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俺のLVは上がらないのに、  作者: 松戸真 寿司
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~謎の勢力~ -34. 敗北の代償

今年最後の更新となります。再開は2月頃の予定です。

今年も読んでくださった方々、本当にありがとうございました。

来年もよろしくお願いします。









「ターナ・・・・」


俺は変わり果てたターナの姿を見て絶句する。何かを言い出したかったはずなのに、言葉が出てこない。


 彼女の体は全体が赤錆色に代わり、人間だった頃の面影は全く無くなってブリキの人形と形容して良い姿になっていたからだ。

そして、俺の声に反応したターナが、ぎこちなく動く。

手にした短剣も溶けて歪な形となっていた。

そのせいもあるのか、顔も人形そのままと言った感じで全く表情を読み取れない。

だが、俺には彼女が泣いている様にも見え、抱きしめられずにはいられなかった。



 ターナを探す少し前、最悪最強の敵キライスが自ら撤退したことで何とか命を繋いだ俺たちだったが、事実上の敗北、そして状況は限りなく最悪となってもいた。

マツリカとイユキは停止状態のままとなり、アシュレイも大ダメージを負っている。

融合の方はアシュレイから半ば強引に解除された感じで、気がつけば俺は地面に突っ立っていた。

振り向けば酷い怪我を負ったアシュレイが倒れていたのだ。

恐らくだが、全てのダメージを彼女が請け負った可能性もある。

それについては、案の定アシュレイは何も語らないため確信はない。

それとも、そうしたリスクや機能があるのか。


 フォーメル達三人は何とか無事ではあったが、戦闘力と言う点では彼らもまた使い物にならない状態となっていた。

ファーデルともう一人の若い方は魔法武器がまだ使える様ではある物の、士気が低下していると言うか、明らかに戦意を喪失していて戦える状態にない。

あのキライスと言う化け物を相手にしては仕方無いのかもしれないが、それ故に俺は動かなければならなかった。

この中で唯一まともに動けるのが俺だけだったからだ。

キライスの特大の攻撃に晒された筈なのに俺は全くの無傷だった。

これもアシュレイのお陰か、それとも別の要素があるのか。

ともかく、今は俺がこの場を仕切るしかなかった。

何せ、色々な面で気がかりな事が多かったからだ。

木偶の様になってしまったイーブル・ラーナンもその一つである。


 イーブル・ラーナンは、基本的に多様な自律性を持っては動かない存在だ。

何かの命令を受けて、それを柱として動いていると言った感じだが、それでもある程度の意思を備えて動いている様には見えていた。

ところが、最後の一体となったこのイーブル・ラーナンは、どこか虚ろと言うか何時もと違って反応を返さない。

何を言っても突っ立っているだけで、ノロノロと俺たちの後をただ着いてくるだけだ。

しかも通信機能まで失っているらしく、ユーカ達と連絡が取れない。

キライスの攻撃に何か影響を与える物があったのかも知れないが、今は考えている余裕は無かった。

ともかく、この場に居ないターナの事を探さなければならなかったからだ。

助かったのは、魔装騎士の連中がイユキやマツリカの運搬を申し出てくれた事だった。

良く分からないが彼らの中に恩義の様な物を感じられたので、それなりに俺たち・・・と言うより、イユキやマツリカの戦いぶりを認めてくれたのだろう。

実際、あの二人が居なければ初戦で俺たちは全滅していた可能性もある。

特にロズッテと言う奴は献身的でさえもあった。

ただ一方でフォーメルの厳しい目が気になってはいたが、この時は気のせいだと俺は思っていた。


