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俺のLVは上がらないのに、  作者: 松戸真 寿司
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~謎の勢力~ -13. 開戦 その4






「ターナ、リディ、準備は良い?」


「まかせて」


「こちらも、何時でも良いですぞ」


二人の返事を聞いてユーカは無言で頷く。

ハルタの指示通り、キジャラと他の木を束ねた物を投げ込む準備を整えはしたが、ここに来てユーカは敵であるシーゼスの様子に違和感の様なものを感じはじめていた。

上手く説明する事はできないのだが、少なくともハルタが持った印象とは違うと感じる部分がある。


「一投目は様子を見るべきね」


そう呟いたユーカは、目標をワザと相手部隊の隙間、空間となっている部分に指定した。




 ボーッと歩いていた兵士達は、何かが目の前に投げ込まれてきたにも関わらず、直ぐには反応しようとはしなかった。

いや、それぞれが少なからず身をビクつかせたが、やはり起こった事への関心が薄いのか、足元には火のついた薪の束の様な物が転がるが、訝しげに見ただけで特に危機感を覚える者は居なかったのである。

普通なら、こんな物が飛び込んだ時点で驚きの声を上げるはずだが、彼らは色々と疲れていた上に、仲間が味方に殺されていたかも知れないという心配事のせいで、何かが明らかに麻痺していた。

それは周囲も同様で、これが非常事態だと気が付くのに時間がかかる。

やや遅れて、あちこちに同じ様な物が投げ込まれ更には少々きつい臭いの煙が舞い上がってから、ようやく騒ぎ出した。


「ゴ、ゴホッ。 何だこりゃ。 目に染み・・・くぁ、臭・・!」


「て、敵しゅ・・・ウェッ」


あちらこちらで上がる煙、それに続く様にして声が上がるが、士気が低下していたせいか、やはり全体としての対応も遅い。


いや本来であれば、指揮する総大将が率先してこれに対応するべきなのだが、当のクラッデルムは辺りをキョロキョロと見回すばかりで、何ら指示を出そうとはしなかった。


これに業を煮やしたフィーグスが声を上げる。


「敵襲!前列は陣形を組め、他は火消しに回れ。 急げー」


号令を受けてようやく兵士たちが動き出すのだが、これまたノロノロとした動作で遅い。

そうなるもう一つの理由として、これといった被害が出ていないのも彼らの危機意識を薄れさせてもいた。

その間にも森の方からは何者かによって火のついた木の束が投げ込まれてくる。

しかもこの煙には何かの作用があるらしく、あちこちで激しくむせる声がする。

フィーグスもそれの影響を軽く受けて思わず腕で口元を覆う。


(何だ、この煙は? いや、それよりも敵は何者だ?)


煙を使ったこの攻撃は、一見すると初戦のレパンドル軍の煙幕を使った奇襲を思い起こさせるのだが、その割には規模が小さすぎてお粗末だった。

少なからず被害は出ているようだが、三万近くいる兵力に対しては、その影響は限りなく小さい。

特に視界を奪う程でも無いのと、少なからず対応が追いついた今となっては混乱も収まりつつある。


一体、何がしたいのか・・・・。


フィーグスを始め、シーゼス軍は前方を注視した。



 思った程に混乱しない事に俺はちょっと戸惑っていた。

やや遠くの場所から観察しているので、相手の兵士の表情までは見えないから何とも言えないのだが、反応が鈍すぎる。

てっきり、火と煙に騒ぎ立てて思いっきり怯えてくれると考えていただけに、肩透かしを食らった感じだ。

もしかして読みが完全に違うのではないかとも思ったのだが、相変わらず敵の動きが鈍い事は確認されたので、やはり好機である事に違いはないだろう。

俺は作戦の続行を前線に伝えた。



 ハルタの戦闘続行の指示を受けてユーカは次の段階へと行動を移す。

リディとターナのコンビによるキジャラ投擲作戦は、ワザと敵に当たらない様にさせていた。

これはユーカの独断であったが、そうする事によって敵に油断を生じさせる意図もあった。

案の定、敵は大した攻撃ではないと踏んだのか、小手先の対応で済ませようとしている。

そして、意識もこっち側に向いていると言っていいだろう。

本当なら、最初から敵にぶつけて混乱を招く様に言われていたのだが、現場で様子を見たユーカは、何となくだが敵の士気低下の原因が別にある様に感じた。

前線からハルタを引き離した手前、そうした違和感に対処するのは自分の責任とも考えたので、一投目で様子を見てみたのだが、案の定、敵の反応が鈍かったので直ぐ様切り替えたのだ。

