~謎の勢力~ -5. 小国の危機 その5
レレーニアは、グズる数人の子供の側に来て、それらの相手をしてやっていた。
彼女たちは今、村の地下に密かに作られた避難場所に隠れていた。
そこは見つかり難い事を優先した為に非常に簡素な作りとなっており、村人全員が隠れるには手狭で、それ故に子供達にかかる負担も大きい。
そうでなくとも戦争と言う恐怖感からか突然泣き出す子も多い。
それをレレーニアはなだめる。
だが、本当の事を言えばレレーニアも不安で一杯だった。
今頃戦っているであろう村のみんなの安否。そして、ここも見つからないだろうかと言う心配。
村人全員で逃げると言う選択肢も考えられてはいたが、結局は行く場所はどこにもない。
特に弱い老人や小さな子供達は、体力的な面で考えても厳しかっただろう。
ここら辺は森付近に比べればモンスターの数こそ少ないが、土着のモンスターは常に徘徊している為、それらとの遭遇なども考えれば護衛無しで荒野を彷徨くのは危険でもあった。
結局、辺境の村に残されている選択肢など、敵と戦って死ぬか、荒野で野垂れ死ぬしか無い。
レパンドルと言う小国の力では、今はこれが限界なのだ。
そう、割り切るしかなかった。
「ハイトン!」
敵の主力と思われる一人がハイトンに襲いかかり、その攻撃をかろうじて彼は受け止めたが、次の瞬間には顎を蹴り上げられた。
派手に地面に転がったが、それでも立ち上がろうとして見せる。
助けに行きたかったが、ラッゲインも眼の前の敵の対応に精一杯で余裕が無い。
陣形は何とか保たれていたが、前面の主力、側面の数に押され、ジリジリと後退し始めていた。
「この!」
反撃を試みようとしたラッゲインだったが、武器ごと叩きのめされる。
一瞬、飛びそうになった意識を何とか繋ぎ止めたが、その作業を保つだけでゴッソリと体力も精神力も奪われた感じがした。
尋常じゃない力だ。改めて、敵の恐ろしさを思い知らされる。
だが、それでも尚、彼は戦う為に立ち上がろうとした。
右目に何かが流れ込んで視界を邪魔をする。
手で拭うと、それは血だった。
更には、立とする彼の意思とは裏腹に、身体が悲鳴を上げてよろける。
先程の一撃で、どこか折れたのか。
血が入りボヤける視界に、他の兵士達までもが崩れていくのが見えた。
ジュデの森に二度目とされる異変が起きた時、王都から幾つかの支援と称した貴重品配布の案内が出された事がある。
シーゼスがまだ動きを見せていない時の事で、ラッゲイン達もこれは対モンスター用の物だと思っていた。
配布品は護符や武器と言った物だったが、彼らが相談の末に独自に出した答えは、家族達の王都への移住要請である。
聞き入れられるかどうかはダメ元であったが、意外とすんなりと受け入れられた。
今思えば王都では既にシーゼスの動きを掴んでいたのかもしれない。
その時に対応した王都関係者・・・名は確かニオルトと言ったか、一度だけあった彼の顔が複雑そうな表情をしていた理由も今わかった様な気がする。
レレーニアの件も一方的に頼んだのに対し特に否定の返事も来なかったのも、こうした事を予期していたのかも知れない。
ラッゲインは自分の判断に後悔はしていない。
レレーニアが留まったのは予定外であったが、護符や質の良い武器を選んだとしても結果をどこまで覆せたかは、今となってはどれを選んでも怪しいところだ。
むしろ、この場合は護符以外を選ぶのはハズレだったろう。
いや、護符を選んでいてもどうだったか。
何故なら王都のよりは恐らく質は落ちるだろうが、ラッゲイン達も個人で防御の為の護符を持っており、それを既に使っても居たのだ。
でなければ、最初の魔法攻撃で全滅してもいただろう。
少しは腕に覚えがあっただけに、数の違いを見ても彼はどこかで何とかなると思っていた。少なくとも対人戦であれば、魔装騎士と言った類が出てこなければどうにかなると考えていた。
一応、王都にも援軍の要請も出してあったが、遂に返事が来なかったのを見ると要請は無視されたか、出す余裕は無かったのだろう。
それは最初から分かっていた事でもある。
レパンドルと言う国の実情を考えれば仕方がない。それに、既に自分たちはワガママを聞いて貰っている。
それを踏まえて、ここで死ぬつもりはあった。
しかし、ラッゲインの見積もりでは、死ぬ割合は勝つことよりも当初は少なかったのだ。
やはり、駄目だったか・・・・。
どこか諦めに似た思考が彼の頭を支配した時、更に大きな衝撃と地響きが辺りに響いた。
混乱の中で、彼は遂に敵の攻勢が最終段階に来たのだと思った。
予期しない衝撃に、思わずバードラムは顔をしかめて振り返った。
最初は、村の連中に一杯食らわされたのだと思ったのだ。
何かのトラップが仕掛けられており、それにやられたのだと。
だが、様子が違う。
村の外に居る兵達が一様に同じ方向を見、何かに動揺していた。
その方角を見ると、変わった鎧を来た小さな兵士が一人、コチラへと歩いてくるのが見えた。
何だ?