 強がるアシュレイに無理やり俺は肩を貸しターナの探索を始めたのだが、幸いにも直ぐに反応が出たのでホッとする。

だが、色々と有り過ぎたのと、それだけで安心してしまった為に、俺は表示が幾つか異なっていただろう事を完全に見落としていた。

それだけ余裕が無かったと言う事でもあるのだが、今となってはどうでも良いことだ。

何故なら、発見したターナは、変わり果てた姿となっていたからだ。


 泣いたのはアシュレイだった。

意外な行動に俺も驚いたのだが表には出さなかった。何か一つ表情を動かすと、俺自身も持ちそうに無かったからだ。

だが、嗚咽を上げながら、ターナを俺と同じ様にアシュレイが抱きしめたのを見た時は、流石に堪えた。

彼女たちは彼女達で仲間意識を強く持っていたのかも知れない。もしくは、別の理由があるのか。

しかし、この姿を見て俺は確信の様な物を勝手に持つ。

この子らが暴走などしたりするものか。

ましてや、俺に牙を剥くなんてありえない。



「ごめんなさい、ご主人さま。 私・・・私、役に立てなかった」


姿こそ変わり果てたターナだったが、意外と喋りはしっかりとしていた。


「そんな・・・そんな事あるものか。 お前が、ターナが敵を抑えたからこそ、俺達は・・・」


俺は感情が思わず出そうになったところで、歯を食いしばって最後の言葉を自ら遮った。

ターナが、たった一人で、どんな戦いをしていたのかと想像したら胸が締め付けられそうになったからだ。

溶けかかっている短剣、ターナの惨状。

それだけで敵が相当に強かっただろう事が伺えた。

恐らくだがキライス並にだったと言う事も十分にあり得る。

ある意味で最高戦力だったターナだからこそ、一人でここまで戦えたと見る事もできるだろう。

詳細を知らないので想像でしか無いが、相当な不利を自分を犠牲にする事でひっくり返したのかも知れない。

そう考えれば、一先ずは無事であった事を喜ぶべきなのかもしれない。

だが、この姿を見たら他の仲間は何と言うだろう。

ルミンはショックを受けて更に症状を悪化させないだろうか。

今回は、あまりにも代償が大きすぎた。

俺の見通しの甘さが招いた結果とも言えるだろう。


「ターナ、取り敢えず俺の血を飲め。 直ぐに良くなる」


そう言って彼女の短剣に腕を押し当てようとした時だ、それをターナ自身が押し留めた。


「駄目です。 ご主人様も力を・・・・いえ、私は大丈夫だから。 止めて下さい」


「何言ってるんだ、俺の事なんて。 いや、お前たちが体を張ってくれたお陰で、俺達は何とも無い。 これ位させてくれ」


俺は、自らの歯で皮膚を食いちぎって血を出させると、半ば強引にターナの口元へと持っていった。

それを見てターナは、かなり動揺していたのだが、構っていられなかった。

とにかく彼女をどうにかしたい。あの可愛らしくて綺麗な姿に戻してあげたい。

その一心だった。


 ところが、どんなに彼女に血を飲ませても、何も変化は起きない。

赤錆が少しだけ斑な形で改善しただけで、全体的にはブリキ人形と言ったままだ。


「何故だ・・・・」


滴る血にもかまわず、俺は呆然とした。

それをターナとアシュレイが慌てて何とかしていたが、それすらも気にかける余裕が無い。

ふと視線を落とせば、ターナが申し訳無さそうな顔をしている。彼女のせいでは無いのに。

そして、溶けた短剣が目に入った。

これが原因なのか?


「ターナ、その短剣を直そう」


「え?」


「君の短剣を直せば、全て元に戻るはずだ。 そうすれば・・・」


「無理だ」


俺たちの会話に割って入ったのはフォーメルだった。表情を見れば、一層険しくしている。


「アーマルデ・ロイデンの本体と言える武器が破損しては、例え鍛え直したとしても劣化した兵士部分は元に戻らない。 これも、アーマルデ・ロイデンが背負うリスクの一つだ」


