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俺のLVは上がらないのに、  作者: 松戸真 寿司
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~謎の勢力~ -29. 天敵襲来 その14







 アンガムを依り代として出現したフォービと、变化して異形の竜となったガレスタが激しく体をぶつけ合い、そのまま押し合う。

一瞬の静止後、頭数で勝るフォービがガレスタに対して噛みつきや炎の攻撃を仕掛けるが、棘の鱗はそれらを物ともせず、場合によってはそれらを伸ばして反撃すらしてみせる。

加えてガレスタによる攻撃を受けると、そこから何かしらの力が吸い出されて確実なダメージがフォービには与えられていた。


一見するとガレスタ有利にも見える光景だったが、実際にはそうでもないと言えよう。

フォービの方は、そうしたエネルギードレインに近い攻撃を受けていると言うのに、意に介している様子が無いからだ。

恐らくだが、フォーメルの言う異世界から魔力の供給は、この程度では吸いつくされる物でも無いからだろう。

互いに特殊な技を使った激しい戦いではあったが、実質的には非常に粗暴で技や技術などと言った物はなく、互いに持ちうる力を最大限にぶつけるだけという、シンプルであるが故に、何者の介入も許さない激しさがそこにはあった。


 メキメキと言う軋む音と共に、フォービの頭の一つが遂にガレスタの棘の鎧を毟り取る事に成功する。

毟り取られた部分からは赤黒いエネルギーが漏れ出したが、それを確認できたのもわずかで、間髪入れずにフォービが炎の攻撃を叩き込む。

だが、攻撃に対して動揺しなかったのはガレスタも同じであった。

攻撃に転じた瞬間に多頭と言えどフォービの方にも隙きが生まれ、それをガレスタは見逃さない。

竜の頭に当たる部分が両顎を強く閉じて元の剣に近い形状へと戻すと、その切っ先を思いっきりフォービの体に叩き込み、大きな裂け目を刻みつける。

これには、流石にフォービも悲鳴を上げて後ずさった。

エネルギーの吸収に関しては問題が無かったとしても、痛みに耐えられるかどうかは別らしい。

一方のガレスタはそれとは逆と見え、痛みに関しては問題が無い様であったが、ダメージの蓄積に対しては問題ありと見え、その動きは目に見えて鈍くなり始めて行く。

 実際、相手が後ずさった事で好機が生まれたはずなのに、追撃する様子がない。

それに対して一早く反応したのはフォービで、激しい炎の攻撃を繰り出した。

やはり多頭と言う利点は大きい様だ。

しかし、並の相手なら消し炭になる程の攻撃も、ガレスタには効果がない。

両者ともに決め手を欠き、そして限界が近づき始めていた。


 フォーメルは、フォービの頭部の一つがチラリと、自身の体を見やったのに気が付く。

恐らくだが、媒体となっている人間、つまりアンガムの体を気にしたのだろう。

そして、それと同時に大鎧が変化したヴィーダルの動きも、おかしくなりつつある事にも気がついていた。


両者ともに限界が近づきつつある。


しかし、様子だけで言えば明らかにヴィーダルの方がおかしい。

とは言え、そのヴィーダルの事には知識が無いため全ては憶測だ。

一方のハイドエレメンでもあるフォービに関してはフォーメルもある程度の知識があり、それによって留まっていられる時間が迫っているのを感じ取ったが、それでも持久戦になれば有利となる可能性は高いとも見ていた。

