~謎の勢力~ -4. 小国の危機 その4
村の監視に着いて三日目の昼前、つい先程まで和んでいたユーカ達だったが、今は緊張感に包まれていた。
見張りのイーブル・ラーナン、及びユーカの探知網に大規模兵力が移動を開始したのが確認されたからだ。
動きから見て、恐らくロータル村に向かっている物と見られる。
ユーカは、ハルタに連絡して指示を仰ごうとしたのを寸前で止めた。
別働隊のイユキとの連絡では、何やらやる事があるから到着は遅れるとの事だったので、それの邪魔をするのもどうかと思ったのだ。
それに既に命令は受けている。必要があれば村を守れ、と。
この危機をハルタが想定していたと考えれば、必然的に自分達のやる事は決まってくる。
報告はしておくが、後の行動は自分達の判断でやるべきだろう。
「ターナ、マツリカ、移動するわよ」
「うん、分かった」
と言って、炎の力を身体に纏いながら、その場で全力ダッシュをするターナ。
「ふん、今回は人間が相手か。楽しませてくれるのだろうな」
と言って、狂喜の表情を浮かべながら素振りをしまくるマツリカ。
「言っとくけど、私達の目的は村の防衛ですからね。くれぐれもその事を・・・」
そこまで言いかけて、それぞれに勝手にテンションを上げる二人を見て、ユーカは頭に手をやって首を振る。
「あなた達、人の話ちゃんと聞いてる!?」
「き、来たぞ。数は八百、下手したら千は居るぞ」
慌ただしく斥候に当たっていた村人が知らせてきた。一瞬、どよめきの様な物が起きたが、それを聞いたハイトン及びラッゲインが、それぞれの持ち場で指示を出してそれを押さえる。
「門を閉めろ。弓持て、並べ。盾を忘れるなよ」
「王国兵団、前へ出ろ。俺達の意地を見せてやるぞ。村人より後ろには下がるなよ」
それぞれが、決められた配置で陣形を構築し、敵の襲撃に備える。だが、数人は明らかに動揺を隠せずにいた。
と言うのも、自分達が予想していたよりも敵の規模が大きいのだ。
多くても四百程度と踏んでいたのに、その二倍以上に近い兵力は予想外だ。
こっちは、ありったけを掻き集めて何とか二百弱を揃えた程度。
その内、本職と言える兵士は八十名ほど。更に村人の中でまともに戦えるとしたら、二、三十人だろうか。
後は老人及び子供とも言える連中なので、実質的な兵力は百程度だ。
下手をしたら、敵との兵力差は十倍近い。
それ故に誰もが大丈夫かと不安がったが、今更どうにもならない。
敵を迎え撃つ準備は少なからずしたのだし、籠城戦なら何とかなるかも知れない。
ロータル村の連中は、例えそこに勝てる根拠が無かったとしても、それに縋るしか無かったのだ。
「バードラム隊長。 連中、やはり村に籠もりました」
副官が、簡易な椅子に腰掛ける大柄な男、バードラム・ギッカーズに報告する。
それを聞いたバードラムが、顎を摩りながらニヤリと笑った。
「ま、何時も通りだな、つまらん。なあ、副官よ?」
そう問われた副官は、それに対し、フヒヒっと嫌らしく笑った。
彼の頭の中には、村の戦利品に良い物があるかどうかの心配しか無かった。
副官は、堅苦しい規律の中央の兵団より、好き勝手にできる上に、兵とは名ばかりの雑魚どもをさっさと片付ければ、後はやりたい放題に出来るこの仕事が好きだった。
まあ、それを言ったら隊長であるバードラムを含めて、ここに居る古参の殆どがそうだろう。
当初は、辺境の村を襲うなど何とも名誉とも程遠い下らない仕事だと思ったが、やってみると実に自分に性があっていた。
今では、そこへ転属させてくれた者に感謝すらしている。
もっとも、そうした性格的な歪みから意図的に左遷させられていたのだが、かえって水を得た魚の様に嬉々として彼は働き、気がつけば、とんでもない非道な部隊の設立に尽力していた。
だが、今回はいささか事情が異なっていた。
今まで通りに辺境の村を襲撃しろとは言われたが、同時に、敵の正規兵が現れたら殲滅せよとも言われている。
小国の正規兵と言えども、その実力は今までとは違う。まともにぶつかりあえば、少なからず損害が出るだろう。
それでも、これまで戦ってきたと言う自信から、負ける事は無いと考えていた。
