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俺のLVは上がらないのに、  作者: 松戸真 寿司
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~謎の勢力~ -38. 勇者の賭け その3







 話はマツリカ達とユーカが合流する少し前に遡る。

絶対的な危機を彼女たちが迎えていた頃、ハルタは三人の敵マスターと戦っていたが、端から見れば数的にも能力的にもどちらが上かは容易に分かる展開が続いていた。

実際、ハルタはたった二人に殴る蹴るの暴行を一方的に受けると言う形になっていたのだ。



 強烈なタックルと素早い蹴りを同時に喰らい、俺は吹っ飛ばされて無様に地面を転がる。

ハッタリに近い啖呵を警戒された訳でもないだろうが、敵は全く攻撃の手を緩めない。

いや、連中は徹底したプロと言う事なのだろう。

武器や魔法を使わないと言うのがちょっと引っかかるが、それだけに厳しい攻めを一切の油断も慢心もせずに仕掛けてくる。

そのお陰で俺は良いようにやられっ放しなのだ。

もっとも、俺と連中では能力的にも根本的に差があるので、当然の結果が出ているだけとも言えるのかもしれない。

何より相手は本職の軍人でもあるだろうし、戦う訓練を当然の様に基礎から学んでもいるだろうから、素人同然の俺では能力以前の話しでもある。

その証拠に、こっちから繰り出す攻撃は尽くかわされ、逆にこっちの体が流れた瞬間を見逃さずにキッチリと反撃を加えてくる。

嫌らしい事に前面には常にカーロブとか言う奴が居座って俺の勢いを削ぎ、出来た隙きに対してはコニュムヌと言う女が素早い一撃を放り込んできた。

カーロブと言う奴にも隙がないのだが、更に輪をかけて、この女の攻撃は厄介その物だった。

 カーロブと言う奴の攻撃は見えるのと、速度もそれなりの為に耐えると言う体制をとれるのだが、コニュムヌは奴の体に隠れて意識外から襲ってくる上に、物凄く柔軟で速い攻撃を加えて来るので身構えて受けると言う事すらできない。

その性で俺が反撃できる機会も少ないと言える。

偶に繰り出す攻撃は、ある意味で相手に制御された隙きの中でしか行えず、容易く見切られてしまう。

しかし、攻撃しているはずの連中の顔は、終始有利に事を進めているにも関わらず明らかに曇っていた。

そりゃそうだろう。

確実に相手の攻撃は俺に入っているというのに、殆どダメージを負っていないのだから。

そう、これこそが俺が考えていた唯一の勝機だった。


 俺自身が根拠として持っていた勝機とは、本当の事を言えば物凄く薄いものだ。

王都でのチンピラ達との一件と、キライス戦での僅かな介入。リディの鎧内部に居た時、アンガムのファルラースを食らった件も補正的な面が無かったと仮定したら入れても良いかも知れない。

本当なら、もっとじっくりとこれから確認したかった事でもあるのだが、結果的に実戦で証明した形になってしまった。

恐らくだが、俺は"対ヒューマス特化型"の何かなのだ。


 チンピラ達との喧嘩では、連中の攻撃は子供に叩かれる程度の痛みしか感じなかった。単純に腕力の差があったにも関わらずだ。

しかも、相手が武器を持ったとしてもそれは変わらず、傷を負わされはしたが俺的な感覚では引っかかれた程度にしか感じなかった。

そして、キライスとの戦闘でもそうだ。

腕一本失っても良いと思って繰り出した魔法への打撃はしかし、ある程度のダメージは負ったが規模的な事を考えれば大した事はなかった様に思える。

直後の爆発力から考えても、奴が手加減したとも思えない。

まあ、直撃だったらどうなるかは分からないが、少なくとも術者が考えている程のダメージは負っていなかったはずだ。

無論、これだけで俺が対ヒューマス特化型である事の全てに説明はつかないし、もしかしたらズレた考えなのかもしれないが、少なくとも相対している連中の攻撃は殆ど俺に効いていないと言う事実だけは本当だ。

