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俺のLVは上がらないのに、  作者: 松戸真 寿司
73/81

~謎の勢力~ -35. 敗北の代償 その2







「おおお、ああ!」


歪で血塗れの短剣を握りしめ、更には派手に返り血を浴びた少女らしき物が雄叫びを上げる。

傍らには何度も刺されたのか、痛ましい残骸となった人らしき物が仰向けに転がっていた。

いや、それが人と分かるのは、頭部だけが別の場所に綺麗に残っているのと鎧のお陰だと言えるだろう。

それらがなければ、ズタズタにされた体は、ただの肉片と言う以外には認識できなかったかもしれない。

恐らくだが、死んでしまった後も、かなり長い間損壊され続けていた様だ。その証拠に、少女にも肉片がへばり付いていた。


 胴体から離された頭部の目は見開かれ、驚きとも悲しみとも言えぬ顔をし、最後に流したらしい涙が顔にかかった血を僅かに洗い流している。

 その哀れな頭部と死体には既に関心を寄せず、少女らしきものはふーふーと獣の如き荒い息を巻き、まるで獲物が他に居ないかと目を赤く光らせてギラギラと周辺を見渡す。

吹き抜ける風だけではなく、それによって揺れた草木が立てる微かな音にも反応し、向きを変えては身構える。

ブリキの様な体からはミシミシと音がなり、素早い首の動きとは裏腹に着いてこれないと言った感じで、それが更に少女らしき者を苛立たせている様だった。

やがて、獲物が居ないと言う事を悟ったのか、あるいはそれにさえも怒りを覚えたのか、少女らしき者は更に魔物の如き咆哮を上げる。


「うあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ!!」


それによって何かが呼び覚まされたのか、或いは別の力を自ら開放したのか、少女らしき物の内側からは赤い光の様な物が帯状に幾本も溢れ出し、それはやがて彼女自身のブリキの体にも裂け目を入れると、遂には粉々に吹き飛ばしてしまった。


 やがて、辺りは静まり返り、むしろ不気味な雰囲気に包まれる。

耳を澄ませば、シューシューと微かに何かが吹き上がる様な音が聞こえ、それを遠くに居る小動物さえ察知しすると、慌てた様にその場から逃げ出す。

その音と呼応するかの様に周辺には赤い霧の様な物が微かに立ち込めたが、何者かがその中から立ち上がると、弾ける様に掻き消えた。


 果たしてそこには、白木の様な肌に肩まで伸びた赤髪、胸と腰だけを覆う赤い鎧の様な物をまとった妙齢の女性が現れる。

その手には禍々しい赤く長大な何かが握られており、それを無造作に振っただけで、地面は抉れてマグマの様な物が熱り出した。

そして彼女は、とびきりに愛らしく、邪悪な笑みを浮かべるのだった。




「あ、あれは・・・・」


フォーメルとファーデルが慄いた様な声を上げるが、その後は絶句したかの様に押し黙った。

しかし、それは俺も同じだったのかも知れない。

俺たちが向かおうとする先、つまり王都のある方向から無数の黒煙が上がっていたからだ。

煙は数筋が広い範囲から立ち上っており、遠目からでは王都全体に及んでいる様にも見えた。

ただ、都合の良い解釈をするのであらば、それらは消えかかっている様にも見えたので、もしかしたら現在進行系で発生しているとも考えられる。

だとすれば、単なる火事が発生しているとも解釈できるし、もし敵が攻め込んできているのだとしても、まだ持ちこたえていると見る事もできるのだ。

だが、俺の中には瞬時に最悪な状況も浮かんでいた。

広範囲から上がっている煙、それは王都全体が戦場と化し、薄れつつある煙は既に陥落した為に収まりつつあるのだと。

それをフォーメル達も考えたのか、彼らは僅かにたじろぐ様な間を置いた後、行動に出た。


「行くぞ、ファーデル」


「はっ!」


二人は担いでいた物をその場に下ろすと、俺が声をかける暇も無く駆け出していった。


「お、おい。 くそ、どうしたら」


俺自身も様子を確認しに行きたかったが、ここにイユキとマツリカを置いて行く分けにもいかない。

アニーズでも一応確認しては見たが、遠すぎて情報が不鮮明なのと、そこから拾える物から推測しても基本的な事以外には地形の情報などは出てこないので、詳しくは分からない。

と、アシュレイがイユキとマツリカをぎこちなく抱きかかえる。


「アシュレイ・・・無理をするな」


そうは言ったが、正直ありがたかった。


 あれから彼女は多少の回復を見せ、各腕も一応は動かせる様になっているが完全に戻ったとは言い難く、担ぎ上げた二人も両肩にやっと乗せると言った感じだ。

その上で俺も抱き上げ様としたが、それは拒否した。

取り敢えずイユキ達の事はアシュレイに任せれば良いと判断した俺は、兎に角走り出す。

その行動を予期していなかったのか、アシュレイが小さく声を上げて直様追いかけて来る。

やはり、完全に回復していないのか、俺の予想に反して彼女の足は遅い。


 元々彼女はスピードタイプでは無い上に、自分の武器とイユキら二人の荷物も抱えているのだから仕方ないだろう。

とは言っても、アシュレイの足が遅いと言うのは俺達メンバー内の話しであり、つまりターナやマツリカと言った連中と比べた場合の話だ。

実際、昨日はフォーメルやファーデルと言った連中を振り回す程のスピードを出していたのだから、基本能力自体は高いと言える。

もっとも、そのフォーメル達も昨日は万全では無かった上にイユキ達を抱えてハンデ状態にあったので、単純に比べられる訳でもない。

更に言えばアシュレイはかなり無理をしていたらしく、それが祟ってダメージが中程度から変化していない。

それが今になって現れてでもいるのか、荷物過多と言う条件を込みとしてもかなり移動速度が落ちていた。

一応、一定の距離を離れずに付いて来るが、その差は縮まらない。

その変わり、イーブル・ラーナンが俺と並走し、遂には追い越して前を行く。

こいつ、行く先を分かっているんだろうな?

