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俺のLVは上がらないのに、  作者: 松戸真 寿司
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~謎の勢力~ -16. 天敵襲来






 フォーメルは一人、ジュデの森の中に分け入っていた。

とは言え、そこは王都からそう離れた場所でもない。


少し進むと木々を阻む様にやや高い丘が連なり、それが天然の壁となってモンスターの侵入を阻んでいる。

お陰でこの場所はモンスターの出現率が比較的少ないとも言えた。

もっとも、それは森の中に入る勇気と実力を持つ者だけが知る事実であり、王都からは死角とも言える位置にある為か人気は殆ど無い。

また、人の視線が届かないと言うだけで不気味さも併せ持っており、それがより一層人を遠ざけてもいた。

しかし、フォーメルはそんな雰囲気を恐れる男ではない。

むしろ現実的な面だけを拾い集め、その場所を最適として選んで来ていたのだ。

その手には、ハルタから頼まれた魔法武器と、業物のではあるが普通の槍、そして自分の家に転がっていた修練用に使い倒された挙げ句、放置されていた鈍らの剣の三つが握られている。

その中の内、魔法武器の方には、セイレアヌからの親書が括り付けられていた。

この魔法武器の持ち出しに、彼は相当の苦労をさせられてもいる。


 許可は、騎士団長でもあるセイレアヌによって極秘に得てはいたが、目的が目的だけに流石に他に漏らす事はできない。

一応、フォーメル自身も結構な立場にあった為、最初から複数の魔法武器を所持する事を許されてもいる。

ただこれも、使用できる可能性のある魔法武器に対して、使えるように訓練をすると言う目的があってのことであり、決して私物化が許された訳ではない。

もっとも、レパンドルには実質的に使用している者以上に魔法武器に詳しい存在は皆無なので、使用者が「こうだ」と言えばそれに従うしかなく、半ば私物化されていると言う事実もある。

当然だが、そこには管理が付いて回っている事や、戦力として数えられる事が絶対条件となるので、使いこなせない者や成果を出さない場合は強制的に剥奪される。

それは言ってしまえば、レパンドルには魔装騎士モドキしか居ない事の裏返しでもあった。

それ故、フォーメルが所持する範囲内では自由にできるが、問題はその後である。

名目上であったとしても管理する者は必ず確認する義務があるので、例え魔装騎士の都合があっても見せる必要があった。

手っ取り早いのは偽物を用意することだが、そんな時間は無いし手間もかけていられない。

そこで出された妙案が、ハルタが奪った敵の魔法武器との交換である。


 倒したシーゼスの魔装騎士から回収した武器は、制限がかかって使えはしないのだが、レパンドルにある物と比べれば一流品である。

それだけでも十分に価値があるし、専門的な魔法使いを揃える国であれば欲しがる可能性だってある。

その武器と事後承諾と言う形でコチラの物と交換する事で、その後を誤魔化そうと言う話となった。

多少は問題視されるではあろうが、シーゼスの一流品を手に入れるなど、普通に考えれば無理であるので計り知れない価値があるのだ。

他国の装備を勝手に使って悪者扱いされているレパンドルではあるが、敵の武器を無傷で回収したと言う成果は大きく、それだけで評価を一変させる要素がそこにはあると思われる。

これなら、勇者と言う存在に無断で魔法武器を差し出したとしても、誰もが黙るしかないはずだ。

それも含めて、セイレアヌとは既に打ち合わせが済んでいる。



 魔法武器を持ち出した後は、唯の荷物と偽り、人を雇って指定した場所にまで送り届けさせた。

そして、それを抜け出してきた自分が受け取ったのだ。

面倒さは伴ったが、お陰で何事も無くここまで事は進められた。

ハルタが、セイレアヌと接触する際に出した条件の一つが武器の提供であった。

魔法武器と良質の武器を一本づつ。

そして、目印になる武器を一つ。

それを、森の中のフォーメル達にとって都合の良い場所に置いておく。

それが連絡手段であり、会談を了承する返事ともなっていた。

人目にさえ付かなければ場所はどこでも良いとされたが、では、どうやってその場所をハルタ達は特定するのかとも疑問には思ったが、当然の様に返事は濁された。

もしかしたら、あの緑色の人形が既に配置されており、こちらを見張っているのではないか?

