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俺のLVは上がらないのに、  作者: 松戸真 寿司
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~謎の勢力~ -10. 開戦






 シーゼスとレパンドルの国境が接する場所は、地図上でみれば大きいのだが、直接に面する場所となると限られてもいた。

その中でも最も開けた地とされているのが、このロットラー平原である。


平原とは言っても便宜上そう呼ばれているだけで、実際には丘や木々が多数存在し、起伏に富んだ土地でもあるので、まとまった軍隊が接するとなると場所は更に限定される。


その限られた地で睨み合っていた両軍は、遂に面と向かって対峙するに至った。


とは言っても、整然と並んで対したのはシーゼス側のみであり、レパンドル側は森林地帯を天然の防塁とし、隠れる形で相対していた。

それを、シーゼスが半包囲する形を取る。


数的な差は圧倒的であり、三万近い兵が三つ程に分けられ、それぞれが機能的に動く。

それ故か、これだけの数にも関わらず、動き出してから後は速かった。


レパンドル側も準備をしていたとは言え、改めて敵の練度には驚かされると共に、戦力差を嫌でも思い知らされる。


だが、それは最初から分かっていた事だ。


毎日敵の動きを探っていたのは、ただ傍観する為ではない。

情報を集める事は勿論であったが、覚悟を決める為でもある。

敵との差は実感したが、誰一人、臆する者などいなかった。

こちらにも、十分な用意はしてあるのだ。


成功するかどうかは別として。




「来るぞ、準備はいいか」


第一騎士団長フォーメルの合図に、そこに居る全員が声を合わせて応じる。

木々が邪魔をしている為、相手は弓矢を使う気配がなく、やはり突撃の体制をとってきた。

正に、望む展開となっている。


フォーメル達が布陣している場所は、前方に木々が茂りその後には丘があったので、背後を気にする必要はない。

そして、その前には比較的平らに均された道があった。


敵はそこを無視して移動する事もできるはずなのだが、それをするとなると丘等を上り下りしなければならず、当然ながら恰好の的となる。

それに備えてコッチも弓矢を準備してはいたが、どうやらそれを使う機会は無さそうだ。


今回の作戦は、相手が「転がる岩」の異名を持つからこそ、ある意味で成り立つと言える。

恐らくだが、彼らにしてみれば少数の兵であっても、それを無視せずに全力で潰しにかかるはずだ。

理由は分からないが、クラッデルム・バーズバルンと言う男は、そういう人物らしい。


全てを文字通りに踏み潰し、敵味方を問わずに叩いて進む。

それがその男の流儀であり、戦い方なのだろう。

それにより、実際にクラッデルムは内外で恐れられ、そして、その名を轟かせてもいる。



 正直な所、相手の将がクラッデルムと聞いた時には、肝を冷やした物だ。


三万の兵力を展開させ、その圧倒的戦力で、間違いなく直ぐにでも攻め込んでくるものと思われたからだ。


だが、今回は何故か、一旦進軍を止めて睨み合うと言う戦法をとったので、それには疑問を持った。

その後、辺境の村が襲撃を受けたという話を聞いて、大凡の理由に想像が付いた。


恐らくだが、レパンドルの国力を削いだ上で、確実に叩き潰そうとしたのだろう。


シーゼスが、この国を欲したにしては非効率なやり方だとは思ったのだが、全力で潰しに来ているのなら合点が行く。

それ故に、「転がる岩」を寄越したのだろう。

言わば、シーゼス側の都合であった可能性も高い。


しかし、敵の意図していた事は謎の存在、或いは勇者等という不確かな物によって破綻した。

それは、レパンドルにとっても吉凶混在した物ではあったのだが、少なくともフォーメル達にとっては、準備をするに十分な時間を得た上で、敵の目論見も消えると言う点では優位に働いたとも言える。


