表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺のLVは上がらないのに、  作者: 松戸真 寿司
53/81

~謎の勢力~ -15. 機械之心






 フォーメルの報告は、セイレアヌに少なからぬ衝撃を与えると同時に、彼女に複雑な感情を抱かせる。

勇者と仲間たちの話に始まり、その正体と可能性。

そして、自分を指名しての秘密裏の接触要望など。

そこには少なくない期待もあったのだが、同時に大きな失望や公表すればレパンドルの誤解を解けるかも知れないと言う、悪魔の囁きにも似た要素が絡んで彼女を悩ませた。

ただ一方で、勇者の存在が幻想かもしれないと言う事実は、一人反省会で勇者に祈っていた彼女にとってはショックでもあったと言えよう。

勇者が、ただのアーマルデ・ロイデンであったと言うのは盲点だったが、それはそれで全てに説明が付いて「ああ、やっぱり」と、腑に落ちて納得すると言うか脱力する様な感じもあった。

ただし、話した当人であるフォーメルは念押しをして、その可能性のみを語っていたはずなのだが、彼女の中では完全に勇者の正体は特定された形となっていた。



 アーマルデ・ロイデンは、主に西方の国々で発生した兵種とされている。


誕生の経緯自体は今も謎とされてはいるが、魔法使いの数が少なく、力も限定されていた時代においては、その力は絶大だともされていた時期もあった。

彼らは通常、武器に血肉を与える事で兵士化させ、それを使役していたと言う。

古く使いこなされた武器や、名工と呼ばれる物ほど良い兵士が出来るとされ、そうした武器が豊富だった時代はかなり有効だったらしい。

逆に言えば、それだけ争いが絶えなかった事の裏返しでもあり、死者の魂の数がアーマルデ・ロイデンの力になっていると皮肉られていた程だ。

魔法使いに弱いと言う弱点が発覚すると急速に廃れた事や、魔装戦士の誕生自体がやや後だった為、これらは戦う事が歴史上無かったとされているが、一説によれば、確かに単体での戦闘力はアーマルデ・ロイデンの方が、魔装戦士よりも上だったと評する者もいる。

そうであれば、確かに今回の一件は全てに説明が付く。

今の時代、既に廃れたと思っていた兵種が突然現れたのだから、誰も見たことがない上に、対処方法も取れずに魔装騎士などが負ける事は十分にありえる事だろう。

しかしそれは、幸運だったとも言える出来事であり、アーマルデ・ロイデンに対処する方法は幾つも存在する以上、知られてしまえば彼らに勝ち目はない。

或いは、"魔法使いやそれに類する攻撃を魔装騎士が仕掛けていれば"、早々にバレていたはずだ。


 アーマルデ・ロイデンの弱点。それは"魔法に対処できない"事である。


魔法に弱いと言う事では無いが、アーマルデ・ロイデンは魔法を防ぐ手立てが無く、一方的に攻撃されるだけになる。

それで直ちにやられる訳ではないが、連続して攻撃を受けると流石に停止状態に陥る上に、基本的に接近攻撃しかできないこれらは遠距離からの攻撃には極端に弱い。

この為、アーマルデ・ロイデンは、魔法使い、或いは魔法を使う者には為す術がないとされていた。

魔法使い程ではないにしろ、通常状態の魔装騎士らも魔法攻撃を単発的には放つことができるし、個の力で調整できる物に至っては連発する事も可能だ。

更に言えば、魔装騎士は応用で至近距離からも魔法攻撃を放てるので、接近戦しかできないとされているアーマルデ・ロイデンは単なるカモとなる可能性もあった。

故に、アーマルデ・ロイデンであると知っていれば、直接的な戦闘力で魔装騎士が例え敵わなくとも、対処する事は出来るのだ。

しかも、アーマルデ・ロイデンは魔法効果の付与や、媒体となった武器以外の装備も不可能な為、弱点を補う事はほぼ不可能であり、対魔法戦においては殊の外弱い。

特に、マスターを倒されてしまえば、どんなに数が多かろうが強力な兵士を揃えようが一撃で全滅してしまうので、戦場に出すにしてもそれを守る策や兵が必要など、ある意味では本末転倒な存在とも言えるだろう。

