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俺のLVは上がらないのに、  作者: 松戸真 寿司
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~謎の勢力~ -30. 天敵襲来 その15







 イーブル・フォービこそ倒したが、今も数匹のスライムが生み出したイーブル・ファエルエラが残っており、それらが一斉にマツリカに襲いかかる。

しかし、マツリカはそれを無視して攻撃の体制に入った。

それを狙ってイーブル・ファエルエラから炎の槍が放たれる。

すると、絶妙のタイミングで、体をくるっと回す様にしてイユキがマツリカの前へと出た。

それにより炎の槍は尽く遮断されたが、更に驚くべきことに、イユキはその攻撃を自らの右側に反らして道を作る。

直後、流れる様にしてマツリカが動き、攻撃を繰り出した。


「神魔絶刀!」


ファエルエラ共を完全に無視した一撃は、真っ直ぐにスライムへと伸びて行った。


 神魔絶刀。等と彼女は言ったが、繰り出された物は簡単に言えば、彼女から見た本家の劣化版だった。

何故なら、今の彼女では例えハルタの血を全部使ったとしても、それに見合わない紛い物にしかならないからだ。

マツリカはあの一戦以来、ずっと考えていた。

恐らく、自分の力がまともに通じない相手と今後も出くわすであろうと。

しかし、その度にハルタを危険に晒すわけにはいかない。

ならば、今ある自分の力を何とかかき集め、それに似た技を生み出そうとした結果できたのがこれである。

最初の思いつきとしては、自分の本体とも言える妖刀の魔力を応用できないかという所から始まった。

最初、制限がかかっている為か、思った程には単体では力を得る事は叶わなかった。

それは百も承知であったが、それでも威力の点で言えば、相応に利用できるともマツリカは確信する。

難点と言えば、威力を発揮する為には、やはりハルタの血を必要とする事だ。

形を真似ただけの技も出せない事はないが、せいぜい強い風を起こす程度の為、いたずら以外には使えない。

だがこれは、ある意味でマツリカに新境地の様な物を切り開かせてもいた。

自分に与えられたヘンテコな名称の技以外を生み出すと言うのは、今までなら考えられなかった事だからだ。


 劣化版の為か、昇る蜃気楼の太刀も緑色のみであり、ミズツノシシオギ戦で見せた時よりも鋭さが無いと言うか、どこか鈍らさをマツリカも感じる。

それでもハルタの血を使った一撃故に、大抵の敵に対しては致命傷となる物であると彼女は信じていた。

実際、既にイーブル・フォービを屠っている。

特に今のマツリカなら、ハイド・エレメンとて捉えられるはずだった。

彼女は既に相手の魔力の滞りを、感覚的にさえ掴める様になっていたからだ。

 が、その一撃をスライムは自身の体を変化させた刀身の様な物で受け流し、更に体の一部を槍状にして打ち出してきた。

それをマツリカは体を反転させてかわし、更に発動させた神魔絶刀の劣化版を二度三度と振って、群がるイーブル・ファエルエラを序の様に倒す。

やはり今のマツリカなら、エレメンであろうと攻撃が届くのだ。

 一方、かわされたスライムの攻撃はそのまま軌道を変え、イユキを狙う。

意外と速い一撃にイユキはかわすことができず、真正面から盾で受け止め必然的に力比べとなったが、見事に競り勝ってイユキが弾いてみせた。

訪れる、一瞬の間。

マツリカとイユキは飛び退いて間合いをとり、スライムは体を波打たせて次の攻撃動作に入ろうとしていたのを止めた。

仕切り直したのだろう。


 マツリカ達とスライムの攻防に空いた僅かな間。

