~謎の勢力~ -24. 天敵襲来 その9
フォービから繰り出される複数の火炎弾を、ターナがイユキを抱えながら回避する。
その場での思い付きか知らないが、これは上手い連携だと俺は思った。
ターナはスピードは速いが防御力が弱く、イユキはその逆である為、互いに弱点を補っている様に見える。
ただ、裏を返せば苦し紛れの戦法と見る事もできるだろう。
実際、イユキを抱える事でターナの機動力はある程度削がれてしまっているし、イユキもターナに足を任せる事で独立した動きができず、実質的な戦力が1プラス1イコール2ではなく、1になってしまっている。
しかし、牽制という意味では機能している事も確かなので、今はこれ以上の手立を望むこともできない。
何せ、向こうは7つも首があるのだ。
単純な数でも上回っている為、むしろ協力した方が最良の手段でもある。
ただ問題なのは、フォービも単純に攻撃を仕掛けている分けじゃ無いことだ。
七つの首の内、二つが何やら溜めらしき動作を行っている。恐らくは、俺達に最初に食らわせた広範囲攻撃の準備をしているのだろう。
最初の物よりも長い気がするのだが、もしかしたら威力を上げているか、もっと強力な新しい攻撃手段を用意しているのかもしれない。
あれ以上の攻撃を繰り出されたら、今度こそ犠牲者が出る可能性もある。
その前に手を打たなければならないのだが、更に不味い展開が加わった。
相対するターナとイユキに対して、アンガムから炎のムチの様な物が放たれて襲ってきたのだ。
点ではなく面に近いその攻撃は、彼女たちの行動範囲を明らかに狭め、攻撃を回避ではなく受け止めさせてしまう。
そこへフォービの火炎弾が迫ったのだが、ギリギリでターナが回避して直撃を何とか避ける。
パターンを変えたって事は、明らかに何かを狙っているって事だ。
それにしたって、あのアンガムって奴は反則だろ。
特殊なエレメンを使うだけでなく、強力な魔法攻撃まで繰り出す事ができるなんて、どんなチート野郎だ。
だが、危機的状況はそれだけに留まらない。
見れば、マツリカの方も苦戦を強いられていた。
超高速と言える程に剣を繰り出し、ファエルエラに対して斬撃を浴びせるが、やはりあまり効果がなく、一瞬だけ相手は止まる様子を見せただけで次の瞬間には反撃してくる。
前と違っているのは、その反撃をフォーメルたち魔装騎士が間に入って防いでいる事であり、こちらも示し合わせた分けでは無いだろうに連携が取れていた。
もっとも、それは敵側も同じであり、魔装騎士たちがエレメンを攻撃しようとすると、必ずエレメンタリスらが妨害を行う。
戦いは、ある程度のまとまりを見せつつあるが、俺たちが不利である事には変わりがなかった。
ファエルエラを操るエレメンタリスは、それぞれショートソードやナイフ、レイピアの様な物を持って積極的に接近戦を仕掛けてもくる。
これらに対して魔装騎士なら有利になるかと思ったのだが、連中は戦士としても単純に強いらしく、魔装騎士相手に互角以上に渡り合うなど、こっちも反則と言える強さを持っていた。
ディナードを操っていた連中は術を使うのに手一杯って感じだったのに、コイツらはそうした面も克服している様だ。
よって、マツリカの攻撃も連中には通じない。
何より、最初のエレメンタリス達が、移動する時は蜃気楼の防御を張れなかったのに対し、今相対している連中は当たり前の様にまとっている。
これだけでも、十分に実力差と言うのが分かるってもんだ。
また憶測でしかないが、恐らく魔法によって身体的な強化も行っているのだろう。
魔法による直接攻撃は魔装騎士に対しては効果は無くても、間接的な使用による物理的な作用はむしろ有効と見える。
説明すると簡単だが、強力な武器を持った相手に、しかも魔法の補正を持つ者に対し、幾ら肉体を強化したとは言え通常の武器で立ち向かうのは容易い事ではないはずだ。
その点を取っても、敵が如何に手練であるのかが分かる。
しかも戦い方にも柔軟性が備わっており、魔装騎士が防御を一方向にしか展開できないと言う事も理解してか、隙きを見せれば直ぐに魔法攻撃を叩き込んできた。