俺もアニーズを頼りに適当に真っ直ぐに走っているだけなので、ハッキリとした道を分かってる訳じゃない。

実は言うと、俺達は念の為と言う事で、道なりにここまで来たわけではない。


 フォーメルらの先導があってこそだが、割と近道と言う事と姿を隠せると言う事で道なき道をここまで来ていたのだ。

よって、辺りは深い藪やら木々によって覆われている為、アニーズの情報と勘を頼りに進む以外にない。

王都の方向から煙が上がっているのが見えたのは、たまたま高い地形に来たからなのだが、逆に今は下っている為に余計に視界を頼って方角を得るのは難しくもなっていた。

その様な状況である為、イーブル・ラーナンが先導して前を行ってくれるのは必ずしも悪い事ではない。それによって安全性と走り易い地形がある程度確保できたからだ。

分かってやっている・・・と思いたいが、時折コースからズレて舞い戻ってくると言う行動を見せるので、やはりコイツは条件反射的な行動をしている様にも見える。

このままローナと合流すれば、コイツの不具合も解消できるのだろか?

そんな風に思いながらかなりの距離を走っていたら、遂にレパンドル王都へと辿り着いた。

結局、一度もフォーメル達に追いつく事はできなかったが、あっちは俺と比べると基礎能力が高い事や魔法武器と言う物を利用しているので当然の結果でもあろう。

やや王都とは距離がある地点で止まった俺は、そこから全体を眺めて最悪な状況が起きたのを知る事となる。


 呆然と立ち尽くしていた所で肩を掴まれて振り返ると、アシュレイがようやく追いついた所だったのだが、その顔を見てギョッとした。

頬を膨らませて涙目になっていたのだ。

下手すれば、そのまま涙が溢れそうでもある。

慌てて俺は彼女の頭を撫でたりして宥めようとしたら、向こうの方から俺に抱きついてシクシクとやり出す。

メンバー内では大人っぽく見える上に無口なので誤解していたが、この娘はある意味でもっとも精神的には幼いのかも知れない。


「よし、よし」


アシュレイをなだめて落ち着かせた所で、俺は改めて王都を見てみた。

崩れた城壁に、抉れた地面。

何かしらの戦闘と攻撃が行われた事は間違いないのだが、そこかしこに残る損傷の跡には違和感を持った。


 攻城戦に用いられる様な破城槌や弓矢の様な攻撃ではない。何と言うか、斬撃を加えられたかの様に、それらは見えた。

幾つかの傷も見られたのだが大きい物は一つだけなので、恐らくだが城壁を突破する為に用いられた攻撃は僅か一撃だった可能性もある。

だとすると、俺達が戦った敵と同等、あるいはそれ以上の奴が敵にも居たのだろうか。

俺たちが戦った方が囮と言う可能性も浮上してきたが、その割には強過ぎると言う気もする。


 セイレアヌや王都に住む人々の心配もあったのだが、今のところ人気は全く感じられないし、アニーズでも確認できない。

城壁の前には死体らしき物も幾つかあったが、甲冑などを着ている事からしてレパンドルの兵士である事が分かる。

ただ、激しい戦闘が行われたにしては、その数は少ない様にも思えた。

その為、俺は勝手に楽観視する。

いや、そうしないと精神の安定を保てないからだったかも知れない。

恐らくだが、王都の襲撃こそ許した物の、ユーカが直ぐに対応して何とかしたのかも知れない。


 彼女の能力と全体をカバーできる戦闘力、加えてローナとイーブル・ラーナンの数的な優位があれば、敵に対処しつつも被害を最小限に食い止められたはずだ。

それにアニーも居る。彼女のバランスの高さは、ある意味で優れた戦力だ。

早々に殺られる分けがない。

加えてセイレアヌも居たはずだし、彼女らがむざむざやられるとも考え難い。

彼女のカリスマ性と優秀さがあれば、王都こそ駄目になったとしても、必ず多くの人々と一緒に生き残って見せたはず。

多分だが、王都の深い位置、或いは王城その物に避難しているとも考えられる。

そう考えて、俺は煙が立ち込める王都へと入って行った。


 王都に入って直ぐに、俺は自分の考えが甘い事を知る。

内部はメチャクチャになっており、むしろ本格的な戦闘は王都内でこそ行われていたらしい事を知ったからだ。

中では斬撃の様な跡の他にも、まるで爆弾でも爆発した様な跡もあって攻撃の激しさを物語っている。

そして俺は、ある物を見た瞬間から、血の気が引く思いをしていた。

植物の根の様な物が幾つも見ることができたからだ。

間違いなく、ユーカがここで戦っていた痕跡と見て良い。

しかし、その植物の根は無残にも破壊され、焼かれていた。

まだ・・・・まだ何とも言えないはずなのだが、それだけを見て嫌な予感だけが高まって行く。

俺たちを襲ったのが囮だとしても、あれだけ強かったのだ。王都攻めに来た連中がそれ以下と言うはずがない。いや、戦闘の跡を見て判断しただけでも、その強さが分かる。

ユーカの植物の根と思しきものは、明らかに押し込まれている。つまり、防ぎきれなかったのだ。

俺は無意識に考えまいとしていたが、もし、フォーメルらの情報通りにアーマルデ・ロイデンに天敵なる物が存在しているのだとしたら・・・・。

そう言えば、イーブル・ラーナンがおかしいのは、ローナに何かあったからとも考えられる。ならば、ユーカ達は・・・。

 

 俺は、頭を振ってその考えをかき消した。

ユーカに限って、そんな事はありえない。

彼女の冷静な分析と判断力があれば、仲間がやられる前に撤退するか、別の手段を講じたはずだ。それは同時に、レパンドルにとっては非情とも言える結果になる可能性もあるが、無事ではいるはずだ。

そう思って俺は賢明に王都内を探したが、結局何の手がかりも得る事はできなかった。

急に見える様になった魔力の線を辿れば、もしかしたらと言う考えもあったのだが、これも期待はずれに終わる。

ターナから離れた時に、彼女と繋がる線が見え難くなって最終的には消えたので嫌な予感はしていたが、どうやら距離があり過ぎると魔力の繋がりは視覚的には確認できなくなるらしい・・・・と思いたい。