後は、こっちの攻撃を当てる事さえできれば、更に確信に変わると同時に突破口を開けるはずなのだが、その当てると言う行為がもっとも難しい。


 バッツロギィは、後方から三人の攻防を静かに観察していた。

もし勇者なる存在が本物のハイヤッキ機構であった場合、彼が全力で相手をする事になるし、その準備も万端に整えている。

この中では一番彼が高位から魔法を使う事ができた為、ある意味で妥当な考えだった。

だが彼が見る限り、ハルタと言う男はハイヤッキ機構ではない。しかしまた、非常に奇妙な特徴を持つ存在でもあった。


 魔力糸が展開されている事から、魔法を何らかの形で利用しているのは間違いがない。

その魔力糸も報告で聞いた物以上・・・と言うよりは、彼の知っている様式とも少し異っていた。

そう言えば魔剣の人形が報告した時、セカンドクラス以上と言う曖昧な表現をしていたが、確かにこれは判別が難しい。

アーマルデ・ロイデンは魔力糸と呼ばれる物を武器と結合し、それによって術を発動させ維持するのだが、それらは術者の才能や能力によっても左右される。

魔力糸が太ければ太いほど人形はより強力な力を発揮できるし、また、高い能力を持つ武器を人形化させ易くもなるのだ。

とは言え、この魔力糸自体を形成する場合、その一本辺りの太さには限界がある。

様々な特性上、個人の持つ魔力の器、5分の1程度が最大であり、ヒューマスである以上はどうしても限界があるのだ。

それ以上に魔力を放出すれば器は壊れてしまい、魔法その物が使えなくなるか、最悪の場合は魔力の暴走に当てられて死ぬ事になる。

それはバッツロギィとて同じ事だ。

それ以上の力を求めるとなると魔力の器を大きくすれば良いのだが、種と言う枠組みからは抜け出せない以上、どうやっても無理な面はある。

それを超えるとなれば、それはモンスターでしかないし、エレメンタリス共の禁断の技を用いるしかない。

故にアーマルデ・ロイデンとされる連中は、技術的な面でこれらを解消しようと試みてきた。

その一つが魔力糸を一本ではなく、複数を張り巡らせると言う方法である。

魔力糸の太さには確かに限界はあるが、複数を展開させる事は不可能ではない。


 あくまでも概念的な話ではあるが魔力糸を形成する方法は、口に含んだ水を勢いよく飛ばすのと似ているとも言える。

口に含んだ水を飛ばす場合、ただ口を開いただけでは継続した形で勢いよく飛ばす事はできない。

しかし、口を窄めて量を調整する事で長く遠くへと安定して飛ばす事ができる。

器用な者であれば数本を唇の間から飛ばすと言う事もできるはずであり、魔力糸とは正にその様な仕組みとも言って良いのだ。

故に太さが限られる以上は一本よりも二本、二本の間に更に連結させる魔力の糸を形成させる。

そうした形で魔力を送り込む量を増やすと言う方法が編み出されて来たのだが、この方法によってクラス分けもされる様になった。

とは言え、それらは大雑把な形でしか分けられておらず、明確な区分は難しいともされている。個人の能力や技術的な面にも左右されるので、あくまでも参考程度に使われてもいた。

一本程度、もしくは複数が術者から出ていたとしても連結されていない場合、それらは最も下であるワンレーンクラス、或いはクラスワンとも呼ばれる。

その上が、見た目的にはクモの巣状にして張った物で、セカンドサークルクラス、或いはセカンドクラスと呼ばれ、今日知られる多くのアーマルデ・ロイデンがこれであった。

更にその上は、見かけは板の様に見えるフルトップベースクラス、或いはフルベースと呼ばれる物で、それらの人形の力は桁違いであり、場合によってはバッツロギィ達でさえ警戒すべき存在だ。

もっとも、そのフルベースは常時維持できる様な術者は存在しておらず、大抵は一時的にしか出来ない条件付きのものが多い。

魔力糸を無理矢理形成すると言うこと自体魔力を使う為、必然的に限界がある為だ。

ただし、バッツロギィ達は素でフルベースを維持する例外的な存在でもあった。

いや維持すると言うよりは、意図せずとも、その様に使う事ができると言った方が正しいだろう。

もっともそれは外部的な補佐があっての事でもあるし、それによってバッツロギィを含むバロルメンバーの多くが、一段階、或いは数段階上の魔力を使う事もできていた。

その力でバッツロギィは多くの敵を屠ってきたのだが、その中にはアーマルデ・ロイデンも数多く存在し、それ故に魔力糸の種類も幾つか見てきたつもりだ。

そうした経験もあっただけに、目の前の男の異常な魔力糸には眉をひそめる。


 セカンドクラスと言って良い形状で確かに展開されてはいるのだが、魔力糸の途中途中がマスターに繋がっておらず、一見すると蜘蛛の巣が壊れた様な中途半端な形状にも見えた。

小さい故に余程注意しないと見落としてしまいそうだが、良く見ると途切れている魔力糸は明らかに何かしらの空間に繋がっており、そこから魔力を引き出している様にも見える。

こんな物は見た事がないし、方法的にも全く知られていない・・・いや、不可能な方法だ。

バッツロギィ自身、いや、この世界の全ての者が魔法に関する事に全ての解を持っている訳ではないが、常識とされる事から言えば、この男の魔力糸は明らかにおかしかった。

これでは、魔力糸の方が主となって魔力を調達してる様な物でもあり、本来的な制限、ヒューマスの器の限界を軽く超える事もできてしまう。

大体、魔力糸とは魔力を対象に注ぎ込む為の手段でしか無いはずであり、そこから魔力を直接吸収する等ありえない。

魔法や魔力と言う物は極論すれば落下する石の様な物であり、一方通行的にしか力は取り出せないはずなのである。

それに当てはめてみれば、この男の力は落下する石が自ら力を取り出して加速している様な物であり、全くの異質とも言えた。

それどころか、このハルタと言う男には魔力を使う為の器すら恐らく無い。


 魔力を使う者は大抵、大なり小なり自らの器に魔力を取り込んでから使う。

この為、体からもその魔力が放出されるはずなのだが、それが全く無い。

だとすれば、この男はハイヤッキ機構どころか、魔法を使う素質すら無いはずなのだ。

稀に器が無い様に見える者も確かに存在するが、それは小さいだけと言う場合も多い。

そう言った物であっても、使えるかどうかは別として魔法を何らかの形で利用すると、必ず器を通して使う為に魔力が体から放出される物なのだ。

ただし器が小さい者は、使う場合の魔法の型に合わせられる余裕が無い為、器が壊れて死に至るとされている。

多くのヒューマスにとって魔法が危険なのは、個々が持つ魔法を使う型が未発達であり、平行世界にあるとされている魔力を取り出す時、不安定な形状の魔法の力に対して器が受け入れるだけの余裕が無い為に危険となる場合が多い。

魔法を使う為には一々別の貯蔵場所から魔力を取り出す必要があるのだが、この時、魔法を使う器を使って貯蔵場所に穴を開ける様な事をする。

よく訓練された者であれば、その開ける穴の大きさや形を上手く調整する事も可能なのだが、能力の無い者や器の限られた者であった場合、開け方によっては器が容易く壊れてしまう量を取り出したり、本来必要な魔力量を取り出すには小さすぎる穴を開けてしまう事もある。因みに、小さすぎる穴を開けてしまうと器との連結が上手く行かずに簡単に結合部が閉じてしまい、結果として魔法は使うことができない。


