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俺のLVは上がらないのに、  作者: 松戸真 寿司
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~謎の勢力~ -18. 天敵襲来 その3





 ハルタから話を聞かされた後セイレアヌは軽く曲げた指を顎付近に当て、思わず考え込んでしまった。

彼から聞いた話は全て衝撃的であり、そして、ここ最近に起きた全ての事象の説明にもなっていたのだが、同時に新たな問題が浮上した事に彼女は少なくない不安を覚える。

本音を言うならば、全ての話を処理しきれない事に戸惑っていると言う事の方も大きい。

 ハルタ自身、自分が何者かは分からず断片的な情報と記憶しか持ち合わせてはいないという。

その僅かな手掛かりから推測した結果、彼はどうやら異世界から来たらしいと結論に行き着いたのだとか。

魔法武器が使えない理由は、恐らく、この世界の者ではないからだとも言う。

確かに、それなら同調できなかった理由にもなるかも知れない。

ただ、それを信じられるかと言うと話は別だ。

 そんな人間、聞いたことも見たこともない。

第一、それならアーマルデ・ロイデンの様な力は何であるのか。

いや、引き連れてきた連中があまりにも人間に近いと言う事実を見ると、確かに似て非なる力の可能性もある。

一般的に知られているアーマルデ・ロイデンに照らし合わせれば、ユーカとマツリカと呼ばれる者達は、あまりにも姿形が完璧過ぎるのだ。

これでは噂される邪神ではないか。

それとは別に、ジュデの森奥深くに放り出され、そこでモンスターを相手に生き残ったと言う話にも驚かされた。

強力なアーマルデ・ロイデンの使い手であるとしても、中心部のモンスターを相手に戦って生き残る等、常識的に考えれば不可能だ。

しかも彼の話によれば、あのバンドラナの集団さえ倒したと言う。


 バンドラナは、単体でもバウンダー以上の戦闘力を持つ化物だ。

それを群れごと打ち倒すなど、にわかには信じられない話である。

もし、それが本当であったならば、ハルタはやはり勇者の類と言う事になる。

それでも、これまでの経緯から考えればアーマルデ・ロイデンの可能性が消える訳ではないが、規格外の存在である事は確かだろう。

加えてジュデの森奥にあると言う王都跡や突然現れて消えたヴィーダルが、ミズツノシシオギと言うモンスターのせいであるなど、今まで知らなかったどころか、噂すら聞いた事も無い話を次々と聞かされセイレアヌは内心パンク寸前でもあった。

