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俺のLVは上がらないのに、  作者: 松戸真 寿司
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~謎の勢力~ -31. 天敵襲来 その16






 敵の攻撃が迫っていると言うのに、イユキがやられてしまった為か、それに動揺した俺は相手から意識を反らしてしまう。

それはアシュレイも同様であったらしく、完全に対応が遅れてしまい焦った様な表情がはっきりと読み取れる顔をしていた。

直後、フォーメルが間に入って防御魔法を展開。俺たちに変わって敵の攻撃を防ぐ。

正に間一髪。

のハズだったのだが、それも僅かばかりの抵抗であったと言えた。


一旦止められたと思った敵の攻撃は、より力を増してフォーメルの防御を飲み込む。

まるで、バターを溶かすかの様な光景だ。

このまま行けば、ここに居る全員が唯では済まないだろう。


「おるぁ!」


誰もがなす術がない状態で、俺は咄嗟に敵の魔法攻撃を真横から殴りつけていた。

幸いと言えるのかは分からないが、イユキの状態に動揺したのかアシュレイの拘束が緩んでいた為、俺の無謀な行動が邪魔される事はなかった。

こっちの体の一部を接触させれば、それで弾けてしまい予定した距離よりも攻撃の発動を早められるか、或いは側面から衝撃を与える事で攻撃の威力を横に反らせ、少しでも被害を減らせるかもしれないと考えたからだ。

それに、もしかしたら俺にだけ攻撃が流れてくる可能性もある。

腕の一本くらいは失うだろうが、全滅するよりはマシだ。

何れも根拠はない。

しかし、俺の思惑通りに敵の攻撃は凄まじい威力で弾けた。ただし、フォーメルの防御もあったお陰でその威力は横に弾ける。

はずだったのだが、敵の攻撃は予想以上に強力で、その余波だけで俺達は、もろとも吹き飛ばされてしまうのだった。



「ハルタァ! アシュレイ・・・イユキ」


強力な敵の攻撃によって、ハルタ達は一瞬で消えた。その爆風はマツリカにまで届き、それに耐えしのぐ姿勢を取らされる。

その最中、彼女は怒りとも泣き顔とも取れない表情を作り、唇を噛み締めていた。



 暫くした後、爆風とそれに伴う土煙が晴れ、ようやく周囲の状況が見渡せる様になった。

ハルタ達が居た付近は何も無くなっており、大きな窪地が出来ている。

石造りの建物も、その余波を受けてかなり崩れていた。

そして、例のスライムの魔王も、最初の位置から随分と後退しており、その威力が如何に凄まじ物であったが分かる。


「大丈夫だ。 まだ・・・まだ私は生きている。 なら、ハルタだって・・・」


マツリカは、震える手で刀を構え直す。それは、ハルタ達の事に動揺してなのか、敵の強さに恐怖したのか、自分でも分からない。




「・・・ん・・・ルた・・・いや・・」


フォーメルは、遠くで幼い子供が泣いている様な声で意識を取り戻した。

目を開けて周囲を見てみれば暗い。

僅かな隙間から届く光を頼りにして見ると、瓦礫の中に埋もれている事に気が付く。

それは偶然ではなく、彼の魔法武器、クレーブスが防御魔法を維持し、それによって潰されるのを防いでくれたのだ。本当に頼りになる相棒だと、フォーメルは体を起こしながら笑う。

だが、外に出てみて、自分の体が相当にズタボロになっているのに気が付いた。

いや、あの攻撃を食らって良く生きていた、と言う方が正しいだろう。


 瓦礫を押しのけて前に進むと、六本腕の少女が泣き叫んでいた。


「ハルたん、ハルたん。 イヤ・・・イヤ。 目を開けて、お願い」


その姿を、フォーメルは暫し呆然と眺めていた。最初に出会った印象と全く違う今の姿に、頭の理解の方が追いつかなかったからだ。

あの無表情で凛としていた化け物は、まるで親を失った子供の様に泣きじゃくっている。

傍らに居る緑色の人形も、悲しみの表情を浮かべて呆然として立ち尽くしている様だ。

そこまで見てから、フォーメルはようやく我にかえる。

(まさか!?)