本当の事を言えば、嫌な予感とは最悪な事も想定される部分もあった為、俺は敢えて考えない様にしていた。

そんな分けない。

皆んな無事のはずだ。絶対にターナも含めて、必ず生きて会えるはずだ。

しかし、その痕跡が全く見当たらない。

それは、フォーメル達も同様であったらしい。


 合流した俺たちは、無言のままに腰を下ろしていた。

長い間探索していたつもりだったが、陽はまだ高い。それなのに疲労だけは一日分がどっと出てきている感じだった。

それは俺だけでは無いらしく、誰も何も言わずピクリとも動かない。

重い沈黙。

一応、フォーメル達にセイレアヌらの安否も聞いたが、彼らは首を横に振るだけで何も答えなかった。

死体を発見したと言う分けではなさそうなので、今のところは安否不明って事なのだろう。

そして、その不安は俺の方も同じだった。

と、短い呻き声を聞いて、俺達は顔を上げる。

見ると、マツリカが起き上がろうとしているところだった。


「マツリカ・・・」


「う、ハルタ・・・無事だったのか。 皆は・・・イユキ・・・」


イユキに気がついたマツリカが傍らに座ると、その体を片手で擦りながら、当たりを見回す仕草をする。


「ここは・・・どこだ?」


彼女は力なく俺に顔を向けて問うたが、何と言うか返答を期待していない様な表情をする。

恐らくだが、自身の敗北と仲間の危機的状況を悟ったのかも知れない。

その証拠に、片手は固く剣を握りしめ、それが震えていた。


「まだ・・・何も確かな事はわからない。 だから、今は休め」


しかし、一瞬だけこらえ様とした彼女の口からは、まるで抑えきれないと言う風に言葉が溢れ出す。


「ユーカは? ローナは? ターナはどうした? アニーも。 ハルタ・・・」


そこまで言って、マツリカは顔を伏せる。鎧が陰となって見ることはできなかったが、もしかしたら泣いていたのかもしれない。

そんな彼女に、俺はかける言葉を見つけられずにいた。



 1時間位経った頃に、俺たちはようやく動くだけの気力を取り戻す。

正直、何時間も留まっていた気分だったが、空を見上げれば太陽の位置も大して変わっていないので、それがまた嫌な気分にさせる。何と長い一日か。

ただ、この時間は全くの無意味と言うわけでも無かった。

その1時間でマツリカもアシュレイも十分に回復できたからだ。

彼女達は一度回復が始まると驚く程早い。

これもアーマルデ・ロイデンとやらの特性なのだろうか。

ともかく、俺にとっての主戦力が一つ良くなった事は喜ばしいことだ。

もっとも、ターナとイユキの心配があるので手放しでは喜べない。

短い会話の後、俺達は王都の外へと出る。

一応、探索した結果として、ここには誰も居ないと言う結論に至ったからだ。

念の為アニーズでも確認しては見たが、確かに誰も居ないようだった。

一体、どこへ行ったと言うのか。



「フォーメル、セイレアヌ達が避難する場所に、心当たりはないか?」


俺の質問にフォーメルは暫し考える風にしてから答える。


「ここから南の方向に、ケーニグルら第二騎士団が駐屯している砦がある。 そこが、もっとも近いが・・・あそこを避難場所として選ぶとは思えない。 だとしたら、一番の可能性は隣国であるユールフィアへ行ったと考えるのが普通だ・・・・」


そこまで言って、フォーメルは黙ってしまった。

色々と聞きたい事はあったのだが、関係が微妙になっている為か変に遠慮して聞き返せない。

しかし、それに無頓着なマツリカが不躾に聞き出す。


「その近いって砦、何故駄目なんだ? と言うかだ、さっきから回りくどく話しやがって。 殴るぞ」


「おお、オイイイイ」


慌てて取り繕うとする俺。だが、フォーメルの方は表情を変えず、淡々と答える。



「砦とは言っても、ほぼ防塁が長く伸びているだけだ。 モンスターの侵入防止に作られているだけで、大勢の人間が休める場所ではない。 むしろ、王都に攻め込む敵から逃げるとしたら、自ら袋小路に飛び込む様な物だ。 敵の追撃をかわすとしたら、私なら選択しない」


そう自分で言いながら、フォーメルは自分で何か腑に落ちない物を感じて考え込む。

何やら異形の鎧を着たアーマルデ・ロイデンが騒いでいたが、それすらも耳には入らない。

セイレアヌ姫や国王の遺体すら見つからなかったのは、恐らく無事で居るからだろう。

彼ら自身が優秀である事に加え、ダガスドと言った連中も居たのだ。そう簡単に敵の手に落ちたとは思えない。

何より王都で行われた戦闘は、その痕跡に比べると人的被害は限りなく少ない様に思えた。

勿論、全く死体が無かった訳ではない。

行く先々で兵士や市民らしき死体が転がっており、激しい戦いが行われていたのはハッキリしている。ただし、市民と言っても恐らくは"まっとうなレパンドル民"の物ではない。


 王都が陥落したと言う事実は、色々と最悪なケースも考えられる物の、様々な疑問点も浮かび上がっていた。

仮に、これがシーゼスの仕業であり、自分たちが相手にした連中が囮で、その隙きに主力がレパンドル本国に攻め込んだ・・・・と考えても、色々と妙な部分が多い。

あのキリウスとか言うハイド・エレメンタリスの能力は、ハッキリ言って最高クラスの中でも更に一握りの存在として数えて良い実力だった。

そんな実力の持ち主を本当に囮として使うだろうか。

勇者、つまりハルタの事を警戒しての作戦だったとも考えられるが、小国を相手にするには大げさすぎる。

囮と言うのであれば、バウンダーのクラッデルム、その次に現れたハイド・エレメンタリスで十分だったはずだ。

結果としてコチラ側が勝利はしたが、王都の有様を見る限りでは、それで囮としての役目は十分だったはず。

そこに後詰的な戦力を果たして用意するだろうか。

仮に、勇者の存在を危険だと判断し、全力で潰しに来ているのだとしたら分からないでも無いのだが、それを前提とすると更におかしな事実が持ち上がってくる。

それは、連中が最初からエレメンタリスを引き連れて居た事だ。


 砦の惨劇と敵の強襲が続けざまに起こったので考える余裕はなかったが、敵は明らかに対アーマルデ・ロイデンを意識した戦力の用意と戦い方をしていた。

実際、あの転がる岩でさえも、普通なら使わない様な魔法攻撃を多様していたではないか。

つまり、既にハルタの正体に気がついていた、或いは戦力的な分析が済んでいた事を意味している。

もちろん戦いの中で気がついた可能性もあるが、自分でさえハルタの引き連れている連中と長らく居ても気が付かなかったのに、簡単に見抜けるとは信じられなかった。

一般的に魔装騎士は魔法武器は使いこなせるが、魔法その物に関しては専門家ではないのだ。

アーマルデ・ロイデンも一種の魔法の産物である以上、よほど優秀な魔法使いでも無い限りは、見た目がヒューマスに近いと直ぐには見抜くのは難しいはず。

ましてや、つい最近まで勇者と言う存在ばかりに目が行っていた連中が、一体どこで正体に気がついたと言うのか。

何より、勇者と宣伝して、正体を勘違いしていた張本人こそシーゼスでは無かったのか?