特に、ヴィーダルを自在に作ると言うミズツノシシオギが本当に実在しているとしたなら、それはそれで由々しき事態でもある。

同時に、それを退けたと言う話が本当であるならば、ハルタらの力も脅威と言えた。

また、森の奥にあると言う王都跡の話も色々と妙だ。

今までジュデの森の中に、国が栄えた話など聞いた事がない。

もっとも、異変が起こる以前にも森の中心部に行って帰ってきた者などいないのだから、ありえない話でもない。

ただ、長い歴史においてレパンドルはずっと森と接してきたのに、その様な国が存在していた等とは少しも聞いた事がないのだ。


 嘘を言っている・・・・分けではないだろうが、直ぐには信じられなかった。


「異世界からの転生者・・・ヴィーダルを創造する青いモンスター・・・。 ごめんなさい、何だか私、とても信じられなくて・・・・」


セイレアヌの顔には困惑と不安が浮かび上がったままだが、それを隠そうともせずにハルタに向けた。

しかし、何故かハルタも似たような顔をしていたので、彼自身も説明できる物がそれ以上に無くて困っている様にも思えた。

助けを求めようとフォーメルの方にも軽く顔を向けてみたが、どの様な意味であるのか首を横に振る。

単に分からないというだけとも受け止められたし、こちらの情報をこれで絆されて渡すなとも取れた。


そのフォーメルは、助けを求める様なセイレアヌの目に応えられず、内心では非情に申し訳ない気持ちになってはいた。

半ば首を振ったのは無意識であったが、彼自身も軽く動揺してもいたのだ。

そこにはセイレアヌが読み取った様な複雑な意味も確かに込められていたが、実のところは彼も飲み込めずに逃げたと言える。

しかし、これまでにあった多くの疑問に対して、ある程度は納得の行く回答が出ると同時に、騙されているのでは無いかという疑念も湧き上がって彼を葛藤させた。

アーマルデ・ロイデンの可能性がありながら、その力の使い方を知らなかったハルタが実は異世界から来たというのなら、ありえない話でもない。

魔法武器に同調できないのを実際に確認する必要もあるが、それが本当であれば裏付けの一つともなるだろう。

だが同時に、異世界から来た者がなぜアーマルデ・ロイデンの力を持っていたのか。

いや、単に似た力であると言うだけで、実際には異なった力とも考えられる。

とは言え、全面的に信じられる話では無い以上、断定するのは危険だろう。

そもそも、何の為に、どうやってこの世界に来たのか。

本人は記憶が無いと言う風に装っているが、それも本当のことなのか。

どちらにしろ、目的や狙いがはっきりしない以上、当初の予定通りに対応する他にない。

だからこそ、彼は情報を見返りとして欲しているのだろうし、その為にレパンドルにも味方をする様な真似をしたのだろう。

そう考えれば、彼らの一見すると合理性に欠いた動きや要求にもある程度の納得がいく。

彼の話を全て信じるのであれば、受け入れるのは特に問題はない。

もっとも、更にややこしい問題が持ち上がっているのも確かではある。



「それで・・・ハルタ様、貴方はこの国に、どの様な形で関わりたいのですか?」


フォーメルが難しく考え込むのを横目に、多くの疑問とまだ消化しきれていない事柄を全て飲み込んだ上で、セイレアヌは無理やり本題に入った。

彼女の希望としては、このまま彼らを隠し続け、必要に応じてコチラのタイミングと都合で彼らを使うというのが理想的だ。

しかし、それでは完全に主人と使用人の関係となる。

当然だが、それを条件としたら彼らは反発するだろう。

故に、ここは敢えて向こうの出方を見る事にした。


「そうだな。 俺としてはセイレアヌ姫、貴方個人と友好を結んだ上で、そちらの要望に応じて動くと言う体を取りたい。

勿論だけど、無茶な要望やこちらにとって都合の悪い申し出は、断る事ができるのを前提で」


意外な答えだった。

いや、ある意味でセイレアヌの考えに沿った形でもあるので、むしろ拍子抜けとも言える。


セイレアヌはしばらくハルタの表情を伺っていたが、そこにはやはり何かしらの意図を読み解く事ができなかった事で溜息をついた。

何だか、駆け引きをしようとしている自分が間抜けに思えたのだ。

恐らく、ハルタは本気でこの提言をしているのだろう。

報酬と言うには、あまりにも安っぽい物で自分たちに協力を申し出ている。

拒否権をちゃんと挟んではいるが、大筋ではこちらの希望通りだ。

逆に、そのお人好しさが心配になるくらいだ。

とは言え、彼らの力はあまりにも未知数過ぎる。

現状においてアーマルデ・ロイデンであると仮定したとしても、レパンドルと言う国の利益を考えて動かすとしたら制約も多くなるだろう。

また、このままセイレアヌが個人的に彼らを抱え込むとしても、周囲にどうやって説明するかも問題だ。