それにより、ハルタの読み外れは、十分に補えたと言っていいはずだった。


「アシュレイ」


ユーカの呼びかけに、アシュレイが無言でクロスボウを構えて狙いを付ける。

そのユーカもドレスを変化させて、絶命の棘を発射する体制に入った。

無論、その攻撃も十分に手加減された物だ。




 ようやく迎撃の準備が整ったと思った瞬間、矢の様な物が前衛部隊を貫き、そして弾き飛ばした。

一瞬で多くの兵士が倒れた事により、少なからず動揺が広がったが、それに追い打ちをかける様に攻撃が続く。


「落ち着け。盾を構えて隙間を作るな。 負傷者は後ろに回せ」


フィーグスの指揮で何とか前衛は持ち堪え、その甲斐あって敵の攻撃は効果を失う。

だが、矢継ぎ早に放たれる矢の様な攻撃に晒され、身動きは取れなくなっていた。


(不味い)


フィーグスは、これに敵の意図を感じ取ってはいたのだが、兵力規模では上回るであろうと言う希望的観測を持っていた為に判断は鈍い。

彼もまた理不尽な損失を受けた事により、少なからず思考に合理性を欠き始めていたのだ。



「イユキ、マツリカ、分かっているわね? 確証を得る為に、本当に協力して頂戴」


「分かってるよ。 行くぜ、全軍、出撃!」


「皆さん、行きますわよ」


「くれぐれも、力は使わないでよ」


ユーカの合図により、マツリカとイユキが五百近いイーブル・ラーナンを引き連れ、敵の側面へと突撃を開始する。



 この新手の出現に、明らかに敵は動揺した。

前方に集中しすぎて、側面からの奇襲に近い事や、数に対してもそうだったのかもしれないが、彼らは更に見慣れぬ存在にも驚いたのだ。

緑色の人間の女の様な姿をした軍勢。

一瞬、モンスターかとも思ったが、その割には造形と顔の表情が人間に似通り過ぎている。

こんなのは誰も見たことがないので、軽い混乱を招く。

更には奇妙な鎧を来た兵士と、大盾を持った、これまた女戦士の出現が動揺に拍車をかけた。

色々と異様な光景に、誰もが己の思考に空白を生じさせる。


「な、何だ、こいつら!?」


「敵襲! 左翼、陣形を組め。急げ」


動揺しながらも対応しようとするのは流石と言えたが、やはり前方に集中しすぎたのと、これまでの経緯から連携は遅い。

そこを突かれイーブル・ラーナン達の切り崩しを受けると、瞬く間に陣形が破壊された。


「マツリカ、ここは私が引き受けますわ。あなたは例の戦士の相手を」


「了解」


イユキの言葉を受けマツリカは高く跳躍すると、感じ取っていたそれらしき男の頭上から奇襲をしかけた。



 何もかもが一瞬だった。

前方の攻撃に対処していた時、突然、側面からまとまった数の軍団が現れた。

その数、凡そ五百程度。

これ位の数ならば驚くに値しないのだが、問題は構成していたその兵士たちにあった。

モンスターとも人とも判断つかないそれらが、予想を遥かに超える速度と力によって一気に襲いかかってきたのだ。