今まで固唾を飲んで戦いを見守っていた俺だったが、それによって我に返り両者の戦力分析を慌てて始める。

数的な面を除外すれば、この一戦みで判断すると、双方は全くの互角と見る事もできた。

だが、スライムとその使役者は、同じ場所から一歩たりとも動いていない。

明らかに様子見での攻撃だ。

俺は一旦スライムに目を落としてから、再びキライスとか言う奴を見上げる。

様子からして、何かしら仕掛けるのではないかと考えたからだ。


「な、な、なかなか、やる。 ア、ア、アーマルデ・ロイデンか、ほ、ほ、本当に、うう、疑わしいな」


キライスは目を瞬かせ、僅かな間の後に腕を水平に上げた。

するとスライムが再び体を分離させ、やがてそれはフレスベルグへと形状を変えていった。



 俺が予想した通り、奴は新たな手を打って来た。

基準はよく分からないが、どうやらスライムはエレメンのコピーらしき物を自由に生み出せるらしい。

ただし、レベルは18程度。

母体となっているスライムのレベルから考えると、コピーの方は三分の一程度に下がるらしい。

この辺はローナとイーブル・ラーナンの関係にも似ている。

しかし、スライムの生み出す奴はレベルが高いと言う事もあるが、姿形が固定されていない分、地力や驚異と言う面ではイーブル・ラーナンとは比べ物にならない。

イーブル・ラーナンも形状を変える事は可能ではあるが、それらは単純な物に限られる上に、姿形、ましてや能力のコピーなど不可能だ。

いや それとも、ローナがレベルアップすると、似たような事ができる様になるのか。

どちらにしろ、スライムの生み出した分体と言える奴は格が違う事は確かだ。

それを示すかの様に、コピーされたフレスベルグが二度ほど翼を振ると、斬撃の様な物がマツリカとイユキ目掛けて飛ぶ。

風圧の様な物が地面を抉りながら進むが、それは形状と色を伴った何かを含む。

青色の刃と言ったそれは、恐らくスライムの力が足された物なのかも知れない。

単純な威力で言えば、ソライとか言う奴のフレスベルグが放った物には及ばないが、この後、俺たちはスライム固有の能力をまざまざと見せつけられる。


 速度はそれなりだが、オリジナルが放った攻撃に比べると遅いそれを、マツリカとイユキは体を翻してかわそうとした。

ところが、行き過ぎたと思った瞬間、軌道を変えて再び二人に襲いかかる。

マツリカはこれを切って対処したが、切断された攻撃は確かに二つに割れた物の、その先で再びくっついてUターンしてきた。

イユキは盾で受け止めたのだが、接触した瞬間にスライムの小型版に姿を変え、一部を鞭の様に変化させて打ち付けてくる。

それをマツリカが神魔絶刀を横薙ぎにして、一瞬で二体を屠った。

屠った様に見えたのだが、幾つかは自ら分離して地面に落下、直後に剣山の様にしてマツリカとイユキを襲う。正に変幻自在とは、この事だ。

二人はその攻撃を一方は交わして、一方は盾で受け止める。

一瞬、マツリカの周辺が陰ったと思ったら、スライムが上から落下してきた。

しかも、体を広げて逃げる隙きさえも潰しにきている。

普通なら、それで捉えられただろう。

俺でさえもヤバいと思ったが、マツリカは『彼方の果て』と言われる瞬間的に速度を上げる技で切り抜けた。

それでも傍目からはギリギリって感じだったのだが、それは敢えてそうしたのかは今は分からない。

実際、かわされた直後はスライムの方も衝撃の吸収に専念でもしたのか動きを止めていた。その為、一瞬の間ではあるが振り向いて体制を整えるのもマツリカの方が早かったのだ。

にも関わらず、マツリカは自ら飛び退いて距離を取るだけに留める。


 実はマツリカも、かわした瞬間に反撃に出るつもりだったが、微妙に違和感を感じ取って咄嗟に止めていた。

(何かヤバい)

