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俺のLVは上がらないのに、  作者: 松戸真 寿司
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~謎の勢力~ -28. 天敵襲来 その13







 覚醒したのか目覚めたのか。

それとも全く別の何かが起因したのかは知らないが、ドノロファル戦時に見せた機動力を発揮する魔導戦士ガレスタ。

正に逆転の一手となった訳だが、その代わりに俺は強烈な重力に耐えなければならなかった。

ただ前回と違うのは、思っていたよりも揺さぶられない事だったが、そのカラクリには直ぐに気がつく。

停止状態において尚、リディの体から魔力の何か糸とも棒とも言えない物が鎧内部に展開され、彼女を抱きしめる事で俺はそれによって体を固定できていた。

魔力糸とも違うそれは、この状態で発動される物なのか、それとも俺を守る為に新たに展開されたものなのかは分からない。

何れにしろ、俺は動かないはずのリディに守られていた。



 また一体、再生させた仲間が大槌の一撃を受けて弾ける様にして消滅する。

エレメンを使っての死者蘇生は結構な切り札だっただけに、その代償の大きさにアンガムは歯ぎしりした。

戦況は流れで言えば、また押し戻されていると言って良い。

地面に張り付けにされていたフォービは、自らを依り代として派手に爆発して見せ、それによって相手の連続攻撃による足止めからは逃れる事ができた。

自爆に近いのでダメージは負ったが、直ぐに復活するだろう。

まともに動くには多少の時間はかかるが、さっきよりはマシな状況になるはずだ。

ただし、大鎧は狙いを自分を含めてその他にも定めた為、今現在で言えば最悪な事態になってもいた。

大鎧は、こちらの攻撃を尽く回避して飛び込み、その巨体に見合わない一撃を繰り出す。

何とか回避している状態だが、それも際どい。

そして、少しのミスも相手は見逃さず、それによって仲間が次々と失われて行く。


 ただのアーマルデ・ロイデンでは無かったのか?

それとも、連中に一杯食わされた?