食い止められると思った陣形は容易く打ち破られ、更には大盾を持った女の戦士は、こちら側の兵士をまるで人形の様に弾き飛ばす。

あまりの出来事に、フィーグスは白昼夢でも見ているのかと思った程だ。

それに対応しようとした最中、更に異形の鎧を来た者が空中を高く飛び上がり、そしてクラッデルムに襲いかかる。


 その襲撃にクラッデルムは即座に対応したのだが、すれ違った瞬間、馬上から叩き落とされた。


「馬鹿な!?」


その光景に周囲もどよめいてはいたが、誰よりも驚きの声を上げたのはフィーグスだった。

転がる岩、その面目躍如とも言える戦いぶりを見て噂通りだとガッカリはしたが、その力だけは本物だと信じていただけに、明らかな力負けをしたその姿に驚愕する。

しかも、改めて相手の兵士を見てみると、体格の方も普通の兵よりも遥かに小さく、更には魔法戦士の類でもない様だ。

もはや、フィーグスは何がなんだか分からなくなっていた。

周囲に展開する敵と思しき緑色の人形の様な物を見れば、連中はモンスターの一種とも考えられたのだが、明らかに会話をしている。

モンスターならば、人語を使って意思の疎通をするはずがない。

だとしたら、この連中はやはりヒューマスと言う事になる。

だが、こんな種族や兵士は見たことも聞いたこともない。



 動揺はクラッデルムにもあったが、幸いであったのは彼には後退と恐れの二文字がなかった事であろう。

最初の接触で力の差の様な物を感じた気はしたが、それは本当に気のせいだと変換し、尚も踏み込む事を自身に命ずる。

ランスと斧が合体した様な魔法武器、ガイゼルンを構え直すと、ジグザグに動いて更にはフェイントを織り交ぜて敵に接近し、死角から必殺の一撃を繰り出した。

クラッデルムのその動きは一般の兵には殆ど見えず、気づいた時には相手の背後に回っていたので、誰もが捉えたと思った。

しかし、その必殺の一撃を、異形の鎧を着込んだ兵士は、振り向きもせずに背に剣を回すだけで受け止める。

しかも、クラッデルムが両腕で全力で打ち込んだのに対し、敵は片手だけで対応していた。

そのまま両者の力比べが展開されるが、明らかにクラッデルムが押されているのが分かる。

鉄と鉄が擦れ合わされる様な音を立てながら、ジリジリと異形鎧の兵士の剣が背に居るクラッデルムを捉えようと、その位置を徐々に変えていく。


(退けば殺られる)


クラッデルムは本能的にそう悟ると、素早く魔力を充填し、それを"物理的な方向"へ変換して開放した。

魔法に変換されなかった力は衝撃波となり、そのまま周囲も巻き込む形で激しく弾く。

効果範囲も広く、周りの味方にも犠牲を出し、土煙までも巻き上げた。


煙が晴れた時、そこに異形鎧の兵士の姿はなかった。

が、気配を感じたクラッデルムは構え直す。


それに応じる様に異形鎧の兵士が、晴れつつある煙の中からゆっくりと立ち上がった。


「ハッ、警戒した割に、大したことないなお前」


そう言って顔を上げた異形鎧の兵士を見て、クラッデルムは目を見開いた。


(子供!?女?)