 これらの事は、ある意味で弾丸が体に向かって発射される様な物でもあり、その弾丸が上手く通り抜ける器を持っていなければ当然死ぬ事と同じと言えるだろう。


 それに対してハイヤッキ機構とは、この取り出すと言う作業がいらない物と言われている。

何らかの形で常に魔力の貯蔵庫と器が繋がり、安全に好きなだけ取り出す事が可能なのだそうだ。通常の魔法使いの場合、器に魔力を充填した後、必要に応じて再度魔力を取り出す作業が必要となる為、タイムラグや制限がどうしても発生する。

ところが、このハイヤッキ機構は魔力を取り出す世界と常時繋がっている為、器の大きさに左右されるとは言え、魔力は使い放題ともなるのだ。

それでも単に膨大な魔力を何時でも使えると言うだけの存在であり、使う力その物は器に左右される事に変わりはない。

勿論、それらの魔力を使って器を広げると言う事も可能であり、実際、高レベルの魔法使いの多くがそうしている為、恐らくハイヤッキ機構の者なら、そうと知らなくても器を大きくするだろう。

何より、魔力を膨大に取り出せると言うのならば、魔法を使うと言う事を自然とするはずなので、器は必ず形成される。

しかし、この勇者とされる男には、その気配が全く無い。

実際、魔法を使っている様には見えず、それなのにカーロブ達の攻撃に耐えている。

魔力糸が他空間から魔力を取り出しているらしいと言うのも、実はバッツロギィの見解に過ぎず、実際には何をしているのかは分からなかった。

何せ、この男の魔力糸はやたらと白く濁っていると形容しても良いので、魔力の流れが見えないのだ。それと同時に、体の方への繋がりもよく見えない。

いや正確に言えば、この勇者と呼ばれる者と魔力糸は直接繋がっていないのだ。その隙間は僅かな為、パッと見では誰も分からなかっただろうし、常識的に考えればありえない事もである。

恐らく下位程度の連中であれば、この男の魔力糸を流れの遅い低レベルの物と見て気にもかけなかっただろう。

ある意味、高位の魔力を使えるバッツロギィが、じっくりと観察したからこそ気が付けた事とも言える。

いや、彼の経験と素養も関係していたのかも知れない。

実際、カーロブとコニュムヌは気が付いていない様だった。

一体、どういう事なのか。




「ふぅ・・・・この程度か。 お前ら、本当は大した事ないんじゃないのか?」


思う様にならない状況に、俺は更にハッタリでどうにかしようと試みた。

それに挑発されたのか、カーロブが肩を怒らせて突進の体制を取る。

これで頭に血が上って迂闊な事をしてくれれば、コチラの思うツボだ。


「おどきなさい」


不意に掛けられた声に、カーロブとコニュムヌが素早く反応して両脇に飛び退く。

ハッとして顔を上げると、バッツロギィと言う奴が魔法攻撃を放って来るのが見えた。

規模からしてもヤバいのが分かる。


「し、しまっ・・・」


回避どころか声すらまともに上げられずに、俺はその攻撃をまともに食らってしまう。



 轟音と共に激しい炎が巻き上げられ、標的の居た辺りの更に後ろにも魔法は届き、貪欲に焼き尽くそうとした。

木々が一瞬で焼き抉られ、地面すらも威力のままに痕を付けられる。

如何に強力な攻撃であるかが、それを見ただけでも分かると言う物だ。


「やっちまいやがって・・・・倒しきれたんだろうな?」


カーロブがバッツロギィの隣に来てため息まじりに呟いた。その呟きには、相手の正体を確認もせずに倒してしまった事以外にも、迂闊な行動への非難も含まれていた。

しかし、当のバッツロギィはそれを無視する。もし相手が本物であれ偽物であれ、この攻撃を受ければ判定可能だと思ったからだ。

偽物か単なる雑魚なら即死だろうし、ハイヤッキ機構の亜種や関係する物であるなら多少は耐えるはずである。

それで判別は十分に可能となるのだ。

本当の事を言えば相手が本物のハイヤッキ機構で未熟者であった場合、迂闊に強力な魔法攻撃を仕掛けると一時的に魔力を暴走させ、強力な力で襲いかかって来る可能性もあるとされている為、これは危険な行為でもあった。