媒体となる人間の体が消失すれば、否が応でもエレメンはこの世界に留まる事はできないのだが、裏を返せばその消費量を押さえれば時間は稼げるのだ。

恐らくだが、フォービはそれを意図的にやろうとしている。

体を見やった仕草には、その意味が込められていた可能性が高い。

 無論、これもフォーメルの憶測に過ぎないので確証は無いが、時にエレメンはマスターであるエレメンタルに対して、何かしらの忖度を見せる事があると言う。

それが仲間意識から来る物なのか、それとも単なる利用できる道具として守ろうとしているかは分からない。

場合によっては、目の前のハイドエレメンは、マスターを生かして返す心積の可能性だってある。

そうなれば、全てを消費し尽くすのではなく、持久戦を選ぶと言う可能性も十分にあり得るだろう。

あのアンガムと言う男の体が歪なままであった事や、己の体を媒体にしてまでエレメンを実体化させた選択には、どこかでエレメンを信用したからこそであったかもしれない。

何れにしろ、大鎧が变化したヴィーダルが弱みを悟られた事は間違いない。そして、ハイドエレメンの方はそれに対応しようとしている。

傍から見た限りで言えば、このままで行けば戦闘の結果は見えていると、フォーメルは考えていた。


 フォーメルが危惧していた事と同じことを俺も心配していた。

何の干渉も出来ない俺だったが、だからこそ戦いの様子を冷静に分析できたと言える。

そして導き出された結果から言えば、明らかに最初の頃よりガレスタが変化した龍の動きは、鈍っている事に気が付いていた。


「おい! おい!! ガレスタ、動きが鈍くなってねーか!?」


「・・・敵の力は想定以上ですな。 思っていたよりも消耗が激しい。」


「お前、敵を攻撃する度にエネルギーみたいなのを相手から吸い取ってるけど、それは利用できないのか?」


「何を仰る。 あれらが行く先は、我らの預かり知らぬこと。 そもそも、我の力の大部分は与えた者すら手に余った物。 発現と制御こそ可能であれ、もたらす結果に付いては我にも分かりませぬ」


「な、何?」


思ってもみなかった返事に俺は驚いた。

前からリディの存在と能力に付いては不明な点が多かったが、それを使っている当人に達にも理解が出来ない部分が多いとは。

ますます謎が深まるばかりだ。

しかし、今問題なのはそこじゃない。

単純な戦闘力で言えばコッチの方が上ではあるが、それも決定的ではない。

このまま行けばジリ貧なのはこちらの方だ。

その前に何とかしなければならない。

もっとも、その何とかしようの無いのが現状でもある。


「おい、ガレスタ。 他に手はないのか。 ブレンダン・バーズは、なぜ使わない」


「ブレンダン・バーズに使えるエネルギーは既に使い果たしました。 それに、恐らく奴には通じますまい」


確かに、そうかも知れない。

例え効果があったとしても、簡単にもらってくれる相手でも無いだろう。

どちらにしろ、ガレスタの判断は正しいと俺も思う。


「じゃあ、どうするんだ」


「マガツノミホロ・・・いや、マツリカは、どうやってミズツノシシオギを倒したのでありますか」


俺は返答に詰まった。

倒したのは単純にマツリカの力と言って良いのだが、問題はそこに至る方法だ。

しかも、その方法には色々不明な部分が多い。

マツリカの能力かとも思ったが、彼女の会話からでは、そうでもないらしい感じも受けた。

それを聞いたとして、ガレスタはどうするつもりなのか。

もしかしたら、コイツにもその力が備わっているのか?

いや、それはおかしい。

それなら、わざわざ質問などしないはずだ。

そう言えばミズツノシシオギ戦の時、リディは大ダメージを負っていた。

その時にガレスタに切り替わっていた?