偶然出会って気に入られ、個人的な尽力を申し出られた。


正直に説明すればその通りだが、その根拠となる部分に対する説明が弱すぎる。

本当に言葉通りに、個人同士の相性やら気が合ったに近い物なので、それだけで納得できる者が果たしているのだろうか。

更に言えば、彼らの正体の一つとして今のところの可能性であるアーマルデ・ロイデンと言う話をすれば、それだけで付き合いに難癖を付けられる理由の一つともなりかねない。

弱点が存在する兵種など、例え彼らが別物だったとしても、その一文だけを持って反対する者は出るだろう。

そう考えれば、ハルタが勇者のままで押し通した方が良いのだが、このまま隠し通せるのかも不安だった。

現状では、ハルタたちとの協力関係は秘密のままが良いのだが、それとて限界がある。

国ではなく、セイレアヌ個人が抱え込んだと言うのは、ある意味で警戒する他国への言い訳にもなりそうだが、当然だが下手な事はできない。

何れにしろ、彼らが諸刃の剣である事に変わりはないのだ。



 二人して難しそうな顔をするのを見て俺は戸惑う。

俺個人としての話は凄く単純で、情報の提供と引き換えに必要に応じて敵の迎撃を請け負う、と言うだけの話のつもりであった。

俺たちの存在がレパンドルと言う国その物にとっては厄介らしい事は聞いてはいたが、それとてやりようであり、それ故に個人と秘密裏に契約を結べば問題は無いと思っていた。

しかし、セイレアヌらの反応を見ると、どうもそう簡単には行かないらしい。


「何か問題でも?」


逆にこちらから聞いてみると、一瞬だけセイレアヌが戸惑った視線をこちらにお繰り返し、更にフォーメルの方をチラッとだけ見た後、何か決意するかの様に話しだした。


「・・・貴方達の力は魅力的ではあります。 上手く付き合えれば、この国にとっても良い物となるでしょう。

何より、ハルタ様の素性が知れた事で、他国の介入が無いと言う安心感を持って受け入れる事ができるのは、本当に喜ばしい」


一つ置いて、セイレアヌは更に続ける。


「ですが、私個人との関係を結んだ経緯をそのまま話したとして、周囲が納得するとは思えません。

疑わしいと思っている部分が全く無いわけではありませんが、それでも私は貴方を信用するでしょう。

でも、他の者が同じ様に受け取るとは限りません。

それを、どうやって補うかが問題なのです」



 なるほど。つまりは、セイレアヌ以外の人間を説得したり納得させるのは難しいって事なのだろう。

まあ、これは予想通りだ。

一枚岩では無いというのは俺の考えが余計過ぎるかも知れないが、人が集まる国の体制ではそれぞれに立場と意見がある。

だからこそ話をわかり易くする為に、個人との取引をしたつもりなのだが・・・・



「提案がある」


一時の静寂があったが、俺はそれを破る様に言い放った。


「秘密結社・・・は違うか。 謎・・・そう、謎の勢力として、俺の方から一方的に公表するのはどうだろうか」


「え?」


「茶番なのは分かっているが、謎の一団として大勢の前に出現して、貴方を名指しして協力体制をこちらから強要する。

名目上、こっちが勝手にすり寄るんだから、他の意見も貴方の意思も関係が無くなる。

そうなれば正体も関係も隠せる上に、大っぴらに連絡の手段も確立できる・・・はずなんだが、どうだろう?」


「・・・凄く・・・凄く無茶が過ぎる気がします」


「ですよねー」


 妙な言い回しをするハルタの返答に、セイレアヌは少しだけ目を丸くして身を引いたが、次の瞬間には可笑しそうにクスクスと笑い出す。

それを見て、フォーメルの顔も緩んだ。

そう言えば、彼女のこうした無防備な笑顔を見るのは久しぶりかも知れない。

国の為と担ぎ上げ、実際にその能力に惚れ込んで後押しし、できる限り力になってはいたつもりではあったが、やはり背負わせすぎていたか。

フォーメルは、胸にチクリと来るものを感じた。


「良いかも知れませんぞ」


同意するフォーメルに、二人が驚いた様に顔を向ける。

もっとも、ハルタの背後に控える連中はピクリともしない。

マツリカと言う娘は、ここからだと隠れる位置に居る為に様子を伺えないが、微動だにしなかったところを見ると、やはり意に介さなかったのだろう。

ユーカと言う娘も流し目でチラッと見た程度で、後は視線をハルタの方に向けていて興味無いという感じだった。

分かってはいたのだが、こうも興味を持たれないと言うのは少し悔しい。

それどころか、ハルタに少し嫉妬を覚えたりもした。

武器が美しい姿となって従うと言うのは、ある意味で羨ましいとも言える。


「どの道、ハルタ殿たちと関係を結ぶのは複雑かつ難しいのです。 ならば、ここは敢えて大胆な手法を取るのも良いかと。 それに、これならシーゼスの仕掛けた策も利用できます」