アンガムは、何故か大笑いしているソライの顔が無性にチラついてイラつく。

ただ、理性的に考えれば、それは違うとも分かる。

何故なら、この事態はソライたちにとっても望む物では無いからだ。

そう考えると、連中にとってもこれは予想外の事なのだろう。

実際、途中まではコチラが圧倒していた。

ある意味でアーマルデ・ロイデンを相手にしていたのは間違いがない。

恐らくだが、この連中が特別なのだ。

今頃になって時代遅れの兵種を引っ張ってきたのだから、多少の変わり種くらいは警戒すべきだったのだ。

そして、現在の状況は、互いに切り札を出す順番が決め手になっているとも言える。

それで言えば、油断したアンガムたちがゲームには負けたと言えるだろう。

アンガムは、そう己に言い聞かせた。

更にコチラから切り札を切るのは得策ではないのだが、そうも言っていられない。

明らかに不利なのだから。

もし間違いがあったとしたら、相手をアーマルデ・ロイデンと見くびった所にある。

自分らに全ての責任があると言っても良い。


「良いだろう。 コイツらを、ヴィーダル並の敵と認めてやる」


アンガムは、己のまとう服の一部を剥がし始めた。

そうして現れた体は歪に変形し、黒紫色の模様によってびっしりと埋め尽くされていた。



 敵の攻撃を巧みにかわし、渾身の一撃を叩き込もうと肉薄したガレスタは、相手の異変に気がついて急制動をかけると、大きく飛び退いた。


「何だ?」


敵は次々と全身から炎を吹き出し、更には目と口からも火柱を吐き出して、空中で張り付けの様な状態となる。

一見してみれば何かしらの自爆、或いは消滅しようとする様にも見えた為に、必然的に手が出せなくなった。

周囲を見回すと、全員が殆ど同じ様な状態となっている。

ただ、"生きていた"残りの敵は悲鳴を上げ何かを必死に叫んでいたが、轟々と巻き起こる炎にかき消され、更には飲み込まれてしまったので遂には聞き取れない。




「最悪だ。 遂に、アレをやるのか!?」


上空で起きた変化を見ながら、フォーメルが呻いた。

それが何を意味するのか他の者も理解したらしく、ある者は魔法武器を思わず落とし、ある者は膝をがっくりと折る。

仲間の心情がフォーメルには、手に取る様に分かる様だった。

ハイド・エレメンタリスの恐ろしは、現代のヴィーダルとも言われていただけに、今更ながらに勝ち目は最初から無かったと実感する。

助けを求める様にフォーメルが少し振り返ると、マツリカは今も地に伏して何かをしているのが見えた。

目を瞑っている為に状況を把握していないのか涼し気な顔をしている。

ただ、どの様な手立てを取るにしろ、あのアンガムと名乗った男に対抗できる術では無いだろう。

アンガムは、そうとは気が付かずに、絶望した顔で敵を見上げた。

 エレメンタリス、或いはハイド・エレメンタリスの真の恐ろしさは、己の体を媒体として、モンスターその物となることである。

いわゆる融合だ。

エレメンの弱点は、あちらとこちらの世界を結びつける魔力の消耗にある。

言ってしまえば、エレメンとは雲間から差す光に映し出される影の様な物でもあり、光が隠れてしまえば存在はできても、この世界には干渉できなくなる。

しかし、ヒューマスを依代として形を得てしまった場合、そうした弱点は一切なくなる。

それどころか、エレメンの持つ長所だけを受け継ぎ、文字通りに最強と言って良い存在になるのだ。

もちろん、そうなれば依代となった人間は遅かれ早かれ乗っ取られ、最終的にはエレメンに支配される事にもなるが、大抵の場合においては人間側の体が耐えられずに消滅する。

 しかし、少なくともアンガムと言う男を見るに、彼は何度かそれをやったらしい事が伺えた。

歪な体の形状がそれだ。

拘束具に似た服を着ていたのは、それらを抑え込むか隠すかする為だったのだろう。

そしてそれは、十分な制御下において、己を保ち生還できる事を物語ってもいた。

ただ暴れる相手なら付け入る隙もあったかも知れないが、自我を持って力を行使する者なら、自分たちに勝ち目は一切ない。

自分らではもはやどうにもならないが、ハルタたちならどうなるのか。

フォーメルは、空中に浮かぶ大鎧、そしてマツリカを今一度チラリと見ると、祈る様にして一瞬だけ目を瞑った。



 動きが止まって静かになった事に気がついた俺は、朦朧とし始めた意識を何とか保って周囲を見回す。

見れば、俺たちを変わり果てた姿の敵が囲んでいた。

全身が炎と言うかマグマと言うか、そうした物に置き換わった人形の何かになっている。

その様を呆然と見ていたら、今度はアンガムの背後から、突然現れたフォービが奴と合体した。

体が膨らんで巨大さを増した奴は、大きさだけならガレスタ並となる。

更に、背中や体の側面からフォービの首を生やし、手数と言うか頭数をその体に増やした。

ただ、他の奴と違って奴は炎の様な体へは変化せず、代わりに黒い体に無数の紫色の縞模様が走り、体のアチコチから歪んだ突起の様な物を生やして行く。


「ふウ~。 おレ、ニ、こノ力ヲ、使わセたコトを、後悔サせテやロウ」


発せられる言葉も、何かが混じった感じで異質な発音が混じる。

そして、奴が不意に放った一撃は、今のガレスタにすら回避する事を許さずに直撃した。

内部にまでベコンと響く音と共に、あの頑強であるはずのガレスタの装甲が凹むのが分かった。

恐るべき力である。

俺は、アニーズを無意識に操作すると、奴の情報を見て驚愕した。



名称『フォービ・ザ・ラーグ』種別『アーリー属フォービ・プラス1』レベル21

強さ『フォービ相当』危険度『都市伝説級』

『かつてあった二つの世界で起きた大戦において、その最中に創造された新種。投入後直ぐに活躍し、立ち向かって来た者全てを焼き尽くした。その炎は水で弱まる事は無く、集中的な攻撃を受けた者は数秒と持たずに消し炭となる。対抗するには同等以上の存在でなければ不可能』

