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俺のLVは上がらないのに、  作者: 松戸真 寿司
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~謎の勢力~ -21. 天敵襲来 その6





 俺たちは砦に一日程度で到着したのだが、そのまま待機していた。


理由としては、あの後セイレアヌから連絡があり、派遣されて来ると言うフォーメル達を待っていたからだ。

その間に砦に居る連中をアニーズで調べてみたのだが、中にクラッデルム・バーズバルンなる人物を見つけるとマツリカが騒ぎ出したので鎮めるのに苦労した。


砦を落としたと言う割には敵の数は少なく、十数人程度しか居ない。

砦の守備隊の数は知らないが、まさかこれ以下と言う事はあるまい。

それなのに、こうも容易く落とされるものなのか。

いや、あのクラッデルムと言う奴の戦闘力は異常でもあるので、並の兵では何人居ても同じなのか。

しかし、腑に落ちない。


 一度負けた奴が何の策も弄さず、以前よりも少ない兵力で何故ここに来たのか。

やはり、コイツラは囮と見るべきなのだろうか。

念の為にユーカと連絡を取ってみたのだが、それらしき動きはレパンドルの王都近辺には見られないという。

それなら一安心なのだが、もう一つだけ引っかかっている事がある。

それは、見たことの無い兵種が混ざっている事だ。

敵の構成はクラッデルムと言う魔装騎士一人に、普通の兵士が約半数、そして残り数名がエレメンタリスとか言う初めて見るタイプの連中だった。

アニーズの説明によると、『魔力の源より使いを呼び寄せて扱う特殊能力者』と言う風に説明されてはいるが、具体的な事は分からない。

レベルは大体、5から6程度。

拾える情報だけで判断すれば大して脅威には思えないのだが何かが引っかかる。


アニーズの情報のみで推測すると魔法使いか何かって感じだが、使いってのが怪しい。

俺の中にある知識だけで当てはめるならば、何かしらの召喚獣なりを使うとも考えられる。

だとしたら、どの様な兵力を展開するか分からない。

ここは慎重に行くべきだろう。


セイレアヌに情報の提供を求めたいところだが、ユーカレブトの話では監視が付いているそうなので、こちらから質問すると色々と面倒な事が起きるらしい。

実際、幾つかの連絡を取り合った際も、返答には時間がかかる様な事が何度も起きている。

後で分かったのだが、気軽に連絡するとセイレアヌにもどうやら迷惑がかかるらしいので、できる限り控える様にしているのだ。

面倒事は予想してはいたのだが、思っていた以上に煩わしい。

さて、どうした物か。




「ひ、ひ、標的を確認。 ばば、場所を送る。 りり、両方に、あ、あ、当てるなよ」


物陰に隠れてハルタたちの様子を伺っていたキライスが、何かの印の様な物を素早く切ると、目を閉じて集中する様な仕草をする。

それを合図にして、更に遠くで一瞬何かが光った様に見えたのだが、そこは砦やハルタたちの位置からは死角となっていて、誰も気が付かない。

勿論、そう計算して彼らは潜んでいた。

放たれたのはアンガムによる爆煙魔法の一種で、それはキライスの誘導によって正確に"目標の手前"に着弾した。




 均衡は突然に打ち破られた。


突如として、俺たちが潜む位置に砲弾でも撃ち込まれたかの様に高々と土の柱が立ち上がると、爆炎と爆風の様な物が広がって辺りを弾き飛ばす。

幸いにも素早く反応したメンバーは回避し、俺もリディの中に居たので無傷だった。

だが、完全に潜んでいたのがバレてしまう。

砦を見ると案の定に騒ぎ出しており・・・・と言うか、向こうの方でも火の手が上がっている。

どういう事だ?