「シーゼスの策?」


訝しげにハルタが聞き返す。


「ああ、貴方達の働きにより、このレパンドルは侵略国家のレッテルを押されているのですよ。 故に、逆にそれを利用してやるのです」


「具体的には、どうするのです?」


今度はフォーメルとハルタのやり取りを聞いていたセイレアヌが割って入る。


「大筋はハルタ殿の考えた通りですが、そこにシーゼスの声明がレパンドルに味方するキッカケを作ったと言うのを付け足して、ハルタ殿には宣言してもらうのです」


「それで、皆は信用するでしょうか・・・・」


「別に良いのですよ。 疑う者も信じない者も居るでしょうが、人間とは裏を考えつつも、基本的には発せられた言葉を中心に据えるものです。 少なくとも、シーゼスへの強力な意趣返しにはなるはずです。

勇者ハルタの噂は既に国中に広がってもいますからな。

一連の行為は、彼の突飛な行動と謎めいた部分を補強こそすれ、むしろそう言った人物だと納得させるに十分な説得力を持つと思われます」



 褒められているんだか、貶されているんだか分からない言いように、俺は複雑な表情をする。

とは言え、フォーメルはこっちの案に乗り気である事だけは分かった。


「危ういですね」


それでも慎重さを崩さないセイレアヌに、フォーメルが声を出して笑う。

それに彼女は戸惑った様子を見せ、ハルタとフォーメルの顔を交互に見た。


「セイレアヌ様、あまり深く考えなさいますな。 後の段取りと問題への取り組みは、このフォーメルとハルタ殿に任せてくだされい」


そう言ってフォーメルはハルタを見たが、見られた方は「え!?」と言う顔を一瞬したが、セイレアヌに見つめられて姿勢を正す。


「ま、まあ、言い出したのはコッチ出しな。 任せてもらおう」


「では、そういう事で。 今後の事についても詰めて行きましょう」


その日、謎の勢力がレパンドルに密かに加わろうとしていた。





セイレアヌとハルタたちが秘密裏に会合を開いたその翌朝、シーゼスから纏まった一団がこれまた密かに出発した。

その数、凡そ二十名ほど。

全員が馬に跨っていたが、フード付きのマントを羽織って顔が見えない上に、抜け道と言われる場所を通っていたので誰にも気付かれる事なく出発する。

ただし、先頭の者だけは堂々と顔を晒し、更には周囲を圧するかの様に体中をいきり立たせてもいるかの様に体を振る。

その顔を晒している者とは、クラッデルムであった。

元老院からの屈辱を受けてからしばらくして、急に呼び出しを受けた彼は、今一度のチャンスを与えられたのだった。

その理由に付いては聞かされなかったが、彼にはどうでも良いことだった。

むしろ、雪辱を果たす機会が早くやってきた事や、敵の正体に関する情報を得た事により、内心が踊るような興奮する様な感じで居た。

それ故か、馬を走らせながらも自らもやや前傾姿勢を取り、もっと早くと気持ちを全面に出す。


 敵の正体がアーマルデ・ロイデンだとは盲点であった。

確かに、言われてみればそんな感じもする。

それ故に魔法攻撃を一回もしなかった事を、今更ながらに悔やむ。

知っていたなら幾らでも対処できたし、自分なら容易く倒す事もできたはずだった。

それだけに、彼の中には怒りと憎悪が渦巻き、獲物を早く見つけて食い殺さんという凶暴な思いがマグマの様に吹き出す。

ここに来て、転がる岩は火山へと変貌を遂げようとしていたのだ。

正直な事を言えば、正体さえ分かれば自分一人でも十分であったが、これまでの失態が響いて強く出れず、元老院の命令に従って何人かのエレメンタリス共と一緒に行動を共にするのを良しとした。