異様な光景に、バードラムは少なからず胸騒ぎを覚える。
あれが援軍だとは思え無いし、そもそも、あんな兵士一人が何だというのだ。さっさと片付けてしまえば良い物を。
常識的な思考をしようとする頭と、長年培ってきた経験による警告とのギャップがあり過ぎて、彼の判断も鈍る。
周囲を見回しても他に兵は存在しない。今も数的にはコッチが有利だ。
見張りと連絡の兵もちゃんと用意してある。
伏兵が居るならば、それに少なからず引っかかるはずだ。
だが、相手はたったの一人、しかも小さい。見たところ魔装戦士の類でも無い。何を恐れる必要があるのか。
頭を働かせて状況を冷静に分析するものの、眼前の異様なズレがバードラムに衝撃の正体が何であったのかと言う、重要な情報に対する思考を停止させていた。
そして、それこそが、彼らの悲劇の幕開けであったとも言える。
近付いてきた奇妙な兵士は、一定の距離で止まると、剣を後ろに振りかぶる。
その口元からは、無邪気にも見える笑みが零れていた。
次の瞬間、剣が振られると同時に、何か衝撃波の様な物が飛んで兵士達を数十人単位で弾き飛ばす。
「!? 魔法だと?いや・・・・」
そこまでバードラムが叫んだ時だ、直ぐ近くの視界に赤い残像が忙しなく動き、周囲の味方が次々と倒れて行くのが見えた。
「何だ、テメェは!」
兵士の一人が怒号を上げて武器を振りかぶるが、赤い残像がその軌跡を残して交差すると、兵士は武器を頭上に掲げたまま引っ繰り返り、更には燃えながらそのまま絶命する。
そして、そこで初めて、バードラム達は赤い残像の正体を知る。
胸と腰だけを隠す布を纏い、短剣を握り締めた赤髪の少女がそこにはいた。
ゆっくりと振り返ってコチラを見た少女らしき者は、赤く光る様な赤髪と瞳をこちらに向けてきた。
得体は知れなかったが、姿だけで言えば神々しさと可愛らしさを併せ持っている。
だが、それらの姿とは裏腹に、バードラムは本能的に危険を悟る。
モンスターとも何回か対峙してきたが、それを上回る存在だと直感が訴えて来ていた。
「面だ、面で制圧をするぞ。新兵共、俺達の前にならべ。グズグズするな」
バードラムの号令により、兵士達が瞬く間に陣形を整えて壁を作り上げた。
その壁に再び赤い残像を残して少女が襲いかかってくる。
その攻撃自体は何とか盾で防げるのだが、蹴り飛ばされると容易に盾を剥がされる。
そこへ鋭い一撃が入り、やはり兵が藁に火でも付ける様に簡単に燃えていく。
だが、数が多い事が幸いし、容易に陣形は崩れない。
それを利用してバードラム達が再び呪文を唱え始め、強力な魔力の収束を生み出して行く。
「オラ、伏せろ新米共!」
副官の合図により、新兵達は死に物狂いで伏せた。ここまでのやり方を見て上官連中の無茶苦茶さが分かっていたのと、目の前の異常な敵を目の当たりにして、彼らも必死だった。
そのお陰か伏せるタイミングは見事に発射と同調し、異形の少女に向かって魔法が放たれる。
赤い光線の様な物が少女を捉えようとしたが、その前に地面から突き出た何かによって阻まれた。
「何!?」
驚きの声を上げるバードラム。
魔法による攻撃で発生した爆煙が晴れた時、そこには木と言うか、根っこの様な物が壁の様に直立し、並び立っている。
攻撃が直撃したにも関わらず、それらは殆どダメージを負っていなかった。
どうやら魔力を帯びている様だ。
すると、直立していた根っこがまるで糸が切れたかの様にたわみ、鞭の様にしなって村に入った兵士達を薙ぎ飛ばした。
バードラム達は辛うじてかわしたが、それでも仲間が数人餌食になる。
と、這いつくばる彼の顔の直ぐ側に細い足が降りてきた。
顔だけで仰ぐと例の赤髪の少女が立っており、目が合うとニコリと笑いかけてくる。
その意図が何だったのかは分からないが、彼らにとっては死神の微笑みであった事は間違いない