「油断は大敵ですわよ」


驚きを隠せないクラッデルムを他所に、更に大盾を持った女戦士が、周囲の兵士を雑草でも払うかの様にして現れた。

その背後には例の緑色の軍団が続く。


「ちょっとは遊んでも良いだろ」


「その台詞、我が君に後で報告して、思いっきり不安な顔にして差し上げましてよ」


「お前、性格悪いぞ」


「なら、さっさと片付けてしまいなさいな」


「分かったよ、ちゃっちゃと終わらす」


「なめるな、クソがあああああ!」


雑魚を扱う様なその会話に、クラッデルムは、恐らく戦いの中で初めて雄叫びを上げた。

魔法武器の制限を限界まで解除すると、全身にもそれを巡らせる。

体全体に幾つもの小さな魔法陣が形成され、光って浮かび上がった。


これにより各種の身体能力が更に向上し、その力はもはや超人と言って良い状態となる。

もし、この場でステータスの確認等ができたのであれば、クラッデルムはあらゆる項目が限界以上に上がっているのが分かっただろう。

更には身体能力を極限にまで上げただけではなく、魔法による対物理防御補正も無理やり発動させた。

こうした制限解除は魔装戦士の類なら誰でもできるのだが、力の獲得で見たら必ずしも一緒ではない。

通常の者であれば例え制限解除を行ったとしても、上昇するステータスは一つか二つ、三つも上がれば最高クラスの魔装戦士と称される。

それを考えれば、クラッデルムのこの補正効果の獲得数は、規格外と言えるだろう。

それ故に、彼らはバウンダーと特別視されるのだ。

だが、その制限解除を見てもなお、異形鎧の兵士の表情は、微動だにしていなかった。

むしろ、その様に呆れる様にため息を付く。


「それ、最初から使えよ。 危うく一撃で殺すところだったぞ」


そう言いながら、異形鎧の兵士が構えを取る。


何かが来る。

クラッデルムは、今までに感じたことのない感覚を覚えた。

背中に何か冷たい物が走った様な気がしたが、彼はそれが恐怖だとは理解できない。

思ったのは、敵の攻撃を全力で叩き潰す事のみ。


両足で台地を踏みしめると、屈む形で力を溜める。

彼が短く気合を入れて突撃したのと、異形鎧を着た兵士が剣を振るのはほぼ同時であった。


刹那、力と力がぶつかりあって干渉し、互いの反発によって周囲を巻き込んでは猛烈に地面を刳りながら何もかも弾き飛ばす。

しかし、その反発に耐えたのはクラッデルムだった。

やや後退した跡は見られた物の、爆心地のほぼ中心に陣取り、敵の攻撃に耐えきった事を誇る様な顔をする。

それに対し周囲からは歓声が上がった。

だが次の瞬間、回り込んできた異形鎧の兵士の一閃に襲われる。

かろうじて反応して受け止めたが、力に押されてクラッデルムは片膝を付いた。

そのまま、凶悪な刃に首元をジリジリと狙われ始める。


「ぐっ、き、貴様」


「戦いの最中に、なーに安心してんだよ。 必殺技頼みの戦い方しかできないのか?

言っとくが、こっちはまだ全力じゃないんだぜ」


そう言い放つと、瞬間的に力を引き戻して相手の体勢を崩すと、今度は蹴り飛ばす。

それにより、クラッデルムは無様に転げ回った。




(何だ、これは)


戦闘力だけをとれば、シーゼスでもトップクラスと言われたクラッデルムが、体格で劣る相手に良いようにされる様を見て、フィーグスは背後から何か暗く恐ろしいものが迫っている様な感覚に陥る。

しかも、クラッデルムは明らかに制限を解除している。

なのに、見た目的には普通とも言える相手に押されていた。

相手は武器や装備からして、魔装戦士の類でもない。

そしてその余裕からして、下手をしたら手を抜かれている可能性すらあった。

と、体勢を整えようとしたクラッデルムの横から、大盾を装備した少女が突進し、そのまま一撃を繰り出す。

再び、その攻撃を辛うじて受け止めたクラッデルムであったが、力の差は歴然としており、味方を巻き込みながら弾き飛んだ。



「こらー、イユキー!」


「遊ぶな、と申しましたわ」


戦いの只中にあって、場違いとも言える様な口喧嘩をするその二人により、戦闘は一瞬だけ中断する。

それは今のシーゼス軍にとっては好機とも言えたのだが、得体のしれない敵を目の前にしていた為か、誰一人として動くことはなかった。


「お、おのれ・・・」


一撃を受けた横腹を抑えながら、クラッデルムがどうにか立ち上がる。

制限を解除し、身体能力と防御力を上げたはずなのに、そのダメージは重く彼にのしかかっていた。

それに対し、少なくない動揺と久しく忘れていた恐怖の感情が頭をもたげ始める。

だが、彼はそれを頑なに拒否した。


(ワシは最強だ。こんな、ガキとも小娘ともつかぬ奴らに負けるはずがない)


しかし、張る気迫とは裏腹に、彼の足は痙攣し体は痛みに悲鳴を上げる。


(一撃だ。ただの一撃でも良い。 それが決まれば、この制限解除ならまぐれ当たりでも倒せる)


それが彼の唯一の勝算にして拠り所だったが、追い詰められているとは思わなかった。

言い争いをしている為か、相手は隙きだらけだ。

それを冷静に見据え、クラッデルムは、相手の言い合いがヒートアップしり瞬間を狙って突撃をかけた。


(当たる)


魔法武器、ガイゼルンの切っ先が異形鎧の兵の目前に迫るのを、クラッデルムはハッキリと見た。


だが、届くと思ったその切っ先は、僅かに目に捉えた一閃が見えたと思った途端、彼の体ごと流れて味方に損害を与えただけだった。

驚愕の面持ちでクラッデルムが振り返ると、異形鎧の兵が剣を肩にし、ため息を付いているのが見える。


「不意打ちでもこの程度か。 つまんねーな、お前」


「☓※○■●□※!」


クラッデルムが何かを叫んだが、もはやそれは言葉どころか雄叫びにすらもなっておらず、ただただ意味不明な事を叫んでむやみに突進してきた。

それを異形鎧の兵は難なく交わし、その度に味方の方に被害が出る。



(馬鹿な。なぜ、受け流せる!?)