だが、今はそれどころじゃない。

一人の男が特に騒いでいるのが見え、俺にはそれがクラッデルムとか言う奴である事が直ぐに分かった。


「ハルタ、位置がバレた。 もういいだろ? いや、いいな」


何時の間に来たのか、リディの直ぐ側で既に刀を抜いていたマツリカは、敵の方向だけを見ながら確認を取る風に聞いてきたが、当然ながらそれは形式的な物でしかない。

そう言い放った直後、俺が何も言わない内に駆け出していた。


「ちょ、おい、ま・・・・クソっ! ターナ、マツリカに付いてくれ。 イユキは周囲を警戒しつつ前進。 アシュレイ、何時でも支援攻撃ができる様に準備しろ。

イーブル・ラーナンは援護の為、適当に付け」


号令により、それぞれが素早く行動する。

俺自身も素早く辺りを見回すが、アニーズで拾える情報はない。

どうやってコチラを見つけ出したんだ。

それに、あの攻撃はどこから来たのか。

一抹の不安が過るが、動き出した以上はのんびりと考えている暇はない。

フォーメルたちがまだ到着していないが、こうなれば仕方が無いだろう。

俺は覚悟した。




「おおおおおお!」


「うらー!」


弾かれる様に飛び出した二つの者は更に加速し、あっという間に接近したと思ったら、今度は爆発する様な音を立てて切り結んだ。

いや、実際にそこを中心として、ぶつかった衝撃波の様な物が辺りを襲う。

しかし、一方は踏ん張ったまま地面に二つの跡を残して後退させられた。それは、マツリカの方だった。

ようやくクラッデルムの突進力を止めると、今度は鍔迫り合いで火花を散らす。

ぶつかり合いでは遅れを取った物の、その土俵ではマツリカが上回りギリギリと押し返す。


「久しぶりだな。会いたかったぜ」


凶悪な笑みを浮かべ、マツリカが刃越しにクラッデルムに語りかける。


「気が合うな。 コッチも貴様を殺すのを、今か今かと待ちわびたぞ」


その言葉にマツリカが意外そうな顔をしたが、直ぐ様何時もの顔に戻ると再び押し返し始める。

マガツノミホロとも呼ばれる妖刀の大きさはマツリカの身長の約半分以上、刃渡りだけでも90センチメートル程あり、彼女と比べても大振りとも言えたが、クラッデルムと彼の持つ魔法武器は更に巨大だったので、それらと比べるとどちらも小さく細く見えた。

しかし、その見た目に反して小柄な方が大きい方を押して行くと言う、一見すると異様な光景が展開される。

それは同時に、両者の実力差を知らしめるに分かりやすい構図でもあったのだが、クラッデルムは一歩も引くことをしなかった。

それを示すかの様に、彼の全身から幾つもの小さな魔法陣が展開し、早々に魔法武器の制限を解除する。


「オイ、貴様。 名は?」


「ああ? 何で私が、お前如きに名乗らなきゃならないんだよ」


「そいつは残念だ。 俺が初めて倒したアーマルデ・ロイデンは、名無しって事で後世に語り継いでおいてやる」


「あーま・・何?」


次の瞬間、クラッデルムの武器から魔力が溢れ出し、即座に爆ぜてマツリカを襲うと、彼女を弾き飛ばして派手に地面を転がさせた。


「マツリカ!」


他の兵士を牽制していたターナが駆け寄ろうとしたが、彼女にも何かの魔法攻撃が放たれて距離を取らされる。

見ると、数人の兵士が地面と空中に青く揺らめく蜃気楼の様な物を発生させ、更には何か薄水色の鳥っぽい姿をした幻影みたいな物を出現させていた。



「何だあれは!?」


俺は慌ててアニーズを使う。


名称『ディナード』レベル10

種別『エアル系エレメン』強さ『シルフィード・ダウン』危険度『オリジナル属下位』

『風属性のエレメンで、その下位種。風系の魔法を主として攻撃するが、オリジナルの加護により、許される範囲でそれを応用した他属性の魔法も使う。』



エレメン?オリジナル?

