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俺のLVは上がらないのに、  作者: 松戸真 寿司
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~謎の勢力~ -27. 天敵襲来 その12







 炎の奔流に僅かな裂け目が生じると、強引に体をねじ込む様にしてマツリカは炎の余波を受けながらも、そこから脱出することに成功した。

目線は既に敵を捉え、着地する前から攻撃の体制を整える。

敵は切り裂かれたままでも攻撃してきており、やはり完全には機能を取り戻せていないのか、飛び出したはずのマツリカには気がついていない様子だった。

周囲には復活した敵の気配を感じるが動き出す様子は無い。

やはり、今が絶好の機会なのだろう。

足のつま先が地面に着くかつかないかの刹那、マツリカは即座に突進、敵の首を今度は跳ね飛ばしてみせる。

敵の首は回転が加わりながら勢い良く跳ね飛ばされると、攻撃をそのまま撒き散らして行く。ただし、それは明後日の方へ放たれていた為、マツリカたちに影響はない。


「どうだ!」


会心の手応えを得たのだろう、マツリカは拳を小さく突き上げた。

だが、その表情は直ぐに驚愕へと変わる。

跳ね跳んだはずの頭部は、体の傷口から伸びてきた赤い帯の様な物によって掴まれると直ぐに本体へ引き戻され、何事も無かったかの様に元の場所へと収まる。

一つ違っているとしたら、咳と一緒に嗚咽をした事だった。


「ぐ・・はっ。 ふうう・・・どうやら、死んでいた様だな。 やれやれ」


そう言って顔を上げた敵の顔からは虚ろさが消え、表情と共に生気が蘇る。

それを見て後ずさったマツリカは、敵の体から赤いエネルギーの様な物が漏れ出ているのに気がついた。

そして、今になってエレメンが居ない事にも気が付く。


「そうか、体の中に"アレ"を入れたのか」


仕組みはよく分からないが、いま目の前に居る敵は全体が例のエレメンによって、何らかの強化なりを受けてでもいるのだろう。

物理的な攻撃は効くようだが、それも単に肉体の損傷程度でしか無いらしく、活動を止めるには至らないらしい。

その証拠に、切られた部分からは赤いエネルギーが漏れ出て活性化を示し、傷口もピッタリとくっついて行く。


「こんなの反則だ・・・!」


「まさか、アーマルデ・ロイデン如きに殺されるとはな。 でも、ま、この体も悪くない。お頭が力を使ってくれる機会自体少ないし、むしろ礼を言いたいぐらいだ。

・・・そうだな。

お礼に、お前の四肢を胴体から引きちぎって、ケツの穴から串刺しにしてやろう。って、アーマルデ・ロイデンも尻の穴ってあるのか?」


男は下品に笑うと、同時に周辺に炎による高範囲攻撃を行う。ただし、それはマツリカを狙ったと言う分けでは無かった。


「おら、とっと気合を入れろ。 天国の階段を登るのは、また今度にしな」


男の呼びかけに、それまで虚ろだった連中までもが正気を取り戻す。


「ううう・・・・がっ! ああ、何だ? ・・・もしかして、死んだのか俺?」


「そうみてぇだな。 お頭が力を使ってくれるとは、これで俺も最強って奴か」


「バーカ、これでお前のタマはお頭に握られたって事だろ。 にしても、お頭は連中ともやり合うつもりなのかねぇ」


「青い死神と暴翼か? むしろ狙いは、あの黒い奴じゃねーのか」


蘇った連中は、マツリカを前に全く無視して彼女の知らない事情を話し合う。

自らの命に対しても軽すぎる発言が目立つが、そうなっても仕方のない道を歩んできた証拠とも言える。

ただマツリカには、それらのやり取りが完全に舐められている様に感じられた為、怒りを爆発させた。


「テメーら、随分と余裕だな。 もう一回殺してやるから、首を並べろ」


「おお、こわ。 このアーマルデ・ロイデン、あの生意気な暴翼を思い出させてムカつくぜ」


ニヤニヤと笑いながら、蘇った四人がマツリカを半包囲する。

それに対し、マツリカがそれぞれに対して刀を突き出して牽制するが、明らかに力の差を彼女も感じていた。


(不味い。この連中、強さだけは本物だ。 力を使うにしても、隙きが無い。 どうする?)