そうした所に、更に今までにない千近い兵力が与えられたので、このならず者共は狂喜した。
この人数ならば、各村を襲って略奪を繰り返すのも楽であるし、正規兵が出てきたとしても互角以上に渡り合える。
どうやら本国は、この哀れな小国を本気で攻め落とす気の様だ。
それは同時に、戦が終わるまで好き勝手に出来る事を意味しており、バードラムを始めとした連中は大いに喜んだ。
充てがわれた兵力が、大半が新兵であったのも嬉しい誤算であった。己の道徳だの信念を振りかざし、自分達の流儀を邪魔する様な厄介者も居ない。
もしかしたら、今回は今まで以上に楽に、更に多くの物を手に入れられるかも知れない。
ニヤニヤ笑う副官を見て、何を考えているのかバードラムには手に取る様に分かったので、フンと鼻を鳴らす。
敵地の村を襲撃するのは、相手の国力を削ぐのが目的であったはずなのだが、このならず者共は、何時の間にかそれを履き違える様になっていた。
まあ、それはバードラムとて同じであったが。
ただ最近は、歯ごたえの無い村の襲撃に飽き始めていたので、今回の積極的に戦って良いと言う指示には、多少は胸が高鳴っていた。
特に、新兵を教育すると言う建前を使えば、自分達は労せずに楽しむ事もできる。
とは言え、やる事はあまり変わらない。
暴れて、殺して、犯して、奪う。せいぜい楽しいゲームを大いに堪能するとしよう。
立ち上がったバーラムが手を掲げると、それを合図に兵達が移動を開始した。
「来るぞ。弓隊、構え」
それを合図に、弓を持った連中が矢をつがえて引き絞る。
「まだー、まだだぞー。まだー」
ハイトンが見張り台に登り、手振りと声で弓隊を制して、必殺の間合いに来るまで待たせる。
村の周囲を守るのは柵であったので、外の様子を見ようと思えば見れたのだが、タイミングはハイトンに一任されていた。
敵前衛部隊は重甲冑を着込み、大盾まで構えているので、初弾でどこまでダメージを与えられるかは分からない。
それ故に本当はもっと効果的なタイミングと相手を探したかったのだが、そうした機会はやってこないだろう。ハイトンは、外側の最終ラインに来た所で手を振り下ろした。
「撃てー」
下で士気をとるラッゲインの合図で、弓隊が次々と矢を射る。
それをハイトンが観測したが、やはり、あまり効果的なダメージは与えられない。
それでも、放たれ始めた矢は敵の侵攻速度を鈍らせ、数名には少なからず怪我を負わせた様子が見てとれる。
と、敵前衛部隊の後ろに更に兵が展開し、弓を絞り始めた。その数は、こっちの倍以上だ。
「矢が来るぞ。全員、盾を構えろー」
そう言いながら、ハイトンも見張り台の影に隠れる。
その一瞬後、空に黒く細い物が幾つも昇って埋め尽くし、途端に落下して来た。
正に矢の雨と言う表現が相応しい程に、それはロータル村を守る兵士達の頭上に降り注ぎ、ちょっとしたミスを犯した者を容赦なく捉える。
お蔭で、下では少なくない阿鼻叫喚の声が飛ぶ。
敵の弓矢による攻撃は、ロータル村のそれとは比べ物にならない程に続き、遂には前衛部隊の接近を許してしまう。
敵が塀に取り付いた所で、漸く矢による攻撃が収まった。
「弓兵部隊と防御部隊に別れろ。弓は継続して撃て、防御部隊、前に出ろ。来るぞ」
ハイトンの号令により、五十名程が弓を置き、剣や槍を手に取って構える。
その前には、更にラッゲイン配下の兵士達が壁を成している。
柵に阻まれ進行を阻止された敵を、兵士達が隙間から槍や剣で攻撃する。
当然だが、向こうも同じ様に反撃してきた。ただし、外側には仕切り兼、支柱があるので、動きは制限されている。
そのお蔭で、幾らかはこっちが有利だ。
「負傷42、内、離脱18。あんだけ酸っぱく言ったってのに・・・」
副官が報告を上げながら、舌打ちに近い声を出す。
村を襲撃する際に当たり、ならず者部隊とは言えそれなりに経験を積んでいたバードラムらは、新兵に村を襲う心得なる物を教えていた。
特に重要なのは、足を引っ張る重傷者を出さない事である。
村を襲撃する際、一番大事なのはその機動性である。
不利と見れば素早く下がり油断した所をまた襲う。或いは、引き返すと見せかけて奇襲をかける。逆に敗走したと思わせておいて、別の村を襲うと言うやり方もある。