また、この噂はかなり怪しいが、マスターから離れ過ぎたアーマルデ・ロイデンは邪神化して自律行動するとも言われており、それによって制御を一切受け付けなくなった結果、一国が滅びたと言う事件もあったとされている。

更には、その邪神化した物によってマスターが殺害されたという話もあるので、ある意味でリスクの高い兵種でもあったのかも知れない。

故に基本的にマスターは、これらの直ぐ近くに居る事が重要とされ、必然的に狙われ易いと言う最大の弱点も持っているのだ。

何れにしろ、対処方法が色々ある事は間違いがなく、正体を知ってさえいれば怖く無い相手なのである。

他にも、兵士化させるにも効率が悪く、古くとも質の良い武器が揃っている場合ならいざ知らず、それらを用意できないのであれば戦力としては強さにバラつきが生まれるとされてもいて、魔法武器を作るよりも面倒な部分があるらしい。

例え兵士化させて用意できたとしても、これらは術者に必ず従うとも限らないとされており、扱い難さもあって次第に廃れる事になったと言う。

よって、運用されていた期間もあまり長くなく、現在ではほぼ見かけない。

ただし、それらに対する噂にも色々あって、こうした事に少なからず改善した様な話も伝わってはいるが、結局は廃れたと言う事実を見るに、根本的な解決方法は見つからなかったのだろう。

もっとも、廃れたと言うのは全体を通しての話であり、西方では今も配備している国が存在しているらしいが、近年ではその動向に関しては話すら聞いたことがない。



 そう考えると、今回の一件は実に単純かつ呆気ない形で幕切れを迎える可能性を持っていると同時に、より他国が暗躍している疑いも浮上してきた。

逆に言えば彼らの存在は、レパンドルにとっては命取りになり兼ねない要素を含んでもいる。

他国にとって「或いは」と言う形で浮上してきた謎の勢力の正体は、蓋を空けてみれば呆気なく、更に言えば、少なからずそれに乗っかったレパンドルもとばっちりを受けかねない。

それらは必ずしも自らが望んだ事ではないのだが、周辺国からの見方が変わったと言う点では、十分に深い傷を負ったと言っても良い。

この事実を包み隠さず世間に知らせれば、納得する輩も多く出てはくる可能性もあるだろうが、レパンドルの益となるかどうかは、また別である。

下手をすれば、レパンドル恐れるに足らずと攻め込まれ、或いは西方の国と内通していると疑われ、少なくとも東の国々にとっては良い印象を持たれないだろう。

場合によっては、敵視される可能性だってある。

どっちにしろ、レパンドルは不可抗力とも言える形で、その運命が決まる分岐点に立っていたのだ。



「ふう・・・。

会って・・・・それから・・・・それから先は考えるべきね」


フォーメルが去った後で、セイレアヌは今後の事について独り言を漏らす。

思考は相変わらず巡らせてはいたが、彼女の中には、既に勇者の存在は霞んでおり、厄介者を抱え込む可能性と、他国との取引に使えないかを考え始めていた。

そうした思考にふと気がついたセイレアヌは、自分の卑しさに思わず顔を覆う。

勇者かも知れないと言うことや、戦力的に有力かも知れないと考えていた時とはうって変わり、相手の正体が分かった途端、急に自分の立場が上と考える事に嫌気が差したのだ。

しかし、国を預かる者の一人として考えると、どうしても損得を挟まずにはいられないのも事実である。

できれば誰かに相談をしたかったのだが、フォーメルからは内密にして欲しいと言う条件が伝えられていた為、彼らと接触を図る事を考えている以上、迂闊な事もできない。

会わずに済ます、と言う選択肢も確かにある。

だが、その場合、彼らの存在とその正体が他でバレた時や、もしくは他国へ流れていった時には、レパンドル側が主導権を失うと言う事態も発生し、余計に事が悪化する可能性の方も高い。