『マスターを依代として実体を完全に固定化させた存在。オリジナルの大凡10~20%の力を引き出す事が可能となっている』


案の定、各説明が変化していたり追記がある。

それらをそのまま信じるのであれば、かなりのパワーアップを果たした事は間違いないだろう。

だとしたら、周囲の連中も似たような事になっているはずだ。

続けて調べると、やはり思った通りだった。


名称『ファエルエラ・ザ・ラーグ』種別『ファルダー系エレメン・ブースト』強さ『サラマンダー・アッパー』危険度『アーリ属に匹敵』

『火属性のエレメンで、その上位種。火系の魔法を主として攻撃するが、オリジナルの加護により、許される範囲でそれを応用した他属性の魔法も使う』

『マスターを依代にしてを実体を完全に固定化させた存在。アーリー属に匹敵する能力を発揮できる』


比較対象と情報が少ない為、どの程度強化されたかは不明なのだが、ファエルエラの追記にある『アーリー属に匹敵する能力を発揮できる』と言う一文が、全てを語っているのかも知れない。

これを文字通りに解釈するなら、"ファエルエラの依代になった連中"でさえ、アンガムが最初に操っていた"フォービ並に強くなっている"可能性がある。

そして、最低ラインがそこにあるのなら、フォービ・ザ・ラーグとか言う奴の強さは想像を絶すると言う事だ。

その前段階でさえもコチラは苦戦を強いられたと言う事を考えれば、自ずと答えは導き出される。

そもそも、解説にある10%とか何とかある表記を見るに、最初でさえ本気ではなかったと言う事だ。

もはや、俺がどうこうできる次元ではない。

この世界を甘く見すぎていた。

もっと、情報を集めてからレパンドルとも接触すべきだったのではないか?

今更ながらの後悔が渦巻くが、全て手遅れだ。

俺は、リディを更に抱きしめた。

彼女の意識は相変わらずない。

もし意識があったのなら、彼女は俺の後悔に何と答えてくれただろうか。

しかし、俺の心境とは裏腹に、ガレスタの吐いた言葉は真逆だった。



「ふははははは。 嬉しいぞ、この魔導戦士ガレスタ。このまま終わりでは、張り合いが無いと思っていたところだ」


「強がリヲ。 お前ガ、何カは知ラぬガ、こノ力を使ッタ俺ニ、勝テる可能性ナど、微塵もアるト、思ウなよ」


「ふむ。 では、コチラも言わせてもらおう。 我が何時、全力で戦っているなどと言ったのだ?」


「「「!?」」」


そこに居た一同、それは俺も含めてだが驚いた。

あれでガレスタは本気で無かったと言うのか。いや、だったら最初からそうすれば良かっただろ。


「こ、この馬鹿野郎。 出し惜しみしている場合か。 ガレスタ、今度こそ全力で倒せ。一切余裕をかますな。 敵をこれ以上調子にのせるな!」


俺は意識を何とか保ちながら、鎧の中から奴に怒鳴り散らした。


「了解だ、主君よ。 しかし、言い訳をさせてもらえば、リディの葛藤も我には痛いほど分かっていたのでな。だが、これ程の敵を相手にするのであれば、その言い訳もつく。 元の血を完全に消費するが・・・・後で主君がリディに補充してくれ。 思う存分、枷を外して暴れてやろうぞ」


