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俺のLVは上がらないのに、  作者: 松戸真 寿司
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~謎の勢力~ -26. 天敵襲来 その11





フォービの攻撃が俺とリディに降り注ぎ、炎のムチが進路上に繰り出される。

その全てをかわす事はできないので、幾つかを敢えて受け止めながら強引に回避する。

あれから少しだけ俺は余裕を持つことができた。

というのも、見かねたリディが自ら動く事を選んでくれたからだ。

大丈夫なのかと聞いたのだが、彼女は何も答えてはくれなかった。

秘密と言うのが何かは分からないが、出し惜しみするって事は何らかの消耗、或いは望まない変化を彼女が受けている可能性もある。

だとしたら無理するなと言いたいのだが、この状況ではそうも言ってられない。

ともかくリディの協力で余裕が生まれた俺は、それを観察する時間に当てる。

しかし、見れば見るほどに、アンガムには隙きが無い。

そして、それはマツリカたちの方でも同じと言えるだろう。


 相手の攻撃が自分たちに届くと言う事実を受け止めたエレメンタリスたちは、早々に認識を改めると、それに対応した戦い方にシフトしていた。

これまで独立させて攻撃させていたエレメンを、自分たちの前面に固定したのだ。

マツリカの見切りをエレメンタリスたちは理解した分けではなかったが、単にアーマルデ・ロイデンがエレメンは倒せないと言う事実だけでそうしいてた。

そして、その選択は有利に働く。

エレメンが前面に来る事によって、エレメンタリスたちの纏う蜃気楼状の防壁から見える魔力流が確認し難くなり、状況は振り出しに戻っていたのだ。

その方法は魔装騎士にエレメンが狙われ易いと言うリスクも増大させていたが、彼らの技量はそれを十分に補う。

実際、フォーメルたちの攻撃は尽くかわされ、いなされ、全て空振りに終わった。

これが良く訓練され、同調率の高い魔装騎士であったなら多少は結果が違ったかと言うと、それも疑問が残るだろう。

それ程、連中の戦闘力は高いのだ。

 少しの希望さえも、その上を尽く行く敵が全て塗りつぶして行く。

その現実に、全ての者が段々と勝ち目が無いと自ら敗北感に似た雰囲気を滲ませる。

特に、フォーメル以外の魔装騎士たちは詳しい事情を知らないだけに、なぜ自分たちがアーマルデ・ロイデン如きに命を張らなければならないのか、と言う不満も持っていたので尚更だ。

彼らは、"ハルタがアーマルデ・ロイデンの力も使える勇者"と言う説明しか受けておらず、異世界から来たかもしれない者と言う事は知らされていない。

知った所で余計に混乱するだけかも知れないが、それでも多くの疑問を持ったままだった。

勇者など、現在からすれば時代遅れであり、それはアーマルデ・ロイデンの力を複合的に使えたとて同じ事だった。

フォーメルからは、ハルタの未知数とも言える力に関しても言及はされてはいたが、実際には説明した本人でさえも憶測で話している部分があるので、誰もが納得していない。

むしろ、正体の一つが分かった事で納得すると同時に、落胆に似た様な感覚を覚えた者が殆どとも言えた。

それは、セイレアヌがフォーメルから話を聞かされた時と同じ反応とも言えるだろう。

 しかし、一方で希望や葛藤に似た様な感情を抱いた事も確かだ。

よく知られているアーマルデ・ロイデンは、人形の様に不格好で気味が悪いと聞かされてきたが、連中は限りなくヒューマスに近く、下手をしたら普通の女性よりも美しかった。

ただ、同時にそれは邪神化した存在では無いかと疑いも抱かずにはいられない。

とは言え、この危機的局面にあって、打破してみせたと言う事実があるのも確かだった。

実際、二人の敵を倒したのは、自分たちの背後で守られているアーマルデ・ロイデンだ。

そして、ハイド・エレメンから守ってくれたのも、結局は大鎧のアーマルデ・ロイデンである。

 当初、フォーメルにより逃げる選択肢も出されていたのに、それを断って一緒に戦い、間違いなく突破口を開かんとしている。

恐らく彼らが居なければ、自分たちは確実に死んでいたであろう。

その矛盾さもあってか、魔装騎士たちは危うい気持ちで敵と相対していた。


「お前ら、余計な事を考えるな。 集中しろ」


と、そぞろになり始めていた心をまるで見透かしたかの様に、アーマルデ・ロイデンから叱責が飛び魔装騎士たちがハッとする。

彼らの中には、やはり「たかがアーマルデ・ロイデン」と言う意識があった為、心情を読み取るかの様な発言に改めて驚かされる。

 故に単純な疑問が湧く。

このアーマルデ・ロイデンは、本当に大丈夫なのか?