そうなると、内密に接触していた、或いはしようとしていた事実がある以上、やはり不利益を被ることになるだろう。

第一、フォーメルは彼らとは接触を果たしただけであり、その目的や意図までをも聞いた訳ではない様だった。

それを確かめる為にはやはり会うしかないし、その前に迂闊な行為はすべきではない。

それに、内密に会うと言う事は、ある意味でこちらから主導して彼らの存在を隠す事だってできるはずだし、第三国の介入があるなら、その存在についても何か分かる可能性だってある。

それを引き出す事ができれば、逆に企みを知った上で利用する事だってできるはずだ。

今考えうる最大のメリットを考慮すれば、やはり会うしか無いだろう。


 どこまでも策謀と裏読みが止まないセイレアヌではあったが、もはや形振り構っていられないのも事実だったので、フォーメルから伝えられていた接触方法を実行に移すべく、準備に取り掛かろうと決心した。




 クラッデルムの敗北後、シーゼス王都の一室では、その報告を聞いた元老院達によって、今後の事について話し合いが行われていた。

ただ、その前に行われたクラッデルムによる報告は、一種の公開処刑だったとも言える。

元老院の連中は、事前に報告を受けてはいたが、今一度の確認という名目と、厄介者を今後の為に大人しくさせておくため、敢えて公の場にクラッデルムを引っ張り出し、一切を報告させたのだ。

クラッデルムは淡々と報告してみせたが、跪くその姿は何時もより覇気が無く、小さかったと言うのが元老院達の感想でもあった。

その時の報告によると、敵は勇者に相当する戦力を持ってシーゼス側の進撃を阻み、あまつさえ、バウンダーでもあるクラッデルムさえ圧倒してみせたという。

クラッデルムの申し開きによれば、それが勇者連中だという。

ただし、それはあくまでも彼の推測と、その場に居た連中の印象的な部分に頼る面も大きい。

実際、結局勇者とは誰であったのかが、今もハッキリしていないのだ。

情報その物が錯綜しており、現場に居た連中から直に話を聞いても、結局は核心的な物は何一つ得られていない。

女風、あるいはモンスターらしき連中の目撃のみが上がってくるだけであり、依然として正体は不明なままだった。


ただ、ハルタと言う名前だけはハッキリしており、引き続き情報の収集には当たらせてもいる。


もっとも、その正体不明と言うのはある意味でシーゼスにとっては好都合であり、それによって情報戦を有利に仕掛ける事もできたのだが、何時メッキが剥がれるか分からないと言う危うさも抱え込んではいた。