もっとも、その暴走は自壊込みでもあり、勝手に死んでくれるのであればバッツロギィ達にとっては都合が良い物でもあると言えよう。

周辺に及ぶ被害は甚大となる可能性もあるが、東側の事など彼らにしてみれば知った事ではない。

それに暴走状態で襲いかかって来た所で、バッツロギィの力から考えれば大した事でも無いと思っていた。

寧ろ、本気の能力開放を試せる為に望むところでもある。

どの道、魔法を使えない相手では大した事が無いと踏んでの事でもあった。


「まともに食らったんだもの。普通なら消し炭よ。 ま、生きていたとしてもタダでは・・・」


「アチッ! アチチチッ」


炎から飛び出して来た相手を見て、バッツロギィは自身でも分かる程に驚いた顔をした。

攻撃をくらった相手は、何かしらのダメージは負っている様にも見えたが、魔法攻撃の規模からは考えられない程に無事な様を見せる。

いや、それどころか衣服を燃やす小さな火以外を見れば、全くの無傷であると言っても良い。

放った攻撃魔法ファルディスは、炎系の攻撃魔法でもファルラースに次ぐ攻撃力を持っている。

しかも、自分のそれは高位に当たる物であり、モンスターすら目ではない。

それをまともに食らって動けるなど、普通に考えてありえないのだ。

例え相手がハイヤッキ機構であったとしても、魔法という枠組みにある以上、この魔法攻撃を無傷でやり過ごす事など考えられない。

ましてや、相手は魔法を使った様子が何一つ無い。

いや、この男は、観察する限りでは魔法を使える能力すら無いはずであり、何よりハイヤッキ機構的な暴走も起こしていないのにも驚く。

即ち、全て想定外だったのだ。


「な、何が・・・一体・・・」


驚愕しながらもバッツロギィは、立て続けにありったけの魔法を叩き込む。

相手は動きが鈍く、容易に魔法攻撃は命中する。

 魔法をまるで石ころを投げるかの様に使うバッツロギィに、改めてこの男は恐ろしい奴だとカーロブは思った。

この力こそ王より授かった特別な力の一つであり、ある意味で彼はハイヤッキ機構を体現したに近しい者とも言える。

高火力の魔法を連続で放つと言う力は、ともすれば一国すら簡単に滅ぼすだろう。

しかし、その攻撃に晒されている相手は、火の熱さには悲鳴を上げている様だが、放たれる魔法の威力に比べると明らかにダメージを負っていない。

その様子に、バッツロギィも遂に攻撃を止めてしまう。


「コイツ、何なのよお!?」


絶叫が辺りに響いた。



 俺は魔法攻撃を連続で喰らいながらも、それに只管耐えていた。

魔法攻撃が命中した瞬間、正直死ぬとも思ったのだが、強烈な圧に吹っ飛ばされる様な感覚があっただけで、それ以上は何もなかった。

いや、打撃力と言うのは相当な物でもある為、しっかりと対応しないとヤバいのかもしれない。それでも、想像していたよりは大した事が無いのも確かだ。

寧ろ、その後に周囲に燃え移った火にこそ悩まされる。

魔法により生み出された炎は何でも無いのに、それによって発生した火は普通に熱いのには俺も戸惑ったが、少なくとも俺の仮説は正しいらしい事が、ある意味では裏付けられた。

と、思いたいのだが、ふと上を見て俺は絶句する。

何かしらの魔法陣が頭上に展開されており、見た目で危険な物だと分かったからだ。

あの眼帯の男、魔法を連続で繰り出しながらも別の魔法の準備もしていたらしい。能力で言えば、あのキライスと本当に互角以上と見ていいだろう。



「いま、いま、しい、クソ勇者が! 消えなさいよー!」


バッツロギィの雄叫びに呼応する様に魔法陣が怪しく光ると、強烈な光が幾重にも重ねられ、それは急速に収束したと思った瞬間、ハルタ目掛けて強烈な一撃を見舞った。

その一撃にハルタは地面へと四肢を投げ出す様にめり込み、直後に激しい爆風が辺りを襲う。




「む、無茶をしやがって。今度こそ、やったんだろな!?」


「あったり前じゃないのよ。 絶対殲滅魔法のリューカースよ。 クソエレメンタリスだって骨すら残らないわ。 ましてや、魔法も使えない相手なんて!」


巻き上げられた煙が晴れると、バッツロギィの言葉通りに、そこには巨大なクレーターが出来上がり、土や石、或いは岩であっただろう物は溶けるなどして別の物へと変わっている。


 しかし、その何も無いはずの地面の中心が盛り上がったと思ったら、地面の中から腕が天を掴む様に伸び、それを追うかの様にして人が這い出てきた。もちろん、ハルタだった。



「ば、馬鹿な! リューカースを食らって、生きていただと!」


驚きの声を上げたのはカーロブだったが、隣に居たバッツロギィは無言で更に連続した魔法攻撃をハルタへと仕掛ける。

だが、相手は相変わらず大したダメージを負っている様には見えず、とうとう攻撃は途切れてしまう。




「ふぅ、ふぅ。 ど、どうだ? 言っただろ。 これこそがお前らの弱点だ」


肩で息をするのを何とか抑えこみながら、俺は必死に余裕を作り出そうとした。何としても、次へ繋ぐ仕掛けをここで作らないと反撃の機会は来ないと思ったからだ。


「弱点だと!?」


カーロブが、肩を怒らせて聞き返す。


「相手を舐め腐って、自分の本当の実力を見抜けてないマヌケって事だよ!」


俺は出鱈目を最もらしく言い放ってやった。

ネタバラシをしてやる筋合いもないし、正直に言えば俺自身も手詰まりだったからだ。

魔法攻撃は効き目が無いとは言え、その威力によって一々動きを止められるし、周囲に燃え移った火と熱さはどうにもできない。

特にさっきの様な特大の攻撃魔法は、下手をしたら地面の底に埋められて窒息させられかねない。できれば喰らいたくないのだが、スピードと攻撃速度は向こうが上なのでかわす事もできない。

加えて俺がアテにしている切り札は相手と組合わないと無意味なので、どうにか近づかなければならないのだが、それが出来ないのだ。

だからこそ、相手を挑発する様な態度を取る必要があった。

苦しい状況だったが、それが遂に実を結ぶ。


「なめるな!」


カーロブの体が一瞬だけ赤く光ったと思った瞬間、驚異的な速度で加速し、気が付けば俺は首を締められていた。

その力は恐ろしく、一瞬で呼吸ができなくなる。

そのまま行けば窒息しただろう。

しかし、この状況こそ俺の望んだ物だった。



 カーロブは更に体を赤く光らせると、体全体を赤錆の様な物に変えて行く。

これは彼にだけ許された防御力向上の方法だった。

体を鉄へと入れ替え、文字通りに鉄壁の防御を施す。

それは魔法とも違う為、従来の攻撃方法は一切効かない。

欠点があるとすれば、鉄に変わる為に関節も動かせなくなる事だ。

だが、相手の喉元をガッチリと掴んで首を締めた状態で発動させれば、そのまま窒息まで持って行けるはずだった。変身は、わずかではあるが体積も増大させるので、その幅分でも相手の気道を塞ぐ。