彼女はそう思ったが、その時には一切何も起こらなかった。

スライムは着地した地点でそのまま静止し、何かしらの行動を取る様子を見せない。

手の内を敢えて見せなかったのか、或いはタイミング的に手段を講じる段階では無いと判断したのか。単に衝撃の相殺で動けないだけなのか。

兎に角、スライムは変幻自在すぎて予測がし難いのは確かだ。

止まった一瞬の間に、分離していた奴の体の一部が本体に戻る。

今なら、鈍らな神魔絶刀を当てる事も容易い様に見えた。

だが、それを待っている様にも感じる。

マツリカは、慎重に刀を構え直して距離を測った。

同時にイユキが直ぐ側まで来ると、カバーに入る体制をまるで阿吽の呼吸の様にして整える。

それを待っていたかの様にマツリカが動き出して必殺の斬撃を放った。

その直後、必中の一閃、彼方の果て、神魔絶刀の合せ技を繰り出して彼女は突進する。


 スライムはそれらの攻撃をかわさなかった。

まともに食らうと体に切れ目が入って二つに分かれ、そこへ横薙ぎにマツリカの追撃が襲う。

しかし、迫る蜃気楼の太刀筋は、スライムが何かに変化して地面を弾くようにして飛び上がったことで回避された。

そして、真っ二つになったはずのスライムの体は、そのまま二体の人型へと変化してから着地する。

変化したその姿は、上半身は美しい女性のそれであったが、下半身は蛇の胴体を形作っていた。

全体こそ水色ではあるが、それはナーガとかエキドナとか言う物が当てはまる形をしている。

だが、アニーズで拾われた項目には、スライムとしか表記されていない。

他のエレメンを真似るだけではなく、何かしらのオリジナルな形状も自由に取れるという事なのだろうか。

だとしたら、とんでもないチート性能を持っている事にもなる。


「まさか!?」


これを見て驚いたのは、フォーメルだった。いや、俺たち以外の連中も覚えがあるのか、全員に狼狽した様な顔をする。


「フォーメル?」


「カーデムの魔王・・・・いや、真似ただけか?」


「カーデム?魔王?」


当然の様にして疑問を口にした俺だったが、敵はそれに答える暇を与えてはくれない。

変化した二体のスライムは、それぞれの手から大剣の様な物を出現させると、同時に振って青黒い線の様な物をクモの巣みたいに地面に発生させると、さらに扇状へと広げた。

既に俺達の所にも届いていて、体に触れる形となっている。

遮蔽物さえ貫通しているが、特に何かの影響は感じられない。


「避けろ! 飛べ!」


フォーメルが叫ぶと同時に、無数の線に光が灯る。

それを見たアシュレイが俺を抱えると大きく飛び退き、代わって控えていたイーブル・ラーナンの二体の内の一体が間に入った。まさに、その直後だった。


ボシュッ!


そんな感じの音を立てて、俺達が隠れていた建物の一部、イーブル・ラーナン、そして逃げ遅れた一人の魔装騎士も同じ運命を辿る。

彼らは、あっという間に崩れ落ち、ただの・・・・ゴミへと変わった。

幸いとは言っていけないが、犠牲になったのは一体と一人だけで、その他は回避に成功する。

しかし、この攻撃はヤバすぎる。


「何だ、これは!?」


咄嗟に俺はアニーズを起動する。

当然の様に情報に更新がない。単にスライムに関する事が列挙されているだけだ。

こうした面に対して、この機能は本当に頼りない。

そして最近になって気がついたと言うか、俺はある疑念を持つ様にもなっていた。


 アニーズによる情報取得の際、相手によっては攻撃や特殊能力の情報が出たり出なかったりする。

その基準は今も不明ではあるのだが、最初はアニーズと言う物を俺以外にも使っていて、どこかで情報が共有されるが故に、それが情報の不足と明確さの差として出ているのだと考えていた。

つまり、一度でも相対して情報を取得した敵に関しては、追加と言う形で表示されるが、本当に初見の敵なり相手に関しては、戦うなどして手の内を引き出さない限りは、登録されない仕組みだと考えていたのだ。