クラッデルムは、生まれて初めて驚愕と言う物を覚えていた。

今まで、どんな敵であろうと、クラッデルムの攻撃を食らった者は無事では済まなかったはずだ。

例え受け流す技術を持っていたとしても、下手に接触をしようものならば、ガイゼルンの力、魔力を物理の法則に変換して巻き込み弾く力、いわゆる極小竜巻とも言える力によって諸共屠ることができたのだ。

それはクラッデルムの最も得意とするスタイルであったが、それ故に、彼はその他の方法を試すと言う事を思いつかない。

ただし、それはマツリカを単なる敵と認識していた為であり、特定の存在と思い至らなかった故でもある。

そしてそれは、この異形鎧の兵士には当然の様に通じなかった。

それも制限を解いた状態でもだ。

その事にクラッデルムはムキになり、闇雲に突っ込んではかわされ、そして味方に被害を拡大させた。

それはそのまま、部隊を瓦解させるカウントダウンの始まりでもあった。




(また遊んでますわね)


マツリカの戦いぶりに眉をひそめたイユキはしかし、その戦闘力の高さにやはり感心せずにはいられなかった。

今相手にしている男の力は決して並ではない。

恐らくだが、"通常の状態"ならば、イユキでも真正面から受け止めると弾かれる可能性があった。

単純なパワーで比べるならば、王都跡を守っていたドノロファルと互角かもしれない。

イユキが耐えるには、攻撃を受け流すしか無いのだが、スピードもかなりある。

それを見切って対応するのは相当難しい。

だが、マツリカはそれをあっさりとやってのけていた。

自分と彼女、何が違うのかは分からなかったが、その高い戦闘力をイユキは羨ましいと思った。

攻撃を防御に、防御を攻撃に変換できる器用さは明らかに自分には無い物だ。

それは彼女たちの根本の違いをそのまま表してもいたのだが、主たるハルタさえもその意味を理解しかねている以上、イユキに分かるはずもなかった。



 マツリカは、心底この戦いを楽しんでいた。


モンスターは確かに強力だが、戦い方は力に頼った部分が大きく、どこか単調であった。

実際のところ、自分自身もそれに頼っていた部分が多かったと言える。

ミズツノシシオギ戦はその最たるものであり、単なる力比べでしかなかったと言えるだろう。

ターナとの模擬戦もそれなりに楽しめる物ではあったが、どちらもある程度の約束事での範囲と、手を抜いての戦いだったのでやはり不満が残る物だった。

しかし、目の前の敵は受け流すだけならば手加減が無用の上、それなりに小技を持って当たってくる為、それにいちいち対応しなければならず、その作業が楽しかったのだ。

一見すると、ただ突っ込んでいる様にも見えたが、魔力による回転の様な力の流れを加えてきてもおり、それは弾く方向と引き込む方向の両方が絶え間なく使われる為、それを見切るのも楽しい。

場合によっては、力を斬撃に変えてくる事もあるので、ある意味では油断がならないのも、また彼女を楽しませていた。

その見た事もない技の豊富さに、マツリカは楽しくて思わず声を出して笑う。


「アッハッハッハ、いいぞ、お前。 楽しませてくれるじゃないか」


クラッデルム前に、本心なのか単なる強がりなのか分からない言葉に、シーゼスの兵士達は誰もが恐怖した。




「も、もう嫌だ。やってられるか」


一人の兵士が上げた恐れとも不満とも取れる声は、今までの経緯が背景にあった事もあり、瞬く間に周囲に広がって遂には我先にと逃げ出し始める。


「待て、逃げるな。 陣形を崩すんじゃない」


フィーグスが必死になって部隊の崩壊に歯止めをかけようとするが、唯一の支えであったはずのクラッデルムさえもこの有様である。

もはや、一般の兵士達に戦意を保てと言う方が無理だろう。

その崩れた軍隊に対し、更に敵の緑の兵が追い討ちをかけた為、規模的には六十倍近い差があるはずのシーゼス軍は、実質的に敗走を始めた。

それも、半ば恐慌状態に陥って。

そうなると、もはやフィーグスにも止める事はできない。

小隊長クラスには残ろうとした者や、統制の回復を試みようとした者も居たのだが、クラッデルムの流れ弾によって被害が身近に起きるのを見ると、それすらも逃げ出した。

加えて他の魔装騎士達でさえも、緑の敵兵の前には互角に持ち込まれた事から、根本的な戦闘力の差を突きつけられてしまい、誰もが敵わないと悟る。

もっとも、冷静に観察すれば確かに緑の兵の実力も凄いのは確かだったが、実際には薄い兵力を広げて優位に持っていっているに過ぎず、他のシーゼスの兵がカバーに入れば十分に覆す事ができた事が分かるはずだった。