そして、ここでは別に勝つ必要もない。

出来る限り敵には出血を強いてもらい、それで戦意を挫くか、士気の低下でも招く事ができれば上出来である。

それができなかったとしても、後に続く損害を少しでも与えられたらそれで良い。


例え、どんなに「転がる岩」が強かったとしても、多数の兵士に犠牲を出せば、責任やしがらみ等によって思う様には動けなくなるはずだ。

更に言えば、多大な損害を与える事に成功すれば、ロウバル連合王国にとってもそれは好機と見る材料になるはずだった。

つまり、援軍を出してくれるチャンスと見てくれるはずなのだ。


それが、フォーメル達にとって、唯一の勝算でもある。




 等と、フォーメル達が敵の事を勝手に過大評価していた頃、その敵の副官であるフィーグスは、この余りにも無駄な手法に心底疲れる思いをしていた。


たかが千程度の相手に、全兵力を上げて挑むなど、もはやクラッデルムが何をしたいか分からなかった。

いや、分かっているからこそ、理解が追いつかないと言った方が良いか。

そう言った男だと、前もって知っていはいたはずなのだが、実際に目にするとやはり懸念を覚える。


進軍準備を命令された時、三つに部隊を分ける事を指示されたので、てっきり一つを前方の敵に当て、その他は敵王都に向けて進軍する物だと思っていたからだ。

しかし、蓋を開けてみれば、全軍で包囲を敷くという命令が下る。


見方によれば、これも決して間違いではない。

兵力の損耗を抑える事を第一に考えれば、一気に敵を押し潰すのは悪い手段ではない。


だが、それは一万の兵でも事足りる。

三万を全部投入しても、単に遊兵が出るだけで意味はない。


しかも、敵がこれを待っていたかの様な動きを見せているのも気に食わなかった。

一応、クラッデルムには、この手法は無駄である事をそれとなく進言はしたのだが、頷いただけで結局は聞き入れる様子もない。

例の勇者を突付き出すにしても、こうした形で兵をまとめ過ぎては、奇襲を食らうと対処が遅れる。

それとも、自分が考えている以上の何か策があるのか。


クラッデルムが下手に歴戦の猛者であるが故に、フィーグスもまた、彼の行動を計りかねる部分があった。



 一方のクラッデルムは、深読みして悩むフィーグスを他所に凄く単純だった。


単に、眼前の敵を全て叩き潰し、あらゆる物を排除する。

ただ、それだけだった。


賢しい者から見れば彼は愚か者であったが、逆に言えば、こうした考えの者がシーゼスには多かったからこそ、ある時点までは他国との均衡が保たれてきたとも言える。

しかし、流石に近年ではそうした面は改められ、クラッデルムの様な昔気質の軍人は、シーゼスでさえも持て余し気味になっていた。

それ故に、この様な小国攻めに駆り出されたとも言える。

その意味で言えば、クラッデルムは次のステップへ進む為に、捨て石同然で使い潰される運命にもあったのだ。

貴重ともされるバウンダーを捨て駒扱いする事情を見るに、シーゼスでも、力は全ての時代は終わりを告げようとしているのかも知れない。


もっとも、当人はそこまで考えが至る訳もなく、単に与えられた仕事を忠実に熟すのみと考えていた。

クラッデルムは、どこまでも愚直で無骨な兵の一人でもあったのだ。



 とは言え、軍上層部も、全くの考えなしに彼を使っていた訳ではない。


生半可な兵士を与えては、かえって損耗が大きくなるのを見越し、余裕のある兵力を今回は持たせたのだ。

これならば、戦略面では無能なクラッデルムであっても、数がカバーすると踏んだのである。

恐らくだが、敵の魔装騎士が出てきても勝手にクラッデルムが排除してくれるので、少なくとも、レパンドルを支配下に置いた上で、内政的な事へも直ぐに移行できる算段であった。


