~謎の勢力~ -22. 天敵襲来 その7
キライスは状況が望む方に動いた事に目を細めていた。
例の勇者らしき存在は到着しても一向に動かず、それによってキライス達内部では不穏な空気が流れていた為、ある意味で彼はホッとする。
到着当時、勇者連中は何かを待っているかの様な動きを見せていた。
こうした事は想定内でもあったが、別の意味では想定外でもあったのだ。
キライス達が最初に考えていた展開は、砦と音信不通になった事でレパンドル側が自軍を派遣。
それをクラッデルムが殲滅し続け、埒が明かなくなったところで勇者連中が出てくる。
と言う流れを予想していた。
しかし、新しい情報では自分たちが思っていた時期や詳細とは違っていた物の、既に勇者連中はセイレアヌなる人物と個人的に協力関係にあるらしいので、恐らくここに来たのは偶然ではなく、そうした要請があって来たのだろうが想定よりも早く来たと言っていい。
しかし問題は、動かない理由だ。
一連の動きを観察する限りでは、キライス個人は何かしらの援軍を待っているのだろうと思った。
援軍の中身によっては危惧すべき事だが、ここではもっと別の問題があると彼は考える様になる。
勇者連中が中に居る敵の種類に気がついていた場合、戦わずに逃げると言う事も考えられた。
それならそれでも良いのだが、待っていると言う行動に説明がつかない。
万が一、対処方法を準備している、或いはそれに即した新たな兵力の到着を待っているとしたら、それはそれで厄介な事だ。
また、この様な動き自体、こちらの情報が漏れているのではないかと言う事に、キライスは危機感を覚える。
クラッデルムらが率いている部隊は動かない限りは、その種類を知られる事はないはずだった。兵数が少ないのも、標的に戦いやすい相手だと思わせる為の物のはずである。
それなのに動かないと言う事は、何かしらの方法で情報を得た可能性が高いと見るべきだろう。
しかし、それを判断しようにも情報が足りず、そしてコチラの連中もイライラし始めた為に問題は別の要素を抱え始める。
実際、ソライでさえもウズウズしていて不味い状況となりつつあったので、結局、1日程度は我慢した後、こちらから動く事にしたのだ。
コッチの存在がバレるかも知れないと言うリスクはあったが、それだけの結果は得られたと言って良い。
最初の接触だけで判断しても、どうやら相手は敵の種類を知ってはいない様だった。
情報の漏れや、対抗手段に関しては杞憂だと言えるだろう。
後は、どっちが生き残っても始末すれば良い。
もっとも情報が確かなら、勝つのは転がる岩とやらになるだろうし、そうでなくてはならないのだ。
派手に弾き飛ばされた先で、俺は藻掻いていた。
凄まじい突風の様な衝撃を発生させた敵の攻撃は、重量があるはずのリディを意図も簡単に弾き飛ばし、数十メートルは吹き飛ばしたと思われる。
宙に浮いたリディは踏ん張る事もできずに振り回され、その中で俺とリディは互いに抱き合う形でしか対処できなかった。
気を張っていた為か、幸いにも目が回ったり酔うなどという事はなかった物の、問題は別にある。
リディが停止状態に陥ったのだ。
こんな事は初めてだった。
彼女はマガツノミホロの支配下にあった、ダオウルルズの防御を無視する様な攻撃を喰らった時でさえ、損傷を中程度で留めたというのに、あのディナードと言う奴のたった一回の攻撃で停止となってしまっている。
そんなに強力な敵なのだろうか。
いや、ならば俺に特に影響が無いのは何故だ。
ほぼもたれ掛かってリディの体の下敷きになった俺は、場所が狭いと言う事もあって身動きが取れない。
それ以前にリディが停止に陥った事で完全に中は真っ暗に陥ってしまい、何がなんだか分からない状態になっている。密閉性が高いと言う証拠でもあるが、今はそれが仇となっていた。
必死になって辺りを探るも、鎧の出入り口付近が見つからない。
仕方が無いのでアニーズで周囲を見ると、アシュレイも同様に停止となっている。
そして、戦っていたはずのイユキまでもが停止となり、ターナとマツリカまでもが苦戦していた。
本当に、どうなっているのか。
「コイツら」
マツリカは顔を歪めながら、怒気を含んで恐ろしい程の速さで剣を振るう。
しかし、どんなに速く鋭く振ろうと、全て敵には届かない。
逆に相手の攻撃は、どんな事をしても確実に自分にダメージを与えてくる。
自身が持つ妖刀は少なからず魔力を帯びているので、特に力を付与しなくとも魔法に対して抵抗する能力は持ってはいたのだが、その程度では相手には届かなかった。
切っている手応えはある。
しかしミズツノシシオギほどでないにしろ、何か物体ではない物を相手にしている様で掴みどころがなかった。
オマケに刃を接触させる度にその余波の様な物を確実に喰らうので、ダメージが少なからず蓄積して行く。
それでも意地でその場に踏みとどまる事を選んでしまった為、余計に彼女は自分を追い込んでもいた。
(こんな三下共に・・・・)
怒りはあったが、マツリカは冷静に相手を見計らってもいた。