フォーメルは辺りを見回したが気配は無い。

それを確認しながら、フォーメルは目印となる鈍らな方の剣を地面に突き刺し、その傍らに他の武器を置く。

この鈍らな剣は、あくまでも目印である。

そうと分かる様に、フォーメルはハルタと決めていたマークを剣の腹部分に、取り出した短剣で刻む。

事が上手く行かなかった場合は、ここでセイレアヌと接触させる事にもなるかも知れないが、それは次善の策であるとハルタとは打ち合わせてもある。

実際、姫であるセイレアヌがお忍びでやって来れる場所など少ないので、ここを使えるかはフォーメルにも自信がない。

多くの選択肢の中で、まだマシ程度の場所を選んだが、果たして機能するのか。

順調に行けば接触場所は王都内で行われ、ハルタの方からやって来る事にはなっているが、それが叶わなかった場合、必然的にここが会合の場となるのだ。

もっとも、連中の力はコチラの想像を超える面もあるので、フォーメルに手の内を明かしていないだけで、何かしらの手段を用意しているとも考えられる。


 彼は、相棒である魔法武器、クレーブスの柄を軽くはたいてみた。

ハルタ達に着いて回り接触の条件を話し合った際、彼は当初フォーメルの魔法武器をその証として欲しがった。

ハルタはアーマルデ・ロイデン化させたい様だったが、それは即ち相棒との別れを意味してもいたので、フォーメルは丁重に断っている。

戦闘後に回収されたシーゼスの魔法武器を彼は既に所持していたが、案の定、特殊なプロテクトがかかっていて使う事はできなかった。

これらは、専属の魔法使いによって基本的には解除したりできる物であり、魔法の扱いに関しては、専門とされる魔法使いであっても容易に解除できる物ではない。

時間をかければ何とかなるそうなのだが、当然そう言った事も折込済みである為、一つのプロテクトを解除したからと言って、全てに適用できる分けでも無い。

しかし、それでも敵の魔法武器を手中に収めると言うのは、価値ある事だ。

何故ならば、魔法武器その物を作り上げる事が大変であり、更に一流品となれば当然である。

そうした事情を知ってか知らずしてか、フォーメルなら、そうしたプロテクトも解除できるだろうと考え、ハルタはクレーブスを欲しがったのだろう。


だが、このクレーブスは無造作に選んだ物ではない。


幾つかあった魔法武器の中でどうにか彼に適合し、ここまで同調が可能になった体の一部と言っても良い代物だった。

それに対して取り巻きは殺気立ったが、ハルタは存外に話の分かる男で、周囲を制した上で理解を示してくれた。

その上で、接触の条件として二種類の武器を所望したのだが、魔法武器が含まれているのには、やはり頭を抱えた。

レパンドルには確かに魔法武器が余ってはいる。

何せ、使い手と呼べる者がまともに居ないからだ。

ただ使うだけなら、一応は誰でも良かったのだが、戦闘を熟す者となるとそうは行かない。

弓を射る事は大抵の者は出来るかもしれないが、それを実際に矢を飛ばして的に命中させるとなると話が違ってくる様に、魔法武器を使う為にはセンスや、それに適合できる能力も必要となってくるのだ。

この当たり、本来ならば専門と言える魔法使い等がサポートし、ある程度の時間をかける事で成されるのだが、レパンドルにはそうした魔法使いも居なければノウハウも無い。

当然、そうした部分は国家機密に当たる為、おいそれとは技術も情報も流れて来る様な事はない。

そもそも魔法武器自体、作った国の方式に合わせて機能する様にもなっていたので、手法その物も千差万別でもある。

例えばA国の手法を学んだとしても、B国の魔法武器を即座に使えるかと言えば、それも違う。

レパンドルが他国の魔法武器をこうして使えているのは、リミットコネクターと呼ばれる方式が武器に施されてもいたからだ。

これは、魔法武器に大凡の形で同調認識する別の魔法がかけられており、それによって魔法使いによる調整がなくても扱える様にする方法である。

言わば、魔法武器の方で無理やり使い手に合わせる様な手段なのだ。

これは誰でも使えると言うメリットがある反面、同調後の効果付与率が低く、更には魔法武器に負荷がかかり易いと言うデメリットもある。

それ故、本来であれば貴重な魔法武器に使うのは、避けるべき手段でもあった。

が、シーゼス侵攻と言う非常事態や、二流品に近い魔法武器が殆どでもあった為、それらは半ば急場凌ぎと言う形で実行に移されたのだ。


 この説明でも一つ疑問が残るとしたら、レパンドル以外の本来使うべき国に送られても、結局は使える者が居たかどうかだが、実は人員だけは既にそうした同調の為の調整を、連合王国の専門の魔法使い達によって現地で処理済みであった為、後は魔法武器を手にさえすれば上手く行ったのである。

それとて簡易的な調整であり、やはり魔装戦士としての力には限界があったが、少なくともレパンドルと比べれば個々の才能に左右されなかったので、数的には優位になるはずであった。

ただし、これとて完璧ではなく、処理を施された人員の負荷も高く、一度の使用で相当な消耗が強いられる。

そうした点で言えば、レパンドルは武器に対して使える数こそ少ないが、その様な負担による制限は無い。

もっとも、それは使いこなせていない事の裏返しでもある。

さらには、武器自体もどれでも良いと言う分けではなく、やはりどこそこの国の魔法武器用に同調調整された連中が使う様にと定めていた為、結局はレパンドルに仕分けを一存した結果、調達に時間がかかって失敗したのだ。