見たことも無い表示が並ぶ事に俺は動揺する。

強さの項目も、今までのケルベロスとか青龍とかの表に当てはまっていない。

そうした例外は俺やミズツノシシオギ、そして、パワーアップタイプのマツリカでしか見た事がない。

何か知らないが、ヤバイ。

情報的にもそうなのだが、その姿もどことなく危機感を覚えさせる。


しっかりと見れば水色っぽい姿を確認できる物の、ちょっと油断すれば直ぐに見失いそうな程、ディナードと言うエレメンだとかに分類される奴は存在が薄い。

きっと青空に透かして見れば、簡単に見失うだろう。


これで動きが速かったら相当に厄介だが、もしかしたら、物理的な攻撃も効かないんじゃないんだろうか。

アニーズではその辺の情報を拾ってくれないので、確認するためには戦う以外に無い。

しかし、それは大きなリスクを伴うことにもなる。

そして、一旦引いた方が良いかと考える暇もなく、状況は更に混迷を深めて進む。



「とどめだ!」


地面を蹴ってクラッデルムがマツリカに襲いかかる。

当のマツリカは、片膝を付いたまま動かない。

だが、攻撃が届く瞬間、素早く跳躍してその一撃を回避する。


「ほう、まだ動けるのか」


地面にめり込んだ武器をゆっくりと抜いて構え直すと、クラッデルムは再度魔力を蓄え始めた。


「マツリカ、どうした! 大丈夫か!?」


リディの中で俺は叫んだが、当然ながら距離的な事もあって届くわけもない。

あの程度の攻撃、マツリカに効果があるとは思えないのだが、明らかに様子がおかしい。

アニーズで調べると、確かに『損傷・小』となっているのだが、今までの敵と比べたら大した事は無いはずだ。

何より、一度は勝った相手のはず。実際、組み合った時に押してたのも彼女の方だ。

何かしらの対策を立ててきたとしても、こうも圧倒される物なのか。

しかし、それすら分析する暇は俺にはなかった。

なぜなら、ターナも劣勢に立たされていたからだ。


例のエレメンとか言う奴の攻撃は思った以上に激しく、ターナの速度を持ってしても全てを回避できない。

何より、攻撃の手数が多すぎる。


だが、こっちも様子が変だ。

ミズツノシシオギの攻撃にさえ直撃でないにせよ耐えたターナが、この程度の攻撃で明らかにダメージらしき物を負っている。

こちらもアニーズで確認すると『損傷・小』と表示されている上に、表情も嫌そうにしていた。

アニーズでは拾えない特殊効果でもあると言うのか。

しかし、それでも速度差で勝るターナは何とか攻撃を掻い潜ると、一体のディナードの胴体を横一文字に切ってみせる。


だが、切られたと思ったディナードの体は、ターナの刃が一閃した部分だけに切れ目が走った次の瞬間には、何事無かったかの様に繋ぎ合わされ背後を見せたターナに直ぐ様襲いかかった。

ターナもそれを着地した瞬間に勘を頼りに交わすが、連続した攻撃と数の多さで直撃こそしなかったものの確実にダメージを負わされる。


やはり、物理的な攻撃は効かない様だ。

コイツは相当に厄介だ。


だが、俺の心配を他所に、ターナの方は冷静に状況を見ていた。


僅か一瞬、敵の攻撃に切れ目ができるのを見て取ったターナは、敵の本体である蜃気楼を発生させている連中に素早く突撃する。


(そのまま中に入って暴れてやる)


そう思って全力で迫った彼女だったのだが、次の瞬間、地面から発生する蜃気楼との境目でスパークが走ると、その突進を完全に止められてしまう。

尚も強引に入ろうと短剣を突き立てるが、蜃気楼によって生み出されたと思われる障壁はビクともせず、遂に力負けしたターナは、自身が与えた反動そのままに弾き飛ばされる。

そして、その無防備な体制に対して、ディナードらの容赦ない追撃が襲った。

その攻撃をターナは空中で体を回転させ、更に捻って四肢を振り回して何とか直撃を避ける。


あの状況と状態で攻撃をかわして見せたのは見事だったが、それでも無事とは行かず、ターナは『損傷・中』となってしまう。


やっぱりおかしい。

幾ら何でも、ダメージの進行が早すぎる。



「リディ、前に出ろ。 前面に出て二人を補佐する」


「行けませんわ」


動こうとした俺を、イユキが制止した。


「何故だ」


「我が君は、私達の要。 迂闊に動くものではありません。 ここは、任せてもらいます」


言うが早いか、イユキが数人のイーブル・ラーナンを率いて飛び出して行く。

そして、連れ立ったイーブル・ラーナンにイユキが何かをしたと思ったら、その内の一体が加速してマツリカへと向かった。


その直後だ。


マツリカがクラッデルムの攻撃を至近距離から受け止め、再びあの爆ぜる様な魔法を喰らおうとした瞬間、その間に割って入ったイーブル・ラーナンがマツリカの手を取ってその体を強制的に反らせて自らの影に入れると、その魔法攻撃を一手に受け止める。