だとしたら事の顛末を見ていてもおかしくない。

それを知った上で聞いてきたのか。

あるいはリディなら、同じ事が可能であると、ガレスタの方が何かしらの意味を含めて聞いているのか。

今更になって分かったことだが、ガレスタとリディは別存在の可能性がある。

実際、リディの活動が停止状態になった事でガレスタが表に出てきたのだから、それを物語ってもいるだろう。


「詳しい事は俺にも分からないが、お前が知らないって事はリディにもその可能性が無いわけじゃない。 しかし、どの道リディが停止している以上、それを使う事は難しいだろう。 それに今の状況じゃ、敵の方もそれを呑気に発動させるのを待ってくれるかどうか」


それを聞いて、ガレスタは急に静かになった。

時間稼ぎをしているつもりか、その奇妙な間をフォービの方も保つ。

恐らくだが、あっちは持久戦に持ち込めば勝てると踏んだらしい。

悔しいが、状況だけを見ればその通りだ。


「・・・・主君よ、感謝致しまずそ。 

我らを配下に加えてくださり、リディと言う可能性まで与えて下さった事を。

願わくば、その可能性が更に開花するのを、我らも共に見たかった。歩みたかった。

しかしながら、我らの本分は主君を守る事にこそあります。

長いようで短い付き合いでしたが、主君の為に我らの力を使えるなら、これも本望」


「何を言って・・・・」


瞬間、急に鎧が展開して、俺は外へと放り出された。

落下するのと、意味ありげなガレスタのセリフに軽くパニックになりながらも、俺は藻掻きながら空を仰ぎ見る。

すると、魔力の糸の様な物が俺と繋がっており、それが落下の速度を緩めて地面へは無様に転がるだけで、無事に降りる事ができた。

直後、魔力の繋がりが切れ、急速にガレスタの方へと引き上げて行くのが見えた。


「何してんだ、ガレスタ! オイ! 返事をしろ」


少しだけこちらをガレスタが見た時、閉まる鎧の隙間から、リディが俺を見ているのに気がつく。

無表情ではあったが、眼と眼がしっかりと合った。

それもほんの一瞬であり、赤黒いエネルギーの塊が竜化した右腕共々ガレスタ全体を覆うと、彼らは凄まじい速度で天に登って、更に膨大なエネルギーを発生させると、今度は登った時よりも数倍速い速度で急降下する。


これではまるで、ミズツノシシオギが使ったクーリューじゃないか。


不意を突かれたのと一瞬と言って良い出来事であった為、フォービは完全に対処が遅れ、まともにその急降下攻撃を受ける。

膨大なエネルギーの波がフォービを一瞬で包むと、その形を瞬く間に消滅へと塗り替えて行く。



 

(負けたのか・・・俺は)


消滅の中で藻掻くフォービを間近に感じながら、アンガムも己の体が焼かれるのを感じ取る。

既に体の大部分をフォービに持っていかれた為か、痛みや苦しさは感じなかった。

ただ一つ、何かを残したのか、自分はこの世で何かを成したのかと言う、今更ながらの虚しさだけが去来する。

そして、消滅の中で彼は何かを叫んだが、それはフォービの断末魔によって掻き消された。 



 決着は付いた。膨大なエネルギーの前に、フォービは逃れようの無い消滅に晒され、不快な悲鳴だけを残して消えて行く。

それでも余りあるエネルギーは地面に叩きつけられると、凄まじく莫大なエネルギーが弾けようと凶暴にうねる。

が、何故かそれは一定の範囲で留められたままだった。

 

その理由は直ぐに分かった。


立ち上るエネルギーが徐々に形を変えると、それはガレスタとリディの姿を生み出し、彼らが遮っているかの様な形で現れたからだ。


「「主君よ、さらばです」」


それでも彼らの精神は残っていたのか、あるいは俺にだけ聞こえた幻聴なのか、二人の声が同時に聞こえたと思った直後、凄まじい閃光が走って周囲を太陽よりも明るい白い光が包み込んでいった。