フォーメルから幾つか説明は受け、問題の無い存在だとは聞かされてはいたのだが、やはり邪神と言うキーワードが浮上してくる。

邪神化したアーマルデ・ロイデンは恐ろしく危険だと言う。

 通常、アーマルデ・ロイデンは使役者を失えば停止するが、邪神化した物は止まる事が無い。

それどころか、更に独自の成長を遂げて文字通りに邪神の如くの強さになるという。

過去において、これら邪神化したアーマルデ・ロイデンがどの様にして倒されたかは伝わってはいないが、少なくとも複数の国がそれによって消滅したと言う話もある程だ。

もし、ここで、自分らが守っているアーマルデ・ロイデンが暴走して邪神化の要素を発揮したら、レパンドルは滅亡の危機に晒されるだろう。

例え邪神化せずとも、目の前にはハイド・エレメンタリスが居る。

ここで負けてしまえば、どの道辿る運命は同じだ。

どっちに転んだとしても、最悪な事態が待っていると言う不安が伸し掛かっていた。


「おい、お前」


そんな中、一人の魔装騎士がマツリカに襟首を掴まれて、引き寄せられた。


「手を貸せ」


「??」


行き成りの提案に、その魔装騎士は戸惑う。正直、防御で手一杯なのに、これ以上何をさせるつもりなのか。

そもそも、何故自分なのか。

 彼の名はロズッテ・ササルス。このメンバー内だけでなく、魔装騎士全体から見てもまだ若く、来年ようやく二十歳になるかと言う存在だった。

ロズッテは適性試験を受けた際、ある一つの魔法武器と極めて同調率が高いとされ、引き抜かれた兵士である。

元々、彼は国王軍の一員であり、特に何かが優れていた分けでも、得意なセンスを持ち合わせていた分けでもない。

魔装騎士になる以前は、いわゆる雑兵の類でもあった。

実際、ロズッテ自身もそれは強く自覚しており、魔装騎士へ入団する様に命令を受けた時には死ぬほど驚いた物だ。

彼が兵士をやっている理由は、両親を失い行く宛も働く場所も無かった為、兵士募集を丁度見て来ただけと言う、ごく単純なものだった。

それ故、当初から国の為とか、己の信念や誇りを持って戦うと言う意識に欠けていたのだが、彼が入団した頃にはそれでも良かったと言える。

小競り合いこそあれ戦争はどこか遠くの話であり、彼の様に兵士としての資質に劣る者であっても、雑用係として平時においては重宝されていたのだ。

そして、ロズッテ自身もそれで良いと思っていた。

 他にも適任は居るはずなのに。

魔槍騎士に引き抜かれた時、それが彼の正直な気持ちであり、そうした気持ちもあってか、日々、何とか騎士団に喰らいついて行くのが精一杯な時間を過ごしてきた。

何度も退団を申し出た事もあったが、同調率が極めて高いのは貴重であるとされ、結局、ここまで来てしまったのだ。

そして、今現在においても、本当は怖くて逃げ出したいと言うのが彼の本音である。

その自分に手を貸せなど、このアーマルデ・ロイデンは何を考えているのか。


「む、無理だ。 僕じゃ、力になれない。フォーメル隊長を・・・」


「その隊長ってのは防御の要だ。外せない。 そして、お前がこの中で一番余計な事を考えずに、敵に対して集中している。 だから力を借りるぞ」


そう言って、マツリカは強引にロズッテを防御陣の中に引っ張り込んだ。

意外と強い力に抱き寄せられた上に、強引に屈まされた事にロズッテは動揺する。

アーマルデ・ロイデンに良いようにされていると言う屈辱と、一見すると小柄で非力そうな相手に、こうも簡単に手繰り寄せられた恥ずかしさがあったからだ。

だが、改めてそのアーマルデ・ロイデンを見たロズッテは、一瞬、ドキッとした。

無骨な鎧を身にまとっているのと、アーマルデ・ロイデンと言う偏見の目で見ていた為に気にもかけなかったが、その顔はロズッテがこれまで見たことも無い様な可愛らしさと美しさを持っていた。