 そもそも同調とは、魔法武器と使用者のそれぞれが持つ魔力の型を合わせる事に例えられる。

例えば、六角形、四角形、三角形の魔力の型を持った者たちが丸型の魔力を持つ魔法武器を使う場合、使用者の方がその丸型に合うかが問題となってくるのだ。

この中で言えば六角形が丸型に対してはまだマシではあるが、それでも隙間が出来る為に不完全な同調となるのは避けられない。

実は、四角型と三角型であっても、その枠を広ければ丸型を収めて魔法武器を使えない事もない。

だが、既にある様に不完全な適合である為、必然的に本来の力を引き出せないのだ。

因みに、ここで言う魔力の形とは単なる留穴であり、言わば、魔法武器が持つ魔力と繋がりを持つ為の留め具と言える。

一般的なヒューマスは魔法を使う事はできないし、魔力を注ぎ込む要素は確かにあるが、魔力その物は猛毒である為、基本的に使いこなすのは難しい。

魔法武器は、言わばヒューマスの持つ魔力の器に仮の容器を設置して、それによって擬似的に魔法の恩恵を受けられる様にしているのである。


それを踏まえた上で説明すると、同調には三種類の方法があるとされている。


一つは既に説明した様に、マシな魔力型の魔法武器を使用者の方で探す方法であり、多少の隙間と言った不具合には目を瞑るやり方だ。

一般的に、多くの魔装戦士がこれらに当たるとされている。

ただし、多くの場合においてそこには専門の魔法使いが介在し、使用者の方の魔力型をある程度調整する。

この為、基本的には平均かそれ以下の者であっても、強力な魔装戦士になれるのだ。

しかし、それでも完全な同調は難しく、魔法武器の力を引き出せるかどうかは、最終的に個々のセンスや鍛錬に左右される。

幸いにも、限りなく魔法武器の方に近い魔力型を持つ者は、水中で息を止める用にある程度は強引に、自分の魔力型を武器の持つそれに近づける事ができるのだ。


今一つは仕様者の方で魔力の型を魔法武器の方に自在に合わせるやり方だが、当然ながら、それにはセンスや能力と言った個々の資質が問われる物である為、一般の者では瞬間的にはともかく、継続するのは不可能とされている。

ただし、これを安々とやってのけるのがバウンダーと呼ばれる連中であり、彼らはあらゆる魔法武器の魔力型に自ら併せて同調させた上で継続させられる為、その力は時に武器の持つポテンシャル以上に発揮させる事も可能とされている。

しかも、これを繰り返す度にすんなりと負担なくバウンダーは同調を行える為、最終的には負担なども一切かからなくなるのだ。

もちろん、魔法武器の魔力型と最初から合っている方が、基本的に強力なのは一緒である。


そして、最後の一つがリミットコネクターであるが、これは魔法武器の魔力型を使用者にある程度合わせるやり方で、言わばバウンダーの逆だと言える方法だ。

この方法は同調の不適合さをある程度飛び越える事もできるが、魔法武器の方がその維持に力を使う為、結果として本来の力を引き出せない。

また、魔力型を使用者に合わせるとは言っても限界があり、極端に型が違う場合は、むしろその隙間を埋めようと更に無理をするので余計に能力が落ちるし、補正に関しても限界があるので適合しない者はどうやっても力を引き出せないのだ。

加えて、魔力の型を変更すると言うのは負担がかかる物であり、両者の型にあまりにも隔たりがあると、無理した魔法武器の方が壊れてしまう危険性もある。


 レパンドルの魔装騎士は全員がこのリミットコネクターによる同調であり、使えるには使えるのだが、能力の限界値の低さや破損と言う危険性と常に隣り合わせであった。

そうした事情から、レパンドルは騙し騙し魔法武器を使っていたので、適合者と言う観点から見れば、魔法武器の数に対して言えば扱える者が必然的に少なかった。

これらはレパンドルにしてみれば宝物であると同時に、重要な機密兵器でもある上に、他国から貸し出されたと言う体裁を保つ上でも安々と譲渡できるものでもない。

その為、これをどうやってセイレアヌ姫に納得させようかとフォーメルは悩んだ物である。

しかし、いざ彼女に話してみると、そうした点に関してはあまり問題とはしていなかった様だ。

むしろ彼女は、勇者がアーマルデ・ロイデンかも知れないと言う事の方を重要視していた。

ただ、これに関してはフォーメルはまだ確信を持っていなかったので、くどい程その可能性があるだけだと繰り返した物の、セイレアヌはどこか頭に入っていない様子だったと言える。


 ハルタの会話から、彼の持つ疑問がアーマルデ・ロイデンを指す事はフォーメルも咄嗟に思い付いたが、事実を知るまでは、その場での存在とその数に付いては、目の当たりにしているのに気が付きもしなかった。