珍しく狼狽した表情を浮かべながら、マツリカはジリジリと後退する。ただし、直ぐに歯を噛み締めて、自ら表情を変える。

と、その時だった。


「うおー!」


立ち上っていた炎の燃え残りを割って、ロズッテが突進してきた。

そのまま、今さっきまで相対していた敵に魔法武器を突き立てると、蜃気楼の防御壁と激しく火花を散らす。


「こ・・・の、クソ魔装騎士が!」


両者の実力差は明らかではあったが、やはりフォーメルが天敵と形容しただけあって、ロズッテの攻撃は無視できなかったのだろう。攻撃を喰らった相手は防御を余儀なくされている。

攻撃したは良いが、両者の力量差は歴然であり、防御を張りながらも相手は魔法武器の領域へと押し入ろうと力を集中させ始めた。

今度は、ロズッテがジリジリと後退を始める。

それを見て咄嗟にマツリカも動いたのだが、それも残りの連中によって阻止されてしまった。

マツリカも攻撃を寸前で見切ってかわし、反撃を試みるが、攻撃が届いた相手はやはりダメージらしい物を負わない。

不利を悟ったマツリカは全力で地面を抉って派手に土を巻き上げ、それを相手への牽制としてロズッテの襟首を掴むと共に飛び下がる。

仕切り直して睨み合う形となったが、どちらが劣勢であるかは明らかだ。



「マツリカが危ない。助けに行かないと。 アシュレイ」


しかし、そのターナの呼びかけも虚しく、アシュレイは六本の腕でガッチリと彼女とイユキを抱え込み、放さない。

レベル差があるはずなのだが、力だけで言えばイユキと互角以上かもしれなかった。

その背後には、自主的に動いたらしいイーブル・ラーナン達が既に退避している。


「アシュレイ、お放しさない。 このままでは、仲間をみすみす失ってしまいますわ」


「・・・あなた達が行っても意味ない。 むしろ、足手まとい。ハルたんの指示は正しい」


「う・・・」


言葉数少ないアシュレイだったが、かえってその言葉は重く、反論できないターナとイユキは黙るしか無かない。


「マツリカ、ご主人さま」


抵抗を止めたターナは、自然と祈ると言うポーズを取っていたが、同時に彼女は力の開放準備も始める。

それはイユキも同じだった。


 死んだと思っていた敵が復活したことに、俺は動揺を隠せない。

疲労困憊と言う事も手伝ってか、半ばパニックになる。と言うのも、これでは絶対に勝てないとも思えたからだ。


「嘘だろ。何なんだよ、彼奴等は。 絶対ヤバイ! 殺られる。 どうしたら、どうしたら!」


むしろ、俺のパニックの対象はマツリカにあったと言って良いだろう。

理由はよく分からないが、明らかに苦戦している。そして、敵の力は強大だ。

見た瞬間、あの蘇った連中のヤバさも分かった気がした。

ミズツノシシオギ並までとは言わないが、それに匹敵する力を持っている可能性が高い。

あの時でさえ、やっとダメージを与えられたと言う戦いだったのだ、これでは確実に殺られてしまう。

 マツリカを最初に手にし、そして手放して再び取り戻したと言う苦労がパッと頭に浮かぶと、このまま失ったらどうしようと言う恐怖が俺の中にチラつく。

ただの武器なら、そんな感情も大して出てこなかっただろう。だが、俺にとってはマツリカを含め、全員が家族や子供の様な存在という認識が強くなっていた。

それ故に、今更ながらに危機感を強くする。

助けに行こうと動こうとしたが、当然の様にアンガムが阻止してきた。


「おっと、ここでもう少し遊んでいきな。勇者様」


「て、てめぇ!」


強引にリディから制御権を奪った俺はアンガム目掛けて突進したが、苦もなくかわされた上にフォービからの反撃を受けて地面に叩き落とされる。

切れる息をしながらふとリディを見れば、彼女も辛そうな顔をしていた。


「リディ、大丈夫か。 オイ!」


「だ、大丈夫です。ただ・・・もう、残り少ない。 これでは・・・・」


そう言って、リディはその場にへたり込んでしまった。


「リディ! リディ、しっかりしろ!」


案ずる暇も無くフォービとアンガムの連続攻撃が俺たちを襲う。

リディは目を閉じて力なく横たわってしまい、呼びかけにも反応しなくなってしまった。慌ててアニーズを使うと停止状態となっており、それにも驚く。

相当に無茶をしていた・・・いや、俺の為に強いていたらしい。

自分の迂闊さに後悔したが、俺自身も既に限界を迎えていた為に、もはや為す術がない。

俺ができた事と言えば、リディを抱きしめ、彼女をできる限り振動から遠ざけようとする事だけだったが、激しくなって行く攻撃にどれだけ効果があるかは分からなかった。