「・・・勇者など、本当にいるのか」


「さてな。 しかし、問題はそこではないぞ」


「いかにも。 小国如きが、我らに対抗する術を隠し持っていた事は、十分に危惧する案件である」


「それを報告しなかったクラッデルムの責任は重い」


「それについては、後回しでよかろう。 それよりも、だ。 これでは、当初の計画に狂いが生じる」


「左様。 西側と内通したと言うのに、何の成果も得られませんでしたでは、今度は我らにも責任が及ぶぞ」


「責任どころの話ではない。 シーゼスの国としての立場その物が危うくなる」


シーゼスは基本的には王政であるが、大体における方針は元老院が決めてもいる。

しかし、それも限界が見えつつあり、その軋轢が新興勢力とも言える存在の台頭を許し始めてもいた。


そして、その代表格とも言える人物が、元老院達が話し合っている場に唐突に現れる。


「お困りの様子ですな」


何時の間にそこに居たのか、壁に寄りかかる様にして、元老院らにあからさまに侮蔑の視線を向ける人物が居た。


「! 貴様・・・・ザウス。 何をしに来た。ここは、我ら以外は立入禁止なのだぞ」


「陛下から、許可は取っておりますよ。 何やら、元老院の方々の計画には、暗雲が立ち込め始めているらしいですからな」


「お、お前・・・・」


「ご安心を。 別に、あなた方の邪魔をしに来たわけではありません。 むしろ、悩みの種を解決して差し上げられる朗報と、策を用意してきたのですよ」


「朗報?策だと。 口から出まかせを。 少しばかり西側と窓口を持ったからといって、調子に・・・」


「アーマルデ・ロイデン」


「?」

「何?」


「恐らくですが、敵の切り札の正体は、アーマルデ・ロイデンだと思われますぞ」


「何故、そう言える?」


「確信はありませんが、報告を聞く限りではそうではないかと」



本当の所、ザウスは確信に至る情報を持ってはいたが、そこは敢えて惚けてみせた。

それは、元老院達に手札を見せないと言う策でもあったのだが、その滑稽さを笑う為に彼の嫌らしさが出た結果とも言える。



「確信がない?話にならんな。 貴様こそ、証拠となる材料を持って出直してこい」


「おやおや。 シーゼスきっての重鎮のお集まり、元老院らのお言葉とは、とても思えませんな」


「ぶ、無礼であろう。言葉を・・・」


「魔装騎士やバウンダーを倒せる相手で絞れば、自ずと限られてきます。 そして、報告では直接的に魔法攻撃を使った者も居ない。 そうなれば、必然的に答えは導き出せるはず。

むしろ、勇者等という御伽話を信じる方がどうかと思いますがな」


「ッ・・・・・」


「安心めされよ。 既にエレメンタリスは手配済みですので、直ぐに相手の化けの皮を剥いで見せましょうぞ。 それでは」


尚も何かを言いかける元老院の連中を背に、ザウス・デ・デミナは一切振り返らずにその場を後にした。





 ザウスが長い廊下を戻る途中、頭までフードをかぶり、全身黒尽くめと言った人物がフラリと彼の前に現れる。


「首尾は、如何でしたかな。 ザウス殿」


「ああ、大いに役立った。 貴公らの協力に感謝する。 国王陛下もさぞお喜びになるであろう」


「それはそれは、僥倖。 身に余る光栄でございます。 やはり、ザウス殿にお仕えできたことは我ら、いえ、我が国にとっても誉」


「ふん、見え透いた世辞はいい。 それより、ちゃんと手配には応じてくれたのだろうな」


「ご心配なく。 本国には既に打診しておりますので、少々お待ちいただければ、ザウス殿の思惑通りに」


「そうか、それならば良し。 にしても、アーマルデ・ロイデンとはな。 あんな骨董品、連中が使ってくるとは盲点であったわ」


「西方でも、今は殆ど目にしませんからな。 こちらも斥候を出していなければ、信じられなかったところでございます。 しかし・・・」


「? しかし、何だ」


「いえ、どこから調達したのかと思いましてな」


「ふむ、確かに。 だがまあ、所詮は我らの駒として回されるだけよ。大したことではない」


「ハッ」


そう言って黒尽くめの人物は一歩下がってザウスに道を譲ると、彼が去るのを見送り、その後に辺りをゆっくりと見回す。

シーゼスの王都内に出入りできるなど、彼らにとっては貴重な体験でもあった。

もっとも、今は含むことは何もない。

だが、この経験が今後の為になるであろう事も確かだ。

黒尽くめの人物は、その今後を想像しながら今一度見渡すと、今度は王都内に用意された、自分達の隠れ家へと歩き出す。




 黒尽くめの人物が向かった先、そこは幾つかの施設が存在し、中には使われていない場所も多い場所だった。

そして、その幾つかはザウスの管轄であり、その中の一室に二人の人物が居た。


「なあ、あの場で狩れば良かったんじゃねーのか」


石造りの狭い一室で、緑色の服を着たやや小柄な人物が、椅子の背もたれに体を預け、机には足を放り出しつつ、青っぽいマントを付けてこちらに背を向けている長身の人物に話しかける。