火と煙が充満する中で、ハイトンは自分が夢でも見ているのかと思っていた。
地獄絵図と言って良い状況の中に、一人の少女が立っていた。
緑の髪と異様に白い肌。赤黒い背景にあって、余計にそのコントラストが映える。
顔立ちも美しいが、その豊満な体付きが戦場にあっては、妖艶な魅力をこれでもかと言う程に放つ。
最初見た時は、女神でも降臨したかとも思ったのだが、じっくり見てみると魔女と形容しても良い。だが、例えそうであっても、虜にされても良い程の存在感をその少女は放っていた。
緑髪の少女はハイトンを襲っていた敵兵を無造作に殺すと、冷たい目で彼に一瞥をくれる。
更には根の様な物を操る仕草をし、村に侵入した敵兵を次々と血祭りに上げて行った。
その先を見れば、別の女と奇妙な兵士が、やはり敵を次々と倒して行く。
「た、たいぢょお・・・」
赤髪の少女に背中から刺され、副官が燃えながらもコチラに救いの手を伸ばすが、バードラムはそれをただ見ているだけしかできなかった。
僅か、数秒である。
これまで共に暴れまわった仲間が、見た目こそただの少女に、あっと言う間に殺された。
自分達は唯の兵士ではない。外道の方法とは言え、魔力を取り込み、それを使い熟してきた歴戦の猛者。
そう少なからず自負していたのが、たった一日、いや僅かな時間で全滅しようとしていた。
逃げようと外を見れば、奇妙な鎧を着込んだ兵士によって、新兵の殆どが倒されていた。しかも、既に掃討戦と言った感じで動いており、僅かばかりの生き残りを探しては切り捨てている。
「クッ!」
バードラムは、最後の切り札を使う事にした。魔力を体内で充填し、それを各能力に割り振ると言う方法で、上手く行けば更に数倍の身体強化が可能となる。
その変わり、後に来る反動は半端ではなく、下手をしたら一生後遺症が残る。
だが後の心配など、命あっての物種だ。
これを使えば、目の前の異形とも互角に戦えるか、逃げることも出来るはずだ。
しかし、彼が魔力を悠長に蓄えるのを、敵は待ってくれなかった。
足元から飛び出た木の根の様な物が彼を絡め取り、更には針の様な物を刺す。
毒か。
だが、身体強化している自分には効かない。そう思ったのだが、彼の予想に反して途端に体中が痺れ、痙攣し始める。
一瞬だけ驚愕を覚えたが、それでも彼の悪足掻きは止まらない。
腕を何とか前に突き出すと、そこに体内の魔力を集中させる。
このまま魔力を暴走させて、村ごと自爆してやる。
そう考えたが、僅かな痛みが走ったと思った瞬間、魔力が急激に外へ抜けて行く感覚がした。
見れば、あの奇妙な鎧を着た兵士が何時の間にか側に来ており、そして、その剣に魔力が吸い取られているのが分かる。
「魔力吸血」
そう言って顔を上げた兵士もまた、少女の顔をしていた。
「な、何者・・・だ」
「ふ、私達はハルタの武器さ」
そう告げた奇妙な鎧の兵士は、一撃でバードラムの首をはねた。
村で戦いが行われていた頃、その周辺でもひっそりと戦闘が行われていた。
もっとも、それは暗殺に近く、密かに相手の背後から近付いたユーカレブトとイーブル・ラーナンにより、少数でグループを組んでいた敵兵が次々と始末されて行く。
恐らくだが敵の見張りの部隊なのだろう。
それを次々と見つけては、ユーカ達が村の防衛に回ったのとほぼ同時のタイミングで、彼女達は潰していった。
だが、ユーカの命令により、ユーカレブト達はワザとある地点の見張りだけは避ける様に動く。
既に次の布石が、ユーカによって打たれていたのだ。
「終わったようね」
「ああ。 にしても、待たされた割には歯応えが無かったな。力の無駄遣いだったぜ」
「それ、ターナも思った。本気出して損しちゃった。 ご主人様の力が勿体無い・・・・」
「私も、まさか、ここまで想定以下とは思わなかったわよ。ただ、後始末も順調の様だから、ここはもう用済みね」