 こちらの攻撃に対し、大鎧が遂に動きを止めたのをアンガムは目を細めて見ていた。

まだ片膝を突き、攻撃に耐える様な仕草をしてはいるが、回避どころか微塵も動かない。

恐らくだが、何かしらの限界が訪れたのだろう。

何かしらの攻撃への溜めを作っているとしても、この状態では隙きができるだけであり、むしろアンガムにとっては好都合となる。

つまり、完全に詰みとなったのだ。

それでも彼は油断しなかった。

単純な攻撃力ならフォービが上だが、手数と言う点で見るとアンガムが肩代わりするには隙きが大きい。

よって、牽制をフォービに任せたまま、自分が持ちうる最高の攻撃手段を出す為の準備を始めた。

今まで使っていたファルフィップは、魔法攻撃でありながら物理的な打撃要素を持つ為に十分に強力ではあったが、強固な相手には決定打に欠ける物だ。

もっとも、それは目の前の大鎧に対してであり、普通の相手なら例えバウンダーでさえ無事ではすまないはずの物である。

それに耐えうるアーマルデ・ロイデンの存在は厄介だが、それだけとも言えるだろう。

動きさえ止めてしまえば、どんなに頑丈だろうとただの的である。

最大の攻撃を繰り出さえば無事では済むまい。

特に、これから出す攻撃は、一点集中による突破を重視したファルラースと言う魔法であり、その一撃は当たりさえすればヴィーダルさえ倒すと言われている物だ。

ただの鉄やそれに類する物であれば、絶対に防ぐ事はできない。

よしんば防いだとしても、恐ろしい熱量を叩き込む攻撃でもあるので、中に居る連中も唯では済まないだろう。

アンガムは右腕を引き絞る様にして体ごと捻ると、魔力をその拳付近に集中させていった。



「ひゅ~。 お頭、アレをやるつもりだぜ」


「久々だな。 相手も動けない様だから、丁度いいって事か」


敵の牽制には全く動ぜず、蘇った連中は完全に隙きを見せてアンガムたちの方を見る。

その瞬間をマツリカが見逃す訳もなく、素早く打ち込む。

が、しかし、相手からは直ぐに炎の魔法攻撃が放たれてこれを回避する為にマツリカは横っ飛びに転がった。

恐らくだが、わざと隙きを見せたのだろう。


「チッ、わざとらしい」


マツリカの方も分かっていて敢えて飛び込んだらしいが、それはそのまま、自分に手立てが無い事も証明していた。

チラッとみれば、ロズッテ以外の連中も抑えられている。

状況は最悪だった。

一つ手があるとすれば、全力で逃げると言う事だが、マツリカの気質的にそれは絶対なかったし、何よりリディとハルタを置いていく事になる為、ありえない選択だ。

事態を挽回するには、やはり血の力を使うしかないだろ。

ならば、今一度フォーメルたちを頼る以外にない。


「忌々しい。 テメーら、私を本気にさせた事を後悔させてやろう」


そう言ってジリジリとロズッテの側までマツリカは後退すると、踵を返してフォーメルたちのところまで走り出す。


「オイ! 私をもう一度守れ」


ロズッテを引きずり、時に盾にしながら敵の攻撃を交わしつつ、マツリカはフォーメルに呼びかけた。


「!? ど、どうするつもりだ」


「話は後だ」


そう言って強引にフォーメルに近づこうとしたマツリカと彼の間に、炎の攻撃が吐き出され両者は再び引き離される。


「邪魔すんな」


マツリカが叫ぶ。


「そうは行くかい。 これ以上、面倒な事をされても困るんでな」


それに対し、ニヤけながら蘇った兵の一人が言い放つと、更にマツリカが続ける。


「お前らを相手する為に、こっちも本気を出してやろうってんだ。 ありがたく協力しろ」


「却下だ。 俺たちゃ傭兵なんでね。ヤバイ事を避けるのは鉄則さ。 それに、こっちはバカ高い損失をテメー相手に出してんだ。 これ以上の出費は避けさせてもらおう」


一瞬だけ口の端を上げたその兵は、更に強力な炎の攻撃を口から吐き出した。

かなりの広範囲に放たれたそれは、もはや避けるどころではなく、マツリカはロズッテを盾にして耐えるしか無い。

的を捉えた攻撃はその後は収束し、範囲こそ狭められたが今度は威力を上げる。

これにはロズッテが耐えられず、悲鳴を上げた。

瞬間、横から何かが飛び込んできてロズッテをマツリカと一緒に弾き飛ばし、攻撃の範囲から脱出させる。

フォーメルだった。

肩からは血を流し、荒い息をする。

二人を助ける為、相対していた敵を無視する形で動いた結果、敵の攻撃を少なからず受けたのだ。

当然、マツリカたちへの攻撃が今度はフォーメルに狙いを定めるが、彼は飛び退いてどうにかかわす。

そして、それぞれに包囲されてしまい、連携する隙きさえも完全に潰された。


(これまでか・・・・)