瓦礫に足を取られつつ、重い体を懸命に引きずって近付く。彼自身も既に限界が来ていた。その為、自分の思いとは裏腹に体は言う事を聞かず、ゆっくりとしか近付けない。

そして徐々に、何が起きているかが見えてきた。

 最初に足が見え、次に大量の血。腹に突き刺さる槍状の武器。それは恐らくアーマルデ・ロイデンの物だろう。

そして最後に、口からも血を流し、意識を失っているらしいハルタの姿が見えた。

右手も煤けて見た目はボロボロとなっていたが、不思議とあの攻撃を受けた割には損傷が限定的だなと、フォーメルは自分でもおかしなほど冷静な感想を持つ。

それをフォーメルが確認した時だ。六本腕の少女が、ハルタに折り重なる様にして崩れ落ちた。


「お・・・おぉ・・・・」


フォーメルも、その場で膝から折れ、遂には武器も手から落としてしまう。

しばらく呆然としていたが、背後で鋭い音がするのに気が付き、疲れた様に振り返れば異形鎧のアーマルデ・ロイデンが戦っているのが見えた。

だが、マスターを失おうとしている今、その抵抗も長続きはしないだろう。

全て終わったのだと、彼はがっくりとうなだれるのだった。



 必殺の斬撃、彼方の果て、必中の一閃、神魔絶刀。

マツリカは、あらゆる技を立て続けに繰り出し、懸命に攻撃を試みた。

しかし、そのどれもが防がれる。

二体の連携した動きにより、一方が防御に、もう一方が攻撃に転じ、一分の隙きも見せない。

例え攻撃が当ったとしても、スライムは自在に体を変化し、ダメージを最小限に留めてしまう。

マツリカにも相手の攻撃を殺す功相討つがある。

しかし、これで防げる攻撃は一度に一回だけだ。技の終了後には隙きも生まれる。更に言うのであれば、本来ならば敵の大技を防ぐ物でしかない為、汎用性に欠ける欠点もあった。

故に、ただの攻撃を防ぐには使い難く、そして、敵の通常攻撃は一つ一つが半端ではない。

その為か、マツリカの方はダメージが蓄積して行く。

魔力吸血なども使ってはいるのだが、相手は全く影響を受けている様に見えない。

逆に、こちらの容量があっと言う間に一杯になり、それ以上の発動が困難となる有様だ。

しかも、吸い取った敵の物は大抵質が悪い。

自分の体の維持に使うにしろ、技に応用するにしろ、馴染むように変換しなければならず、それには時間がかかる。

ハルタの血を使えば、それもあっと言う間にできるが、それでは本末転倒だ。


「ちくしょう。 私は、こんなにも情けない奴だったのかよ」


加速すると見せかけて一回転してフェイントをかけ、そして攻撃を繰り出す。

相手は引っかかり、繰り出された大剣は空を切ったが、もう一体がカバーに入ってマツリカの攻撃を受け止める。動きが止まった瞬間を見計らって、空を切った大剣が返って来た。かわせない。

それでも、マツリカは体を捻って回転させて、相手の攻撃の威力を削ぐ。

生き残る事はできたが、肩辺りにダメージを負う。

本音を言えば一息つきたかったが、直ぐに二体の斬撃が襲いかかってきたので、無理矢理に体を動かして飛び退く。

いや、殆ど転がったと言っていい。

そして、状態を起こした所で、右足のふくらはぎに痛みを感じた。

見れば、氷の矢とも言うべき物が刺さっている。見上げれば、敵マスターがこちらに手を掲げていた。何らかの攻撃を行ったのだろう。そして、更に連続して同様の攻撃が放たれる。

マツリカは、泥にまみれながら転がってそれらをかわす。

攻撃が止んだ。と思った瞬間、回り込んでいた二体から同時に攻撃が繰り出され、それをしゃがむ形で受け止める事となった。

力が入らず、ジリジリと地面へと押し潰されて行く。

瞬間、一体がムチ状にして体の一部を伸ばすと、マツリカはそれに掴まってしまった。今まで無かった変化に、完全に対応が遅れてしまう。

そのまま、恐るべき力で地面に二度、三度と叩き付けられ、更に城壁に打ち付けられた。

その一瞬、マツリカは停止状態に近くなる。しかし、無意識か、それとも己の気力か。唇を噛んで彼女はそれを拒否すると、必殺の斬撃を放ち、スライムが掴んでいた部分にダメージを与える。

それで効いたのか、マツリカを抑え込んでいた部分は急速に縮まって行き、本体の方へ戻る。

城壁から剥がれる様に落下したマツリカは、何とか着地したのだが、もはやどこにも力が入る場所を見つけられない。




 暗い・・・眠い・・・・寒い・・・・。

闇の中に漂う俺は、混濁する意識を何とか保とうと努力していた。

痛みがあった様な記憶はある。

それは、敵の攻撃だった様な気もするが、どうしても思い出せない。

ただ、この感覚は以前にもあった気がする。


そうだ、アシュレイは?