だが、それすら判断できないほど、今のシーゼスは、軍としての統制を失っていたのだ。



 眼前の敵から目を離せない為、逃げ出す味方の軍勢に直接目をくれる事はなかったが、クラッデルも不味い状況になりつつあるのを実感してはいた。

ただし、彼の考えは事ここに至ってすらも自己中心的であり、「情けない味方連中め」と言うレッテルを貼っただけだった。


(一撃だ。 当てることができれば、後はどうにでもなる)


クラッデルムは実力差を感じても尚、自分の攻撃力の方が上であると言うただ一点のみを信じ、無謀に特攻を続ける。

そして、それは相変わらず受け流され、それが逃げる味方の軍勢にも損失を与えるのを繰り返していた。

そして、何回目かに気が付く。

相手はワザと、自軍の方に突っ込む様に受け流している事を。

それに対しギリギリと歯を食いしばり、今度こそは当ててくれると突っ込むが、結局は同じ結果にしかならなかった。



 何度同じ事を繰り返したか分からない。数十回の気もするが、既に数百回繰り返したかも知れない。

後少しで届くと言う所まで来たような気がした瞬間、今度は圧倒的に隔絶感がある形で突き放される。

敵の体捌きは見事としか言いようが無く、自分の出すあらゆる技に瞬時に対応して見せた。

ここまでされては、クラッデルでさえもはや認めざる得ない。


格の違う存在。


だが、だからこそ、ここで引く訳には行かなかった。

自分が負ける事もそうだが、逃げ出せばそれはそのままシーゼスと言う国が綻ぶキッカケにすらなり兼ねない。

例え一人になったとしても、不利な状況にあるとしても、コイツだけは倒さねばならなかった。

更に同じ事を繰り返そうとしたクラッデルムであったが、それを止めた者が居た。

味方の魔装騎士の一人だった。


「おやめ下さい。クラッデルム様。 ここは、一旦引くのです」


「何を。このワシに逃げろと言うか! このバウンダーであるクラッデルムに」


「我々の負けです。 今は生きて帰り、この者達の情報を・・・・」


「寝ぼけたこと言ってるな。 私から逃げられると思っているのか?」


クラッデルムの間に入った魔装騎士はしかし、異形の鎧を着込む少女と言って良い兵士が見せた表情に、死神の姿を見た気がした。

気がつけば、既にもう一人の魔装騎士が、大盾を持つ女に武器ごと打ち砕かれ、絶命している。

そして、その大盾の相手も、コッチを見てゆっくりと構えた。

状況は最悪を通り越して絶望的だ。


 この中にあってシーゼス所属の魔装騎士、バーラック・ジルテルは、先が鉤状になった剣型の魔法武器、レッガンを構え直してクラッデルムを背後に追いやると、全ての覚悟を決めた。