「ホント、引き合わねー。 ・・・残ってる連中も、ついでに消して良いか?」
「あなた、ここに来た目的覚えてる?」
集ってきた三人の少女の会話を聞いて、ラッゲインは驚愕した。
どこの所属かは知らないが、最初は窮地を救ってくれたその圧倒的な力には感謝した。
だが、敵との戦いをまるで小用でも済ましたかの様に語るその姿に、少なからず恐怖を覚える。
強さの次元がまるで違うと言う事もあるが、何より得体が知れない。
異様に美しい容姿は、戦場にあっては恐怖を増す存在でしか無い。
しかも、会話を聞く限り、この村を見張っていただろう事も想像できた上に、端々に不審な言葉も並ぶ。
だとしたら、この後、何か目的があるはずだ。
無理だ。こんな化け物が相手では、今度こそ終わる。
死を覚悟する事はラッゲインにもできたが、絶望を受け入れる程の余裕も準備も彼には無かった。
何らかの勢力であるならば、この女達の最終目的はレパンドルと言う国その物のはずだ。
だとしたら、シーゼスにかまけている現状では、間違いなく不意打ちを食らってこの国はあっという間に滅びるだろう。
王都に避難させた親兄弟の顔が、ラッゲインの脳裏を過ぎった。
「ぐっ・・・・お、お前達、何者だ。この村を、どうするつもりだ」
絶望で身動き取れないラッゲインとは違い、ハイトンが痛みを堪えながら代わって声を上げた。
それを見た三人の少女は、一瞬だけ顔を見合わせたが、緑髪の少女が手で何かの合図を送ると去ろうとする。
だが、それを振り切って、奇妙な鎧を着た方が喋り出した。
「ふん、私達は助けに来てやったのさ。 せいぜい、"ハルタ様"に感謝するんだな」
「ちょ、マ・・止めなさい。言われた事を忘れたの」
ハルタと感謝と言う言葉を聞いて、ラッゲインはこの者達が、実は王都から何かしらの要請を受けて来たのではないかと思い直す。
しかし、何やら言い合いをしていた三人であったが、程なくして、それぞれが並外れた身体能力を発揮して去っていった為、それを確認する事はできなかった。
「ハルタ・・・・様?」
緑髪の少女が去るのを見送ったハイトンもまた、その名前を刻み込むように呟いていた。
ユーカ達が派手に暴れまわっていた頃、俺は適当な場所を見つけて、レベルアップの為の狩りを行っていた。
一応、ユーカ達から事前に報告は受けていたのだが、詳細はその時はまだ知らされていなかったので、小競り合い程度で終わっている物だと思っていた。
それが、大規模戦闘が行われ、更には後になって予想外の事態を引き起こすなど、今の俺は知る由も無い。
「良いですわよ、主様」
イユキの合図に、俺は組み立て式ランスを何とか持ち上げる。
そして、ジリジリとリディに抑え込まれているガファアンドに近づいて行った。
ユーカとイユキの時には、多少は苦戦した相手だが、今や立派な雑魚だ。
特に、パワーと防御に優れるイユキやリディの前ではカモ同然で、こうして、ランスのレベルアップ上げの為に生贄になろうとしている。
傍から見ると唯の惨殺なので、幾らこれからの為とは言え、何となく心が痛む。
まあ、そうは言っても既に数十匹に対してこうしているので、今更ではあるが。
改めてこの組み立て式ランスの構造を解説すると、合体分離の核は中央のパーツ部分にある。
中央部分の中は空洞になっており、そこに太い針の様な物があって、それが上下に動く。
動くが、針の途中途中には突起物があり、それがストッパーの役目を果たし、特定の位置で捻ると動かなくなる。
また、根本にはネジの様に回る部品があるので、これを締めると確実にロックできるのだ。
これを上に出せば先端部分と接続する部品となり、引っ込めると持ち手となって槍の様に使える。