騎士団長であるセイレアヌ姫も美人と言った類に入るが、そのアーマルデ・ロイデンは、それらの基本は当たり前の様に持つ上に、どこか神秘的な魅力を持ち合わせている。

そう言えば、邪神化したアーマルデ・ロイデンは人に限りなく近づき、それすら超えて危険な存在になるとも言われているが、この魅力もその一つに入るのであろうか。

などとボーッと見とれていたロズッテの耳を、マツリカが引っ張って口元に寄せる。


「アイタタタ。な、何を」


「黙って聞け。 次のタイミングで突っ込む。 ギリギリでお前を前に出すから、エレメンを始末しろ」


「は? はぁ!? む、無理だよ。僕にはできないよ」


「無理だろうと何だろうと、やるんだよ。 このまま全滅するのを待つつもりか!?」


怒りの目を向けるマツリカに、ロズッテは萎縮したが、その顔と瞳から目を逸らす事は無かった。後から考えれば、見とれていたのかもしれない。


「わ、分かった。何とかやってみるよ・・・・」


「よし、良いぞ。覚悟を決めろ」


そう言って、マツリカはロズッテの腰あたりを掴み、背後に隠す様にして構えた。


 ロズッテとアーマルデ・ロイデンが何事かをやっているのは分かっていたが、フォーメルや他の魔装騎士たちはそれどころではなかった。

しかし、何かしらの打破を試みようとしているのだけは分かる。

何やらフォーメルの名前や、この中でロズッテが集中しているどうのと言う会話がハッキリと聞こえたが、捉えようによっては自分たちの中で一番気持ちを保っているのがロズッテとも言われている気がして、全員が複雑な気持ちになる。

何せ、ロズッテはある意味で人数合わせで引き連れてきたとも言え、魔法武器の同調率はかなりの物であったが、如何せん臆病で覇気に乏しく、魔装騎士以前に戦士としての資質に乏しい。