単純な能力で言えば、この連中は大した事がない。
攻撃パターンや技の単調さなど既に見切っていると言って良いのだが、魔法による攻撃だけが厄介だった。
しかも、その攻撃はコチラの遠距離技も相殺してくるので、突破口が見つからない。
掻い潜って接近したとしても、今度は蜃気楼の様な防壁がそれを阻む。
時間があれば破る事も可能な気がしたが、当然、敵もそれを許してはくれない。
敵の魔法攻撃は、当たれば確実にこちらにダメージを与えるのだ。
故に直撃だけは避けなければならなかった。
しかし、このまま行けばどうなるかは容易に想像が付く。
(ハルタの血を使うか? いや、この程度に一々使っていたのでは、今後勝ち残る事はできない。 それに、そんな余裕もない)
ロータルという村で、初めてヒューマスと戦った時に一つ分かった事がある。
自分たちの本気を出すには、ヒューマスはあまりにも弱いと言うことだ。
基本的な力だけで相手をしたとしても、お釣りが帰ってくる程に差がありすぎた。
技云々を繰り出す以前に、ただ踏みつけるだけで相手はパタパタと倒れる存在であり、それに対して内在する力を使うのは本当にバカバカしかった。
ロータルでは初めてだったという事や、村を守ると言う難しそうに見える目的もあったので、力は継続して使う事にした。
だが、その後を基準にすれば、ヒューマスは雑魚モンスターと同等か相手によってはそれ以下であり、技の小賢しさを除けば大した敵ではない。
その事は更にユーカの提案によって、秘密裏にクラッデルム相手にも確認された事でもある。
そしてそれは、実行した本人でもあるマツリカが、誰よりも強く実感していた事でもあった。
故にハルタからもらった貴重な血を使うには、値しない敵なのだ。
これは自分以外のメンバーとも一致した意見であり、あの夜、この事を知らなかったアシュレイを始めとしたメンバーとも共有した認識でもある。
特に本当の意味で脅威を知っているアシュレイ以外のメンバーとしては、今後はヒューマス相手に迂闊に力を使うのは避けようと誰もが考えたのだ。
実を言うと、最近は力を使用する度に、ハルタの血の消費量が著しいと言う現象が起き始めてもいた。
原因は良く分からない。
いや、マツリカには少しだけ心当たりの様なものがある。
それは、ミズツノシシオギと戦った時に、自分をハルタに取り込ませたと言う物がそれだ。
あの能力はハルタ固有の物だ。本人はすっかり忘れている様だったが、大体において鍵となるのは彼の血肉である。
マツリカはハルタ、或いはそれに近い人間の血を知っている。過去に吸った事があるからだ。
ハルタ自身が"何人目"かは知らないが、少なくとも、その血を受けて力を振るうのは初めてではない。
マツリカの中には、ハルタとは血の繋がりの様な物が存在していた。
それ故に、ハルタも自分の事を知っている物と思っていたが、残念ながら違った。
だが、長らく馴染んだ彼、或いはそれに類する人物の血は、マツリカが力を発揮するには絶対的に必要な物でもある。
ハッキリとした事までは知らないが、とにかくハルタが特別な事だけは確かだ。
そもそもマツリカ自身も彼の様な存在を起点にして、力を発揮する予定になっていたはずなのだ。
そして、それには双方に対して大きなリスクも伴うが、それすらどの様なものかは予想できない部分がある。
今までの自分は、どこか機能的な形で動いていたに過ぎず、自我と呼べる物もあるにはあったが、どこかボンヤリしていた。
本来であれば、自分は道具であり単なる武器なので当たり前だったのかも知れない。
しかし、ハルタの血はマツリカと言う個別の存在を与えると同時に、機能的な部分と分離させたという感覚を彼女に与えてもくれた。
それが、あの無茶な決断を下す根拠でもあったのだが、それだけハルタの血には力があると言う絶大な信頼もあったのだ。
それだけに、あの一件で何かの変化を起こしたのではないかと思う部分もあった。
それが予想できないリスクの一つであったとしたら。
この件に関してはハルタにはまだ秘密と言う事で、ユーカからは厳重な注意がされてもいた。
ハルタが知れば、また無茶をやりかねないからだ。
一応、先の件についてはマツリカはユーカにだけは話してあった。
その話を聞いた上でユーカが出した推測によると、ハルタとの結びつきが弱まっているのではないかと言う。
それを聞いた時、マツリカを含めて多くのメンバーがゾッとする様な感覚を覚えた。
今でもハルタとは魔力的な要素で繋がりがあるのを常に感じてはいるのだが、確かに、徐々にそれが細くなっていると感じる時があるのだ。
最初の頃はそんな物だとしか考えていなかったし、主たる者との結びつきは絶対だと考えていた為、改めて意見の共有を行って認識をすると、それは恐ろしい事だと自覚させられる。
ハルタとの繋がりが消えれば、自分らは消滅し、ただの物に成り果てるだろう。
今の自分が何であるかを深く考えた事がないマツリカではあったが、その先に待ち構えているかも知れない消滅の可能性には怯えた。