イユキに、マツリカ。イーブル・ラーナンはどうしたんだろう。

フォーメル達も、無事なのだろうか。

必死に呼びかけて見たが、返答する者はいなかった。


誰か。


か細く声を出した気がしたが、自分でも声になっているのか分からない。

動かない体が、だんだんと闇に沈み込んで行く感覚だけがハッキリとしてくる。

そして、途轍もなく眠い。

俺は、それに何とか抗おうと目だけは閉じまいとしていたが、それも闇に完全に沈み込んでしまった事で開けているのか閉じているのかも分からなくなった。




「やあ、何をしているんだい?」


幾つかの武器を転がして遊ぶ子供の傍らに、一人の男が座り込みながら訪ねてきた。

見覚えがある顔をしているのだが、どうしても思い出せない。

いや、もっと大事な事を思い出そうとしていたはずなのだ。

だから、バラバラになった武器を転がしているハズであった。

頭を振る。それは、相手に返事をした訳ではなかったのだが、向こうは勝手に受け止めた様だ。


「分からないか。 きっと、バラバラになっているから、分からないんだと思うよ。 組み立ててごらん」


言われて、確かにそうかも知れないと思う。

しかし、組み立てようとしたが、なかなか上手く行かない。以前は、簡単に組み立てられたはずなのに。


「どれ、ちょっと貸してごらん」


その男は、一つ一つの武器を手に取ると、器用に組み立てて巨大な槍状の物へと変化させて行った。




 思考が停止した状態になっていたフォーメルは、目の前で起き始めた変化にようやく気が付いた。

六本腕の少女の体が徐々に崩れ、ハルタの方へと消えて行くのだ。

もしかして、これがアーマルデ・ロイデンが消滅する瞬間なのかと、漠然と考える。

しかし、どうでも良い事だった。

これで、完全な敗北が決定づけられた事になる。

あんな恐ろしい連中が相手では、レパンドルは、もはや滅亡する意外に道は残ってはいないだろう。

最初から希望など残っていなかったのだ。

今まで何とかなるなどと、甘い考えであったのを思い知らされる。

全てを置き去りにし、このまま引き上げると言う考えも浮かんだのだが、体ももう動かない。

それに、騎士である自分の最後の使命はここで死ぬことだと、彼は諦めにも似た感情を持っていた。



 スライムの魔王体から青黒いクモの巣状の何かが伸びてきて、マツリカの体を完全に捉えた。

光が近寄ってくる。

もはや、彼女には回避するだけの力が残っていない。

しかし、相手の攻撃が届くと言う瞬間、全力で功相討つを放ち、序に神魔絶刀を叩き込む。

半ばヤケクソ気味に放ったのだが、がむしゃらな行為が奇跡でも呼んだのか、敵の攻撃は、それによって弾き飛ばされる様にして消えた。

だが、それで力を使い果たしてしまったマツリカは、ガクリと膝を突く。

いや、それでも抵抗を止める様な事を、彼女はしなかった。

初動こそ鈍かった手の動きは、素早く鎧を体から剥がし、ほぼ全てを脱ぎ去る。

できるだけ軽くしようとしたのだろう。

彼女の制御範囲から離れてしまった為か、鎧は地面に落ちると同時に光の粒子へと変わって消えた。

それを確かめる事も無くマツリカは体を出来るだけ低くし、尚も動いて見せようと刀を鞘に収める。

呼吸など必要ないのだが、体制を整えるかの様に息をする真似をし、踏み込めるタイミングを待つ。恐らく、自分に使える技は彼方の果て後一回のみ。

通常の攻撃が効くとも思えなかったが、それでもハルタが生き残っている可能性がある以上、少しでも長く時間を稼いでやるつもりでいた。




「ほら、できたよ。 持ってごらん」


男は組み立てた武器を手渡してきた。その瞬間、彼が誰かを思い出した様な気がした。


自分を作った・・・人?


漠然としか思い出せない為、確信を持てない。しかし、男はその様子を見て微笑みながら頷く。


「彼に伝言だ。 変な言葉に引っかかったなら、それこそが鍵になる」


そう言い残すと、男は闇の方へと歩いて去っていった。

アシュレイは、その方向へと、無意識に手を伸ばしていた。




 今までに無いタイミングと速度だった。

絶体絶命と言う状況になって、マツリカは自分でも驚く程の速さで、相手を切りつける事に成功する

敵の攻撃をくぐり抜け、二体を同時に真っ二つにして見せた。

普通なら、これでお釣りが返ってくる程の攻撃だ。

だが、案の定、敵は崩れてしまった体を元に戻しただけで、平然としている。

ハルタの血はギリギリ残ってはいたが、攻撃に回せる分は使い切ってしまっており、既に自分の体を維持する以外に余裕はない。

むしろ、限界以上に動いたせいか、マツリカが幾ら要求しようとも、彼女の体を動かすと言う機能は一切反応しなかった。

それどころか、四肢も限界を迎えたとばかりに軋みを訴え、意識を保つ事さえやっとだ。

気を抜けば、途端に停止状態に陥るだろう。


(ターナは・・・どうしたんだ。イユキ、アシュレイ・・・)