 それらを踏まえて改めて考えるならば、やはり別勢力、恐らく西側の国が関わっていると見るべきであろう。

ハルタ自身、自分が何者か知らないというのが本当だとしても、彼の知りえない連中は既に知っていて、今回の騒動の為に利用、あるいは意図せずにそうされていた場合、その正体を知られていたとしてもおかしくはない。

色々と考えられる事は多い為に断定はできないが、シーゼスさえ知らされていない形で西側の連中が勝手に動き、レパンドルを滅ぼした・・・としても、まだ疑問は残る。

せっかく落としたはずの王都を放棄して、一体何がしたかったと言うのか。

一番最悪なケースは、遂にロウバル連合王国がレパンドルを見捨てて、清算の為に動いたと言う事だ。

だとしたら、王都に誰も居ない事の説明もある程度付く。

彼らの目的はレパンドルその物ではない為、人材的には大目に見て一時的に連れ去ったとも考えられる。わざわざ空白地帯にしている意味は分からないが、別働隊が動いていると言う可能性を考えれば、もしかしたら牽制の為の布陣が済んでいるのかも知れない。

しかし、本当にそうだろうか。


 ロウバル連合がレパンドルに攻め込んだにしては、あまりにも戦いの痕跡が局地的にすぎる。

王都をくまなく探してみて気がついたのだが、敵は大規模な軍隊では無かった可能性が高い。

恐らくだが、数十人以下・・・或いは、もっと少ない感じにも思える。いや、攻撃のパターンだけを見ると、たった数人と言った可能性さえあった。

それはつまり、王都に攻め込んで来た連中も、少数精鋭だったという事を意味している。

ロウバル連合王国が、果たしてレパンドルの様な小国を落とす為に、そんな割の合わない事をするだろうか。

しかも、王都をそのままにしておくなど、普通に考えたらありえない。


 一見すると火災は王都全体で起きている様にも思えるが、調べてみると火災の原因の殆どが魔法攻撃らしき物であった上に、場当たり的に放たれている印象が強かった。

魔法による先制攻撃、或いは支援攻撃を行ったにしては、範囲があまりにも絞られていないと言うか、少なくとも重要な場所には殆ど命中していないのだ。

どちらかと言うと何かと激しく戦った跡と言った感じであり、それによって結果的に王都は放棄されたと言う感じがする。

植物の根の様な物が痕跡に多く残っていた事からすると、恐らく戦っていたのはハルタの抱えるアーマルデ・ロイデンの一人、緑髪の女だろう。

防戦の為に彼女が活躍したとしても、結果は最悪の色が強い。また逆に、敵の狙いがアーマルデ・ロイデンその物にあったとしたら、ロットラー平原での戦闘結果を考えれば自ずと答えは出る。