戦いの中で敗北し、ハルタの為に消滅するならば彼女はそれを受け入れられると考えていたが、何の意味も意義も残さずにただただ消えるのは恐ろしかった。
だからこそ彼女は戦いを求めてはいたのだが、同時に、力の温存を今後はしなければならないと言うユーカからの忠告を重く受け止めてもいる。
恐らく、それは他のメンバーも同じだろう。
それ故に、あのフォーメルとか言うヒューマスの言葉は衝撃的でもあった。
実は、以前から血の消費の激しさとハルタとの繋がりが細くなりつつある事は、全員が薄々感じ取ってもいた事だったらしい。
だが、それの意味する事がよく分からなかったのと「もしかして自分だけかも」と言う恐れからか、これまで誰も口にしなかった事でもある。
唯一、みんなの様子をマメに観察していたユーカだけが、自分も含めてその可能性が広がっている事を見出し、今後の方針も含める形でマツリカが話した事を機に、その事を打ち明けたのだった。
そして、ハルタとの繋がりの危うさとヒューマスとの力量差をクラッデルムと言う相手に確認すると、彼女は全員に警告を発した。
しかし、そこへ新たなる問題、暴走という可能性を聞いた時、消滅以外にも彼女たちがはらんでいる要素として何故かそれが強く突き刺さってきたのだ。
確かに、ある時からハルタとの繋がりが細くなると言う傾向は、止まっている様にも見えた。
それでも拭えない不安があったのだが、それが暴走という一つの可能性と結びついた事で、マツリカたちは恐れたのだ。
今度は自分たちがハルタを手にかける事で、全員が消滅するかも知れない事に。
ハルタの血が、どの様に自分たちに作用しているかは、直感的な部分でしか理解していない。
特に体の維持や能力の向上においては、基本部分を無視した所で作用しているのを、何となくだが理解していたつもりだった。
そして今、そのハルタの血に対して自分たちが食い尽くす力が大きくなっているのが、そうした不安定さや暴走を含んだ要素が影響しているのだとしたら。
細くなる繋がりが辛うじて保たれているのが、彼の血のお陰だとしたら。
今もハルタは少なからず自分たちに血を分け与えているし、それは蓄えておく事もできるが、どの様にしても量が限られる以上、今更ながらに無駄遣いできないと改めて全員が知る。
森の中に居た頃は、モンスターと言う強敵相手には使わざる得ない状態でもあったし、繋がりが弱まる事の意味を深く考えてもいなかったので特に問題としていなかったが、先に何が待つか分からない今は、少なくとも雑魚に貴重なハルタの血を使って相対する分けには行かなかった。
それ故、今の苦戦を押してなお、マツリカは独力で勝つ必要があったのだ。
何より、相手は倒せない分けでもない。
魔法による防御は確かに強力だが、重い一撃をくれる度に連中に負担がかかっているのは分かっていた。
ならば、連続して攻撃を当てれば必ず突破できるはずだ。
ただし、それをやるには邪魔も多い。
特に、この幻影の様に付き纏って攻撃が通らないモンスターの様な奴は、今のところは対処できなかった。
ハルタの血を使った技なら簡単に倒せるかも知れなかったが、血を使うと言うのは、そう単純なことではない。
発動と言う状態に持って行くだけでもゴッソリと血を消費し、更に一度発動すれば一定時間はそのままなので、ちょっと使うなんて気軽に出来る物ではないのだ。
アイドリング状態というか、平常であれば消費量を押さえておく事も確かにできる。
しかし、戦闘時においてはその制御が効かない。
一定以上の力を発揮しようとすれば自動的に血は消費されるからだ。
その限界ラインはかなり低く、発動している間は下手をすると戦闘と言う興奮状態になっても消費される事もあった。
ハルタの血自体、非常に燃費効率の良い物ではあるが、総量が少ないと言う問題は常につきまとっているし、何より、発動させるには時間が必要となる。
とは言え、現状の打破は限りなく難しい。
ダメージを覚悟で敵の防御を打ち破ると言う方法もあるが、そこで力を使い果たせば終わりだ。
せめて、あと一人いれば・・・・
そう考えて辺りを見た正にその時だった。
ターナが敵の遠距離攻撃を喰らって釘付けとなり、そこにクラッデルムと言う奴が必殺の一撃を放つ瞬間だった。
「ターナ・・・!」
「終わりだ」
マツリカが叫ぶのと、クラッデルムが勝利を確信した声を上げるのは、ほぼ同時だった。
一連の出来事を、ターナはスローモーションの様に見ていた。
敵の遠距離からの魔法攻撃は避けられない速度ではなかったが、移動して脱出するには既に足が動かない。
そして、そこへ敵が突進してくるのが見えた。
回避しなければと頭では考えるが、遠距離の攻撃に対処するのが精一杯で動けない。
いや、これを計算して敵は攻撃を仕掛けたのだろう。
遠くでマツリカが自分の名前を呼んだのもハッキリ聞こえたが、確認する余裕はなかった。
その代わり、迫る敵の嫌らしく笑う顔だけがハッキリと見える。
(力を・・・力を開放しないと・・・・)