ランス先端のパーツも内部がパイプの様に空洞となってはいるが、その部分は更に二重に構成されているので、引き出して持ち手として使える。
要は注射器の様な構造を思い浮かべると良い。ただし、押す部分も空洞になっていた。
この空洞部分に、先程の中央パーツの針部分を差し込むと接続出来る様になっているのだ。
更に言えば、中央パーツの針は上に思いっきり出すと突起物も出てくるので、これを先端パーツと接続した状態で捻ると、やはりロックされて抜けなくなる。
ランスの中で一番大きい根本部分は、先端が中央パーツの空洞を形成する構造の、更に外側の溝に差し込んで接続出来る様になっていた。
簡単に言えば、アナログ端子のメスとオスと言った所だ。
一応、中央の針パーツを差し込む穴もあるので、それも含めてガッチリと固定出来る。
更にこの根本部分の持ち手部分は、傘部分を前に押すとロックが外れ、持ち手部分を捻る事で外れ、ロングボウとして分離する。
複雑だがよく考えられており見事な仕掛けだが、丈夫さと複雑な構造を両立しようとした結果、このランスは馬鹿みたいに重い。
リディやイユキは難なく持ち上げたが、彼女達は何故か他の武器を装備するのを嫌がるので、結局は俺が使う以外にないのだ。
「ハルたん、頑張って」
ともすると場違いとも言えるアニーの応援を背に、悲鳴を上げるガファアンドの声を無視して、俺はランスを深々と突き刺していった。
暫く藻掻いていたが、やがて力なく手足が垂れる。これでは死刑同然だな。
だが、そのお陰で、後少しでレベルが望んでいたラインに上がる。
ここ数日、俺の血も適度に擦り付けてやったので、人化への準備は万全だ。
因みに、このランスのお蔭で、幾つか興味深い情報と現象も確認できた。
例えば分離して使った場合にどうなるかだが、それぞれのパーツで獲得したレベルが全体へと適用されて、等しく上がる様だ。
ただし、ロングボウを除いてだが。
ロングボウ以外の武器でモンスターを攻撃してレベルを上げると、後で組み合わせる事により、三つの武器、つまり槍小、槍中、メイスのレベルがそれぞれ連動して上がるのだ。
つまり、一つのパーツだけを使用して集中的にレベルを5に上げたとしても、組み合わせると使ってない部位もレベル5になるのだ。
これを見て最初は楽にレベル上げができるかも知れないと喜んだのだが、次に試した全部を合体させた状態でレベルを上げをしたら、意外な事にロングボウの部位もレベルが上がった事で話が違ってきた。
大型ランスとして使用すれば、ロングボウの方もレベルアップは可能で、もちろん分離してもレベルはそのまま保持される。
ただし、レベルアップの均等化はロングボウにだけは適用されず、それどころかロングボウがレベルアップすると、それに合わせて各部位のレベルがリセットされてしまうのだ。
つまり、先端、中央、根本の部位が個々にレベル5になっていたとしても、大型ランスとして合体させて使用しロングボウのレベルが1になると、せっかくレベル5に上げていた部分も1になってしまう。
これにより、最初からレベル上げはやり直しとなったのだ。
また、他の既に人化したメンバーが、その他の武器を持ちたがらない理由も、ここにあるのかも知れない。
本人達に聞いても、そこはハッキリしなかったのだが、本能的な部分で避けていたのだろう。
ただ、この手法でレベルが上がるのならば、ロングボウの人化にも期待が持てる。
そうなれば、遠距離攻撃が通常手段の戦力が漸く手に入る。
アニーやマツリカと言ったメンバーも、一応の遠距離攻撃の手段を持つが、どれも馬鹿みたいな威力を誇る上に、力の消費を気にしなければならないので、用途や使用回数がどうしても限られるのだ。
特にアニーは、地味に局地的な遠距離攻撃の手段を持っているにも関わらず、力の消費量が見合わないとしてあまり使ってくれないので、やはりロングボウの人化には期待せざる得ない。