もはや相手の正体等どうでも良い。ともかく、この得体の知れない何かは殺さなければならなかった。

そう思った次の瞬間、強固になったはずの彼の左腕がひしゃげる。そして、右脇腹にも強烈な痛みを感じた。



 首を締められたまま、俺は左手で相手の右腕を掴んでみた。

対ヒューマス特化性能がどれ程か試すべく、握りつぶしてやろうとしたのだがビクともしなかった為、慌てて右拳で相手の左腕を思いっきりぶん殴る。

すると小枝を折る様にして相手の腕はポキリと折れてしまった・・・いや、予想していたよりも遥かに酷い形で折れ曲がった。

カーロブが驚いた様な顔をしていたが、間髪入れずに相手の脇腹に左拳も叩き込んでやる。


「が、アアアア!!」


カーロブは腕と脇腹を押さえて俺から手を放すと、よろめく様に後退して膝を突いた。体が明滅しており、自身で何かの術を解いたか、或いは強制解除されたらしい。

チャンスとばかりに追撃しようとした俺だったが、直後に伸びてきた薄緑色をした肌の膝蹴りによって阻止される。

またしてもコニュムヌの妨害が入ったのだ。

一瞬だけ仰け反った俺だったが、相変わらず大した痛みも無い為に構わずカーロブに突進しようと上体を起こす。

この機会を逃せば、二度と攻撃に転じる事はできないだろう。

最低でも一人この場で倒しておけば、自分にとってもマツリカ達にとっても有利な展開となるはずなので、俺も必死だった。

しかし、コニュムヌもそうはさせてくれない。

蹲るカーロブを守る様にして、俺を正面に置いて今まで以上に速く動いて連続で攻撃を仕掛ける。

何れも有効打にこそならないが、衝撃によって下がると言う事だけは避けられず、カーロブに近づけない。

俺は痺れを切らせて、闇雲にカーロブの元へ飛び込んだ。

結果、その近くまで転がり出た物の、直後に滑り込むようにしてやってきたコニュムヌの一撃を顎に受けてしまう。

相当無理な体制で蹴りをねじ込んで来た為に、彼女の体も俺の前に晒される形となった。

それでも彼女は手を地面に着くと、次の行動へ繋げようと見事な体捌きを見せる。

実際、着いた手を軸にして更に蹴りを出して来たのだ。

それが今度は俺の側頭部を捉える。

最初の一撃で脳を揺らされたらしい俺は、自分の手足を上手く制御出来ずに、ただ振り回すと言う行為しかできなくなった。

だが、かえって予想不能な動きが相手を捉えてしまう。


 コキッと言う本当に軽い音が一瞬だけした後、コニュムヌは首をあらぬ方向に曲げて地面に崩れる様にして倒れた。

その光景に、俺も呆然としてしまう。

美しい顔は目を閉じ、まるで眠ったかの様にしていたが、体の体制から考えると不自然な角度となっている。

殺してしまった?