フォーメルたちも辛うじて対応してはいるが、結果的に防戦一方となり、攻撃はマツリカに依存する形を取らされる。
恐ろしいのは、こうした組み立てになる様に、仕向けている可能性もあるって事だ。
そして、油断しているとアンガムからも支援の攻撃が打ち込まれる為、近距離も遠距離も安全地帯が存在しない。
一つだけこちらに有利な点があったとしたら、敵の攻撃に対してリディが耐えられる様になった事だろう。
理由は良く分からないが、俺には秘密とやらの力を使っているらしい。
これで突っ込めば何とかなりそうとも思ったのだが、敵は動きも速いので、無策に仕掛けても空振りに終わる可能性がある。
実際、ターナたちが何度か偶然にこちらに誘き寄せた事があったのだが、その度に繰り出そうとした攻撃は、警戒したアンガムによって難なく回避されて出すタイミングさえ与えてはくれない。
絶対的有利な条件にあっても、アイツには油断という物がない。
本当に厄介だ。
それに背後に居るアシュレイは、レベルを含めてエレメンタリスとまともに渡り合えるとも思えないので、無茶もできない。
そのアシュレイも隙きを付いてクロスボウで攻撃を試みてはいたが、矢は全て届く前に燃え尽きてしまうか、爆散させられてしまう。
敵は、ある意味で防御も完璧と言えた。
「リディ、ブレンダン・バーズを使おう」
「無理です」
「なぜだ?」
やはり、リディは何か言いたげな顔をしただけで、俺の質問には答えない。
その間にも、アシュレイが矢による攻撃を行っているが、依然として効果はない。
何か、何か無いのだろうか。
俺は思わずリディの腕を取ったが、彼女は唇を噛み締めて反対の方へ顔を俯けてしまう。
と、リディの外部を見ると言う機能に異変を感じる。
アシュレイの放った矢が燃え落ちた後、そこから糸の様な物が彼女へと帰って行くのが見えたのだ。
そう言えば、何度矢を射ても一向に尽きないと思っていたら、こうしたカラクリがあったのか。
違う。
俺はこの時、初めて無数の薄い光の線の様な物が、外のあちらこちらに張り巡らされている事に気が付く。
目を何回か擦ったが、見間違いなどではない。
リディの鎧からも幾つもの薄い光の線の様な物が出て、それがアシュレイやターナ、マツリカに繋がっている。
そして、アンガムらの背後にエレメンらを呼び出したであろう、別世界と繋ぐと思われる、それぞれに色のついた揺らめく穴の様な物も見えた。
イキナリの事に俺は驚いたのだが、そこでリディの手を放すと、それらも消えてしまう。
これは!
「し、主君?」
ハルタに背後から抱きしめられ、リディは驚いた。こんな状況で何をと考えたが、満更でもない事に顔を染めて俯く。
そんな彼女を他所に、俺は眼の前の光景に集中し、必死になって理解しようと頭を働かせた。
間違いない。リディと接触すると、見えない光の線の様な物が外に張り巡らされているのが確認できる。
最初、それはリディから出ている物かと思ったのだが、良く見れば鎧の中にもそれらが通っており、最終的には俺に繋がっているのが見えた。
具体的な事は分からないが、どうやら俺を介してみんなを形成する為に必要な何かなのだろう。
前々から彼女たちのエネルギー的な根源は、どこにあるのかと疑問に思った事もあったが、今見えているこれがそうなのだ。
また、フォーメルたちやその他の連中からも、少なからず似た様な物が溢れているのを観察できる事から、これは何らかの力、または魔力的な流れがリディの機能を通して視覚化されたと見る事もできる。
ただ、腑に落ちないのは今までリディとは少なからず接触していたのに、こんな現象は初めてだった事だ。
幾つかのキッカケとなる原因は思い浮かんだが、今は後回しだ。
リディにくっついた事で、俺はもう一つの事を確信する。
「リディ、悪い。 この鎧、借りるぞ」
「え? え!?」
驚くリディを他所に、俺は意識を集中した。すると、思った通りに鎧の制御権を俺が掌握できるのを感じる。
リディの鎧は全体に渡り何かの魔力の通り道が作られていたが、流れが滞っていると言うか、途切れ途切れになっていて俺が見た限りでは不完全と言った感じだ。