「マジかよ。 彼奴等、アーマルデ・ロイデン如きにやられちまったぜ。どうすんだよ」


逃げ出したアンガムの部下を無造作に始末しながら、ソライがやはり同じ様にしているキライスを振り返る。ただし、彼に捉えられた相手はまだ生きていた。


「ば、馬鹿な・・・エレメンと融合した俺が・・・グゥ!」


「こ、こ、これで、ぜ、全部か?」


「全部だよ。 それより、あっち! どうすんだよ」


「や、や、やはり、たた、唯のア、ア、アーマルデ・ロイデンでは、なな、無かったか」


「唯のアーマルデ・ロイデンだろ。 連中が弱かっただけだ。俺には問題はない。 それとも、ここまで来て、また様子を見ろってんじゃ無いだろうな?」


「ヴィ、ヴィ、ヴィーダルの様な物を弱い・・・い、い、いや、け、け、計画は、よよ、予定通り。 うむ」


「そうこなくっちゃな」


ソライは転がる死体を蹴飛ばすと、指をポキポキと鳴らす。

その彼女の背後が揺らめき、何かが目の様な物を光らせていた。





 

「リディ・・・リディ」


俺は、ヨロヨロと爆心地の中心へと歩く。

何も考える事ができない。何も考えたくない。

失うなんて思っていなかった。

様々な思いと後悔が過ぎり、不甲斐ない自分を頭の中で激しく罵倒する。

すると、爆心地の中に人の様な物を発見して、俺は慌てて駆け寄った。リディだ。


「リディ! しっかりしろ、リディ!」


だが、呼びかけに彼女は一切応じない。それどころかリディの体は紙の様に軽く、中身が無いかの様だ。

まだ能力として備わっているのか、魔力の糸の様な物が体から僅かに出ているのが見えたが、それらは俺とは切れているのもハッキリと見えた。


「リディい」


俺は彼女を抱きしめながら、泣くのを必死に堪える。

自分が泣いてどうするんだと言う思いと、こんな目に合わせてすまないと言う思いがゴチャ混ぜになって、感情を上手く吐き出せない。

と、空から何かが降ってきて、直ぐ側に突き刺さる。

見れば、それはリディの大槌が変化した邪剣だった。

姿は元にと言うか、ヴィーダルに変化する前の物となっているのだが、大きさは俺でも持てるくらいに普通のサイズになっている。

それを見て、更に複雑な感情が湧き上がってきた。

それは意図したのか、あるいは力を使い果たした末の必然だったのか。

彼らが残した最後の遺品だと勝手に考えたその時だった、邪剣から魔力の糸の様な物が、動かなくなったリディへと伸びて行くのが見えた。

それは、そのままリディの全体を侵食して行き、彼女に徐々に重さが戻って行く。


「リディ・・・?」


俺はゆっくりと、彼女の体を自分から放して地面へと置く。

僅かな時間の後、彼女はパチリと目を見開いた。


「リディ!」


駆け寄ろうとした俺だったがしかし、近づいた瞬間に、リディに殴られる。


「な、何を?」


「寄るな、馴れ馴れしい!」


そう言って彼女は邪剣を掴んで立ち上がると、その切っ先を俺へと向ける。



「ハルタ! リディ?」


遅れてマツリカや他のメンバー達がやってきたが、状況が飲み込めないのか、全員困惑して立ち止まる。


「リディ、どうしたんだ。 怒っているのか。すまなかった。 だけど俺・・・」


「~私の名前は、リディなどではない」


「え!?」


意外な返答に、俺は思わずアニーズを使うが、情報が表示される事は無かった。

より正確に言えば、文字が判別出来ない状態だった。

これは遠方の情報を拾った時に似て・・・いや、ミズツノシシオギと同じ?