「そ、そんな・・・」


ここに来ての新たな情報に、愕然とする俺。

いや、よく考えれば当然の事でもあったはずだ。

前から疑問の一つとして持ってはいた。

どっちが本体であり、どちらの方が媒体として優先されるのか。

武器が人化すると言うプロセスを考えれば、この結果は凄く当たり前の事だったはずだ。


「・・・楽にさせてやれ」


「は!? 何言ってんだテメェ!」


俺は怒りを隠す事なくフォーメルにぶつけた。

まだ聞くこともあるはずだったが、それよりもターナの存在を奪おうとしている事だけは瞬時に分かった為か、感情を抑えられない。

正に食って掛からんと言う俺を、ファーデルと言う奴が間に入って制止する。


「こうなったアーマルデ・ロイデンは役に立たない。 それどころかハルタ殿。 君と、その仲間にも不具合を引き起こす可能性すらある」


「そんな事あるか。 ターナは、まだ大丈夫だ。 こんなの、今までだって・・・」


「暴走するとしてもか!!」


途端に俺は言葉を失う。

何と言うか、フォーメル達が曖昧っぽく話していた理由を、理解してしまった様な気がしたからだ。

力なく俺はターナとフォーメルを順番に見る。


「ご主人さま、良いんです。 ターナも足手まといには成りたくない」


「そんな・・・ターナ。 だって君は、俺の命の恩人・・・・」


これまでの事が瞬時に俺の脳裏を駆け巡る。

あの森を生きてここまでこれたのは、ある意味でターナのお陰だ。

彼女と最初に出会っていなければ、今の俺はきっと無い。

それを、ここに来て役に立たないからと言って切り捨てるなんて。

そんな俺達の様子を見かねたのか、ふとフォーメルが表情を崩して緊張を取ろうとするかの様な仕草をした。


「ハルタ殿の気持ちも分からんでは無い。 私の相棒・・・この魔法武器にも確かに愛着があるからな。 しかし、武器は所詮武器だ。 それはアーマルデ・ロイデンとて同じ事だ。 使えなくなった物を使い続けると言うのは、その武器にとっても不幸な事だと思わないか?」


その言葉に今一度ターナを見ると、彼女は決心した様に頷く。

それを見たアシュレイが、震える様にして更に抱きしめた。

こんな姿を見せられて、ただの武器なんて誰が割り切れる?

何か、何か方法はないのか?

様々な事を巡らせるが、何一つとして良い策は思い浮かばない。

こうなる事自体、想定外だった。いや、考えない様にしていた。

そのツケが、ある意味で回ってきたとでも言うべきなのか。


「・・・駄目だ、できない。 ターナは、まだそこにいる。生きている。 俺の大切な・・・娘なんだ。 家族なんだ」


俺は歯を食いしばり、必死に感情を抑え込む。


「なら、ここでお別れだ」


ハッとして俺はフォーメルを見た。

彼は厳しい表情を俺に向ける。


「ハルタ殿が、そのアーマルデ・ロイデンを大切に思う様に、我々も国とそこに住む者たちを第一に考えている。 危険かも知れないモノを、わざわざ取り込む事はできない」


フォーメルは、一部の隙きも見せずに言い放った。俺は全く反論できない。

だが、これでこっちの決心も固まる。

元々からして、互いに薄っぺらい関係だったのだ。

どっちも大事で譲れない物がある以上、それを捨ててまで歩み寄る事はできない。

そう、俺の考えが至って振り向こうとした時だ。

別の者が会話に割って入ってきた。


「あ、あの・・・よろしいでしょうか」


皆で振り返ると、若いと言って良い騎士が遠慮がちに手を上げている。顔こそ知っていたが、俺は名前すら知らない。


「何だ、ロズッテ」


フォーメルが聞き返す。


「その・・・そのアーマルデ・ロイデン、ぼ・・私がここで見ています」


何を言っているのか一瞬分からなかった。

それはフォーメルも同じだったらしく、聞き返す。


「何を言っているんだお前は。 一人でここに残るとでも言うつもりか?」


「その通りです。 どのみち、ここに常駐する人員も必要な筈です」


「・・・必要ない。 ここは放棄する。それに、敵がまた来るとも限らん。 お前一人でどうするつもりだ」


「そう簡単には来ないでしょう。 それに・・・それに、私達の命はアーマルデ・ロイデンがあったからこそです。 ある意味、大恩を受けた彼らを見捨てる事は、私にはできません」