今更ながらの感覚に、俺は身動き一つできない。


「コニュムヌ!!」


俺を突き飛ばしたカーロブが、急いで彼女を抱きかかえると素早く後退した。

遠目にも、その目に恐ろしいまでに怒りの色が浮かんでいるのが見えた。

それでも、彼は冷静を保っている様に見える。


「・・・どうやら、仕切り直した方が良いわね」


そう言ってバッツロギィが手を掲げると、彼を中心にして炎と合わさった様な煙が巻き上がり、それは膨張して俺のところにまで届いた。

思わず腕で目を覆ったのだが、暫くして効果が切れたのを感じて目を開けると、辺りには誰も居なくなっていた。

余りにも静か過ぎて、残り火が何かを燃やすパチッパチッという音だけが耳にやたらと聞こえてきたが、それは単に静かなだけでは無かったはずだ。

実際、俺は自分の心臓の音までもが煩いと感じていた。



 ひと仕切り吐き終わった後ヨロヨロと立ち上がった俺は、とりあえずはマツリカ達の所へ行こうと動き出す。

魔力糸が見える様になった為か、居場所は何となく分かった。

と言っても、距離が離れるとやはり見えにくくなるらしく、今は俺の周りにそれらしい物が出ているだけであり、それを頼りにして動いたに過ぎない。

ただ一つ、ターナの方向に繋がっていたはずの魔力糸の気配が完全に消えた様な気がしたが、今は考えない様にする。

いや、何も考えたくなかったのかも知れない。

倒すべき敵ではあったが、本当に人を殺してしまった事に強い後悔の念を抱いていたからだ。

モンスターは何匹か殺しては来たが、人を殺すと言う事の本当の意味を知った気がして、物凄い嫌悪感に襲われる。

俺は心のどこかで、彼らを殺すつもりは無かった思いがあった。

実力差から考えても引き分けに持ち込めれば良い方だと思っていたので、覚悟無く殺してしまった結果を受け止める事ができない。

目を閉じる度、コニュムヌの眠っている様な死に顔と、カーロブの憎悪の目が浮かんで俺を攻め立てる。


「俺は・・・何をしているんだ」


コニュムヌに蹴られた部分が、何故かズキズキと痛み出してきた。



 どれ位歩いていたか分からなかったが、周りが騒がしいと無意識に思っていたら、誰かに呼ばれた気がして俺は立ち止まる。


「ハルタ殿!?」


気が付くと、目の間にはファーデルと言う奴が立っていた。何やら驚いていると言うか、戸惑った感じで俺を見ている。


「おおーい。 居たぞー、こっちだ!」


ファーデルの呼びかけに応じるかの様に、木々がざわめく様な音がしたと思った瞬間、数人が勢いよく飛び出してきた。それは、ユーカにマツリカ、そしてアニーだった。


「主様!」


真っ先に飛びついて来たユーカの勢いに、押されるまま俺はへたり込んでしまう。


「おいおい、大丈夫か」


「ハルたん、怪我とかない?」


アニーとマツリカも心配そうに声を掛けて来たが、俺は生返事をしただけだった。

それを見て、ユーカが俺の体のあちこちを調べ始める。


「だ、大丈夫だ。 特に怪我とかしてないから・・・・」


慌てて立ち上がる俺に、ユーカは泣きそうな顔と同時に怪訝そうな目を向けた為、俺は顔ごと彼女から視線を反らす。


「れ、連中・・・奴らのアーマルデ・ロイデンは?」


話題を逸らそうと俺はマツリカに話を振る。


「寸前の所で退却しやがった。 お前が連中のマスターを倒したんだろ?」


その言葉に俺はギクリとした。

そうだ。

マスターを倒されたんだから、そのアーマルデ・ロイデンだって影響を受けるはずなんだ。

だとしたら、既に俺が何をやったのか皆んな知っているのかもしれない。

焦っていた俺は勝手に何かしらの責め苦を味わうと勘違いしていたが、皆が掛けてきた言葉は全く別だった。


「流石はハルタだぜ。 私のマスターってだけの事はある」


「本当だよー。 アニー達、危なかったけど、ハルたんのお陰で助かった様なものだし。 あっ、もちろん、アニーはハルたんが勝つって信じていたよ。 とっても心配はしたけど」


「あーなーたー達、主様を、一人置いて行くなんて真似、したんじゃないでしょうね?」


笑い合うマツリカとアニーの背後で、ユーカが黒そうなオーラを放つかの様にユラリと立ち上がると、二人に対して説教を始める。

それを横目に、ファーデルが今一度声を掛けて来た。


「本当に良くやってくれましたな。 流石は勇者殿。 正直に言えば、私は何もかもが駄目だと思っておりましたよ。 改めて、感謝申し上げる」


「い、いや、俺は、そんな大袈裟な・・・・」


「ハルタ殿?」


目頭を手で押さえた俺は、溢れ出そうになる何かを必死に押さえて膝を突く。

当然の様にユーカたちも慌てて集まってきたのだが、自分でも何がなんだか分からなくなっていた俺は、彼女たちの呼びかけにも応じることはできなかった。



 落ち着いたらしいハルタと共に、ユーカ達は森の奥へと進んでいた。

仲間との合流と安全な場所への避難をする為だ。

様子のおかしい彼に、ユーカはドレスを変化させた移動用の台に乗る事を進めたのだが、自分で歩くと言って聞かないので仕方なく後ろから見守る様にしている。

ハルタの様子をおかしいと思うユーカの表現には、実は複数のニュアンスが含まれてもいた。

全体的な雰囲気もそうではあるのだが、それよりも深刻なのはハルタの根本と言うか、彼自身の能力とも言えそうな部分に違和感を感じる気がしたのだ。

それが何かは明確には分からない。

分からないからこそ、ユーカは凄く不安だった。

一つの要素として言い表せる物があるとしたら、ハルタが自分達から離れつつあるのではないかと言う漠然とした恐れに似た何かがあった。

自分と離れていた間、彼に何があったのか。

そして、ターナが居ないと言う事を聞くべきかどうかも迷う。

何より気がかりであったのは、ハルタの気配を勘違いしていた事だ。

ユーカには、いや、恐らくマツリカやその他の者達も、ハルタの気配の様な物を遠くからでも感じ取れるはずなのだが、今回はそれを完全に見誤った。

何かが居ると言う事は掴んでいたが、それがハルタだとは思ってもいなかったのだ。

故に、人間ごときに先に発見されると言う失態を許す事にもなった。

不安を抱えていたユーカであったが、予想外の出来事によって少しだけホッとすると共に、再び余計な懸念も覚える事となる。

拠点へと向かう最中、思わぬ連中が向こうからやって来ていたのだ。

 フォーメルとか言うヒューマスは完全に力尽きており、自力で動けないと言う事だったので、ユーカは自分の根っこで作った移動用の台で休ませてやる事にした。

この根っこの台は、今ではそれなりに戦闘もできる様に使いこなせていた為、モンスターがうろつくこの森にあっても安全をある程度確保できる。

とは言え流石に単独で先行させるには心許ない上に、目的地を指定せずに自律移動をさせる事も難しいので、防御機能の強化と制御をある程度フォーメルにできる様にしてからその場に固定し、ハルタを探す間だけ置いてくる事にしたのだ。