ここに居た仲間達の名前を思い出してみる。

恐らく、自分はここで終わりだろうとマツリカは覚悟した為、何となくやっておきたかったのだ。

そして、最後に、最も大事な者の名を呟いた。

「ハルタ・・・ごめん」

マツリカは、刀を鞘に収めると、目を瞑った。

本人は、それを自発的にやったつもりだったが、既に力尽き、停止状態になった末の結果だった。




「ここ、こんなものか・・・」


沈黙したらしい敵を見て、キライスは呟く。

相手の能力をもっと確かめるつもりでいたのだが、予想していたよりも早くカタが着いてしまった為、彼は溜息をついた。

今まで見てきた事を総合すると、相手はアーマルデ・ロイデンとは異なる様な気がしていたのだが、結局は毛が生えた程度。取るに足らない存在だった。

 アンガムと言う前哨戦があった為、多少の手加減はしてやったつもりでもある。

実際、それに対処された時は見るべき物があると思ったが、ちょっと本気を出してやっただけで、このザマだ。

何者であったのかは気になったが、この程度では大した脅威ではない。

やはり自分はソライに言われる通り、慎重さが過ぎるのかと考えたその時、キライスは咄嗟に振り返り最大パワーで防御壁を展開した。

途端に、凄まじい衝撃が襲いかかって防御壁をかち割られる。

幸いだったのは、空中に浮いていたのと、防御壁を咄嗟に傾けた反動で下へと逃げる事が出来たことだ。

体制を崩しながらも、キライスは更に防御壁を複数展開し、次に備える。

しかし、次の攻撃は彼を狙わなかった。

その代わり、地上にいた魔王に変身したスライムの一体を粉々に粉砕する。恐ろしい程の威力を持った何かの攻撃は、その背後の城壁さえも安々と貫通して見せる。

魔力の流れこそ見えたが、あまりの速さにどんな攻撃が行われたかを確認する事はできなかった。

とは言え、偶然にも受けた攻撃で、大体の威力は分かった。次は弾く事ができる。

キライスは、攻撃が来た方をキッと睨んだ。



 フォーメルは、目の前で何が起きているのか理解できなかった。

六本腕の娘がハルタに吸収されたと思った瞬間、彼の体は黒くなったり光ったりを繰り返し、一瞬だけ全ての現象が収まったと思った瞬間、再び白く輝きだし、その形状を変えていった。

そして気がつけば、そこには巨大な六本腕の何かが居た。

顔だけを見れば、あのアシュレイと言うアーマルデ・ロイデンに似ている。

しかし、今目の前に居るそれは、比べ物にならない程に巨大だ。

その巨大さ故か、"幼さ"の残る顔が何ともアンバランスさを持っている。

ただし、その場で跪いた状態ではあると言うのに、既にフォーメルよりも高い。

立ち上がれば、恐らく元の身長の三倍くらいはあるのではないだろうか。

ただ、アンバランスさは別のところにもあった。

腕の長さがそれぞれに違うのだ。

短かったり、極端に長かったりと歪過ぎる姿をしていた。

 その姿勢のまま徐に動き出した巨人は、次の瞬間には素早くボウガンを操作し、エレメンタリスとエレメンに対して攻撃を行った様だった。

疑問符が付いたのは、打ち出されたらしい矢のスピードが余りにも速くて、フォーメルの目ではとても追いきれなかったからだ。

だが、その攻撃は確実に相手を捉えたのだけは分かる。

現に、空中に浮かぶエレメタリスは防御魔法を幾つも展開し、余裕の無い顔をしていた。

同時に、フォーメルは疑念をより深めてもいた。

これでは、魔王や邪神の類いではないかと。



 瓦礫の向こうで何かが動いたと思った瞬間、何時そこに潜んで居たのか、巨人が姿を現した事にキライスは眼を見張る。

しかも、ただ巨大という訳ではない。

六本の腕と言う異形さを持っている。

それも、腕の長さがそれぞれに違っていて歪さを際立たせてもいた。

また巨人と言って良いのに、やたらと幼い顔をしている為、それが彼の目には不気味に感じられた。

モンスターに似た様な物が存在してはいるが、ここまで歪な姿はしていない。

では一体、これは何だ?

キライスは、初めて戸惑った様な顔をする。

しかし、戸惑う理由は他にもあった。その巨人に見覚えがあったからだ。

服装、顔、持っている武器。

今まで、自分らと戦っていた六本腕のアーマルデ・ロイデンにも似ている。

顔立ちの幼さと良い、全体としては似通っている感じだ。

しかし、最初から武器のサイズによって大型のアーマルデ・ロイデンが存在する事は聞いた事はあっても、巨大化する話など聞いた事がない。

だとしたら、もう一体、似た様なアーマルデ・ロイデンを予め隠してあったのか?

いや、それならば魔力糸の流れで分かったはずだし、勇者以外のアーマルデ・ロイデンマスターが他に居たと考えたとしても、この巨人のアーマルデ・ロイデンからは自分の近く以外にそれが見えない為、それも考えられない。

少なくとも、あそこにアーマルデ・ロイデンなど居なかったはずである。

では、コイツは一体何なのか。

本当に、今までの奴が巨大化したとでも言うのだろうか。

また、別の疑問点もある。

魔力糸の展開がおかしいのだ。

普通なら外に向かうはずの魔力糸が、何故か巨人のアーマルデ・ロイデンを中心にして展開されている。

これでは、この巨人がマスターの様ではないか。

となれば、キライスが知らない何かの術を使ったとも考えられてくる。

時代遅れの兵種を引っ張り出してきたのだから、この程度の芸は持っていてもおかしくはない。

それはそれで、実に興味深い事でもある。


 この状況下にあってさえキライスは、その様な物を持てる余裕があった。

特に注目していたのが、その六本の腕である。

あの多数の腕を、どの様にして上手く制御できているのかは、凄く気になっていた。

なぜなら、彼自身もエレメンの力を用いて似た様な事ができたからだが、キライスの能力では、最大でも三つが限界と思っていたので、その倍に当たる腕を器用に動かす姿は、実に興味深かいと思ったのだ。