すると、問われた方はゆっくりと振り向き、小柄な方を見下ろす。

頭を少し傾けてはいるが、それでも天井との隙間は僅かであり、かなりの長身である事が分かる。

その顔は、痩せこけていると言うよりは縦に細くて長く、色も白い。しかも、首には異様な程に筋が浮き出ていたが、どっちにしろ全体的には細身である事を伺わせる。

その証拠に、目玉の周りは窪んでおり、ギョロギョロと動かしながら頻繁に瞬きを繰り返す。


「わ、我々の、にに、任務は、ああ、あくまでも、か、監視である。 そそ、それ以外の事は、か、感知、し、しない」


「相変わらず真面目すぎんな」


「そ、そ、それに、ああ、あれが本当にアーマルデ・ロイデンか、い、い、今一度、し、し、慎重に調べる必要も、あ、ある」


「調べるも何も、お前だって見えてだろ。 あの魔力糸。 緑色の奴はちょっと違う感じもしたが、変な鎧野郎と盾女は明らかだったろうが」


「う、うむ・・・」


青マントの男は、シーゼスが敗北した時の戦いを思い返していた。



 あの日、そこに現れた謎の一団には少なからず驚かされた。

どう見ても兵力では劣っていたと言うのに、その一団にはバウンダーさえ太刀打ちできず、遂には勝ってしまう。

シーゼス軍の士気低下も要因の一つだったかも知れないが、数万の兵力が崩れると言う様は、彼も見るのは初めてだった為、強く印象に残っている。

特に目を引いたのが、その異様な兵士らでもあった。

モンスターの様であってモンスターではない物が大半を占め、その正体は自分たちにも分からない。

ただ一つ、エレメンタリスと呼ばれる自分たちには、直ぐに魔力の繋がりが一点に向かって伸びている事に気付き、それがアーマルデ・ロイデンであると確信するに至る。

ただ、あの日見たアーマルデ・ロイデンと使役者を繋ぐ魔力糸と呼ばれる物は、これまで聞いていた物とは違った感じもした。

話では、これらは非常に細くて消え入りそうであると言うのが普通とされ、数が増える程に、その繋がりは危うくなるとされていた。

何より、基本的には一本で繋がっている物とされている。

しかし、あの日に見た魔力糸は確かに細い物ではあったのだが、蜘蛛の巣の様に幾つも張り巡らされて繋がっており、どれか一つが切れても補われる様になっていた。


いや、この表現は少し違うかも知れない。


むしろ、様式に則って最大限に魔力を送り込む事を模索した結果、あの様な蜘蛛の巣状に魔力糸を展開すると言う形を取っていたのかも知れない。

だとしたら、全く違った兵種、或いは改良されたアーマルデ・ロイデンを何者かが試しているとも考えられた。

とは言え、アーマルデ・ロイデンを直接見たことがない上に、後世に伝えられた話も一例に過ぎない物が広まった可能性もあったので、何の変哲もない術の一つと考える事もできる。