言っている事の一部を理解しかねたが、どうやらリディとガレスタの間で何かしらのシガラミの様な物があった様だ。

両者が、実は別の存在らしいと言うのも興味深いが、今はそれは置いておこう。

ただ、リディが意識を取り戻さないのは、もしかしたらガレスタの影響と見るべきか。

だとしたら、少しは安心できる。

ともかく、今はガレスタに頼るしか無い。

枷が外れた奴の力がどの程度なのかは想像もつかないが、中に居る俺に相当な負担が来る事だけは間違いないだろう。

俺も覚悟を決める。

と、ガレスタの鎧の隙間から赤い煙が吹き出し、それが更にキラキラと光出す。

この様相に、ラーグ化したアンガムが目を剥く。


「な、何ダ?」


吹き出された煙は鎧の付近を漂っているだけに見えたが、明らかに規則性を持った動きを見せ、最終的にはある形状へと変化していった。


「ま、不味イ。 全員、奴ヲこロせ」


その合図で敵が一斉にガレスタに突っ込むが、その瞬間に激しい力の流れが四方八方に打ち出され、飛び込んだ敵は全て弾かれる。

そして、その中央には赤黒く刺々しい、更には禍々しくなった上に一回り大きくなったガレスタが陣取っていた。



「何だ、あれは・・・」


次々に起こる変化に、フォーメルはもはや形容する言葉を失い、ただただ驚愕の表情を素で浮かべる他になかった。

ハイド・エレメンタリスの融合を見た時、もはや終わりだと思ったら残りの連中まで同様の処置を施され、たった今、絶望というピークを味わったところだ。

ところが、相対する大鎧のアーマルデ・ロイデンも更に変化を見せ、その姿は、まるで伝説に語られる魔王そのものとなってしまう。

綺麗とも言えた緑の鎧は見る影も無く赤黒く不気味な物へと変わり、芸術的な仕上げでもあった局面的加工の装甲は一切消え、至る所に突起物がせり出し、そして手にする武器までもが巨大に凶暴に変化していた。

大槌の打撃面に当たる両側からは、その断面の中心がそのまま盛り上がったかの様に棘が突き出し、本来、持ち手と槌のヘッド部分を結合する頂点からは刃が天空高く伸びていた。

これでは、まるで剣である。

いや、剣にしては余りにも歪過ぎる。両刃の剣は、片方は普通であったが、もう片方はノコギリの様な作りになり、更には剣らしき物の中央からは牙をのぞかせた口が存在して、時々息の様なものまでフーフーと唸り声に似た音と共に吐き出していて、一つの魔物と言った体をなしている。


見た目は確かに剣だが、邪剣と言った方が正しいかも知れない。



「あ、あれが、勇者・・・?」


流石に、これには他の魔装騎士たちも疑問を口にする。

勇者という名称は力を持つ者の俗称の様なものとは言え、イメージとしては清廉潔白、聖なる者と言った感じである。

しかし、目の前に存在するそれは明らかに邪悪と言って良い物であった。

アーマルデ・ロイデンらが邪神の疑いもあっただけに、彼らの中には余計に不信感が広がる。


本当に信用して良いのか?


その疑問をじっくりと考える暇も無く、再び激しい戦闘が開始された。



 四方から飛び込んだファエルエラ・ザ・ラーグは、その呼吸に合わせて無造作に振られた大鎧の変化した武器によって、その攻撃を阻止された。

いや、正確には回避したはずなのに、その体の一部を削り取られていた。

見れば、剣が通過した辺りの空間が歪んでそれがファエルエラ達に繋がり、更には禍々しく変化した剣とも言えぬ様な歪な武器の口らしき所に、体の一部が吸い込まれて行くのが見える。