興味も正体も気になったが、どの道敵にかわりは無かったので、彼はスライムに指令を送る。

自分は防御に徹し、攻撃はエレメンにさせるのが、エレメンタリスの常套手段だ。

取り敢えず、得体の知れない相手に対しては、それで対処するのが彼の中での決まりでもあった。

既に一体の魔王体は打ち砕かれたが、エレメンには大したダメージではない。

案の定、既に異界から魔力の供給を受けて体を再生、失ったもう一体の魔王を展開していた。

そして、触れた相手をチリへと変える特殊攻撃、ドゥラスターを発動させる。



 形勢逆転かと思われたが、結局は何も変わってはいなかった事にフォーメルは目を見開く。

敵エレメンが変身したカイデムの魔王の一体は確かに粉々になったのだが、直様復活してきた。

しかも、恐るべき攻撃魔法ドゥラスターを展開。瞬く間に自分と巨人にその線が伸びる。

フォーメルには、もはやかわす体力も気力も無い。

一方の巨人はと言うと、その巨体故に動きは鈍そうだった。少なくとも、この攻撃を回避する機敏さはないだろう。

と、巨人は、クロスボウを除く持っていた武器の幾つかを素早く組み合わせ始める。

棍棒の様に持っていた方を一番上に、細いものを真ん中に、更に中程度の大きさ物を逆さにして、下に合体させた。

それはまるで、剣の柄部分にも思えた。だが、肝心な刃部分がない。これで何をしようと言うのか。

そう思った瞬間、光の帯がその武器から伸びた。

それを手に振りかぶった巨人が二度、三度と振る動作をすると、地面に展開されていたドゥラスターのガイドが弾き飛ばされ、バラバラとなってそのまま効力を失う。



「な、な、何!?」


対抗する術が無いと言われていた攻撃方法に対処され、キライスが驚きの声を上げる。

しかし、それだけでは済まされさなかった。

再び、恐ろしい勢いの攻撃が彼を襲う。

十数枚展開してあった魔法防御壁を次々と食い破り、最後の一枚でやっと食い止められる。それによて、ようやく攻撃が矢による物だと判明する。

だがキライスは、更に緊急に回避する行動を取らされる。

直様、六本腕の巨人から、光の帯・・・と言うか棒と言って良い何かによる攻撃が繰り出されたからだ。

光の棒は、キライスの頭スレスレを掠める。直ぐに帰って来たが、再びヒラリと交わした。

速度では、キライスの方に部があるらしい。

しかし、追撃を諦めたのか、かわした瞬間に巨人はスライムへと狙いを変える。


 一体の魔王は回避するのに成功するが、もう一体は抉られる様にして真っ二つになって消滅した。

ただの攻撃ではない。

魔力が込められた攻撃、それも、ハイドエレメンに大ダメージを与える程の威力を持っている。

剣を回す様に振りかぶる仕草をした巨人は、そのまま、残りの魔王も狙って横に棒を薙いだ。

だが、そこに割って入ったのはキライスだった。

両腕に何かしらの防御壁を展開し、その光の棒を受け止める。


「なな、何者か知らないが、お、面白い。 ひひ、久々に、ほ、本気を、だだ、出して、ああ、相手をしてやろう」


そう言って、キライスは口の端を上げた。

同時に、腕を一瞬だけ己の方に引く真似をしたと思ったら、そこから思いっきり広げる様に振って、光の棒を弾き返す。

彼の腕は、スライムと同じ様な水色ぽい色へと変わり、更には幾つかの刃の様な物も生やしていた。



 俺は、ただ空中に浮かび、その光景を眺めていた。

確か、誰かに引っ張られた様な気がしたのだが、そこから先は覚えていない。

気がつけば、空に突っ立って呆然と眺めていた。

何か巨大な物が暴れまわっているのだが、良く理解できない。

何かに似ているとも思ったが、頭がハッキリしない為、思い出せない。


「やあ。 どうやら混乱しているようだね」


不意に呼びかけられて振り返ると、妙な形をした物が、俺と同じ様にして浮いている。

金属の帯と言った物が不規則に形をなし、所々には宝石の様な物が幾つかハマっている。

そして、バラバラに目と口の様な物もあった。

気持ち悪いと言うよりは、変テコと言った風貌だ。


「何だ、お前?」


「えーと、確か、今は・・・・うん、自分でも忘れた。 とにかく、変な名前だったよ」


「はあ・・・」


変テコな変な名前。何だそりゃ。

怪しげに見ていた俺だが、何かを思い出せそうな気がした。

変な名前。変な言葉。

どっかで聞いたような台詞だ。

誰が言っていた・・・・?