彼の考えでは、六本腕の女と異形の鎧を着けた者が、アーマルデ・ロイデンかも知れないと思っていた。

それでも、その精緻さから最初は半信半疑でもあったのだ。

だが、ハルタにより、自分以外のここに居る全員が武器から人化したと聞かされた時には、腰が抜けそうになった。

もちろん、極力驚かないようにフォーメルは平常を保ったのだが、その後に見せられた幾つかの事実と説明により、やはりそうなのかとも納得させられる。

それは主に生体反応的な事ではあるが、それでも全てを飲み込んだ訳ではない。

彼が知るアーマルデ・ロイデンとは、限りなく人間に近いブリキ人形の如くのはずであり、ここまで人間に近い存在などとは聞いたこともない。


いや、噂には聞いたことがある。


邪神化したアーマルデ・ロイデンは、限りなく人に近付くか或いはそれを上回る存在になるとも言われており、これを当てはめるならば、そこに居る全員がそうだと言う事にもなるだろう。

もし、それが本当であるならば、彼ら彼女らの戦闘力は桁違いどころの騒ぎではない。

一国を滅ぼしても尚、お釣りが来る存在だとも言っても良いのだ。

だとしたら、ハルタと言う人物の存在が途方もなく怪しく、そして巨大にも見えた。

勇者かも知れないし、そうだとしても別の意味で歴代最強となる可能性を秘めてもいるどころか、世界に影響を及ぼす危険な存在とも言える。

下手をしたら、その厄介さ故に、他国からこの地に追放された者かもしれない。


もっとも、それとて確証は何もない。


アーマルデ・ロイデンに関する事は、殆どが噂が元になっている為、どれが真実かは分からないのだ。

武器から人化したとのが本当だとしたら、自分が知らない要素があるとは言え、やはりアーマルデ・ロイデンの一種なのだろう。

だとすれば、対処方法の前には、やはり抗えない。実際、邪神化したアーマルデ・ロイデンでさえも、今日では全くその姿や噂を聞く事も無いのだ。

それは、噂で聞く評価とは矛盾しているが、恐らく、対処出来る者によって倒されたとも言える。

時代的な面から考えて、その当時で言えば、まともに相手できる人数も限られていたはずだ。


いや、これも良く分からない話である。

何故なら、邪神化したアーマルデ・ロイデンの話は複数伝えられているのに、その後にどうなったかは一切聞いた事がないからだ。

単純に倒されてしまったので、残すべき話が無いだけの様にも思えるが、全く語られていないと言う点が不気味だった。

この様な事は、この地で有名なカーデムの魔王の話にも酷似している。

かの魔王に関する話も、噂のみが先行していて、その真実は常にボヤケている。

ただし、この魔王に関する事で言えば理由は明確だ。

知る者は全て、その魔王によって殺され、滅ぼされたからである。

そうしたフォーメルが知る限りの知識で推測しても、邪神化したアーマルデ・ロイデンは、かなり危険であると言えるだろう。

それが付近を彷徨いている。

しかも、軍隊規模で。


そして、勇者と噂されるハルタの強さにも疑問が残る。

恐らくだが、彼が最大の弱点である事には変わりは無い。

だが、彼の仲間とその維持能力が本当にアーマルデ・ロイデンだったとしても、規格外なのも確かだ。

どうにも、不確定要素が多すぎる相手である。



「全く、苦労させられる」


フォーメルは、やや吐き捨てる様に言い放った。

考えれば考える程あらゆる可能性が絡みつき、ともすると暗い未来しか見えてこない。

ジュデの森で起こった異変すら、かの者が関わっている可能性すら疑えた。

実際、ハルタは自分が知りたがった事以外には殆ど答えておらず、今だ敵か味方か分からない。