 ザ・ラーグ化したアンガムもその洗礼を少なからず受けたのだが、咄嗟に防壁を張ることで回避する事に成功する。

しかし、彼は初めて迫りくる恐怖というものを感じていた。

防壁を隔てた向こうでは猛獣が牙を鳴らして、食いかからんとしている状況であり、決して対処できたとは言い難かったからだ。


「何ナンだ。 イッタイ、オマエハ、ナンナンダ!?」


切り札まで幾つか使い、その上を行ったつもりでいたのに、尽くひっくり返された事に、アンガムは怒りとも驚愕とも取れる声を漏らす。

ただのアーマルデ・ロイデン狩りであったはずの仕事が、蓋を空けてみれば、とんでもない相手であったこと。

自分以外に強い者が、ここ数日で幾人も現れたこと。

彼が長年積み重ねたはずの自信と誇りが、音を立てて崩れ始める。

そしてそれは、エレメンを支配下に置けると言う彼の自信や、繋ぎ止める感覚にも似た鎖に亀裂を生じさせてもいた。


「「「グウオオオオオオオ!」」」


正に、魔獣と言って良い咆哮をその口という口から上げたアンガムは、恐ろしい速度で突進する。

振り下ろされた邪剣を体を捻って回避してみせると、懐に飛び込んだ所で、体の側面から生えるフォービの各口からファルラースを展開、直様突き立てた。

だが、そのファルラースは、鎧との僅かな距離で綺麗に切り取られたかの様に消失して届かず、それどころか、そこから例の剣へと力が吸い取られて行く。

それを見たアンガムが、己の腕を更に凶暴に変化させると、恐ろしい力で变化した鎌爪を叩き込んだ。

しかし、それすらも鎧には通じなかった。

ファルラースと違って彼の爪は確かに鎧に届いたのだが、食い込んだ瞬間に微塵たりとも動かす事ができなくなり、更には鎧の赤黒い色が彼の爪を介して侵食していく。

それを見た瞬間、アンガムは自分で侵食されそうになっている腕を切り落とした。

途端に抵抗が無くなって、その部分は勢いよく吸い込まれると、彼自身も後方に弾かれる様にして遠のく。

全ての攻撃を跳ね返すのではなく、飲み込むと言う防御を持つ相手に、アンガムは自我を蝕まれながらも驚愕する。



 フォーメルたちは、自分たちの理解を超える戦いに呆然として、ただ見ている事しかできなかった。

そこで展開されていた戦いは神話としてしか聞いた事がない、正に魔物同士の戦争である。

技もクソもない。

相手より力が勝る者だけが生き残る。そんな戦いだ。

その点において言えば、強いのはリディと呼ばれる鎧であろう。

どうやら弾く防御ではなく飲み込むと言う防御を持っているらしく、それを考えれば、恐らくあらゆる攻撃が効かない事になる。

そうした力も、飲み込む容量に普通は限界があると考えるもものだが、今の所、それらしき兆候は見えない。

もしあったとしても、これ位で満杯となる物でもないのだろう。あるいは、逆に敵の力を利用して、攻撃の為の力を溜めているのか。

何れにしろ、またも戦局はコチラ側が有利になったと言える。

無論、ハルタたちが敵ではない、あるいは暴走しない事が前提となるが。



 アンガムの動きが止まった。しかし、顔には苦悶の表情を浮かべている。

それが単に、不利な状況に歪めた顔なのかと判断がつかない内に、状況は更に変わった。

突然、彼は人とも獣ともつかない雄叫びを上げたのだ。

そこに居た誰もが驚いたのだが、一番怯えたのは彼の仲間たちだった。


「お頭、しっかりして下さい」


「やべーぞ、オイ」


「こ、こんなの聞いてねぇ。 俺は逃げるぞ」


敵は総崩れとなった。

ただ、彼らがそうした行動を取れたのは、ガレスタの力によって能力の一部を失う事で人寄りに戻れたと言う理由もあった。

それが良いか悪いかは別として、マスターと言えるアンガムからの支配から逃れた彼らは、少なくとも自由に選択肢を選べる様になる。


 そうして散り散りに逃げ出す味方を他所に、アンガムは既に人の顔をしていない何かとなってガレスタに襲いかかった。

突進しながら無数のファルラースを展開すると、それをガレスタに叩き込む。

が、やはり効果は無い。

それらは同じ様にして变化した体の中に吸い込まれただけで、微塵もダメージを与えている様子がなかった。

それどころか、アンガム側の魔力供給を無視して貪る様にし、魔力を吸収しようとさえする。

攻撃を強制的に中断して回避したアンガムだったが、そこへガレスタの邪剣が振り下ろされた。

彼の目はそれを捉えていなかったが、代わりにフォービの首が二つほど伸び、それを口で受け止める。

 しかし、口で受け止めたフォービを、更に邪剣の口から出てきた複数の目のない蛇の様な物が襲い、僅かな時間でボロボロに食い千切って行く。

これには堪らず、アンガムが低い悲鳴を上げて形振り構わずに距離を取る。

当然だが、ガレスタはそれを許さなかった。

距離が空いた瞬間に、武器を最大速度で振り下ろす。

その攻撃を、アンガムは魔法の防御壁で今度は受け止めた。

それを見て行けると思ったのだろう。アンガムは次の攻撃に備えようとしたのだが、ガレスタは防壁に対して連続して斬りかかる。

魔法の防御壁は、数度の攻撃に対しては何ら変化を見せなかった。

だが、ある回数を超えた辺りから、明らかに防御壁そのものがダメージを負っている現象が現れ始める。

明滅したり波紋の様にたわんだりと、相手の力に対してまるで悲鳴を上げているかの様に、身悶えている様だった。

そして数度の斬撃の後、相手は剣を振るのではなく突くために構え直すと、その渾身の一撃が遂に防御壁を食い破る。

 アンガムは、攻撃に備えていた全ての動作を中断し、今一度魔法防御に全力を注ぐ。

食い込んで来た敵の剣先は正にアンガムの鼻先寸前で止まったが、尚も獲物を求めてギリギリと進んでこようとした。

堪らず二つのフォービの頭部が剣に噛み付くが、待ってましたとばかりに盲目の蛇が絡みつき、途端に壮絶な食い合いを始める。

空いているフォービの頭が反撃してそれに噛み付いたが、数の点で言えば邪剣の口から繰り出される盲目の蛇が勝り、数匹をフォービが噛み付く間に、更にその倍以上が噛み付いてフォービをボロボロにして行く。