連れて来たのも国王軍からもあまり派閥的に当てにされておらず、限りなく中立に近いと言うのが最大の理由でもあったからだ。

その半人前でどうするのかと疑問に思ったが、今は任せるしか無い。

何せ、敵の攻撃はより激しくなって来た為、余計な口出しをする余裕もいよいよ無くなってきたからだ。

敵は恐らくその様に仕掛けていたのだろう。

相手が縮こまったと見るや、一人が停止して何かしらの溜めに入る。

フォーメルを含む魔装騎士達は、それを凌ぐ自信は無かった。

 しかし、人数が減ったと言う僅かな隙きをマツリカも見逃しはしない。

敵はまだ4人居るとは言え、流石にその人数で完全な連携を保つのは難しいらしい。

故に、どうしても穴が開く。

それを補う為、彼らは輪形陣を敷く相手に高速で周囲を回りながら、断続的に攻撃を放ってはいたのだが、やはり全てをカバーし切るのは無理があった。

無論、それは本当に僅かな隙きでしか無かったのだが、マツリカには既に見破られていたのだ。


「今だ」


誰に聞こえるともなく声を発したマツリカは、丁度正面に敵が来るというタイミングで突っ込んだ。

案の定、敵はエレメンで直様対応しようとしたが、そこへ背後に捕まえておいたロズッテを無理やり前に振り出すと、殆ど彼女の裁量でエレメンへとぶつけられる。

 ロズッテも必死だった。

殆ど道具と言った扱いで投げ飛ばされるに近い形で放り出されたら、眼前には直ぐに敵が迫っていたからだ。

それに対して必死に魔法武器を繰り出し、そして手順通りに対エレメンの攻撃手段を取った。

その結果、エレメンは僅かにその存在に大穴を空けて固まる。

普通の魔装騎士ならば、この一撃で倒す事ができただろう。

或いは、彼が戦士としての自覚を強く持っていたなら、少しは結果は変わった可能性もある。

だがロズッテの、いや二流の魔装騎士と一流のエレメンタリスでは、その結果が全てであった。

攻撃自体は不発と言って良かったのだが、ロズッテは驚く相手の顔をじっくりと拝む事になり、次の瞬間には怒り狂った反撃を受けようとする。

しかし、その攻撃はロズッテに届くことはなかった。

 攻撃を受けて固まったエレメンに変わり、敵は自前の獲物を繰り出して反撃してきた。

咄嗟の事にも関わらず、そこには無駄が一切なく、普通ならロズッテは殺されていただろう。

普通で無かったのは、アーマルデ・ロイデンの娘がその攻撃を弾き、更にはロズッテを完全にもう一つの武器として扱うと、エレメンタリスの防御をいとも簡単に破って中に踏み込み、そのまま相手を切り捨ててしまったのだ。

更に間髪入れずに大技を繰り出そうとする方へと、ロズッテを引っ張ったまま突っ込む。

それを見た牽制中の一人が追撃に入ろうとしたが、それを許す程フォーメルたちも間抜けではない。

 フォーメルは近くに居た誰とも確認せぬ仲間に肘で突いて合図を送ると、自身も周りを飛び回る相手に飛びかかり、それと交差する形で別の魔槍騎士がアーマルデ・ロイデンを追いかけた敵の背後に迫る。