戦っている内に、レパンドルの村々は、連絡網の様な物が出来ているのも確認したので、それを利用した方法だ。
とにかく、相手は正規の兵ではないし、戦闘における知識や経験にも乏しい。まともに相手してやる必要はないのだ。
狡猾に戦い、そして騙し討ちが常套手段ともなる。
まあ、それをやるにはベテランである事が条件となるので、今回ばかりは、多少の力押しも仕方がない。
そうした事から、新兵たちにはしっかりと戦う術、防御を徹底しながら近付けを叩き込んだつもりだったのだが、あまり上手く行っていないようだ。
「俺たちゃ、教官には慣れそうにもないな」
上がってきた報告に、バードラムが皮肉を込めて言う。
「ぺーぺーじゃ、こんなもんでしょ。 むしろ、俺達にしたら良くやってる方ですよ。そもそも、新兵思いの教官志望の気があるんでしたら、隊長が先頭に立って本気だしゃ済む話しですよ。 後ろ姿を見せて学ばせるってのも、立派な指導の仕方ってもんです。」
「冗談じゃねえよ。あんなカスみたいな村、何で俺が本気出さなきゃならないんだ。 副官、お前こそ歴戦の戦士って風格を見せてこい。あの程度の兵力、お前と部下数人もいれば、あっと言う間だろうが。」
「良いんですかい?」
それを聞いた副官が、意味ありげにニヤリと笑う。
最初、コイツも意外と血の気に流行っているのかと思ったが、長い付き合いのバードラムは、直ぐに別の可能性に気が付く。
「・・・・あの村、何がある」
「へへへ。 まあ、隠すつもりは無かったんですがね。 あの村には、レレーニアとか言う、村長の娘が居るって話でさ。 何でも、こんな辺鄙の村娘にしては、かなりの美人だとか」
「ホウ?そいつは、興味深いな。 そう言った事なら、新兵共に模範を示すのも良いかも知れん」
そう言って、バードラムはポキポキと指を鳴らし、薄ら笑いを浮かべた。
「なあ、ユーカ、なあ。もう良いだろう。殺・・戦わせろよ」
抑え切れないと言う感じで、マツリカがさっきからウズウズしているのだが、それをユーカが視線だけで制止する。
ハルタにより事前にリーダーを任されていたユーカの命令には、血気に逸るマツリカも何故か素直に従うのだった。
「ねえ、ユーカ。 本当に、このまま見てるだけ?村を守るんじゃなかったの」
ターナも不思議そうな顔を向けてくる。
「はぁ・・・あなた達、ちゃんと話を聞いてなかったの。 主様からの命令では、必要があれば守ってやれと言われているのよ。
まだあの村は持ち堪えている。裏を返せば、必要なければ手を出すなって事なの。
じゃなければ、許可なく村人に接触するなとは言わないわ」
それを聞いて二人共「ああ、なる程」と言う感じの表情をし、漸く合点がいったのか手を叩いてコクコクと頷く。
「もお・・・」
再び、ユーカは深い溜め息をつくのであった。
ただ、ユーカも判断の是非に迷う部分もあった。
これだけの戦力差を、あの村の兵数だけで守りきれるとは思えない。
だとしたら、なぜ逃げずに戦おうとするのか。
もしかしたら、何かの策や切り札を用意している可能性もある。
直ぐに介入しない理由には、その辺を見極める意味もあった。
「何だ?」
敵が急に引き始めたのを見て、ハイトンが疑問の声を上げる。それは下で指揮を取っていたラッゲインも同様であった。
(引き上げた・・・・?いや、違う)
ラッゲインの読みどおり、弓矢の射程に出た兵士達が二手に割れ、その真中から数十人の新手が現れる。
見ただけで、只者では無いと分かる雰囲気が伝わってきた。
特に、中央に陣取る男からは、とても危険な臭いをラッゲインは感じとる。
「来るぞ、ぬかるな」
ラッゲインの号令により、兵士達が呼応して盾と武器を構え直す。
「さーて、どうするかね」
顎を摩りながら、バードラムが困ったと言った声を上げる。ただし、表情には余裕が溢れており、薄笑いさえ浮かべている。
「どうするも何も、やるんでしょ。何時もの奴」
副官が素っ気なく答える。むしろ、何言ってんだアンタ的な表情を、真顔で返してきた。
(全く、情緒というものが足りんな)
その対応にバードラムは苦笑した。
「仕方ない。さっさと終わらせて、お楽しみと行こうかい」