しかし流石と言うか、それでもフォービが倒れる様子はなかった。

ボロボロになって穴だらけになった頭部を逆に利用しようと考えたのか、それとも偶然か、口から炎を吹き出す攻撃を繰り出すと、それらのダメージ箇所からも噴出させて盲目の蛇らを引き剥がす事に成功したのだ。

それにより、両者は一旦距離を取った。

何気なく出した炎の攻撃は相当な物であったが、それでもガレスタは無傷であった。そして、フォービの頭部も欠損部分を直様修復させて行く。

無敵の怪物と不死身の魔獣が戦えばどうなるか、その答えの一端がここにあると言えるだろう。

ここで、意外な弱音をただ一人に聞こえる様に言ったのは、ガレスタの方であった。


「案外しぶとい。これでは、時間切れになる可能性がある。 主君よ、万が一の場合は、我とリディを捨ててお逃げ下さい」


「!? ・・・本気を出しても勝てないほど、向こうが強いのか?」


「強さではコチラが上回っております。 が、如何せん、スタミナでは負けておりますな」


「後、どれくらい動ける」


「数度の打ち込みが限界でしょう」


「なら、それでカタを着けろ」


「・・・承知。 では、主君もお覚悟めされよ」


「覚悟?」


俺は今更何を言っているのかと思ったが、急機動を再び始めたので問い質す事はできなかった。

覚悟と言うのは、単に俺も巻き込むという意味なのか、それともリディとガレスタを見捨てると言う事なのか判断はつかない。

ただ、今までの経験上、このガレスタって奴は事後承諾が多い。

もし何らかの力を更に使うとしていても、あまり気持ちの良いものでは無い事は確かだ。

それに備える様にして、俺はリディを再び抱きしめた。



 アンガムは何とか意識を保っていたが、それも途切れ途切れとなりつつあった。

過去、彼はもっと深くフォービと繋がった事もあったが、それらは一瞬の事であり、そして大抵の敵は、それで瞬殺できたので問題にならなかった。

だが眼前の敵は強く、倒す為には小手先の力程度では、意味を成さない。

故に、限界以上の力を求められていたのだが、それも破綻しようとしていた。

力を瞬間的に引き出すのが、もはやアンガの限度であったが、それで確実に倒せるかも分からない。

そして、その限度は本当は一線を超える試みでもある。

恐らく、今の彼では意識を完全に持っていかれ、フォービに肉体を乗っ取られるだろう。

もっとも、このままの状態を続けていてもそれは同じであり、単に遅いか速いかの違いでしか無い。

敗北を認めて大人しく敵の軍門に下ると言う方法も過ぎったのだが、既に彼の思考は半分がフォービに侵食され、戦うと言う欲求の方が勝り、そうした考えは浮かんでは消えて泥の様に混濁した中にある。