一つ危惧する事があるならば、アーマルデ・ロイデンの天敵たる連中が着いて来てしまっていては、戦闘が一方的な物で終わってしまう事だ。

既に結果が見えている様でつまらなかったが、能力で言えばクラッデルムの方が上である。

エレメンタリス共が戦う前に、少なくとも自分に屈辱を与えたあの二人、そう、異形鎧の戦士と大盾の女は、速攻で倒すと彼は強く決めていた。

そう決意を固める度に彼の心は逸り、もっと速くと気持ちを前面に出すのだった。



 クラッデルムらが人知れず出発したのと時を同じくして、更に別の一団が静かに彼らを見送る。

その数は十数名ほど。

目立つ青と緑の衣服をまとった者以外は、全員が地味な服装をしている。


「よ、よ、予定通りだな」


「では、こちらも行くとしますかな。 隊長殿?」


「嫌味にしか聞こえねーぞ。 喧嘩なら今からでも買ってやろうか?」


「いやいや、流石に俺らもプロだ。 今はビジネスを優先するさ」


両手を前に出して振り、さも参ったかの様にアンガムが身を退くが、ソライはその目に狂気が宿っていたのを見逃さず、戦闘態勢を崩すことはなかった。

そうした一方で、ソライ自身もその緊張感を実は楽しんでもいた。

裏を返せば、彼女にもアンガムと似た部分があるのだろう。

あるいは、そうした部分を見越して彼らの事を任されたのかも知れない。


両者は無言であったが、間には静かだが深い殺気が漂う。


それを制したのは青マントのキライスだった。

やはり無言で両者に近付くと、何も言わずに指だけで行けの合図を送る。

それにソライとアンガムは、目だけを互いに釘付けにしたままで正面に直ると、キライスの指し示した方向へと飛び出したところで、ようやく視線を相手から外した。

それを追ってアンガムの部下が続き、更に最後尾にキライスが着いてようやく出発するのだった。




 シーゼスから新たな刺客が送り出されてから一週間後、レパンドルではちょっとした騒ぎがあった。

一応の勝利とそれに対する祝賀の名目で、その日は多くの人々が王城前の広場に集められていたのだが、その場に突如として謎の一団が現れたのだ。

大部分は緑色をした女性の様な何かで、誰もがモンスターが攻めてきたとパニックになり広場は大変な騒ぎとなった。

当然、護衛の兵だけではなく魔槍騎士連中も武器をわざわざ取りに行って駆けつける程だったのだが、その騒ぎを収めたのがセイレアヌ姫だった。

凛と響く声で皆を一括すると、やはり毅然とした態度で謎の一団と対峙する。


「何者です。 名乗りなさい」


その一声で広場に居る全ての者が静まり、そして謎の一団すら動きを止めた様に見えた。

すると、固唾を飲んで見守る人々を他所に、フード付きのマントをまとった人物が歩み出て、その正体を明かして再び騒然となる。


「俺らは、あんたらが探していた勇者ご一行様ってやつだ」


「その勇者が、我が国と民に何の用です」


求めていたはずの勇者だったが、人々はその異様さと異形さ、更には言い知れぬ圧迫感の様な物を感じ取って不安になる。

それでも騒ぎが大きくならなかったのは、ただ一人彼らの前に立ち、怯まないセイレアヌのお陰と言えた。


 その後も両者の会話は続いたのだが、大体の内容を要約すると彼らはレパンドルの滅ぼされた村の人間と少なからず関係があり、それがシーゼスと戦う理由であったと言う。

それ故、当初は直ぐに引き上げる予定であったのが、シーゼス側から自分たちの事を名指しされた事で、このレパンドルに正式に助力する事を決めたらしい。

ただ、何故か国そのものではなく、セイレアヌ姫個人と契約を結ぶと言う、驚きの発表をした。

その理由を勇者一行が上げる事は無かったが、全く動じずに相対する彼女を指名するのは、その場では凄く当然の様に誰もが感じたのだった。



「友好の証と連絡員を兼ねて、この二体を置いていく」


そう言ってフードで顔を隠した勇者と名乗る者は、緑色をした女性型の何かをセイレアヌの元へ向かわせた。

一体は花飾りの様な物を付けており、これまた纏う雰囲気が違う。

驚きと混乱をひとしきり招いた彼らは、現れた時と同様に唐突に引き上げていった。

それを追って何人かの魔装騎士たちが追撃を試みるも、屋根に上がったと同時に直ぐ様叩き落とされて距離を取られてしまい、結局は何もすることはできなかった。

それが改めて勇者の力を知るキッカケともなり、民衆は希望を膨らませるのだった。