ましてや、王都ではハルタの支援は受けられなかったはずだ。



「フォーメル、取り敢えずは、その南の砦とやらに行ってみよう。 一番近いし、あんたの仲間が居るなら、何か情報が得られるかも知れない。 どうだ?」


俺がフォーメルをちらりと見ると、彼は無言で頷いた。了承したのか、何なのか。

俺は気まずい空気にため息を着きながら、コッチかと指差して確認し、その方向に歩こうとしたその瞬間だった。

何かの陰が俺の頭上に差したと思った瞬間、思いっきりマツリカに突き飛ばされた。

転がされながら俺は鋭い金属同士がぶつかり合う音を聞き、視界の片隅にマツリカが何かと組み合うのを見る。

相手は小さいのか、マツリカの姿と重なって確認できない。


「マツリカ!」


立ち上がって彼女の名前を呼んだ瞬間、マツリカが何者かによって弾き飛ばされて大きく後ずさる。


「そ、そんな・・・・馬鹿な!」


敵の正体を見て、俺は愕然とする。


「マツリカが・・・もう一人?」


そこには、鎧の色こそ暗いグレーと言った感じで違うが、顔貌も含めて紛うことなきもう一人のマツリカが居た。


「ア・・・くっ!」


俺は、久しく声に出していなかった言葉を思わず叫びそうになったが、寸前の所で食いしばった。



名称『マガツノミホロ・バッツロギィ=セパレタ No2』強さ『青龍クラス第10位』影響度『最強の剣士』レベル60。


表示された情報に俺は更に驚く。

名称や強さ、影響度と言った物は多少違っているが、その後に続く基本的な能力や説明に関しては、マツリカ、いやマガツノミホロの時と同じ説明がなされている。

一つ違っているとしたら、最後の一文に『アーマルデ・ロイデン適正化によって使用者権限開放、能力引き上げ、能力一部封印』と言った物があるくらいか。

俺の他にもアーマルデ・ロイデン使いが居る・・・いや、マガツノミホロ自体、まだ他にも存在している事にも驚いた。

魔法使いによって処分されたと言う情報もあったはずなのだが、どういう事なのか。



「なめるな。 彼方の果て!」


再びマツリカが突進し、もう一人のマツリカ・・いや、人型マガツノミホロと切り結ぶ。

しかし、相手は僅かに後退しただけで、マツリカの突進を受け止めると、ジリジリと押し返し始めた。


「ば、馬鹿な。 あのマツリカの力を上回るなんて」


アニーズで確認された情報で判断すれば、当然の結果とも言えたのだが、それでも俺は信じられない。

俺の中でもマツリカはどこか特別で、最強と言う思いがあったからだ。


「クッ・・・お前、何者だ」


そのマツリカの問いに、人型マガツノミホロが邪悪な笑みを浮かべて返す。


「マガツノミホロだよ」


「なっ!?」


「もちろん、お前と一緒で紛い物だがな」


その言葉にマツリカが驚いた様に目を見開くと、紛い物と自ら言ったマガツノミホロから無数の斬撃が乱れ飛び、マツリカを弾き飛ばした。

それは異常な威力を持って放たれ、マツリカを回転させながら地面へと激しく打ち付ける。


「マツリカ!」


「ぐぅっ・・・大丈夫だ。来るな。 コイツは、私が倒す」


直ぐに立ち上がって見せたマツリカだったが、アニーズではダメージ状態・小が確認できた。実力差は明らかだ。



 暫く睨み合ったのち、先に動いたのは人型のマガツノミホロだった。


「彼方の果て」


それが居た地面に一陣の風だけが舞ったと思った瞬間、既にマツリカへと切り込んでいた。どうにかマツリカは受け止めていたが、その顔には驚愕の表情が浮かぶ。

目で追えない速度で移動してきたのだから当たり前だろう。

色の違い以外見た目は同じ両者だが、確固たる差がそこにはあった。

その場で踏ん張るマツリカだが、やはり力負けする。それでも彼女は技を出すタイミングを図っていたが、相手もそれを見ていた。

恐らく、出す瞬間の僅かな隙きを狙っているのだ。

単に力押しだけではない。技術的な面でも恐らく上を言っているのだろう。

俺の脳裏に、キライスとの戦いが過ぎって不安に押しつぶされそうになる。

僅かに両者が体勢をずらそうとした瞬間、必殺のタイミングで攻撃を放ったのはアシュレイだった。

素早くクロスボウを二連射する。

阿吽の呼吸でもあったのか、マツリカも相手の逃げ道を防ぐ様に構えていた。

アシュレイの攻撃をかわせばマツリカが、マツリカの攻撃に対処しようとすればアシュレイの攻撃が当たる。

初めて、突破口が生まれようとしていた。

しかし、それはあっさりと防がれてしまう。

二体の何かが割り込むとアシュレイの攻撃を叩き落とし、人型マガツノミホロは平然とマツリカに追撃を加えた。


「功相討つ」


敵の攻撃に対処するマツリカ。激しい火花が飛び散り、力同士のせめぎ合いが行われる。

普通なら、これで敵の攻撃は無効化れるはずだが、綱引きが行われている時点で彼我の力量差がハッキリと示されていた。

辛うじて逃れる事に成功し、自ら転がる事で距離を取るマツリカ。

追撃に備えて構えるが、向こうは微動だにしていなかった。

余裕って事なのだろう。そして、俺達は再び驚きの声を上げた。


「タ・・・ターナ?」


呟いたのはマツリカだった。そう、アシュレイの攻撃に割って入ったのは、髪の毛の色こそ僅かな青と黄色がかった銀髪で区別はできるが、ターナとそっくりの少女二人組だったのだ。



名称『短剣・コニュムヌ=セパレタ No1』強さ『朱雀クラス第10位』影響度『歴戦の戦士』レベル39。

解説『短剣・コニュムヌ=セパレタ。主人に力を与えられた事により、強い忠義を持った武器』


名称『短剣・コニュムヌ=セパレタ No2』強さ『朱雀クラス第10位』影響度『歴戦の戦士』レベル39。

解説『短剣・コニュムヌ=セパレタ。主人に力を与えられた事により、強い忠義を持った武器』



幾つかの点で表現は違ってはいるが、大体においてターナと酷似している。

こんな事があって良いのか。

いや、アーマルデ・ロイデンが他に居るとすれば、姿形が同じ人化した武器が存在するのは当たり前と見て良いのか。

だが問題は別にある。

コイツらの強さは、こちらを上回っている。

さっきのマツリカの攻防だってそうだ。

人型マガツノミホロは、通常攻撃以外出していない。

つまり、実力を抑えて尚、マツリカ以上なのだ。



 ハルタ以上に、マツリカは驚いていた。

手を合わせて嫌と言うほど相手の強さを思い知らされたが、それは単に実力差だけではない。

ハルタの血を使った完全状態でさえも、全く歯が立たない事に心底驚愕していたのだ。

キライスと言う強敵をして何とか生き残ったと言うのに、新たな驚異を目の当たりにして、自分のちっぽけさと惨めさを知って彼女は歯ぎしりする。


「どけ!」


距離が開いていた筈なのに、そう叫んで前に出たのはフォーメルだった。

瞬間、青色をまとった旋風の様な物が敵を捉える。

それは、蒼炎魔風と言う魔法攻撃だった。

相手がアーマルデ・ロイデンであるならば、この一撃で相当なダメージを負うはずだ。

しかも、この魔法は発動時間が短い割に効果範囲が広く、見えない程の速度で移動する相手と言えど、簡単には回避できないだろう。

実際、相手の足が地面に留まっており、こちらの攻撃に飲まれているのが確認できた。

不意を突かれたのと魔法の能力に対処できなかったと考えて良い。

紛い物とは言え、魔装騎士を舐めるからこうなる。

フォーメルは、魔法武器を握る手に力を込めた。

だが、直ぐに効果が無い事を知る事となる。

防壁の様な物が張られており、相手に届いていないのを肉眼でも確認できたからだ。



「ば、馬鹿な! アーマルデ・ロイデンが魔法を使えるなどと・・・」


「違う! あそこだ、フォーメル」


相手の魔力糸を確認できた俺は、とっさに城壁を指差したが、それに反応したのは次に備えていたファーデルと言う奴だった。


「牙閃光!」


獣の様な姿を形どった光の帯が、城壁の上部付近を捉えると激しい爆発を招く。

フォーメル達は自分らを二流だと言ったが、魔法攻撃の威力だけを見れば十分な実力者の様に俺は思えた。

これでは、敵もただでは済むまい・・・・と思いつつも不安は拭えない。

そして、それは的中する。



「あ~ら、私達の居場所を言い当てるなんて、驚いたわぁ」


爆発の余波がまだ収まらないその向こうで、気持ちの悪い喋り方と共に三つの人影が現れる。

その内の一人が何かを振ると、攻撃の痕跡と舞う塵等が一瞬で消えり、灰色っぽい制服を来た眼帯の男、緑髪の美女、そして赤い体躯と犬歯が口から飛び出た鬼と見紛う連中が現れた。