しかし、それは間に合わないと彼女は知っていた。
ハルタの血を使った能力の強化は、ある程度の時間を要する。
そして、この期に及んでもハルタの血を使う事を躊躇ったターナには、最初から勝機はなかったのかも知れない。
「させるか!」
敵の攻撃が届くと言う正にその瞬間、横合いから飛び込んできた二人の戦士が、クラッデルムの横っ面にぶち当たり、その突進を止めた。
正確には、一瞬だけ静止させる事には成功したが、突進の軌道を僅かにずらすのが彼らの精一杯である。
それでも、ターナには十分だった。
防御壁でも張っているのか、魔法攻撃の幾つかが飛び込んだ二人によって遮断された事で逃げ道ができ、そして、敵の攻撃が逸れた事で短剣を相手の武器の側面に当てると言う動作が可能となったからだ。
ターナはクラッデルムの突進を捌きつつ、その威力を利用してその場から飛び退く事に成功する。
逆に止まる事ができない相手は、そのまま直進し、その恐ろしい威力を空振りした先で存分に発揮した。
(危なかった。 あれを、まともに喰らっていたら・・・)
呼吸はしないはずのターナであったが、肩が上下に揺れて疲労の度合いを体は示す。
「大丈夫か」
今さっき助けに入った兵士の一人の内、見慣れない若い方がターナに駆け寄り、その肩を持とうとしたが彼女は拒絶した。
「触るな!」
助けてもらっておいて何だが、ハルタ以外に触られるのが嫌だったターナは、自然とそうした態度が出る。
「俺達は敵じゃない。 レパンドルの・・・・」
「知ってる。 セイレアヌって人の仲間なんでしょう。 あっちはフォーメル」
そう言ってターナは自分で立ち上がったが、一瞬の気の緩みでグラついたところを、反射的に若い兵士に受け止められた。
咄嗟の事だったので仕方が無いと理解しただけに、ターナは拒否する代わりに若い兵士を睨みつける。
「ファーデル、来るぞ。 その娘を連れて下がれ」
「り、了解」
「ちょ・・ヤ」
ターナの嫌がる挙動を完全に無視し、ファーデルはターナを抱えると、その場を離脱しようとした。
しかし、事はそう上手く運ばない。
魔法攻撃が上空から降り注いで彼らの動きを止めると同時に、轟音と土煙を巻き上げて何かが彼らを遠巻きに迂回したと思ったら、行く手にはクラッデルムが身構えていた。
「レパンドルの雑魚どもが! 俺の獲物をどこにやるつもりだ」
「うっ」
怒りと興奮、更には異常な殺気をはらんだクラッデルムの姿に、ファーデルは完全に気圧され動きが取れなくなる。
「下がれ、ファーデル」
そこにフォーメルが割って入るが、状況は変わらない。
相手は一度は敗走したとは言え、バウンダーと呼ばれる最高位の魔装騎士の一人である。
フォーメルたちが、どうにかできる相手ではない。
「死ね!」
強力な魔法弾が次々と放たれ、それだけで身動きが取れなくなるフォーメルたち。
しかし、二流とは言え彼らも魔装騎士である。遠距離からならば、魔法攻撃は完全に防げる。
だが、それだけに、相手の狙いも十分に理解できた。
魔法を防御できると言っても、その範囲は、フォーメル達の場合は限られている。
それは、丁度傘を広げた様な物であり、基本的には前面を守るのが限界だ。
この状態で逃げようと回避すれば、防御の薄い面に直撃を受ける事になるだろう。
優秀な魔装騎士ならば、防御をもっと展開して隙きを作る事もできるだろうが、リミットコネクターと言う負荷状態で使用している彼らには、そんな余裕も技術もない。
一人を囮にして、もう一人が脱出すると言う考えも、やはり彼らにはできない。
何せ、スピードに関しても相手が上なのだ。
少しの隙きを見せる事さえも今の拮抗状態が崩れて、あっという間に不利になるだろう。
本来であれば、こうなる前に手を打つべきなのだが、既に先手を取られていたのと、守る対象がある為に追い込まれてもいた。
或いは、そうした戦術的なセンスもクラッデルムとの差だったのかも知れない。
この状況で脱出する方法があるとすれば、防御を展開したまま進むしか無い。
それはつまり、「転がる岩」に突撃すると言うことであり、自殺行為に等しい。
他に方法が残されているとしたら、相手の呼吸に合わせてギリギリで回避するだけだ。
それとて、相手の技量を考えれば確率は低いだろう。
向こうの持つ技の幾つかは、掠るだけでも致命傷となり兼ねないのだ。
すると、藻掻いて無理やり降り立ったターナが、ファーデルとフォーメルの襟首付近を掴むと、無理矢理に彼らを前面に押し出して行く。当然、彼らも抵抗を試み様としたのだが、全く抗えない。見た目に反して、恐ろしく怪力だった。
「ま、待て待て。ヤメロ」
その言葉を無視して、ターナは二人を盾にしてクラッデルムに加速をつけて突進した。防御に徹している為、彼らも体制を崩す分けには行かず、されるがままとなる。
「その程度で!!」
これを見たクラッデルムも、満を持して突撃する。
(魔法攻撃さえ防げればこの俺を何とかできると思っている様だが、こっちは物理的な攻撃と両方混ぜて使えるんだよ!)