そして、その誰かは俺と違う土地に住む故に、情報の鮮明さにバラツキが出るのだと考えていたのだ。

しかし、それを前提としても、あまりにも情報の不足と追加が偏りすぎている。

同じ地域でさえ、取得できる情報に差があるからだ。

それをずっと考えていたら、このアニーズは俺以外の誰かが並行して使っているのではなく、何者かが今まで使っていたのを、単に継承しただけなのではないかと思い付いた。

それならば、色々と説明が付く。

とは言え、全部俺の憶測に過ぎないので、何の確証もない。

第一、これを前提とすると更に謎は深まる。

誰が使っていたのか。

使っていたとしても、情報の不足さから考えてあまりにも短命であった可能性であること。

そして、なぜ俺が継承したのかである。



 真面目に考えていた俺だったが、その様はアシュレイの小脇に抱えられるという、何とも間抜けな姿の中で行われていた。

ただ、彼女の四本の腕にがっちりと保持されている為か、意外と高い彼女の運動量に振り回されても、不思議と居心地良く過ごせている。

変な言い方だが、アシュレイの体つきがクッションとしても機能している為、自分でも不思議な程にリラックスできていた。

もっとも、そんな呑気な事を何時までもしてはいられない。

自体は逼迫しているのだ。

何より、あのキライスって奴は全然動いていない。

エレメンタリス使いも相応の実力を持っているのが分かった以上、連携して動き出せば今以上に状況は悪くなるだろう。

そして、魔王と言う存在も、今の俺らにとっては未知数だ。

実際、今食らった攻撃は避ける以外に対処方法が無い。

フォーメルが声をかけていなければ、下手をしたら最初で俺たちはやられていたはずだ。

スライム本体と分裂体の境目もよく分からないが、少なくとも目の前に居るカーデム或いは魔王を象った存在は、ハッタリや劣化版では無いのだろう。

同等とまでは行かなくとも、それ相応の実力を持っていると見て良い。

できれば、フォーメルにもっと情報を聞き出したいのだが、そんな暇も隙きも敵は与えてはくれなかった。


「アシュレイ。 隙きを見て、上空の奴に攻撃をしかけろ」


飛び退いた先で、体制を整えたアシュレイに俺は小声で言った。

こうなったら、こっちから仕掛けて何かを引き出すしかない。



 スライムが変化した魔王とか言う二体が動こうとした時、それぞれの左右から挟み込む様にしてマツリカとイユキが飛びかかる。

しかし、それらの攻撃を水色の魔王は冷静に受け止めてみせた。

力比べの格好となったが、その勝負はイユキとマツリカに軍配が上がる。

マツリカは刀で相手の大剣をジリジリと押し返し、イユキは大盾のフチ部分を相手の大剣に当てて押し返す。

あと一歩で相手の喉元に近づきそうになった正にその時、魔王の形が崩れて、それぞれが後方へと水柱が流れる様に素早く移動すると、勢い余ったマツリカとイユキがぶつかりそうになる。

しかし、そうなる前に二体のスライムの破片が鞭の様に体を振るって、襲いかかってきた。

マツリカは再び跳躍してかわし、イユキは盾で受け止めてそのまま吹き飛ばされる。

その力だけで判断すれば、さっきの力比べは、ワザと押されていた可能性すら出てきた。


 その攻防が一段落しようとするかしないかの一瞬、アシュレイは合体ランスを素早く弄ってクロスボウを取り出すと、戦いの行方を見ようとコチラから僅かに視線をそらしたキライスへ一撃を見舞う。

完璧なタイミングだった。

それ故に俺も絶対に当たると確信する。

だが、奴の腕が無造作に動いたと思ったら、その矢を造作もなく掴み取ってしまう。

何なんだ、コイツは?

キライスは、こっちには全くの無関心で、むしろスライムとマツリカの方の攻防を追っている。

しかし、手から矢が崩れる様にして消えると、そこで初めてこちらへと顔をむけた。

そして、俺は奴の仕草に驚く。

キライスは最初、無くなっていく矢を持つ手だけを見ていたのだが、やがて何かを追う様に目を動かす。

そしてそれは、俺が見ていた視線とほぼ同じである事に気が付く。

(コイツも、俺と同じ様に、魔力の流れを視覚的に捉えられるのか?)

驚く俺を一瞥したキライスは鼻を鳴らすと、再びマツリカたちに視線を戻す。

まるで、俺らの事など歯牙にもかけてないって感じだ。

実際、そうなのだろう。

アイツは全く動かないどころか、アンガムの様に攻撃に加わる事さえしていない。

恐らくだが、アンガムたちとの戦いを見て、実力を既に推し量ったのかもしれない。

或いは、コチラの手の内を更に探っているか。

どちらにしろ、本気を出していない事だけは確かだ。


・・・奴は何を見ているんだ?