そのせいか、外の薄い光の線の様な物が辛うじて流れているのが見えるが、明らかに機能していないのが分かる。
そこへ俺から魔力を放出するイメージで流れに沿わせ、不完全な部分は無理やり繋げる事で、鎧全体に俺の意識と魔力の線を張り巡らせる様にする。
いや、正確にはリディの鎧の力に乗っかる事で、それが出来たと言うのが正しい。
何か知らんが、一部の機能が開放でもされたのだろうか。
気がつけば、鎧内部に光る線の様な物が無数に張り巡らされていた。
試しに俺は鎧の右手を前に持ってきて、強く握りしめてみる。
「こ、これは・・・・主君、一体何をしたのです!?」
「さっきも言ったが、リディ、お前の鎧を使わせてもらうぞ」
「「アシュレイ、ラーナンと一緒に、もっと下がって遮蔽物に隠れていろ」」
突然発せられた声に、アシュレイがビクッとなる。
彼女は、それがリディが発した物なのかハルタが言った事なのか、一瞬分からなかった。
「「アシュレイ、言うことを聞くんだ」」
二回目の呼びかけに、ようやくアシュレイは、それがハルタの言葉だと理解するが同時に違和感も覚える。
しかし、アシュレイはラーナンたちに顎で合図すると、自らも下がって素直に従った。
アシュレイが下がったのを確認した俺は、両足に力を溜めて屈み、突進する為の溜めを作る。
確かに鎧の操作は俺が掌握したが、問題はどの程度まで力を発揮できるかだ。
俺のイメージとしては、ドノロファルと戦った時が望ましい。
あの時は、マツリカにも匹敵する突進力を持っていた。或いは、ターナにも迫る動きも見せていた。
あれができれば、或いは現状を打破できる可能性もある。
できなければ何も変わらない。
いや、例えドノロファル戦と同じ事ができたとしても、よっぽどの隙きを突かなければ、あのアンガムって奴には通用しないはずだ。
俺は冷静に状況を見極め、飛び出すタイミングを図る。
「ターナ、お放しなさい。私が囮になりますわ。その隙きに、貴方は男の方を攻撃なさい」
「駄目だよ。 イユキでも、アイツの攻撃には耐えられない。それに、敵はアイツだけじゃないんだよ」
その言葉通りに、アンガムの炎のムチをかわしたところに、フォービが回り込んできた。
そして、溜めを作っていた二つの首の一つが口を開く。
ターナは、それがどんな攻撃かは分からなかったが、本能的に回避できないと悟ると、できる限りハルタには影響の無い所で受けようと留まった。
同じくそれを組み取ったイユキがターナを抱き込み、盾を構えて庇うポーズを取る。
すると、すかさずムチの攻撃と火炎弾が容赦なく浴びせられ、僅かな隙きすらも塗り潰して行く。
「押すな、くっつくな、どけ」
「防御する為だ、我慢してくれ」
敵エレメンタリスの連続攻撃を受け、魔装騎士らと共闘を余儀なくされたマツリカは、その中央に匿われる様にして居た。
彼女にしてみれば邪魔で仕方なかったのだが、向こうが勝手に取り囲んで来るのでどうしようもない。
いや、敵の攻撃を防ぐ一番の手立てだというのは分かってはいるのだが、彼女の気性がそれを許さない為、どうしても気に障る。
敵の強さを考えると他に策が無いことも確かだが、余計にそれが腹ただしい。
今相手にしている連中は、最初に戦った雑魚共とは明らかに違う。
ヒューマス個々の戦闘力もさる事ながら、対応能力も優れている。
それでも、ヒューマスの方ならマツリカなら何とかできただろう。
だが、敵はそれを分かってでもいるのか、マツリカが出てきたら直ぐにエレメンの方を差し向け、そこへ魔装騎士が出てくれば連中が対処する。
こちらも何回か隙きを付いて切りかかったりするが、蜃気楼の様な防御に阻まれて中々届かない。
いや、際どい辺りまで踏み込めた事もあるのだが、その度にエレメン他、カバーが入ってきて、それ以上に攻撃を繰り出すのを許さなかった。
「後少し」
むさい男どもに囲まれながらも、マツリカは深呼吸するかの様な動作をし、神経を研ぎ澄ませる。
(防御は・・・仕方がないから、コイツらに任せよう。だから、攻撃する事だけに意識を向けろ。流れを、気を読め。妖刀の力を掻き集めろ!)