すると、ギリギリ当たると言う瞬間、魔装騎士の二人が高く跳躍した。
「それで避けたつもり・・・・」
急制動をかけて上空に顔を向けたクラッデルムはしかし、視界の端に地面に低く構えるターナを確認して目を見開く。
「撃って!」
「「おお!」」
ターナの合図に呼応し、フォーメルとファーデルが魔法攻撃を空中からクラッデルムに叩き込む。
当然ながら、彼らの攻撃は一切通じない。
それでも、ターナが反撃するには十分だった。
クラッデルムは魔法攻撃に対して独立した防御を展開して身を翻す余裕を作り、フォーメルらの攻撃を無視して向き直る。
それは本当に僅かな瞬間ではあったが、ターナから見れば十分過ぎる程の時間だった。
もっとも、それは既に消耗激しい彼女にとっても、残りの力を振り絞った特攻でもあったと言える。
果たしてそれは成功し、クラッデルムが気がついた時、その胸には短剣が深々と突き刺さっていたのだ。
目に驚愕の色を浮かべ、口を半開きにして一瞬動きが止まった様に見えたクラッデルムだったが、次の瞬間には鬼の形相となって魔力を暴発させ、ターナを巻き込んで自爆を試みる。
ターナは、その行動の意味するところを分かってはいたが、限界以上に動いた為、回避できない。
そこへ、素早く降り立ったフォーメルとファーデルがカバーに入り、ターナへの直撃を阻止する。
激しい魔力とそれによって生み出された爆発のエネルギーは、二人の全力を持ってしても凌ぐのが精一杯であり、遂には力負けして防御もろとも押し込まれようとした。
それを見たターナが、その力を利用する形で二人を斜めに引っ張り出し、遂には爆発の本流から脱出させる事に成功する。
爆発が消えた去った後には、肉片が僅かに残った黒く焦げた痕と、全くの無傷な魔法武器が突き刺さっていた。
転がる岩と呼ばれた男、クラッデルムの壮絶な最後である。
フォーメルたち魔装騎士の増援が到着した事により、戦況は完全にひっくり返った。
マツリカたちでは全く手に負えなかったエレメンタリスの使うディナードも、魔装騎士には通用しないのか一方的に屠られて行く。
魔力その物ではなく、物理的な力に変換された攻撃によって多少は足止めをされたり、蜃気楼の防壁による影響も受けてはいた様だが、魔装騎士たちには効果が薄いようだった。
遂には、それらを掻い潜った魔装騎士たちがディナードに武器を突き立てると、まるで風船が膨らむかの様に膨張し、次の瞬間には弾けて消滅した。
攻撃の要とクラッデルムを失った為か後は存外に脆く、良くも悪くも十分に訓練されていた魔装騎士たちは、あっという間に対処してしまったのだが、それに介入する機会を逃したマツリカが激怒する。
「てめーら、余計な事をしやがって」
「お、落ち着け。 お前らじゃ、どの道コイツらの相手は無理だったんだ」
「何だと!? もういっぺんぬかしてみろ」
助けに来たはずの相手の胸ぐらを掴み、マツリカが激しく揺さぶる。
「やめろ、マツリカ」
ようやく回復したリディとアシュレイ、それにイユキを連れてきた俺が、マツリカを止める。
ディナードの強力な魔法攻撃を喰らった際、鎧その物は大丈夫だったのだが、リディは相当なダメージを負いアシュレイも含めて一時的に動けなくなった程だ。
結果として、俺は鎧の中に閉じ込められてしまい、全く介入する事ができなかった。
フォーメルたちが来なければ、本当に危なかっただろう。
俺自身は魔法攻撃による影響は受けなかったが、鎧の中で激しく打ち揺らされ打ち付けられた。
多少の打ち身を負ったが概ね無事だった為、むしろ、あの程度の魔法攻撃でイユキも含めて大ダメージを負ったのが謎だっただけに、マツリカとレパンドルの兵士の会話が気になる。
「それにしても、俺達には無理ってのは、どういうことだ?」
俺は、フォーメルに訪ねてみる事にした。
もしかしたら、セイレアヌとの契約と言う点ではぐらかされるとも考えたのだが、聞かない分けには行かなかった。
「貴方たちは、恐らくアーマルデ・ロイデンなのですよ・・・いや、そうに違いない」
「アーマル?」
「それ、敵のヤツも言ってたな。 一体、何なんだ」
どうやって接近したのか、マツリカが刀をフォーメルの喉元に何時の間にか当てていた。
「マツリカ!」