 そうした事からレパンドルは、数日を跨いでもその話題で持ち切りであったが、同時に勇者が本当に居たらしいと言う事実が更に騒ぎを大きくもする。

勿論だが、全ての人間が彼らの一方的な話を信じた分けではなく、中には憶測を拗らせて解釈を独り歩きさせた末、反発や非難をする連中もいた。

だが、シーゼスを追い払ったと言う事実とセイレアヌを見出した勇者の目の付け所には、大部分が好意的に捉えていて概ね歓迎する声の方が高いとも言える。


 そんな中で腑に落ちていない者の一人がニオルトだった。


直接それらしき人物と話をしたニオルトは、広場で行われた一方的な話に違和感を持っていたのだ。

件の人物は少なくともレパンドル国内の事情には疎かったはずであり、それがどうして滅んだ村の人間と関係があったのか。

賢明に思い出した記憶の断片によれば、シーゼスと言う国すらハルタと名乗った人物は知らない風であったはずだ。

ならばレパンドル辺境の村とどうして関係があったのか。

そう考えると、今回の騒動で放たれた言葉の節々には疑問を持たざる得ない。

しかしながら、ニオルト自身も記憶が曖昧である事や、自ら名乗り出た人物がハッキリと姿を見せなかった事から、自分が話した者と同一人物かと問われると自信は無かった。

違うのであれば、彼が持つ違和感や疑問その物が見当違いの憶測に過ぎなくなる。

だが、それでも彼の勘の様な物が訴えていた。

「あれ」は、間違いなく自分が話した相手だと。

そこには、話し方だったりアクセントであったりと、彼も意識していないレベルですり合わせが行われていたのだが、記憶の片隅にしかない為にやはり確証はない。

ただ、名指しされたセイレアヌ姫の表情をチラッと見た時、そこには彼が考えた様な顔をしていなかったのも気になった。

驚いた表情もしていたのだが、今まで側に居たはずのニオルトさえも知らない顔をしたのにも違和感を抱いたのだ。


何かが違う


そう強く感じる部分はあったが、どれも確信が無く説明がつかない。

ただ、感覚的にだが何かが晴れた様な気分もあった。

勇者という存在が個人を指定したとはいえ、味方してくれると高らかに宣言してくれたのだ。

それはある意味、レパンドルに何かしらの後ろ盾と正当性が付いたとも取れた。

特に痛快であったのが、非難を一方的に浴びせていたシーゼスの言動が、彼らの行動を決定づけたということだ。

それが広く人々に知れ渡った時、世の中は今度はレパンドルをどう見て、そしてどちらに味方をしてくれるのか。


拭えぬ疑問を内に持ちながらも、ニオルトは大きく好転しそうな流れも感じ取っていた。



「なあ・・・今何か動かなかったか?」


シーゼス軍撃退後、直ぐ様新たな方針が国王のラウナルより示され、ロットラー平原には急ピッチで砦が築かれていた。

本当のところ、今までの経緯から作業は遅々として進んでいなかったのだが、勇者の出現が一種のカンフル剤となったのか、それから一週間経とうとしていた頃、ようやく形になろうとしていた。

これまでも砦の構築は考えられてはきたのだが、工事にかかろうとする度にシーゼスが軍を動かして来る為、それを刺激しない様にと避け続けてきたのだ。

しかし、今となってはもはやシーゼスの動きなど気にかける必要もなく、更には連中の敗北と勇者が味方をすると言う事もあって、レパンドルは大っぴらに作業を進めていた。

いや、もしかしたら関係者にも吹っ切れる物があったのかも知れない。

それにより、作業は急速に進められつつあった。

とは言え気を緩めた分けではなく、むしろ見張り等の増員を行って万全の体制を整えてはいるつもりだった。

そして、その一人が仲間に異変を感じたのか話しかける。


「どこだ?」


「ほら、あの付近」


「・・・なんとも無いぞ」


「ふーむ、気の所為か?」


見張りの二人はしばらくその付近を注視してはいたのだが、何時まで経っても変わらない風景に流石に異常なしと判断し、そこから立ち去った。

だが、そこに注意が集まっている内に、何者かが壁を飛び越えて中に侵入した事には、誰も気がつく者はいなかった。


そして、砦の異変が知らされたのは、それから一週間ほど経った後となる。




 平原の砦に異変が起こる数日前、セイレアヌは厄介な敵と対峙していた。

その敵の名はアライアル・エンケーレ。

レパンドルの有力貴族と言うだけではなく、その独特の佇まいながらも優れた才を持ち、そして人脈の広さである意味でレパンドルを支える重要なポジションを担っている人物と言って良い。