ただ、カマを掛ける意味でこちらから発した幾つかのキーワードに対し、その表情を変化させたのをフォーメルも見逃してはいなかったので、怪しさは益々膨れ上がってもいる。

そんな連中と本当にセイレアヌを会わせても良い物かとも考えたが、逼迫する現状を見るに、選択肢も限られた。

それに、彼らがシーゼスを追い返したと言う事実はあるのだから、今のところは、少なくとも敵ではないはずだ。

何にせよ、レパンドルを取り巻く不明瞭な状況をハッキリさせるには、彼の内側を引き出す必要がある。

他に先んじられて接触され、懐柔されるのが一番不味いのだ。


 一方で、フォーメルは一つだけ興味を惹かれる部分があった。

それは、武器の人化をこの目で見る事である。

アーマルデ・ロイデンは、軍事的な面では結構知られた存在ではあったのだが、実物など生まれてこの方見た事がない。

 いや、魔法による何かしらの生成と言う手法は確かにあるのだが、アーマルデ・ロイデンの様な大規模かつ戦闘兵器としての存在は、他に例が無いので興味は付きない。

特に、魔法武器を人化する等、魔法騎士が主力となった今では確かに行われていなかった可能性がある為、どの様な物が生まれるのかと確かにそそられるところがあった。

或いは、ハルタが自分の魔法武器を欲しがったのは、それを実践し疑うフォーメルを納得させようとしていたのかも知れない。

それを示すかの様に、彼は武器化する際には立ち会わせてくれると約束してくれている。

フォーメルは、彼に対して警戒し、ある程度の事は隠していたつもりだった。

しかし、実は見抜かれていた可能性もあったのかも知れない。

そう考えると、フォーメルは自分の存在が酷く小さく感じてもいた。

いや、相手の存在を改めて得体が知れないと考え直す。


今一度周囲を見渡してから、彼はその場を静かに去った。





「主様、例の男が森に入ってきた様です」


少し長めに瞼を閉じた後、ゆっくりと開いてその目を俺に向けたユーカがそう言った。

やや緑がかった双眸が、木漏れ日を受けて思ったよりもキラキラと光る。

この頃、ユーカはレベルアップこそしていないのだが、見た目が成長していくと言うか、どんどん綺麗になっていく様な気がする。

人化させた当人としては、木の人形然としていた頃を知っているだけに、何だか感慨深いものがある。


「主様?」


返事を返さない俺にユーカが訝しげな顔を向けたので、俺は慌てて適当な声を上げた。


例の男。

それはフォーメルの事に相違ない。


今も気が付いていないだろうが、彼は知らない内にユーカの能力によってマーキングされていた。

それは毒を変化させた物であるらしいが、ユーカの説明では今のところは死を招く物では無いらしい。

今のところと言う説明には引っかかるが、これによってフォーメルが一定の範囲に近づけばユーカには分かる様になったと言う。

その毒が何時如何様にして、彼の体に入ったかは分からない。

連れ回されている間、フォーメルも人である以上は水と食料を欲した為、スキは幾らでもあったのだろう。気の毒なことだ。


ただ、これは俺も知らされていない事だったので、ちょっと驚いた。

フォーメルの身を案じもしたが、ユーカが大丈夫だと言うのだから問題は無いだろう。

むしろ、フォーメルが説明した西方の特殊兵士の暴走と言うのは、こうした事が拡大解釈されたのでは無いだろうか。


ユーカを始め、基本的にみんな俺に忠実だ。

多少は口答えなどするが、最終的には俺の意見を尊重する。いや、ユーカの行動を見ても分かる様に、自立的に動いたり先を読んで行動に移す事だってあるが、これは一見すると確かに独断専行と見る事もできる物の、俺を心配したり案じての事だ。