「今は、無理に思い出さなくても良いと思うよ。 それより、君の大事な子を見てあげて。 マスターの意識が整わないと、あの子も無意識な戦い方しかできない。 それじゃ、あの敵には勝てないよ。 幾らバーストモードでもね」


そう言って、その変テコな奴は去っていった。

俺は暫く、その消えた方向を見ていたが、ゆっくりと向き直る。

意識を整える?

勝てないって、誰が誰に?


下では、相変わらず六本腕の巨人が暴れている。

遠くには、その相手らしき者も居たが、どうにも状況を飲み込めない。

コイツら、一体何なんだろう。


そう言えば、俺は誰だ?

何で、ここで、こんな事をしているんだろう・・・・・



 一瞬でも戦況が好転すると思ったフォーメルは、相手の出方を見て再び落胆に似た感情を覚える。

六本腕の巨人が繰り出した光の武器が即座に対応されてしまったからだが、それだけではない。

次に繰り出した高速の矢さえも、遂に対応されてしまう。


六本腕の巨人は、光の棒を防がれた直後、直ぐにクロスボウの様な物で攻撃をしたが、相手のエレメンタリスは、同じ様にして防御壁を展開。

すると、さっきまでは複数を貫いたそれは、たった一枚の防御壁で防がれてしまった。

いや、防いだと言うよりは、受け流されたと言った方が良いか。

一旦は強固な防御壁で受け止めたたと思った瞬間、それはぐにゃりと形を変えて、真っ直ぐ突っ込んできた矢をクルリと方向転換させて捉えてしまうのだ。

恐らくだが、体の一部にエレメンを同化させ、その力を利用したのだろう。

ただし、巨人の放つ矢は相当な威力を持っているらしく、エレメンタリスは確かに防ぐ事はできるのだが、威力の方までは殺せずに構えさせられる上に、やや後退する。

しかし、それだけだ。

相手は全くの無傷であり、巨人の攻撃が単発でもあった為、直ぐに数倍近い反撃が返ってくる。

更に言えば、エレメンの方も何かをしていた。

つまりは、向こうも本気を出すのは、これからと言う事なのだ。

オマケに、この巨人は動きが鈍く、しかも愚直な攻撃しか繰り出さない。

既に打撃も矢も防がれたと言うのに、がむしゃらにそれを繰り出すだけだった。

一つだけ有利な点があるとしたら、敵の攻撃もこちらに来る前に迎撃される為、今の所は、こっちにも被害はない事くらいだ。

しかし、徐々に均衡は崩れ始めてもいる。

実際、六本腕の巨人による迎撃は、だんだんと距離を詰められつつあった。

このまま行けば、いずれは間に合わなくなるだろう。

フォーメルは、何とかこの場から逃げようとしたが、体が言うことを聞かない。

もっとも、一人だけなら逃げるにしても簡単だったろうが、盾のアーマルデ・ロイデンを担ぎ、緑色の人形の手を引いていては、どうしても遅くなる。オマケに、足場も悪い。

盾のアーマルデ・ロイデンは意外と軽かったのだが、今のフォーメルには、それでも重労働だった。そして、意外と荷物になっているのが緑色の人形だ。

先程から呆然としていて、自律的に動こうとしない。

最初は置いていこうかとも思ったのだが、こちらを悲しげに見る目に、どうしても捨て置けず、仕方無しに手を引っ張る形となっている。

正直、その様子にはフォーメルも違和感を覚えていたのだが、今は余計な詮索などしている場合ではない。

とにかく、この場から離れなければならない。

そう思って数歩歩みだした背後で、轟音が鳴る。

振り返ってみれば、巨人が倒れていた。


 巨人は何事も無かったの様に立ち上がったが、体に大きな氷の矢とでも言うべき物が刺さっており、どの程度かは知らないが確実にダメージをもらっているのが分かる。

実際、右側に刺さってしまった為か、三本の内、二本の腕がだらりと下がっていた。ただし、動く一本が素早く転げ落ちた武器を掴むと、再び防御の為の戦いを始める。

だが、どう見てもジリ貧だ。

直後、フォーメルは、巨人が何かを呟いたのを見た様な気がした。



 無茶な戦い方だ。飛び道具を使う相手に、バカ正直に挑むなんて。

俺は六本腕の巨人と、宙に浮かぶ良く分からん奴との戦いをボーッと見ていた。

六本腕の巨人は長さを変えられるらしい光の棒で、攻撃と防御を行っているが手数と言う点では圧倒的に負けている。

一応、飛び道具らしき物も持っているが、こちらもやはり散発的で、連続で攻撃を繰り出してくる相手には通用していない。

それどころか、巨人の攻撃は明らかに単調であり、完全に相手に読まれている。

何より、手数の多い相手に防御と攻撃を分けているのが不味い。

それでも何とかなっているのは、光の棒は攻撃としては通じてはいないのだが、敵の攻撃を防ぐ事はできているからだろう。


 もし俺だったら、光の棒で攻撃を撃ち落とすのではなく、突き出して最小の動きで回転させ、それで防御と攻撃を同時に行う。

後、できれば剣の軌道に沿わせる様にして矢を放つ事もできれば、更にチャンスを生み出せるはずだ。