自分なりに最善を尽くしたつもりだったが、敵が余りにも強すぎる。

むしろ、ここまで善戦できた事は褒めても良い程だ。

それもこれも、アーマルデ・ロイデンとハルタが居たお陰とも言えた。

だが、それも終わりだろう。

 ハルタの言う切り札とやらは、結局はあまり効果を発揮していない。

マツリカと言うアーマルデ・ロイデンも更に何かしようとしている様だが、この連中はそれを使う時間を与える様な甘い相手ではない。

勇者とそれらが率いるアーマルデ・ロイデンに少なくない希望を見出したフォーメルだったが、それも儚い物だったと実感し始めていた。

とは言え、ハルタたちを責めるつもりはない。

彼らがいなければ、自分たちは一時すら持たずに倒されていただろう。

蘇ったとは言え、敵数体を倒す事にも成功した。

エレメンに体を預ける手法は、連中にとってもリスクが高い。

それが何かしらの突破口をレパンドルにも与えてくれるはずである。

或いは、これだけの脅威を持つ敵の存在と、西側が動いたと言う事実はロウバル連合をレパンドルに傾けるキッカケにだってなるはずだ。

 それを誰が伝えるのか。

と言う重要な部分が抜けたまま、フォーメルは希望を見出そうとしてた。

体力も限界に近づいていた彼は、更に怪我を負った事で力が急速に抜けていくのを感じならも、尚も足掻こうと短く気合を入れる。


 動けない状態の中で、俺は何か打開策は無いかと辺りを探る。

アニーズもフルに使って、敵だけではなくありとあらゆる情報を拾うが、希望した様な成果は得られない。

それどころか、アンガムから放たれる攻撃が危険であるらしい事だけを知っただけだ。

アニーズでは、その攻撃の概要しか知る事ができない。

しかし、魔力を見ると言う能力を一時的なのか恒久的なのか知らないが得ていた今の俺には、感覚的にそれが強力である事だけは分かった。

分かってはいたが、フォービから放たれる攻撃によって身動き一つできない俺は、その危険な攻撃が準備されるのを見ている事しかできない。

もちろん俺だって何とかしようと足掻いては見た。

しかし、既に気づかない内に俺自身も相当消耗していたらしく、幾ら魔力を込め様と気張ってみても、穴の空いた風船の様にして力を込める事ができない。

その為、リディの鎧はヨロヨロとしか動かす事ができず、最初の頃の様な突撃や瞬発力のある動きはできなかった。

そして、遂にアンガムがニヤリと笑うのを見てしまう。


 準備は整った。アンガムは自分でも惚れ惚れする様な力を感じて笑みを零す。

ファルラースとは、言わば炎の特質を魔力で加速させて固めた槍である。

火の力と魔力によるエネルギーが凝縮され一点に集中固定された力は、現存する魔法攻撃の中でも最強の部類に入ると言われている。

実質的に防ぐ事は不可能とされており、欠点があるとすれば、発動に時間がかかるのと射程距離が短い事、そして制御が難しいと言った事くらいだ。

特に制御し難いと言う事は致命的で、下手をしたら使う前に暴発するという危険性も持っていた為、多くの使い手からは敬遠される魔法でもある。

それでもアンガムは、この魔法を好んでいた。

何故なら、多くの使い手の中で彼は一番上手く使えていると自負してもいたからである。

実際、何度も修練を重ねて使いこなせる様に努力もしてきた。

そのお陰か、欠点を克服して当てる事さえ可能であれば、アーリー級のエレメンでさえも倒せると、アンガムは自負する様にまでなっていたのである。