彼女たちでも未来を見通せない以上、最善の手を打つと言うのが俺の為になると思っての行動だろう。

だとしたら、俺の知らないところで動いたとしても責める事などできようもない。


大体、フォーメルの情報も結局は噂程度でしか無く、更には軍団規模で操れると言う話もあるのだから、あまり心配する必要も無いのかも知れない。

第一、暴走するならとっくにしていてもおかしくない。

それなのに、彼女たちは全くそうした気配すらない。

だから、本当は大した話では無いのだろう。

いや、正直に言えば、当事者としての実感が無い為、どうにも上手く飲み込めないのだ。

わけが分からず力を使っている・・・使わざる得ない状況にある為、俺は他に頼れない。

故に、もし仮にフォーメルの言う特殊兵士の話が本当だとしても、行けるとこまで行くしかないのだ。


それに、俺には確証の様なものがある。


少なくとも、一緒に過ごした限りで言えば、彼女たちは精神面でも成長し、安定してきている。

それはルミンに対する優しさであったり、配慮であったりと目に見える形でも確認できているのだ。


俺自身は、そう楽観視していたのだが、本当は、ユーカを含む他のメンバー内では、実は問題となっていた事を知らなかった。

もっとも、彼女たちはそれを俺に秘密にしていたので、知りようがなかったのだが。


ただし、その暴走の話を聞いた時、一つだけ思い当たる事があった。

マツリカが谷に落ち、モンスターに拾われたのがそれだ。

だが、あれは特殊な例だろう。

だからこそ、俺は次の段階に進む事にする。

新しい仲間の獲得だ。

その為に、俺はフォーメルに武器を二つほど所望した。


正直、フォーメルの話を聞く限りでは、危険を伴う可能性も無い分けではないのだが、人化させるかどうかは別としても備えておく事は必要だろう。

セイレアヌ姫と対面し、こちらに良い条件で協力をするとなれば、もっと戦力が必要となる可能性もある。

特に、バウンダーとか言う魔装騎士の戦闘力は侮れない。


マツリカだからこそ、あれだけ差のついた決着を見たが、他のメンバーだったらどうだったか分からない。

何と言うか、技術的な相性の悪さでコッチが結果的に強かった感じがしたので、工夫をされたらどうなるのかと、見ていて思ったのだ。

何より数で考えれば、俺達は今も不利である事に変わりはない。


また、フォーメルも全てを話していない様な気もしたので、何かしらの手札が欲しかったのだ。

話しによれば、魔法武器は使うだけなら誰でも出来るとの事だったので、これなら俺のレベルに関する弱点も何とかできるかも知れない。

そうだ。

レベルアップの方法は、同じヒューマスであるはずの彼らを参考にすれば良かったのだ。

俺は、直ぐに武器の回収にメンバーを差し向けた。




 暫くして、マツリカとイーブル・ラーナン数名によって武器が回収されてきた。

マツリカはあくまでも護衛であり、運搬はその他の者が行う。やはり、他の武器を持つのを嫌がる当たり、彼女たちはフォーメルが話した特殊な兵士と言う事なのか。

因みに、イーブル・ラーナンは他の武器を使う事もできるのだが、基本が剣の為か、持たせても扱いが下手くそ過ぎて話にならない。

と言うよりは、備え付けの剣を優先して使うので、持たせても思うように使ってくれないのだ。


 俺は武器の一つである槍を手に取ると、思わず感嘆の声を上げた。

何故なら、その槍は普通の武器であったにも関わらず、素人目にも優れていると分かったからだ。

手に持って振っただけでもしっくりと来ると言うか、おおよそ平均を徹底的に割り出し、誰にでも使い易い様な工夫がされているのを感じる。

まあ、槍とは言っても長さが1.5メートル程度なので、短槍に分類される物であろうから、それが扱い易さにも繋がっているのかも知れない。

それを差し引いたとしても、全体の作りや刃部分の工作も含めて業物と言える。

フォーメルには良質の武器をとは伝えたが、それに特に深い意味を込めたつもりはない。

用意できる範囲でと言ったつもりだったのに、相当な一品を提供してくれたらしい。

それだけに、フォーメルの本気度が伝わる気もした。

 一方の魔法武器の方は、剣と言った形状をしていた。

ただし、凄く大きい。

全体の長さだけで言えば、アシュレイの合体ランスより少し短い程度で、それでも長い方に入った。

しかし、見た目がアンバランスで、鍔に当たる部分には宝石の様な物がはめ込まれた突起物が出ていて肥大化している。

そのくせ、剣の部分はローナが持つ物とあまり変わらない太さなので、見ているとポッキリ折れそうで不安だ。

どことなくだが、フォーメルの持っていた物にも似ていた。


更に驚いたのは、その重さである。

外観的には大きくて重そうであるのだが、持ってみると意外なほど軽い。

と言っても、極端に軽い訳ではなく、武器として機能できる重さは備えている。

アシュレイのそれだと構えるのもやっとだったのだが、これは構えて振ることも一応はできた。

魔法武器ゆえの何かの特性とかではなく、材質が軽くて良い物がどうやら使われている感じがする。

俺は、各武器をアニーズで確認してみた。


『マジックウェポン・タイプ・ソード/フォール&リミットコネクター』

『ロバウル連合所属、シュライゼ国によって作られたマジックウェポン。ただし急造品の為に能力は限定的。同調者に対して魔力制御、魔法効果・攻撃、防御、身体強化等の各種能力付与あり。リミッター解除不可。同調回数6。

注:リミットコネクター付与により、使用者選定緩和。ただし武器に常時負荷影響。破損率15パーセントアップ。

注:魔力付与限界により、これ以上の魔法効果は破損する恐れあり』


『トロフラグ一派の短槍』

『名工トロフラグの弟子たちによって生み出された槍の一つ。一派の槍としては量産品に過ぎないが、その技巧の高さから他の名工品に比肩する』



「・・・・」


ちょっと予想外の情報に、俺は言葉を失う。


期待していた魔法武器の方は、色々と不安な情報が並ぶ。

一応、フォーメルから同国の魔法武器に関する経緯と、それによる質の低さは聞かされてはいたのだが、予想以上に難物だ。

対して槍の方は素性が良いと言うか、聞いた事がある様な情報が見られた。

トロフラグって、確かイユキの盾を作った人物の名前だったはずだ。

一派とか弟子とかあるが、今も存在しているのだろうか。

しかし、ここで俺は併せて気になる事が出てきた。

フォーメルから渡された魔法武器は、既に魔法による干渉が限界らしく、これ以上何かしらの作用をもたらすと壊れる恐れがある様だ。

その影響が人化も含むのだとしたら、迂闊な事はできないのかも知れない。

ただ、説明を読んで気が付いたのだが、イユキもある意味では魔法武器の範疇に入ってないか?