そのフォーメルを回収する為に出向くと、そこにはセイレアヌと数人の共の者が来ていた。


「セイレアヌ様!!」


そう言って側に駆け寄ったファーデルが片膝を突いて深く頭を垂れる。


「ファーデル、良かった無事で。 ハルタ殿も、皆も。 本当に無事で良かった」


少し涙ぐみ、セイレアヌは手の甲で目の付近を拭う仕草を見せた。

それを見たハルタの表情が少し緩み、穏やかさを取り戻した様子を見てユーカはホッとする。

何時もの彼に戻っていると感じたからだが、同時に余計な心配が彼女を襲う。

自分達から離れている原因が、このセイレアヌと言う女にあるのではないかと言う疑いも持ったのだ。

思わずユーカはハルタの腕を取って抱きつくと、セイレアヌとの間に見えない壁を作る。

それに勘付いたのか、マツリカとアニーも前に出て来てくれた。


「話は聞きました。 例の三人組と、彼らが引き連れていたアーマルデ・ロイデン。 それをあなたが追い払ってくれたのですね」


「は? え!?」


ユーカ達の見えない宣戦布告には気が付かないかの様に、セイレアヌは涼しげにハルタに語りかけたのだが、その内容は明らかに飛躍し過ぎていた。


 セイレアヌの何とも微妙な会話の内容に、俺は戸惑ってしまって何と返したら良いのか分からなくなる。

言葉だけを取れば解釈次第でそうだとも言えるのだが、問題は彼女と連れて来た連中が俺に向けている眼差しだ。

まるで偉人でも見ているとでも言うか、凄く眩しそうな目を俺に向けている。

漫画の表現ができるのなら、彼女たちの目はキラキラと星の様な物が輝いていたはずだ。

とにかく集まる視線が熱すぎる。


「お、おい、フォーメル。 一体、何を話したんだ」


そそくさと彼に寄った俺は、小声で問いただす。


「ありのままを話しただけだ。 ただし、知らない部分に関しては想像も入れたが」


何の想像を入れたんだよ!

完全にセイレアヌ達の連中、俺が凄い事をやった様にこっちを見ているじゃないか。勘弁してほしい。



 合流した俺は、そこで何があったのかを大体聞く事になる。

恐らくだが、俺達が砦に着いてやや後に、例の三人組が襲撃を仕掛けてきたらしい。

もっとも、最初に現れたのは巨大な斧を持った方とマガツノミホロのアーマルデ・ロイデン、二人組だけだったらしく、苦戦はしたがユーカとローナ、そして多数のイーブル・ラーナンと共にレパンドルの兵も協力することで、何とか互角に持ち込んではいたんだとか。


「でも、相手は最初から手加減していたんでしょうね」


セイレアヌが憂いた顔をした溜息の様に呟く。


「どう言う事だ?」


聞き返した俺にセイレアヌがキリッとした顔を向ける。


「何かを待っているかの様な戦い方をしてました。 そして、それは恐らく貴方を探していたんだとも思います」


その言葉を受けて俺は更にドキリとする。

それが本当だとしたら、レパンドルがこの様な目にあったのは俺のせいと言う事にもなるからだ。

実際、俺が戦っった三人組は俺を試すかの様な口ぶりだったし、こちらの挑発に容易く乗ってきたのも俺が最初から目的であったのなら頷ける。


「そ、それは・・・・すまない。 俺のせいで国が・・・・」


「いえ、それはありません」


セイレアヌはきっぱりと言い放った。


「元から我が国は危・・・危機的状況にはあったのです。 ハルタ殿が居なければ、私達は更に厳しい戦いを強いられていたでしょう。 下手をしたら、早い段階で王都を失っていた可能性もありました。 むしろユーカさんと、その仲間の方達が居たからこそ被害を最小限に留められたのです。

それに、王都を捨てる決断は国王自ら決めていたこと。 ハルタ殿が責任を感じる事など一切ありませんよ」


 セイレアヌの話を大凡でまとめると、前面にローナが展開して敵の足止めをしている間に、ユーカの能力を使って多くのレパンドル国民を逃す事ができたのだという。

そんなに上手く行くのかとも思ったのだが、どうやら最初から国王が準備していたらしく、それが噛み合って奇跡的に被害を最小に済ます事ができたらしい。

後は、2つ程運が絡んでいた事もあるだろう。

例のバッツロギィら三人組が最初から俺目当てだったと言う可能性を入れると、レパンドルその物には興味がなかった為、逃げ出す連中は眼中に無かったとも言える。

もう一つは、森の奥に誰も知らない避難場所があったと言う事。

そう、王都跡だ。

セイレアヌ達でさえ知らなかったのだから、当然敵も知る分けがない。

そこら辺はユーカの手引がありはしたが、それでも多少の混乱はあったらしいので、知らない者なら尚更その行動の意味を測りかねただろう。

むしろ森に逃げ込む事はモンスターの餌食になる可能性も高く、普通に考えれば一般の者が踏み込む事は愚行とみなして、放置したのだろうともセイレアヌは言った。

脱出に関しては、イーブル・ラーナンの護衛とユーカの強欲の根による移動台が用意されてもいたので、驚くべき速度で行われたらしい。

ただし、殿を必然的に受け持つ事になったユーカやローナ、そしてアニー達は敵の追跡をしつこく受ける羽目になったのだとか。

その時の話に関してはユーカが付け足したのだが、本当であれば森の入り口付近で敵を更に足止めして避難の時間を稼ぐつもりだったのに、更に数体の敵が現れた事で後退を余儀なくされたらしい。

そこまで話してから、何故かユーカは口を閉ざして暗い顔をした。


「では・・・その時にローナさんが?」


セイレアヌがそう疑問を投げかけると、俺もハッとする。


「ローナ? ローナが、どうしたんだ!?」


俺は思わずユーカの肩を掴んで揺さぶる。

途中からおかしくなったイーブル・ラーナンは、やはりローナに何かあったかららしい。

そして、ユーカの表情が更に俺を不安にさせる。


「ご、ごめんなさい、主様。 ローナは、私を守って・・・・」


そこまで言ってユーカは俯いてしまった。肩を震わせており、泣いているかの様だった。


「セイレアヌ?」


俺はユーカを抱きしめながら、事情を知っているらしいセイレアヌの方に聞いてみる。


「私も詳しくは知らないんです。 しかし、ローナさんは眠ったかの様になってしまって、全く反応がありません。 それと、彼女の引き連れている緑の方達・・・イーブル・ラーナン?ですか。 これらも糸が切れた人形のようになってしまって・・・・あ、でも、ユーカレブトの方は何ともありません。 何故でしょう?」