「お前・・・」


「分かっています。 アーマルデ・ロイデンはただの武器。 ですが・・・」


そう言って、ロズッテと言う騎士はターナとアシュレイを見た。

それに釣られて周りも目を向けると、険悪に成りかけた空気が少し消えた様な気がした。

俺は普通だと思っていたが、彼らも今更ながらに思うところがあったのかも知れない。

無表情無口なアシュレイが涙を流し、仲間を必死に守るかの様にして抱きしめている姿は確かに来る物がある。

そもそも人間って何だ?もっと根本的に生物とは何なのか。

動物にさえ仲間を思う気持ちがあって、それに人間は時に感化される事もあるのだ。

見た目以外にも人間に近い彼女達を、武器や道具と切り捨てる線引はどこにあるのか。


 と、そこまで考えてから、俺は何か引っかかる物を覚える。

人間・・・ヒューマス・・・強さのランク・・・。

アニーズで見た場合、少なくとも上位の存在はターナ達となっていた。

アニーズの情報その物が偏っているため単純な比較はできないのかも知れないが、ヒューマス・・・つまりフォーメル達は少なくともターナたちアーマルデ・ロイデンよりも格下の存在としてデータ上では扱われている。

これがヒューマスとアーマルデ・ロイデンだけならば、単純に能力差と見る事もできるのかも知れないが、問題は、それ以外の存在が居る事だ。

ミズツノシシオギに始まりエレメンと言った、何とか相当と言う表記と照らし合わせると、レベル差、格下格上と言う扱いにはなってはいるが、少なくともヒューマス、モンスター、ターナ達は同一枠として扱われている事になる。

加えて、これらの三種類の枠は、何故かモンスターの名称によってランク分けの様な事までされていた。

と言う事は、この三種類は何かしらの法則に従った形で共通する物があり、それによって見比べられていると言う事にもならないだろうか。

しかも、その根本には、俺が知っている世界でのモンスターが柱となっている可能性も高い。


 そこで俺は、突飛な発想へと行き着く。

この三者は、元々同一の何かだったのではないだろうか。

根拠・・・と言うには乏しいが、確かモンスターの中には神々の怒りを買って姿を変えられた物も居たはずだ。

だとしたら、どっちかが劣化版、あるいは進化型と言う可能性も出てくる。

もしかしたら、ルミンの怪しげな情報も、これらに関連しているのではないだろうか。

彼女は何かがキッカケで、ヒューマスと言う存在の軛を離れようとしている?

不安定とか死にそうと言う表記は、もしかしたら、ヒューマスと言う物を前提としてアニーズは情報を示していたのかもしれない。

それを前提とした場合、モンスターはヒューマスから進化した・・・あるいは強化型とも見る事ができるし、そこを経てアーマルデ・ロイデンのフレームの様な物が出来上がっているとしたら・・・・。


 この世界は謎が多い。

実際、俺が使っている武器を人化させると言う能力にも不明な点があるし、人化した娘たちが基礎的な人格と言った物を持っていることも十分に異常と言えるのだ。

とは言え、それをそのままフォーメル達に話したところで信じてはもらえないだろう。

何より、相手の情報をある程度抜き取るアニーズの存在をしられたら、どんな風に思われるか・・・。


「お願いです。 フォーメル隊長。 彼らが我々を救ってくれた様に、私にも彼らを救わせてください。 それに、私は元から戦力にならない。 ならば、せめて意味のある形で貢献させてください。 何より、戦争はまだ終わってないのですから、戦力の確保は可能性が少しでもあるならば、やるべきだと思います」