そして、激しい爆発が二人を包んだ。


「マツリカ!」




 クラッデルムが今度こそと思った瞬間、緑色の何かが間に割って入ってきた。

ほんの一瞬だけ時間が静止したかの様に見えたがしかし、次の瞬間にはクラッデルムはニヤリと笑うと、構わずに魔法攻撃を放って、もろともに吹き飛ばして見せる。


その威力は凄まじく、使用者もろとも包んで辺りを弾き飛ばし、地面さえ掻き回して土煙を充満させて視界までも奪った。


基本、魔法攻撃は遠距離へと放つものだが、自身に絶対的な魔法防御を敷く事ができる魔装騎士は、超至近距離からでも魔法による攻撃を行えた。

それが、ある意味で魔法使いと一線を画す部分でもあり、そして魔装騎士が魔法使いに取って変わった理由でもある。

魔法防御力も高い魔装騎士には、遠距離からの魔法攻撃は殆ど通じない。それは魔装騎士同士にも言えることだ。

その中で唯一例外と言えるのが、この至近距離からの魔法攻撃である。


多少は防御される事はある物の、実力差を伴う場合は少なからずダメージを与えられる。

もっとも、近年における主流は、魔法によって物理攻撃を付与する形であり、魔装騎士同士でもこれはなかなか防げない。

それ故に、現在の魔装騎士は殆ど魔法による攻撃を行わない。

それが、ある意味でアーマルデ・ロイデンに対しては盲点となり、活躍を許したとも言える。


遠くから魔法攻撃を放つと言う手段も、恐らく有効だっただろう。

だが、それでは一方的に成りすぎて面白くない。

いや、あの異形の鎧を着込んだアーマルデ・ロイデンはすばしっこいので、かわされる恐れもあった。

故に、クラッデルムは確実性と、自分のプライドを満足させる為、敢えて至近距離からの攻撃を選んだのだ。


その選択は、あくまでも偶然であったが、しかし、この場にあっては正しいと言えた。



 増援がカバーに入ったのは予想外だったが、それでもあの攻撃を喰らえば唯では済むまい。

万が一無事であれば、その弱った相手に屈辱を味わせる様に、存分にいたぶってから止めを刺してやろう。

クラッデルムは、舌なめずりをしながら煙が晴れるのを待つ。

その間、チラッと別の連中の方に目をやると、短剣のみの軽装と言うより半裸に近い娘との戦いに、例の盾の女が駆けつけるところだった。

短剣の娘は動きが速く、それによってエレメンタリス共の攻撃を辛うじてかわす。

ある意味、見事ではあったがそれだけだった。

相当に苦戦しているのが遠目からでも分かる。

倒されるのは時間の問題だろう。

ただ、あれらも、アーマルデ・ロイデンなのか?


多少の疑念をクラッデルムは持ったが、今はどうでも良いと思い直す。

直接戦った感想として、あの盾の女も簡単にはやられる事は無いはずだ。

コッチを済ませたら、直ぐ様向かってやろうと決意を固める。

と、唐突に吹いた風が煙を払った。


そして、緑色の女の形をしたであろう者が半壊した姿を見せたが、その背後では例の異形鎧のアーマルデ・ロイデンが無傷でそこに居た。


「ば、馬鹿な。 あの攻撃が届かなかっただと・・・・!?」


この日、初めてクラッデルムに動揺が走る。

魔法攻撃は直撃したはずだった。

緑色の人形が何であれ、あの攻撃を至近距離から受ければ、身を挺して守ろうとしても唯では済まないはずなのである。


クラッデルムが放った『旋刃炎爆』は、モンスターですら一撃で大ダメージを与え、時には屠る事さえある。

実際、彼は幾匹ものラーナンをこれで血祭りに上げてきたし、フォッドにさえも負けたことがない。

例え相手の防御力が高いとしても、全くの無傷などありえないはずなのだ。

特に至近距離から凝縮されて放たれた魔法攻撃は、放たれた瞬間に威力が減衰する遠距離タイプと違い、威力だけで見れば絶大である。

しかも、クラッデルムによる力を上乗せした全力とも言える攻撃を、あの緑色は犠牲になったとは言え遮断したと言う事になる。

クラッデルムは実感として、自分の放つ攻撃はそんな安っぽい物では無いと自覚していただけに、軽くショックを覚えた。

そして、彼の驚愕は、チラリと見た味方の攻防で更に膨れ上がる。


 エレメンタリスの率いるエレメンらの攻撃を、あの盾の女は容易に受け止めており、更には、例の緑色した人形は魔法攻撃を物ともせずに突撃すると、陣形に分け入って何人かを血祭りにあげた。

幸いにも、連れてきた兵士が盾となったのでエレメンタリスたちは無事だったが、こちらが考えていた様な勝算が揺らぎ始める。


(馬鹿な。コイツラは、アーマルデ・ロイデンではないのか。 いや、こっちの異形鎧は魔法が利いている。 ・・・・ならば!)