意図的に情報を遮断しているのか。


「お、お前、一体何者・・・・」


「ふん、低レベルの覗きや風情が。 貴様如きに、教える事など何一つない」


「どうしたんだ、リディ。 お前、ハルタに向かってなんて事を・・・!?」


俺を制して、立ちはだかるマツリカ。両者は、必然的に対峙する形となった。


「紛い物のくせに、威勢がいいな。 いや、貴様・・・?」


今度はリディらしき者が、マツリカを見て困惑した表情を浮かべた。そして、ジリジリと後退る。



「何だお前は? 紛い物じゃないのか・・・・む!?」


マツリカと睨み合っていたリディが、別の方向へと顔を向ける。


「チッ、更にマズイのが居るのか。 今日の所は、見逃してやる」


そう言うが早いか、彼女は邪剣を一振りして風圧の様な物を発生させ、その場から飛び退く。

同時に、色こそ赤いが、リディが縮んだ時に着込んでいたのと同じ鎧を、何もない空間から発生させると、あっという間にまとうと全速力で走り去って行った。


「待て、リディ! 行くな!!」


俺の声も虚しく、リディとは別の何かになった彼女は振り返らずもせずに、あっと言う間に姿が見えなくなってしまった。


「リディ・・・」


「ハルタ、一体何があったんだ」


剣を収めつつ振り返ったマツリカだったが、その手を止めると、再び抜いて構える。

どうしたんだ?と聞こうとしたが、彼女が振り返った先を見て俺もギョッとした。


城壁のやや上、空中に人影が二つ。

アニーズで拾うまでもなく、俺の感覚ですらもヤバい奴らだと直感する。

ただ、俺には魔力を見ると言う能力がまだ備わっており、それによって相手の程度が何となく分かってもいた。

それだけでも膨大な魔力量が見て取れ、そして、外部とも繋がる見覚えのある力場の様な物も探知して確信する。

それでも確実な情報が欲しくてアニーズを起動したが、それよりも早くフォーメルが呟いた。


「嘘だろ・・・ハイド・エレメンタルがまだ他にも居たのか」


彼の言葉通りに、新手の背後にある蜃気楼の様な物から、新たな化け物が姿を現そうとしていた。



名称『ソライ・レミター』種別『ウィダー系ヒューマス』レベル52

強さ『ペガサスクラス第5位』影響度『歩く嵐』

『エレメンタリスの使い手にして、暴翼の名でも知られる強者。発生条件が良く分かっていない、非常に珍しいウィダー系ヒューマスであり、風の魔素をその体内に取り込んで、それに類するエレメンの扱いには特に優れている』


名称『フレスベルグ』種別『アーリー属フレスベルグ』レベル26

強さ『フレスベルグ相当』危険度『神話級』

『鷲の姿をした巨人。羽ばたくだけで嵐を巻き起こし、その余波は更に遠くに届いて新たに竜巻まで発生させると言う。風の魔法を操ってあらゆる物を切り刻み、巻き潰し、その巨体を持って殲滅する』



名称『キライス・バッズアッゾ』種別『ローダ系ヒューマス』レベル102

強さ『キマイラクラス第1位』影響度『伝説級の戦士』

『一般的なローダ系ヒューマスながら、幼い頃から戦場を否応なしに生き抜き、その過程で魔素をしらずしらずの内に取り込んで練り上げてきた。戦闘経験、技術、実力共に最高の能力を持っていながら、更にエレメンタルまで使いこなすなど、全ての能力において隙きがない』