まさかとは思うが、マツリカ達をコピーする為に観察しているとでも言うのだろうか。

だとしたら、事態は更に最悪の方向に向かうが、それだけでスライムに能力を付与できると言うのなら、おかしい部分もある。

情報を信じるとするならば、戦闘経験を多く積んでいる割には、奴が繰り出す駒の種類が少なすぎるのだ。

もちろん、まだ手の内を隠していると言う事も考えられるが、一度倒した相手を再び出してくると言うのは、幾らなんでも芸がなさすぎる。

実際、マツリカによって早々に対処されて倒されているのが、その証拠だ。

勝つつもりであるなら、別のエレメンのコピーをぶつける方が効率としては良い。

それと、もう一つ。

フレスベルグやフォービと言ったコピー体は、ハッキリとスライムとは別の物として認識されていたのに、今の状態である魔王と言う姿に関しては、情報の更新がない。

そうした点を見るだけでも、スライムの行うコピーの手法には、何らかの制限がある可能性があると見るべきだろう。

フォーメルが姿を真似ただけかと言ったセリフも、あながち間違いでは無いのかも知れない。

それが何かまでは今の所は分からないが、何れにしても、次の一手をコチラも用意できなければキライスと言う奴に良いようにやられるだけだ。

しかし、どうしたら良いのか。





「ハハ! どうした、どうした。 かわすだけか?」


フレスベルクと、そのマスターから繰り出される攻撃を、ターナは不規則な変化を加えて右へ左へとかわす。

正直に言えば、彼女に余裕はない。

そして内心では、その事実に驚愕も覚えていた。

絶対だと信じていたハルタの力を持ってしても、今の相手は決して楽ではないと悟ったからだ。

いや、単体のみで見れば、今の所はそこまで強敵でもない。

しかし、完成されていると言える連携は非常にやっかいであり、それが予想以上の苦戦をターナに強いる。

また、相手の力量が分からない以上、今が全力とも限らない。

こっちも切り札はあるにはあるが、それを発揮する為には相手に近づく必要があった。

向こうの戦闘力を考えれば、繰り出せるチャンスは一回しかないだろう。

その近づくのが、もっとも厄介な相手なのだ。

そこを、どうやってチャンスを作るか。

それが鍵となってくるはずだ。

ただし、相手もそれは警戒しているのか、挑発するセリフとは裏腹に、さっきから付かず離れずで対応している。


「どうしたら・・・」


ターナは、今更になって、仲間たちの重要性に嫌と言うほど気が付かされていた。


 ダナウン・ダナンザ戦にしろミズツノシシオギ戦にしろ、あそこまでの強敵に相対できたのは、強力な仲間たちのサポートがあったからこそだったのだ。

自分で何とかできていたのではない。

仲間たちの助力があったから何とかできていたのだ。

実際に一人で強敵と戦うと、それが良く分かる。

とは言え、現状を嘆いていても仕方がない。

ハルタが示した一つの目標、ミズツノシシオギを倒すがある以上、ターナ自身ももっと強くならなければならない。

ここで倒れてしまうのなら、自分はハルタに取っては必要ないと言うことでもある。

ターナは、覚悟を決めた。


 今問題なのは、敵の連携である。

ターナは直感として判断していたが、エレメンの方は敵の緑色の女、即ちマスターを倒せば自動的に消える可能性が高いと判断していた。

ならば、狙いはその一点に絞れば良いと考えていたのだが、当然の様にエレメンが防御に入るので上手く行かない。

その関係は、ある意味でターナとハルタにも似ている。

唯一違うとすれば、どちらも、それなりに高い戦闘力を持っている事である。

それにより敵は攻撃された方は防御に徹し、空いた方が攻撃を仕掛けてくるのだ。

その動作はワザと隙きを作ってコチラを呼び込むと言う余裕も生み出しており、単純な攻撃では、どんなに速度を上げても跳ね返されてしまう。

だとしたら、その裏をかいて仕掛ける必要がある。

一見するとマスターを狙った攻撃で、仕掛けてきたエレメンに打撃を与える。そうすれば、少なからず連携を乱す事が出来るはずだ。

マスターを狙うと言うのは、向こうからすれば予想踊りだろうし、実際、ターナも最初はそのつもりで攻撃を常に仕掛けていた。

