


「じゃあ、お前が俺を褒めるのか? 余計に馬鹿らしいぞ」


「確かに」


そう言って、女と王は急に押し黙ってしまった。暫しの沈黙の後、話を続けたのは王と呼ばれる人物の方だった。


「にしても、連中、新しい試みを今更ながらに試しだしたのか? どうなんだ」


「それも分からないわ。 ただ、今になって試作された力を使う奴を寄こすなんて、どう言うつもりなのかしら?」


「試作世界にアクセスできると言うのは、ある意味で驚異だがな」


「効率悪いわよ。 だからこそ今の仕組みが用意されたんじゃないの」


「まあ、そうなんだが、対抗手段としては悪くはない。 しかし、確かに効率は悪いな。 連中の計画はただでさえ遅延していると言うのに、何故さらに遅れる様な真似をするのか・・・他に何か分からないのか? "ハルコさん"」


「それ、止めてって言ってるでしょ。 ・・・今の所、反応を拾う以外に特に何も無いわ。 驚異度の方でも変化がないし、あの子達が報告した様に、実は放って置いても問題ないのかも」


「だからこそ、確かめて見るべきだろ。 予定外の力を使わされている奴が、どんな風に戸惑っているのかをな。 それに、何時の間に東側に行ったのかも尋ねてみたい」


「私、探知し損ねた訳じゃ無いわよ?」


「知ってる。 よっぽど反応が弱いか、覚醒が遅かったかしたんだろうが・・・それでも無事だったと言うのが腑に落ちない。 どんな手段を使って生き残ったのか、今後は漏らさない為にも聞いておきたいだろ」


そう言って不敵に笑った王に対し、溜息で返したもう一方の人物は性別が違う事を除けば、双子の様に彼と瓜二つの顔をしていた。

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