そのアライアルは味方としては心強かったのだが、それだけに敵に回すと厄介極まりない相手であった。

その厄介な相手がセイレアヌの部屋を、今まさに訪ねてきているのだ。


「騎士団長殿、勇者の方々は、あれから何か言ってきましたかな」


セイレアヌの脇に控える緑色した少女らしき二体にチラッと視線を送ると、アライアルは今度は全く関係ないところに目線を落として問うてきた。


"興味はありませんが聞いてみただけ"と言うこの姿勢は、それで相手に油断を誘ってシッカリ観察し、情報を拾い集めて穴を穿つポーズでもある。

言わば、彼独特の戦闘スタイルとも言えるだろう。

それに対し、セイレアヌもチラリとよそ見をする。

そこには、緑色した少女の様な存在が佇む。

言うまでも無くユーカレブトとイーブル・ラーナンである。

ただし、その両脇には兵士が二人、更にセイレアヌとの間にも二人立ち、厳重に警戒されている。

故に、彼女達に助けを求めたくとも簡単には行かない。

基本、彼女達との会話は、取り決めによって配置された兵士を介在する事になっているからだ。

もっとも、助言を得ると言う行為自体、見せるべきではないだろう。

しかし、それでもアライアルの脅威を交わすのは難しい。

彼の怖いところは広い人脈を背景にした情報収集力にもあるが、時にそれに頼らない洞察力と推理力も武器となる。

そして、それらを巧みに使って、相手の情報を引き出す心理戦を展開するのも彼は得意だった。

ハッタリと真実を綯い交ぜにして術中に嵌め、情報を引き出させてくるのだ。

子供の頃からセイレアヌも、その術中には分かってはいても何度もハマってきた。

お菓子の隠し場所に花瓶を壊して内緒にしていたこと、果ては内密に進めていたはずの街への一人大冒険計画などなど・・・

ただ、彼が知ったと言う事で、セイレアヌが不利益を被った事は結果から言えば無い。

時に密告されて大人たちに怒られる様な事もあったが、後から考えるとそれで良かったと思える事ばかりだった。

それ故に、ある意味でセイレアヌも、アライアルにはどこかで油断してしまうのだ。

だが、今回は今までとは違う。

慎重さが求められるのだ。

特に、ハルタとの約束事は守らなければならない。

しかし・・・


「セイレアヌ様、先程から一切返事して頂けませんが、やはり何か隠してますね」


やはり来た。

ボロが出るのを恐れて、敢えて返事しない事で防御を試みようとしていたセイレアヌだったが、アライアルは閉じた門からさえも情報を拾い集める。

いや、黙る事である意味でハルタらと何かしらの関係があると匂わせてもいるとは分かってはいるのだが、この男にはどの道普通のやり方では通用しない。

喋っても沈黙しても必ず何かしらの糸口を見つけ出し、引っ張り出してくるのだ。

だとしたら、少しでもマシな方法を取る以外に方法はない。

セイレアヌは一つ溜息をついた。


「・・・アライアル、何も話す事はないわ。 大体、私にだって分からない事は多いのよ?」


セイレアヌには相手がどの程度まで想像しているかは分からなかったが、アライアルは何時もこっちの予想を上回る事を用意していたり考えたりする。

だから、敢えて向こうに任せるままにした。

恐らくだが、向こうも何かを聞き出せるとは期待していなかったはずだ。

でなければ、予定が詰まっているこの状態で不意に来るはずがない。


「分からない・・・・ですか」


今度はこっちを探るような目を向けたアライアルは、再び緑色の二体を盗み見ると、突然踵を返して出て行く。

ホッとして一瞬だけ目を離したセイレアヌだったが、完全には閉められてはいない扉にまだアライアルが居るのにギョッとした。


「姫様、勇者らのことはお任せしますが、くれぐれも一人で背負う事は無い様に。もし、何らかを察知したら、私はどの様な手段を持っても連中を排除します。 分かったな、勇者のお仲間様たち」


最後は、花飾りをつけた方の緑色の少女に軽く怒気を込めて言い放ったアライアルは、ようやく去って行ってくれた。

それを見たセイレアヌは、テーブルに片手を付いて深く息を吐く。


「大丈夫ですか? 騎士団長」


「ありがとう、心配ないわ」


兵士の一人が心配そうに声をかけてきたので、セイレアヌは笑顔を作って返した。

彼らは表面上任務に忠実であり、そこで起きた出来事に関しては一切口外しない事を誓っている為、一見すると無関心を装うのだが、あくまでも中立の立場を取る為に気遣いを忘れたりはしないのだろう。