レパンドル攻めなど、シーゼスにとっては前哨戦の更に前座に過ぎない。

ロウバル連合王国との決戦や、更にはその向こうに居る西側の大国を見据えて彼らは動いていた。


ただし、それは順調に行っての話であったのだが、現場においては上の連中も知らされていない、予期せぬ事が起き始めていたのは計算外であったと言える。


そうした形で、互いの思惑には大きくズレがあったまま、両軍は遂に激突の時を迎えようとしていた。



 先手を打ったのは、シーゼス側だった。


突撃のラッパが鳴り響き、それを合図にして前面に展開する歩兵部隊が盾を揃え、歩を合わせて進む。

その背後には、更に重武装の兵士達が控えてもいた。

両翼に当たる部分には騎兵隊が、打ち漏らしや、逃げ出す相手を今か今かと待ち受ける。

その上で、要所にはシーゼスの魔装騎士が睨みを利かせ、相手の動向を伺う。

その中には、当然だがクラッデルムも居た。


整然と前進してくる敵を前に、レパンドル側も飛び出すタイミングを見極めようとする。

戦場特有の騒々しさが響く中において、極度の緊張感と集中力が為せる技なのか、兵士達は誰かがツバを飲む音さえ聞き取っていた。


そうした中で、フォーメルを始めとした数人のレパンドル側の魔装騎士達は、マントを全身に羽織、出来る限り味方の影に隠れる様にする。

そのマントは異様に膨れており、一見すると不格好にも見える。

しかし、彼らこそが、今回の作戦成功の鍵でもあったが故に、敵に見られてはいないと考えつつも、出来る限り露出を控えたいという心理が働いて身を隠すようにした。


一瞬、その連中を振り返ったのは、第二騎士団の隊長ファーデルであった。

彼だけはマントも羽織らず、前面に露出して魔装騎士であると言わんばかりに、目立っていた。そして、フォーメルと目が合うと、無言で頷く。

いよいよ、その時が来たのだ。


ファーデルは、やや躊躇い気味に手を挙げると、そのままの状態を保つ。

数秒の後、それを敵の方に向けて振った。



 それを合図として、レパンドル軍が雄叫びを上げ始めた。同時に太鼓も打ち鳴らされる。

それを見た敵も一瞬身構えるのだが、その騒々しさとは裏腹に、相手は一向に飛び出しては来ない。


単なる威嚇か。


そう思った瞬間、次々と何かが上空に打ち上げられ、それが空中で弾けると同時に、回りに煙を蔓延させていった。




「煙幕?」


訝しげに呟いたフィーグスは、内心やはりと言う考えが過ぎる。

敵は混戦を狙っているに違いなかった。

これだけの軍勢を前に、わざとらしく布陣して見せていた事を、最初から怪しく思ってはいたのだ。


始めから時間稼ぎを狙っていたのだろうが、自分がもしその布陣でどう作戦を取るかを考えると、今の状況は全て連中の思惑通りに進んでいる気がしてならない。

だが、率いる将が敢えて真正面から受けようとしているのだから、どうしようも無かった。



「狼狽えるな、陣形の維持に集中しろ」


クラッデルムに変わり、フィーグスが全体の統制を行う。恐らくだが、自軍の将は、この煙幕に対して意味を見出してはいないはずだ。

実際、それに対する命令なり、伝令が出ている様子がない。

もっとも、それに対処するのは副官の仕事ではあったが。


「この煙幕・・・・ただの煙じゃないな!?」


フィーグスも、煙幕を張る装備を使っているところを見たことはあったが、敵が使っている物は明らかにそれとは違っていた。

煙の密度が濃いのと、その流れというか、煙の動きが風の影響とは違う方向へと流れているのを見てそう感じ取る。


それを裏付ける様に、三万近い部隊があっという間に煙に覆われてしまった。

視界も殆ど利かなくなる。


魔法の効果を持つ煙幕の話は聞いたことがある。


確か、ロウバル連合王国の西部付近、火山地帯に住んでいた為に、それに関連した魔素を取り込んだ一族が作ったとかと言う話を聞いた事がある。


元々、ロウバルとは親しい関係にあったレパンドルが、何かしらの形で手に入れる事は十分に考えられる話だ。

しかし、まさか、撤退ではなく策の為に利用するとは。


敵の将は、戦力差を鑑みた上で、十分な作戦を整えていると考えてもいだろう。

だとしたら、次は何を仕掛けてくるのか。


単純に考えるならば、この煙に乗じて攻撃してくる事は予想できるが、その程度でこの戦力差は引っ繰り返せない。

煙幕を効果的に使う事を考えられる将ならば、その辺も分かっているはず。

だとしたら、必ず次策を用意した上で煙幕を張っているはずだ。


いや、この煙幕は本命たる作戦の為の下地に過ぎないだろう。


そう考えながらフィーグスは、無駄だと思いつつも目を凝らす仕草をする。




 魔防煙幕装具の効果は予想以上だった。


貴重な装備故に、実験では一つしか使う事はできなかったが、試しでもその効果は十分と判断できたものの、複数を同時に、しかも大規模に使った場合の結果は想定の範囲を超えていた。