その中でハッキリと彼が選んだのは戦うと言う事であり、その為に己の全てを差し出すと言う物だった。

そして、それが彼が彼であった最後ともなる。


「ぐウおおおオオオオ」


混じり合った気持ちの悪い雄叫びをアンガムが上げたと思った瞬間、彼の体から光が漏れて裂けはじめ、遂には人間の体が千切れてフォービその物が出現する。

一つ違っているとしたら、その体は今までの様に薄い幻影の様な物ではなく、ハッキリとした肉付きと言うか、実体の様な物を持っていた事だった。

その様は、更に見ていた者によっても肯定される。


「嘘だろ・・・本当に実体化させやがった」


そう呟いたのは、フォーメルである。

エレメンがこの世界で力を振るうには、術者を介して影を映し出している様な物であり、どんなに力を尽くしても五割も実力を引き出す事はできないとされていた。

無論、アーリー属と呼ばれるエレメンは、それ以下の力でも十分に強力であったのだが、それを完全に呼び起こす方法は自殺に近いとされ、やる者は居ないと信じられていた。

術者の体を媒体として肉体を与えると言う方法は、そのまま己の消滅を意味していたからだ。

そして、そうした代償を払ったとしても、エレメンが実体化できる時間は限られている。

何故なら、この世界と繋げている材料が人間の体でもある以上、それを消費したら結局は体を保って居られないからだ。

それを考えれば、あまりにも引き合わない方法であり、実行に移す者は皆無だと思われていた。

 しかし、アンガムと言う男はそれをやった。

敵を倒すと言う執念か、それとも別の何かがあるのか。

己を化け物に食わせてまでも、敵を排除しようとする意味をフォーメルには理解しかねた。

逆に言えば、そこまでしないと、あの大鎧は倒せないのだろう。

これでは、どっちが驚異であるかが分からない。

次が最後になると感じながらも、フォーメルは素直に味方であるはずのハルタを応援する事はできなかった。



 そうしたフォーメルの疑念とは裏腹に、当のアンガムは最高の気分を噛み締めていた。

体は完全にフォービに乗っ取られてはいたが、彼の精神力なのか、それともフォービが加減をしてくれたのか、辛うじて彼の意識は残っていた。

戦争を生業として生きると言う道を選んだ時から、彼は戦いの中で死ぬ事を望む様になっていた。

常人には理解できないであろうが、それが彼にとっては一つの喜びともなっていたのだ。

何かが狂っている事は彼にも十分には分かっていたが、仲間も敵も簡単に死ぬと言う日常を見ている内に、アンガムの中で生と言う物は限りなく価値が低い物として扱われる様になっていた。

一瞬に全てを賭け、己の命を代価として勝利する。

そのスリルが、彼には麻薬の様に染み付いていたのだ。

勝つことさえできれば、本当に後のこと等どうでも良い。

それが、アンガムと言う男でもあった。

彼自身、家族を戦争で失い、残すべき物も気にかける者も居ない。

故に、あるのは只管な自己満足だけである。

そうしなければ、狂った自分に寄って立たなければ、彼はとっくの昔に進むことはおろか、立ち上がることさえできなかったのだ。



 フォービが、完全にコチラに実体化したのと時同じくして、ガレスタにも変化が始まっていた。

より正確に言えば、変化していたのは邪剣の方だ。

更に肥大した邪剣はガレスタの右腕を完全に飲み込んでしまい、そして柄の部分が長く巨大に伸びて行く。

その大きさは、やがて十数メートルを超える所まで来たところで止まったが、今度は表面が波打つ様にして動くと、一つ一つの波が突き出す様にして無数の棘を発生させ、全体を覆って鱗の様になる。

と、全長の内、先端と後部からやや離れた位置の下に当たる部分が盛り上がると、足の様な物が突き出し、終いには刃部分が雄叫びを上げてメリメリと音を立てながら上下にバッカと割れる。


「ヴィ、ヴィーダル・・・・」


誰ともなくそうつぶやいた時、剣であった部分の柄に近い位置が真一文字に切れ目が入り、カッと開いて目が瞬き正にその通りの姿となった。

そして、まるで出現できた事を喜ぶかの様に、その"竜"は出来上がったばかりの口から長い息を吐く。


「これで、全部の血を使い果たした。 我には、もはや力は残っておりませぬ。これが、正真正銘の最後です。 主君よ、行きますぞ」


言いたい事だけ言い放つと、俺の返事を聞くまでもなく变化したガレスタは突進した。



 空中で二体の魔獣がぶつかり合い、それに似付かわしい振動と衝撃が周囲を震わせる。

フォーメルは、その衝撃に力無くよろよろと鈍い動きで地面に伏した。

この場において、如何に自分がちっぽけな存在であるかを知ると同時に、あの時、ハルタを逃がす為に自分が犠牲になるなどと、何と思い上がった事を口走ったのかと知る。

正直な事を言えば、フォーメルはどこかで自分は世界の強者に何とか抗する事ができると今まで信じていた。

しかし、今この場で行われている戦闘を見る限り、自分の実力などゴミの様な物であると知り、それは同時にレパンドルがとても危うい状態にあった事を思い知る。

どの様な事情であれ、そして何者であったにしろ、ハルタ達が助勢しなければ、とっくの昔にこの国は終わっていたのだ。

 ずっと危険な綱渡りをしていた。

彼は今になって、世界の怖さの様な物を知り、絶望に似た感覚を覚えるのだった。

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