固い意志を見せるロズッテと言う騎士の言葉に、フォーメルが鼻から息を漏らしながら少し身を引く。

そして、直後に彼は少しだけ笑った。


「戦士が一番成長するのは実戦だと言うが、随分と偉くなった様だなロズッテ?」


「あ、いえ。 生意気な事は承知しています。 しかし・・・」


「責めている訳ではない。 お前の言う事も一理ある。 だが、責任を本当に一人で負えるか?」


「・・・はい」


少しの間を置いて返答を返したロズッテの目には、力強さが宿っているのが俺にも見えた。もっともそれは、ターナや俺たちにとって必ずしも希望とは言えない物だった。

ここで言う責任とは、恐らくターナが暴走しようとした場合、彼自身の手で止めを刺すという事も意味している。

俺らを無視した事の運びようではあるが、実はコッチにもあまり選択肢は無い。

イユキとマツリカが停止し、アシュレイも大ダメージを負っている以上、支援が欲しいと言うのが本音だ。

シーゼスを明確に敵とした上に、それ以上の強力な敵の存在が出てきている現状、更にレパンドルとの関係も悪化すると下手をすると俺たち自身が追い込まれる事だってある。

勇者だとか名乗ったのも、ここに来ては最悪さを助長させるだけの物となってしまった。

アレだけ大手を振ったのにコテンパンにやられたと知られたら、セイレアヌ自身の立場も危うくしてしまうだろう。

フォーメルの厳しい対応や表情は、むしろ彼女の為にあるのかも知れない。

それ故に勝手に進められた話ではあるが、このロズッテと言う騎士の話はある意味で渡りに船でもある。

心配が無い訳ではないが、ターナを見捨てたくない俺と、それを咎めるフォーメルの間を取り持ってくれているのだから、何とか両者の糸を切らないでいられる。

実際、フォーメルもターナをここで監視するのであれば、処分するのは今は待っても良いと言ってくれた。

あっちは、あくまでも処分を前提に立っている。

だが、時間を稼いでいる間に俺は何とかするつもりだ。

場合によっては他の仲間と取って返し、ターナだけを回収して逃げたって良い。

俺たちは表向きには握手を交わしたが、その背には互いに何かを隠す間柄となった。

しかも、これは両者ともに分かってやっている。

次に出る行動の一つ一つが、今後の行く末を決める事になるだろう。

もしかしたら、フォーメルは俺が何をやろうとしているのか、既に見抜いているのかも知れない。

彼の人柄的に何となくそう思える。

もしそうだとしたら、レパンドル騎士としての建前を立てつつ、戦闘で受けた恩を無言の内に返そうとしているのかも知れない。

分かり難い奴だが、義理堅い男でもあるのだろう。


「では、一旦王都に戻ろう。 何であれ敵は撃退したのだし、報告して指示を仰がねばならん」


ゆっくりと見回すフォーメルに全員が頷いた後、その重い足を無理矢理に動かす様にして俺たちはその場を後にする。

一瞬だけ背後を振り返れば、ロズッテとターナも移動しようとしているのが見えた。

恐らく、まだ使えそうな建物内にでも入るのだろう。

後ろ髪を引かれる様な感覚を、俺は頭を振って無理やり打ち消した。



 ロズッテの先導にターナと呼ばれるアーマルデ・ロイデンは素直に従った。

マツリカと言うアーマルデ・ロイデンの対応から、すんなり言う事は聞いてくれないだろうと思っていただけに、ちょっと意外だなとロズッテは思う。

それだけ余裕が無いという事なのかも知れないが、余計にこのアーマルデ・ロイデンに対し、彼は親近感の様な物を勝手に寄せた。

本音で言えばマツリカの面倒を見たかったのだが、マスターである勇者が回復の見込みがあるので一緒に連れて行くと言うのであれば止める手立てはない。

実際、危険度と言う判定がここに残るのが条件となっているので、その可能性が低い者をわざわざ置いて行く理由もないだろう。

アーマルデ・ロイデンはただの武器だ危険だと聞かされてきたが、実際に目にした彼女達は、非常に強くて頼もしく、何より美しくて健気であった。

武器が意思を持ち従うのは何という素晴らしい事なのか。

ロズッテは自分でも分かっていが、アーマルデ・ロイデンに魅入られていた。

人形の様になってしまった眼の前の者さえ、彼には神々しいと思える。

そんな視線に気がついたのか、ターナが怪しげな目を向けてきた。

それに慌ててロズッテは体ごと視線を外すと、多少声を上ずらせて彼女に話しかける。

特に話す事があった訳ではない。元々接点の無い相手だったので、彼は勝手に自分の身の上話をする。