その掛け声に直属の部下たちが雄叫びを上げる。
そして武器を前に突き出し、それぞれに何やら唱え始めた。
「ま、まさか、魔法が使えるのか!?」
驚きの声を上げたのはラッゲインだった。
一般的に、この世界で魔法を使えるのはモンスターだけである。
元々モンスターは魔法によって誕生したとされており、それによって使うに足りる膨大な魔力を体内に有し、更には、本能的に覚えていたり、生まれた魔力に由来する形で魔法を使えた。
ところが、普通のヒューマスでは、魔法が使える程の魔力は備わっていない。
魔素を取り込めば可能性はあるのだが、魔力や魔素と言うのは、ヒューマスにとっては猛毒であったりもする。
一気に取り込めば即死する事もあるので、普通は魔法は使えないのだ。
特殊な環境下にあって、少しづつ魔素を取り込んだヒューマスの中には、魔法を使うに十分な魔力を結果的に持つ者も居るが、そうした例であっても長年かけての話でもあるし、その間には少なからず死人が出るともされている。
それ故に、そうした者は大体が魔法使いやそれに類する職業に付く事が多く、当然だが、国等に手厚く保護されているか素性を隠している事が多く、滅多に人前に姿を見せないともされていた。
そうした事から、通常、ヒューマスが魔法を使う場合、魔道具や魔法武器に頼る事が前提となる。
道具や武器であれば魔力による悪影響は受けないので、理論上は誰でも扱う事ができた。
ただし、これらに魔力を込める作業も簡単ではなく、時間や手間が非常にかかるのと、一つ当たりのコストもバカ高いので必然的に用意できる数が少ない。
また、魔法の使用に耐える様に魔道具等を作ると、どうしてもこれらの物は大型化する傾向にあり、通常は運用が面倒な上に、特殊な模様も浮かび上がる為、目立ち過ぎると言うデメリットもあった。
加えて、魔道具等は操作するにはそれなりの素質と強い精神力が必要であり、最大限に力を引き出すとなると、どうしても使い手を選ぶ傾向にある。
それだけに素質のある者は魔装戦士や魔装騎士、或いは魔法使いとして尊敬の念を集めてもいたのだ。
何れにしろ、魔法を使うと言う事は、基本的には簡単な事ではない。
例外として護符等があるが、あれは一回だけの使い切りな上に、殆どが補助効果でしか安定した能力を発揮できないので、攻撃用の物は無いと言っても良い。
その様な事情から、魔法を使えるヒューマスと言うのは極めて稀なのだ。
ただ一つだけ、別の手段で魔素を取り込んで、魔力や魔法による攻撃要素を得る方法を除けば。
それは、モンスターの血肉を食べると言うやり方だ。
ただし、これは非常に危険なやり方でもあり、食べる量や部位によってはやはり即死する上に、適正でない場合は魔力は身につかない。更に言えば、モンスターの個体差によっても左右されるので、必ずこれだという方法も無く成功率はかなり低い。
しかし、それを解決できる方法を、外道と呼ばれた魔道士、リックスが考え出した。
別のヒューマスに食べさせ、その者の肉を食べると言う方法だ。
この方法ならば、魔素がある程度弱まった状態となるので、食べる量さえ間違わなければ、少なくとも死ぬ可能性は低くなると言う。
しかも、この方法の利点は、最初にモンスターの肉を食べたヒューマスが、生きていようが死んでいようが関係なく魔力は取り込めると言う点にある。
つまり、最初に食べた人間の状態など関係ないのだ。
当然だが、外道や鬼畜の所業であり、一般的には禁止されている。
もしくは、道徳的な観念から、やろうとする者は居ないと信じられていた。
だが、目の前の連中は、魔法の武器や道具も持っていないから魔装戦士の類ではない。
魔法使いだとしても、通常、そう言った者は部隊に数人程度居るかどうかとされている。
それ程、そう言った者は稀な存在なのだ。
シーゼスが幾ら大国とは言え、こんな魔法部隊が存在するなど聞いた事もない。
それを考えると、恐らく、奴らはその外道の方を用いた可能性が高い。
村々を襲っていたのがコイツらだとしたら、掴まえた村人をどうしたのかが、今になって想像が付いた。
「クソったれ共が。 全員、盾を構えて踏ん張れ。負けるな」
ラッゲインは怒りの声を上げ、仲間達に号令をかけた。