そんな分けで、無理して合体ランスでレベル上げをしているのである。
そして、最後のガファアンドを犠牲にして、漸くレベルが3となった。
後は俺が呼びかけるだけで良い。今回は、ちょっと格好良くセリフを決めて見るつもりだ。
「さあ、我が呼びかけに応えよ。武器として、この俺、タナベ・ハルタに忠誠を誓え。」
その呼びかけに応じ、構えたランスが光を放ち始めた。
「急げ、この間抜け共」
辺境の村を襲撃する部隊に所属していた兵士の一人、ランチャンドは焦りと不安がごちゃまぜになり、やたらと周囲に当たり散らす。
村の襲撃班に加われず、本体との連絡係兼見張りとして新兵たちのお守りを任された時は不満だった。
次の襲撃では、優先して戦利品を選べる権利が与えられると言う事で、渋々その任務を受けたのだが、皮肉にも今回はそれが幸いしたと言って良い。
襲撃班は突然現れた謎の兵士・・・いや、遠くから確認できただけでも女二人と兵士一人のたった三名により、瞬く間に全滅させられた。
眼の前の光景が到底信じられなかったし、予想もしていない事態にランチャンドは思いっきり動揺した。
理由としては、眼の前で起きた事柄を、どう報告すればいいかで悩んだ事にもある。
たった三人に全滅させられたなど、誰が信じるだろうか。
しかも、その内二人は女だった。
恐らく、一人は魔法使いの類だと思われるが、あんな強力な物は見たことがない。
いや、他の二名の強さも異常だった。
幾ら新兵が多かったとは言え、魔法が使える兵士が三十名くらいはいたのに、それらが虫けらの如くまとめて倒されてしまった。
更に言えば、連中は魔装戦士の類とも様子が異なる。
何者かは知らないが、全く別の兵種と見る事もでき、それが様々な事を想像させた。
これはある意味で、シーゼス王国始まって以来の危機が迫っているとも言える。
どこから連れてきたのかは知らないが、レパンドルが強力な援軍を引き入れたのは間違いがないだろう。
しかし、正確な報告をしたとして、無条件で信じてくれるのかが心配だった。
今まで積み重ねた行為と、それを良しとした態度を取ってきた自分達だ。
中には、たかが村の防衛戦力に負けた事の言い訳にしているに過ぎないと、責任追求の材料にする者も出てくるかもしれない。
オマケに、それを擁護してくれる者は全員死んだ。
残っているのは、自分がお守りをした頼りない新兵達だけだ。
しかも、他の地点に配置していたはずの見張り連中とも連絡が途絶えたので、それに恐怖して無様に逃げ出した。
その行為は、少なからず他の新兵に侮られる行動ではないかという、負い目もある。
一連の失態に、ランチャンドは物凄く不安を覚えていた。
同時に、本体への合流を目指して冷静になって行くに連れ、この四人の新兵達を先ずは味方に付けるべきだとも考える。
だが、焦りと思う様に動かない連中を見て、どうしても怒鳴ってしまうのだ。
もっとも新兵たちのその行動の裏には、ランチャンドが口先だけの奴と言う、彼が心配した通りの侮りを受けていたからでもあった。
ともかく、今は本体に合流し、嘲笑われても良いから報告はするべきだ。
新兵達も、きっと自分と同じ事を証言するはずなので、全くの嘘とは取られないはず。
何より、王国の危機を知らせると言う使命は何に変えても重い。
ここに来て、ランチャンドの中には、漸く兵士としての使命感が芽生えようとしていた。
暫く移動した所で、やっと本体が見える所までやって来れた。
「ふー・・・・・。 これで一安心だ。合流するぞ、お前ら」
「あれが、本隊か」
「ああ・・・ !?」
思わず返事したが、聞き慣れない声に咄嗟に振り返ると、何時の間にか一人の女の様な物がそこには居た。
人間に近いのだが、全身が半透明の緑色をしており、頭には花を一輪挿している。
まさか、モンスター?