聞いてくれるか興味を持つかも関係なかった。ただただ、自分の存在を何かしら印象付けようと思ったのだ。


 しかし、そんな無防備のロズッテの背後で、ターナは溶けた短剣を両手で握りしめて構えていた。

まるで、今直ぐにでも突き刺さんと言わんばかりだ。

そして、その目は魔力の力か或いは別の何かか、赤い光と共に狂気を溢れさせていた。



アシュレイの蹴り出す一歩は、地面を弾けさせて驚異的な加速度を与える。

無理はするなと言ったのに、彼女は何かを振りほどこうとするかの如く、一心不乱に俺を抱えたまま走った。

背後をちらりと見れば、フォーメルとファーデルたちが必死になって着いてきていると言う感じだ。

二人ともマツリカとイユキをそれぞれ抱えているが、どちらかと言えばアシュレイの身体能力の高さに食らいつくのに必死という感じだった。

その一方で、イーブル・ラーナンの方は平然と着いてきている。

と言うか、このイーブル・ラーナンの今の身体能力は異常だ。

普通は、こんな速度では着いて来れないはずだが、何かがぶっ壊れていると言う感じもする。


「アシュレイ、ちょっと速度を落とせ。 後の二人が仲間を運んでいる事を忘れるな」


それを聞いたアシュレイは一瞬だけハッとした顔を見せたが、直ぐに真顔に戻って速度だけを落とす。

殆ど表情を変えない彼女だが、やはり内心は動揺しているのだろうか。

アシュレイもダメージ的には、まだ良くなっているとは言えない。

一応、判定的には回復して今は中ダメージとなっているが、それでもこんな動きを取れる訳がない。

相当に無理をしているらしいのだが、セーブする様に言っても無言の笑顔を返してくるだけで、全然止まってくれないのだ。

その姿は、俺には自分を虐めて戒めている様に見えた。


 しかし、アシュレイの考えは違っていた。

彼女は不安の方が大きく、今になって責任の重大さと嫌な予感が膨れ上がって焦っていたのだ。

表情を変えない為、マスターであるハルタもそれには気がついていない・・・いや、アシュレイ自身が気を使っていたのでそうなったのだが、事態は悪い方向へ向かっているのは間違いないと彼女は考えていた。

イユキとマツリカが動けず、更にはターナも離脱した今、ハルタを守れるのは実質的に自分だけとなっている。

着いてくる連中も信用する事はできない。

更には、イーブル・ラーナンの変調も気になる。

もしかしたら、敵の攻撃によって、何かしらの異常を引き起こされる術を仕掛けられた可能性も高い。

だとしたら、突然襲いかかってくる場合も考えなければならないが、もっと恐ろしい事をアシュレイは危惧していた。

もし、あのキライスと言う敵が自分に対しても同様の術を仕込んでいた場合、自分自身がハルタを襲うと言う、最悪な事態も起きかねないと考えていたのだ。

だからこそ一刻も早く、無事な仲間たちと合流しなければならないと思っていた。



 日が落ちてからは、あっという間に暗くなった。

俺も急いている感覚からか王都には直ぐにでも付くと錯覚していたが、実際に到着するには後半日以上はかかるだろう。

流石にフォーメルたちが持たないと言う事もあって、一旦は休憩を取る事になった。

自分たちだけで移動していた時は、俺以外には休憩を必要としない上にリディの中に居れば良かったので、その辺はあまり意識しなくても良かったのだ。

まあ、今も俺はアシュレイに抱えられて移動しているので最初と変わらないのだが、問題は、そのアシュレイの能力も落ちており思った程には距離を稼げていない事だろう。

表面的には平気そうに見えるが、やはりダメージ判定が出ているので仕方がない。

戦闘があった砦から王都までは、休み無しで移動しても本来なら1日以上は普通にかかる距離だ。

セイレアヌから連絡を受けて直ぐに移動した俺たちが居た拠点は、王都よりは砦にやや近い為、必然的に早く到着できた。

それでも後からフォーメル達が上手く戦闘中に合流できたのは、俺達が隠れて待機していたからだろう。

もっとも距離的な事を考えれば、フォーメル達も合流を急ぐために、かなり無理をして移動してきたのかもしれない。

今は全員がその無理がきかない状態となってしまっている。


 その様な状態でありながらも、俺達は手早く野営の準備を行った。

俺自身も慣れてしまっていたのと、フォーメル達も訓練だか何かで手慣れているのか、疲れている筈なのに、そこら辺は難なく熟して今は全員で火を囲んで無言のままに体を休めていた。