そうした経緯もあって彼はこの技を好んで使いたがり、そして絶好の機会を得た事に今は狂喜してもいた。

何せ、その魔力量と言った物も膨大であった為、使い悪さや危険性以前に使える者自体も少なく、使っただけで称賛される事もあるくらいなのだ。

それは、ある意味で彼に一番の自尊心を与えてもくれた。

十分に強いと言える相手の動きを止め、逃げ道を塞ぎ、止めを刺すのにファルラースを使うと言うのは彼にとっては理想の展開でもある。

凝縮された力を引き抜く様にしてファルラースを上に掲げると、やはり見惚れる様にそのランスまんまと言った形状を見上げ、ゆっくりと狙いを大鎧に定めた。


 フォービから激しい攻撃を受けていたはずなのだが、俺はふとした瞬間に、妙な静けさに置かれると言う不思議な感覚を覚える。

それで仰ぎ見てみると、アンガムが何かしらの獲物を構えるのが見えた。

ああ、アレで攻撃するのか。

それを見てなお、俺は他人事の様に考える。

そう考えた理由の一つには、リディの鎧なら大丈夫と言う漠然とした安心感があったのだが、同時に感覚の様な物が麻痺しているのも分かった。

アレが何かしらないが、自分でも死の様な物を覚悟したと言うか、どうにもならないと言う諦めに似た物もあったのだ。

リディを抱きかかえているせいか、不思議と恐怖感と言う物はなく、何か開放されるのではと言う安堵感さえあった。

ミズツノシシオギ、森の奥にあった王都跡、封印、何かの夢、出会った人々。そして、人化させた娘たち・・・・

次々とこれまでに起きた事が鮮明に思い出され、自分でもこれが走馬灯なのだろうかと、やはり他人事の様に考える。

そこでハッキリと分かった事があった。

アンガムの繰り出そうとしている攻撃、これは相当な物であるのだと。

恐らく、直撃されたら生き残れないのだろう。

俺はリディの頭を抱える様にすると、ギュッと抱きしめた。


「終わりだ」


アンガムは、まだ止めを刺してもいないと言うのに、満足そうな表情を浮かべてファルラースを突き出した。




 ファルラースの威力は絶大だった。

繰り出された瞬間を狙ったかの様に大鎧が僅かに動いて回避しようとした為、狙いこそ左側にズレてしまったのだが、その部分をバターの様に溶かして穿つ。

ファルラースは、その威力故に動かすのも苦労するのだが、アンガムはむしろそれすらも楽しんでいた。

手にかかる負担を感じながらも、ジリジリと大鎧の中心部へと移動させる。

多少の抵抗を感じるのは単なるファルラースの特性なのか大鎧の防御能力かは分からなかったが、相手をなぶると言う最高の愉悦をアンガムは噛み締めていた。


 朦朧とする中で、俺は一瞬だけ唇を噛み締めて意識をハッキリさせると、敵の攻撃に合わせて僅かにリディの鎧を動かして直撃を避ける。

だが、敵の攻撃はアッサリと左側をめちゃくちゃにし、熱と抉る様を見せつけ、更にこちらへとにじり寄り始めた。

熱さを感じないのはリディの鎧の特性なのか、それとも麻痺した感覚のせいかは分からない。

直ぐ前に迫る死に対し、俺はリディを庇うようにして抱きしめた。



「もう少しだな」


舌なめずりをしたアンガムはしかし、手応えが僅かに変わった事に気が付く。

見ると、中央に届くという正にその瞬間、ファルラースは大鎧の右側の手によって止められており、それ以上の進行を妨げられている。

更には魔力干渉か何かによって火花の様な物を散らし、両者に力の拮抗を思わせる様な現象が見えたが、大鎧は間違いなく、その最強の攻撃に抵抗して見せた上で、ぐっと掴むような動作をして見せる。