前に出てきた新手達の武器に、何かしらの力場が次々に収束していき、やがてそれらはドス黒い塊となった。
ある程度の大きさになった所で、その塊が回転しながら向かってくる。速度は予想していたよりも遅かったが、守る以上、それを見て逃げ出すわけにもいかない。
向かってきたそれは柵をマッチ棒をへし折るかの如く破壊し、更には盾を構える兵達すらも巻き取って弾き飛ばした。
幸いと言って良いのか、吹き飛ばされた者達は直ぐに立ち上がろうとしたので、怪我の程度はそんなに酷くない様だ。
だが、それは決して良い兆候では無かった。
敵を隔てる柵は完全に無くなってしまい、そこから数十人の新手の兵達が侵入してきた。
「よっと、邪魔するぜ」
リーダーらしき男が剣を肩に担ぎ、さも愉快そうに立っていた。
「くっ、王国兵、集結せよ。防御陣地を敷け、急げ」
ラッゲインの号令に、何とか兵士達が集まって盾を並べて対峙する。
遅れて、村の連中も武器を取って側面に陣取った。
しかし、状況は絶望的だ。
侵入してきた連中は、身体の表面に何かしらの模様を浮かべていた。
恐らくだが、魔法による身体強化を施したのだろう。
モンスターの肉、あるいはそれに近い物を食べるメリットの一つに、モンスターが使っていた魔法をそのまま体得できると言う物があり、更には、その力を擬似的に体現する物もあると言う。
今や、連中の身体能力や頑強さは、モンスターのそれにも匹敵するのだろう。
この連中は、そうした面も計算に入れて、モンスターを選んで取り入れたのかもしれない。
今回の敵は、単なる数だけの陽動部隊だと思っていたが、実際には実力を伴う悪質で危険な相手だった。
今になってそれを知り、ラッゲインは絶望しそうな何かが込み上げそうになってきたが、それでも歯を食いしばって命令を出す。
「突撃陣形を敷け。村の連中は、後から続け。行くぞ!」
ラッゲインの合図により、盾を構えた兵士達が素早く陣形を形取り、整然と突進した。
「おやおや、健気だねぇ」
教科書にでも乗っていそうな動きと突撃陣形だと感心しながらも、バードラムが哀れむ様な感じで呟く。
「隊長、やっちまって良いですかい?」
一緒に連れ立ってきた兵士の一人が尋ねてくる。恐らく、余りの歯ごたえの無さに、暴れたり無いとでも言いたいのだろう。
それに対し、無言で頷いて了承の意を示す。
それだけを見ると、その兵士はニタリと笑い一歩前に出た。
両手に短剣を構えたその兵士は、やや腰を屈めてから、一気に突進する。
最初に接触した兵士を盾ごと蹴飛ばし、空いた隙間から剣をねじ込んで二人をあっと言う間に屠った。
「陣形を崩すな、カバーに入れ。負傷した者を下がらせろ」
努めて冷静に指示を出すラッゲインだったか、たった一人に簡単に陣形を崩された事に、内心は穏やかではなかった。
「弓隊、放て!」
そこに何時の間に編成したのか、ハイトン率いる弓隊が牽制に入った。
お蔭で、突っ込んできた一人を何とか下がらせる事が出来る。
だが、そいつは巧みに矢をかわすと、再び陣形へと突っ込んできた。
そして、また盾を蹴飛ばそうとしたその時、動きを読んだハイトンが石を投げつけ、その攻撃を妨害する事に成功する。
敵の兵士は、それによって大きく後退させられた。
「ギャハハハ、石にやられやがった」
その様を見て、敵の兵士達から笑い声が上がる。
「う、うるせ。少し油断しただけだろうが」
敵対勢力を前にして、相手はどこか余裕があった。それどころか、石をぶつけられた兵士は、怒りに燃えた目でハイトンを睨む。
「フン、油断大敵って事だ。お前達も、良い勉強になったろ。
さて、今回は新兵共の訓練も兼ねている。連中を遊ばせておく暇はない。
なあ、副官」
バードラムのその言葉に、副官が手を上げて来いと言った仕草をし、背後に居る連中に進軍の合図を送る。
すると、残りの兵士も柵の空いた部分から次々と侵入し始めた。あるいは他の部分の柵を壊し、新たな侵入ルートの確保を試みる。
迎撃に出たい所だが、眼前の敵が強過ぎて動けない。
その間にも、なだれ込んだ兵が村内に展開し、徐々に包囲網を敷こうとする。
ラッゲインは、ここが自分の死に場所になる事を覚悟した。