「・・・大丈夫か」


続けて上がった声に、セイレアヌだけではなく他の兵士も振り返る。

声の主は、例のユーカレブトだった。


ハルタによれば、これらは一体のアーマルデ・ロイデンらしき物の特殊能力によって生み出され、更にその内の数体が影響を受けて突然変異した物らしい。

これだけでも、もはやセイレアヌの理解を超えているのだが、このユーカレブトと呼ばれる個体は特に異質と言えた。


基本、モンスターとヒューマスは会話どころか意思の疎通さえできない。

向こうが拒否しているらしいと言う話しも聞いた事があるが、それ以前に言葉をモンスターは話せないとされているので、このユーカレブトが喋ると言う事自体驚きなのだ。

確かに、オウム返しやモノマネで言葉を発するモンスターは居るには居る。

実際、もう一体のコラスル・イーブル・ラーナンと言う方はそれに近い。

しかし、このユーカレブトと呼ばれる方は、明らかに自分の意思と考えを持って喋っており、しかも高い知性の様な物まで感じる。

ラーナン種の突然変異体と説明されてはいるが、ここまで変異する物なのだろうか。

それを考えると、やはりハルタらはアーマルデ・ロイデンとは別物とも考えて良いのかもしれない。

その正体と、それを本人に話していない事に対し、セイレアヌは今も心が揺れていた。

そして、その異様さに他の兵士も一々驚きを隠さない。



「あの男は危険です」


「おい、勝手に・・・」


「いいのよ」


取り決めではユーカレブトらは無断でセイレアヌと話しては行けない事になっているが、流石にこの場にいる兵士では立場が弱く、あまり抑止力とはならない。

ただし、会話に関しては一々報告が上がる為、迂闊な事を話せないのも確かだ。

それを踏まえつつも、セイレアヌは続ける。


「・・・アライアルは昔からそうなのよ。 察しが良いと言うか、鋭すぎるというか」


「いえ、あのアライアルと言う男は、ここに入って来る前から知っていたのでしょう。貴方は、その確認に使われただけかと」


「え!?」


「?」


セイレアヌとユーカレブトだけができる意思の疎通に、他の兵士が疑問符を浮かべる。

しかし、その不意の言葉にセイレアヌも驚いていた。

彼女でさえも、アライアルの推測は自分との会話から導き出されたと思っていたのと、心のどこかでユーカレブトをモンスターの突然変異種と侮っていた部分もあったので、その者がより深く考察していたと言う事実に目を見開く。

ただ、彼女・・・そう、もうヒューマスと同等と見て良いユーカレブトの話を信じるとするならば、アライアルは既にハルタとの関係をある程度掴んだと見て良い。

いや、セイレアヌ自身も何となくそれは感じ取っていた。

そもそも、あの日の茶番自体に無理があったのだ。

特に鋭い連中には通じる筈もない。


「消しましょうか?」


その言葉に兵士らが身構えるが、慌ててセイレアヌが制止するかの様に声を上げる。


「だ、駄目よ。アレでも味方なの。 それに、彼の言動はこの国の事を心配してのことなんだから・・・・消されては困るわ」


「・・・・」


「えっと、まだ何か?」


「あの男、アライアル・・・様ですか。心配しているのは貴方の事では?」


「まさか。 彼は、あくまでも全体を考えて動く男よ。 私個人の心配と言うより、後の影響の事を懸念しているのよ」


「いえ、そうではなく。 セイレアヌ様、あの方は貴方の事が好きなのでは?」


「へぁ?」


セイレアヌは、またしても思いもよらない相手からの不意の問いかけに、裏返った声を上げてしまう。

内心慌てた彼女だったが顔は無表情を作りつつも、軽くざわめく兵士達には背を向けた。

すみません。

何とか定期的に更新できる様に頑張ってきましたが、次回からは不定期になるかもしれません。

読みに来てくださっている方々には本当に申し訳ありませんが、気長に待ってくださると嬉しいです。

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