俺の制止に渋々剣を引くマツリカだが、これだと暴走の危険性と言う片鱗を見ている気がして気まずい。
「アーマルデ・ロイデン。 ハルタ殿、概ね貴方に話した特殊な兵士の総称だ」
「お、おい・・・」
「心配なら無用だ。 ここに居る者たちはセイレアヌ様直轄の者。既に事情は知っている。 と言うかな、実は国王まで話は言っているんだがな」
「は? どういう事だ!」
今度は俺がフォーメルの胸ぐらを掴んで揺すり出し、それをイユキたちが止めると言う事態になった。
「げ、ゲホッ。 やはり、貴殿の計画には無理があったのだ。 あれではセイレアヌ様一人が、何もかも背負過ぎてしまう。どうか、分かって欲しい」
それを聞いて、ようやく俺はフォーメルを放した。
もとから無理があるとは分かってはいたが、彼女に相当な負担があったと聞いては黙るしか無い。
「すまない。 こちらもこの様な事態を避ける為に動いてはいたのだが、思うようには行かなかった・・・・」
フォーメルは、これまでの経緯を話し始めた。
話は今から少し前に遡る。
ハルタ達が現地に向かうという連絡を受けて、直ぐにセイレアヌはフォーメルを呼ぶと、数人を選んで出撃する様に伝えた。
しかし、ここで問題が起きる。
何人かの魔装騎士から意義を唱える声が出たのだ。
果たして、自分たちはあの勇者を信じて良いのかと。
予見していた事だとは言え、ある意味で恐れていた事態だった。
魔装騎士は名目上は騎士団と言う一つの組織となっているが、実際には複数の派閥によって構成されていた。
これは最高戦力を保持したいと言う思惑があちこちにあり、それによって生じたせいでもある。
それらの派閥は大きく分けて3つ。
騎士団派、貴族派、そして王国軍派に分かれていた。
何れの派閥も独自の兵力を持っており、魔装騎士による騎士団結成の際には、それぞれから先発したメンバーがねじ込まれている。
これによって当初こそまとまりの無い組織ではあったが、軍人と言うのは共にあると絆を強めても行く物でもあったのと、強大な敵が攻めてくると言う状況にあっては結束せずにはいられなかったと言う事が、良い方向へと向かわせる。
だから実働部隊は派閥を超えて友好を深めてもいたのだが、問題はお飾りと言える連中にある。
彼らは名目上は准部隊長だの監察官だのと言った役割を与えられていたが、実態はそれぞれの派閥から出された監視役的な存在であり、それ故に戦場に出る事はなく、魔法武器を使えるにも関わらず前線には出ずに主に安全な後方で謀略に加担する存在でもあった。
この様に書くと獅子身中の虫にも取れるが、実際にはそこまで悪者扱いされる物でも無く、ある時点までは単に魔装騎士の候補者選定や部隊長の推薦に関して意見する程度であったのだ。
更には、セイレアヌと言うシンボルがその先頭に立った事で彼らの意識も少なからず変化し、表面的に見れば強くまとまって上手く機能する様にもなっていた。
これについては、フォーメルを始めとした何人かの派閥を超えたメンバーが動いた結果でもある。
しかし、勇者と言う存在が一人の人間によって保有されると言う事態が発生すると、それに強く対抗しようとする連中が現れ始めたのだ。
これについては、フォーメルも予見していたので対処方法を考えてはいたが、敵が予想よりも早く攻め込んだ事も含めて結局は間に合わせる事ができなかった。
案の定、出撃に際してはセイレアヌの意見がすんなりと通る事がなかった為、更にその上である国王にも協力を要請するという形となったのである。
当然だが、協力を取り付けるためには、これまでの経緯を打ち明けねばならず、それによってようやくメンバーを信頼できる者だけで固める事ができたのだ。
何より、アライアル・エンケーレの協力を取り付けたのは幸いだった。
ある意味、ハルタらとの関係は国王と結ばれたと言って良い。
名目上はセイレアヌが主体とはしているが、これによって王命によって他を黙らせる事ができる様にもなった。
よって、今回の派遣もメンバー選定も、国王権限によって一方的にされたものとなっている。
それは動き易くなった反面、各派閥へは事情等をまだ話していない為、一方的に近い形で決定されているとも受け止められ兼ねず、今後はそこから発生する軋轢を警戒する必要もあるだろう。