これにはアンガムも慌てて押したり引き抜こうとしたりして藻掻くが、力の差は歴然としていてビクともしない。


「フォービ!」


その掛け声に連動するかの様に、彼のエレメンが激しい攻撃を更に繰り出したのだが、大鎧は掴んでいた右手を一瞬だけ放すと、拳をファルラースに打ち込んだ。

それで強引にファルラースを体から引き剥がすと、今度は大槌を素早く掴んで間髪入れずにそれの横っ面へと叩き込む。

瞬間、凝縮されていた力が弾け飛んでしまい、広範囲に爆発の力が広がった。


(こんな馬鹿な。狙ってやって・・・? いや、出来るわけが・・・)


ファルラースの魔力が暴発し激しい爆発によって辺りが包まれると、何もかもが一瞬にしてその姿を消した。

特に上空に居たアンガムは、それによって地上を見ることができなくなってしまう。

やや遅れて、部下たちも立ち込める煙を割って上空へと逃げてきた。

正確に言えば、飛べたのは蘇った連中であり、残っていた者はそのサポートを受けて空中へと運ばれる。


「お頭ぁ~、一体どうしたんですかい。 もーしかして、ファルラースの制御をしくじったとかぁ?」


蘇って余裕が生まれたのか、この事態の深刻さを知らずに一人が軽口を叩く。


「黙れ!」


最強と自負する技が防がれ、あまつさえ破壊された事に痛くプライドを傷つけられたアンガムは、珍しく部下を叱りつけた。

叱咤された者は、それに首をすくめて仲間をキョロキョロと見、何が不味かったのかを確認しようとする。

すると、地上から何かがバチンバチンと閉じる様な、組み合わせる様な音が響き、直後、風切り音が鳴り響いたと思った瞬間、煙が恐ろしい速度でブン回された大槌によって引き裂かれ、かき消された。

まだ熱波による空気の揺らぎがあったが、アンガムはハッキリと今までと違う事態が起きている事を確認する。

現れた大鎧は、赤い光とも煙ともつかない物を全身から吹き出し、破損していた部分がどんどんと修復されて行く。

それが完了すると同時に、フェイス部分の目に当たる部分を赤く点滅させると


「オッシャアアアアアアア!」


大槌を掲げて雄叫びを上げた。




「な!?え?」


突然響いた声に、俺は辺りをキョロキョロと見回す。

見ると、何時の間にか敵の集団が上空に上がっており、最初はそいつらから出た言葉だと思った。

しかし、声は明らかに鎧から響いていたので、俺は余計に混乱する。


「な、何が・・・・」


「おお、久しぶりですな。 主君よ」


「! お前は!?」


「魔導戦士ガレスタ。 主君の危機に馳せ参じましたぞ」


途端に、俺は王都跡でのドノロファル戦の記憶が蘇る。


「お、お前、あの時の・・・・?」


「如何にも。 主君による力の開放、我、確かに受け取りましたぞ」


「力の開放・・・? ま、待て!」


俺の言葉を聞く前に魔装戦士ガレスタは、とんでもない速度でフォービに突進する。

案の定、俺は凄まじい重力を受けて内部に張り付けられた。



 何かが変わったと思ったのも束の間、大鎧が再び突進してきた。

違っていたのは、今までとは比べ物にならない程に速いという事だった。

更には、真っ直ぐに向かってくるそれに対し当然の様にフォービが迎撃の攻撃をしかけたのだが、大鎧は背中から何かを噴射して右に左にと軽やかにかわすと、遂にはフォービに肉薄して重い一撃を加えて地面へと叩き落とす。