それに気がついたエレメンタリスは、それぞれ迎撃を開始。魔装騎士たちの反撃は食い止められた。

だが、同時にマツリカへのマークは完全に外れてしまう。

それでも、全てがフォーメルたちに有利に働いたとは言えなかった。

 溜めに入っていたエレメンタリスが、既に充填し終えたのか或いは途中でも発射する事ができたのか、迫るマツリカに対して強力な炎のエネルギー球を前面へと展開した。

それはフォービの物とは比べるべくも無かったが、見た目でも十分な攻撃力を持っている事が分かる。

そして、今まさに発射せんとしようとしたその時、マツリカはロズッテを思いっきりそのエレメンタリスへと投げつけた。


「わあああ!?」


ロズッテは恐怖と驚きが入り混じりながら悲鳴を上げていたが、同時に地面スレスレを飛ぶという妙な感覚を味わう。

魔法武器を使えば似たような移動ができるが、それは魔力と言う媒体が一種の遮蔽物にもなっているので、どちらかと言うと何かに乗って移動していると言う感覚に近い。

しかし、今の状態は完全に風圧や流れと言った物がもろに影響してきて、自分で飛んでいると言う感覚にすらなる。何と言う馬鹿力か。

もっとも、そうした事は一瞬であった。

あっと言う間に敵に迫ると、その攻撃をロズッテは一身に受ける事になる。


「うおおお!」


強力な魔力に裏打ちされた炎の流れが彼を遅い、ジリジリと防御ごと燃えつくさんとする。

それに対して必死に魔法防御を展開するが、自分でも抵抗力が足りない事を実感し、死を覚悟した。


「もらった!」


ロズッテを投げつけた直後、彼の後ろに隠れていたマツリカは、敵が攻撃を放った瞬間に飛び上がり、そのまま上から斬りつける。

自分の攻撃の発動と、それを防ごうとする魔装騎士に手一杯となったそのエレメンタリスは、流石にこの二段攻撃には対処できない。

何せ、大技を放つ起点がエレメンともなっていた為、それ自体も動かす事ができなかったからだ。

例え、そのエレメンを動かしてマツリカを迎撃出来たとしても、今度は魔装騎士に攻撃されていただろう。

飛び出す際、多少の魔法攻撃によるダメージをマツリカも喰らいはしたが、相手を斬り伏せた事によって攻撃が中断された為、最小限の被害に済ませられる。

 残り二人。

人数で見れば完全に戦局は逆転したはずだった。

しかし、残った二人のエレメンタリスは慌てない。

速射系のそれも広範囲に影響を及ぼせる攻撃をエレメンに放たせると、自分たちは十分に距離を取って仕切り直す。

そして、二人で何事かの短いやり取りをした。

その直後、一人はエレメンと独立して動いて魔装騎士たちを牽制し、もう一人は猛然とマツリカに攻撃を仕掛けてきた。

実に単純な動作ではあったが、彼らの動きは計算されており、魔装騎士たちがアーマルデ・ロイデンを守る陣形を構築させない様にする。

これによって、マツリカは再び動きを封じられ、魔装騎士たちも迂闊には移動できなくなってしまう。

数が少なくなった事により、かえって使えるスペースが広くなったのか、前よりも攻撃は激しくなった。

残り二人であっても連中の強さは今だに健在であり、何より忘れては行けないのは、ハイド・エレメンタリスのアンガムがまだ居る。そして、砦の外にもまだ敵は居るのだ。

数人を倒して危機も何度か脱した様に見えるが、不利な状況はまだ続いていた。


攻撃を継続しつつも、アンガムは状況を見ていた。

既に仲間が四人も倒され、予想に反した戦果を上げる相手にムカつきを覚えると同時に、アーマルデ・ロイデンの力を改めて実感する。

過去に戦った事のある相手は僅か二体のアーマルデ・ロイデンしか引き連れておらず、しかも見た目も如何にも人形と言った形で話にもならない相手だったが、今回の敵は明らかに違っていた。

大鎧や六本腕と言った変わり種もそうだが、ヒューマスに近い姿とその人数を見るに、相当質の高い準備で人化させたか、或いは何か特別な改善を行った存在の可能性も出てきた。

下手をすると噂に聞く邪神化と言うワードも浮かんだが、それにしては非力過ぎるのが気になる。

 どこの所属、或いは何者かの仕業か知らないが、今更な兵種を出して来たと言う事は、これ自体に何かの意図があるのかも知れない。

そして、自分たちはその実験に突き合わされている可能性もある。

そんな裏読みまでしたアンガムだったが、正直勝つこと以外にあまり興味はなかった。

所詮、自分たちは傭兵であり上には上が居るこの世界では、そうした事を考えるとキリがないのだ。

しかし、それだけに目の前の芳しくない事態を、どうにかしなければならないとも思った。


「厄介だな」


動きが変わった大鎧を眺めつつ、アンガムは他人事の様に呟く。

あれから大鎧は動きを止めると言う事が無くなったが、それでも大した変化は見られない。

急に動きが良くなる事はあるが、それも全て想定の範囲内だ。

故に、アンガムは全く別の事を考えていた。


(切り札を一つ切るか?)


アーマルデ・ロイデンなどまだ敵では無いと考えていたアンガムだったが、予想以上に苦戦している事は事実として受け止めていた。

もっとも、本気を出せば勝負は一瞬で着くと考えていたので、苦戦と言ってもそれは彼の采配一つにかかっていると良いだろう。


「ま、今回は多少の負けを認めてやるか。 いや、丁度いい機会と考えるべきか」


そう言うと、アンガムは自嘲気味に笑った。


 フォービの攻撃を必死になって回避していた俺たちだったが、その攻撃が僅かに緩んだ為に空を思わず仰ぎ見た。

すると、フォービが何かの魔法陣を展開しているのが見える。いや、アンガムも一緒に何かをしていた。

上空へと展開された魔法陣は一定の高さに登ると大きく広がり、そして全体を照らす様な形となる。

直後、残りのエレメンタリスたちが動きを変え、魔装騎士とマツリカたちを合流させるように誘導する様な形を取った。

(もしかしたら、一網打尽にするつもりなのか?)

また新たな攻撃かと身構える俺たちだったが、それは攻撃の為のものでは無かった。

何故なら、直後に"死んだはず"の四人の敵が起き上がったからだ。


「な!? 復活しただと!」


目の前の光景に、流石にマツリカからも驚きの声があがる。


「どうなってんだ!?」


敵に回答を求める代わりに、彼女はロズッテの胸ぐらを掴んで質問する。


「・・・これが、ハイド・エレメンタリスの恐ろしさの一つだ」


変わって答えたのは、フォーメルだ。


「どういう事だ!?」


「契約しているエレメンを媒体にして、死んだ者を蘇らせたのだ。 幾つかヒューマスとしての身体機能は失うし、エレメンその物が最大の弱点ともなるが、同時に人としてのタガも外れる。 今度こそ、俺達は駄目かもしれん」