「事後承諾となってしまったのは申し訳ない。 だが、敵の動きがこちらの予想よりも早くてな。こればっかりは、どうしようもなかったのだ。 許してくれ」
フォーメルの口ぶりからして、俺の出した無茶な提案を何とかしようと奔走していたのが伺えたため、それ以上は文句も出ない。
しかし、だからこそ聞かなければならない事もある。
「それは、分かった。 だが、敵について知っていた様な口ぶりだったな。 本来の条件とは違うが、逼迫している状況だ。 今すぐ、アーマルデ・ロイデンとやらの事も含めて、知っている事を話してもらおう」
そう強く俺が迫ると、フォーメルは軽く頷いて了承する意思を見せた。
アーマルデ・ロイデン
それはルッター山脈を挟んで西に位置する国々から発生した兵種。
武器を人化させ、それを兵力とする存在。
多くの敵の血を吸い、業物の武器ほど強力な兵となる。
何時しか、アーマルデ・ロイデンはその兵士だけではなく、使う者たちの総称ともなった。
吸った敵の血を依代とする為か、アーマルデ・ロイデンは一騎当千の強さを持ち、更に血を吸い続ける事で進化する非常に強力な存在。
だが、一方で使用者に反発する事もあって制御は困難であり、一歩間違えれば暴走する危険性すらある。
加えて、制御できる人数には限界があるのと、使用者を殺されたら全てのアーマルデ・ロイデンも消える。
更に、彼らは魔法攻撃に弱く、魔法使いや魔法を使う敵によって次々と駆逐され、近年では完全にその姿を消してしまった。
ただし、以上の事はあくまでも噂であり、どれが嘘で真実かはハッキリしていない。
フォーメルから聞いたアーマルデ・ロイデンと言う存在をまとめると、大体こんな感じだ。
西の国と言うキーワードも気になったが、魔法攻撃に弱いと言う内容は多少ショックだった。
成る程、道理で全員が苦戦していた訳だが、それでも腑に落ちない事は多い。
マツリカやその他の連中は、ミズツノシシオギの魔法攻撃にはある程度対処していた様に見えたのだが、アイツとヒューマスの魔法には何かしらの差異があるのだろうか。
と、俺が難しそうに考え込んでいたら、それに対してもフォーメルが答えの様な物を話してくれた。
「アーマルデ・ロイデンにとって、一番の天敵はエレメンタリスと呼ばれる存在です」
「何故だ?」
「既に話した様に、アーマルデ・ロイデンは魔法に弱いのですが、これはそのまま魔法に対処できない事も意味しており、エレメンタリスたちが使う魔法の塊その物であるエレメンには極端に弱いらしい」
「だが、アンタらには通じていなかったようだが。 そのエレメンって奴らは」
「魔装騎士は魔法攻撃には強いですからな」
「なら、魔法攻撃ができるなら倒せるってことか?」
「それも難しいでしょう。 なぜならエレメンと言うのは、それらが住む巨大な魔力の海から、エレメンタリスによって召喚された魔法その物であり、常にそこから力を注がれているので、多少の魔法攻撃ではびくともしないのですよ」
魔法の海と言う表現にちょっと引っかかった俺だが、更に疑問をぶつけてみる。
「ますます分からん。 それなら、魔法攻撃なら効果があるはずだろ。 ウチのマツリカの武器は魔力を帯びている。 それでも通じなかったぞ。なあ?」
そう言ってマツリカを振り返ると、彼女も無言で頷いた。その話にフォーメルが多少驚いたが、彼は続ける。
「ま、魔法を帯び・・・。 あーその、つまりですな、エレメンは水溜りと考えてください。 多少斬り付けようが殴ろうが、その程度では水溜りは消えない。
しかも、この水溜りは水の供給を一定量受けている。
故に消すには、水溜りごと屠らなければ駄目なのですよ。
つまり、水溜りを一気に弾き飛ばす程の力、一定以上の魔力による攻撃を与える事で、エレメンと言う存在はこちらの世界で形を保てなくなる。
それを最も得意としているのが、我々魔装騎士なのです。
魔法武器は魔力を増幅して放つ事ができる唯一の存在ですからな。
その点で言えば、魔法使いよりも優れている。
ま、言ってみれば、あなた方にとっての天敵がエレメンタリスである様に、連中の天敵が魔装騎士って事なのですよ」
そう得意げにフォーメルは語ったが、やはりどこか変だ。
特にマツリカは、それに匹敵する攻撃手段を持っていなかったか?