「馬鹿な!」


アーマルデ・ロイデンの攻撃がこうも簡単にエレメンに届くなど、あってはならない事だった。

それどころか、この大鎧は常識を超えた動きを見せている。

今までのは何だったのだと言う疑問も沸くが、アンガムはその光景に、ただの一時の現象である事や限界があるとは、今度は楽観視しなかった。


「全力で攻撃しろ」


その合図で、その場に居る全員が大鎧目掛けて魔法攻撃を放ったが、図体に見合わぬ速度で素早く移動して、その全てをかわす。

何より驚くべきことは、自分たちでさえも空中に浮かぶのがせいぜいと言うのに、大鎧は空中で自在に動ける事であった。

これは自分の操るフォービ並と言っていいだろう。

そうこうしている内に、肉薄してきた大鎧が仲間数人を大槌で薙ぎ払う。

その内の一人は生身であった為に即死したが、それだけでは済まされなかった。

攻撃を受けた連中は肉片と言っていい程にバラバラになった為、エレメンによる補強がされた者でさえ簡単に限界を迎えて消滅、エレメンごと葬り去られる。


「チィィッ」


盤石と思われていた状況がひっくり返り、更には対価を払ってまで用意した戦力に尚も損失を受けた事でアンガムは苛立った。

いや、動揺していたのかもしれない。

味方が周りにいるのも構わずに、彼はフォービを空中に呼び寄せると、最大級の攻撃を周囲に撒き散らす。

途端に上がる悲鳴と怒号。

だが、その炎の攻撃は長続きせず、突進してきた大鎧によって又もや中断される。


「火遊びしか芸がないとは、全く持って歯ごたえなし。 ブラットン!!」


空中では大した攻撃力を持たないと思われた同じ技は、予想以上の攻撃力を持ってフォービを叩きのめし、地面へと再び叩きつける。そして、更に追撃の一撃が見舞われた。


「ギオオオオオ!」


初めて聞くフォービの悲鳴に、アンガムは目を剥いた。




「何だ?どうなっている?」


危機的状況から一転、急に反撃を開始したハルタ達にフォーメルは理解が追いつかない。

あれ程苦戦していたと言うのに、今は一方的なのだから仕方が無いだろう。

そう言った彼の上半身は黒く煤けており、髪はチリチリになっていた。

ファルラースの爆発を何とか防いだが、完全とは行かなかったのだ。

それだけで、如何に例の魔法攻撃が強力であったかが分かる。


「あれは・・・リディ?」


その背後で無傷のマツリカが呟く。

当然の様に、彼女はロズッテを含む魔装騎士たちを盾として、魔力の暴発から逃れたのだ。傍らには、両の膝と腕を付いて粗い呼吸をするロズッテが居た。


「知っているのか。 一体、何が起きている?」


フォーメルが問いただすが、マツリカは首を振ってそれを返事とする。

その通りなのであろうが、フォーメルはどこか納得が行かなかった。

納得行かなかったが、今はアーマルデ・ロイデンらに掛けるしかないのも事実だ。

それ故、マツリカが次に言った言葉、「私の周囲を囲んで防御しろ」に黙って従う。

魔装騎士たちが周囲を囲んで魔法防御を敷いたのを確認してから、マツリカは静かに力の開放準備に入った。

リディとハルタに何があったか・・・・いや、自分と同じ事をしたとは考えられない、考えたく無かったが、万が一と言う事もあったので切り札の準備をしようと考えたのだ。



 リディの突然の反撃にターナもイユキも戸惑う。

力の解放をしたのだと単純に考えたのだが、幾らなんでも早すぎるし、それに攻撃を受けながらどうやって集中できたのか疑問だった。

彼女たちの力の解放というのは、結局の所、少ないハルタの血を全身に細々と巡らせ、それによって能力を強化する物だった。