「フォーメル?」


アニーズで情報を集めつつも、一応確認の為に俺は聞いてみる。


「分からん。 こんな奴ら、初めて見る」


チラッとだけ見たが、彼の顔にも狼狽の色がハッキリと見て取れた。

既にヤバい奴らと感づいたのだろう。

実際、アニーズで拾えた情報にも、連中の強さがキライス並である事が表示されていた。

次から次へと、一体何だと言うんだよ。



名称『バッツロギィ・キスト』種別『ローダ系ヒューマス』レベル121

強さ『マンティコアクラス第3位』影響度『最強の暗殺者』

『特殊機関所属の無慈悲な殺し屋。数々の敵を一瞬で葬り去ってきたその技術は天性のもの』



名称『コニュムヌ・タタロン』種別『プラウネ系ヒューマス』レベル79

強さ『キマイラクラス第3位』影響度『猛者』

『特殊機関所属の戦士。全てにおいて高次元な能力を有し、弱点らしい弱点を持たない。更には植物に同化したり、草木の記憶を見たり読み取ったりできるなど、プラウネ系ヒューマスとしても高い能力を持つ』



名称『カーロブ・ゼブゼ』種別『イーブル・ヒューマン』レベル28

強さ『スレイプニルクラス第1位』影響度『可能性を秘めた者』

『特殊機関所属の戦士。突然変異的にアーマルデ・ロイデンの使い手として目覚めるも、技の暴走によって半融合した変異体。その体は高い耐久力を持つが、自らの意思によって更に硬質化できる。変異自体が発展途上であり、あらゆる可能性を秘めた存在』



 現れた三人は、案の定にレベルと強さの評価がおかしい事になっている。

説明部分もそれを補強する様な事が並んでいるが、一番気になるのはカーロブ・ゼブゼって奴だろう。

見た目からして特に気になる奴なのだが、基本能力自体も高そうな上に更にポテンシャルまで秘めているとか反則だろ。

それと、突然変異的にアーマルデ・ロイデンの使い手として目覚めるって言うのも気になる。

武器を人化させる力は何かしらの技術、或いは魔法等に頼って身に付くだけじゃないって事か?

俺はもしかして、この突然変異的って奴に当てはまるのだろうか。

だが、アニーズにはそうした情報は一切ない。

可能性としてゼロでは無い表記をされてはいるが、ある意味で自分と同種らしい奴の情報を見てしまうと、むしろ俺は失敗した存在ではないかという事を突きつけられている気がして、絶望感の様な物が持ち上がってくる。



「さて、どうする?」


俺の気持ちを知ったからでは無いだろうが、フォーメルが前面の敵を見据えたまま誰と無く語りかけた。

確かに、これは不味い状況だ。

アニーズで拾えた情報だけで考えても、連中もアーマルデ・ロイデン使いである事は明らかだろう。

カーロブって奴以外は明記されていないが、連中の物らしいマガツノミホロとターナらしき二体には、奴らの名前も出ているので間違いない。

しかも、あっち側のアーマルデ・ロイデンは基本能力が高い上に、その使い手も高レベルときている。

目に見える材料だけで判断したとしても、バッツロギィって奴はキライスと同等と見ても良い。

防御魔法を使ったのが誰かは分からないが、連中はアーマルデ・ロイデンの弱点すら克服していると見て間違いない。



 これって、詰みって状態じゃないのか?

表面上、フォーメルとファーデルも平然を装ってはいるが、アニーズで確認した彼らのダメージ判定は中程度となっている。

流石に、あの激闘で負った諸々の傷が1日程度で回復する訳がない。

むしろマツリカ達の回復速度が異常なのだ。

とは言え、今ではそれも大して好材料とは言えない。

連戦のダメージは隠しきれる物ではなく、更に兵数の明らかな減少、加えて敵の強さは、やっと凌いだ連中とほぼ同等と考えられる。

フォーメルが零した言葉は、それを無意識に言い表したのかも知れない。



「うふ。 さーて、貴方が何者か、確かめさせてもらうわよ。 

お人形さん達、やっちゃいなさい」


眼帯をした男が、体を気持ち悪くくねらせながらオネエ言葉で合図を送ると、敵のアーマルデ・ロイデンらしき三体が俺たちに襲いかかってきた。


「彼方の果て、必中の一閃!!」


先に仕掛けたのはマツリカだった。

必中の一閃は射程距離も長く、更には回避が難しい技だ。これなら、敵の数の多さに対してもある程度対処できる上に、俊足の移動で相手にも接近できる。

俺は上手いと思ったが、次の瞬間に無駄だと悟らされた。


「・・・功相討つ」


相手の人型マガツノミホロがボソリと呟き、素早く踏み込むと同時に刀を一振りした瞬間、マツリカの繰り出そうとした技は発動前に阻止され、更に踏み込んできたマツリカを返す一撃でぶっ飛ばす。