尽く跳ね返される内に、狙いをエレメンに切り替えた方が良いと言う考えが浮かんだ為、今は仕込みの為にマスターを狙う振りをしている。

その逆を突く攻撃ならば、きっと突破口を開けると彼女は考えてもいた。

恐らく、他者がこの作戦を聞いていたとしたら本末転倒とも思っただろうが、それ程に相手には隙がなかったのだ。

ただ、ターナ自身も疑問を抱いていない訳ではない。

特に、自分の攻撃がエレメンに通じなかった場合、それは即敗北を意味する事にもなる。

ハルタの血を使った攻撃は絶対だとターナは信じていたが、フォーメル達からもたらされた情報と、たった今さっきの攻防で得た経験が、それを揺らがせてもいた。

無駄に血の力を使わされるのはターナとしては我慢できなかったが、やれる事は試すしかない。

そうしなければ、一歩たりとも前へは進めないのだ。


 ターナは急ブレーキをかけると共に方向転換をした。同時に力を更に開放して、体全体を炎で包む。

一瞬だけ屈んで溜めを作ったかと思った瞬間、彼女は残像だけを残してその場から消えた。

彼女を包む炎は魔力のエネルギーを帯びており、それを自在に扱う事で常識はずれの加速力をターナに与える。


「何っ!?」


その速度に初めてソライが驚いた声を上げた。

ソライにも魔力の流れは見えていたが、ターナの加速力はそれを目で追っても処理しきれない程の速さだったのだ。

いや、マツリカの様に直線的な動きだったら捉えられただろう。

しかし、ターナは尚もジグザグに動いていた為、現在位置を捉える事ができない。


「コイツ! キライスが言ったように、アーマルデ・ロイデンじゃないのか!?」


焦った様にソライがフレスベルクに合図を送ると、翼を一振りして暴風を発生させ、自分を中心にして円心状に攻撃を放った。

地面を激しく叩いたそれによって舞い上がる土煙と轟音。

フレスベルグの攻撃も魔力に由来する物だが、これで相手の魔力の流れが消えると言う事はない。故に追跡は可能のはずなのだが、ソライの予想と違って、相手の魔力は攻撃が直撃したはずの地面でとどまっていた。


殺ったのか・・・・?

だとしても、魔力の流れが今も続いているのはおかしい。

それとも、直撃した事で重大な損傷を負い、アーマルデ・ロイデン特有の崩壊現象が起きているのか。


 ソライが訝しげに見ていた時だ。

土煙が収まり始めた地面に異変が起きたと思った瞬間、ターナがその地面を割って飛び出してきた。

彼女は相手の攻撃に合わせて最大火力を持って地面に穴を開け、地中に潜んでいたのだ。

もちろんターナは、相手が自分とハルタを繋ぐ魔力糸が見えていたとは知らない。

全ては、直感による単純かつ強引な行動であったが、逆に目の前の情報に囚われ過ぎたソライの裏をまんまとかくことができたのだ。

最大速度で飛び出したターナにソライは完全に反応が遅れた。普通なら、これで終わっていたかもしれないが、ソライもフレスベルグも反応する。

必死に身を捩りながらソライは魔法を発動。フレスベルグも主を守ろうと、突進する。


 ターナにとっては、全てが出たとこ勝負だった。

狙いは相手のエレメン。そうなると、敵マスターは最初から足場にすることしか考えていない。

どんな対処をしてくるかは完全な賭けだったが、賽の目はターナの方に吉と出た。


 ソライはギリギリで防御魔法を展開。

物理と魔法、両方に対応できる様にしたが、緊急で張った為に範囲は狭い。

相手の速度を考えれば不安が残るが、体の中央に押し出したので、少なくとも致命傷を負うことはないはずだ。

だが、ソライの予想を裏切って、相手は方向転換した。


 空中でくるりと体を回したターナは、全力でソライの張った防御魔法の盾を蹴って別方向へ飛ぶ。

上手く出来るかどうか不安だったが、相手がやった何かによって、思った以上に蹴り足には力が入った。

それにより、己と短剣に全パワーを込めて、フレスベルグに必殺の一撃を穿つ。


 自ら突進したフレスベルグは、自分の勢いと不意を突く相手の攻撃により、完全なカウンター攻撃を食らってしまう。

炎をまとった短剣が深々と胸に突き立てられると、相手は更に傷口を広げようと切り裂こうとする。


 行ける!