「聞け、緑色とその盾女はアーマルデ・ロイデンでは無い。 エレメンタリスは、この異形鎧を相手にしろ。 その盾の奴は、俺が始末する」


仕留められる寸前の獲物を放置するのは葛藤があったが、二度も負けられないと言う今のクラッデルムには、容易にその判断を変える事ができた。

万が一など、彼には許されないのだ。



 その号令に従い、エレメンタリスの一団は素早く動いた。ディナードで他を牽制しながらも地面に発生させていた蜃気楼を解除し、陣形を保ったまま移動する。

十分に訓練されてもいる証拠であろう。

そして、クラッデルムと交錯する様に入れ替わると、予め決められた手順があるのだろうが、数名が再び青い蜃気楼を展開し、それ以外は標的に直ちに攻撃を仕掛ける。

横目でその様を確認しつつ、移動を突進力に変えたクラッデルムは、横から迎撃してきた短剣娘と緑色の人形を物理攻撃で弾くと同時に、盾女に突撃、接触の瞬間に魔法攻撃を放った。

再び爆炎が辺りを包み、身を翻して次に備えようとしたクラッデルムを、その爆炎を割って現れた盾の先端が襲う。


「まさか!」


驚いて飛び退いたクラッデルムの目には、盾を前面に構え、無傷のその女が何事も無かったかの様に立っていた。

見れば、異形鎧の方でも逆転現象が起きており、遠距離から放たれる魔法攻撃は全て叩き落とされ、エレメンタリス達が苦戦を余儀なくされている。

ただ、相変わらずディナードへの攻撃は通らない。


あの異形鎧は、アーマルデ・ロイデンではなかったのか!?

魔法攻撃を弾くなど、ありえん。


心うちにそう叫ぶクラッデルムだったが、しかし、異形鎧は直接的な魔法攻撃は効いていたはずだ。

なのに何故。

アーマルデ・ロイデンが対魔法の手段を持っているなど、聞いた事がない。

もしかしたら、全く別の兵種ではないのか?

そう言えば、この連中、勇者の一味であったはずだ。

ならば、これが勇者の力なのか?



「おのれ、元老院の無能どもめ。何がアーマルデ・ロイデンならば楽勝だ。 勇者の存在を無視しおって」


クラッデルムは怒った。

だが、目の前の連中が何であれ、彼は倒すと言う意外に方法はない。

幸いであったのは、要注意であった異形鎧の方が足止めされていることだ。

これならば、まだ勝機はある。



 強気の姿勢を見せていたイユキだったが、実際には焦りを隠すのに必死であった。


正面からの攻撃に関しては完全に盾で防ぐ事ができたのだが、包み込む様に襲いかかる敵の特殊な攻撃は、確実にイユキに届いていた。

しかも盾の付与効果を受けているはずなのに、それをある程度無視してダメージを受ける。


(コイツ、どういうのですの。 なぜ威力を殺せないんですの)


最初に相対していた連中の攻撃は大したこと無かったが、今目の前に居る敵の攻撃は明らかに次元が違っていた。

いや、それだけではない。

敵の繰り出す攻撃は、まるでイユキにだけは効果があると言う感じだった。

実際、盾その物は敵の攻撃に対してダメージらしき物を負っていないのに、自分と言う存在だけが極端に弱いという減少が起きている。


(本気を・・・いえ、こんな雑魚に、我が君から頂いた力を使うなど。 第一、そんな悠長な事はやる暇はありませんわ)