視界が利かないであろう事は分かっていたつもりではいたのだが、地形すら判別が困難になるとは想定外だ。

一応、事前に担当範囲と方向だけは、各担当者に割り当ててはいたが、ここまで視界が悪いと不安になる。

一番怖いのは同士討ちだ。


 魔防煙幕装具はロウバルの西方、山脈付近に済むマウテリル系ヒューマスが生み出した物で、魔法の効果を予め込める事によって、その効果範囲と持続性を維持できると言う優れものだった。

実際、数キロに及ぶ範囲でドーム状に煙幕が覆っているらしく、まるで煙の嵐の中にでも居る様である。


また、この装備は魔法使いが居れば柔軟に扱えるともされており、防壁にすらなると言われていた。

もっとも、今のレパンドル騎士団に魔法使いは居ないため、装備に予め付与された手順と、その仕様に準じた使い方しかできない。

だが、それでも効果は十分以上に発揮されている。



 視界が利かない中、フォーメルは辺りを見渡す。彼は既に敵陣に仲間と共に突入し、担当地区に展開していた。


判別は完全に不可能だが、何かが動いている事だけはどうにか確認できる。

それだけを見取ると、フォーメルは、着ぶくれしていたマントと鎧を脱ぎ捨てた。

すると、敵兵と同じ鎧や装備が姿を現す。

この日の為に、密かに調達しておいた物だ。


突撃前は、その上から更に自軍の装備を無理やり付け、敵の目を直前まで眩ます予定ではあったのだが、この煙幕の凄まじさでは、今となっては無駄だったと少しフォーメルは笑った。

素早く変わる練習も今日の為にしてきたのだが、こうも視界が悪くては、誰も気が付くことさえない。

事前の練習では回りにギャラリーが群がり、少しでもミスると噛み殺した笑いが飛び交ったが、今は笑いが起きるどころか人っ子一人確認できない。


フォーメル達レパンドル騎士団の出した敵迎撃の為の作戦は、煙幕による目潰しによって視界を奪い、その上で敵兵に成り済まして混戦を仕掛けると言う物だった。

正直、セコい上に卑怯とも取れる物だとは思ったのだが、物量が伴わない自分達が選べる手段は少なかったのと、他に良いアイディアが出なかった為に渋々選択した手段でもある。