ターナは尚も相手の体を足場として、短剣で切り裂こうと力を込めた。

しかし、フレスベルグの両羽から巨大な腕が生えてきて、彼女を殴り付けて来た。

ターナは、その重い一撃をマトモにくらってしまい、一瞬、意識が飛びそうになったが、歯を食いしばって耐える。

尚も続く猛攻。

それでもターナは負けじと短剣を深く刺し、真っ二つにしてやろうとジリジリと食い下がった。

が、一方の腕がターナをガッチリと掴み、行動その物を阻止。尚も殴りつける。

遊びが無くなったせいか、二発ほど殴られた程度なのに、今までの数倍のダメージを負う。


「うああああ!」


ターナが絶叫すると、彼女の体は更に炎を吹き上げ、フレスベルグごと燃やしてダメージを与えた。

流石に効果があったのか、フレスベルグも藻掻くが、それでもターナを放すことはせず、殴る事も止めない。

しかし、その腕と体は、明らかに形状を崩し始めていた。

そして、ターナが持つ短剣も、一部が溶け始める。





 スライムが変身した二体のコピー魔王から、触れた物をゴミに変える攻撃が繰り出される。

事前に攻撃する場所が分かるのでかわすのは容易いのだが、二体の連携によって安全地帯が限定されてしまう為、相手の思うつぼでもあった。

実際、最初に見せた攻撃も、こうなる方向へと誘導する為の布石だったのかも知れない。

回避するしかない俺たちは、行く先々で新たな攻撃にさらされ、それに対処するだけで反撃どころではなかった。

その中で唯一マツリカだけが何とか隙きを見て攻撃に転じてはいたが、2対1では、やはり分が悪すぎる。

攻撃だけは相手に届くが、その尽くを向こうも捌いて見せた。

何とか、この状況を打破しないと行けないのだが、完全にハメられた展開でもある為それも容易ではない。

何より気がかりなのは、操っているエレメンタリスが今も動いていないと言う事だ。

今の状況に対処したとしても、次に奴が出てきた場合が読めない。

それらを考えると、対処するにしてもスライムとキライス、両方に決定的な打撃を与える方法を取らないといけないのだ。

だが、そんな方法なんてあるのか。

俺は、アニーズを使ったりして情報を集め、それを元に色々と頭を巡らせるが、そんな虫のいい方法なんて思い浮かばない。そして、そんな悠長な事をしていたら、遂に恐れていた事が起きた。キライスが動いたのだ。


 マツリカと魔王体を見ていた奴は、突然手のひらを上にして、腕を天へと掲げる。

すると、その手を中心にして魔法陣が展開されていった。それも、一つじゃない。

最初に青い魔法陣が生まれ、その上に皿に水色の魔法陣が形作られる。

その姿に、俺達は呆気にとられて見ていた。桁違いの能力と言うのが直感でも分かったからだ。

恐らく単純な魔力量なら俺の方が上だろうが、その使いこなし方が尋常じゃない。

それが分かったのか、フォーメルも絶句した様な顔をしていた。

最大限まで充填される魔力。それだけでも強大な攻撃力を持っているのが分かる。

しかし、マツリカを見ていたはずの奴は、くるっとこちらの方を向いた。


ヤバイ。


誰もが青ざめたんじゃないだろうか。

直後に、青色の光線やら氷の矢やらが、一斉に降り注いできた。

それを見たアシュレイは武器を素早く解体して、更に3つを手に取ると、巧みにかわし、直撃しそうな物は武器で捌く。それでもかわし切れない物は、ピッタリと着いてくるイーブル・ラーナンが対処した。

それにより、辛くも俺たちは切り抜けるのに成功する。

だが、フォーメル達は防御魔法を展開して耐える事を選択した為、成り行き的に前方に陣取った二人が犠牲となった。

キライスの魔法攻撃は、魔装騎士の防御すら打ち破るらしい。

その結果、彼らの残りは三人。フォーメルとファーデル、そしてロズッテだけとなった。


 取り敢えず命を繋いだ俺たちだったが、結果的に著しく消耗を強いられる。

アシュレイも何発か攻撃を食らっており、ダメージ判定が小となっている。そして何より、体力的な消耗も激しいのか肩で呼吸する様な動きを見せる。

もちろん、呼吸など必要ないので、何かしらの身体的な形で悲鳴を上げているのだろう。

それはそうだ。

俺を抱えてあれだけの芸当を見せたのだから、何もない方がおかしい。

そして、敵は一息つく暇さえ与えなかった。いや、完全に計算づくで行ったのだろう。


「来るぞ、避けろ!」


フォーメルが叫んだ直後、スライムのコピー魔王から、例の網状の予備動作が繰り出される。

フォーメル達は上空へと回避。

した瞬間に、キライスの追撃を食らって弾き飛ばされ、遠くの外壁に叩きつけられた。

同じく跳躍しようとしていたアシュレイは、それを見て止める。しかし、これで逃げ場はない。フォーメル達は、魔法防御を展開したので、恐らくあれでも致命傷とはならなかっただろう。

だが、こっちには、そんな便利な物は無い。まともに喰らえば、アシュレイとてどうなるか分からない。何より、俺というお荷物が居る為、彼女は取れる手段に迷いを生じさせたのだ。