イユキは、何事かをやりかけて止める。




「アシュレイ、遠距離攻撃だ。 マツリカを援護しろ」


敵の攻撃を迎撃するのに精一杯のマツリカを見て、俺はアシュレイへ加勢する様に指示を出す。

それを受けて無言のままにアシュレイがボウガンを構えると、狙いを済まして放った。


届く。


そう思った瞬間、例のディナードとか言う召喚獣らしき一体が体を回転させると、突風の様な物が吹いて矢を弾いた。

更に、続けざまにこちらに風の刃の様な物を連続で発射する。


直撃を受けたが、リディの方は無傷だった。いや、正確には、鎧のお陰と言えたのかも知れない。

安心した所でアシュレイの様子を探ろうとしたのだが、その影でリディが密かに顔を歪めていたのを俺は知る由もない。


 

 アシュレイは例の攻撃によってやや後退すると、片膝を付く。

アニーズによると『損傷・中』となっていた。


やっぱり何かがおかしい。


全体からすれば、確かにアシュレイのレベルは7程度と低い物の、この程度の攻撃でダメージを負うとは思えない。

大体、ヒューマスと彼女たちでは、十倍以上のレベル差があるのではなかったのか?

それとも、ディナードと言うエレメンだか何かは、その上を行くというのだろうか。

実際、見慣れない表記が幾つかあるので、その可能性は高い。

だとすれば、一度敗れた連中が再度来た意味も分かる。

これは、不味いかもしれない。



「アシュレイ、下がれ」


その言葉にしかしアシュレイは首を振って立つと、他の武器を地面に突き刺して四本の腕を開ける。

そして、連続で矢を放つという離れ業をやってみせた。

途端に、ディナードの遠距離攻撃とアシュレイの放つ矢との応酬合戦になったのだが、明らかにアシュレイの方が分が悪い。


そして、打ち負けたアシュレイに敵の攻撃が届こうとした瞬間、リディがカバーに入って攻撃を防いでみせた。


しかし、それで安心していたところへ、背後で力を溜めていたであろう別のディナードが前面に出ると、肉眼でも確認できる程の風の渦と言うか、特大の何かを撃ち込んできた。


一瞬だけ強い風がこちらに届いたと思った瞬間、それは風の威力だけではない、何かの作用を持った力になって俺たちに襲いかかり、木々と一緒に薙ぎ払う。



「我が君!」


「ご主人様!」


リディとアシュレイが吹き飛ばされた瞬間、思わずその方向へ振り返ったイユキとターナ。

それを、クラッデルムが見逃すはずもなかった。


「もらった」


盾を掻い潜り、魔法武器の切っ先をイユキの体へ直接打ち込む。

戦場にあって不自然なドレスはしかし予想外に硬い感触を持ち、やはりコイツはアーマルデ・ロイデンでは無いのかと一瞬疑問が過ったが、間髪入れずに魔法攻撃を炸裂させた。



「イユキ!」


一瞬のよそ見の内に敵がイユキの懐に入り込んだのを見て、ターナは駆け寄ろうとしたが、次の瞬間には凄まじい爆発が起き、イユキが宙に舞い上がって吹き飛ぶのが見えた。周囲を囲んでいたイーブル・ラーナン達も、回避しようと大きく飛び退く。

ターナ自身は近距離でその余波で弾かれてしまい、飛ばされる。


空中で体を捻って何とか彼女は地面に着地したが、明らかに体制は崩れており、そこをクラッデルムが追撃してきた。

そのまま連続した攻撃が繰り出され、完全に虚を突かれてしまったターナは地面を転がってしかかわす事ができない。

しかし、クラッデルムは、そんな単純な逃げ方を何時までも許すほど甘くはなかった。


敢えて攻撃をパターン化させる事で、ターナがその逃げ方しかできない方向へと追い込むと、その先を読んだ一撃が遂に彼女を地面へと張り付けにする。

頭部を狙ったそれを辛うじて首を傾けて避ける事ができたターナだったが、魔法武器とクラデッルムに挟まれる格好となった。

そして、この距離は完全にクラッデルムの間合いでもある。


「死ね」


魔力が充填されたと感じた瞬間、直ぐ様それは開放された。

だが、ターナは刹那的に魔法武器に短剣を引っ掛けると、そこを起点として体を丸めながら空いた空間へと捻るという動作を行う。

攻撃に集中した為、クラッデルムはそれを見ている事しかできなかったが、感覚的にそれが直撃を避ける為に行ったと感じ、舌打ちをした。

そして、見事にターナは直撃を避けてみせたのだが、それでも至近距離からの攻撃を完全に防げる訳も無く、ズタボロになって弾き飛び、地面にもんどり打って転がった。


見た目にも相当なダメージを負った事が分かるが、彼女は辛うじて立ち上がると、顔を歪めながらも短剣を構えて見せる。

何度も攻撃を凌ぐその様に見事だと思う反面、クラッデルムは怒りを覚えた。


(たかがアーマルデ・ロイデンごときが)