「お逃げ下さい、クラッデルム様。 貴方はシーゼスには必要なお方。 ここでむざむざ死なせる分けには行きませぬ」


「バーラック・・・」


本気の覚悟を固めた仲間に、初めてクラッデルムは、他者の言葉に動かされ様としていた。


「クラッデル様、こちらへ、早く!」


それを促すかの様に、やはり残っていたフィーグスが声を上げる。


「ぐ、うううう」


頭では分かっているつもりではあったが、それでもクラッデルムは葛藤する。

しかし次の瞬間、バーラックが突き飛ばした事で、彼の体は咄嗟に逃げる方向で動いていた。

それには自分でも驚いたが、振り返った瞬間、バーラックが切り捨てられたのを見て、もはや足が止まる事はなかった。

だが、あの異形鎧の兵士は軽く追いついて来る。その確信があったが、次に見た時には、その兵士は緑色の根っこの様な物に絡め取られており、追撃してくる事はなかった。




「はなせ、ユーカ!」


「駄目よ、無用な深追いは禁物よ。 約束した事、忘れたんじゃないでしょうね?」


強欲の根に絡め取られたマツリカは、そのまま持ち上げられて拘束される。

正直、それを振り解こうと思えばできたのだが、恐らくユーカは全力で阻止してくるであろう事を考えると、行為自体が無駄になる可能性もあった。

実際ユーカは、今まで見たことが無い程に険しい顔をしている。

それを見て、マツリカはそれ以上の抵抗を半ば諦めてはいた。

恐らく、彼女は自分とハルタ、そして他のメンバーも含めて心配しているのだ。そう考えると、強く抵抗するのも躊躇われる。

代わりに、恨めしそうに逃げて行く敵を唸りながら睨みつけた。


「敵を倒さないの・・・理解できない」


その様子に、珍しくアシュレイが言葉を発する。


「良いのよ。 今回の戦いは、あくまでも加勢なんだから。 犠牲が出ずに済むなら、それが一番なの。 あと・・・今回の件で、アナタにも話しておく事があるわ。 ただし、主様には内緒よ」


ユーカの言葉に、アシュレイは遠くを見たまま頷いた。

しかし、いまだ猛るマツリカは叫ぶ。


「覚えてろー!!」


暴れるマツリカを他所に、ユーカは何故か周囲をキョロキョロ見回し、警戒する仕草をする。

アシュレイもそれに気が付くと、無言で問う様な顔を向ける。


「?」


「いえ・・・何でも・・・ないわ」


そうは言ったが、ユーカは何かに見られている気がしていた。

それに反応するかの様に、遠くの方で草むらが微かに動いたが、それに気がつく者は誰一人居ない。




 小高く離れた位置から戦いを見ていたフォーメルは、三万近い軍勢が短時間で敗れる様に、信じられないと言う表情を浮かべていた。

特に、自分達が全く歯が立たなかった、転がる岩が逃げ出した事実は、新たな驚異が出現したと言う驚愕さえ覚える。

今直ぐ本国に帰り、この事を知らさなければと思ったが、敵の動向と正体が気になってなかなか動けずにいた。

だが、それが不味かった。

ヒタリと首筋に刃が突き付けられ、更に複数の緑がかった剣が自分を囲む様に突き出されると、動きその物を完全に封じられる。

振り向く事はできなかったが、何となく眼下に居る緑色の正体不明の兵士であろう事が分かった。

自分に気配すら感じさせずに近づくその所業を見るに、連中の実力がそれだけで推し量れると言うものだ。


「私は、レパンドル第一騎士団隊長、フォーメル・ボゼーク。 君たちは何者かな?」


魔法武器を連中に取り上げられた後、覚悟を決めてゆっくりと振り返ると、自分の首筋に刃を当てていた連中の正体をハッキリと確認した。

他の連中は下に居た者と同じだが、自分の首筋に剣を当てている者は少し違っていた。

全体としての形は他の者と似ているが花飾りをしており、それが異様さを放ってもいたが、何より纏う空気が違っている。

恐らくだが、この花飾りを付けた者は更に他の連中よりも数段強い。

もっとも、単純な強さで言えば、まだフォーメルの方が上だとは感じたものの、得体の知れなさと人数を考えると、やはり勝てない事も分かる。

そして、彼とも彼女とも取れぬそれは質問には一切答えずに、髪の毛の一部を変形させるとフォーメルを拘束したのだった。




「今なら殺れるぞ。 なのに、なぜ駄目なんだ」


「てて、敵の、か、か、数が分からない。 そ、それに、きき、気になる、ここ、事もある」


フォーメル・ボゼークが拘束された場所より更に離れた所で、緑色の服を着た小柄の人物の問いかけに、青いマントを羽織った長身の人物が吃音気味に返事を返す。

隠れていたのに見つかったフォーメルとは違い、この連中に気がつく者は誰一人としていない。

いや、唯一探知できたかもしれない者も居たのだが、その目を欺ける程、彼らは手練であったのだ。


「気になる事だぁ? あれは、単なる武器化ヤロウ共だろ」


「そそ、そうなら、い、良いんだがな。 どど、どの道、わ、我らの、にに、任務は、か、監視と偵察だ。そそ、それ以上は、こ、国益にならない」


「たく、真面目か」


その後、二人は暫し戦場を振り返って見たが、やがて無言で去ると、後には静けさだけが残る事たなった。

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