それとも、両者は防具と武器と言う形で全く異なるのか。

そもそも、彼女の防御能力付与は同調など行わなくても、俺に恩恵をもたらしていた。

それを考えると、やはりイユキの盾は違う系統と考えるべきなのだろうか。

イユキの例を上げるのならば、フォーメルが持ってきた魔法武器も大丈夫そうに思えるが、前者の場合は注意とか無かったし、そもそも名工と高名らしき魔法使いが関わっていた様な表記もあったので、武器としてのランクその物が違うからこそ、人化に絶えられたとも見る事ができる。


いや、それよりもだ。

この魔法武器、俺が下手に同調したら危ないんじゃないだろうか。

フォーメルは、魔法武器は同調と呼ばれる作用によって使用できるかどうかが決まると言っていたが、基本仕様は他にあれどレパンドルの物は様子が違うと言う。

アニーズで見たリミットコネクターと言う説明からも分かるが、武器の方がこちらに合わせるらしい。

だとしたら、俺の型と適合するとは限らない訳だ。

むしろ魔力量だけは大海と同等となっている俺の型は、下手をしたら複雑な形状やとんでもなくだだっ広いと言う可能性もある。

そうなれば、同調する側は無理をするのではないだろうか。

そうした面から、俺は魔法武器と同調するかどうかで少し悩む。

だが、レベルアップの突破口を掴む為には躊躇していられない。

武器が壊れるのか、或いは自分に影響があるのかは分からないが、俺は思い切って同調をする為に、魔法武器の宝石の様な部分に手を触れてみた。





 ハルタとフォーメルが接触準備に入っていた頃、シーゼスの方にも密かに外部の者が訪れていた。

彼らが訪れた場所も人気がない所であり、関係者以外は彼らの姿さえ見る事はできない。

もっとも、そこはザウスなる人物の管轄でもあった為、単に他の者の立ち入りが制限されているのも、人目に付かない理由の一つではあった。



「・・・・殺されてーのか」


「おうおう、怖いお嬢ちゃんだねー」


中年らしき男のからかいに、回りに居た似たような数人からも、どっと笑い声が起きる。

中年男は如何にも戦場を渡り歩いてきたと言った風貌をしており、粗野ではあるが、どこか必要最低限で洗練されたとも言える装備を身に着けた格好をしている。

一つ異様であったのは、纏う装備がどこか拘束具の様な印象も受ける事だろうか。

恐らく革製の衣服であろうが、その上から更に同じ様な革製品で体中を縛り上げており、よく見れば、所々が盛り上がったり尖ったりしている。


それに合わせたのかは知らないが、髪の毛も逆立てており、その色はくすんだ赤色をしていた。

目も黒に近い赤茶で、笑いを湛えてはいたが隙きの無い視線を常時送っている。

顔にはシワと共に傷も刻まれていたが、それが彼の戦績を物語ってもいる様だった。

彼の取り巻きも大体似たような感じの空気を纏い、やはり雰囲気だけで強者と分かる何かを醸し出す。


 それに対峙していたのは小柄な人物であった。全身緑色の服を着た女性、ソライである。

彼女は髪も緑色だったが、染めているのかそれとも他の要因があるのか、先に行くに従ってその色は桃に近いグラデーションを見せていた。

顔立ちは背の低さに比べて大人っぽい。


両者の背丈の差はかなりの開きがあり、自然と中年男がソライを見下ろす形となった。

だが、それにも増してソライがやや膝を曲げる形で屈む様にもしていたので、中年男は更に視線を下げる。

中年男は腕組みをしていたが、構えに隙きを見せず、実質的には戦闘態勢を取っていた。

そして、それはソライも同じであったが、彼女は相手の隙きの無さなど取るに足らないとでも言いたげに不敵な笑みを浮かべる。

実際、彼女の放つ気も異様さを持っており、その中年男をして一定の距離から詰めさせるのを牽制していた。


(全力で殺す)


本気でそう考えた彼女は、更に腰を徐々に屈め様とした。


「おっと、コイツはヤバイな。 "暴翼のソライ"様に本気で突っかかれちゃ、こっちも危うい」


そう言って、中年男は腕組みを解いて半歩下がる。

しかし、戦闘態勢は維持したままだ。むしろ、対応し易い様な体制を取った。

それを見て、回りの連中からも笑みが消える。


「へっ!今更後悔しても遅いからな」


それに対し、ソライも一層人相悪く笑った。


「そそ、そこまでだ」


両者の緊張感がピークに達しようとした正にその時、ほぼ間に立った者が居た。

それは、長身かつ痩せ身の青マントだった。

と言うより、彼はソライ寄りに立って彼女の動きを阻む。


「テメ、何してんだ、邪魔すんな。コイツら、全員殺す」


だが、それを無視して青マントはソライの服の一部を掴むと、完全にその動きを制する。


「か、か、勘違いするな。 おお、お前たちの敵・・・・し、仕事は別にある。 ここ、これ以上やると言うなら、お、お、俺も、ああ、相手になる」


そう言って、その青マントは中年男たちに目を向ける。

それを見て、中年男が口笛を吹いた。


「流石に"青い死神"を相手にするには、この俺様も分が悪いや。 ま、今回は挨拶代わりって事で」


そう言って、その中年男は取り巻き共々、その場をゾロゾロと後にする。




「おい、キライス、何で止めた。 アイツラには、どっちが上かをキッチリ叩き込んでおく必要があんだよ。大体、俺が面倒見る事になってんだ。 それとも、俺が負けるとでも思ったのか!?」