「マツリカ!」


幸いにも彼女は空中で姿勢を保って着地した為、直撃を受けたわけではない・・・と考えたのもつかの間、着地した瞬間、マツリカの左側の鎧に亀裂が入って剥がれ落ちた。

俺には刀で相手の攻撃を受け止めた様に見えたが、しっかりとダメージを与えられてしまったらしい。

このままでは負ける。

何か手立ては無いかと当たりを見回すが、アシュレイはターナ似の二体に既に取り囲まれて身動き取れないでいた。

何とか六本の腕と、それぞれに持った武器で対処してはいたが、明らかに敵の動きについて行っていない。

しかも、彼女はイユキを抱えながら戦っているので、余計にハンデ持ちなのだ。

一応、フォーメルとファーデルが援護に入ってはいたが、ターナ似の相手には完全に遅れを取っており、少なからずダメージを負っていく。

魔法攻撃も繰り出してはいるのだが全く当たらない。

単純なスピードでもターナと同等以上である上に、当たる瞬間にはきっちりと魔法による防壁が展開されて届かない。

その魔法を使っているのは、バッツロギィとか言う眼帯野郎だった。

アーマルデ・ロイデンの上に魔法も使えるとか、チート仕様もいい加減にしろよコイツ。



「おお!」


そのバッツロギィの連中に、雄叫びを上げて突撃したのはファーデルだった。

恐らくタイミングを見計らっていたのだろう。敵アーマルデ・ロイデンの相手をしていると見せかけて、僅かな隙きを見事に突く。

これには流石にターナ似の二体も対応が遅れてしまい、更にはアシュレイとフォーメルが牽制に入った事でノーマークとなる。

間隙を縫ったであろう彼の一撃は完全に虚を突いた物であり、速くて鋭い一撃がバッツロギィを捉えようとしていた。

彼の者も予想していなかったのか、笑顔がスッと消えて驚いた表情となる。

俺も目で追う事しかできない程、それは完璧な攻撃だった。

実際、ファーデルの魔法武器は、賢明に振りかざした奴の手の平に当たる。

激しく火花が散り、僅かに後退するバッツロギィ。

攻撃は当たっている。このまま押し切れば・・・・そう考えていた俺とファーデルに驚愕の表情が浮ぶ。

奴は、バッツロギィは手の平に何かしらの障壁を展開し、魔法武器の突進を完全に止めていたのだ。


「ば、馬鹿な。 魔法武器の攻撃をまともに止めるなんて・・・・!」


「もしかして、単純に受け止めてるとか思ってる? だとしたら、貴方の方がとんだおバカさんよ」


バッツロギィの目が怪しく光ったのを見て、危険を察知したファーデルが大きく飛び退く。

やっぱりコイツらはヤバい。

恐らくだが、今の時点でも小手先だけで俺たちを相手してやがる。


 すると、今度は向こう側から素早く何かが飛び出て、ファーデルを思いっきり蹴り飛ばす。

正に緑の稲妻と言った感じで攻撃を仕掛けてきたのは、コニュムヌとか言う女の方だった。

魔法やアーマルデ・ロイデンに頼らなくとも、コイツら自身の身体能力の高さも相当な物であるのがそれで分かった。


「兵力差は歴然。 更に数でもコチラが上。 さぁ~どーするの? ゆ・う・しゃ・さ・ま」


そう言って、三人組が俺の前へと進み出る。

コイツ、俺の事を知っている?

いや、そんな事より本格的にヤバい。

何時の間にか俺は孤立させられており、必然的に三体一で相対させられていた。


「ハルタ!」


駆け寄ろうとするマツリカだったが、即座に相手のマガツノミホロに阻止された。それどころか、僅かな隙きに付け込まれ更にダメージを負う。

アシュレイもコチラに意識を向けた瞬間、敵の一体が飛び込んで左の腕の一つに大きく切り傷を負う。

正に絶体絶命だ。下手をしたら、キライスの時よりもヤバい。



「かかって来なさいな。 それとも、お人形さんの数が足りない? 一人では、なーんにもできない雑魚なのかしら。 アハハハハハハハ」


「くっ」


高らかに笑いながら更に進み出る相手に、俺はジリジリと後退するしかない。

一か八かの策もあるにはあるが、それは完全な博打・・・いや、ともすれば安易な自爆にも成りかねない。やるにしても、状況を可能な限り限定する必要もある。

どうすれば・・・・その時、俺の耳に叫び声が響く。


「させないよ!」


その声と共に、森の方角から何かがもの凄い速度で突進してきた。

あっという間に迫るそれを、カーロブと言う奴がその姿に似つかわしくない速度で動くと、胸を膨らませる様な仕草で受け止め、突進してきた相手と激しくぶつかり合う。

が、防御の方でカーロブが勝り、その突進してきた相手が打ち負けて弾かれた。



「アニー!?」


俺の言葉に弾かれる様にして、アニーは着地すると同時に再跳躍し、俺の前に滑り込んで三人組の前に立ちはだかる。


「ハルたん、無事だったんだね。 良かった」


アニーは、コチラをチラッと見ただけで相手に直ぐに向き直った。相当に余裕が無いという感じだ。それに、彼女は既にボロボロだった。

何があったのか?

色々と聞きたい事はあったが、その前に敵側の会話が割って入る。


「あら、ちっちゃいお人形さん、やられてなかったのね」


「お前らのでっかい斧持った奴、アイツはやっつけた。 今度は、お前たちの番だ」


そう言って、アニーは仁王立ちで奴らを指す。

それを見たカーロブが、僅かに鼻を鳴らした


「あらら、それは困ったわね。 カーロブ?」


「ふん、馬鹿なことを言うな。 我が下へ来い!」


その掛け声と共に、俺は相手の魔力糸が森の方向へと瞬く間に伸びるのを見た。

いや、魔力を送ったと見るべきなのか?

そんな芸当、俺にはできないぞ。そして、嫌な予感しかしない。

その予想通り、しばらくすると森の木々をへし折る様な音をさせて、何かが近づいて来るのが分かった。


「そ、そんな」


一番驚いていたのはアニーだった。

やがて、黒い体色に青色の髪をし、バトルアックスと形容するに相応しい大斧を持った体躯の良い女性が姿を現す。



名称『大戦斧・カーロブ=セパレタ』強さ『白虎クラス第10位』影響度『狂戦士』レベル14。

解説『大戦斧・カーロブ=セパレタ。恐れを知らず、退くことも知らない狂戦士。常にタガが外れており、実力以上の戦闘力を発揮する。その分、防御力は低い。』


「倒した筈なのに何で・・・」


「お馬鹿さんね。 本物は、何度でも復活させる事ができるのよ。 やっぱり、あなた達って、タダの紛い物の雑魚なのかしら? でも、カーロブのお人形さんを倒せるとは思わなかったわ。 そこは褒めてあげる」


「コイツら・・・」


次々と入る断片的な情報と絶望的な状況に、俺は自分の中で処理が追いつかない方にも焦る。

本物と紛い物。

俺は、どっちだ?