ハルタの血が、なぜ自分たちをこれだけ強くするのかターナは深く考えた事は無かったが、使い方だけは最初に仲間になっただけに良く知っているつもりだった。

彼女たちを構成する大部分は魔力が占めており、それが体や力を形成する物であったが、それらはどこか不定形で頼りがなく、少しの事で直ぐに揺らいだり形が崩れそうになる物だった。

それ故、そのままであれば形を保つ方に力の大部分が取られてしまうのだが、ハルタの血は、その形状維持を魔力とは別に強固に保持する力があった。

それも、体を維持するだけならば、一切の対価を払わずにだ。

彼の血は、ターナらが人として姿を保つのを意識せずとも補い、それ故に力を他に振り分け活かす事ができたのだ。文字通り、ハルタの血だけで血肉を得られていると言っても良い。

それ故に、体の維持をハルタの血に依存する事で、他の力へと魔力等を全振りして能力を高めると言った芸当もできた。

ただし、魔力を他へ全振りすると言う行為自体、"彼女たちの特性"によって制限がある為、そのままだと大した力とはならない。

しかしハルタの血を使えば、その制限さえも解除する事ができた。

制限解除には、できる限り体の全体に血を巡らせる必要があるのだが、その場合にも意図しない形で消費すると言う問題がある上に、ちょっとした動作にも気をつけないと著しく消費してしまう。

言わば燃費が悪いのだ。

当初は、その制限解除に使うハルタの血も微々たる物で絶大な効果を得てはいたのだが、最近ではその消費量の一回一回が多くなっていた為、ヒューマス相手には控える事にしたのだ。

控えると言うと簡単だが、実際には使わない様にする為に体の奥底に封じる為、再度引き出すには大変でもあった。

特に、残り少ない血を全身に張り巡らせるとなると、かなりの時間と集中力が必要とされる。

焦れば力んで血を無駄に消費するし、かと言って安全にやろうと思えば時間が物凄くかかる。

それらを考えれば、あの激しい攻撃の中で、しかも限られた時間で力を開放できたのにターナは驚いたのだ。

ただしイユキだけは、突然変わったリディの動きに見覚えがあったので、ある程度の見当をつけてはいた。


 地面に叩きつけられ、更に二度三度と追撃を叩き込まれたフォービが地面にめり込む。それでも尚、大鎧こと魔導戦士ガレスタは手を緩める事はなかった。

一撃毎にいちいち大槌を回転させて持ち変えると、どの程度効果があるのかは分からないが、その反動も利用して連続でフォービに撃ち込む。

普通なら絶命しているか肉塊に変わっても良い攻撃なのだが、流石に強力なエレメンでもある証拠か、見た目にはダメージを負っている様子はなく、それどころか藻掻きながらも抵抗を止める気配がない。

時折、上空のアンガムたちからも援護の攻撃が放たれるが、その度にガレスタは大槌をフォービに押し当てて地面を抉って回避し、隙きを付いて大槌を投げ飛ばす。

投げ飛ばされた大槌は遠心力がついた運動をするとは言え、魔力糸で繋がれている為に嫌らしい軌道を描いてアンガムたちに襲いかかり、空振っても持ち主の手に正確に収まって次の攻撃へと備える。

しかも、大槌を手放すと大鎧は今度は四肢を使って蹴りや拳打を叩き込み、やはりフォービを逃さない。

何より、あの巨体と質量に見合わない俊敏な動きその物が武器となって、フォービの動きを封じ込める。


「この野郎!」


絶対的な有利にあったのが一転、反撃を受けた上にこちらの攻撃を全て弾き返す相手に、今度はアンガムが感情的になる。


(こうなったら、全力で潰すか?)


歯ぎしりをしながら、彼は自身の拘束具に似た部分に手をかけた。

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