何より、その場で動かずに対応しているのも駄目だろう。


等と考えていたら、六本腕の巨人が、何かを呟いたのを聞いた。


「ハルたん・・・」


「何・・・? この娘、俺の名前を・・・俺の名前だと!?」


瞬間、俺の中で何かが駆け巡り、そして叫んでいた。


「「アシュレイ! 武器を相手に真っ直ぐ突き出せ! そして、手首だけで小さく回すんだ!」」



 僅かに瞼を瞬かせた瞬間、アシュレイは敵を見据えて武器を持った腕を突き出し、小さな幅で回転させた。

手元では小さな回転だったが、長く伸びた光の棒は、離れた位置では大きな回転となって敵の攻撃を弾く。

そして彼女は、そのまま前へと突き出していった。もちろん、狙いはエレメンタリスだ。

攻防一体となったアシュレイの攻撃は、魔法を使っている為か、動けない相手へと迫る。

しかし、敵は既に防壁と言うか、腕から出た何か水色の物を展開し、それにも備えていた。


「「今だ!回転の真ん中目掛けて、矢を撃て!」」


その合図で、アシュレイは左手に下げていたクロスボウを素早く操作、棒を回す中心に見事に沿わせる様にして、相手へと届かせる事に成功する。

当然の様に、それも完全に防がれた。

だが、威力と言う物だけは殺しきれず、受け止めると言う動作によって僅かに隙きが生まれる。

そこへアシュレイが小さく横に振りかぶって、光の棒で打ち付ける。

それも、相手は腕を盾にする様にして防いでみせた。

それでも、アシュレイは更に振りかぶると、再度攻撃を試みる。攻撃している間は、相手も動きを止めるからだ。


「「アシュレイ、刃だ。 光を、刃状に変えろ!」」


それを聞いた瞬間、アシュレイは片手で振り回していた武器を二つの腕で掴み直す。

そして、彼女には似つかわしくない雄叫びを上げた。


「あ、あああ!!」


それに呼応するかの様に棒状の光は薄く、刃の様な形状に変化、受け止めたキライスの防御を切り裂いて進む。

正に寸前といった所で、キライスは体を捻ってかわした。


 その瞬間は瞬きするよりも早かった。

ただし、キライス自身は、その刹那にあっても冷静に、その様を良く見ていた。

何より、彼は巨人が使う魔力の塊と言って良い武器に興味を持っていたのだ。

こんな物は、彼の戦いの人生でも初めて見た。しかも、読み漁った本や文献にさえも見当たらない。

だからこそ、良く観察しようと思ったのだ。


 最初に接触したエレメンの力を用いた刃は、変化した光の武器には全く抵抗すら出来ずに打ち砕かれた。

直様2つ目を動員したが、これも留める事が出来ず、キライスはなし崩し的に全部の刃を動員する。

しかし、それでも、光の武器を阻止する事はかなわない。

形状を変化させた程度で、この様な威力を誇るのには流石に驚いた。

今の状態では防げない。

そう判断した瞬間、キライスは回避する事に専念する。

それでも、よく観察する為に、敢えて自分の顔スレスレを通る様にしてかわす。

だが、その様にしてさえも、結局は目視で得られる情報は少ない。



「いい、今のは、あ、危なかった。 お、お、面白い芸だ」


傍から見ていた者からすれば、キライスは死ぬ寸前だったかも知れないとも思えただろう。

その余裕は、空元気に思えたかもしれない。

だが実際には、彼は僅かな時間でさえも有効に使える程の余裕があった。

そして、手持ちのカードの中から直ぐに対抗できる物を引っ張り出す。

腕を振った彼の腕から、巨大な青い刃が形成されると、根本が更に伸びて巨大な鎌の様な形状を取る。

更に何かの魔法をかけると、刃は青い光を放つ。


刹那、最小の動きでキライスは、その刃を繰り出してきた。


根本こそ棒状であったその鎌に似たそれは、しなりとキライスの技術的な物もあったのか、常人では捉えられない速度で振り降ろされる。

だが、アシュレイはそれに反応し、次の瞬間、金属音とも違う何かが鋭く打つかり合う音が辺りに響く。

アシュレイは苦悶の顔を浮かべ、やや足元がふらつく。

速度だけではない、相当なパワーも備わった攻撃だったのだろう。

その余りにも無駄が無い、そして効果的な位置から連続して繰り出された攻撃に、アシュレイは受けの姿勢しか出来ないようにさせられる。


 明らかに格が違う。

レベルなら、こっちの方が上のはずだが、何かが及んでいない。俺はアニーズで確認してみた。


『アシュレイバースト・百鬼夜行ブースト』強さ『白虎相当』影響度『不完全な異形』レベル114

『タナベ・ハルタがアシュレイを取り込んだ事により、魔法特殊武器の能力が異常活性化された姿。ハルタ本人が上げた武器のレベルに加え、人化した者のそれぞれのレベル、及びイレギュラー要素のレベルが総合的に加わった強さを持つ。更には、魔法特殊武器にハルタの力が上乗せされており、本来以上の力を発揮。ただし、媒体との基本力が低い為に安定性を欠く』