その判断の遅れは、致命的なミスを招いた。


 相手の攻撃は極端に遅い訳ではない。しかし、俺にはスローモーションの様に見えた。

青黒い線にそって、光が徐々に迫ってくる。

咄嗟に動いたのはイーブル・ラーナンだった。

少しでも盾となろうとしたのだろうか。自ら突っ込んで光に触れると、途端にチリへと変わる。

こちらを一瞬振り返る様な仕草をしたが、それが己の意思だったのか、それとも崩れた体が偶然そう見せたのかは分からない。

しかし、彼女の行動は全く無駄ではなかった。

光はイーブル・ラーナンに沿うと言う形で遠回りしたので、僅かにこちらに来るのに時間がかかる。ただし、それは本の数秒程度、遅くとも1秒を超える事はなかっただろう。

死は、目前まで迫っていた。



「我が君!」


スライムからの攻撃予備動作が発動された瞬間、イユキは咄嗟に飛び出していた。

何を基準にしたのかは自分にも分からない。とにかく、勘とでも言うべきものが、彼女を動かしていた。

盾の先端を地面に叩きつける様にした反動と、自分の蹴り足のタイミングを完全に合わせた彼女の跳躍は、自分でも驚く程の速度を彼女に与える。

そのまま僅かな着地で加速を得ながら、飛ぶようにしてハルタの元へと向かう。

いや、彼女は見る余裕は無かったが、盾裏に忍ばせていたイーブル・ラーナンも体を変化して地面を蹴ると言う動作を加えていた為、それによっても速度が加わっていた。

ハルタに向かう途中、魔装騎士たちが上へと逃れた瞬間、敵の攻撃にやられるのを見たような気がしたが、かまっている暇はない。

直ぐ後ろ、もしくは下にまで敵の光の攻撃が迫ってきているのを感じたからだ。

イーブル・ラーナンとすれ違う。

会話などする暇はなかったが、今だと言うタイミングを教えてもらった様な気がした。同時に、盾裏に隠れているイーブル・ラーナンからも何かしらの合図をもらった様な気がした。

イユキは盾の先端を地面に刺して、制動と同時に前に向く動作を行う。

勢いが付きすぎて、自分の力だけでは制動できない。しかし、直後にアシュレイが、背後からがっちりと掴んでくれた。

その刹那、敵の光がやってくる。

イユキは、全力で盾を構えた。


 一瞬の出来事だった。

イーブル・ラーナンがやられたと思った瞬間、どこから出てきたのか、イユキがアシュレイの前に現れ盾となる。


「イユキ!」


咄嗟に叫んだが、既に敵の攻撃は盾とイユキの体を侵食し始めていた。

だが、侵食し始めた光は、イユキの体の前面付近でまるで藻掻く様にその進行を止める。

それに耐えるかの様に、イユキもブルブルと体を震わせていた。彼女は耐えきれないと思ったのか両腕で盾を構え直す。

既に光は俺たちを取り囲んでもいたが、まるでバリアーでも張られているかの様に、一定の距離を置いて接近できない感じとなった。

これも、イユキの力なのだろうか。

そう考えた時、イユキが悲鳴とも雄叫びともつかない声を上げた。


「うっ・・・ああああああっ!!」


それでイユキが競り勝ったのか、光は直後に弾ける様にして俺達から遠ざかると、そのまま消失。

同時に、イユキも弾かれる様にして吹き飛び、派手に地面に転がった。


「イユキ!」


俺は叫びながらイユキへと近づこうとするが、アシュレイに掴まれているので藻掻く事しかできない。

その為、代わりにアシュレイがイユキの側へと駆け寄る。

イユキはズタボロになっていた。

盾こそ無傷であったのだが、頑丈なはずのドレスはズタズタになり、体のアチコチに傷を負っている。

一瞬でゴミへと変えられるよりはマシだが、それでも甚大は被害を被ったのは明らかだ。

アニーズで確認してみれば、案の定、停止状態となっていた。


「た、戦いの最中に、よ、余裕、だ、だな」


スライムの攻撃によってやられた仲間の元に駆けつけた相手は、キライスから見れば、攻撃して下さいと言わんばかりに隙だらけだった。

そして彼はそれを見逃さない。無造作に魔法陣を展開すると、遠慮なく最大火力の魔法攻撃を叩き込む。


「ハ、ハルタ殿!」


唯一意識を保つ事が出来ていたフォーメルは、相手のエレメンタリスの動きを見て、それがハルタと仲間を狙っている事を知り思わず疾走していた。

自分でも、何故こんな自殺行為に等しい事をしようと思ったのか分からない。

後から考えるならば、それは最後の希望がハルタであり、対抗出来る手段を何時の間にか彼女たちだけだと認めていたからだろう。

が、今の彼にそんな事を考える余裕も無く、咄嗟の判断で駆けつけると全力で防御壁を展開する。

本当にギリギリのタイミングで間に合ったが、それだけだった。

一瞬だけ防げたと言う手応えを感じたが、それも徐々に無くなって行くと言う不思議な感覚を味わった瞬間、全体を巻き込む爆発とも破裂とも言える様な衝撃が走った。

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