もし、奴らの言う本物で俺があるなら、ターナを救う事もできるはずだ。

だが、アニーズでは限りなく・・・・・



「アニー、ユーカ達はどうした?」


「ハルたん、今はそれどころじゃないの。 コイツらを先に倒さないと皆が危ない」


俺とアニーは小声で短く会話する。

内容から察するに恐らくユーカ達はまだ無事らしいが、同時に危機的状況にもある様だ。

恐らく、目の前の連中以外にも敵が居て、ユーカ達と交戦中って事なのだろう。

アニーの口ぶりからしても、相当な強敵と考えて良い存在の様だ。

しかし、アニーはこの絶望的な状況に置かれてさえも、滅気ずに一人で何とかしようとしていたらしい。

何と無謀で勇敢な事か。

状況は厳しいどころの話しじゃなかったはずだ。

こんな小さな体の一体どこに、そんな強い意志と気力があるのか。

これを見せられて、奮い立たない奴は恐らく居ないだろう。

俺も腹を決める。



「全員聞け! この"三人"は、俺が一人で相手をする。 マツリカ、アシュレイ、アニー。 そしてフォーメル。 お前達は森に逃げ込め。 できるなら、ユーカ達と合流するんだ」


その言葉に、全員が怪訝そうな顔をし、一瞬だけ動きが止まる。

アニーなどは、本当にポカンと口を開けて俺を見上げていたくらいだ。


「な、何を馬鹿な事を言ってるんだ。 お前一人を置いて・・・何ができるってんだ!!」


マツリカが怒りとも驚きとも取れる声を発する。


「そ、そうだよ。 ハルたん、駄目だよ」


アニーも懇願する様な目を向けていた。だが、今はこれしかない。

一か八かの賭けだが、突破口となる手段が他に無い以上、やるしかない。

問題は、こっちの誘導に上手く相手が乗ってくれるか。そして、これ以外の兵種が居ないかどうかだ。


「マツリカ。 今の状況では、どの道お前は負ける」


「なっ!?」


「良いから聞け。 この三人組の弱点を見つけた。 だが、他に邪魔をされると、俺もやり難い。 後は分かるな?」


俺は、出来る限り尊大に、不敵にたっぷりとハッタリをかませて言い放つ。

三人組の顔を見ると何やら険しい顔をしていた。こっちの挑発に乗ってくれている・・・と思いたい。


「ふーん・・・私達の弱点ねぇ? 一体、何かしら。 興味あるわぁ」


バッツロギィと言う奴が、少し不気味な笑みを見せる。こいつ、やっぱり怖い。

しかし、覚悟を決めるしか無い。


「興味あるなら、俺とお前達だけでやり合おうぜ。 それとも、他に手を下す連中が居ないと怖くて戦え無いってか?」


これに反応したのはカーロブって奴だった。

更に体を大きく膨らませ、その赤い体色を更に燃え上がらせるかの様に赤くする。

もう一つの不安要素は、こいつに俺の期待している法則が当てはまるかどうかだ。


「行け、マツリカ。 どっちにしろ援軍は必要なんだ。 ここから先は、たった一つのミスが勝敗を分ける。 俺を信じろ!」


その言葉を聞いて、苦悶の顔を浮かばせるマツリカ達。

だが、次の瞬間には弾かれた様にして森へと駆けて行く。ただし、きっちりと去り際に攻撃を放ち、敵マガツノミホロを挑発する事も忘れない。

それに反応するかの様に、先に動いたのは何故かイーブル・ラーナンだった。

アシュレイもマツリカも移動を開始するが、コチラを振り向くことはしなかった。

アニーだけは泣きそうな顔でコッチを一瞬だけ振り返った気もする。

慌ててフォーメル達も後を追い、その場にはバッツロギィらと連中のアーマルデ・ロイデンが残されるだけとなった。

腕を組み、余裕の顔で相対する俺だが、内心ではビビりまくっていた。

もし、このまま、連中のアーマルデ・ロイデンが残り、俺に向かってきたとしたら手立てはない。

いや、背後を見せたらマツリカ達も対応する準備をしているはずだ。

この状況は、ある意味で敵に二択を迫ったとも見る事ができる。



「おい?」


カーロブがバッツロギィを顎をしゃくるようにして見る。


「まぁ~良いんじゃないの。 この際だから、勇者様のお手並み拝見といこうじゃないの。 お人形さんたちぃ~、行きなさい」


その一言により、四体のアーマルデ・ロイデン達も森の方へと去っていった。

凄くホッとしたが、当然、態度としては見せない。


「ねぇ、一つ聞いていいかしら。 勇者様」


「何だ?」


「貴方って、お人形さん達に名前つけてるの?」


「あ? ああ、まあな。 それが、どうかしたか」


「気持ち悪いわ。 たかが武器に何を入れ込んでいるのかしら。 それとも、お人形さん遊びが趣味なの?」


「こっちの勝手だろ?。 それに俺にとって、あの子らは家族も同然なんだ。 コッチの事情も知らないくせに、知った風な事を言うんじゃねーよ。 大体、お前らだって、人形呼ばわりして、自分らで遊んでます宣言している様なもんじゃねーか」


奴らの一言に、なんか知らんが俺は無性に腹が立った。

タダの武器として扱っている癖に、こっちよりも強いと言うのもムカつく。だからこそ、俺は相手への挑発も含めて嫌味っぽく言ってみた。ところが


「なったくな。 おむら、きめてぇるでな」


「?」


殺気立つ俺の耳に、突然、聞き慣れないと言うか妙に抜けた声が入り、キョトンとする。

どうやら、コニュムヌと言う奴が言ったらしい。

イフィールと同じプラウネ系ヒューマスとされているが、彼女は信じられないくらい美人だ。

マツリカやユーカらの幼い感じのそれとは違い、大人の女性と言うか、より魅力的な美しさを持つ。

セイレアヌも美人の部類だが、あっちは高貴で堅いイメージがあるのに対し、コニュムヌは柔らかさと透き通った感じもあって、見た目だけは凄く好感が持てる。

それだけに、妙な言い回しをした事に違和感を感じた。

それを、バッツロギィの奴が一瞬だけ彼女を見た後、俺に訳す。


「コニュムヌさんも、貴方の事が気持ち悪いんですって」


「はぅっ!?」


何か知らんが大ダメージを受けて、戦う前に俺は膝をガクリと折り泣きたい気分になる。


「随分と余裕だな」


その声に顔を上げると、眼前にカーロブの拳が迫り、俺は思いっきりぶっ飛ばされて近くの城壁だか何かの残骸に叩きつけられる。


「人が落ち込んでいるのに、何てことしやがる。 血も涙もねーのか、テメーは!?」


肉体のダメージよりも精神的なダメージの方が凌駕していた為か、俺は直ぐに起き上がってカーロブの奴に抗議する。

そこへ一陣の風が吹き、全員に妙な間が流れるのだった。

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