上手く行くかも分からなかったが、少なくとも、この予想外の煙幕の凄さは、敵にとっても意外であったはずだ。

後は、攻撃を仕掛ける相手が友軍でない事を祈るのみだった。

もっとも、それを避ける為、担当地区を予め決めて地形の把握も入念に行ったつもりではあったのだが、実行に移すとそれも怪しく感じる。

とは言え、動かない分けにはいかない。


フォーメルは、布で巻いてあった魔法の武器を取り出すと、同調を始めた。




 視界が利かない中、フィーグスはあちこちで悲鳴が上がるのを耳にする。


当初は、混乱による物かと思ったのだが、明らかに戦闘が伺える部分もあったので、敵が煙幕に乗じて攻撃しているのは間違いないだろう。

それは、予想の範囲内なのだが、その為に隊列を維持する事を徹底させたのに、何をやっているのだと言う苛立ちが募る。


それを解決する為に、悲鳴が上がる地点に馬を走らせるのだが、到着した時には既に戦闘が終わっており、また別の所で騒動が起きていた。

暫くは、手探りでこの状況の把握を努めようとしていたのだが、やがておかしい事に気が付く。


悲鳴が上がる地点の距離が、離れすぎているのだ。


当初、敵は全部隊を持って攻撃していると思っていたのだが、どうも違う。

その証拠に、敵の姿らしき物が一向に捉えられない。

それは、単に煙のせいだけではない。

相手の移動速度が速いのだ。


「まさか、魔装騎士だけで仕掛けてきているのか!?」




 フィーグスの予想は的中していた。


煙幕が渦巻く中にあって、シーゼスの三万の兵の中に飛び込んでいたのは、魔装騎士だけだった。

その能力を最大限に活かし、次々と機動力を発揮して飛び回り、敵兵を狩り倒していった。

とは言っても、その数は少なく、本国から呼び寄せた連中を含めても僅か十五人程度でしか無い。


これで何ができるかと問えば、たかが知れているのも分かってはいた。

それでも、彼らは与えられた仕事を懸命にこなそうと、煙幕の中を藻掻いた。



「二十二、二十三、二十・・・これで、四」


魔法武器の一種、クレーブスと名付けられた大剣で敵兵の腹を深々と貫き、動かなくなったのを確認しながら、フォーメルは相手の骸をやや丁寧に地面に転がす。

一応、味方では無いだろうであろう事を確認する為なのだが、正直に言えば気分はあまり良くない。

何せ、不格好ではあるが、フォーメルの姿は、一応は敵と同じ姿をしているのだ。

卑怯の上塗りで戦っている事に、彼は少なからず後ろめたさを感じる。

しかし、国を守ると言う目的がある以上、形振りかまってはいられない。

それに、こっちにも同士討ちの危険性が付きまとっているのだ。

ただ今の所、相手は魔装騎士では無かったので、大丈夫なはずだった。


「さて、どこまで行けるか・・・・他の連中も上手く行っているんだろな」


そう呟いたフォーメルは、煙の中で動いた影を見つけると、再び突進していった。




 煙が渦巻く中にあって、陣地に居残って士気を任されたファーデルは、時折突っ込んでくる敵を迎え撃っていた。


濃い煙幕のせいで連携が取れずに逸れた者なのか、それとも、フォーメル達の奇襲が上手く行き、それによって逃げ出してきた者かは分からなかったが、三万の兵が進軍してきた割には、今の所、バラけた人数が闇雲にコチラ側にやって来るだけだったので、対処は楽だった。


当初、ファーデルは自分も奇襲組に入るつもりでいたのだが、それをフォーメルによって止められた。

代わりに与えられた任務は、陣地の指揮と必要に応じての撤退任務だった。


これに対して意義を申し立てたが、結局は聞き入れてはもらえなかった。

恐らく、一つの理由としては自分が若いからであろう事が上げられる。

実際、フォーメルをはじめとして奇襲組に当てられたのは、少なくともある程度の年齢が行った者ばかりだ。


フォーメルに対して、それが基準かどうかを尋ねた事もあったが、経験的な差と言う返答が返ってきた。

それも間違いは無いだろう。


実際、魔装騎士はレパンドルの切り札なのだ。簡単に死んでもらっては困る。

それ故に、奇襲組も死ぬつもりで敵陣の真っ只中に突っ込んでいる訳ではない。

だが、そうした可能性もある程度は考えての人選なのだろう。


王都では、新しい魔装騎士の補充がされていると言う話も聞いたが、それは単に戦力的な強化と言う意味だけではなく、失われる可能性のある連中の代わりでもあるのかも知れない。


その様な状況にあって、ファーデルが受けた任務は、ある意味では後を任せると言う、フォーメルからの無言のメッセージだったのかも知れなかった。


「フォーメル隊長、みんな、どうか無事で戻ってきてくれ」


深く煙が充満する向こうを見据える様にして、ファーデルは一人呟いた。




「伝令、伝令はどこだ。 クソ」


敵の意図に気がついたフィーグスではあったが、視界が塞がれた状態では、指揮をしようにも上手く連絡を取る事ができない。

敵の魔装騎士のみが暴れまわっていると言う事実を、こちらの魔装騎士側にも知らせて対処して貰う必要がある。


こちらの魔装騎士は三人だけだが、戦闘力ではモドキのレパンドル側とは比べ物にならないはずなので、対応させれば何も問題ないはずだった。

ただ、視界が利かないこの状況では、例え味方の魔装騎士に知らせたとしても、どこまで対応できるかと言う問題が残ってはいる。


しかし、このまま手をこまねいている分けには行かない。

少なくとも、クラッデルムには知らせなければならない。


フィーグスは、大体の検討を付けて馬を走らせた。




「何事だ・・・コレは」


煙が漂う中で、クラッデルムは呆然としていた。

正面切って戦うと言うのが世界の常識と考えているどころか、彼の辞書にはそれ以外載っていなかったので、この様なトリッキーな戦い方をされると思考が停止してしまう。


本来であれば、この様な事に対処するのは副官たるフィーグスの仕事なのだが、その彼も煙に巻かれてどこへ行ったのかも分からない。

もしかしたら、見えないだけで近くに居るかも知れなかったのだが、自分の所に来ないのを見ると、対応に懸命になっているだろう事だけは想像が付いた。


それにしても、である。

何と無能な副官なことか。


自分の事を棚に上げ、クラッデルムは苛ついた。



戦闘に関しては勘も秀でていたクラッデルムは、見ずとも敵との戦闘が行われているであろう事は直ぐに分かったのだが、この様に視界が悪い状態ではどう対処して良いのか分からない。