興味は付きないが、何れにしろ警戒するに越したことはないはずだ。



「お前な、色々と考えすぎなんだよ」


「お、お、お前は、ら、楽観的過ぎる」


痩せっぽ青マントのその返事に、小柄な緑服の人物は舌打ちだけで返すと、椅子を揺らしながら髪を弄る。

それを、痩せっぽ青マントは相変わらずギョロギョロと目を動かし、頻繁に瞬きしながらも黙って見ていた。

それに対し、チラッと緑服の人物は視線を送ると更に続ける。


「オイ、わざわざ本国から、別働隊を呼ぶって話を聞いたか」


「はは、初めて、き、聞いた」


「だろうな。 俺も盗み聞いたからな」


そう言って、緑服の人物が意地悪く笑った。


「わわ、悪い奴だ」


「真面目か。 大体、この国にもエレメンタリスは居るだろうに」


「せせ、戦力の消耗を、ささ、避けたいのだろう。 わ、我らの、ちち、力を、みみ、見せる良い機会でもある」


「どいつもこいつも、回りくどいんだよ。 あそこで俺らが倒してたら、一石二鳥って奴だったろうに。 お前が頑として止めるから。 つーか、俺らを使えよ」


そう言って立ち上がった緑服の人物は、痩せっぽ青マントに近付くと、腰の付近を叩く。その腕には、やはり緑の布が何重にも巻かれていたが、所々が歪に盛り上がっている。

叩かれた事に対し、青マントは特に動じたりはしなかった。


「おお、女の子は、もも、もう少し、お淑やかに、しし、した方が良い」


「るせーよ。 俺を女扱いすんじゃねー」


そう言って緑服のその女性は、その狭い一室の扉を開けて何処かへと出ていってしまった。

残された痩せっぽ青マントの方は、それをただ見送ると、尚もブツブツと何かを呟く。


「ああ、あれが、アーマルデ・ロイデンだと、はは、判断するには、かか、確証が足りない。 いい、今は、て、手を出さずに、よよ、様子を見るのが、と、得策・・・・」


尚も呟くが、それを聞く者は無く、石壁がその言葉を染み込ませるだけだった。





 ザウス・デ・デミナが出て行った後も、元老院のメンバー達は話し合いを続けていた。


一応の内容としては、レパンドルの切り札がアーマルデ・ロイデンであると言う事実に対し、驚きや納得出来ると言う話をしてはいたが、大半は台頭してきたザウスに対抗する術に関してであったと言える。

ただ、餌を巻かれたとは誰一人気がついておらず、ある意味で彼らは警戒すべき相手の掌で踊らされているなど、微塵も思ってはいない。

もちろん、ここでザウスが情報を提供した事を怪しんだ者も居たが、単に偽の情報を流している可能性に付いて言及しただけであり、その裏を読むものは居なかった。

むしろ、もたらされた情報に、これまでの事を照らし合わせる程に腑に落ちると喜び、脅威と思っていた物が実は虚仮威しであった事には、ほくそ笑む者までいた程だ。

そうした中で彼らが出した結論は、ザウスに先んじてコチラからエレメンタリスの部隊を派遣する事であったが、それ自体、既にザウスが織り込み済みであるなど、誰一人考えはしなかった。





「ソライはどうした?」


「そそ、外に出た。たた、多分、エエ、エレメンとの同調に、いい、行った」


「ふむ」


緑の服を着た女性、ソライが出て暫くしてから、黒尽くめの男が痩せっぽ青マントの居る一室へとやって来ていた。


「本国からエレメンタリスの傭兵が派遣されてくる」


「よよ、傭兵? ほほ、本国の ちち、直轄ではなく?」


「本国では、タイミング悪い事に問題が起こるらしいからな。 それ故、人手が足りなくなるそうだ。 だから、致し方なく、傭兵を雇う事にした」


そう言って、黒尽くめ人物は顔を見せずに、口元だけで笑ってみせた。


「ああ、あんたも、わわ、悪い奴だ」


「相変わらず、真面目だな」


その返答に対し、痩せっぽ青マントも口の端を上げて見せる。


「傭兵の面倒は、ソライに頼みたい。 そう、伝えておいてくれ」


「わわ、分かった」


「ではな」


「れれ、連中、ほほ、本当にアーマルデ・ロイデンと断定して良いのか」


「? 何故、そう思う」


「わわ、分からないが、聞いていたのと、い、い、色々違う。 た、ただ、ああ、あんなに、ひ、人に似た姿をしていたか、ぎぎ、疑問だ」


「・・・そんな物じゃないのか。 そもそも俺も、本物のアーマルデ・ロイデンを見たことが無いからな」


「でで、では、何故、わわ、わざわざ、よよ、傭兵を雇う」


「雇い主の意向だ。 もっとも、こちらも簡単には手の内は見せんよ。

それに、傭兵と言っても・・・・」


「?」


「いや、何でも無い。 では、後は頼むぞ」


それに対して青マントは「分かった」とだけ短く返し、以降は黙った。

それを見た後で、黒尽くめの方もそこを出て行く。

しかし、これからの事を予見するかの様な、外のねっとりとした空気を感じると一人呟いた。


「さて、面白くなってきたな。 せいぜい、引っ掻き回させてもらおう」


声こそ出さなかったが、黒尽くめの人物は笑っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