媒体との基本が低い?一体、どう言う事だ。

状況が状況だけに無視していたが、どうやら俺は、何時の間にかにマツリカが行った融合みたいな物を発動させていたらしい。

その結果によって、アシュレイは変化を遂げている。普通なら非常に強力になっているはずなのだが、やはり何かしらの形で力が出ない様だ。

そもそも、媒体とはアシュレイその物を指すのだろうか。

ならばレベルが低いって意味か。いやそれなら、マツリカのレベルだって低かったはずだ。

だとしたら、この媒体ってのは、何に対して基本が低いと言っているんだ?

一つだけ心当たりがあるとずれば、それは例の強さと言う事になる。

マツリカは元に比べたらダウンしたとは言え、第3位と言う評価だった。

ところが、アシュレイは第9位程度だったはずだ。

とすれば、これが差となっている可能性はある。

ただ、こうした部分を差し引いたとしても、敵の強さが本物だと言う事実は変わらない。


キライスってヤツのレベルは、確か102とかだったはずだ。

単純な数字ではアシュレイの方が上なのだが、それでも及んでいない。

経験的な物なのか、それとも技術か。


また、別の要因を上げるとすると、やはりスライムの存在だ。

あのキライスって奴が腕に纏っている物、あれはスライムと関連した何かの可能性は高い。

アンガムがやった事の応用を、奴ができないはずがない。

むしろ、こいつの異常な強さを考えれば、規格外を想定しない方がおかしいだろう。

そもそも、スライムもレベルこそ55程度だが、強さに関する表記に『スライム相当』とか、影響度が『神話級』とかあるのを見るに、アニーズでは計る事ができない強さを持っている可能性だってある。

アニーズの表記で示されていた白虎だのマンティコアだの範囲でさえも、両者には圧倒的なレベル差の様な物があった。

もし、スライムに関する評価がそれを超えているのだとしたら、レベルの数字なんて当てにならない。

実際、アンガムが操っていたフォービの強さも異常だったのだ。

不完全とされているアシュレイでは、太刀打ちできなくて当然だろう。

この状況で、更に打つ手はあるのか。


 俺は何かないかと、辺りを見回す。

すると、マツリカが蹲っているのが見えた。

慌ててアニーズで確認すると、停止中と言う事が判明するが、幸いにも回復中の表記も見ることができた。

良かった・・・とは言えないだろう。

これまでもターナやユーカらに影響が出た事もあるのだ。

何かしらの強化へのステップになる可能性があったとしても、この状況では楽観視できない。

幸いと言えるのは、マツリカが動かない事で敵には無視されている事だ。

上手く行けば、このまま回復してくれる可能性もある。

もっとも、そうなったとして戦えるかどうかは別だ。


 キライスの攻撃にアシュレイは何とか対応してはいたが、防御しか出来ないように追い込まれている。

パワーではアシュレイの方に分ががあると思っていただけに、これは意外だと言えた。

恐らくキライス単体の能力ではないだろう。スライムの力も加わって、このパワー差なのだ。

やはり、この世界におけるスライムの存在は、俺の持つ常識では計り知れないと言える。


「「何か、何かないのか?」」


劣勢になりつつあるアシュレイを前に、幽霊と何ら変わらない俺は、自分の存在をもどかしく思った。

その時、俺の脳裏に誰かの言葉が浮かぶ。


(マスターの意識が整わないと)

(あの敵には勝てないよ)

(幾らバーストモードでもね)


誰の言葉だ?

一瞬だけそう思ったが、次には言葉の意味に思い当たって、そこに集中する。

意識が整うとは何だ?

そもそも、バーストモードとはどういった状態なのか。

いや、媒体とか基本が低いと出た以上、原因はもっと根本的な・・・・


「「待てよ?」」


俺は、改めてアニーズでアシュレイの事を確認してみる。

問題は、最後の一文『媒体との基本力が低い』と言う所だ。


なぜ、"との" や "基本力" 何だ?

アシュレイを媒体と考えた場合、普通は媒体 "の" や "基本能力" とか、じゃないのか?

これでは、読み方によって、俺の方に問題があると見る事もできる。

仮に、バーストモードとやらを発動するのに、何らかの失敗があったとしたら、それで制限がかかっている可能性もあるだろう。

そう言えば、何時、俺は今の状態を発動させたのか。

マツリカの時と、何が違うのか。

両方のケースを思い出す必要がある。


「「思い出せ。 マツリカの時はどうしたんだ。 そして、アシュレイはどうやってバーストモードを・・・」」


その瞬間、俺の脳裏にリアルな痛みを伴った場面が、フラッシュバックしてくる。

そうだった。

俺は、アシュレイの武器に腹を突き刺されて・・・死


瞬間、俺の目の前は真っ暗になった。

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