膝を屈めて突進の威力を高めようとした所へ、緑色の人形が周囲から襲いかかってきたが、それを魔法武器を振って一瞬で屠る。

それにより、その場に居た緑色の人形は全滅した。

クラッデルムは、エレメンタリス共を相手にしていた時と違う手応えに一瞬疑問を持ったが、直ぐにカラクリ的な事に気がついてニヤリとする。


そうか、そう言う事か。


盾の女にしろ緑色にしろ、何かしらの魔法による強化を受けているのだ。

恐らくだが、異形鎧が魔法攻撃を撃ち落としているのも、それが答えだろう。

アーマルデ・ロイデンは、そうした事が不可能だと聞いた事があるが、それは唯の言い伝えでもある。

現実的にそれができているので、何かしらの方法があったのだろう。

或いは、それを確立できたからこそ、アーマルデ・ロイデン等という物を引張出してきたか。


だが、その効果は限定的、或いは制限がある。

実際、魔法攻撃に関しては対応できていると言うだけで、それを完全に防げてはいない。

そして、コイツらは、もはや切り札を当の昔に使い果たしたと見て良いだろう。

実際、緑色共があっさり屠れたのがその証拠だ。

でなければ、さっきまでエレメンと渡り合っていた事に説明がつかない。

更に言えば、コイツらは明らかに経験も浅い。

戦闘センスに関しては認めざる得ないのだが、それを活かす方法を知らないのが見て取れる。


それは当たっているとは言えなかったが、全く外れでもなかった。


しかし、それによってクラッデルムは、絶対的な勝利がそこにあると確信する。

一度負けて謙虚さを持ったつもりだったそれは既にそこにはなく、傲慢さと屈辱を与えた連中に存分に復讐できるという喜びが爆発した。


「ふははははははは」


どす黒い感情を内側から吐き出す様に彼は笑う。




 敵の雰囲気が変わった事に、ターナはやや後退った。


眼前の敵は今までだと、どこか必死になっていると言うか余裕が無い感じだったのだが、ここに来て急に威圧感の様な物を放ち始める。

自分の状態が悪い事もあってか、それは尚更ターナには脅威となって映った。

事実、彼女のダメージは相当なものとなっており、自身でも限界が近いのを感じる。


(力を使えれば・・・)


と、そう考えた時、男は突然身を翻すと、ターナを置き去りにして非ぬ方向へと全速力で移動し始めた。

否、その方向にはハルタが居る。


「ま、待て!」


我を忘れて駆け出したターナだったが、その瞬間を待っていたかの様に男は振り向くと、何かしらの攻撃を広範囲に放った。

そしてそれは、直進的な動きをしていた事や、既に体が限界だった事。更には自ら飛び込む形となったので、ターナには回避のしようがなかった。


単純な戦闘力で言えば確かにターナの方が上だったかもしれないのだが、戦闘における駆け引きにおいては完全に経験が不足してた。

そのため、こんな見え透いた手に容易く引っかかったのだ。

そして、クラッデルムもそれを見越していた。


それでも彼女は諦めない。


僅かに反応できた時間で横っ飛びになりながら、その力を利用して回転し、できるだけ体を丸めて被害を最小限に留めようと試みる。

果たして、それは上手く行き、ターナは数発の直撃を受けはしたが、辛うじて健在さを残す。



「ほう」


ここまで来ると、流石にクラッデルムも感心せずにはいられなかった。

そのセンスも去る事ながら、絶対的な不利においても決して諦めないと言う姿勢には、軽く感動を覚える。

が、所詮はアーマルデ・ロイデン。

人の様であって人ではないからこそ、そこまでの力を出せるのだろう。

そう考えると、同時に憎たらしさが増幅される。


「なかなかに楽しかったが、もう終わりだ。 こっちも忙しいんでな」


クラッデルムは魔力を充填させると、二段階に攻撃をする準備に入った。

一発目は遠距離攻撃を広範囲に。

そして、それを回避するか或いはかわし切れなかった所へ、必殺の一撃を叩き込もうと狙いを定めた。

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