「そそ、そんな事は思ってない。お、お、お前が勝っただろう。 だ、だが、おお、お前も唯では済まなかった」


「あん?何だ。 アイツらの事を知ってんのか」


「く、く、喰らい火のアンガムと言えば、おお、お前も聞いた事があるだろう」


「彼奴が? はっ、だとしたら、噂ほどでもねーな。 あんな連中で本当に大丈夫なのかよ」


更に悪態を突くソライに、キライスと呼ばれた青マントの方は何も返さなかった。





「頭、あのまま、舐められたままで良いんですかい」


ソライたちとの顔合わせを済ませたアンガム一行は、自分らに割り当てられた屋敷へと向かっていたのだが、その道中、部下の一人がそんな風に話しかけてきた。


「幼気なお嬢ちゃんをいたぶるのは、俺の趣味に合わねえよ」


「幼気?あれが?」


「クハハハハ」


部下の軽口に対し、アンガムも戯けて笑った。

彼らは戦場を渡り歩く傭兵であり、今まで生き抜いて来ただけあって実力も経験も持ち合わせてはいたので、相手の実力を理解するに十分な知識と嗅覚も持ち合わせてはいた。

それに照らし合わせれば、暴翼のソライに勝てるかどうかは微妙な所だったが、数々の戦場で生き残った代償として、彼らはどこか壊れていた。

ただアンガムに関して言えば、もう一つ別の理由があったが、それは彼が特別でもある証でもある。

何れにしろ、生活と金儲けの為に始めたはずの生業であったが、何時の間にか彼らは自分の命を掛け金とし、ギリギリの中で生き残れるかを試す事に快感を見出す様になっていたのだ。

無論、それ相応の実力と戦闘経験を彼らが持っているからこそ出来る芸当ではあったが、時にそれは、自分達を上回る強者であっても獲物としようとする狂った戦闘本能を彼らに与えてもいた。

その証拠に、戯けたアンガムの目にはソライを獲物として見る火が灯り、舌なめずりをする。


「・・・困るな。君たちの役目は別にあるんだ。 仲良くしてくれないと」


突然発せられたその言葉に、アンガム以外の連中がバッと振り返って構えた。

彼らは常に周囲に神経を張り巡らせ、迂闊に近づく者を許さないと自負していたのだが、背後から話しかけた持ち主はその気配を一切感じさせ無かったのである。

それ故に、全員が過剰なまでに反応を示したのだ。

ただ一人、アンガムを除いては。


「これはこれは。 雇い主さんかい」


振り返らず、余裕を見せながら答えたアンガムであったが、彼は拳を強く握り直す。僅かな音が彼自身には聞こえたが、周囲にはどうであっただろうか。


「ああ、そうだ。

君たちには期待しているんだ。 だからこそ、金に関しても破格の条件を出したはずなんだが。 何か不満なのかね?」


その男、黒尽くめの人物は殺気も怒気も、そして戦う意思さえ見せずに静かに語ったが、逆にそれがアンガムたちに強烈なプレッシャーを与える。

餓えた戦闘狂らを前にして、その男はそれでも涼しげにしていた。

それが返って、かつて無い相手としてアンガム達の目には映る。


実際、その黒尽くめの男は隙きだらけと言う風にしていたが、それは明らかな誘いだった。むしろ、それによって挑発しているのを隠しもしない。

ジリジリと前へ後ろへとアンガム達の部下は足で地面を擦りながら、飛び込む隙きを伺う様にしていたが、彼らの経験がどの様にしても殺られると言うのを本能で感じ取らせる。

そして、それを黒尽くめの男は楽しんでいる様でもあった。


圧倒的な力の差。


戦闘狂の獣たちでさえも、その男を前にしては死を躊躇わずにはいられなかったのだ。


「不満なら・・・ある。 俺たちを、唯の策謀を担がせる狗程度として考えているのなら、止める事だ。 狗にも牙くらいはある」


そう言って、ここで漸くアンガムはゆっくりと振り返り、黒尽くめの人物と対峙した。

それを見て、マントの奥に顔を隠したその人物は口だけで笑う。


「獲物が欲しいと言うのなら与えてやろう。 ただし、仕事をキッチリと熟す事が条件だ」


「良いだろう」


そこで初めて、黒尽くめの男はふと緊張を解く様な表情を見せた気がした。

それにより、張り詰めていたい空気が少し和らいだのを、そこに居た全員が感じる。

それを最後に、黒尽くめの男は風に溶けるかの様にそこを去った。



「おっかねーな」


得体の知れない相手を目の当たりにして、それでもアンガムは戯ける余裕を忘れなかった。

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