まあ、考える必要も感じてはいなかったのだが。


彼の中にあったのは、他の魔装騎士も言われるまでもなく動いているであろう事と、味方は自分の攻撃をちゃんと避けるであろうと言う、都合の良い解釈だけである。


「さて、出陣と行くか」


そう言って、クラッデルムはランスと斧が合わさった様な魔法武器、「ガイルゼン」を片手に構えた。




 レパンドルの魔装騎士の一人、オフェロア・カアードルは、まるで大型の閉じた鋏の様な魔法武器で馬ごと敵を貫いた。

その周辺には、やはり馬と騎士の死体が幾つも転がっている。


本当なら馬は見逃してもやりたいところなのだが、撤退するかも知れない連中の事を考えると、やはり潰しておいた方が良いとの判断でそうした。

直後、背中に気配を感じて振り返る。

見ると、敵兵が一瞬構えいたのだが、こちらの姿を確認すると困惑した表情で武器を降ろした。

それを、オフェロアは見逃さない。

鋭い一撃を見舞い、直ぐ様倒した。


「すまんな。 こんな卑怯な戦い方しかできないのを許してくれ」


絶命する寸前の敵の耳元で、そう謝罪の言葉を述べる。

と、再び妙な気配を感じて振り返った。


「何だ・・・フォーメルか?」


違う。

巨大な魔力の高まりは、明らかに敵の物だと直ぐに分かった。

それも、唯の魔装騎士ではない。恐らく、バウンダーと呼ばれる者の気配。

そして、この戦場にあっては、唯一人しか居ない。


「不味い!」


オフェロアは武器を掲げて身構えたが、次の瞬間、彼は常軌を逸した何かによって弾き飛ばされ、武器こそ無事ではあったものの、その体は一瞬でズタボロにされた。

直後、煙幕が筒状に抉られて掻き消される。

僅かにだが、その晴れた煙幕の中で絶命したオフェロアの姿が見えたが、それも徐々に煙が忍び寄って覆い尽くした。



「今のは、敵だったか?いや、敵だな」


単なる勘で攻撃を仕掛けたクラッデルムは、弾き飛ばした敵の姿を確認に行く事無く、次の獲物を探す。

目を僅かに閉じて意識を集中し、魔法武器から伝わる反応を自分なりに分析する。


すると、大きい反応が二つ、それよりも小さいのがあちこちに点在しているのを何となくで掴んだ。

大きい反応は恐らく味方の魔装騎士だろう。

ならば、それ以外を全て潰していけば良い。


恐ろしく適当、かつ単純な判断の下、クラッデルム一人による反撃が始まろうとしていた。

そして、味方も当然の様にそれに巻き込まれていたのだが、彼はそれを気にする事もない。


巻き込まれた者は運が無いか、兵士としての資質が劣っていた。

彼は、本気でそう考えていた。


ただ、一見すると非道にも見えるその行動も、クラッデルム本人にしてみれば、確たる考えの下で行ってはいるつもりではあった。

それこそが、勇者の存在にあったと言える。


もし、この視界の悪い中に件の勇者が潜んでいたとするならば、手加減や躊躇をしていたら、殺られるのは自分達だ。


仮に勇者が噂を全て体現する者であった場合、味方の犠牲を恐れていたら、それ以上の損害を被る。

その可能性を考えた場合、ここで全力を出さずしてどこで出すのかというのが、クラッデルムの出した結論でもあった。


そして、その結論により、多くの者が犠牲になろうとしていたが、その殆どが味方である事に彼は別段関心を寄せない。


それは敵だけではなく、味方にとっても恐ろしい決断であったが、正に転がる岩に相応しい戦いぶりが、遺憾無く発揮されている瞬間でもあったと言えよう。

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