フォーメルの顔からは、無数の汗が吹き出していた。

それは、単に敵の熱攻撃による物だけではないのは明らかだ。


「そんな便利な物、何で出し惜しみしてんだ」


「当然だが、簡単に使えない理由がある。 これだけ強力な技を使えば、エレメンタリスも体の一部か精神をエレメンに差し出さなければならない。 脆弱な使い手なら、持っていかれる量をコントロールできず、それだけで発狂するか痛みに耐えられずに狂い死にする事だってある。 だが、平気で使えるってことは、やはりあの男はハイド・エレメンタリスって事なのだ」


「分かったようで、分からん」


敵に囲まれながらも、マツリカは尚も強気に悪態をついた。

尚も彼女から文句を浴びせられるフォーメルであったが、彼は危惧していた事が現実に起ころうとしていた事に危機感を覚え、それらは一切耳に入ってこない様子だった。


(全体の練度の高さからして、まさかとは思っていたが、本当にやりやがった)


もし、フォーメルが考えている通りであるなら、敵の切り札はハイド・エレメンタリスだけに留まらず、今し方復活した連中さえも対象となってくる恐れが出てきた。

エレメンタリスの一番の恐ろしいところは、エレメンを依代として人間を超越できる融合と言う能力にある。

その力は現存する魔王と呼ばれる存在にすら匹敵すると言われていた。

恐らくだが、復活させられた連中はハイド・エレメンタリスのそれと比べれば多少は劣るだろうが、アーマルデ・ロイデンを含めて、自分たちで太刀打ちするのは不可能だろう。

ただ、それをやるにしても、ハイド・エレメンタリスは再び代償を支払わなければならない。

既に復活と言う力で自らの一部を差し出したのだとしたら、普通はこれで終わりにしてくれるはずだ・・・・

いや、わざわざ復活させたと言う事は、次のそれをやる準備をしたと思った方が現実的か。

そして、あのアンガムとか言うハイド・エレメンタリスは、そうした事を最小限の犠牲だけで済ませられる能力を持っているのだろう。

自分の考えている様な甘い展開に、向こうが合わせてくれる道理もない。

 にしても、西側のこれだけ強力な兵力を呼び込むと言う事は、シーゼスの連中は本気で東側諸国の征服を狙っているとでも言うのだろうか。

だとしても、こんな危険な連中を要する所とは一体どこだ?