ぶっ飛ばされたので戦闘を詳細に見た訳ではないが、そうした技も通じなかったのだろうか。
だとしたら、両者が使う魔法の質が違うって事なのだろうか。
「水たまりを壊しても、一定量の水の供給を受けているなら、勝手に水たまりは形成されるんじゃないのか?」
「いや、それは、あくまでも概念的な話だ。 基本、こちらの世界からの繋がりが消えた時点で、エレメン世界と繋ぐ扉は強制的に閉じられてしまう」
フォーメルは更に話を続ける。
彼によると、この世界は、どうやら俺たちが居る世界とは別に、複数の平行世界とも言える物が確認されているらしい。
一つがエレメン達が住んでいるとされている世界。そして、もう一つが魔法の源となる、魔素が充満した世界。
基本、魔法を使う場合、その魔素が充満した世界から魔力を取り出して使う事になる様だ。魔法を使う際の術式だの呪文だのは、どうやら、その世界と繋ぐ意味もあるんだとか。
ただ、俺たちが居るこの世界にも、薄いが魔素は漂っているらしく、稀に、それらが濃く集まっている場所もあるらしい。
そこに長く居すぎると、基本的にヒューマスは死ぬんだとか。
いや、魔素に迂闊に触れること自体、ヒューマスにとっては危険な事らしい。
それらを安全に使いこなす為に生まれたのが魔法武器らしく、仕組みはよく分からないが、これらは魔素の影響を遮断し、かつ充填して持ち歩けるので画期的だと言う。
そこから、更に話はモンスターや勇者の事にまで飛ぶ。
モンスターがヒューマスにとって脅威なのは、その身体的な能力もさることながら、一番厄介なのは魔法を両者が使った場合の優先順位にあると言う。
魔法が使えるヒューマスとモンスターが戦った場合、例え魔素世界に先にヒューマス側が扉を開いたとしても、それらはモンスターの方へ優先的に流れて行くらしい。
つまり、ヒューマス側が幾ら魔法で攻撃を仕掛けようとしたり、魔力による強化を行おうとしても、モンスターの方が先にそれらの力を奪ってしまうので、発動に時間がかかり過ぎたり、発動しても質の面で差が出るのだと言う。
むしろ、モンスターを活性化させる結果ともなるらしい。
これは、魔素を取り込んで魔法使いとなったヒューマスも避けられない現象で、その為、基本的には遠距離による攻撃以外、モンスターには効果のある攻撃ができないとの事だった。
これに対し、モンスターと同等かそれ以上の割合で、魔素世界から魔力を得る優先権を得たのが、勇者と言う存在なのだとか。
何故そうした力を持つのかは今も不明であるそうだが、それが出来たからこそ勇者と呼ばれる存在が生まれたらしい。
ただし、モンスターの種類によっては、勇者のこの力も不動とは行かないらしく、不安定と言う弱点も持つ。
そうした面から考えても、今では安定して力を使える魔装騎士などの方が、勇者よりも優れている事になっているらしかった。
魔装騎士らが使う魔法武器は、事前に魔力を充填してから使用する為、魔素世界の優先権など関係が無いからだ。まあ、その分、長期戦になると流石に不利となる事もあるらしいが、魔法武器も少なからず魔素を吸収する能力があるので、燃費と言う点でも優れている為、その様な事は滅多に起こらないらしい。
新しい情報を得て、この世界の仕組みと言う物が分かったと言うのは、有意義と言えた。
だが一方で、更なる疑問も湧く。
マツリカ達も、アニーズによれば魔法武器と言う扱いになっている。魔装騎士達が使う物と、一体何が違うと言うのだろうか。
そもそも、森の中でモンスターなどと戦っていた際、そんな優先順位の様な物は感じた事がない。
リディのブレンダン・バーズに、ターナの炎をまとう攻撃、そしてアニーでさえも魔法と関係しているらしい攻撃を使える。
レベルから言えば、彼女たちのそれは、モンスター側に優先順位がある以上、使い難さとか、威力の減少もあってしかるべきはずだ。
更に言えば、俺の使うアニーズだって、影響を受けてもおかしくはない。
だが、そんな現象など、俺が知る限りでは感じた事がない。或いは、これが強さと言う項目が関係している事なのか。
だとしてもだ。
それなら何故、マツリカ達では、エレメンには対抗できない事になるのか。
フォーメルの説明では、単純に魔力の込めた攻撃方法の違いにある様な事を言っていたが、彼女たちの力が、それに劣っているとは思えない。
倒せないにしても、全く効果が無いと言うのは、どう考えても変だ。
思い悩むハルタの姿を見て、マツリカは不味いと考え始めた。
このまま放って置くと、苦戦した理由についてこちらに聞きそうだったので、彼女は別の方に意識を持って行く様に仕向けた。
「お喋りはそこまでにしろ。敵がこれだけとは限らん。 全員で警戒に当たるぞ。 リディ、イユキ、ターナ、動けるな?」
急に仕切りだしたマツリカが、まだ色々と考えたい俺の行動を邪魔するかの様に指示を出す。
ただ、意見自体は物凄く全うであった為か、誰も意義を唱える事無く従った。
俺でさえもそうであり、促されるままにリディの中に入らされた。
「オイオイ。 予定が完全に狂っちまったんじゃねーのか。俺たちの出番はどうなるんだよ」
砦付近の戦いを見守っていたアンガムが、さも不満そうに漏らした。ただし、その顔はニヤけている。
「もも、問題はない。や、や、やる事は、いい、一緒だ。 お、お、お前たちには、あ、あの連中を、ぜ、全員消してもらう。たた、ただ・・・・」
「ただ、何だ?」
「こ、こ・・・」
「お前らの痕跡は残すなよ。 あくまでも、勇者とか言う連中を倒したのは、シーゼスのエレメンタリスだ。
そして、そのエレメンタリスたちも謎の失踪をして、元老院共の失態に繋がる。
これでレパンドルには、まだ隠し玉があるとコッチ側の方で自由にでっち上げられる。
オラ、全滅させれば、全て予定通りだろ。 サッサと行け」
キライスに変わり、そうソライが説明した。