 揺らめく火を見ながら俺は色々と考える。

リディのこと、ターナのこと、皆とその他の事を。

横を向けば、今も停止状態のマツリカとイユキが並んで眠らされている。

甲冑と盾を外そうとしたが、張り付いていると言うかピッタリと密着してびくともしなかった。恐らく、本人以外では扱う事ができない様なので、諦めてそのままにしてある。

続けてフォーメルたちを見たが、彼らも目を閉じて体を休めていた。

一応、見張りは俺が請け負う事にした為、彼らは朝まで休んで良いことになっている。

どのみち、俺自身は移動をアシュレイに助けてもらうので、その間は寝てても良いからなのだが、自分でも情けないと思う。

ただ、今はそんな事を気にしている場合でもない。

状況は限りなく不味い方向に向かっている。

実際の戦闘で得た情報とフォーメル達の出し渋る話を総合しても、敵はシーゼス以外にも居ると考えた方が良い。

しかも、より強力で少なくとも俺たちにとっては最悪な相手だ。

下手をしたら、レパンドルと言う国その物が簡単に滅ぼされ兼ねない。

セイレアヌと深く関わる以前なら、それでも良かったのだが今はそうもいかない。

少なくとも、俺の心の片隅には常に彼女の姿が浮かび上がっており、国が滅んだ時にどんな顔をするかが何故か容易に想像できて、簡単には断てない関係にあると思っていた。

結果的に俺たちは敗れたと言っていいが、それでも微力ながら協力はできるはずだ。

セイレアヌを通じて、全員の力を一致団結する方向に持って行けば、必ず打開策は見つかると思う。


 ・・・既に、俺の中には他力本願的な要素が強くなっていた。

正直、俺自身も内面的には大きなダメージを負っていると言って良い。

リディを失い、ターナもどうなるか分からない状況となっているからだ。

そして、マツリカとイユキも下手をしたら失っていた可能性もあった。

情報が不足している状態で動いた結果ではあるが、それ以前にユーカから警告は受けていたので、全面的に俺の愚かさが招いた結果とも言える。

そんな中で、俺はより強く思っていた事があった。

それは、早くユーカに会いたいと言う事だ。


 彼女は能力が強力で判断力や分析と言った面でも頼れる存在ではあったが、何より俺は彼女に叱って欲しいと思っていたのかも知れない。

いや、恐らくユーカは面と向かっては怒らないだろう。

無言で非難の態度を取る程度だろうが、それでも今の俺には救いだった。

とにかく、誰かに俺の愚かさを戒めて欲しいと思ったのだ。

フォーメル達も非難めいた事を言ってきたりしたが、彼らのそれは、あまりにも鋭く、そして自分たちの国と民の事を考えての怒りと責めなので、俺の事を考えたそれではない。

逆にユーカなら、俺の事を考えての怒りを向けてくれるだろう。

要は甘えたいのかもしれないが、厳しい状況にあってバランスを取ろうとする俺には、いま一番必要な物に思えた。

そう考えて、頬を膨らませてぷいっと向いてしまうユーカの姿を想像する。

いや・・・もしかしたらアシュレイがそうであった様に、彼女も泣くのではないだろうか。


 そんな物思いにふけっていた俺だが、不意に陰が横切った為に強制的に現実に引き戻される。

顔を上げれば、イーブル・ラーナンが何故か俺の斜め前付近に立っていた。

俺の方は向いておらず、呆然と遠くの方を見ている感じだ。

火にも近い位置に居る為、何となく心配になった俺は手を引いて側に座らせてやる。

何かしらの抵抗を見せるかと思いきや、そのイーブル・ラーナンはされるがままに腰掛けた。

ローナの廉価版とでも言える様なソイツを暫く観察してみたが、特にこれと言った異常は見られない。

もちろんアニーズでも確認しては見たが、基本情報に変化はないしダメージを負ったと言う表記もない。

だとしたら、何が原因でこの様な状態になっているのか。

ターナやリディを失って、このイーブル・ラーナンもショックを受けたとでも言うのだろうか。

或いは、ユーカ・レブトの様な変化を見せる前触れの様な物だろうか。

悪い方向に考える事もできたが、俺は敢えてそうしなかった。

むしろ、このイーブル・ラーナンの肩を抱いて寄せると、頭を撫でてやる。

もう、最悪な状態は起きないで欲しい。

俺は自身のバランスを保つ為、そう願いながら朝を待った。

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