名称『スライム』種別『アーリー属スライム』レベル55

強さ『スライム相当』危険度『神話級』

『液体状の体を持つ不定形型のモンスター。一見するとラーナンに似ているが、実力は段違いであり、打撃によって消滅したりダメージを負う事もない。

相手に接触する事で、取り込みながらダメージを与える攻撃方法を基本とするが、エレメンタリスのアイディア次第で、その能力を飛躍的に向上させる』



アニーズでの情報を確認し終わるのとほぼ同時に、巨大な鷲と忙しなく運動する水色をした液体状の物が出現する。

当然の様にして、これらは多少は透き通ってはいるが、ハッキリとした像を持っていた。

またもや幾つか新しい情報が出てきたので、できれば整理する為に考え込みたいところだが、正直それどころじゃない。

新手のエレメンもヤバいが、それを操る連中も輪をかけてヤバい。

外観だけで判断ができるのはソライって奴だけなのだが、コイツもアンガムの様に、全体に緑色の布を巻きつけている。

一見すると普通の様にも見えるが、良く観察すれば歪さが隠しきれていない部分もあった。

恐らく、青いマントを羽織る方も、似たりよったりなのだろう。

アンガムでさえもあの始末だったのに、この二人はレベルと言う単純な数字で見ても、その上を行くのが分かる。

ソライって奴は、アンガムと比べると強さの評価が一つ下だが別系統なので、それで何かしら強さが下がるとは考えない方が良いだろう。

実際、当人とエレメンのレベルはアンガムよりも高い。

そしてキライスって奴は、情報だけで判断する限りでも次元が違う存在である事が分かる。

スライムがハイド・エレメン扱いされていたり、危険度が神話級となっているのは違和感があるが、少なくともラーナンと同等などとは思わない方が良いだろう。

アニーズの評価はあまり当てにはならないが、これまでに得た情報と擦り合わせれば、十分に驚異であると考えた方が賢明だ。

何より、こっちは連戦で消耗しきっている上に、リディと言う対エレメンにおいては主力と言える存在も失っている。

どう考えたって絶望的だ。

 俺は両腕を広げる様にしてマツリカや他のメンバーを押さえて、ジリジリと後ずさった。

何か考えがあった分けではない。

むしろ、何も無い為に、無意識に下がろうとしていた。

絶対的強者を前にして、本能がそうさせていたのだろう。

誰の顔も見た訳ではなかったが、少なくともフォーメル達の動揺する気配だけは感じ取れた。

俺と同じで、打破できない現状に慄いていたはずだ。


ところが。


それを無視して前に進み出た者がいた。マツリカだ。


「ターナ、イユキ。 準備できただろうな?」


「もう、大丈夫だよ」


「ええ。 少なくとも、この場に居る敵に関しては、一切の油断も容赦もしませんわ」


俺が何か言う前に、三人の会話がそれを遮る。


「アシュレイは、ハルタを守れ。 行くぞ」


「ま、待て、お前ら」


慌てて俺がターナの手を掴んで止めようとしたら、彼女の方から握り返してきた。


「大丈夫。 ご主人様は、私達が絶対に守ります」


その言葉の意味する所を理解しかねた俺は、一瞬棒立ちとなってしまい、ターナがそっと手を振りほどくのを阻止できなかった。

そして、彼女はそのままマツリカ達と共に、走り出して行く。

直後、フレスベグが羽ばたいたと思ったら、地面に見えない何かがぶつかったかの様に衝撃波を起こすと、それはそのまま突風となって向かってきた。

その勢いに誰もがマズイと思った瞬間、イユキが前面に出てシールドを地面に叩き込み、その裏側から緑色の何かが伸びて俺たちをドーム状に覆う。

咄嗟にアニーズを使った俺は、それがイーブル・ラーナンが変化した物であるを知る。

そう言えば、クラッデルムとの戦いで何体か失われていたが、まだ残っていたのだ。

あれから見かけないと思ったら、イユキの盾の裏に隠れていたのか?