そこまで聞いてからユーカが俺から体を離すと、何があったのかを話し始めた。



 ユーカの話によれば敵は最初、子供の様な者が二体だけであったらしい。

それも見窄らしい格好に錆びた剣を持ち、異様ではあったが驚異には見えなかったのだとか。

実際、これを見て対応したレパンドル側の人間はたった一人であり、その他大勢は当たり前の様に油断していたんだとか。

それをあざ笑うかの様にして二体は正体を現し、マガツノミホロと大戦斧のアーマルデ・ロイデンとなって襲ってきたのだという。

これには流石のユーカも驚いたらしいのだが、それでも、この時までは大丈夫だと考えていたと言う。

何故なら、レパンドルの城壁は魔法防御が展開していたのが確認できた為、多少の敵なら問題ないだろうと彼女も思っていたんだとか。

恐らくだが、それはレパンドル側の兵士も同じであったのだろう。

先の油断も、その防御あっての事だったのだ。

実際セイレアヌに確認すると、万一に備えて太古から伝わる魔法防壁を起動状態にしていたらしい。

もっとも、それは彼女の判断ではなく国王がそうさせていたらしいので、最初は色々と揉めてもいたんだとか。

しかし、今となっては幸い・・・とは言えないかもしれない。

防御に関してはある程度の恩恵があったかもしれないが、かえってそれが油断を誘っていたのだから。

とは言え敵の強さが尋常では無かった事を考えれば、防御魔法が展開されていなければ、それはそれで不味かっただろう。

結局、周囲の心の持ちようが問題であったと言える。

もしかしたら、レパンドル国王はその辺まで見越していたのだろうか。

 

 二体の敵は数度の攻撃で魔法防御もろとも城壁を粉砕、これを突破して城内に侵入。

魔装騎士が二体ほど門に控えていたので迎撃に出たらしいが、一人は秒殺され、あと一人は何とか回避したが、大怪我を負った為ここでユーカ達が支援に入ったと言う。

その後も攻防は続き、イーブル・ラーナンを含めて犠牲を払いつつも同時に脱出を開始。

その時の様子をユーカ自身も上手く行き過ぎていると感じていた事から、敵がわざと逃してくれたとも考えられるのだと言った。

それはつまり、セイレアヌが言っていた通りに手加減してもいたのだろう。


「森へと上手く逃げ込めはしたのですが、同時に私は感知能力を木々に助けてもらったので、新たな敵を発見したのです。 それが、魔剣を使う敵でした」


俺は話でしか聞いていない魔剣のアーマルデ・ロイデンの追跡を感知したユーカは、アニーと共に王都に行かせまいと迎撃を開始。

しかし、その強さは尋常ではなくユーカの能力どころか、周囲の木々の力を借りても足止めをするのがやっとだったらしい。

不利と悟ったユーカは、敢えてアニーにマスターの三人を奇襲で倒す事を指示、一度はそれらにアニーは攻撃を仕掛けられたらしいのだが、結局は迎撃を受けて大戦斧と戦う羽目になったのだとか。


「そうだったのか・・・・・ん? ローナの話が抜けているけど・・・」


それを聞いて、ユーカが悲しそうに目を反らす。


「いいよ、ユーカ。 アニーが話す。 あのねハルたん、森に逃げ込む時、ユーカが敵のマスターの居場所を突き止めたの。 それで攻撃をする様に言ったんだけど、それは間違ってなかったと思うの。 だって、凄く不利な戦いをずっとしてたんだから」


アニーの話によれば、殿を努めたユーカ達と数人の魔装騎士は、しつこく二体のアーマルデ・ロイデンに食いつかれながらも脱出の機会を伺っていた様だ。

その際、周囲を能力で探索していたユーカが、隠れていた敵を発見。その様子から敵のマスターであると判断し、一気に畳み込もうと攻撃を仕掛けたと言う。

ところが、かえってそれが状況を悪化させてしまう。

ここは俺の推測だが、ユーカは相手のマスターも俺並、つまり大した驚異では無いと考えたのだろう。

気持ちとしては複雑だが、彼女の判断は得られる情報の範囲内で言えば決して間違ってはいない。

むしろ、俺の弱さがが判断を誤らせたと思うと、申し訳ない気持ちになる程だ。

 しかし、バッツロギィの連中の強さはアニーズで比べるだけならユーカ立ちよりも上の可能性が高く、更にニーナ似の二体のアーマルデ・ロイデンまで参戦して来た為、手に負えなくなったんだとか。

その時、集中的に狙われたのがユーカで、僅かな隙きを突いて切り込んできたマガツノミホロの一撃に対し、ローナが身を挺して守ったのだという。

それを機に、彼女たちは総崩れとなったらしい。

むしろ、残っていた魔装騎士達が犠牲になる事でユーカを突き飛ばす様にして森へ逃げ込ませたらしく、如何に彼女が動揺していたかが分かる。

ローナは深い傷を負ったらしいのだが、暫くして傷自体は閉じた物の、そのまま目を覚まさなくなったらしい。

まだ直接見ていないので何とも言えないが、どんな状態にあるのか流石に俺も不安になってきた。

早く王都跡に行って、この目で確認しなければならない。

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