どこと手を結んだかは知らないが、これではシーゼスとて寝首を搔かれる恐れがあるだろうに。

或いは、全くそれらと無関係で動いているのか。

 様々な可能性と不安、疑問と懸念がフォーメルの頭を占めようとしたが、彼はそれを短い気合を発してかき消した。

ともかく、今は生き残らなければならない。

その為の可能性がある者としては、やはりアーマルデ・ロイデンとハルタであろう。

そう結論に至る物の、フォーメルにも実際のところは打開策は見えて来ない。

ハルタの切り札と言うのも確かに凄い事は凄いのだが、決定打に欠けている。

そして、相手も切り札を残しているのだ。

冷静に見れば見る程、自分たちが生き残る可能性は少ない。


 復活した敵はどこか虚ろで生気が無く、こちらを認識しているのかすら怪しいまま、ずっとフラフラとしている。

ただし、殺気の様な物を常時放っていて、危険な存在である事だけは分かった。

それどころか、徐々に体に気の様な物が張り巡らされて行くのが分かり、それが行き渡ったら更に不味い事になると誰もが感じる。

しかし逆を言えば、今なら付け入る隙きがあるとも言えるだろう。

 それを見取ったマツリカは、ロズッテを引っ張って再び攻撃を仕掛ける。

案の定、敵は動きが鈍く、マツリカの攻撃は蜃気楼の防御を割いて本体にダメージを与えた。

マツリカも様子見で切り込んだ為か、相手は真っ二つではなく、ある程度の損傷に止められる。

それでも、普通なら即死と言って良い程に、見た目には綺麗に切り裂かれた。

更に追撃を食らわそうと構えたマツリカだったが、次の瞬間、その相手の口から炎が吹き出される。

間一髪、背後に控えていたロズッテを前にぶん回して盾代わりとすると、マツリカは、その攻撃を防がせた。

が、そのロズッテが悲鳴を上げる。


「うあああああ!」


魔素を含んだ炎は、火のエネルギーに更に出鱈目な運動エネルギーを与えてロズッテたちを襲ったが、その力は明らかに増幅されていた。

武器を構える腕には異常な負荷がかかり、正に激流を生身で受け止める事となったロズッテは、全力で踏ん張らなければならなくなる。

しかし、それでも攻撃を食い止めるには足りない。

ジリジリと体ごと押されるのと同時に、敵の攻撃はロズッテの魔法防御も削り始めたのだ。


「こ、こんな・・・」


武器の先端がブルブルと振動し、体もそれに持って行かれそうになるが、それでも彼は必死に堪らえて見せていた。


「魔力を制御しろ、鋭角に保て。 受けるんじゃなくて、切り裂け!」


マツリカの発した声に弾かれる様にしてロズッテは動いた。

頭では、それだと全体が防御できないと考えたが、体の方は本能的に動く。

すると、敵の激流と言える攻撃の負荷がある程度軽減され、武器の振動が無くなって少なくとも保持する余裕は確保できた。

だが同時に、狭まれた防御によって体の両側がジリジリと熱せられて行く。

このままでは、どの道長くは持たないだろう。


「こ、これから、どうするんですか?」


「攻撃が止むまで待つ」


「持たないよ。 その前に僕が死ぬ」


「私は一向にかまわん」


「ひえっ!」


本気なのか冗談なのか分からない返事を背中越しに聞いたロズッテは、そのまま身動きできずに、ただただ敵の攻撃を受け続けるしか無かった。

どの道この状態から抜け出す方法があるとしたら、確かに敵の攻撃が止むまで待つしか無い。

もっとも、既に色々と限界に達しようとしていたロズッテでは、生き残れそうに無いと彼は覚悟を決める。

集中していた事もあるのだろうが、不思議と彼は恐怖や焦りを感じなかった。

しかし、それは背後のアーマルデ・ロイデンが何とかしてくれると言う期待があったのも確かだ。

 その期待通りに、マツリカは反撃の機会を伺っていた。

敵の攻撃は確かに強力であったが、魔力の流れに関していば逆に大雑把になっている。

魔法が何であるかはマツリカも理解はしていなかったが、少なくとも魔力の流れを感じ取る事はできた。

そして、その感覚で敵の攻撃には、大きな魔力の隙間があるのを見抜く。

そこには、ただの炎と魔力によって力を与えられた炎が混在していおり、ある程度のパターンを持って流れていた。

そのタイミングに合わせて打って出れば、恐らく反撃する機会を作れるだろう。

とは言え、それは言うほど簡単な事ではない。

それは雨が強くなったり弱くなったりしている状態にも例えられ、どの様にしても少なくないダメージを負うのだ。

要は、今ある状況でもっともマシな手段を取ろうとしているに過ぎない。

この手段も、どの程度効果が軽減するかは未知数であり、下手をしたら、一瞬で蒸発する可能性すらあった。

ただ、そうならない為の手段も講じてから打って出るつもりなので、みすみすやられる気も彼女にはない。


「・・・お前、名前は?」


「え、ロ、ロズッテ。 ロズッテ・ササルス」


「ササルス、次のタイミングで私は反撃に出る。 だが、上手く行くとは限らん。だから、お前も相手の隙きを見逃すな。いいな」


「あ、ああ・・・」


突然名前で呼ばれたロズッテは一瞬だけ動揺したが、マツリカの覚悟を決めた様な言葉にむしろ集中力を高めた。

彼女が何時頃誕生したかは分からないが、勇者の外見だけで判断すれば、少なくとも自分よりは年下のはずだ。

それなのに年上の様な発言と振る舞いを取る事に、ロズッテは彼女をどこかしら下に見ていた事が恥ずかしくなってきた。

いや、アーマルデ・ロイデンにこんな考えを持つ事自体、誰かが聞けば笑う事なのだろう。

それでも、今のロズッテにとって、この状況においてマツリカは唯一の希望であり、そして仲間として認めざる得ない相手となっていた。


「今だ!」


瞬間、マツリカは体を半回転させて炎の攻撃に斬撃を浴びせると、本当に僅かな切れ目を生み出して見せる。

そして、その切れ目に彼女は両腕をクロスさせて突っ込んでいった。

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