その疑問を掘り下げる間もなく、フレスベルグの攻撃が全体を包んでビリビリとイーブル・ラーナンのドームを揺らして危機感を煽る。

だが、イユキの補正がかかっている為か、内部は全く影響がない。

ただし、イーブル・ラーナンのドームはダメージを負っていくのが分かり、所々に穴が空いていく。

それによって強い風が吹き込む事はあったが、少なくとも相手の攻撃は完全に凌いで見せた。

シュウシュウと音を立てて、イーブル・ラーナンのドームが消失すると同時に、アシュレイが間髪入れずにフレスベルグを操っていると思われる人物に矢をお見舞いする。

しかし、それはフレスベルグの羽ばたきによって逸らされてしまった。


「へえ? やるじゃねえか」


そう言って、ソライと言う奴がフードを取ってこちらに顔を見せる。

小柄と言う風貌に反して大人っぽい顔をしている。一種の美人と言っても良い顔立ちだ。

ただし、どこか狂気の様な異様な何かが滲み出ているのを、俺は感じ取る。


「ゆ、ゆ、油断するな」


次にそう言って顔を見せたのは、キライスと言う男だった。

やせ細っている、と言うよりはガリガリと言った風貌は、普通に見れば病人に見えたかもしれないが、この場にあっては異様な雰囲気を醸し出す。

むしろ、不気味さと強さと言った物を一層撒き散らしてもおり、アニーズで確認しなかったとしても、危険な相手と悟らせるに十分だ。


「ターナは緑、俺とイユキは青いのをやる。 行くぞ」


異常とも言える相手を前にして、次の行動を迷っていた俺を他所に、マツリカが間髪入れずに命令を出して動く。

それを聞いた他の二人も直ぐに反応したが、その中でも一段と早く動いたのはターナだった。

全身に炎をまとったと思ったら、直ぐにその姿が消え、次の瞬間には空中に浮かぶソライの首元に短剣が迫る。

それをソライは意図も簡単にかわすと、逆に拳打でターナに反撃してきた。

何かしらの防具でも付けているのか、ターナの短剣とソライの拳打が打つかる度に固い者同士が当たった時の様な音がする。しかし、それは金属同士の音でも無かった。

よくよく見ると、インパクトの瞬間に凄く小さい魔法陣の様な物が展開されている。

恐らくだが、魔法による強化か攻撃手段の一種を使っているのだろう。

それにより、ターナとも互角にやり合っている。

空中に留まれる相手には流石にターナも分が悪く、かなりの時間滞空して攻撃を浴びせはしたが、最終的には打ち込んできた相手の拳打を足場にして地面へと逃れる。


「クックック、お前、おもしれーな。 気に入った。遊んでやるぜ」


ソライは、さも楽しそうに笑う。

それに対しターナは無表情で立ち上がると、短剣を構えて再び超スピードで動いた。

しかし打ち込んだのではなく、地面を高速で動き回る。

恐らくだが、動きで相手を翻弄して隙きを突くつもりなのだろう。

実際、そのスピードにソライはついて行けなかった様で、見失ってキョロキョロとしだしたのだ。

そして、その背後に現れたターナの短剣が、再び首を狙う。

だが、それが届く事は無かった。

フレスベルグの体から伸びた巨大な腕が、ターナを迎撃してきたからだ。

思いっきり殴られる格好となったターナだったが、それを辛うじて短剣を盾にして防ぐ事には成功する。

しかし、それによって、彼女は砦の外へと弾き飛ばされてしまった。


「いいな、アイツ良い。 もっと、遊ぼうぜ」


狂気の表情を浮かべ、ソライがフレスベルグと共にターナを追って行く。



「ターナ!」


「集中しろイユキ。 コイツは、もっとヤバいぞ」


マツリカがそう叫んだ瞬間、スライムの体の一部が変化して鞭になり、それを振るう。

マツリカは飛び退いてそれをかわしたが、反応が遅れたイユキは受け止める格好となった。

一瞬だけスライムの力に拮抗したかの様に見えたのだが、結局は弾き飛ばされる。

とは言え、盾で受け止めたのでダメージを負う事はなく、飛ばされただけで済んだ。

しかし、そのたった一撃で、相手の実力をイユキは思い知った。


(この力、ドノロファル以上・・・!?)