「あれが、本隊なのか」
その女の様な物は、同じ事をランチャンドに向けて、無表情で繰り返す。
何者かは知らないのだが、その力を計り兼ねていた彼は、ここはできるだけ穏便に行こうと考え、剣に手を伸ばそうとしていた新兵達を制止する。
記憶の片隅に、確かプラウネ系ヒューマスがこんな感じだと聞いた事を思い出したが、それにしては全身が緑色過ぎる。服までも統一されて緑一色ではないか。
ただ、人語を喋るモンスターなんて聞いた事がないので、話せば何とかなるかも知れないと考えた。
会話ができるのであれば、やり過ごせる可能性も十分にある。
「あ、ああ。 あれが、俺達の本隊だ。ここから呼べば、直ぐに来る」
嘘だった。
余りにも距離があるので、呼んだ程度では気付かれもしないだろう。自分でも見え透いているとは思ったが、正体が知れない相手である以上、こっちの事情など知らないだろうと考えてのセリフでもある。
それを聞くと、その女の様な物は「そうか」とだけ答え、遠くを見る様な仕草をした。
今の内に。
そう思って後退ったランチャンドは、背中に激痛を感じた。
「ぐっ、がっ」
見ると、剣の様な物が腹から出ており、血が溢れる。
回りを見てみると、新兵達も同じ様にして既に殺されていた。
そこまで見たところで、ランチャンドの意識は暗闇に沈んで行く。
「隊長に連絡。本隊発見、これより監視体制に入る」
ユーカレブトの指示により、イーブル・ラーナンが暫く目を瞑る様な動作をする。
やがて目を開くと、徐に頷いた。
それを確認したユーカレブトは、八体のイーブル・ラーナンを引き連れて、遠くに見える軍隊の方向へと走り去っていった。
「了解。何かあったら、直ぐに知らせる様に言って」
ユーカレブト達からの報告を受けたユーカが、やはりイーブル・ラーナンを介して命令を伝える。
「良いのかー?ユーカ。 こんな命令、ハルタは出してないだろー」
一連のやり取りを聞いていたマツリカが非難の声を上げるが、ユーカは全く動じない。
暴れ足りなかったマツリカは新しい獲物が欲しかったのに、そこに同行させてくれなかったユーカに噛み付いていた。
「いいの。 主様の命令には、様子を外から探って、必要なら守れって言われたのよ。
つまり、敵の情報を取得するだけなら、それに則した行動なの。守る意味でも。
第一、マツリカ。 あなたこそ村人に接触するなと言う命令を破っているんだけど、それはどうなの?」
ユーカの返しに、マツリカが「ぐぬぬ」となる。
「へ、屁理屈だ。 それに、接触しないで村を守るなんて無理だろ。 だから、私の行動は仕方なかったんだ」
「あの命令は許可なく村人と話をするなって意味なの。 村を守るのに姿は見られるな、接触するな、なんて、そんな頓珍漢なこと主様は言ってません」
尚もブーブー言うマツリカを放って、ユーカは次の指示をイーブル・ラーナン達に与える。
それによって村の監視と防衛体制は継続して行われていた。