そのまま目を瞑った彼女は、刀を片側に掲げ八相に構える。
急に静かになった事に違和感を覚えたフォーメルは、チラリとマツリカを見た。
すると、一つの構えを取ったまま目を瞑ってジッとしている。
何かを狙っているのだろうとは思ったが、正直に言えばアーマルデ・ロイデンである以上は通じないだろうとも考えた。
このエレメンタリスたちの強さは尋常ではない。
ハルタにはエレメンタリスにとって魔装騎士は天敵などと説明したが、それはまともな使い手の場合であって、自分らの様に二流、三流では話が違ってくる。
そして、最悪だったのは敵が超一流だと言う事だ。
素質だけではなく、数々の戦場を渡り歩いても来たのだろう。
その戦い方、連携を見れば自ずと分かる。
結果として、フォーメルたちは身体能力の高いマツリカに攻撃を頼る形となり、防御一辺倒となっていた。
別方向を見れば、敵の親玉による攻撃によって残る連中もピンチを迎えている。
ハルタが言った切り札が何かは分からないが、これでは保たないとフォーメルは思った。
そして、遂に片方の連中、ターナ達の動きが止められる。
集中砲火を喰らって釘付けにされ、身動きが取れない様にされたのだ。
盾のアーマルデ・ロイデンは防御力が高いのか、それに耐えてはいる様だったが、フォーメルは時間の問題だろうと思った。
何故なら、ハイド・エレメンが次の大技を準備しているのが見えたからだ。
そして、連中が片付けられてしまえば、間違いなく奴はこっちに来るだろう。
状況は悪い方へと進む一方だった。
(耐えきってみせる。 何としても、ターナを守ってみせますわ)
イユキも小柄ではあったが、ターナは更に小さい。そして、イユキの持つ盾は二人を覆うのに十分な大きさを持っていた。
それでもイユキはターナを自分の懐に入れる様にして強く抱きかかえ、盾を自分の背にして耐える事に全力を注ごうと構える。
守る事しかできないイユキは、攻撃の要となるターナと自分を天秤にかけた結果、その方がマシだと判断したのだ。
それに、ターナには切り札がある。
万が一の場合は、それで勝機も生み出す事もできるはずだ。
自分は頑丈でもあるので多少の攻撃を喰らっても何とかなると言う思いもあって、自らを犠牲にする手段を選択した。
「イユキ、イユキ! 止めて、無茶だよ」
ターナも状況が分かってはいたが、他に手はない事も十分に理解している。
それは思考よりも先に、彼女のセンスによる物が大きかったが、やはり経験の不足がそこにあり、この後に及んでも力の開放を躊躇う。
彼女たちにしてみれば、第一に重要なのはハルタであったのだが、それがある意味で枷ともなっていた。
「ほう、良い判断だな」
見下ろすアンガムは、二体のアーマルデ・ロイデンが回避ではなく、防御を固めた事に感心した。
既に相手の動きは見切っていたので、回避を選択した場合を想定した攻撃の準備をしていたからだ。
むしろ、そっちがある意味で本命であり、一瞬で終わらせるつもりであったのだが、予想に反して敵は耐える事を選択した事に小賢しさを感じる。
(たかが人形ごときが)
最初に連中を見た時、ヒューマスと変わらないその姿には驚いたが、同時に壊してやりたいと言う衝動も起きた。
クラッデルムやシーゼスのエレメンタリスさえ退けたその実力は、運もあるだろうが確かであったので、アンガムの目には良質な獲物としても映っていたのだ。
予定では圧倒的力でなぶり殺してやるつもりだったが、予想以上に粘る事に、彼はいささか腹を立て始めてもいた。
そして、これである。
単純なお人形を、ただ壊すだけの気分でいたアンガムは、尽く自分の予想を裏切る粘りを見せ、更には戦術的な面でも最良の選択をしようとする相手に憎しみを覚える。
だが、それもここまでだった。
回避する筋は潰し、最大限の攻撃を放つ準備もできた。
それも、二段構えに。
自分のハイド・エレメンの攻撃を耐えられるとは思えないが、万が一耐えたとしても、もはや連中は一度攻撃を受ければ反撃する機会すらなくなる。
何故なら、その様にできる準備が整ったからだ。
(これで終わりだ)
アンガムは絶対的な勝利を確信した。