あの時はレベル差と言う物があったのだが、この敵は明らかにそうした物とは、次元が違うのを瞬時に悟る。

そして、それを物語るかの様にして、スライムが更に次の手を繰り出してきた。

体の一部を複数分離させると、それは見る間に形を変えて、一体のフォービと複数のエイ型エレメン、ファエルエラとなる。


「うそだろ・・・」


俺は思わず狼狽えた声を上げた。

たった今さっきリディと相打ちに近い形で倒した敵が、また出現したから当然だ。

頭のどこかで、できればただの劣化コピーに過ぎないと思い込もうとしたが、アニーズで確認するとそうではない事が分かる。


名称『イーブル・フォービ』種別『アーリー属フォービ・イーブル』レベル18

強さ『フォービ・ダウン』危険度『オリジナル属上位』

『スライムの特殊能力によって生み出されたアーリー属エレメン。オリジナルと同等ではないが、それに匹敵する戦闘力を発揮する上に、スライムの特殊能力まで使える』


名称『イーブル・ファエルエラ』種別『ファルダー系エレメン・イーブル』レベル18

強さ『サラマンダー・ダウン』危険度『オリジナル属上位』

『スライムの特殊能力によって生み出されたファルダー系エレメン。オリジナル以上の戦闘力を持ち、更にはスライムの特殊能力まで使える』


拾える情報から判断する限り、コイツらも決して楽観視できる相手ではない。

レベルこそアンガム達が使役していたエレメンの半分くらいだが、元からアーマルデ・ロイデンの天敵である事に加え、更にスライムの特殊能力が使えると言うのも気になる。

そもそも、スライムってこんなに強い存在なのか?

俺の知識が偏っていて、確かにこの世界にそのまま当てはまるとは限らない。

だが、それだけに知っているモンスターの名称が、次々と出てくるのにも違和感を感じる。

第一、強さの項目でモンスターの名前が当てはめられているのに、エレメンは除外されると言うのも変だ。

一体、何を基準にしているのか・・・・。

思考をまとめる暇もなく、フォービが例の広範囲攻撃を仕掛けてきた。

どうやら、姿形だけを真似たハッタリでは無い様だ。

慄く俺を他所に、アシュレイが瞬時に武器を合体させてランス化させ、同時に空いた5つの腕でフォーメルら魔装騎士達の首根っこを掴むと、ランスを地面に突き立てた上で俺を囲む様にして全てを配置する。

言われるまでも無く、フォーメル達はイーブル・フォービの攻撃に対処した。


「うおおおお!」


何かの補正でも掛かっているのか、レベルが低い割には、アンガムが使役してたフォービに匹敵する攻撃が俺たちを襲い、フォーメル達に悲鳴を上げさせる。

実際、消耗も著しいのだろう。

彼らの防御自体が心許ない。


「神魔絶刀!」


瞬間、フォービは両断され、攻撃が止む。

見れば、フォービの形が崩れ落ちて行く。

しかし、その破片は直様スライムの方へと戻っていった。


「マツリカ!」


俺は、俺無しで神魔絶刀を使った事に、半分驚きながら声をかける。


「ハルタ、そいつらと一緒に下がれ。 後は私がやる」


「お前、大丈夫なのか? お前たちはエレメンには・・・」


「大丈夫だ。 もはや手加減しない」


言っている意味が良く分からないと言うか、最初の戦闘では何かしらの制限を掛けていたのが、俺にもようやく分かった。

道理で違和感を感じるはずだ。

これなら何とかなる・・・のか?

だが、それでも腑に落ちない事がある。

なぜ制限をかけて戦っていたのか?

もしかしたら、さっきのリディと同様に、何かしらのリスクを負っているのではないだろうな。

何より、今しがた使った神魔絶刀は何なのか。

ミズツノシシオギ戦で見たのとは、ちょっと違う感じがする。

また、何かの無理をしているのではないか?


しかし、今の状況では、俺もそれらをやるなとは言えない。

目の前に居る敵は、下手をしたらアンガム達以上に強敵なのだ。


「分かった。 だが、無茶だけはしてくれるなよ」


そう言って俺たちは砦内の建物の影へと走り出す。


「・・・悪いが、無茶しねーと勝てない相手だ。 イユキ!」


「ええ、分かってますわ」


二人は覚悟を決めた様な顔をした。

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